──偶然見た。研究の片手間に、ほんのちょっと息抜きするかという思いでテレビをつけたら、それは流れていた。
《U.A.F.もいよいよ最後の競技になりました!最後の競技は──》
U.A.F.の名前は知っていた。SNSやウマチューブでとても話題になっていたから。だが、私はこの身体。歩くことがやっとの脚に目を落とし、その後の情報は遮断していた。今の私には、まぶしい世界だから。
だが、偶然目にしたそれに私は目を奪われた。誰も彼もがきらめいていて、輝いている舞台が、私の心を掴んで離さなかった。
「凄い……っ」
気づけば感嘆の息を漏らし、小休憩のことすら忘れてテレビに熱中する。最初から見なかったことを後悔し、配信のアーカイブがあることを知って即座にチャンネル登録をした。一から見直したいから。
大会はフィナーレを迎え、もう終わりだろう……という頃になって。優勝者はマイクで語っていた。
《U.A.F.は、私一人の力では実現できませんでした!涼花さんが私を見つけてくれて、一緒に夢を見てくれて!》
《ミーティアのみなさんが私達に協力してくれて!U.A.F.を好きになってくれたみなさんが応援してくれてッ!U.A.F.はここまで来れましたッ!!みなさんの熱い思いが、私達にすごく伝わってましたッ!!》
協力してくれた人達への感謝の気持ち。優勝者であるソノンエルフィーは言葉を述べ、そして。
《みなさんがU.A.F.を見て、少しでも気持ちが前向きになれたら嬉しいですッ!!》
前向きになってくれたら嬉しいと、そう語っていた。
前向きに、か。
(あぁ……そうだな。私も、気づけば熱中していた)
もうスポーツをするのも難しい身体。それでもどうにかしたくて、意地汚く足搔いて。夢を捨てきれないでいる私。視線の先に物言わぬロボットを見て、決意を固める。
「ミーティア……その名前は聞いたことがある。現在トゥインクル・シリーズにおいて、世界最強格のチームであると」
また、トレーナーはかなりの人格者だと言われている。ウマ娘の願いを肯定し、どこまでも突き進んでいく狂気の男だとも。
U.A.F.という大会は、彼の協力があったからこそだと語っていた。彼は、外部の人間にも協力する。あぁ、彼ならば。
「私の、酷く個人的な願いさえも、叶えてくれるだろうか?」
物言わぬロボット──ST-2へと手を触れ、呟く。私の願いも彼は肯定してくれるだろうか?肯定してくれるといいな……そう思いながら。
◇
気づけば私は、トレセン学園の秋川理事長にアポを取っていた。理由は一つ、ミーティアの協力を得るために。
「──というわけなのです。ミーティアの協力を願えたらと」
「うぅむ……」
難しい表情。それも仕方ない。これは私の個人的なお願いなのだから。学園の長として、受け入れがたいことなのだろう。彼もまた学園に所属しているトレーナーなのだから。
「やはり、難しいでしょうか?」
「いや、そういうわけではないッ!むしろ学園としては喜んで協力したいことだッ!ただなぁ……」
「ミーティアのトレーナー、高村聖トレーナーは、その、なんというか……ワーカーホリックの気がありまして」
おっと、どうやら別の問題があるようだな?
「我々が言わないと休まないような方なのです。有休も全然取ってくれませんし」
「思い出したかのようにとったかと思えば、自己研鑽のために消費しているっ!本人は大丈夫と言っているが、心配なのがこちらの言い分だッ!」
……まぁ働きすぎないかが心配なのだろう。どれだけ働いているのかは知らないが。
「ただ、うぅん……本人に話を通さないというのもどうかと思うし……」
「一応、この後高村トレーナーが理事長室に来るご予定ですが……まぁ彼のことですし」
「間違いなく受けるだろうな!君の熱意を聞いたらッ!」
「ほ、本当ですか!?」
それは嬉しい情報だ!もし彼が協力してくれるなら、心強いことこの上ない!
「ただなぁ……彼の場合はなぁ……」
そ、そこまで心配なのか?どんな人物なんだ、高村聖トレーナーとは。最終的に私は件の人物が来るまで待つことになる。
しばらく待っていると──やってきた。
「失礼します、秋川理事長」
目的の人物、高村聖トレーナーが。そ、それにしても。
(本当に目に光がないな。一見すると死人のようにも思える)
SNSなどで知ってはいたが、本当に目に光がなかった。だからと言ってどうというわけではないが、さすがに初見では驚くな。
彼がこちらを見る。物珍しそうに。
「……お客様がおられましたか。私は、後でまた伺った方がよろしいでしょうか?」
見慣れない客人に、自分はいない方がいいと思ったのだろう。ただ、問題はない。私の目的は、君なのだから。
「いや、問題はないッ!彼女は君に用事があるそうだからな。このままで大丈夫だぞッ!」
「……私に、ですか?」
「あぁ、そうだ。君の名声は聞いているよ、高村聖トレーナー」
ひとまず彼に説明をする。私がどういう立場で、どういった用件で君へと接触を図ったのか。目的を、意図を包み隠さずに話す。
「君の手腕と名声は聞いている。ウマ娘のためならば協力は惜しまないと」
「……はい」
「身勝手な願いなのは分かっている、自分勝手なのは重々承知だ。だが、それでも!君の協力を得ることができたら、私の研究はさらに進むことができる!」
一生懸命に説明した。私の願いを、私の思いを、嘘偽ることなく伝えた。これでダメならもうどうしようもないというくらいに。
ただでさえミーティアは世界最強と呼ばれるチームだ。そんなチームのトレーナーの協力が得られるというのは、どれだけ心強いことか!
「お願いだ、高村聖トレーナー!私の研究に協力してほしい!私にはもう、これしかないんだ!この研究に、全てを懸けているんだ!だから……!」
「いいですよ」
「……はっ?」
必死にお願いをする私に告げられる、あっさりとした承諾の言葉。思わず呆然とした表情で、彼を見てしまう。
「熱意はすごく伝わりました。それに、僕自身も興味があります。あなたの研究に」
「そ、れは……という、ことは……!」
「ミーティアは協力します。担当の子達は……まぁ、何とかお願いしてみます」
あっけらかんとしていて、本当に現実か疑いたくなる言葉。頬をつねるとしっかりと痛みがあって。これが現実だと教えてくれて……!
「ありがとう……ありがとうっ、高村トレーナー!」
「いえ、私でよければお手伝いします。その研究に」
「……まぁ、こうなりますよね」
「仕方あるまい、たづな。これが彼の美点でとても良いところだからなッ!はーっはっはっは!」
こうして、私は協力者を得ることができた。とても頼もしい協力者を。
「それでは後日、改めてお披露目といきましょう──シュガーライツさん」
「あぁ、よろしく頼むぞ!」
私の、シュガーライツの研究は進む。ミーティアという協力者を得て、さらに他の協力者も得て。私の研究は進むんだ!
◇
今日は理事長室で新しい出会いがあった。シュガーライツ博士、か。
(彼女の言う研究は、きっと僕達を強くしてくれる。そんな気がする)
なにより、彼女からは熱意を感じた。絶対に叶えたいという思いを聞いた。だから手伝いたい。彼女の研究を。
さて、それじゃあ今日もVRウマレーターを使うとしよう。
「ヴェニュも待ってるだろうしね」
装着して、VR世界にダイブする。いつもの感覚が襲ってきて──
「やぁ、待っていたよ子羊くん!」
「え?」
見えてきたのはいつもの景色……ではなく。気づけば3人のウマ娘がこちらを見ていた。ヴェニュもいないし、どうなっているのだろうか?
「ごめんなさいね。ちょっとあなたに用事があって。私達の方であなたを呼んだの」
「要件は手短に済ませる。そこまで時間は取らせないつもりだ」
普通のウマ娘とは違うオーラを発している3人。もしかしてだけど……この方々が。
「俺はダーレーアラビアン!U.A.F.を見ていたら俺達も熱くなってね……君に手伝ってもらいたいことがあるんだ!」
「私はゴドルフィンバルブ。グランドマスターズ……私達が開こうとしている祭典に、どうか協力してくれないかしら?」
「バイアリータークだ。ひいては我々が強くなるために……貴様の力を貸してほしい。高村聖」
「……おぉう」
やっぱりというか、話には聞いていた三女神様のAIだった。そんな方々からお願いされるなんて、ね。
「いいですよ」
うん、すごいことになりそうだ。
to be continued……から次回作に飛べます。