「「バクシンバクシンワッショイショーイ!タルマエさんおめでとうございまーーーすッッ!」」
「凄い大声だねぇ。というか、合わせ技どころじゃなくなったねぇ」
「今更だよタキオン」
ドバイワールドカップ。トランセンドへのリベンジ、そして
常に周囲へとプレッシャーをかけ続け、自分は素知らぬ顔でレースを支配する。単純だけど難しい、それができれば苦労しない運び方。でもタルマエはやり遂げた。7バ身差勝利という形で。
戻ってきていたジェンティルは楽しそうに笑っている。ただ、その笑みの中には。
「うふふ、貴方はそれくらいやるでしょうね」
攻撃的な、また併走したい、って考えが含まれている気がした。なんにせよ、ドバイワールドカップを勝ったんだ。視線を観客席に手を振っているタルマエへと向ける。
「おめでとうタルマエ」
彼女を祝福しないと、ね。
ウィナーズサークルでのインタビュー。タルマエと2人で報道陣の質問に答えていく。
「『ドバイワールドカップ勝利おめでとうございます!いやはや、7バ身差の圧勝でしたね!』」
「あ、『ありがとうございます!応援してくれてるファンの方々に応えられました!』」
「『高村トレーナー。これでドバイシーマクラシックとドバイワールドカップの同時制覇ですね!今のお気持ちは?』」
「『2人におめでとうとお疲れ様、とだけ』」
「『感想うっすー……いつものことだけど』」
そうは言われてもな。凄いことだとは分かってるけども。
「それにしても、ミーティアのウマ娘は凄いですね。ジェンティルドンナとホッコータルマエ、お2人の今後は?」
「ジェンティルドンナは宝塚記念を。ホッコータルマエは帝王賞、調子が良ければかしわ記念に出走する予定です」
「おぉ~、夏のグランプリですか!これは期待が持てますね!」
これは既定路線だ。さすがに今から春の天皇賞は調整が間に合うかどうか微妙。かしわ記念もタルマエの調子と相談という形で次走を決めた。宝塚記念と帝王賞はどちらも出走予定。ジェンティルに関してはその先が決まってないけど、強い相手にぶつけ続けるのは変わらない。
無難なインタビューが続いていく中、ついに来た。
「『本当におめでとうございますホッコータルマエさん!ドバイワールドカップ制覇、しかも7バ身差の大勝!これは凄いことですよ!』」
何てことのない賞賛の言葉。タルマエは。
「『はい!これで
「はえ?『挑戦権、ですか?』」
受け取りつつも記者にとって引っかかる言葉を残す。挑戦権を得ることができた、という言葉を。さて、ここで発表することになるのか。タルマエの
「え、え~っと、『挑戦権とはいったい何のことでしょうか?タルマエさん』」
「『はい。ドバイワールドカップを勝つことも勿論目標だったんですけど、それとは別に大目標があるんです。私が掲げた大目標の挑戦権、それがドバイワールドカップの制覇。なので、無事に勝てて一安心ですね』」
「えぇ……」
ま、困惑するよね。その大目標が一体なんなのか、だけど。これは予想がつきやすいだろう。というか、ドバイワールドカップが前提となる目標なんて1つしかない。
「『私の大目標──ドバイワールドカップとBCクラシックの同一年制覇。これに向けて今後は頑張っていくつもりです!』」
ドバイワールドカップと同じダート。アメリカで開催されるウマ娘のレースの祭典、ブリーダーズカップ。その花形にしてダート最高峰のレース──BCクラシック。タルマエは今後、このレースに向けて調整を進めていく。なのでJBCの方には出走しない。
ドバイワールドカップとBCクラシックを同一年で制覇したウマ娘はまだいない。クラシックレースや欧州の有名なレースと比べたら歴史が浅いというのもあるけど、どちらも最高峰の舞台だ。両方制するのはかなり難しい。
報道陣は言葉を失っている。タルマエから明かされた大目標に絶句していた。そして全員我に返ったかと思うと──タルマエに対する質問攻めが始まる。
「『そ、その話は本当でしょうか!?』」
「『本当です。私の大目標は同時制覇。なのでBCクラシックには勿論出走します』」
「『いまだ制覇者はいません!そのことについては!』」
「『難しい道だというのは分かっています。だからこそ挑戦する意義がある。私はそう思ってますから』」
タルマエだけじゃない。僕の方にも質問が飛んできている。
「『ホッコータルマエさんの目標は本当でしょうか!』」
「『本当のことです』」
「『アメリカはダートの本場、ドバイワールドカップに負けず劣らずのメンバーが集います!』」
「『勝たせるだけです』」
「『本当に分かっているのでしょう……いえ、高村トレーナーなら、まぁ』」
「『どういう意味ですか』」
終始こんな感じで進むインタビュー。結論としては、ウィナーズサークルでも大盛り上がりだった、ということだ。
後日、ネットニュースを探していると大々的に取り上げられていた。
【ホッコータルマエはBCクラシックを目標に。今後の展望に期待】
【ホッコータルマエ7バ身差V!今後の目標については】
【未だ達成者のいない偉業へ!ホッコータルマエ「難しいからこそ挑戦する」】
うん、これも切り取ってスクラップブックに保存しておかないと。ブクマして、いつでも覗けるようにしないとね。日本に帰ったらやることが山積みだ。
ちなみに、ソノンエルフィーさんと都留岐さんからもお祝いのLANEが届いていた。どうやら2人とも生配信を見ていたらしくすぐに送ってきた。
【おめでとうございますッッッッッ!!!!】
【ドバイシーマクラシックおめでとうございます。圧巻のレースでした】
【ドバイワールドカップも凄かったですね。思わず興奮してエルフィーと喜び合いました】
2人で宅飲みしていたらしく、ソノンエルフィーさんから2人がお酒を飲んでいる画像もセットで送られてきた。微笑ましいなぁ。
◇
聖が育てたウマ娘、ジェンティルドンナにホッコータルマエ。どっちも凄いです。
「ヴェニュスパーク、ちゃんと見ていたな?」
「はい、師匠。しっかりとこの目で」
ジェンティルドンナは王道の走り。欧州でもポピュラーなレース運びを好みます。シンプル故に強く、シンプル故に崩しにくい。勝つのは至難の業です。他をねじ伏せ圧倒する力、剛のレースですね。
ホッコータルマエは真逆。こっちも王道ですけど、技術を駆使して他を幻惑する。相手に力を出させず、レースそのものを支配する。こちらは柔のレースです。どちらも相手にしたくはないでしょう。
バルバトスケーブさんも悔しそうにしてました。ジェンティルドンナに手も足も出ずに負けてしまったから。
「申し訳ありません、モンジューさん。勝てませんでした……っ」
「気に病むなバルバトスケーブ。これもまた学びであり経験、次に活かせ」
「っはい!」
でも、いつまでも下は向きません。師匠は言ってました。一流のウマ娘はいつまでも下を向かない、すぐに前を向いて立ち上がるものだと。これができてこその強いウマ娘だと教わりました。
私はまだ一戦走っただけ。でも、欧州に戻ればすぐにでもティアラ戦線が始まる。目標は3つのレース全てを制すること。
(これは大前提。私の目標は、もっと先)
イギリスのオークスもそう。そして、凱旋門賞を勝つ。師匠も勝った世界の頂を私も勝つ。そしていずれは──師匠を超える。
(ロンシャンの舞台で私は輝く。誰にも負けたりはしない。オルフェーヴルにも、ジェンティルドンナにも。2人を下して、私は輝く)
「師匠。私、走りたいです」
気づけば口から漏れ出ていました。闘争心が抑えきれない、今すぐにでも走って発散したい衝動に駆られます。だって仕方ないです。あれだけ凄いレースを見せられたんですから。
師匠は、ちょっと困ったような笑顔。でも、同じ気持ちだったみたいで。
「そうだな。なら、明日早速トレーニングをするとしよう。勿論私とおまえの一対一だ──ヴェニュスパーク」
「本当ですか!?やったやったー!師匠と一騎打ちです!」
「全く、まだまだ子供だな」
むっ!子供じゃありません、私も立派なレディです!
楽しみです。オルフェーヴルは凱旋門賞に来ると言ってました。ジェンティルドンナは……どうなんでしょうか?来ると嬉しいです。だって、強い相手が増えるのに越したことはありませんから。それに、競い合うのは楽しいですし。
ホッコータルマエの本当の目標は、ドバイワールドカップとBCクラシックの同一年制覇だったんだよ!