その力は何の為に   作:カニ漁船

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メカウマ娘の育成が楽しくて仕方ない。というわけでトレパスもっと上限上げてください(もう取り終わった)。


フランスの少女

 凱旋門賞まで残り1ヶ月を切った中、フランスのティアラ最終戦ヴェルメイユ賞が開催される。ヴェニュスパークが出走していたのだけれど。

 

《ヴェニュスパークが突き抜ける、並み居る強豪を押しのけて!5番手から鋭い末脚を発揮したヴェニュスパークが突き抜けたぁぁぁ!シニアとの混合戦、ティアラの最終戦を見事に制したヴェニュスパーク!フランスを愛しフランスに愛された少女ヴェニュスパーク、彼女の躍進はこれからも続くでしょう!》

 

 シニア級のウマ娘を蹴散らして、見事に1と1/2バ身差で勝利を収めた。

 

「これは見事なバクシンッ!天晴ですよヴェニュスパークさんッッ!」

「おめでとうございま~す!わっしょーーい!」

 

 バクシンオー達も大盛り上がりだね。全員で彼女の勝利を祝福する。

 ただ、ヴェニュスパークの次走は凱旋門賞。対戦することになるオルフェーヴル達は険しい目でレースを見ていた。余すことなく観察し、警戒するように。

 

「成程、警戒を引き上げておいて正解だったようだな」

「……スペックだけでは表せない何かが彼女にはある。脚質は差し、捲りを得意。なら」

 

 正直な話、ステータス上の話ならヴェニュスパークはシニア級相手に劣っている。それでも勝ったのは、おそらくだけどスキルの差だ。

 

(モンジューを筆頭とした彼女の弟子達に鍛えられている上に、凱旋門賞を制覇した経験のあるウマ娘達から技術を継承している。多分だけど、スキルが豊富なタイプだ)

 

 なによりウマ娘アプリのスキルでもあったロンシャンの申し子をさらに発展させたスキルを持っている。しかもモンジューが教え込んだのか、継承した技術の使いどころをしっかりと見極めてるな。

 ステータス上はジェンティル達に劣る相手。それでも警戒しなければならないだろう。なにが起こるのか分からないのがレース。ヴェニュスパークは、凱旋門賞におけるジョーカーだ。

 

「『聖ー、聖ー!私勝ちましたよー!』」

 

 ……今はこちらに手を振って喜んでいるヴェニュスパークに手を振り返すとしよう。考えるのは後回しでいいか。

 

「『おめでとうヴェニュスパーク。頑張ったね』」

「『はい!頑張りました!』」

 

 彼女の勝利を祝福する。ヴェルメイユ賞を制してのトリプルティアラ達成だ。しかも、ヴェニュスパークの場合は英オークスも制しているので……クワトロティアラとでも呼べばいいのだろうか?その辺はよく分からないな。

 

 

 これで凱旋門賞は三強+1の様相を呈している。その内3人が日本のウマ娘なので、大躍進っぷりが凄いと久しぶりに会った佐岳さんが涙を流しながら語っていた。

 

「凱旋門賞に挑んでは敗れてきたあの時から、日本のウマ娘はここまで来たんだっ!本当にありがとう!」

「自分がその助けになれたのなら、幸いです」

「これからも頑張ってくれよ、聖トレーナー!あたし様はいつでも応援している!」

 

 佐岳さんの応援。佐岳さんも今回の凱旋門賞は観戦するらしい。こっちでは仕事できているみたいなので、次会う時はロンシャンレース場だろう。余談だけど、三強はオルフェーヴル・ジェンティルドンナ・ヴェニュスパークの3人。+1はタルマエのことである。タルマエはダートのウマ娘、ドバイワールドカップの勝ちがあるがこちらの人としてはジョーカーの扱いらしい。

 凱旋門賞まで残り僅か。

 

「調整をしっかりとしていこう。本番に影響が出ないようにね」

「分かっていますわ」

「はい!」

 

 気合を入れていこう。勝つためにも。

 

 

 

 

 

 

 日は傾き、完全に沈もうとしている時間。トレーニング場の照明は、まだついていた。

 

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 トレーニングを続けていたのはヴェニュスパーク。フランスのトリプルティアラを達成し、英オークスも制した期待の超新星。クラシック級ながら、凱旋門賞では本命候補に推されるほどの人気っぷりを博している。

 彼女の実力は疑いようもないもの。しかし彼女はよく理解している──他の本命候補達は、自分の1つも2つも上をいっていることを。

 

(オルフェーヴル、ジェンティルドンナ、ホッコータルマエ。全員、私よりも強い。それが理解できないほど、私もバカじゃない)

 

 ヴェルメイユ賞でも自分より強いシニア級はいた。彼女達と比較しても、オルフェーヴル達の強さは一層際立っている。ヴェニュスパークはそう認識している。

 彼女達は強い。それを認めなければ始まらない。

 

(でも、負けません。私はヴェニュスパーク……祖国の誇りにかけて、私は勝つ!)

 

 相手が強いからといって諦める理由にはならない。むしろヴェニュスパークは燃え上がっていた。彼女達に勝って、更なる高みへと至る。いずれは師匠を超え、フランス最強のウマ娘として名を馳せる。密かな野望を抱いて、彼女は遅くまでトレーニングに励んでいた。

 トレーニングを続けるヴェニュスパークの下へ、1人のウマ娘が足を運ぶ。彼女の師匠、モンジューだ。

 

「ヴェニュスパーク、そろそろ上がれ。これ以上はオーバーワークだ」

「わひゃ!?し、師匠……あ、もうこんなに経ってたんですね」

「あぁ。それにしても、時間を忘れるほどに没頭するとは。その気合は大事にしておくといい。本番で、必ずお前の力になる」

 

 ドリンクとタオルを手渡し、ヴェニュスパークを労う。可愛い弟子の1人、気にかけるのも当然だろう。ヴェニュスパークが荷物をまとめ、帰る準備を整えるまでモンジューは静かに待っていた。

 

 

 ヴェニュスパークの家へと一緒に向かうモンジュー。調子はどうか?凱旋門賞をどう見ているか?と当たり障りのない会話をする彼女達。

 

「やっぱり、今までで一番苦しい戦いになりそうです。相手がとても強い……ヴェルメイユ賞も強かったですけど、それ以上に」

「あぁ。凱旋門賞は世界中からトップレベルのウマ娘が集う舞台の1つ。それを差し引いても、今回のメンバーは強敵揃いだろう」

「はい。特に、日本から来た3人のウマ娘。内2人は、聖の担当するウマ娘です」

 

 ヴェニュスパークはジェンティルドンナとホッコータルマエを思い浮かべる。自分にコーチングしてくれている日本のトレーナー、高村聖が担当するウマ娘。自然と警戒を強めていた。それはひとえに、彼のトレーナーとしての腕を知っているからだろう。

 

「聖のトレーナーの腕は凄いです。トレーナーだって認めていますし、他の方々も認めてますから」

「そうだな。加えて彼は自分を磨くことに余念がない、常に上を目指している。誰からでも知識を吸収し、己のものとする」

「そんな聖が育てたウマ娘。実績が証明しています。彼女達は、強いって」

 

 ジェンティルドンナとホッコータルマエは最大限警戒しなければならない。それがヴェニュスパーク陣営の総意だった。

 そして、もう1人警戒している相手がいる。ヴェニュスパークとしても不思議な縁を感じる相手──日本のウマ娘、オルフェーヴル。

 

「前回の凱旋門賞覇者。二連覇目指して出走してきてます。勿論彼女も強いです。でも、それ以上に……」

「不思議な縁を感じる、か」

「はい。彼女には負けたくない、彼女に勝ちたいと私の中の本能が告げています」

 

 他の誰よりも彼女には勝ちたいと思うほどの相手。ジェンティルドンナ達以上に警戒している。

 

「負けたくないという気持ちは大事だ。だが、個人を警戒しすぎて他が疎かになるなよ、ヴェニュスパーク」

「それは勿論。聖も言ってました。視野が狭くなり過ぎたらダメ、って」

「ふっ、それで良い」

 

 笑みを零すモンジュー。ただ、彼女の胸中、頭では冷静な判断を下す。

 

(今回のレース、ヴェニュスパークが勝つのは厳しいと言わざるを得ない)

 

 身内であり可愛い弟子でも忖度はしない。これまでのレース、総合力、トレーニングでの併走から厳しい現実を見ていた。

 勿論彼女の勝利を信じている。その気持ちに嘘はない。だが、相手はそれだけ強大であること。慢心せず、色眼鏡で見ることなく判断するのならば、ヴェニュスパークにとって厳しい勝負になるだろう。本人には口が裂けても言わないが。

 

(ヴェニュスパークは他の3人と比べて総合値が劣っている。技術でなんとかするには厳しいほどに。加えて、シニアとの経験はヴェルメイユ賞の1回のみ。経験があまりにも少ない)

 

 併走で何度も走った経験があるとはいえ、練習と本番ではまるで違う。この経験の少なさが、ヴェニュスパークにとって命取りになるだろう。モンジューはそう分析していた。

 ただ、ヴェニュスパークは燃え上がっている。かつてないほどに、過去これほどの気合いは見たことがないレベルで。その気合に、水を差すつもりはない。

 

「祖国フランスのため。勝利の栄光をもたらせ、ヴェニュスパーク」

「はい、師匠!」

「相手を決して侮るな。レースでは絶対に諦めるな。勝利を手繰り寄せる方法を、最後の0.1秒まで模索し続けろ」

 

 彼女の師匠として、先輩として道を示す。彼女の勝利を願い、信じて送り出す。

 モンジューの言葉に、ヴェニュスパークは信念の籠った表情で頷く。油断はしない、必ずレースに勝つと決意する。

 

 

 その後も変わらず帰路に着く2人。

 

「そうだ師匠。都留岐さんのU.A.F.も盛り上がりそうですね!」

「あぁ、イタリアは特に協力的だ。他の国も好意的な反応をしている。早くも楽しみになって来たよ」

「師匠も呼ばれてるんですよね?」

「そうだ。タキオンやバクシンオーと同じ、ゲスト枠だな」

 

 街灯が照らす夜道で、師匠と弟子の談笑は続いていった。

 

 

 ──そして、凱旋門賞の日を迎える。




師匠は冷静に判断を下す。凱旋門賞、本走。
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