透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
神楽「新八、銀ちゃんどうしたアルか?」
新八「ああ、なんかね。最近公開された劇場版名探偵コナン隻眼の残像が興行収入88億超えたとかいうのを聞いて銀さんが羨ましがってるんだよ」
銀時「なんだよ興行収入88億って銀さんたちの最後を描いた映画劇場版銀魂THEFINALだって興行収入19億しかいかなかったんだよ!それをどうして毎年あるガキの映画が余裕で超えてくるわけ?」
神楽「おまけに言うと実写版銀魂でも最高は37億。三次元の小栗◯や橋本環◯、菅田将◯の力を借りてもその程度だったアル。所詮ゴリラ原作者と制作スタッフの力はその程度だったってことアルよ」
新八「やめたげて!ゴリラ原作者も制作スタッフも頑張って映画制作してくれてたんだからやめたげて!!」
「と言うか今年の夏と秋に僕らの映画が4DXで再び上映されるんですよ。ここで下げてどうするんですか?」
銀時「別に下げてるわけじゃねぇよ。俺が言いたいのはここはこのビックウェーブに乗るしかねぇってこと」
新八「え?それって………」
銀時「つうーことで本編どうぞ」
コンコン。
乾いた音が夜の静けさを裂くように、部屋のドアを小さく叩いた。
銀時は気怠げに起き上がり、スリッパを引きずる音を立てながら扉へと向かう。寝癖のついた銀髪をかき上げ、うっすら眠気の残る目を擦ると、何の気なしにノブを回した。
「……ったく、こんな夜更けに起きてていいのは吉原の姐さんくらいだっつーの……」
しかし、銀時の台詞は途中で凍りつく。
扉の先にいたのは、予想していた人物――例えばコソコソと甘味を差し入れにくるヒフミでもなければ、夜食ついでに説教しに来るアズサでもない。
そこに立っていたのは、水着姿の――ハナコだった。
涼やかな視線で銀時を見上げ、どこか余裕のある笑みを浮かべる彼女は、そのまま視線を上から下へと滑らせる。そして――
「こんばんは、先生」
まるで時間が一瞬、止まったようだった。
銀時は一歩も動けず、目の前の光景を凝視するしかなかった。
『あれ……?ちょっと待って、これマズいやつじゃね?』
銀時の脳内で警報が鳴り響く。
だが体は完全に反射で動いていた。ここ最近、ヒフミが来ることが日常になっていたせいで、「ピンポン=ヒフミ」という回路が出来上がってしまっていたのだ。
ハナコはふわりと微笑んだまま、銀時の胸元に手を置く。
その手は力強くもない、けれど確かに意志を持って銀時を部屋の奥へと押し込んだ。
「ふふっ……こんなに簡単に開けちゃうなんて、不用心ですねぇ♡」
銀時は目を泳がせながら、逃げ場を探すが、唯一の出口は閉ざされ、目の前には“水着がパジャマ”と称する生徒。
脳内でPTAと教育委員会が鬼のような形相で迫る映像が再生された。
『やっべぇぇぇ、これもうニュースですわ!"教員、深夜の水着密室事件"とかで特集されちまうやつだろコレ!』
『しかもゴールデンタイムでワイドショー流しっぱなしコースだコレ!』
『銀さん、落ち着け……冷静になれ。これは試されてんだ。善性とか倫理観とかそういうアレ……!』
銀時の肩に汗が滲む。いや、これは冷や汗か。いや違うな、たぶん脂汗だ。
「で、でもなハナコくん。え〜っと……その格好、ちょっと……寒くない? あと常識的におかしいよね?ね?」
「これ?パジャマですよ♡」
「パジャマが、これ……?」
「そうです♡」
銀時は一拍の間を置いて、天井を仰いだ。
『ありえねぇ……いやいやいやよくない。よくないよ銀時くん、そうやって人の個性を潰しちゃ……今は多様性の時代……パジャマで寝るやつがいるなら水着で寝るやつもいるはずだ……いやいる絶対いる……』
ハナコはくすくすと小さく笑いながら、静かに銀時の横へと寄ってきた。
その動きはまるで猫のようにしなやかで、しかも――手強い。
「それより先生、ちょっとだけ……相談があるんです」
「いやいやいや……相談ってな、タイミングと服装と雰囲気ってもんがあるだろ普通。ていうか服装に関しては完全にアウトだからね?保健室でも受け入れられないからねそれ?」
銀時が冗談交じりに言うも、ハナコの笑みは崩れなかった。
彼女はふと真剣な眼差しを浮かべ、銀時の耳元へと顔を近づける。
「……アズサちゃんのことについて、少し」
「はぁ〜……」
銀時はベッドの端に腰掛けながら、天井を見上げて長いため息を吐いた。空気はすっかり夜の色に染まり、カーテンの隙間から覗く月光が部屋の輪郭をぼんやり照らしていた。
その様子を見たハナコが、首を傾げながら問いかける。
「先生?どうしたんですか?」
「いや、別に……なんでもねぇよ」
言葉の割に、銀時の声はどこか遠かった。だが気を取り直して、前を向きなおすと、少し身を乗り出しながら口を開く。
「で?アズサがどうしたんだよ、急にこんな水着で……って、いやそれは今はいいとして――」
――コンコン。
間の悪いノックが、場の空気を容赦なく断ち切った。
直後、ドアの向こうから、どこか緊張したような優しい声が聞こえる。
「し、失礼します、銀さん、いらっしゃいますか?」
聞き間違えようもない、ヒフミの声だった。いつもこの時間帯に来ることが常態化していた彼女は、今夜も当然のように、銀時が起きていると思っていたのだろう。実際、少し前まで銀時も彼女を待っていた。
だから、鍵もかけていなかった。
ドアノブが回り、まるで運命の歯車が狂い始める音のように、部屋の中が露わになる。
「あれ、開いて……?」
ヒフミが顔を覗かせた瞬間、その表情が凍りつく。
「あっ……」
「銀さん、昨日より遅い時間になってしまってごめんなさい。実は……――」
彼女の視線が、銀時を素通りし、奥のベッドへと向かった瞬間。
――視界に入ってしまったのだ。
月明かりに照らされ、涼しげな笑みを浮かべながらベッドに腰掛ける、水着姿のハナコを。
まるで絵画のような静止した一瞬。
動かない三人、息を呑む空間。
「………えっ」
「………あら」
視線が交錯する。ヒフミとハナコ、どちらも相手の存在を“予想外”として受け止めきれずにいた。
そして次の瞬間、ヒフミの顔が真っ赤に染まり、想像力が暴走しはじめる。
「ほ……」
「ほ?」
ハナコが小首を傾げる。その瞬間、ヒフミの脳内で何かが爆発した。
「本当に失礼しましたぁああああ!? ご、ごめんなさい私っ、そ、そんな事をしているとは知らずに……! ぜ、全然知らなかったんです、本当ですっ! え、い、一体いつからお二人は!?」
銀時『やっちまったァァァァァ!!完全にやっちまったよこれ!!』
『これもう言い訳の余地ゼロだろ、俺が水着の生徒をベッドに誘い込んでK点越えジャンプ決めようとしてるようにしか見えねぇんだけど!?』
『いや……まだだヒフミのやつはペロロ以外ならまとも、俺とハナコが二人で誤解を解けばーー』
だが銀時は、まだ諦めていなかった。僅かな望みにかけて、必死に口を開こうとした――その時だった。
「いやぁこれは今から二者面談をしようと――」
「――ヒフミちゃん」
ハナコの声が、鋭く割り込む。目が据わっていた。
「今、確かに“昨日より遅い時間”って云いましたよね? つまり、昨晩もこの時間に……? 銀さんの部屋に……? 二人きりで? 何してたんですかぁ?」
銀時『オメェがそこ突っ込んでどーすんだよォォォ!?』
『それ今、お前も同じことしてんだろうがァァァ!!なんで爆弾の投げ合い始まってんだよこの密室で!!』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!? またあとで……は駄目ですよねっ!? ど、どうすれば良いですか、今晩はやめた方が良いですか!? 知らなくてごめんなさい、間に入ってごめんなさい、空気壊してごめんなさい……っ!」
「待ってくださいヒフミちゃん! 詳細を!昨晩の詳細を! 何をしたのか、どこから始まり、どこで盛り上がり、どこで終わったのか、いえいっそ目の前で再現を――!」
バァン!!
「なんでい?なんか騒ぎでも?」
沖田が肩肘ついて涼しげに現れ、続いて――
「何事だ銀時!」
桂が駆け込んできた。さらに。
ズズズ……
エリザベスが金棒を引きずりながら入室、圧倒的殺気を纏いながら。
「エリザベス様に桂さん!私、銀さんとハナコさんがその……共同作業を――」
「先生とヒフミさんが先日この時間帯に二人で……あんな事やこんな事をーー」
「おやおや、未成年の女二人に手をだすたぁ旦那も隅におけねぇなぁ〜」
「違ぇよバカヤロォォォォ!!銀さんは相談受けてただけだっつーの!!話をだな、あの、その……なんか、こう、あれだ、誤解だっ!!」
トントン
桂が無言で銀時の肩を叩く。無言のまま、金棒を構えるエリザベスを指差す。
その顔には、どこか哀れみすら感じる微笑み。
「銀時……お盛んなのも結構だが、相手は選んだ方がいい」
振り返った先、エリザベスが全身をパンプアップし、地獄の使者の如く金棒を振り上げていた。
「あ……あ……あ……」
銀時、震える指先で天を仰ぐ。
「いや……いやいや……だからね?」
「話を聞けェェェェェェ!!」
ヒフミと銀時から一通りの話を聞き終えたハナコは、テーブルの上に視線を落としたまま、しばし口を閉ざす。そこには、湯気の消えたティーカップと、夜更けの光を受けて冷たく光る書類の束。ページの隙間から覗く“補習授業部”の名が、妙に乾いた重みをもってそこにあった。
「……成程、そのような事が」
そう小さく呟いたハナコの声には、どこか硬さが混じっていた。
「はい。これは本当の事なんです……」
ヒフミが答える声には、どこか躊躇いがあった。それも無理はない。この数日の中で明かされていなかった“退学”という言葉が、重く彼女の心にのしかかっていたのだから。
銀時は、苛立ちとも呆れともつかない声でぼやく。
「まったくよぉ……なんで俺の周りには、話を最後まで聞かねぇやつばっかなんだか」
そのぼやきに、沖田が肩をすくめながら皮肉めいて笑う。
「それはアンタがまず、人の話を聞かねぇからでさぁ」
「そう……」
銀時はソファに深く身を沈めた。
その中で、ハナコは再び口を開いた。眉根を寄せ、瞳の奥に沈んだ思案の色を浮かべながら。
「それにしても……残りの試験で全員不合格ならば退学、ですか。確かに、元々この補習授業部の仕組みそのもの、異様ではありましたが……。これは、シャーレの“超法規的権限”というやつですね?」
その言葉には、淡々とした語調の裏に確かな疑念と冷笑が滲んでいた。
――部活動の形をした、制度の穴を突くような拘束。
シャーレによる招致、表向きの名目は“更生のための教育的指導”だが、実態はまるで違う。トリニティの“平和と協調”という建前を盾に、個人の意思を絡め取るような制度の網。生徒たちが力を合わせなければ生き残れないという強制的な構造は、まさに皮肉そのものだった。
その苦い現実を見抜くハナコに、沖田がニヤついた目で口を挟む。
「そういうお前も、なんか怪しいとこがあるだろ?」
「……え? なんのことでしょう?」
とぼけるように小首を傾げたハナコに対して、沖田はずいと手元の資料をテーブルに突き出した。紙の束が、重たい音と共に散らばり、そのうちの一枚がふわりと床に舞い落ちる。
「とぼけんな。これはなんだ」
広げられたそれは――答案用紙。しかも、すべてが満点。
ハナコの目が、わずかに見開かれる。
桂もその束に目を通しながら、眉を潜める。
「これは……」
エリザベスが即座に反応し、手元のスケッチボードを勢いよく掲げる。
『なんと!?』
沖田は、声を低くしながら事実を突きつけた。
「これは一年時のテストの答案だ。それだけじゃねぇ。三年の問題までもが混ざってる。しかも、それも満点。……どう説明してくれる?」
沈黙が、再び落ちる。
「……」
何かを飲み込むように、ハナコの喉が静かに上下する。言葉を選ぼうとしている――そんな空気を感じ取り、ヒフミがそっと口を開いた。
「……ハナコさん、私もこのことは知っていました」
ハナコの顔が一瞬、怯えたように揺れる。
ヒフミの声には、責める色はなかった。だが、そこには確かな焦りと願いが滲んでいた。
“これが確かならば、希望がある”――ヒフミの立場からすれば、事実を確かめざるを得ないのだ。
「どうして今は、あんな点数を? わざと、ですよね……?」
静かに、問いが落とされた。
ハナコは俯き、長いまつげが頬に落ちる。わずかに肩が震えた。
「……ごめんなさい。知らなかったんです。……私が落ちたら、皆さんまで退学になるなんて……」
か細く、それでいて芯のある声。感情を殺したような静けさの中に、確かな後悔の色が滲んでいた。
「――いいえ。知らなかったからと云って、許されるものではありませんね……私は、自分の“エゴ”で皆さんを巻き込むところでした。先生にも、ヒフミちゃんにも……アズサちゃんとコハルちゃんにも、申し訳ないことをしました」
言葉と同時に、ハナコはゆっくりと腰を折り、深く、深く頭を下げた。
そこに、普段の柔らかな笑顔はない。謝罪と、決意の表情。
「ごめんなさい、先生、ヒフミちゃん」
「い、いえ……その……」
ヒフミは慌てて手を振るが、その動きには迷いがあった。ハナコの真摯な態度は、ヒフミを困惑させるに十分だった。
「……ヒフミちゃんの云った通り、私の点数はわざとです」
「や、やっぱり……! でも、どうして……?」
「それは……ごめんなさい。云えません。……とても個人的な理由なんです。でも、それで皆さんが被害を受けるのは、私の望むところではありません」
その声には、自己責任を負う決意がこもっていた。
「ハナコさん……」
ヒフミの声もまた、震えていた。
その時、沖田が一歩、前へ出る。
「そうは問屋が下ろさねぇぜ。……じゃねぇと、疑わしきはーー」
だがその言葉を、銀時が片手をすっと上げて制した。
「旦那……?」
沖田が怪訝そうに眉をひそめる。
だが、銀時はただ静かに、真っ直ぐハナコを見つめたまま、いつものだるそうな口調で言った。
「……話したくねぇんだろ? だったら、胸ん中にしまっときゃいい。誰だって話せねぇ秘密の一つや二つ、あるもんだからよ」
その言葉には、押し付けがましさはない。ただ、そっと肯定するような温かさがあった。
ハナコは、一瞬だけ目を見開き――そして、静かに頷いた。
「ありがとうございます……先生」
桂は黙ってそれを見つめていた。腕を組み、目を伏せる。
そして、隣に立つエリザベスがそっとスケッチボードを掲げる。
『桂さん?』
その声に、桂は――何故か答えず、ただひとつ小さくため息を吐いた。
「ところで、この事実を知っているのはヒフミちゃんと先生だけですか?」
淡々とした声。けれど、その裏にひそむ何か鋭いものを、ヒフミは直感的に感じ取った。
「えっと、そうですね、今のところは……私たちだけで」
「そうでしたか」
ハナコは静かに目を伏せた。視線の先には、手元に置かれた冷めた紅茶のカップ。琥珀色の液体が揺れもせず、ぴたりと静止している。その様子は、まるでハナコの思考の深さを象徴しているようだった。
「となると、アズサちゃんの不安は試験に起因するものではなさそうですね……何か、私がまだ知らない事がある。……いえ、それ以上に――」
彼女は言葉を切り、目を細めた。
「今はこの“補習授業部”の存在そのものが気になりますね」
ぽつりと落ちたその言葉は、部屋の空気をわずかに震わせた。
まるで静かな湖面に一石を投じたように、波紋のように思考が広がっていく。
ハナコはゆっくりと椅子から背を離し、腕を組む。指先が、もう片方の腕を規則正しく叩き始めた。そのリズムは無意識の集中の証。彼女の目が、見えない糸をたぐるように宙を泳ぐ。
――この補習授業部の設立。
――シャーレの先生を引き込む異常な運用。
――退学という強制力を持った制度。
点と点が、線を描き始める。
「ミカさん……ではないでしょう。こうした策略は彼女の性格と合わない。恐らくは――ナギサさん、ですか」
名を挙げられた瞬間、ヒフミの背筋がぴんと伸びた。だがハナコはそれに気づくこともなく、己の世界に没頭している。
「しかし、エデン条約を間近に控えたこのタイミングで? そんな余裕はない筈……内部も外部も、目まぐるしく動いている……」
その言葉の後、ふいに彼女の瞳が遠くを見つめるように細められた。
トリニティの表面の穏やかさ、その裏に潜む裂け目を、彼女はよく知っていた。
三派閥それぞれの利害。
賛成と称しつつも裏では妨害を画策する者たち。
そして、それぞれの「正義」が交錯する混沌とした風景。
「表の顔で拍手を送っておきながら、裏では椅子を引き抜く……それが政治というものですものね……」
皮肉めいた微笑が、彼女の唇に一瞬だけ浮かんだ。だがそれもすぐに消える。代わって浮かんだのは、確信に満ちた冷たい光。
「寧ろ、“エデン条約を目前に控えているからこそ”……そう、今この時期に内側を引き締めておきたい。異分子を摘み取るには、最も自然なタイミングです」
その声は、もはや独白に近かった。
そして――ふと、ハナコの表情がわずかに強張る。
「……いえ、それだけでは説明がつきませんね。シャーレを巻き込む……退学という極端な処置を取る……“見せしめ”としては過剰過ぎる。だったらこれは、“見せしめ”ではない」
ハナコの指先が止まる。
「――これは、始めから“排除”が目的だった。穏便に済ませるつもりなど、なかった」
その瞬間、空気が変わった。ヒフミは思わず息を呑む。目の前のハナコが、一瞬別人のように見えた。
「……すなわち、“この補習授業部に所属している生徒”それ自体が、ナギサさんにとって――“排除すべき存在”」
そして彼女は、静かに口元に手を当て、呟いた。
「成程。この補習授業部は……大方、エデン条約を邪魔しようとしている疑惑のある“容疑者”達の集い、というところでしょうか」
沈黙。重く、張りつめた沈黙が訪れた。
そして――その緊張を破るように、どこからともなく聞こえてきた、あまりに場違いな声。
「……え? 何、いつからこの小説、探偵ものなんて始めたの?」
銀時だった。
ハナコが咳払い一つで誤魔化し、ヒフミはあたふたと視線を泳がせる。しかし、銀魂メンバーは遠慮なく畳み掛けてくる。
「旦那、こいつはこの後お決まりの――あのセリフが出ますぜ」
にやりと笑う沖田。肩で風を切るように、口角が意地悪く吊り上がる。
「へっ?」
ヒフミが目をぱちくりさせた次の瞬間。
「普段はおバカで――」
「実は天才」
桂とエリザベスが、ユニゾンで被せてくる。エリザベスはいつの間にか「推理中」の札を掲げ、蝶ネクタイを着けていた。
「迷宮無しの名探偵ーー」
銀時が指を鳴らし、机の上に登ってポーズを決める。その姿は明らかにどこかのメガネをかけた少年を彷彿とさせ――
「真実はいつもひとーー」
「ストォォォップ!!」
ヒフミの絶叫が、空間を引き裂いた。
真顔で続けようとするハナコの肩を鷲掴みにして止めたヒフミは、赤面と焦燥を一度に纏っていた。目元には涙すら浮かんでいる。
「ストップですよ皆さん! 何その空気自然に馴染んでるんですか!?」
「なんだよ、阿慈谷刑事……俺たちの名探偵ハナコくんの推理に何か間違いでも?」
銀時が涼しい顔で言ってのけると、ハナコが「ふふ」と上品に微笑んだまま首を傾げる。
「それに、皆さんの動きが妙にスムーズでしたね……まさか、段取り済みだったのでしょうか?」
「そういう問題じゃなくてですね!」
ヒフミが机に手を叩き、眼鏡を持ち上げて抗議する。
「今、劇場版公開中のあの探偵アニメのパロディって、東映に怒られるつもりですか!? やめてくださいってばもう!」
「えぇ、わかったよ」
銀時が両手を挙げて降参のジェスチャーを見せるが、目は笑っている。
「じゃあ劇場版やってねぇやつならいいんだな?」
「いやそういう問題でも……っ!」
しかし、銀時は聞いちゃいなかった。
「銀田一、この補習授業部の謎についてわかったんですかい?」
沖田がすでに今度はスーツのネクタイを緩め、明らかにどこかの探偵番組”の刑事役に寄せている。
銀時もいつのまにか髪型をどこぞの赤点常習犯の高校生に真似て、眼光鋭く告げた。
「この謎、必ず俺とハナコが解いてみせる」
ハナコも静かに目を伏せた後、すっと手を掲げる。
「じっちゃんの名にかけ――」
「ひとんちのおじいちゃんの名前を勝手にかけないでくださァァァい!!」
ヒフミが音を立ててずっこけた。椅子ごと、がっしゃーんと転び、髪が乱れて眼鏡もずれていた。情けないほどに真剣なツッコミに、ハナコが呟く。
「……仕方ないですよ。だって彼のおじいちゃんはあの名探偵ーー……」
「そこは引き下がってくださいハナコさんッ!!」
銀時たちはもう机の下に“密室トリックの道具”と書かれた段ボールを広げていた。
ヒフミは両手で顔を覆いながら、小さく呻く。
「はぁ……真面目なシーンだったのに……」
その後ろで、銀時たちがちゃっかりタイトルを準備している。
【劇場版名探偵ハナコ】
〜天界の
「やめろって言ってるでしょォォォ!!!」
校舎の壁が震えるようなヒフミの絶叫が、今日もトリニティの空にこだました。
ハナコはふと窓の外に目をやり、小さく笑んだ。きっと今頃――あの策士の猫は、誰にも気取られずに紅茶の香りを愉しんでいるのだろう。白磁のカップを傾けながら、誰にも悟られずに、次の一手を練っている。そう思うと、肩が自然と落ちる。
「まぁ、話を戻しましょう。ナギサさんらしいといえばらしいですけど……ほんと、相変わらず狡猾な猫ちゃんですねぇ」
その口ぶりは軽やかだったが、どこか憐れむような、あるいは寂しげな色が、声の底に微かに残っていた。
「ね、猫……?」
ヒフミが首を傾げる。
「この補習授業部も……どうせならまとめて処理してしまった方が効率的、という考えなのでしょうね。まるで、溜まった洗濯物を一気に片づけるみたいな、そんな雑なロジック」
その自嘲混じりの喩えに、銀時が肩を震わせて笑った。
『アレ? ゴミとか言ってなかったっけ? アバズレどもとか、生ゴミ以下の何かだった気がするんだけど……?』
ナギサが口にした表現はもっと辛辣で、冷たいものだったが、今はそれを繰り返す意味もない。ただ――それが事実というだけだ。
「先生も……してやられたってことですか?」
問いかけに、銀時は少し顎を引き、気まずそうに眉を歪めた。
「……いや、ちゃんと断ったよ。俺は、生徒を疑う先生なんて信用できねぇだけだ」
その言葉に、ハナコは目を細めた。
「なるほど。先生の善意を利用して役割だけ担わせる。実際には、シャーレの超法規的な立場を利用して私達を囲い込む……そんな感じでしょうか。先生もお忙しいでしょうに、まったく……」
けれど、そこから続く言葉は責めではなく、どこか温かさを含んでいた。
「……それでも、先生は私達の為に動いてくださっていたんですね」
模擬試験に、資料整理、授業の準備。確かに、その多くはヒフミの尽力によるものだったが、銀時もそれを拒まずに受け入れ、伴走していたのは事実だ。ハナコは、そっと微笑みを湛えながら、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます。先生は……やはり、いい人ですね。ふふっ♡」
「やめろよ気持ち悪い。俺はな、褒められて喜ぶタイプじゃねぇの。現ナマもらってニヤけるタイプなの」
「そういうこと、本当でも言わないでください銀さん……」
ヒフミの呆れたようなツッコミに、皆の口元が緩む。
そんな中で、ハナコはふと、壁際の棚に置かれた布の掛かった人形に目を止める。それは、あの合宿の夜――銀時たちが、ふざけた中にも心を込めて用意してくれた「補習授業部人形」だった。布越しでも分かるその不格好な愛情に、彼女は心の中でそっと礼を告げる。
そして再び視線をヒフミに戻し、穏やかに問いかける。
「それにしても、ヒフミちゃん。あなたがここにいる理由だけは……どうにも見えてこないんですよね。ナギサさんとも親しかった筈ですし」
その言葉に、ヒフミはわずかに肩を震わせ、表情を曇らせた。
「あう……わ、私も、やっぱり容疑者なんでしょうか……?」
その声は、どこか掠れていた。心の奥底ではずっと感じていた。ナギサが、自分を“容疑者”と見ていた可能性。それが現実となって突きつけられた今、ただ寂しさだけが胸を満たしていた。
自分は――彼女を、友達だと、思っていたのに。
「ど、どうして私なんでしょう……ちょっと、分からなくて……」
「おいおい、本当に覚えがねぇの?」
銀時が言葉を挟むと、すぐにエリザベスがカードを掲げた。
『ファウストさん』
「――ああっ!!」
ヒフミの顔が青ざめる。何かを思い出したように、目が見開かれた。
「え? どうかしたんですか?」
「何です? 事件でも起こしてたりして……」
「いやいやいやいや、違いますからっ!! いや違わないですけどアレには訳が!?」
両手を振りながら、ヒフミは必死で否定する。その様子を見て、ハナコはふっと目を細めた。
「……なるほど。訳あり、ということですね。なら、深くは聞きませんよ」
「ハナコさん……ありがとうございます」
「ふふ。先ほど先生も仰っていましたしね。人には、誰しも他人に知られたくない事の一つや二つ、あるものですから」
その台詞に、一瞬妙な沈黙が流れる。何故か、ヒフミがじわじわと赤面し、口を開きかけたまま俯いた。
(いえ……別に、やましいことはない、筈……だってアレは仕方なく)
けれど、ハナコの慈愛に満ちた笑みが、「私は分かっていますよ」と言外に告げているようで、それが逆に辛い。ヒフミはぐっと何かを堪えるように、目をそらした。
「それじゃあそろそろ飽きてきたんで俺ぁ帰りますね〜」
「あ、おい!ったくなんなんだよアイツは……」
「……まぁ、沖田さんのことは置いといて、アズサちゃんとは一度ちゃんと話してみます。他にも気になる点はありますし、確認を進めてみますね」
「はい。私達にも、何か分かったら共有させていただきます」
ハナコが小さく頷き、部屋の扉へと向かう。その背中を、桂が不意に呼び止めた。
「ハナコ殿」
「……なんですか、桂さん?」
扉の前で足を止め、振り返ったハナコに、桂はまっすぐに言葉を投げかけた。
「今まで、お主が己の力を隠していたのは、他人が実力でしか見てくれなかったからだろう」
「だが――隠すことは、守ることと同時に、本当の自分を殺すことにも繋がる」
「ここにいる者の誰も、実力だけでお主を判断などしない。力ではなく、お主の人柄を見ている」
「……自分を理解してくれる者が、たとえ少数でも側にいれば――心は、ずっと楽になるものだ」
その言葉は、不器用なまでに真っ直ぐで、まるで己の過去を語るようでもあった。ハナコは、静かに瞳を伏せた後、優しく微笑む。
「……桂さん。覚えておきますね」
その声には、どこか温かくも凛とした芯があった。静かに、そして確かに――心の奥に届いた何かを、ハナコはそっと胸に仕舞い込んだ。
次回
ハナコ「みなさんみんなでお出かけしませんか?」
コハル「え?でも外には出ちゃ行けないんじゃ……」
ハナコ「ヒフミさんいいですよね?」
ヒフミ「は、はい行きましょう」
アズサ「そういえば銀さんは?」
桂「銀時ならーー」
銀時「マグロ狩りじゃァァァァァ!!」
少女たちはマグロを通して生命の力を感じる
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
-
銀時
-
新八
-
神楽
-
沖田
-
土方
-
山崎
-
高杉
-
桂
-
定春
-
エリザベス
-
ホシノ
-
シロコ
-
ヒナ
-
アコ
-
ミカ
-
ナギサ
-
セイア
-
ユウカ
-
ノア
-
近藤