その力は何の為に   作:カニ漁船

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最後の一滴まで

 凱旋門賞の時もそうでしたが、やはり厄介ですわね、タルマエさんは!

 

(一体何を考えているのか、どういう罠を張り巡らせているのか。そう思わせるだけで、ここまでの効果を発揮する。相手をする側からすれば、これほど厄介な相手もいないでしょう)

 

 第2コーナーを回って向こう正面。依然として私と変わらない位置をキープしている彼女。最内を走り、逃げウマ娘を見る形で走っている。他の方々からしたら、今のタルマエさんは不気味なことこの上ないでしょうね。

 何故ならば、彼女はなにも仕掛けていない。かく乱するように動くこともなければ、揺さぶりもしない。位置取りに終始している今の彼女は、何を考えているのか予測がつかないのですから。思考が読めるわけでもなければ心も読むことはできない。タルマエさんが何を考えているかなんて、彼女にしか分からないこと。だからこそ、疑心暗鬼に陥ります。

 

(今この瞬間にも、彼女は何か仕掛けているのではないか?見えない毒糸を、辺りに張り巡らせているのではないか……私でもそう思うほどです)

 

 どんな手札を用意していて、どのタイミングで切ってくるのか?そのタイミングは彼女にしか分からないことであり、どうしても情報戦で後手を踏まされます。情報戦で後手を踏まされる……それは相手にペースを握られているということに他ならない。ペースを握られたが最後、タルマエさんによるレース支配が待っている。彼女はそれでレースを勝ってきましたから。

 本当に恐ろしい子。えぇ、だからこそ!

 

「潰し甲斐がありますわねぇ、タルマエさんッ!」

「やってみて、ください、よっ!」

 

 思わず吠えてしまいましたわ。少々はしたないですが……仕方ありませんわよねぇ?この感情を、抑えることなどできないのですから!

 ヴィルシーナさん、ゴールドシップさん、オルフェーヴルさん。トーセンジョーダンさんにエイシンフラッシュさん。誰もが私を昂らせてくれる強者でした。ですがタルマエさんは、今までの誰よりも恐ろしい!

 最初は同じチームのメンバーに過ぎませんでした。交わることはないだろうと思っていました。ですが気づけば……私と彼女はこうして競り合っている。ダートの頂点を決める戦いで。これも全て、トレーナーのおかげでしょうね。彼が私達をここまで鍛え上げ、こうして戦わせてくれた。彼がトレーナーでなければ、こうして競い合うこともなかった。

 

「君は、分かりやすい称号で得られた最強に満足しないだろう?」

「強いウマ娘はどこを走っても強い。どこを走ろうが関係ない、君に強いウマ娘をぶつけ続けて……その上で勝たせる」

 

 いつかの言葉。その言葉を彼は、有言実行した。

 

《向こう正面も半分を過ぎた!未だペースは落ちない逃げウマ娘4人による逃走劇!全員が絶対にハナを譲りません!》

《誰かにペースを握られるくらいならと走っていますね。ですがそろそろ一息つきたいところです》

《先行勢との差は2バ身。先行勢もかなり飛ばしているぞ!5番手は内にホッコータルマエ、そのすぐ外をジェンティルドンナが走ります。バードシックスパックもこの位置、アンロックザキーがすぐに続きます。第3コーナー向けて走るウマ娘達、先頭は最内スマートファルコンと外のゲームパーソン。すぐに続くダディーズブーツとパラディンソード!先頭から最後尾まで10バ身か以内に収まっている!》

 

 楽しい……楽しいですわねぇ!

 

(どれほどの策を弄しても、私のやることはただ1つ。そして、この1つこそがタルマエさんに対する最適解ですわ!)

 

 あらゆる策を真っ向から打ち破り、己の走りをただただ貫く。何事にも惑わされず、不動の心で相手を対峙する。それで負けてしまったのならば、己の研鑽が足りなかった。それだけのこと。タルマエさんからしても、私は相手にしにくいことこの上ないでしょう。

 さぁ、どんな策も使ってごらんなさい?私は、全てを蹂躙するだけですわ。

 そしてその先で──私は勝利をプレゼントしましょう。私のトレーナーに、最大の感謝を込めて。

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱり、ジェンティルさんの走りが一番相手にしにくい。この舞台で、改めて実感させられます。

 

(バクシンオーさんと同じだ。どんな策を使っても真っ向から打ち破ってくる、自分に自信がなければ成立しない、ゴリ押しの解決法)

 

 しかもそれでなんとかしてくるんだから質が悪い。どんな策を使っても自分の走りを貫いてくる相手は、私達作戦を立てる側からすれば一番相手にしたくないタイプだ。

 現在の状況は、1バ身から2バ身程先にファル子さん達が逃げている。私は先行集団の先頭、最内を私が陣取って、すぐ外にジェンティルさんがつけている。位置は私に有利に思えるかもしれないが、一概にそうとは言えない。

 

(ファル子さん達が落ちてきた時、最も被害を受けやすい位置にいる。ただ、これに関してはジェンティルさんも同じだ)

 

 ジェンティルさんと同条件で競り合う。それがどれだけ分の悪いことかは分かっている。けれども、これこそがジェンティルさんに対する最適解。策を張り巡らせるのもタダじゃありません。それ相応のスタミナを消費します。相手に効果があるならいいですけど、現状一番脅威である相手に通用しないのならばやる意味はない。周りを支配して閉じ込める?それでどうにかなるなら苦労はしません。包囲網を敷かれても勝ってきたのがジェンティルさん、形成したところで突破してきますから。

 だからこそ、この位置取りこそが最適解。ジェンティルさんに勝つのならば、真っ向勝負で勝つしかありません。

 

(……思えば、こうして戦うことになるなんて思いもしませんでしたね)

 

 ジェンティルさんは芝のウマ娘で、私はダートのウマ娘。そもそもの適性が違いましたし、走ることもないだろうと思っていました。でも、トレーナーさんのおかげかせいか。私達はこうして競い合っている……最大の敵(ライバル)として。

 いつも自信に溢れていて、自分の力と勝利を疑っていなくて。そんな彼女が羨ましいと思う時期もあった。

 

(今は違う)

 

 私も、自信をつけた。ジェンティルさんにだって負けないって自負がある。なにより……勝利を届けたい人がいる!

 

《第3コーナーを回ります。ゲームパーソン達はさすがに苦しくなってきたか?だが脚色は鈍らせない、弱みは見せない!必死に逃げるゲームパーソン!スマートファルコンも負けじと競り合う、ダディーズブーツとパラディンソードも譲らない!しかし先行勢はじわじわと差を詰めてきている!》

《やっぱり苦しい展開だろうね。ここから先は意地の勝負、力のぶつかり合いだ!》

《誰が意地を張れるか、誰の意地が一番か!頂点を決める戦いで、誰が一番の意地を見せるのか!2バ身のリードが徐々に縮まってきている、逃げウマ娘は必死に粘る!第4コーナーはもうすぐ、超えた先は最後の直線!》

 

 絶対に負けない、勝つのは私だ!

 

 

 

 

 

 

 第4コーナーを走るウマ娘達。勝負はいよいよ大詰めを迎えようとしている。

 サンタアニタパークレース場の熱気は最高潮に高まり、誰もが推しの名前を叫んで応援していた。その中で、高村は冷静にレースを見る……ことなどできるはずもなく。

 

(……正直な話、どっちにも勝って欲しい。それがどれだけ傲慢なことで、叶わないことであるかは分かっている。でも、思わずにはいられない)

「頑張れ、ジェンティル、タルマエ……っ!」

 

 手を力いっぱいに握りしめ、どちらか片方を応援するのではなく、どちらも応援していた。優柔不断と思うかもしれない。けれど、彼にとってはジェンティルドンナもホッコータルマエも同じ、大事な担当ウマ娘。どちらの勝利も願わずにはいられない。

 

 

 展開で有利なのは──スマートファルコン。最内を陣取って逃げる彼女は勢いのままに第4コーナーを回る。ゲームパーソンを始めとした他の逃げウマ娘は外に振らされる分多少のロスが発生する。

 ただ、スマートファルコンも無我夢中で走っているためか、勢いをつけすぎたか。途中から外へと膨らんでしまう。

 

「ッ、来たぁッ!」

 

 この隙を見逃すホッコータルマエではなかった。

 

《第4コーナーを回る各ウマ娘、先行勢がいよいよ追いついてきた!最内スマートファルコンがわずかに有利、ロスなく回っているが勢いをつけすぎたか?外に膨らんでっ、ホッコータルマエ!ホッコータルマエだ!ホッコータルマエが最内の進路をこじ開けようと動いてきた!》

《スマートファルコンは虚を突かれたみたいだね!なんとか閉じようと考えてるかもしれないけど》

《ホッコータルマエねじ込んだ!最内の進路を獲得して、スマートファルコン達逃げウマ娘に並ぶ!ジェンティルドンナはスマートファルコンの外へ!こちらも現状走れる最短のルート取り、先行勢が逃げウマ娘達を飲み込んだぞ!ゲームパーソンにスマートファルコンも粘るが脚色は鈍い!まもなく最後の直線、先頭はホッコータルマエ!》

 

 すかさず最内を走り、スマートファルコンに並ぶ。どうにか閉じようとするスマートファルコンだが、一瞬の出来事に反応が遅れて間に合わなかった。

 このルートにジェンティルドンナは思わず舌打ちをする。不利を取らされたと。

 

(最内を決して譲らなかったのもこのため。サンタアニタパークでの最内が、どれほど重要なポジションか分かっているからこそですわね!)

 

 しかし、ジェンティルドンナは揺らがない。己の力に絶対の自信を持つ彼女は、例え不利な状況であっても崩れない。今までと同じこと、やることは何一つ変わらない。勝利を己のトレーナーと分かち合う……それだけのことだ。

 

 

 最後の直線へと入る。戦いが、ウマ娘達の意地のぶつかり合いが始まる。短く、熱い約300mの戦い。人々の熱狂は留まることを知らない、限界すらも超えて高まり続ける。

 

「『頑張れぇぇぇぇぇッッ!』」

「『負けるなぁぁぁ!地元の意地を見せろォォォ!』」

「日本初の勝利を届けてくれぇぇぇ!!」

 

 声を張り上げ、喉を痛めても叫ぶ。推しの名前を叫び、力の限り応援をする。

 ファンだけではない。出走しているウマ娘達も意地をぶつけ合っている。

 

「『負けるかぁぁぁぁぁッ!』」

「『ここ、でぇ!終わるわけには、行かないんだよ!』」

 

 差はほとんどない団子状態。誰もが先にあるゴールめがけて脚を動かす。

 先頭のホッコータルマエ。2番手スマートファルコンとの差は半バ身もない。彼女の頭にあるのは、誰よりも速くゴールすることのみ。

 4番手に浮上したジェンティルドンナ。ホッコータルマエとの差は半バ身から1バ身。ただ強者として、このレースを勝つことだけを考える。

 

「負けない……絶対にッ!」

「勝つのは、私ですわッッ!!」

 

 残り200m。最後には思考すらも捨て去る。全リソースを脚に込め、無心で走る。

 

《最内からホッコータルマエ!外からはジェンティルドンナ!この2人が抜け出すか!?しかしスマートファルコンも二の足だ、さらに粘るスマートファルコン!ゲームパーソンはさすがに落ちていく!上がってきたのはバァァァドシックスパァァァック!》

《熱い勝負だッ!誰が勝つのか全く分からない!》

《ホッコータルマエ!ジェンティルドンナ!この2人が抜け出している!必死に追うスマートファルコン、バードシックスパック!》

 

 競り合うホッコータルマエとジェンティルドンナ。最早なにかが介入する余地などない──純粋な、力と力のぶつかり合い。最も原始的で、目が離せない勝負が繰り広げられる。見る者全てを熱狂させ、語彙を奪うほどに熱い勝負。

 

 

相手を確認する余裕などない。必要なものは全て脚に回せ。速く、速く、誰よりも速く駆け抜けろ。最後の一瞬たりとも油断するな。邪魔なノイズはすべて排除しろ。隣を走る相手に──絶対に負けるな!

 

 

 全員の領域がぶつかり合う。最後の直線300mの死闘。

 

《ホッコータルマエとジェンティルドンナが並んでいる!全く並んだまま、全く並んだままこのアメリカで!日本のウマ娘がワンツーで競り合う!バードシックスパック譲らない、スマートファルコンを競り落として並ぼうとしている!しかしこれは、しかしこれは!》

 

 ゴールラインを割り、決着がついた。勝者は天高く拳を突き上げ、敗者は苦し気に下を向く。

 

《ホッコータルマエがわずかに有利か!?ホッコータルマエか、ホッコータルマエか?ホッコータルマエだ!ホッコォォォタルマエェェェッッ!!熱い熱い激闘を制し!ダートの王として君臨する!これこそが日本が誇る【ダートの魔王】!最後の最後は力押しだぁぁぁ!!》




決着ゥゥゥ!


仕事の関係で明日は更新ができないです。申し訳ありません。


※11/16追記 なんとかなりました。普段通り投稿します。
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