その力は何の為に   作:カニ漁船

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そりゃあチームメイトだから見てますよ。


貴婦人の視線

 内から湧き上がる衝動が止まりません。

 

(ふふ、うふふ!)

 

 船橋レース場、かしわ記念。同じチームであるタルマエさんが出走しているレース。ダートの猛者相手に、素晴らしい走りをしているタルマエさんの姿が確認できます。ふふ、本当に素晴らしい。ダート戦国時代と揶揄される今の勢力図を、彼女はあっという間に塗りつぶした。己の力を持って。

 彼女は成った。ダート戦国時代を終わらせる実力を身につけ、私が目標に定めるのにふさわしい、強者へと変貌を遂げた。そのことが、たまらなく嬉しい。

 

(元々ダートには狙いをつけていました。出走をしなかったのには、勿論理由がある)

 

 ダートのレースを走らなかった理由。それは──タルマエさんの存在。

 

 

 戦国時代を形成する5人のダートウマ娘。彼女達の実力は芝を走るオルフェさん達にも迫るもの。無論、私もダートを走ろうとしましたわ。ダートでも遜色ない力を出せるようになったのですから。戦国時代を終わらせるために出走するのもまた一興、とも思っていました。

 けど、私は待つことにした。タルマエさんが挑もうとする相手を横取りするのは良くありませんし、なにより彼女には闘志があった。折れているようならば出走を考えましたが、そうはなりませんでしたので。

 それに、不思議と予感があった。私の勘が働いた。ここで待った方が、私にとって面白いことになると。結果は……ご覧の通りですわね。

 

(あらゆるダートの強者をねじ伏せて、魔王として君臨する。とても素晴らしいですわ!()()()()がある!)

 

 このかしわ記念で彼女はダートの強者達を下した。ファンの皆様に証明した。ダートの王は自分であると、戦国時代は終わったのだと分からせた。

 はしたないと分かりつつも、興奮を抑えることができない。えぇ、とても楽しみですわ──彼女とレースで走る時がッ!

 

(問題はどこで戦うか……まぁ宝塚記念でしょうか?帝王賞でも私は構いませんが)

 

 芝だろうが砂だろうが関係ありません。私は強者をねじ伏せて、自らが最強として君臨するのみ。タルマエさんも下して、芝と砂の頂点に立つ……何も変わりませんわ。

 

「トレーナー。明日、今後の方針を決めましょう。分かっていますわね?」

「いいよ」

 

 ファンに笑顔で対応するタルマエさんへ目標を定める。楽しみですわねぇ?

 

 

 

 

 

 

 次の日、トレーナー室でトレーナーと相談。

 

「ねぇトレーナー。タルマエさんも随分強くなったと思わないかしら?」

「……そうだね。新聞でもダートに誕生した魔王とか戦国時代を終わらせた怪物とか色々と言われてるね」

 

 あら、随分と物騒ね。またタルマエさんが複雑そうな表情をするかしら。仕方ないとは思いますが。

 

「彼女は強くなった。えぇ、丁度食べ頃かしら?」

「……言わんとしたいことは分かるよ。タルマエと同じレースに出走させろ、ってことでしょ?」

 

 ふふ、分かっているようで何よりですわ。

 

「構わないよ。元々考えてはいたからね」

「へぇ?」

「ジェンティルが求めている強者にタルマエは成った。それに、併走でも意識しているのは何となく察してたからね。戦うことになるだろうとは思っていたよ」

 

 どうやら、トレーナーは私がタルマエさんを標的にしようしていたのを分かっていたようね。分かりやすかったかしら?

 

「なら、話は早いですわ。宝塚記念か帝王賞……どちらかでタルマエさんと戦わせなさい」

「……随分早いね」

「構わないでしょう?それに、私はダートも問題なく走れる……えぇ、ダートであっても必然の勝利を掴み取るだけですわ」

 

 一番早く雌雄を決するなら、お互いに宝塚記念か帝王賞のどちらかがよろしいでしょう。宝塚記念ならばオルフェさん・ヴィルシーナさん・ゴールドシップさん・ウインバリアシオンさん。帝王賞ならばスマートファルコンさん・トランセンドさん、そして今回のかしわ記念のメンバーが出走します。どちらに転んでも、私にとっては望ましい舞台。

 ただ、トレーナーはそう思っていないようで。首を横に振る。

 

「まだだよジェンティル。宝塚記念と帝王賞は、()()()()

「……どういう意味かしら?」

「ここで戦うよりも、もっと相応しい舞台が2人にはある。それだけの話」

 

 まだ早い、戦うのに相応しい舞台がある?宝塚記念と、帝王賞以上に?

 

「タルマエはまだ進化を残している。ステータスが伸びるとか、そういうのじゃなくてね」

「それが、何かしら?」

「どうせならもっと強くなった方が良いし、なにより、一度戦ったところで満足はできないかもしれない。だからこそ、僕が提示するのは──このプランだ」

 

 トレーナーから紙を渡される。書いてあったのは私とタルマエさんのレースプラン。そして、ベストなタイミングでぶつかり合うレースの名前が書いてあって……ッ!

 

「……」

「どうかな、ジェンティル。君の望みを叶えるプランだけど」

「……ふふ、うふふ、うふふ!」

 

 あぁそうね、そのレースがあったわね!これは私としたことが盲点でした。戦うことを急ぎすぎるあまり、視野が狭くなっていたようですわね。

 

「どうやら、お気に召したみたいだね」

「えぇ、とても!やはり貴方は最高のトレーナーね!」

「それはどうも。それで、ジェンティルはどうする?このプランで行くかい?」

 

 悩む必要などありません。えぇありませんとも。こんな素敵なプラン、乗らないわけにはいきませんわ。

 

「無論ですわ。これでこそ私の道に相応しい!えぇ、全ての方々を踏み台にして──私が頂点に立ちましょう」

「油断はしないようにね。宝塚記念も、オルフェーヴルやヴィルシーナ、ウインバリアシオンにゴールドシップも出走してくるから」

「あら、貴方は私が油断するようなウマ娘だと?」

「念のため、だよ」

 

 軽口を言い合いながらも、私は笑みが抑えきれません。えぇ、とても楽しみ……戦いの時が。

 

「タルマエさんをも下して、私は芝と砂の頂点に立つ。彼女には悪いことをしますわね」

「タルマエはそこまで弱い子じゃないよ。油断したら、やられるのは君だ」

 

 無論、存じ上げておりますわ。彼女の実力は、私が一番よく知っていますもの。

 楽しみで楽しみで仕方ありませんわね。こんな隠し玉を持っていたなんて、トレーナーも意地が悪い。

 

「このプラン、いつから構想を練っていたのかしら?少なくとも昨日今日ではないでしょう?」

「タルマエがドバイワールドカップを勝った時。でも、その前から構想自体は練ってたよ」

「あらあら」

 

 私とタルマエさんが戦う舞台。それは宝塚記念でも、帝王賞でもありません。

 

「楽しみですわねぇ──凱旋門賞とBCクラシック。そこが私達の、戦う舞台となる」

 

 フランスで開催される芝の世界最高峰・凱旋門賞。そしてアメリカで開催されるダートの世界最強決定戦・BCクラシック。ここが私達の、戦う舞台。

 

「僕はどっちも勝つように調整する。有利・不利になるようなことはしないから安心して欲しい」

「あら、貴方がそんな無粋な真似をするような方ではないと私は知っていますわ。貴方はどこまでも、私達が望むがままに突き進むものね?」

「そういうことだよ」

 

 えぇ、トレーナーはいつだって変わりません。私達のためにと突き進み、どこまでも連れて行ってくれる。私をより高みへと引き上げ、最強への道を整えてくださりました。どんな難題にも折れることなく、私をより高い次元へと押し上げるために余念がないお方。

 

(思えば彼は、どんな時でも涼しい顔で私の要求に応えていましたわね)

 

 トレーニング器具もすぐさま代わりのものを用意し、一分の隙も無い調整をする。唯一身体を鍛えることは不満に思ってそうでしたが……良いでしょう。あれからサボることなく鍛えているようですから。つまり嫌ではないということ。

 

 

 これは聞く必要のないことだと思いますが、聞いておきましょう。

 

「トレーナー。貴方は──私が望む舞台を用意してくださるかしら?」

「いいよ」

 

 本当に……素晴らしいトレーナー。彼と契約してよかったわ。

 

 

 

 

 

 

 さて、ジェンティルは帰っていった。あとやるべきことはU.A.F.のこととか、今後のレースに向けてとか色々だ。

 

(ジェンティルとタルマエが戦う舞台に凱旋門賞とBCクラシックを選んだ)

 

 その方が彼女達のためになるはずだ。宝塚記念と帝王賞ではまだ時期尚早。加えて、レース間隔の都合でどちらか片方にしか出走できない。それでは良くないと思った。

 だからこそ、凱旋門賞とBCクラシックだ。どちらも芝と砂の頂点を決める戦い、こここそが相応しいと思い決めた。それに、凱旋門賞にはヴェニュスパークも出走する。彼女はまだクラシック級ながらも、ジェンティルが望む強者足り得るウマ娘になりつつある。オルフェーヴルも出走するし、ジェンティルは喜ぶだろう。

 ただ、このプランで驚いたのはタルマエも乗り気だったことだ。かしわ記念の前に、僕はこのプランをタルマエに話したことがある。彼女からの回答は。

 

「構いません。私も、ジェンティルさんとは戦いたいと思ってますから」

「併走では五分の勝負。それがレースではどうなるのか……興味があります」

「凱旋門賞とBCクラシック。私は──どちらも勝つ。ジェンティルさんには譲りません」

 

 これ。彼女もまたジェンティルとの勝負を望んでいる。なので話自体はかなりスムーズに進んだ。

 

 

 2人の実力は本当に五分。展開とか運とか、色々な要素が絡むだろうけどどっちが勝つかは予測がつかない。ジェンティルが負けても悔しいし、タルマエが負けても悔しい。でも、僕がやるべきことは一つだけ。

 

「彼女達のために頑張る。それだけだ」

 

 彼女達が勝負を望んだんだ。なら、僕はその舞台を整えるだけ。どっちも勝つように調整するし、妥協はしない。勿論、ヴェニュスパークもそうだけどね。

 

「さて、と。頑張らないとね。あぁそうだ、都留岐さん達にもU.A.F.のことを相談しないと。モンジュー達の方は上手くいってるみたいだし」

 

 次のレースは宝塚記念と帝王賞。うん、頑張ろう。




ジェンティルドンナとホッコータルマエが激突する舞台。それは芝の世界最高峰とダートの世界最高峰である!ミーティアっていつもそうですよね!
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