──そのニュースは突然報じられた。
「え、え~っと……冗談、とかではなく?」
「嘘ではありません。ジェンティルドンナとホッコータルマエの今後のレースです」
芝とダートで名を馳せている2人の怪物。芝の貴婦人ジェンティルドンナと砂の魔王ホッコータルマエ。同じチームに所属している2人の、今後のレース展望がトレーナーである高村聖から教えられた。
「ジェンティルドンナは宝塚記念、ホッコータルマエは帝王賞です」
ここまではいい。ここまでは、事前に知っていたことだ。ドバイのレースインタビューでも同じように答えていた。問題は、ここからである。
「そして、秋は凱旋門賞とBCクラシックの2つに出走する予定です。2人とも」
「2人とも、ですか?」
「2人とも、です」
凱旋門賞とBCクラシック。世界でも有名な2つのレースに出走するつもりだと明かされたのだ。元々ホッコータルマエはBCクラシックの出走を予告されていたが、なんと凱旋門賞にも出走するのである。驚かない方が無理だ。加えて、ジェンティルドンナも両方出走する。驚きは2倍だ。
「じ、ジェンティルドンナは凱旋門賞に、ホッコータルマエはBCクラシックに出走、とかではなく?」
「いいえ、2人とも両方出走します」
「……もう一度お聞きしますが、冗談ではなく?」
「私はいたって本気です」
流れる沈黙。静まり返った会見の場。誰もが放心し、高村はただ状況を静観するのみ。どれだけの時間が流れたか?一瞬か、はたまた長い時間か。
「「「えええぇぇぇえええ!!??」」」
静寂の場を次に支配したのは、困惑の声だった。
現在トゥインクル・シリーズの芝路線で猛威を振るうジェンティルドンナ。春シニア二冠を達成したオルフェーヴルがいるものの、芝の最強は彼女だと評されるほどの実力者であり、今度の宝塚記念でもファン投票1位で選ばれている。見るものを退屈させる絶対の勝利、不抜の聖域と称された5バ身差を崩したのはオルフェーヴルのみという事実。宝塚記念の勝利は揺らがないと言われている。
そしてダート路線では戦国時代を終わらせたホッコータルマエ。JBCクラシックの敗北が彼女を覚醒させ、ドバイワールドカップで新たに君臨したダート界の魔王。かしわ記念でも実力をいかんなく発揮し、初対戦となるエスポワールシチーとフリオーソ、そしてワンダーアキュートを完封して勝利した。一度負けた相手には二度負けないを体現するウマ娘、砂のシンボリルドルフと称されることもある。帝王賞の大本命だ。
どちらもミーティアのウマ娘。芝とダートの頂点に座する2人であり、どちらが上か、という議論は……当然だがされていなかった。ジェンティルドンナはダートを走れない、ホッコータルマエは芝を走ったことがあるがクラシックのみ。現在はダートに集中している。語ってもなんにもならないと思っていたからだ。
なのにこれである。困惑するのが当たり前だ。
「び、BCクラシックはダートのレースですよ!?ジェンティルドンナは大丈夫なのでしょうか!?」
「問題なくいけます。ホッコータルマエともよく併走をしていますので、彼女も問題なくダートを走れます」
極めつけにジェンティルドンナはダートも走れるという知らない情報をお出しされた。最早なんて反応をすればいいのか分からない報道陣である。
(やっぱこの陣営……予測がつかなくて面白い!)
だが、間違いなく紙面のトップを飾るニュース。一刻も早く情報を届けたい、一面の記事は決まった、と誰も彼もが思う。そして、報道からまもなくしてネット記事に、翌日には新聞として情報が全国に広まる。
【芝の貴婦人ジェンティルドンナVS砂の魔王ホッコータルマエ激突!決戦は仏で!】
【最強決定戦。芝と砂どちらが上か!】
【ジェンティルドンナとホッコータルマエは凱旋門賞とBCクラシックの両取りへ!】
王道の走りで無敗を誇る貴婦人・ジェンティルドンナVS徹底マークでレースを支配し自分の走りをさせない魔王・ホッコータルマエ。トゥインクル・シリーズのファンは、予想もつかなかった対戦カードに度肝を抜かれ──戦いの日を待つことになった。
◇
驚愕の情報が広まってすぐの頃。宝塚記念に出走予定のオルフェーヴルは。
「……腹立たしい」
「な、なにがでしょうか?王「散れ!トレーニングの邪魔だ!」は、はいいぃぃぃ!?」
荒れていた。臣下であるウマ娘達を散らせ、トレーニングに集中する。彼女のスマホにはニュース記事──ジェンティルドンナとホッコータルマエのことが書かれた記事が映っていた。
(くだらぬ……くだらぬ!何が最強決定戦だ、何が頂点を決める戦いだ!)
新聞の煽り文句として、芝と砂の頂点に立った2人による頂上決戦が海外で行われる、と書かれていた。その文言は、オルフェーヴルを荒れさせるのには十分な言葉だった。
荒れている原因。自分を差し置いて、最強決定戦と呼ばれていること……ではない。
(なんと腹立たしいことか……!本当に、本当に!)
「くだらん!己の不甲斐なさが、余の至らなさに反吐が出るッ!」
自分が不甲斐ないせいでそんな評価にさせてしまったことに対するもの、己の弱さに怒りを覚えていた。
オルフェーヴルとて春シニアの二冠を取っている。宝塚も取れば春シニアの三冠、王手をかけている状況だ。特に、春の天皇賞は二連覇に加えてゴールドシップとウインバリアシオン相手に4バ身差の完勝、文句のつけようがない勝利である。
しかし世間ではジェンティルドンナとホッコータルマエにしか触れない。どちらが上か?どちらが勝つか?と話題をかっさらった。
(世間では貴婦人と魔王の話題一色……どちらが最強か、だと?)
「これも全て余の不徳が致すところ。余の力が足りぬから、くだらん妄言を耳にする」
話題がとられた理由はただ1つ、自分があの2人より弱いと思われているから。オルフェーヴルはそう結論づけている。
オルフェーヴルとて2人の実力は認めている。特にジェンティルドンナは直接対決で敗れた相手、次戦う時は玉座を取り戻し、彼女を屈服させると誓った。
オルフェーヴルは怒声を上げる。怒りの矛先は、自分だ。
「納得できぬ、到底納得できぬ!……朝霞ッ!」
「ひゃいっ!?」
「量を増やせ……貴様ならば分かるであろう?余の限界が、どこまでやれるかが!」
「っ、ま、任せて!オルも驚くようなメニュー作っちゃうんだから!」
トレーナーである朝霞に指示を仰ぎ、宝塚記念に向けて更なる飛躍を遂げると心に誓う。目的はただ1つ──頂点の座を取り戻すため。
(王は余であり頂点もまた余だ。そのためには、分からせる必要がある。誰もが納得する形で!)
二度目の直接対決宝塚記念。ここで勝てば、世間は目を覚ます。オルフェーヴルの気合いがさらに入った。
そんな妹の様子を、ドリームジャーニーは困ったように笑う。
「おやおや、オルの気合いは相当だね。これほどのは見たこともない」
「あわわわ……!おっかなおっかなぁ~」
「大丈夫ですよ、タンホイザさん。怒りの矛先が我々に向くことはありません。オルは自分自身に怒っているのですから」
「そ、それは分かってますけど……でもおっかなですよこんなの~!」
慌てているマチカネタンホイザを宥めるドリームジャーニー。オルフェーヴル陣営の気合いは尋常ではなかった。
そして、気合が入っているのはこちらも。
「ヴィルシーナ!まだまだ気合を入れていけ!」
「分かっているわトレーナーくん!ハァァァッ!」
倉科陣営。ヴィクトリアマイルを制し、宝塚記念へ出走を予定しているヴィルシーナの調子は良好。タイムを計測しているサトノクラウンは舌を巻いていた。
「す、凄いわね……!過去一のタイムを記録しているわ!」
「でも、まだまだあの人に追いつくには足りない!もう一本よトレーナーくん!」
驕らず、研鑽を続ける。彼女達の思いはただ1つ、ジェンティルドンナと高村トレーナーに勝つことだ。
(私を折ってみなさいジェンティルさん。何度倒れても立ち上がる私を、何度だってあなたに挑む私を!)
(負けない、絶対に勝つ。相手がどれだけ強大かなんて分かってる、それでも俺は諦めない!)
「勝つぞ、ヴィルシーナ!」
「勿論よ、トレーナーくん!」
「2人とも熱いわね……!私も頑張らないと!」
倉科陣営も負けず劣らずの気合い。宝塚記念は激戦の様相を呈していた。
ちなみに、ゴールドシップ陣営。
「なぁちゃんトレ。ゴルシちゃんカツオになりたい」
「なら私はマスかなぁ。マックイーンはなんの魚になりたい?」
「現実逃避しないでくれますか!?後、なんで魚オンリーなんですの!?」
今日もメジロマックイーンのツッコミが冴えわたっていた。ここのいつも通りの光景である。
「……ま、遊びはこの辺にして、と。今日も頼むぜトレーナー。ゴルシちゃんの目が覚めるようなメニュー頼むわ」
「オーケイ、シップ。任せておいて。ま、ついてこれるかな?」
「おいおい、アタシを誰だと思ってんだよ?天下のゴールドシップ様だぜ?」
先程までのやり取りが嘘のような真面目な雰囲気。置いていかれるメジロマックイーンは、叫ぶ。
「なんですのその切り替えの早さはぁぁぁ!?」
いつものようにゴールドシップ達に振り回されていた。
ダート陣営も負けていない。特にトランセンドはエスポワールシチー達と合同トレーニングをしており、能力の向上を目指していた。
「いやいや、あんがとねエスポん、フリオ。マジで大助かり」
「……別に、テメーのためじゃねー。あーしも勝ちたいからだ」
「協力もやぶさかではありません。相手は、強大ですから」
ホッコータルマエ。ダートに君臨した魔王を倒すために日々努力を重ねる。ドバイワールドカップで体感した圧倒的な強さ、作戦の狡猾さ。どれをとっても一級品のホッコータルマエ相手に、自分は何をしたらいいか?を考える。
(一番はやっぱ、タルマエちゃんのプレッシャーに負けないこと。でも、ルドルフ会長並だかんな~)
トランセンドは一度だけ生徒会長と併走してもらったことがある。芝は得意分野ではないし、走れないのだが自分が体感した圧がどれくらいのものかを確認するために。
結果分かったことは……ホッコータルマエの圧はシンボリルドルフに匹敵する、ということだ。
(ルドルフ会長の圧に負けないってほぼ無理ゲーでは?ドリームトロフィーでもそうそういないよ)
「でもやらなきゃ勝てないしな~……覚醒したらあんなんなるとか聞いてないよホント」
「なにブツブツ言ってんだよ?」
「んにゃ、こっちの話」
溜息を吐くトランセンド。彼女は、思わず舌を出す。
(でも、だからこそ燃えるってね。難易度高い方が挑みがいがあるし、
「もう一本、お願いしていい?2人とも」
「ハン!ようやくかよ。こっちはずっと待ってたんだよ!」
「すぐに取り掛かりましょう。帝王賞……勝つのは私です」
燃え上がるトランセンド。ダートも盛り上がりを見せていた。
そして、スマートファルコン。彼女は空を見上げている。
(……帝王賞、タルマエちゃんへのリベンジ戦)
元々出走の予定はなかったレース。BCクラシックに向けて、アメリカに滞在する予定だったが、帝王賞のためだけに日本に一時帰国していた。理由はただ1つ、ホッコータルマエと勝負するため。
「ドバイワールドカップは、悔しい思いをしちゃった。タルマエちゃんは強かったし、私は弱かった。それだけの話」
でも、と一人呟くスマートファルコン。その目には──熱い闘志が宿っている。
「今度は負けない!帝王賞は私が逃げ切るんだから!」
宝塚記念に帝王賞。どの陣営も、気合は十分だ。
う~んバッチバチ。もしかしたら明日の朝に掲示板回を上げるかもしれません。