アイツは、いつだって憎らしかった。
「聞いたか?隣のクラスの高村が期末テスト1位だってよ」
「前回もでしょ。や~、凄いねぇ」
「前も、その前も。1年の時からずっと1位だもんなぁ」
テストで勝てたことなんて一度もない。負けないくらい必死こいて勉強しているのに、アイツは……高村聖はいつだって自分の前を行ってる。いつも2位だったから、1位のアイツは目の上のたんこぶだった。
「倉科はまた2位だってな。ま、次こそは勝とうぜ!」
「そうそう。それに、今回は惜しかったからな!」
負ける度に悔しさで枕を濡らして、次のテストでは絶対に勝ってやると意気込む。そしてまた負ける……結局、高校を卒業するまで勝つことはなかった。涼しい顔でテスト1位を取るアイツに嫉妬心を抱いたりもした。俺だって努力しているのに、なんでアイツに勝てないんだ!ってな。
ただ、憎らしくは思いつつも納得していた。何故ならば、高村聖は努力家だから。
「高村ってトレーナーになるための勉強しているらしいよ?頑張ってるよね~」
「トレーナーって、難易度激ムズじゃん!?ヤバ、今のうちにお近づきになってた方がいいかな?」
「そうした方が得だって!高村なら合格できるだろうし!」
トレーナーになるため、と目標を掲げて勉強を続けている。難関高校で勉強するような内容にも取り組んでいるし、休み時間に昼休み、放課後偶々見かけた時も勉強しているようなヤツだった。まさしく、勉強の虫って感じで。
懸念されるのは虐め。アイツはインドア派だったことに加えて、周りと積極的に交流するようなタイプでもなかったから。後は……目が死んでいた。例えるなら、疲れ切ったサラリーマンみたいに。言い方は悪いけど、虐められてもおかしくないような条件は揃っていたわけだ。
「聖~、お前また勉強してるのかよ?」
「……まぁね。トレーナーになるために、頑張らないと」
とはいっても、虐められるとかそんなことは全然なかった。高村には少なからず友達がいたし、人当たりも悪いわけじゃない。聞かれたことには答えるし、なんなら勉強も教えるのでいじめの対象にはならなかったわけだ。まぁ、仮にいじめをしようとしていたら個人的に許せんので詰め寄るが。
「んだけども、たまには肩の力抜こうぜ?ほら、新作のスイーツ出るんだよ!これ、俺とお前で並んで2つの味どっちも楽しもーぜ!」
「……男2人でスイーツって大分気まずくない?」
「なにが?好きなもんを好きな時に食う!関係ねーだろ!んじゃ、今度行こうぜ!」
「まぁ、別にいいけどさ」
高村聖は努力家だ。目標に向かって愚直に進み続ける、一日たりとも休むことがなかった努力家。その姿が眩しく──憎らしかった。しかもアイツ、トレーナー試験に一発で合格したし。こっちは専門の学校に通って、1度落ちてなんとか合格したレベルなのに。どこまでも憎たらしいヤツだ。いや、これに関しては八つ当たりではあるのだけど。
そしてつい先日、俺は偶然にもアイツが担当しているウマ娘──ジェンティルドンナと出会った。宣戦布告したまではいいんだが……。
「いくらなんでもお前はなかったよなぁ……生徒であるウマ娘に対してさぁ」
「もう!いつまで前のことを引きずってるのよトレーナーくん!確かに良くなかったけど……」
いかんせん言葉が良くなかった。なんで学園の生徒でもあるウマ娘に対してお前、なんて口走ったんだろうな俺は……。気づいた頃には後の祭り、こうして夏合宿が始まっても引きずっている。
「それに、ジェンティルさんも気にしてないって言ってくれたでしょう?だから大丈夫よ!」
「そうだけどなぁ……今回の一件は反省だ。気持ちが先行し過ぎてしまうの、いい加減何とかしないと」
その後、ヴィルシーナからの必死の説得もあってなんとか立ち直る。あまり腐りすぎるのも良くない。俺の担当ウマ娘であるヴィルシーナのためにも頑張らねば!
持ち直したところで、早速夏合宿だ。本来ジュニア級のウマ娘が参加することは少ないんだが、希望さえすれば参加することは可能。学園の合宿所にて、ヴィルシーナは次のレースに向けてトレーニングを重ねていた。
「ヴィルシーナ!そろそろ休憩だ!あまり無理をしても身体がもたないぞ!」
「ハァ……ハァ……も、もう少しだけ……!」
あくまで本人の身体第一。怪我でもしたら元も子もない。限界を見極めてトレーニングをしなければならない。だが、この夏合宿は大幅に成長する機会だ。少したりとも時間は無駄にできない。
「けど、さすがにやり過ぎだ!身体がもたない!」
「確かに、前までの私ならそうね……でも、私だって成長しているのよ……お願いトレーナーくん、もう少しだけ!」
「……分かった。でも、本当に無理ならすぐに言ってくれ」
「!えぇ、分かっているわ!」
トレーニングを再開するヴィルシーナを見送って、いつでも動き出せるように準備をしておく。後は終わった後すぐリラックスできるようにタオルとぬるめのドリンク、疲労回復に繋がるようなものをありったけ用意だ!
(向こうも凄いトレーニングをしているらしいな……俺達も負けていられない!)
「今回はライスシャワーのトレーナーさんも協力してくれるって言ってくれたし、ヴィルシーナも着実に成長している……俺も頑張るぞ!」
ヴィルシーナの練習を見守り、彼女のためにと俺はできる限りの手を尽くす。合宿での日々はあっという間に過ぎていった。
◇
「ねぇ、ちょっと聞いてもいいかしら?トレーナーくん」
合宿でのある日のこと。ヴィルシーナから唐突に切り出された。もしかしたら、トレーニングメニューの調整だろうか?
「どうしたんだ?ヴィルシーナ」
「その、この前のジェンティルさんとの件なんだけど……トレーナーくんは高村トレーナーと何かあったのかしら?」
違った。彼女曰く、俺と高村の関係が気になるらしい。アイツとの関係、か。
「ライバル、だよ。俺が一方的に言ってるだけなんだけど」
「それはどうして?」
「アイツは多分、欠片も俺のことを意識しちゃいないだろうからな。前からそういうヤツなんだよ」
積極的に交流でもしなきゃアイツの頭には残らないだろう。毎回毎回テストの度に勝負だ!って宣戦布告しにいったけど、最初の内はお前誰?みたいな顔してたし。
「高校の同級生でな。テストでいつも負けっぱなしだったんだ。アイツが1位で俺は万年2位……悔しくて何度も挑んだけど、結局勝つことはなかった」
「トレーナーくん……」
「アイツは天才だ。地頭も良けりゃ努力も怠らない、マジもんの天才。加えて、アイツには天が与えた才能もあるらしいしな」
「ウマ娘の適性やステータスが見える、って目のことかしら?」
「そうだ」
ヴィルシーナの言う通り、アイツはウマ娘の適性やステータスが見えるらしい。ステータスってのはゲームのイメージが近いだろう。筋力とか知力の詳細なデータが分かる感じだと思われる。は、どんなチートだよ本当に。ウマ娘本人が知らない未知の適性も、アイツにかかれば一発で分かる。とんでもないギフトだ。
「確か、複数人でのトレーニングが効率的、って論文を出したのも高村トレーナーだったかしら?」
「いや、正確には過去にあった論文で結果を出したのが高村だ。アイツが証明するまでは埋もれたままだったよ」
ウマ娘同士でのトレーニングが効果的、という論文自体は高村がトレーナーになる前からあった。だが、いかんせん結果を出すことができなかったので他の論文の中に埋もれてしまったのだ。それを引っ張り上げたのが高村なのである……ま、アイツにかかればどれだけ成長したかなんて一目で分かるからな。そりゃ効果的かどうかなんてすぐに判別できるだろう。
高村が結果を出したことで、学園ではこのトレーニング法が広く取り入れられるようになった。おかげでチーム間でのトレーニングが活発になったりしたし、俺も例に漏れず先輩方と交流して一緒にトレーニングをさせてもらうこともある。これも全て、高村が結果を出したからだ。本当に、凄いヤツだよ……嫉妬しちまうぐらいに。
「トレーナーくん、手に力を入れ過ぎよ。怪我をしちゃうわ」
「……あ。わ、悪いヴィルシーナ」
無意識のうちに強く握り過ぎていたらしい。手が赤くなっていた。ダメだな、感情の制御ができんわ本当に。
同い年なのにアイツは無敗のクラシック四冠ウマ娘を育て、日本のトレーナーとして初の凱旋門賞制覇を成し遂げた。加えて英愛のチャンピオンステークスを制し、ドバイワールドカップミーティングのレースも取った。対して俺はまだまだ駆け出しのひよっこ、なんの実績も残せちゃいない。同級生だったヤツが、ライバルと思っていたヤツが。雲の上の存在になったんだ。意識するなって方が無理だろう。
アイツは天才だ。俺なんかが勝てるような相手じゃない。そう思っても仕方ないだろう。でも……それでも!
(負けるのは嫌だ!アイツに、勝ちたい!トレーナーとしてヴィルシーナを育て上げて、アイツが育てたウマ娘に勝ちたい!)
今までずっと負け続けた。だから、勝ちたいと思うのは自然なことのはずだ。ヴィルシーナに代理させてしまっているようで申し訳ないと思うけど、俺はアイツにトレーナーとして勝ちたい!
「ごめん、ヴィルシーナ。君に代理戦争をさせているようで」
ヴィルシーナに頭を下げる。困惑するような声が聞こえるけど、結果的に彼女を利用する形になるのだ。頭を下げないといけないだろう。
彼女の才能は本物だ。俺がサブトレで働かせていただいたチームのウマ娘と比べても、彼女の才能は突出しているといってもいい。ティアラの冠を戴くことだって夢じゃない、それほどの才能。
ただ、その上で障害になるのが──ジェンティルドンナ。高村が担当しているウマ娘で、メイクデビューでもその強さをいかんなく発揮した。加えて、ヴィルシーナが超えるべき相手と意識している相手でもある。ヴィルシーナも、彼女には勝てたことがないらしい。
(ジェンティルドンナの強さは、メイクデビューだけで分かるほどに強大……けれど!)
ヴィルシーナならば負けない、俺はそう確信している!根拠のない自信と罵ってくれても構わない。けれどヴィルシーナにはそれだけの才能があるのだから!だから後は、俺がその才能を磨くだけ。ジェンティルドンナに負けないくらいに鍛えるだけの話だ!
しばらくの間頭を下げ続けていると。
「──顔を上げて頂戴、トレーナーくん」
優しい声。顔を上げると、ヴィルシーナが微笑みながら俺を見ていた。
「なんだか私達って、似た者同士ね。とても強大な相手に挑み続けて……負け続けてる。本当にそっくり」
「……嫌な似た者同士だな」
思わず、お互い顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「トレーナーくんの悔しい気持ち、私には分かるわ。だって、私も同じなんだもの」
「ヴィルシーナ……」
「トレーナーくんは私に代理で戦って貰ってるみたいで悪いと思ってるみたいだけど……構わないわ。だって、私も
あぁ、でも。
「だから、レースで勝ちましょう!私はジェンティルさんに、貴方は高村トレーナーに!私達の方が上だって証明するの!私とトレーナーくんが力を合わせればきっと勝てる。女王として君臨するのは──私よ!」
「っ、そうだ!ティアラの冠は君にこそ相応しい!ジェンティルドンナ達を倒して、俺達が頂点に立とう!」
握手を交わして誓い合う。打倒ジェンティルドンナと高村、この目標を掲げて……夏合宿の間、先輩トレーナー達と一緒にトレーニングを頑張った。結果的に目覚ましい成長を遂げることができただろう。
(待っていろ高村……今度こそお前に勝ってやる!俺と、ヴィルシーナの2人で!)
ジェンティルドンナとはティアラ戦線でぶつかる。絶対に負けないからな!
いやぁ、主人公してますねぇ()。
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