その力は何の為に   作:カニ漁船

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王の誕生

 ドバイワールドカップは向こう正面へ。先頭はスマートファルコンとルロワーカントリーが競り合い、いまだにハナを譲らぬ攻防を繰り広げている。ペースはほとんど落ちることなく入っていった。

 

《向こう正面へと入りました、現在先頭はスマートファルコンとルロワーカントリーこの2人が競り合っています。さらにすぐ後ろにはエンパイアトライアングル、そしてサテューンがつけている。4人がレースを引っ張って、スマートファルコンの1バ身後ろにはトランセンド、トランセンドがつけています。そしておぉっとこれは!》

《トランセンドの後ろにホッコータルマエがピッタリとくっついていますね。コーナーを過ぎた辺りで少しずつ位置を下げていた彼女はトランセンドの後ろにつけています》

《ホッコータルマエはトランセンドのすぐ後ろ、先行集団の一番前につけています。トランセンドからしたら走りにくいでしょうね。先行集団のウマ娘にもわずかな焦りが見えますよ。密集状態で進むドバイワールドカップ、レースは向こう正面へ入りました》

 

 向こう正面に入ってしばらく。トランセンドは気づいた。先頭からいなくなったホッコータルマエ、彼女が一体どこにいったのか。

 

(っもしかして、ウチの真後ろにいんの!?そりゃ見えないわけだよ!)

 

 気づいたきっかけは本当に偶然。後方を確認するために視線を向けた時、視界の端にホッコータルマエの姿がチラリと映ったからだ。加えて、先行集団がやけに焦っているように見えたのも確認。これでトランセンドは確信する。ホッコータルマエはすぐ後ろを走っているのだと。

 認識した時、トランセンドはギョッとした。先頭でスマートファルコンと競り合うかと思えば自分の後ろを走っていたのだから驚かない方が無理だろう。

 

(てか、マジで気づかなかった。いつの間にここまで下がってたん?そしてっ!)

「プレッシャーがパないねぇタルマエちゃん……っ!」

 

 後ろから凄まじい圧をかけられる。平常心を保つのがやっとなほどのプレッシャー、並のウマ娘ならすでに崩れるほどだ。

 トランセンドも揺さぶりをかける。前を走るアドバンテージを最大限活かし、チェンジオブペースを駆使したり、ホッコータルマエのペースを崩そうとあの手この手を使う。

 

(ここでちょっとペースを落とす。嫌でも意識せざるを得ないんじゃない?)

(トランさんはここでペースを落とす。なら、私もペースを落とす)

(……ダメか。なら外へ進路を)

(トランさんは外へ。なら私も外を走る。そして後ろのウマ娘も揺さぶる)

 

 だが、いかなる策も無に帰す。ペースを落とせば同じようにペースを落とし、磁石のようにピッタリと張り付いている。

 

(こなくそ!なら、後ろの密集地帯に落ちる!これはさすがに嫌っしょ!?)

(密集地帯へ。問題ない、むしろ好都合)

(~~~ッ!なら、無理矢理にでもペースを上げてやる!)

(ここでペースアップ。後続も引き連れて、トランさんの後ろをキープする)

 

 どんな策を用いても、相手にとって嫌なことをしても全くプレッシャーは弱まらない。むしろトランセンドにかかる重圧は強くなるばかりだ。

 当然だ。常にこちらのペースを握られているかのように走られ、こちらの全てを見抜くように動く相手が真後ろにいる。思考が誘導されているのではないか?これは間違いではないか?本当にこれは合っているのか?自らのレースプランに猜疑心が生まれ、正常な思考を失う。トランセンドは少しずつ、少しずつ蝕まれ力を削がれていく。全てホッコータルマエの術中だった。

 

 

 そして、他のウマ娘も例外ではない。まずは先頭を走るスマートファルコンとルロワーカントリー。さらにはエンパイアトライアングルにサテューン。

 

「っく!」

「フゥ……フゥ……っ!」

「shit!」

 

 いつも以上に疲労の色が濃い。序盤からハイペースで走り続け、競り合っていた。スタミナの消耗はいつも以上だろう。ダートを走るためのパワーとスタミナを鍛えているとはいっても限りがある。尽きていてもおかしくない。

 そのハイペースを最初に作ったのは──ホッコータルマエである。スマートファルコン達の闘争心を煽り、余分なスタミナを消耗するように仕向けさせた。自らがハナを取りに行く動きをすることによって。

 先行勢。最初こそ影響はなかったが、ホッコータルマエがトランセンドの後ろについてから状況は変わる。

 

「『くっ、そ!ちょこまかと!』」

「『どっちだ、どっちに動く?こっちの動きを先読みしてるみたいに動きやがってっ』」

「『考えろ考えろ……相手にとって嫌なことはっ』」

 

 後ろを走るウマ娘達を幻惑し、釘付けにする。外へと内へと揺さぶりをかけ、ペースを掌握される。嫌でも意識するしかなくなり、集中的にマークしていた。しかも、トランセンドがホッコータルマエを消耗させようと躍起になっていたこともあり、効果は倍増。さらにはホッコータルマエ自身は全く意に介していない様子を見せているので焦りを生む。

 

「『このままのペースだと自滅っ、だが競り合わなければ逃げられる!』」

「『向こうは全然焦ってない。前との差が開いてるのに……!』」

「『ヤバいヤバいっ、どうすりゃいいのこれ!?』」

「『これが正解?ううん、このままじゃ追いつけない。でも単騎で抜け出してもっ』」

 

 逃げで走る4人はホッコータルマエが作り出したペースによってスタミナ限界を。先行勢はホッコータルマエによるかく乱で焦りを。後方のウマ娘は差が開くことによって不安を煽る。ドバイワールドカップは、ホッコータルマエによって支配されていた。

 

 

 レースは第3コーナーを進む。変わらないペースのまま消耗戦を強いられる逃げウマ娘達。そんな状況をトランセンドはすぐ後ろで俯瞰している。

 

(結局タルマエちゃんのマークは振り切れてないまま。しかも、相手にだって余力はある……!ガチ詰んでる!)

 

 トランセンドは前を走る4人よりは余力があるが、ホッコータルマエも同じ条件だ。むしろトランセンド以上に余力が残っていてもおかしくはない。第3コーナーを過ぎて、第4コーナーへ突入しながらトランセンドはこの状況をどうするか考えていた。

 

《第4コーナーも半分を過ぎました。まだ息もつせかぬデッドヒートを繰り広げる前の4人、しかしわずかに脚色が鈍ってきているか?それも仕方ありません、序盤からの攻防がこの第4コーナーまで続いています。ずっとずっと競り合い続けてのこのペース、前半1000mが58秒を切ろうかというところ。スタミナが切れていても全くおかしくない!》

《さすがにこのペースをずっと維持し続けるのは厳しかったでしょう。ですが意地で持ちこたえています》

《虎視眈々と狙うトランセンド、そしてホッコータルマエ!バ群は終始10バ身以内に収まっていると思わせるほどの大混戦模様、ここから抜け出すのはどのウマ娘か?この破滅的ペースでもしっかりと脚を溜めていることができたのか?》

 状況は絶望的。圧倒的な不利を背負わされているトランセンド。

 

(ウチの動きに合わせるのを逆手に取る?ううん、さんざんやったけど無意味だったっしょ!てか意味なかったからウチは不利になってるわけで。あ~もう、マジで!)

「ゾクゾクするねぇ……タルマエちゃんッッ!!」

 

 それでもなお、トランセンドは笑う。未知なるレースの探求、自分の想像が及ばないような結果をもたらしてくれたホッコータルマエに向けて、最大級の感謝を贈った。

 

「んだけども、それもここまで。勝つのは──」

 

 第4コーナーの中間。最後の直線に向けて、ここで爆発させる。ギアを上げ、外から捲ろうとするトランセンド。

 

「ウチだよッ!」

 

 そんな彼女の目に映ったのは。

 

「──失礼します」

 

 外から上がるトランセンドに対し内を選択した。

 

「……はっ?」

 

 ホッコータルマエの姿である。加えて、内から上がるホッコータルマエの表情が一瞬だけ見えた。その表情は、トランセンドを凍り付かせるのには十分だった。

 普段の彼女からは想像もできないほどに冷たい表情。能面のような無表情でトランセンドの方を向いており、一瞥したかと思うと瞬く間に抜き去った。

 ギアは緩めていないトランセンド。しかしホッコータルマエの勢いは……トランセンドを凌駕する。

 

《まもなく最後の直線に入ります。先頭は依然変わらずスマートファルコンとルロワーカントリーこのまま逃げ切れるか!外からトランセンドがじりじりと詰め寄っていますがっ、ここでぇ!ここで最内からホッコータルマエが上がってきました。ホッコータルマエが上がってくる!並ぼうとしてきたホッコータルマエ最内をぶち抜こうとしている!》

《しかし内にはルロワーカントリーがいます。抜くのは少々厳しいッ!?》

《な、なんと!ホッコータルマエがルロワーカントリーが一瞬外に膨らんだ隙を突いてねじ込んだ!最内をぶち抜くホッコータルマエ!ラチにぶつかりそうになっているがお構いなしに上がる!さぁ最後の直線だ、最後の直線に入って先頭はスマートファルコン、ルロワーカントリー、そしてホッコータルマエ!だが、トランセンドにエンパイアトライアングルも差はありません。この最後の直線を制するのはどのウマ娘か!》

 

 最内からグングン上がって行くホッコータルマエ。その末脚は──どのウマ娘よりも速かった。

 

 

領 域

 

 

かがやけ☆苫小牧の星

 

 

 

 トランセンドも必死に上がろうとする。しかし、ホッコータルマエ以上の末脚を出すことはできない。他のウマ娘も同様である。

 

(し、かもっ、外から上がってきたウマ娘に飲まれるっ!前は逃げてたファル子ちゃん達が壁になってるし、ホントのホントに大外を回らないと道がないっ!)

 

 逃げていたウマ娘が垂れたことで避けることになる。だが勢いに乗ったまま避けるのは厳しい。必然的にペースを落とすことになる。これを回避するには大外をぶん回すか……ホッコータルマエのように最内をぶち抜くしかない。

 もっとも、最内を選択したウマ娘は力尽きつつあるルロワーカントリーに阻まれてろくに上がることができない。最後の直線に入る前に抜いたホッコータルマエのみが、最内を気楽に上がって行った。

 内もダメ、外もダメ、大外しか許さない。第4コーナーで大外に膨らんだウマ娘だけがホッコータルマエへの挑戦権を得る。まぁ……そのホッコータルマエは明らかに余力十分といった様子で駆け抜けているのだが。

 

《ホッコータルマエが抜け出した、早々に抜け出したホッコータルマエ!ジェンティルドンナに続くかホッコータルマエ先頭駆け抜ける!その差を3バ身、4バ身と開いていく残り100m!他のウマ娘は上がってこれない、スマートファルコンとルロワーカントリーは力尽きた!エンパイアトライアングルなんとか抜け出した、上がってくるがこれはもう届かない!》

「……『おいおい、これは悪い夢か?』」

「『残念現実よ。でも、これはいくらなんでも』」

「どう、なってるんだっ」

 

 観客はまたも言葉を失う。ホッコータルマエは、ただただ駆け抜ける。

 

(……残り200mで領域を切った。念には念を入れておかなくちゃ)

「勝ちは譲らない、絶対に」

 

 ホッコータルマエは誰よりも速く駆け抜ける。メイダンのダートを、唯一衰えない末脚で。

 

ホッコータルマエ駆け抜けたぁぁぁ!!ドバイワールドカップ、砂の頂点に君臨したのは日本のホッコータルマエ!な、な、な……なんという強さだ!?恐ろしい強さ!2着に7バ身差をつける大勝です!》

《お、恐ろしいですね。終始レースを支配していましたよ彼女。どれほどの強さを持っているのでしょうか?》

《ドバイの地で輝く苫小牧の星!見事に煌めいたホッコータルマエ!これがホッコータルマエの強さ!2着はエンパイアトライアングル、3着はハントレスライト!》

 

 ホッコータルマエがドバイワールドカップを制した。圧倒的な強さで。

 

 

 ゴールしたトランセンドは自分の着順よりもホッコータルマエへと視線を向ける。その目には、わずかな恐怖が混じっていた。

 

(……いやいやいや、どうなってん、マジで)

「強くなった、なんてもんじゃすまないでしょアレは……ッ!」

 

 終始圧倒された。ホッコータルマエが作り上げたペースに飲まれていた。考えていたプランはすべて破棄することを余儀なくされ、レース途中の作戦は全て看破され、あらゆる場面において後手を踏まされた。

 膝をつき、ホッコータルマエを睨むウマ娘達。その目にはわずかな怯えも見える。肝心のホッコータルマエは。

 

「『みんな~!おら、やったべさ~!これからも苫小牧ロコドル兼ウマチューバーのホッコータルマエをよろしくだべ!』」

 

 観客に向けて笑顔で手を振っている。レース中の彼女とは別人だ。

 

(マージでこれヤバいって。もうさ、赤鬼とかそーいう次元じゃない)

 

 トランセンドは、畏怖の念を込めてホッコータルマエに名付ける。レースを支配し、圧倒的な力でねじ伏せる王。

 

「【ダートの魔王】……絶対に討伐してやるじゃんね……!」

 

 ドバイワールドカップにて、【ダートの魔王】が誕生した。




Q.タルマエがどんな風に進化したか教えて

A.全方位にデバフを振りまくジェンティルドンナ
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