時折、思うことがあります。今の時間は夢なんじゃないかって、心地の良い、都合の良いものに浸ってるだけなんじゃないかって。そう思うことが。
「涼花さん!次の打ち合わせの時間が迫ってますよ~!」
「──えぇ、分かっているわエルフィー」
でも、実感してきている。これは夢なんかじゃないって。現実が、私達に突きつけてくれる。
「みてください涼花さんっ!ウマッターでもたくさんの人がU.A.F.のことについて呟いてくれてますッ!!」
「【年末の本戦が楽しみ】、【トゥインクル・シリーズ並にワクワクしている】、【世界規模になったU.A.F.も応援してます】……えぇ、本当に、本当に……っ」
「涼花さん……」
ウマッターでトレンドのトップに上がることもあった。楽しみだと言ってくれる人達がいて、本番を心待ちにしてくれるファンがいる。
「『U.A.F.……レースとは違う形の、新しいスポーツエンターテイメント。我々としても凄く興味があるよ!』」
「っ、『ありがとうございます。それでは』」
「『あぁ!乗らせてくれ、君達の夢に!我々もぜひ協力したい!』」
会う人々が教えてくれる。U.A.F.は素晴らしいと。たくさんの人が言ってくれる。是非協力させてほしいと。ムーブメントは日本だけではない、世界で巻き起こっているのだと。私に、丁寧に教えてくれる。U.A.F.は……エルフィーの夢から始まって、私達の夢になった企画は、ここまで来たんだって、実感させてくれる。
U.A.F.の始まりは、エルフィーからの企画でした。
「私、ずっとずっと考えていたことがあるんです!」
ウマチューブで配信を始めたエルフィーと我が社が契約して、あの子の活動を多くの人に知ってもらおうとした矢先のことでした。エルフィーから持ち込みの企画を貰ったのは。
「私、スポーツが本当に大好きなんです!レースで走ったりするのも勿論ですけど、色んなスポーツに触れることで分かったんです!」
レースだけがウマ娘スポーツの全てじゃない、レース以外のスポーツを楽しんでもいい、楽しめるはずだと。自分の他にもいるだろうスポーツが大好きなウマ娘が集まって競えるような舞台、お互いに熱く高め合えるようなステージで、何より……見ている人達も思わず身体を動かしたくなるような場所を作ってみたい。そんなあの子の企画、いえ、夢を聞いた。これが、U.A.F.の始まり。
障害はたくさんあった。種目の選定もそう、どれだけの規模で開催するのかも不透明。長い長い期間を取って、入念な準備を重ねてようやく叶うかどうか。とても高いハードルが待っていた。
エルフィーにそのことを伝えると、やはりというかとてもガッカリしていました。現実は厳しいもので、夢の実現は難しいと言われたのだから。
けれど。
「ソノンエルフィーさん。弊社に、あなたの“夢”の実現をお手伝いさせていただけませんか?」
私は、諦めたくなかった。夢を語っている時のエルフィーはとてもキラキラしていて、あの頃と何も変わらない──情熱を纏っていたから。そこに可能性があったから、私は彼女を支えたくなった。彼女と一緒に……夢を見たくなった。
こうして私達はU.A.F.実現に向けて舵を取ることになる。毎日毎日色んなことを考えて、どうすればいいのかを模索して。企画のために色んな人に交渉した。最初の頃は難色を示されてばかりだったのも、今となっては良い思い出です。
企画も固まってきて、U.A.F.の実現が可能になりつつあった頃でしょうか?私とエルフィーが、【チーム・ミーティア】に興味を持ったのは。
「涼花さん涼花さん!私、このウマ娘さんとコラボしたいです!」
「エルフィー?」
エルフィーが見せてきたのは──とあるウマ娘が水上を走っている動画。私も勿論知っていました。それだけ有名ですから、ミーティアのサクラバクシンオーさんは。
ただ、コラボしたい相手はサクラバクシンオーさんではなく。同じチームに所属しているホッコータルマエさんでした。どうして彼女達と?と、理由を聞いてみると、エルフィーは目をキラキラさせて答えてくれた。
「私達と同じように、情熱を感じたんです!熱い熱い、燃えるようなキラメキを!この人達とコラボしたら面白そうだって!」
自分と同じ情熱を感じたからコラボしたい。弊社としてもエルフィーのお願いを無下にする理由もなければ、ミーティアとの繫がりができる。エルフィーからのお願いは、二つ返事で了承しました。問題は、ミーティア側が受けてくれるかどうかだけ。
向こうからの返事は──OK。エルフィーとタルマエさんとのコラボが実現することになる……コラボ最初の動画が水上バクシン理論だったのは、エルフィーらしいというか。
最初のコラボの時、私は聖トレーナーにお話した。U.A.F.について、私達の夢について。一通り語り終わった後、彼は生気を感じさせない瞳で私を見据えていた。
「我々ミーティアに声をかけたのは、ソノンエルフィーさんと同じように、広告塔ですか?」
鋭い指摘だった。咎められているのだろうか?それも当然だ。彼にとって大切な担当ウマ娘を、広告塔として利用させてくれといっているようなものでしたから。ミーティアのネームバリューは絶大、きっと興味を持ってくれる人が大勢現れる。彼らがU.A.F.に協力してくれるのなら、夢の実現に大きく進むことができる。
協力を取り付けるために、嘘を言うわけにはいかない。ありのままに、誠実に伝える。
「……身もふたもないことを仰ってしまえば、そうなります。チーム・ミーティアはトゥインクル・シリーズで最も勢いのあるチームですから」
必死に頭を下げてお願いした。彼らが協力してくれるのならとても心強いから……まぁ。
「どうかお願いします!U.A.F.に協力してくれないでしょうか!?」
「いいですよ」
「……噂には聞いていましたけれど、本当に躊躇がないんですね」
彼としても得られるメリットがあるからと、二つ返事で了承してくれたのですが。勿論私とエルフィーも彼らには惜しみなく協力する予定だったので問題はなく。ミーティアの協力を得て、U.A.F.の道はより強固に舗装されました。
ミーティアのネームバリューは本当に絶大でした。エルフィーとタルマエさんのコラボ動画、U.A.F.の紹介動画はその日のうちに万バズも珍しくなく、ショート動画や配信の切り抜き動画でU.A.F.についてまとめた動画も上げられて。多くの人がU.A.F.に興味を持ってくれた。
「涼花さん!たくさんの人がU.A.F.について呟いてくれてますよッ!」
「……そうね。本当に、良かった」
エルフィーもそうだけど、ミーティアのみなさんの協力は本当に大きい。クラシック四冠を獲得したバクシンオーさんに知識面も豊富で別口からのアプローチをしてくれたタキオンさん。さらにはデビュー時から勢いのあったタルマエさんとジェンティルさんも動画に出てくれて、たくさんの人が視聴してくれた。エルフィーのチャンネル登録者もかなり増えましたから。
プレオープンイベントも大成功、本番を想定した交流会も大成功。怖いくらいに順調に進んでいった。夢なんじゃないかって頬をつねる時もあった。しっかり痛くて、現実だってことが分かって。より一層嬉しくなって。エルフィーと一緒に喜びました。
「これも全て、ミーティアのみなさんの協力があったからこそです。本当にありがとうございます、聖トレーナー」
「都留岐さんとソノンエルフィーさんの情熱があってこそだと思います。ですが、僕がお2人の力になれたのならば……素直に嬉しいです」
聖トレーナーに感謝を忘れず。彼らがいなければここまで順調に進まなかったと断言できますから。
私達はU.A.F.本番に向けて歩みを進めました。そして半年ほど前、突如として特大の爆弾が投下されます。
「『失礼。都留岐涼花、というのはあなただろうか?』」
フランス語での挨拶。訪れたのは──フランスのウマ娘、モンジューさんとフランスのお偉いさん。最初は驚きましたけど、どうにか対応。翻訳アプリがあって助かりました。
「『都留岐涼花は私ですが……?』」
「『失礼。実は……』」
簡単にまとめると、自分達もU.A.F.の開催に協力させてくれないか?というお願いでした。モンジューさんが年末に配信されたU.A.F.を視聴して、気に入ったのが事の始まり。欧州の方々に声をかけ、日本のU.A.F.について認知してもらい、これは良い企画ではないかと広める。結果として、興味を持った方々を代表して2人が来てくれたのだと、そう語ってくれました。
レースで結果を残せないウマ娘はどうしてもいる。そんな彼女達が輝ける舞台を一つでも増やしたい。ウマ娘達が笑顔で楽しめる舞台を、みんなが情熱を燃やせるような場所を、私達が創ろうとしているものに協力したい。モンジューさん達は、そう語ってくれた。
「『これが署名です。欧州では現在、これだけの企業がU.A.F.に興味を持っています』」
渡された紙には、たくさんの企業の名前が並んでいて。思わず、涙が零れました。
「『都留岐涼花さん。どうか我々も、U.A.F.に協力させてくれませんか?』」
「……こちらこそ、おねがい、しますっ」
震える声で、モンジューさん達の手を取る。U.A.F.は、ここまで来たのだと実感した。
話は欧州だけではなく。中東にアメリカ、オーストラリアとまさに世界規模に広がっていました。是非ともU.A.F.に協力させてほしいと、私達の夢に乗らせてほしいと口々に語ってくれた。
「涼花さんッッ!!私、嬉しいですッ!」
「……エルフィー」
「私達の夢が、ここまで来ました。2人だけの夢じゃない、たくさんの人達の夢になりましたッッ!!」
U.A.F.に参加を表明してくれているウマ娘達は、みんなキラキラしていました。エルフィーと同じように身体を動かすのが好きで、スポーツが大好きで。発揮できる舞台があるなら是非参加したいと、多くのウマ娘がU.A.F.参加に希望しました。
聞けば、モンジューさんが配信を見たのは聖トレーナーのおかげだそうです。あぁ、やっぱり……!
(あなたの協力がいただけて、あなたに力を貸してもらえて。あなたにお願いして、声をかけて……本当に、良かったっ!)
U.A.F.の世界展開。これは聖トレーナーの協力のおかげ。彼がいたから、この短い期間でここまでこれた。本当に彼には……感謝しかありません。
◇
そして、私達は今アメリカにいる。視線の先では、エルフィーがミーティアのメンバーと一緒にトレーニングをしている。
「さぁみなさん!今日も美しい汗を流しましょうッ!」
「やや!エルフィーさんは元気ですねッ!ですが委員長も負けませんよ~!」
「「「バクシンバクシーーンッッ!!」」」
「朝から元気だねぇエルフィー君に委員長君にキタ君は」
「いつものことじゃないですか」
そんなエルフィー達を見守る私と聖トレーナー。本当に、楽しそう。この光景が見れるのもきっと、聖トレーナーのおかげ。
「聖トレーナー。ありがとうございます」
「……何がでしょうか?」
「U.A.F.はここまで来れました。これはひとえに、ミーティアのみなさんの協力があってこそです」
頭を下げる。最大限の感謝を込めて。聖トレーナーは、少し照れくさそうにしています。
「……前にも言いましたけど、都留岐さん達の情熱があってこそです。まぁ、それでも。僕が力になれたのなら、嬉しいです」
「はい。本当に感謝しています。そして、これは不躾なお願いだとは承知の上ですが」
願うことならば、この先も。
「今後とも、ミーティアのみなさんと──良き関係を築けたらと思っています」
「不躾なんかじゃありません。こちらこそ、よろしくお願いします。都留岐さん」
ミーティアのみなさんとは、エルフィー共々仲良くしていきたいですね。打算でも何でもない、私とエルフィーの、純粋な、心からの願いです。
人とウマ娘の夢は!!!終わらねぇ!!!!