その力は何の為に   作:カニ漁船

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トランセンド達ですよ。


幕間 ライバル陣営の怖れ

 日本に帰ってきたトランセンドはトレーナーと一緒にドバイワールドカップの映像を見直していた。ホッコータルマエからの徹底マークを受けたあのレース、少しばかり抵抗を覚えたが見なければ始まらない。対策を練らなければこの先どうしようもない。だからこそ、意を決して見返すことにした。

 結果、見せられたのは。ホッコータルマエというウマ娘の圧倒的なまでの実力だ。

 

「……トラン」

「いや、やっばいね改めて見ても。そりゃ~最初気づかんよ。めちゃんこピッタリ張り付いてんじゃんこれ。磁石よ磁石。ウケる」

 

 口では平静を装うが声が震えている。レースのことを鮮明に思い出し、ホッコータルマエの強さを改めて実感させられた。

 逃げウマ娘を掛からせる判断も見事すぎる上に、スマートファルコンを混乱させたのが大きいだろう。トランセンドは分析を続け、レースの肝はここにあると判断した。

 

「このレースは最初が全てだった。ファル子ちゃんと競り合うことでハイペースに固定。んで、自分は上がってきたルロワーカントリーを壁にしてさっさと落ちる。鮮やかだねぇ」

「当然、いると思っていた相手がいなくなったスマートファルコンは混乱する。姿を探すけど、ルロワーカントリー達がそれを許さない。ダートの本場相手に単騎逃げさせたらそれこそヤバいから」

「ファル子ちゃんは競り合うしか選択肢がなかった。分の悪い勝負でもね」

 

 アメリカのレースは序盤からガンガン飛ばして展開する。スマートファルコンも競り合わなければ逃げられる、と思ったのだろう。だから競り合うしかなかった。ここでスマートファルコンは後手を踏まされる。

 当のホッコータルマエはというと、すぐに下がって指定の位置につく。それが──トランセンドの後ろだ。

 

「なんでウチの後ろ?な~んて思ったけど……多分都合の良い位置にいたのがウチだったんだろうね。後はJBCクラシックのリベンジ」

「逃げウマ娘の後ろを走っていてレースを俯瞰できる、なおかつ後ろのウマ娘に仕掛けをほどこすのにベストな位置だったから、か」

「そゆこと。あ~、今思い出してもヤバい。鳥肌止まんないよ」

 

 ピッタリと後ろに張り付いてトランセンドに圧をかけつつ、走りで後ろのウマ娘を掛からせる。理屈としてはこんなものだろう。その難易度は高い、というレベルではないが。

 

「先行の位置からレースを支配する。生徒会長様みたいじゃ~ん。おーこわこわ」

「……実際、かなり怖かっただろう?」

「……まぁねん。ウチが後ろにつけられてるって気づいたのは向こう正面過ぎてから。判明した時は驚き以上に恐怖だったよ」

 

 前で競り合って逃げている、と思ったウマ娘が気づけば自分の真後ろにいる。誰にも気づかれずにだ。直面すると恐怖でしかないだろう。加えてプレッシャーをかけられ続けていた。精神も摩耗する上にスタミナを削られる。

 極めつけは、トランセンドの作戦がことごとく看破されたこと。

 

「ウチの行動、全部筒抜けかってぐらいくっつかれたからね。ありゃ誰でも焦るよ」

「……取ろうとした択全部が潰されて、仕方なくついていくしかない。精神的な疲労も大きいし、スタミナの消耗も」

「ファル子ちゃんの後ろ走ってたとはいえ、あんなんされたらウチの疲労も人一倍よ?トレちゃんも受けてみたら?」

 

 苦々しい表情を浮かべて首を横に振るトレーナー。ホッコータルマエの強さを再認識することになった。

 

 

 そんな彼女が掲げた大目標。それは、前人未踏の偉業。

 

「BCクラシックも勝って、ドバイワールドカップとBCクラシックの同時制覇、か~。うわ、想像しただけでもゾクゾクするねぇ」

「でも、並大抵のことじゃないよ。ドバイワールドカップも一流のウマ娘が集まるけど、BCクラシックが開催されるのはダートの本場アメリカ」

「ドバイワールドカップに出てこなかった猛者もわんさかいるわけで。いや~どうなることやら」

 

 トランセンド達はホッコータルマエの目標を聞いた時は驚いた。今まで知らなかった情報なのと、ドバイワールドカップは目標達成の前提でしかなかったことに。彼女はずっとずっと先を見ていたのだということを分からされた。

 

(JBCクラシックの時とはホント大違い。ミーティアのウマ娘ってやっぱ怖いね~)

 

 これで同世代には現在無敗の芝最強ウマ娘ジェンティルドンナがいる。加えて前2人も前人未踏の偉業を成し遂げた不世出の怪物。チームとしては間違いなく頂点、トランセンドはそう認識している。

 ドバイワールドカップの情報を精査したトランセンド。一息ついた後、今回の目的を口に出す。

 

「さ~て、この情報を──エスポん達に共有しましょうかね」

 

 自分の経験を、ダートのライバル達に話す。2人とも椅子から立ち上がって、早速話しに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 練習場に集められたメンバー。エスポワールシチーを筆頭にフリオーソ、ワンダーアキュート、さらには新進気鋭のコパノリッキーの姿があった。彼女達のトレーナーも近い位置で見守っている。

 

「やぁやぁ皆の衆。おっひさ~」

「トランセンドさん、ですか。一体我々に何の御用で?」

「そーだ。用があんなら手短に言え。あーしも暇じゃねーんだよ」

 

 鋭く睨むエスポワールシチーを意に介さず、トランセンドは持ってきた資料を広げる。そして開口一番。

 

「いやね、ダートにやっばい魔王が誕生しちゃったことを報告しようと思って」

「「はぁ?」」

「あれま。赤鬼の次は魔王かい。怖いねぇリッキーちゃん」

「魔王って……もしかしてタルマエのこと?」

 

 コパノリッキーの言葉に頷くトランセンド。コパノリッキーはホッコータルマエの口から魔王という異名について聞かされたことで知っていた。まぁ他の3人も新聞やネット記事なりで情報を仕入れているので知っているのだが。

 困惑している4人をよそにトランセンドは口を回す。己の情報を4人に共有する。

 

「今のタルマエちゃんはガチでヤバい。なんならファル子ちゃん以上の強さがある。ウチはそう思ってるよん」

「……あの赤鬼以上だぁ?どんな目あわされたんだよ」

「しかし、にわかには信じがたいです。彼女以上の実力者などいないと思っていましたから」

「あたしも、信じられないかねぇ。タルマエちゃんが弱いっていうわけじゃないけど……ファル子ちゃんの強さは、これまで何度も体感しているから」

 

 疑問を抱くフリオーソとワンダーアキュート。エスポワールシチーも訝し気な表情だ。彼女達はスマートファルコンというウマ娘の実力についてよく知っている。誰も追いつかせない、先頭で逃げ続ける【砂のハヤブサ】。レコードタイムを記録したこともあった。何度も逃げられた。だからこそ簡単に信じることができない。

 ただ、この場にいるトランセンドだけは知っている。ホッコータルマエの強さを、ドバイワールドカップで一緒に走ったからこそ分かる。

 

「今のタルマエちゃんは誇張抜きでダートに出張してきた生徒会長様だよ。断言しても良いね」

「……ふっつーにやばくない?それ」

「普通どころか派手にヤバいですよ新條さん」

 

 エスポワールシチーのトレーナーである新條は大口を開けて固まり、冷静なツッコミを入れるトランセンドのトレーナー。砂のシンボリルドルフ、と言われてはさすがに無視はできないのだろう。トランセンドの話に耳を傾ける。

 

「ウチの作戦とか揺さぶりとか全部看破された。なにやっても無駄だったし、こっちは毎回後手を踏まされる。その結果ドバイワールドカップの7バ身差勝ち。ウチとファル子ちゃんは着外に沈んでゲームオーバー、ってわけ」

「……そんな目に遭ってたのかよお前。そりゃこえーわ」

「しかし、恐ろしいですね。本人が体感したわけですから嘘とも言い難いですし」

 

 経験をつらつらと語るトランセンドに同情的な視線を送るエスポワールシチーとフリオーソ。それと同時に、トランセンドほどの実力者に何もさせないまま封殺したホッコータルマエに恐怖を覚える4人。

 

「ファル子ちゃんもタルマエちゃんの術中にハマったね。てか、あのレースは全部タルマエちゃんによって作られたよ。ぜ~んぶタルマエちゃんの掌の上。ホントに魔王って感じ」

「……ありゃ~。タルマエちゃん、JBCクラシックが余程悔しかったんかねぇ?」

「ま、だろうね。てかリッキーちゃんは大変だよ~?これから先、あの魔王を相手にしなきゃいけないんだから」

「タルマエ、少し見ない間に……」

 

 語った後、トランセンドは表情を引き締める。そして、エスポワールシチー達に語りかけた。ホッコータルマエの次走──かしわ記念。レースに出走する3人に向かって。

 

「だから、かしわ記念は気をつけて。今のタルマエちゃんはファル子ちゃん以上の強さがある。油断してたら何もできないまま終わっちゃう。だから、警告しておこうと思ってみんなを集めたんだ」

「……へ。テメーに言われなくても分かってんだよ。ドバイワールドカップ勝ったってことは、そんだけつえーってことだからな」

「私も、存じ上げております。ですが負けるわけにはいきません。私にも、ダートウマ娘としての誇りがありますから」

「ありゃりゃ。トランさんが言うなら、気をつけないといけないね~……こりゃあ骨が折れそうだ」

 

 3人は闘志を滾らせる。新たな強いダートウマ娘の誕生に心を躍らせ、かしわ記念で対戦する時を待ち遠しく感じる。彼女達もウマ娘、強い相手との戦いには──心が躍るというもの。

 トランセンドは心配が杞憂だったことを悟る。これならば大丈夫だろうと安心する。そして。

 

「……え?じゃあなんで私は呼ばれたの?」

 

 取り残されたコパノリッキー。彼女はかしわ記念には出走できないので何故呼ばれたのかさっぱり分からなかった。

 しかし、トランセンドは真面目な表情で語りかける。コパノリッキーへと、大真面目に。

 

「いい?これから先、対戦する機会がいっちばん多いのはリッキーちゃんだよ?あの魔王と、対峙しなきゃいけないんだよ?だから、心構えはしておいた方がいいよん」

「あ、あの。怖いんですけど?」

「ウチはね、本当に心配して言ってる。気をつけてねリッキーちゃん」

「コパァ……」

 

 トランセンドの雰囲気に圧されるコパノリッキーだった。

 

 

 そしてトレーナー陣。

 

「やっぱひじりんヤババだね~。こわたんだよこわたん」

「あの人本当にどうなってるんでしょうね」

「さぁ……でも、真面目で良い子だから」

「あ、それ分かりみ~!ひじりん本当に良い子だよね~!」

「あ、分かります新條さん!聖君いつも併走受けてくれますし!改善点教えてくれますし!」

 

 高村トレーナーのことについて盛り上がっていた。




かしわ記念。エスポワールシチーの実装まだですか?
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