その力は何の為に   作:カニ漁船

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そろそろ自分のケツを叩いて2作品投稿に戻したいところさん。もっとも、一番の問題は連載中の作品どれもがアイディア湧かないというところ。


ドバイワールドカップ VSトランセンド

 ドバイシーマクラシックの決着は、ジェンティルドンナの5バ身差勝利という形で着いた。ジェンティルドンナの聖域を、誰も侵すことができなかったのである。

 メイダンレース場のファンは賞賛の声を上げるよりもまず言葉を失った。

 

「うっ、お」

「す、っごぉ」

 

 ジェンティルドンナは日本のレースを狙ったバ身差で勝っている、という情報は勿論知っていた。有名な話であり、彼女の実力を証明する情報として広まっていたから。今回のレースもきっと5バ身差で勝つことを狙うだろうと予想はしていた。

 だが、まさかこの舞台で本当に5バ身差を決めるとは思わなかった。ジェンティルドンナの実力は知っているが、このレースはさすがに厳しいだろうと目されていた。バルバトスケーブの存在もあるし、レサンサもまた強者。いくら彼女とて無理だろう、と話が出てきていたのだ。

 結果はコレだ。欧州の強豪ウマ娘相手になんと5バ身差。日本のレースと同じように、圧倒的な強さを見せてゴールラインを割った。ジェンティルドンナの強さを、改めて見せられたのである。

 絶句しているファン。言葉を上げるのではなく、自分の意思で動いたわけでもなく。気づけば彼らは手を叩いて拍手を送っていた。

 拍手の音がメイダンレース場に響くにつれ、徐々に観客の意識は戻っていく。少しずつ現実へと引き戻され、やがて歓喜の咆哮を上げ始めた。そんな光景を眺め、ジェンティルドンナは優雅に微笑む。

 

「随分と心地よいですわねぇ。えぇ、これこそが強者のあるべき姿。私の力ですわ」

 

 満足げに頷き、足取り軽くウィナーズサークルへと向かっていった。そして、呟く。

 

「さて、このままでは私の一人勝ちになってしまうわね?貴方はどうなさるのかしら……タルマエさん」

 

 ドバイワールドカップに出走するチームメイトに対し、挑発的な言葉を。

 

 

 変わってホッコータルマエ。ドバイワールドカップミーティングも残すところドバイワールドカップを残すのみとなった。気持ちを落ち着かせるために大きく息を吸い、吐く。

 ホッコータルマエの気持ちは不思議なほど落ち着いている。世界中からダートの強豪が集まるレース、緊張はあって当然であり、もっと固くなると思っていたが、ホッコータルマエは大レースの前とは感じさせないほどにリラックスしていた。

 彼女の頭にあるのは対戦相手の情報とどのようにして走るかのプラン。そして、トレーナーである高村の言葉だ。ありふれた言葉──頑張っておいで、という言葉に背中を押されて、彼女は進む。

 

(大丈夫。これまでのトレーニングを信じて、トレーナーさんを信じて。私は、レースに挑む)

「っ、よしっ!」

 

 両の頬を叩いて気合を入れ、決戦の地へと歩を進めた。

 

 

 歓声に包まれているメイダンレース場。ホッコータルマエが姿を現したことで一際大きくなる。歓声を受けても尚、ホッコータルマエはいつもの自分を崩さなかった。

 

「……スゥー」

 

 息を吸い、大きな声で。

 

「『みなさんこんばんは!北の湖から飛んできた、紙の翼の渡り鳥!苫小牧ロコドル兼ウマチューバーのホッコータルマエだべ!なまら頑張るから、応援よろしくだべ!』」

 

 手を振りながら自己紹介をした。ファンは少し面食らうものの、すぐさま笑顔になる。

 

「『へ~あの子ウマチューバーなのか。苫小牧、ってのはよく分からないけど』」

「『なんだか面白そうね!それにあの子、ウマチューブで何回か見たことあるわ!』」

「『頑張れよ~!ホッコータルマエ~!』」

 

 応援の声を飛ばし、こちらも笑顔で応えるホッコータルマエ。ただ一部では。

 

「『あの子、ジェンティルドンナと同じチームだよな?』」

「『らしいわね。なら、あの子もとんでもないレースをしてくれるわ!』」

「『ジェンティルドンナがあれだけ凄かったんだ。ホッコータルマエも凄いに違いない!』」

 

 先程のジェンティルドンナの活躍から、ホッコータルマエへの期待が高まっている。その声を聞いた彼女は顔をしかめる……のではなく。しっかりと受け入れていた。

 

(ジェンティルさんなんて関係ない。私は私のレースをするだけだから)

「でも、そうですね。この場にジェンティルさんがいたならきっと、私に挑発的な言葉を投げるんだろうな」

 

 強さを示した、と。鼓舞するためにあえて挑発的な言葉を投げてくると予想する。それは、ホッコータルマエの実力を認めているからこその信頼。ホッコータルマエならばきっと素晴らしいレースをしてくれるだろうと期待をする。

 ならば、応えないわけにはいかない。ジェンティルドンナさえも驚くレースにしよう。ホッコータルマエは笑みを零す。

 

 

 その後も続々とウマ娘が入場する。ルロワーカントリーに始まり、ダートの一流ウマ娘達が集い始める。

 

「みんな~、ファル子の応援、よろしくねっ!」

 

 日本からはスマートファルコン。そしてトランセンドも入場する。トランセンドは辺りを見渡し、視線を1人のウマ娘に固定する。先にいるのはホッコータルマエだ。

 頭のてっぺんからつま先まで余すことなく観察する。仕上がりを見て、溜息を吐いた。

 

(ありゃりゃ。めっちゃ仕上がってんじゃん。ホントにJBCクラシックとは別物だよ、タルマエちゃん)

「どんだけ強くなったんだろ?少なくとも、ウチの想像をはるかに超えてきてるはず……やっば、想像しただけでゾクゾクが止まんない……っ!」

 

 だが、すぐさま自分の想像を超えた強さを発揮してくれるだろうと身体を震わせる。未知の世界を見せてくれるだろうと、素晴らしいレースにしてくれるだろうと心が躍る。世界の大舞台で繰り広げられるレースに思いを馳せた。

 

 

 準備は滞りなく進み、レースの刻がやってくる。ウマ娘達がそれぞれの思いを胸にゲートに収まっていく。1人、また1人と入るにつれて、観客の声援も静かなものになっていった。

 

《ドバイワールドカップミーティングもいよいよ最後のレースを迎えました。ダート2000mドバイワールドカップ。良バ場の発表、世界からダートの一流ウマ娘達がこのドバイに集いました。注目はBCディスタフを制した女傑、アメリカのエンパイアトライアングルに全てのバ場に適応する三刀流ルロワーカントリー。さらには日本から雪辱を果たすため【砂のハヤブサ】スマートファルコンが出走しています》

《今回も豪華なメンバーが集いましたからね。また、日本のトランセンドは前回スマートファルコン同様着外に沈んでいます。こちらもリベンジに燃えていることでしょう》

《さぁ今、最後のウマ娘がゲートに収まりました。メイダンレース場最終レースドバイワールドカップ。態勢が整って》

 

 張りつめた空気が支配する。まだか、まだかとゲートの中のウマ娘達が闘志を滾らせる。今すぐにでも出たいと、走りたいと衝動が高まっている。

 その衝動を解放するように──ゲートが開いた。ウマ娘達が一斉に駆け出す。砂塵を巻き上げ、我先にと駆け出す。

 

《っスタートしました!ドバイワールドカップがスタートしました、まず飛び出したのはっ、やはりこのウマ娘だ【砂のハヤブサ】スマートファルコン!そして競りかけるようにっ?これはホッコータルマエか、ホッコータルマエだ!内からホッコータルマエがグングン上がって行く!ホッコータルマエが内からスマートファルコンに並びかける!各ウマ娘綺麗なスタートを切りました、先陣を切るのは外のスマートファルコン、そして内のホッコータルマエだ!》

 

 ドバイワールドカップが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 ペースを握るためにハナを取りたいスマートファルコン。そんな彼女に並ぶように動くウマ娘、ホッコータルマエ。日本の2人が競り合う形で始まるドバイワールドカップ。

 2人がハナを取り合う状況をトランセンドは後方から眺めていた。

 

(ありゃ、今回はファル子ちゃんのマークする感じ?ウチは眼中にないってことかな?ま、そう都合よくはいかないだろうけど……この状況は好都合だねん)

 

 先行争いは熾烈。スマートファルコンとホッコータルマエがお構いなしにペースを上げ、他の先行勢もつられるように動いている。トランセンドは波から外れないように、それでいて余分なスタミナを消耗しないように動く。消耗戦の様相となっていた。

 

《まもなく第1コーナー。先頭は日本の2人スマートファルコンとホッコータルマエ、この2人が競り合います。かなり速いペースで流れていますね》

《そうですね。これはお互い共倒れになりそうなペース。どこかで息をつきたいところ》

《ルロワーカントリーも前2人に負けじとペースを上げます。スマートファルコンとホッコータルマエ、その間を狙うルロワーカントリー。続くようにエンパイアトライアングルこちらも先頭を狙う。ハントレスライトは落ち着いてレースを展開、現在5番手から6番手。トランセンドも同じ位置にいますね。第1コーナーに入って先頭は変わらず。果たしてこのペースのまま突き進むのか?》

 

 第1コーナーを曲がるウマ娘。スマートファルコンは内へと視線を送り、ホッコータルマエを見る。

 

(タルマエちゃん、今度は逃げか。私をマーク、楽に逃げさせないようにしている。でも、タルマエちゃんもそのペースはキツいんじゃないかな?)

 

 先頭を走る関係上風の抵抗をモロに受ける逃げ。スタミナの消耗も他のウマ娘に比べて激しく、それゆえに緻密なペース管理が重要となってくる。だからこそどこかで一息つきたいと考えているスマートファルコンだが、今の状況は大変よろしくない。休もうにもホッコータルマエが競りかけ、こちらの闘争心を煽ってくる。しかも、ここで譲ればそのまま逃げ切るぞ、という圧のおまけつきだ。

 スマートファルコンの闘争心が刺激される。

 

(負けないよタルマエちゃん。ファル子は逃げに自信があるんだから!)

 

 コーナーを曲がるスマートファルコン。その間に割って入る影が1つ。

 

「『日本のウマ娘だけで盛り上がらないで欲しいね!』」

 

 ルロワーカントリー。アメリカの三刀流ウマ娘がスマートファルコンとホッコータルマエの間に入り込む。さらに後ろにはエンパイアトライアングル、そしてもう1人も競りかけてきた。

 彼女達もまた強敵。さらにはダートの本場であるアメリカのウマ娘が2人。油断ならない相手と分かっているスマートファルコンは、絶対に譲ってはいけないとペースを落とさない。

 

(これは、ハイペースな消耗戦になる。誰が最初に脱落するのかの勝負。でも、ファル子負けないんだから……っ?)

 

 ペースを落とさないまま第2コーナーへと入るスマートファルコン。ルロワーカントリーが走る内へと視線を向けるが、ふと違和感に気づく。

 

《第2コーナーを進むウマ娘。先頭はスマートファルコン達に並ぶようにルロワーカントリー、そしてエンパイアトライアングルさらにサテューンが並びかけます。第2コーナーでもペースは落ちません先行争いは続いています。ハナを取るのはどのウマ娘か?スマートファルコンとホッコータルマエが少し有利だ》

 

 内に視線を向けても、()()()()()()()()()()()。先程まで競り合っていたはずの、逃げで走っていたはずの相手の姿が見えない。

 

(あ、あれ?カントリーちゃん達が壁になってて見えないのかな?)

 

 混乱するスマートファルコン。その隙を見逃すルロワーカントリーではない。

 

「『貰った!』」

「っ!負けないんだから!」

 

 一気に抜け出しを図るルロワーカントリー。そうはさせまいと動くスマートファルコン。だが、彼女の頭は困惑していた。

 

(カントリーさん達は気づいてない?そんなことはないと思うけど……)

 

 最内を走っていたはずのウマ娘──ホッコータルマエが忽然と姿を消していた。さっきまで競り合っていたはずなのに、気づけばいなくなっていた。思わず驚いてしまうのも無理はない。ルロワーカントリー達が間に入ってきた一瞬、ほんの一瞬意識を奪われた隙に消えたのだから。

 

(タルマエちゃんはどこに?っ、ううん、そんなこと考えてる余裕はない!)

 

 ホッコータルマエの姿を探すが、ルロワーカントリーから目を離すわけにはいかず。ハナの取り合いを続けるスマートファルコン。ハイペースで進んでいく。

 

 

 そして、違和感に気づいたのはもう1人。

 

(……ん~?タルマエちゃん、どこ行った?)

 

 トランセンド。彼女もまたホッコータルマエの姿を見失っていた。

 流れに乗るままスマートファルコンの後ろにつけようとしているトランセンドだが、ルロワーカントリー達の動き出しに意識を持ってかれた内にホッコータルマエを見失ったのである。元々外を走っていたトランセンドは最内を走るホッコータルマエが見えにくかった。故に思考を他に持っていかれている内に忽然と姿を消したのである。

 トランセンドは考える。ホッコータルマエがどこにいるのかを。

 

(一番考えられる線としては……ウチの後ろ。先行勢に混ざったか。元々先行脚質だし、タルマエちゃんは真面目だからそうする可能性が高い)

 

 ホッコータルマエの性格を考え、先行勢に混ざっているのではないかと予想するトランセンド。後ろへと視線を向けるが──ホッコータルマエの姿はない。

 

「……マジ?んじゃ、どこ行ったんタルマエちゃん」

 

 呆けた声を出すがレース中。しかも気を抜けば置いていかれるこの状況。トランセンドもレースに集中する。勝つためにここに来た、1着を取るためにここに来たのだ。だから負けるわけにはいかない。

 

(このペースなら落ちてくる。かなりのハイペースだからねん。気を抜いたらウチも置いてかれるから気をつけないと)

 

 スマートファルコンの1バ身後ろをキープするトランセンド。まもなく向こう正面に入ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 トランセンドの予想。ホッコータルマエは先行勢に混ざったのではないか?自分の後ろにいるのではないかという予想。それは()()()()()()

 もっとも、その姿をトランセンドが視認することはない。何故ならば。

 

「……」

 

 ホッコータルマエが走っているのは、トランセンドの真後ろなのだから

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