その力は何の為に   作:カニ漁船

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宝塚記念の開幕ですたい。


宝塚記念 VSライバル達

 さて、ジェンティルの宝塚記念を迎えた。秋華賞以来、どういうわけか僕の手を握るようになったジェンティルだけどまぁいいか。精神統一にでもなるならいくらでも握ろう。

 

「今回の宝塚記念は、やっぱりオルフェーヴルだね。ジャパンカップよりも成長しているし、前回の敗戦から何も学ばないわけがない」

「あらあら、お可愛い王だこと。よろしいですわ、私の力で再び平伏させて差し上げましょう」

「後は前も言ったようにヴィルシーナやゴールドシップ、ウインバリアシオンだね」

 

 対戦相手の情報をジェンティルに伝える。いつものルーティーンに変わらない受け答え。結局はいつも通りが一番だ。

 

「さて、いつもの精神統一も済んだことですし、行ってきますわ」

 

 打ち合わせが終われば、ジェンティルは立ち上がってターフへと向かう準備をする。僕も戻る準備をするか、と思ったけど。

 

(激励の言葉を贈ろう。いつも頑張ってるし)

 

 応援されて悪い気はしないはずだ、多分。ジェンティルもきっと喜ぶ、かもしれない。自信はないけど。

 

「そうだね、ジェンティル」

「あら、何かしら?」

 

 しかし、今更勝て、というのもな。それくらい当然ですわ、とか何を当たり前のことを仰っていますの?とか返されそうな気がしてならない。でも、言った方がいいだろう。うん、言わないよりは言って後悔した方がいい場面だ。

 

「……君の勝利を願っているよ。君がこの宝塚記念で勝つことを、いつものように勝利することを」

「ッ!」

 

 なんか、目を見開いて驚いてるけど。そんなに意外な言葉だったろうか?けど、ジェンティルはすぐに口元を抑えて、震えていた。や、やっぱりやめた方が良かったのだろうか?

 

「じ、ジェンティル。大丈夫?」

「……ふふ、うふふ。本当に、貴方は」

 

 気づけば凛とした表情で佇んで。いつものように自信に満ちた表情で僕を見つめる。

 

「当然、勝ちますわ。強者として、ね」

 

 不敵に笑って、彼女は控室を出ていった。まぁ、うん。これでよかったのかな?僕も観客席へ行こう。バクシンオー達が待ってるし。

 

 

 

 

 

 

 ファン投票で選ばれたウマ娘達が集った阪神レース場。天気はあいにくの曇り模様であるが、バ場には影響がなく。良バ場での開催となった。

 今回の宝塚記念で注目されているのは、凱旋門賞とBCクラシック挑戦が発表されたジェンティルドンナ。ファン投票1位であり、今回の宝塚記念1番人気でもある。実力は誰もが認めるところであり、芝の日本最強は彼女だと推す声が多い。凱旋門賞を制し、今期も春シニア二冠を取って三冠に王手をかけているオルフェーヴルを差し置いて、だ。

 

「きたか、ジェンティルドンナ」

「すっげぇ調子良さそう。今回も5バ身差で決めるのかな?」

「頑張ってくださーい!ジェンティルドンナ様ー!」

 

 ファンが飛ばす声援に心地よさを感じながら、ジェンティルドンナは薄く微笑む。

 

「……ふふ」

 

 先程の控室でのやり取りを思い出し、思わず声が漏れ出た。

 

(本当にどこまでも面白い。いつものように勝つことを、私の勝利を願う、ですか。陳腐な言葉でも、人によってこうも変わるなんて!)

「えぇ、勿論勝ちますわ。それが強者としての務めですもの」

「──随分な世迷言を吐くのだな」

 

 笑うジェンティルドンナの下へ近づくウマ娘、オルフェーヴル。不機嫌さを隠そうともせず、ジェンティルドンナを睨みつける。ジェンティルドンナはただ、薄く笑うのみ。

 

「あら、そのまま世迷言と吐き捨てなさいな。終わる頃には現実が見えてくる頃合いですから」

「抜かせ。貴様の玉座は今日までだ……その座は余のものである」

「あらあら必死になって。王ともあろう方が、可愛らしいこと」

「チッ」

 

 2人の話はそこまで。周りの空気が歪むほどの圧を発していたが、オルフェーヴルが踵を返すとともに霧散。いつもの空気に戻る。ただ、ジェンティルドンナを意識しているのはオルフェーヴルだけではない。

 

「お久しぶりです、ジェンティルドンナさん」

 

 ヴィルシーナ。ヴィクトリアマイルを制して乗り込んできた彼女もまた、ジェンティルドンナに苦汁を嘗めさせられてきた。それも、何度も。

 ジェンティルドンナは微笑みを絶やさない。余裕の笑みを浮かべ、ヴィルシーナの神経を逆撫でる。

 

「秋華賞以来かしら?また私に挑んでくるのね」

「……あの時の私よりも、何倍にも成長しました。今日こそは負けませんッ!」

 

 宣戦布告をするヴィルシーナ。だが──貴婦人は崩れない。笑みを絶やさず、目の前の相手を見据えるばかり。

 

「威勢がよろしいことで。ですがこうは考えなかったみたいね」

「な、なにを」

「貴方が成長した以上に、私は成長している。それだけの話ですわ。精々楽しませてくださる?私の勝利を盛り上げる、演者として」

 

 ジェンティルドンナの言葉にキッ、と睨むヴィルシーナ。最後には。

 

「その余裕、崩してあげるわ」

 

 あなたには負けない、と台詞を吐いて戻っていった。

 ジェンティルドンナは周囲へと視線を向ける。誰も彼もが自分へと視線を送り、険しい表情で睨みつけている。四方八方から殺気を感じる。その空気に──心地よさを覚える。

 

(楽しめそうね、今回の宝塚記念は)

「おっとぉ、アタシを忘れてもらっちゃ困るぜ貴婦人!」

「……ゴールドシップさん」

 

 レース前のピリピリとした空気に浸っていると、ゴールドシップがやってきた。呆れた視線を送るジェンティルドンナだが、それで崩れるような相手ではない。

 

「やいやいやい!ようやく日本に帰ってきやがったな!」

「別に好きでいなかったわけではありませんが、それがなにか?」

「ゴルシちゃんはこの時を待ちわびた……モジャコがイナダになるぐらいにはな」

 

 よく分からない言葉に戸惑うが、おそらく宣戦布告に来たのだろうと思うことにするジェンティルドンナ。ただ、恐ろしい切り替えの早さで真面目な表情になる。

 

「今日は負けねー。そんだけ」

「……あらあら、みなさん総出で私に宣戦布告だなんて。随分と暇なのね?」

「吠えてろ。アタシがダンスを踊らせてやるよ」

「躍らせてみなさいな黄金船。私のダンスは──過激でしてよ」

 

 睨むゴールドシップ。笑みを絶やさないジェンティルドンナ。対極的な2人だった。

 そのやり取りを遠くで見ていたウインバリアシオン。

 

(こ、こわぁ……アイツもめっちゃ警戒してるし、レースの強さはあたしも知ってるっす。警戒警戒、っと)

 

 宝塚記念で注目されているウマ娘5人。その内3人はジェンティルドンナに対抗意識を燃やしていた。

 

 

 ウマ娘達がゲートに収まる。1人、また1人と順番に入っていき、緊張した空気が流れている。

 

《ファン投票に託された夢、阪神レース場芝2200m宝塚記念。あなたの夢、私の夢は叶うのか?人気と実力を兼ね備えた16人のウマ娘がゲートに収まります。1番人気はジェンティルドンナ、今回は2枠と内枠からのスタートです》

《オルフェーヴルは6枠、ゴールドシップは4枠の出走。ヴィルシーナは最内の1枠ですね。ウインバリアシオンは8枠と大外枠です》

 

 最後のウマ娘がゲートに収まった。喋ることすら憚られる静寂。熱狂に包まれていたレース場は静まり返り、別世界に来たかと思わせる。静かな空気を終わらせるかのように──ゲートの開く音が響き渡った。そして、ウマ娘達が大地を踏む音が聞こえてくる。

 

《果たして序盤の立ち上がりはどうなるのか?今、最後のウマ娘がゲートに収まりました。態勢整ってっ、スタートしましたっ!各ウマ娘一斉にスタート、ゲートから飛び出します!最内枠を活かしてヴィルシーナが上がって行くぞ、ハナを取りに行くヴィルシーナ!》

 

 宝塚記念がスタートした。

 

 

 

 

 

 

 激しい先行争い。逃げウマ娘がハナを取りに行き、全員が望む位置へとつけるために入り乱れる。

 ハナを取ろうとしているのはヴィルシーナ。秋華賞以降、逃げのスタイルを確立しつつある彼女がペースメーカーになろうとする。ただ、まだ第1コーナーに入る前。熾烈な先行争いが繰り広げられていた。

 

《果敢に行きますヴィルシーナ、正面スタンド前を快調に飛ばします。競りかけるイマジンサクセスとインディゴシュシュ。逃げウマ娘が3人いるこのレース、速いペースになりそうだ。ジェンティルドンナは内側の前目につけている、現在5番手の位置。ゴールドシップにオルフェーヴル、そしてウインバリアシオンは後方からのスタートです》

《各々がつきたい位置につけた、という感じですね。後はペースがどうなるか?ヴィルシーナは先行でも走れますよ》

《阪神レース場の坂を上るウマ娘達。まだ繰り広げられる激しい先行争い。ですがここでインディゴシュシュがわずかに下がったか?ヴィルシーナとイマジンサクセス2人が競り合う。ペースメーカーはこの2人になりそうだ》

 

 レースは進み第1コーナー前。ジェンティルドンナは()()()()()()()()()

 

(……いやに楽に最内を取れましたわね)

 

 本来であれば誰もが欲しい最内のポジション。それが楽に取れたことに違和感を抱く。ただ、答えはすでに出ている。

 外へと視線を送れば、スタートからずっと競りかけてきた相手が走っている。その前に視線を向ければ、逃げウマ娘の1人インディゴシュシュが落ちてきていた。1バ身前にはヴィルシーナ、風除けに使っている彼女が走っている。後ろを向けば3バ身後ろにウマ娘が、斜めに視線を送っても変わらない。

 

(考えられる線としては、私を閉じ込めることでしょうね。というか、それしかないでしょう)

 

 内へと閉じ込め、自由にさせない。秋華賞でも同じような状況になったことがあると思い出す。

 無論、わざとではないことも察している。むしろジェンティルドンナはこの状況に嬉しさを覚えていた。

 

(みなさん、余程私が怖いようねぇ?でなければ、ここまで固めはしませんもの)

 

 スタートから外を走らせないようにし、内へ内へと追いやる。まだ固まった状況かつ内枠スタートであることから、ジェンティルドンナにもどうすることもできない。下手に動けば斜行で降着どころか失格だ。できないことはないが、無理をする段階ではない。それが結論だ。

 これも全てジェンティルドンナを警戒するが故の結果。圧倒的な力を持つものが受ける不利、だから当然のことだと受け入れる。むしろ受けて立つところ、とさえも思っていた。

 

(……焦らずじっくりといきましょう。功を焦ってはいけませんものね)

 

 余裕を崩さないジェンティルドンナ。第1コーナーを曲がっていく。その間にも、ジェンティルドンナの包囲網はさらに強固になりつつあった。




この子よく包囲網敷かれますね()
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