透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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もう弟がプライムビデオでコナンばっか観てるからコナンネタしか思い浮かばない……これからハナコさんがキャラ崩壊するかもしれませんがよろしくお願いします。


第九十訓 結婚式はちゃんと段階踏んでから!

沖田の声が、式場――否、補習授業部の学舎を改装した簡素な空間に響き渡った。

 

「皆様お待たせしやした、新郎新婦入場で〜す!」

「拍手またはマヨネーズでお迎えくださぇ」

 

 その瞬間、薄暗かった室内に灯りが灯され、仄かな光が一斉に天井から舞い降りる。

 場の空気がざわめきを含みながら、静かに、そしてなぜか脂っこく期待に満ちる中、正面の扉が音を立てて開かれた。

 

 現れたのは、白無垢の代わりにアイボリー色のドレスをまとい、優雅に微笑む栗子。

 その傍らには、まるで“屈辱”を絵に描いたかのような顔で――頭に巨大なマヨネーズの被り物を乗せた土方十四郎の姿があった。

 

 ドレスアップとドレスダウンが同時に起きている、破綻と純白の同居。

 それはまさに、マヨネーズがブーケ代わりに投げられる異世界結婚式だった。

 

「栗子殿……立派になられたな……」

 静かに呟く桂の声には、感慨と遠い過去の回想が滲んでいた。

 アズサは表情を変えずに一礼し、機械的な口調で言葉を贈る。

 

「お幸せに……こういう時はこういうのだろう?」

 

「そうよ!祝いの言葉を贈ればいいの」

 コハルがぱんっと手を打ち、拍手のリズムを作ろうとするが、周囲からはマヨネーズの“ピュッ”という音ばかりが飛び交う。

 

「……」

 

 その異様な祝福の光景に、ヒフミは誰にも聞こえないような声で隣の影に話しかける。

 

「あのーエリザベス様?」

 

「人間どう転んだらああなるんですか?」

 

 隣で座っていた白い謎の着ぐるみ――エリザベスが、ペンを走らせて無言でスケッチボードを掲げる。

 

『見合いで脱〇してワントラップいれるとああなる』

 

 ヒフミの顔が凍る。

 

 

 とても結婚を祝う者の目とは思えない瞳で新郎の方を見ながら、ヒフミは座席に沈み込むように言った。

 

「おい、ヒフミちゃん」

 笑顔で肩を叩いてきたのは近藤勲だった。どこか感極まった様子で、目元が潤んでいる。

 

「楽しんでるか?トシの結婚式を」

 

「いや、楽しむも何も涙出そうなんですけど……」

 

 ヒフミは目を覆う。

 感動の涙ではない。どちらかといえば末期のコントに遭遇した観客の涙だった。

 

「人の結婚式で涙が出たの初めてなんですけど」

 

 二人はようやく席に着く。椅子のカバーも、なぜかマヨネーズ柄だ。

 

 近藤がどこか誇らしげに語る。

 

「この披露宴はただの顔合わせみたいなもんでな〜、この後マヨネーズ星で正式な婚礼をあげれば栗子ちゃんも晴れてのマヨラー仲間入り……もうこんなドロドロとした政治のことなんか気にしなくて済むんだ。存分に楽しんでくれ」

 

 ヒフミの目が引きつる。

 

「楽しむって、近藤さん……最初からこの披露宴壊れてるちゃってるんですけど、マヨネーズだらけなんですけど」

 

 彼女は首を巡らせて周囲を見渡す。

 

 テーブルクロスは白地に黄色のライン――卵黄入りマヨネーズ柄。

 花瓶代わりに据えられたのは業務用マヨボトル。

 料理はすべて“マヨ風味”、パンに塗っても肉にかけても味が消える魔法の白い液体。

 

 ――会場全体が“白く酸っぱい何か”に包まれていた。

 

「最初から壊れているものを楽しむなんて誰にも出来ませんよ、マヨネーズだらけですもの……」

 ヒフミが、諦めと呪詛をこめて呟く。

 

「楽しんでるの沖田さんだけですよ……」

 

 その沖田は司会台で、ニヤニヤと悪役の顔をして土方を見つめていた。

 

式場の端、トランシーバーを手にした土方が式の喧騒を前に怒りを抑えきれず声を荒げた。

 

「おい!こちら土方!何やってんだ近藤さん!さっさとこのふざけた結婚式ぶっ壊してくれ!」

 

 目の前にはマヨで彫られた像、マヨに漬けたカナッペ……どこをどう見ても祝福の場ではない。

 

「この中でまともなのはテメーらだけなんだ!ご馳走食わすために呼んだわけじゃねぇんだぞ!」

 

 その瞬間、横からぬっと現れたアズサが、無表情のまま口を挟んだ。

 

「どこ産だ?どうぞ」

 

「はぁ!?何の話だよ!」

 

「このマヨネーズはどこのものだと聞いているどうぞ?」

 

「それは……キュー◯ーってじゃねぇ!!つか今はマヨネーズのことはどうでもいいんだよ!!結婚式をぶっ壊せって言ってんだよ!!というかなんで結婚式なんか開かれたんだ!?どうぞ!」

 

「それはもう第三次補習授業部模擬試験、結果が

 

 

 ハナコちゃん・百点・合格

 

 

 

 アズサちゃん・七十三点・合格

 

 

 

 コハルちゃん・六十一点・合格

 

 

 

 ヒフミちゃん・七十五点・合格

 

 

 栗子ちゃん・七十六点・合格

 

で私も含めたみんなが合格して、アズサちゃんはペロロ様人形を、そして、栗子ちゃんは土方さんとの結婚式を望んだので合格祝いでやってるんですよ」

 

「だからなんで結婚式!?」

 

 

「マヨネーズは飽きた……そろそろ他の調味料を食したいどうぞ」

 

「どーぞじゃねぇ!報告いらねぇから動けっつってんだよ、どーぞ!!」

 

 そこへ今度はコハルが、トランシーバーに割り込む。

 

「ちょっとトイレに行きたいんだけどお手洗いに行っていい?どーぞ」

 

「勝手に行きやがれ!!どーぞ!!!」

 

 さらにヒフミが優雅に重なる。

 

「コハルちゃん、今なら時間もあるので一緒に行きましょうどうぞ」

 

「**トランシーバーでやる意味あんのか!?お前らだけで会話成立してんだろーが!!**どーぞ!!!」

 

 土方の怒声が、会場のBGMを一瞬止めかけたその時――。

 

「それでは皆さん!」

 沖田の高らかな声がマイクを通して響き渡る。

 

「讃美歌斉唱を行うんで、お手持ちにある歌詞を大きな声で歌ってくだせぇ!」

 

 突如、スクリーンに歌詞が映し出され、BGMが爆音のロックビートへと転調。

 

 会場全体が、異様なまでの熱狂に包まれた。

 

「「「「「

天真爛漫、バカまじめ

三大要素をかき混ぜて

偏見、丸ごとぶち壊せ

バナナ!サラダ!ホウ・レン・ソウ、Yeah!!!

 

You see 私らの事見て

You think? 青二才、小娘

偏見、丸ごとぶち壊せ

今に!見てろYO!こんちきSHOW!

 

本気出させたらオレ、キレキレ

充電完了、I'M ELECTRIC! OH!

I'M! 半導体!

 

なんと言われたって

いつでもrockin'

Whoa oh oh~

荒波を起こして

激しくjumping

Whoa oh oh~

壁に立ち向かって

繰り出すpunching

Whoa oh oh~

見くびるなよhey boy!

全力で行こう!

Whoa oh oh~

 

(反・抗・声・明 反・抗・声・明 反・抗・声・明)

バナナ!サラダ!ホウ・レン・ソウ、Yeah!!!

」」」」」

 

 式場がまるでライブハウスと化し、結婚式という概念が遥か彼方へと吹き飛ぶ。

 土方は、マヨの海を前に、静かに絶望を噛みしめた。

 

「ホウ・レン・ソウ、Yeah!!!じゃねぇ!!」

 

沖田がマイクを片手にニヤリと笑い、会場の視線を一身に集めた。

 

「それでは新郎新婦、どうぞ前へ。これより――夫婦初めての共同作業に移らせてもらいますんで」

 

 スポットライトが静かに動き、ゆっくりと壇上の中央を照らす。

 

 どこから持ってきたのか謎なほどでかい台”に乗った花嫁・栗子が現れる。表情はやや硬いが、顔には精一杯の笑顔を浮かべていた。

 

 土方、ズゥゥゥゥン……!

 

 目の前に迫るマヨの惨劇に、彼の顔から血の気が引いていく。

 

栗子「その……よろしくお願いしますでござりまする」

 

 ピシャアアアアア!

 

 緊張と混乱が一瞬にして爆発する音が頭に響いた。

 

土方『何がだァァァァァ!?』

 

『おいこれマヨネーズ注入か!?マヨネーズ注入ってなんだよ!!』

 

『ちょっと待て、普通の結婚式ならケーキ入刀だろうが!!』

 

 助けを求めるように視線を巡らせるが、そこにいたのはノリノリの沖田、謎に頷く桂、そして――ゴリラ。

 

近藤『トシ、これはシスターフッドに伝わる覚悟の象徴だそうだ。存分にお前のマヨネーズをぶちこんでこい!』

 

土方『何言ってんだあのゴリラ!“ぶちこむ”って単語チョイスが最悪だろうが!!』

 

『……つーかやれってのか!?この場で!?』

 

『誰かあのゴリラの下のバナナ持ってこい!理性って意味でな!!』

 

 周囲を見れば――観客席もマヨネーズのかぶり物やコスチュームをまとった“マヨネーズ人間”たちが、目を輝かせて土方を凝視している。

 

土方『なんだよこの視線の圧!どこぞのマニアックなビデオか!?これ小説だったらR18タグ必須だぞ!!』

 

『この際だ、ヒフミ!!お前だけが頼りだ!!助けてくれ!!』

 

 悲痛な叫びが飛ぶも――ヒフミは嬉々としてエリザベスとペロロの顔を描いたマヨボトルを見せていた。

 

ヒフミ「エリザベス様見てください!」

 

「マヨザベス様にマヨロ様です!」

 

 その手に掲げられたプラカードには、『上手』の二文字がデカデカと踊る。

 

土方『上手くねぇよ!!!あとどこまでペロロで染まってんだテメェは!!』

 

 だが、この騒ぎを空から眺める人物が一人――否、一匹いた。

 

その頃 サンクテュムタワー屋上――

 

 冷たい風が吹き抜ける屋上に、グレネードランチャーを構える一人の男の姿。

 

片栗虎「……あのヤロー、うちの栗子に手ェ出すやつは……たとえ何百人いようが容赦しねぇ」

 

 黒コートの裾がはためき、瞳には火花。

 その隣では、リンが全力で止めにかかっていた。

 

リン「片栗虎さん!いい加減にしてください!!これは式であって戦じゃないです!」

 

片栗虎「分かった分かった。じゃあよ、あと3秒以内にぶっ放して仕事戻るから」

 

リン「いや、そういう問題ではなくてですねーーーー」

 

片栗虎「沈めばいい」

 

「いーち!」

 

ドォォォォォォン!!

 

その時、式場の天井が轟音と共に揺れた。

 

アズサ「ん?」

 

桂「アズサ殿?」

 

アズサ「この音は……まずい」

 

ドカァァァァァァァン!!

 

天井が一部吹き飛び、マヨネーズの雨が降り注ぐ。

 

屋上――

 

リン「2と3はどうしたんですかァァァァァ!!」

 

片栗虎「知らねぇなぁ〜……男はな、“1”だけ覚えときゃ生きていけるんだよ」

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

―しばらく前のこと。

 

 柔らかな日差しが、レース越しにテラスの白いテーブルクロスを照らしていた。どこか非現実的なほど静謐な空間。春のそよ風がティーカップの縁をかすめ、紅茶の香りを運んでゆく。

 

 その中心に、完璧に作られた笑顔を浮かべる少女――ナギサが、ティースプーンを軽やかにカップに戻し、ふと銀時を見つめる。

 

ナギサ「――ご無沙汰しております、先生」

 

 その声は微笑みを湛えながらも、どこか底冷えするような丁寧さを帯びていた。

 

 目の前には、ナプキンも使わずダルそうに紅茶の香りを嗅いでいる銀時。彼は椅子に浅く座り、片手で顎を支えていた。

 

ナギサ「今日はなぜ、ここに呼ばれたか分かりますか?」

 

銀時「アレだろ?」

 

ナギサ「そうです。アレです」

 

 ナギサはしずかに目を伏せた。カップを回しながら、声色を少しだけ低くする。

 

ナギサ「補習授業部の――裏切り者の件です」

 

銀時「……劇場版鬼滅の◯、無限城篇についての会議だろ?」

 

ナギサ「え?」

 

 カチャリ。ナギサの手からカップが外れ、ソーサーに軽くぶつかった。

 

ナギサ「……え?」

 

銀時「何、俺なんか変なこと言った?」

 

 銀時は全く悪びれる様子もなく、マカロンをつまみながら首を傾げる。

 

ナギサ「いやいやいやいやいや! どう考えてもおかしいですよね!?」

 

「なんで私が先生を呼ぶ理由が劇場版鬼滅の◯・無限城篇なんですか!」

 

銀時「何って、鬼滅の◯の無限城篇で興行収入100億突破を狙うためだろ?」

 

「それであの生意気な探偵メガネの映画や千と千尋、あるいはパイレーツオブカリビアンをどう超えるか、誰を血祭りにあげるかの大事な会議だっつーの」

 

 どこか遠い目で語るその横顔は、まるで“世界を背負った映画プロデューサー”そのものだった。

 

ナギサ「いや知りませんが!? 先生だけが勝手に使命感燃やしてるだけじゃないですか!?」

 

「ていうか、あなたどんだけコナンに対抗心燃やしてるんですか!?」

 

銀時「既に散った煉獄さんも言ってただろ?『心を燃やせ』って」

 

 

「このままじゃ煉獄さんの魂、探偵メガネに持ってかれちまう……!」

 

ナギサ「いや……! 煉獄さんを勝手に巻き込まないでください!!」

 

「彼の意志は炭治郎くんがちゃんと受け継いでっていうか――」

 

「……って、もう何の話か分からなくなってきました……」

 

銀時「だから言っただろ?劇場版鬼滅の◯の――」

 

ナギサ「先生、それ以上言うならロールケーキをぶち込みますよ?」

 

銀時「え? べつにいいけど? 俺、甘党だか――」

 

 ――ドゴォッ!!!!!

 

 次の瞬間、テーブルの上に積み重ねられていたロールケーキがまるで砲撃のような速度で銀時の顔面に直撃。視界が一瞬でバタークリームに染まる。

 

銀時「―――――!!!!」

 

 言葉にならない悲鳴。紅茶の香りに混じって漂う、圧倒的なシュガー臭。

 

ナギサ「はぁ……はぁ……」

 

「……一仕事しました」

 

銀時「―――――!!!!!!」

 

 その叫びは誰にも届かず、ただ空しくテラスに響いていた。

 

ナギサ「では、気を取り直して――」

 

 カップの縁に指を添え、優雅に持ち上げる仕草の裏に、彼女の瞳はひそやかに光を帯びていた。

 

ナギサ「如何でしたでしょうか? 合宿中、何か判明したことなどはありましたか?」

 

 音のない沈黙。昼の陽光が、微かに風に揺れたカーテン越しに差し込む。

 

ナギサ「……あぁ、もっと直接的に申し上げましょうか。先生」

 

 彼女の声音が僅かに低くなる。

 

ナギサ「――トリニティの裏切者は、どなただと思われました?」

 

 沈黙の中に、銀時の表情が僅かに動いた。

 

 口の中に詰め込まれたロールケーキを飲み込み、喉を鳴らしながら、彼は重い口を開く。

 

銀時「……ちょっと待て、人の話をもう忘れちまったのか?」

 

 その声音に、僅かに疲れと苛立ちが混じる。

 

銀時「言っただろ。裏切り者なんて、この中には――いねぇって」

 

 その言葉に、確信も、揺らぎもない。

 

 最初から銀時は、誰かを疑う目を持ち合わせていなかった。補習授業部とは、信頼の基に成り立つ「学び舎」だ。集う理由は「逃げ場」ではなく、「飛躍の場」。互いに不完全なまま支え合い、成長する――その姿勢こそが、銀時の信条だった。

 

ナギサ「……そうでしたね」

 

 短く返しながら、ナギサはふと目を伏せ、わずかに息をついた。

 

 それは、落胆ではなく――意図的に感情を隠す沈黙。

 

ナギサ「ただ、第二次特別学力試験を前にして……改めて、そこを確認しておきたかったのです」

 

 ナギサの視線が、ゆっくりと銀時を捉える。

 

 淡く色づいた虹彩に、微かに鋼のような光が宿る。

 

ナギサ「先生に……心変わりはないか。あるいは、気になる点はなかったのか、と」

 

 声は柔らかい。だが、その言葉の奥に潜む鋭利なものは、刃にも似ていた。

 

ナギサ「……恐らく、ミカさんも接触して来ましたよね?」

 

銀時「まあね、留置所の話か?」

 

 さらりと返す銀時の口調は、どこか芝居がかった軽さを帯びていたが――その瞳は微かに鋭く光った。

 

 ナギサは静かに立ち上がり、椅子の背を押すようにして身を乗り出す。

 

 その口元には笑みが浮かんでいた。

 

 ――だが、その瞳だけが笑っていなかった。

 

ナギサ「ふふっ。ミカさんと、どんなお話をなさったのか……よろしければ、教えていただけませんか?」

 

銀時「おいおい、他人の進路相談を聞くとは……いけない子だねぇ」

 

 銀時の肩がわずかに揺れる。

 

銀時「そんな野暮なこと、しちゃいけませんよ」

 

「それに、前にも言ったろ? 先生は、生徒を信じるもんだ」

 

 言葉の応酬のあと、しばしの間が訪れる。

 

 視線が交錯し、時間がねじれたように静まり返る。

 

 やがてナギサは身を引き、椅子に腰を下ろすと肩をすくめて、微かに笑った。

 

ナギサ「……一度、改めて説明しましょうか」

 

「何故、彼女たちが選ばれたのか。私としても、先生と対立する事態は避けたいのです。だからこそ――ご理解いただきたいのです」

 

銀時「俺がそれで納得するとでも? 少しは事前調査でも、スパイ作戦でもしてきたらどう?」

 

ナギサ「……何事も、話さなければ始まりません。私たちは理解し合える存在だと、私は信じております」

 

 綺麗に笑ってみせるその様子に、自らが吐いた言葉の「白々しさ」に、ナギサ自身が眉を動かす。

 

 けれど、銀時が耳を傾けてくれると分かっている――だからこそ、嘘でも、道化でも演じる意味がある。

 

 ナギサはそっとチェス盤を取り出し、盤面を整える。磨き込まれた黒と白の駒たち。その一つに指をかけ、最初に選んだのは――ポーン。

 

 その駒を盤の中央に置き、指で弾いた。

 

 カコン。 乾いた音を立てて倒れる。

 

ナギサ「……まず、コハルさん」

 

「彼女はハスミさんを統制するために選ばれました。ハスミさんは、ゲヘナに対して強い憎悪を抱いている。何をしでかすか分からない、まさに時限爆弾ですから。それを制御する、安全装置が必要だったのです」

 

 次に指をかけたのはクイーン。

 

 キングの隣から抜き取り、同じように盤の中央に置いて、また弾く。

 

ナギサ「そして、ハナコさん。彼女は恐らく、本気を隠している。試験でも意図的に力を抜いている節があります。その気になれば、どんな派閥でも率いることができる。……だからこそ、何を企んでいるのか、今最も読みづらい存在です」

 

 次に選ばれたのはナイト。

 

 倒れた二つの駒をよけながら、彼女は騎士の駒を弾いた。

 

 コロ……コロコロ…… それは半円を描くように盤面を転がった。

 

ナギサ「アズサさんは、存在自体が不安定。統制不能な暴力事件の常習犯。……正直、疑うなという方が無理でしょう?」

 

 そして、最後に――ナギサは指先を、ひとつの駒に添えた。

 

 キング。王の駒。

 

 だが、彼女はそれを――動かせなかった。

 

銀時「オメー、ヒフミのやつと仲良いんだってな?」

 

ナギサ「………」

 

銀時「だったら、どうしてあいつのことを信じてやらねぇんだよ」

 

 銀時の言葉に、ナギサは目を閉じ、そしてそっとキングから指を離した。

 

ナギサ「……はい。そうですね」

 

「ヒフミさんへの想いは――かなり特別です」

 

 それは、自嘲を含んだ苦い声だった。

 

 ナギサにとって、阿慈谷ヒフミはただの同級生ではない。無垢で、ありふれていて、しかし心のどこかを救ってくれる、そんな存在だった。

 

 自分の肩書きも、責任も、組織も、戦略も必要ない。そういう空間を共にしてくれる相手。

 

ナギサ「……私は、彼女のことを、好いています。心から、そう思っています。しかし――」

 

銀時「しかし?」

 

 問いかけは静かに、しかし確実に空気を震わせた。ナギサはほんのわずかに眉を動かしただけだったが、その身体はほんの刹那、硬直したように見えた。

 

「――あの子の正体が、実は恐ろしい犯罪集団のリーダーである、という情報がありました」

 

 ナギサの体が、強張ったような気がした。銀時は、淡々と語ろうと努めるナギサを見守りながら沈黙を通す。これは、自身にも覚えがあった。そう、ブラックマーケットでの強盗事件である。それを自覚し冷や汗をかきながら、静かに拳を握り締める。

 

「こういったお話が、かえって一番恐ろしいのです。信じていたからこそ、何かが見えなくなっている――盲目な状態になっているのでは、と……」

 

 ナギサの声は、まるで硝子細工のように繊細だった。脆く、透明で、しかし一撃で割れてしまいそうな危うさを孕んでいた。

 

「あのー先生?」

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、ちょっと事件の調査にーー」

 

「何の事件ですか?」

 

「米花町の爆破予告事件」

 

「……コナンはもういいですから本当に」

 

 茶化すようなやりとりは一瞬で消え、再び重苦しい現実が二人の間に流れ込む。

 

「どれだけ注意を払って築いた塔も、小さな亀裂から簡単に崩れてしまうもの……私はちゃんとヒフミさんの事を理解出来ているのか、それともやはり私が知らない真実があるのか――今の私には、分からないのです」

 

 言葉は、まるで霧のようだった。触れられそうで、決してつかめない。視界が閉ざされた時、手を取ってくれる誰かが善意であると――誰が断言できるだろうか。

 

銀時「大丈夫だって、真実はいつも一つってある名探偵がーー」

 

ナギサ「だからもうコナンはいいって言ってるでしょう!!」

 

 乾いた怒気を帯びた声が、静寂を裂く。だがその後には、また冷静さを取り戻したナギサがいた。抑制された呼吸と、抑え込まれた情念。

 

「先生、あなたは疑う事を悪しき行為だと、そう考えている節が見られます――しかし、私の考えは異なります。疑う事は決して悪しき行為などではありません」

 

 それは、正しさの鎧を纏った剣だった。鋭利に、躊躇なく相手の信念を切り裂こうとする。

 

「信頼というものは心地良きもの――けれどそれは時に枷となります。信じることで盲目となり、疑うべき瞬間にすら目を瞑ってしまう。信頼を盾に、見過ごす……その愚かしさを、私は看過できない」

 

 声は震えていない。それが、却って恐ろしい。

 

「――心の中身など、証明出来るものではないのですから」

 

 その言葉には、虚無があった。目に見えぬ不安、知り得ぬ感情。それらすべてが、ナギサの言葉に凝縮されていた。

 

「だから――退学させるって?」

 

「えぇ。エデン条約、その成功の為に」

 

「ナギサよ〜やっぱ俺はその考えには賛同出来ねえよ」

 

 声は軽く、けれど芯があった。火のついた線香花火のように儚く、それでいて確実に熱を宿していた。

 

銀時「確かに、ただ信じるだけじゃいけねぇ。それに関しては、概ね理解した。俺も、他者を疑るという行為に難癖つけるつもりはねぇよ」

 

ナギサ「では、何故……?」

 

銀時「何度も同じことを言わせんじゃねぇよ」

 

「先生はーー」

 

「生徒を信じるもんだ」

 

 その言葉は、理屈でも合理性でもない。けれどそこには、ナギサの持たぬものが確かにあった。――“覚悟”という名の、温かい刃が。

 

ナギサ「……………」

 

「先生……あなたが言っていること。それは、理想論に過ぎません」

 

 拳を握りしめる音が聞こえそうなほど、ナギサの手は震えていた。だがその目には、怒りよりも戸惑いが浮かんでいた。まるで、何かを否定したいのに、できない少女のように。

 

「大人が語る事ですか、それが」

 

銀時「俺から言わせれば、テメェの話も立派な理想論だ。」

 

 静かに告げる銀時の瞳には、曇りがなかった。

 

「自分の信じるもんだけ信じて、見たくない現実からは目を背ける……いわゆる疑心暗鬼。テメェはその闇の中で彷徨ってやがる」

 

ナギサ「先生……いったい何をーー」

 

銀時「テメェのその闇を、俺が照らして晴らしてやる」

 

 その宣言は大仰で、どこまでも馬鹿げていた。けれど同時に、眩しすぎるほど真っ直ぐだった。

 

ナギサ「……そう、ですか」

 

 ぽつりと漏れたその声は、まるで冬の朝に落ちる霧のように淡く、力を失っていた。ナギサは拳をほどき、数度深呼吸を繰り返すと、もう一度静かに言った。

 

「……えぇ、理解しました。理解しましたとも――つまりは、お話がシンプルになったという事です」

 

 彼女はそう言いながら、頭を下げ、視線を落とした。顔が見えない。見せようとしなかった。

 

「私は、私なりに頑張りますので」

 

銀時「そうかい。じゃあ俺も、俺の好きなようにやらせてもらうわ」

 

 銀時は立ち上がり、重たい椅子の脚音を引きずるようにしてドアへ向かう。その背中に、ナギサの声が追いかけてきた。

 

「――先生」

 

 銀時は足を止め、振り返る。ナギサはチェス盤をじっと見つめていた。倒れた駒たち。動かされなかったキング。

 

「――どうか、お気を付けてもう……」

 

 ほんのわずか、唇が動く。

 

(容赦はしません)

 

 その言葉は、もはや脅しでも敵意でもなかった。ただ、決意だった。冷徹で、静かな覚悟の声。

 

 銀時の姿は、やがて扉の向こう側へと消えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 パソコンの青白い光と日差しがハナコの顔を照らしていた。無機質なキーボードの打鍵音も、今は静寂に吸い込まれるように止んでいる。画面には、銀時とミカの留置所での会話記録が表示され、その脇には、別ウィンドウで再生されている音声ログ。ハナコは耳にイヤホンを装着し、無言で情報を精査していた。

 

「……なるほど、補習授業部の割り振りに関しては予想通りでしたね」

 

 先ほどまでの銀時たち会話が、耳の奥で囁く。

 

「それに、トリニティー裏切り者についてナギサちゃんは相当焦っていると――」

 

「つまり、まだ目星はついていない」

 

「先生が私たちを疑わないことにも関係しているでしょうけど……それにしても、これだけやって見つからないとなるとやはり――」

 

 そのときだった。

 

「な、な、なんじゃこりゃァァァァァ!!!!!」

 突如、イヤホン越しではない、近くから聞こえてきた絶叫が、響き渡った。

 

 ハナコは目を見開き、反射的にパソコンを閉じた。

 

「!?」

 

「ど、どうしたですか先生!!」

 

 声の主に駆け寄ったその瞬間――目に飛び込んできたのは、崩壊した校舎の跡地だった。

 

 白煙と瓦礫。赤く焼け焦げた残骸の中、風に吹かれて紙片が舞い、地平の先には……焼け落ちた装飾。まるで、夢に見た結婚式場の残骸のように。

 

銀時「なんで結婚式場(校舎)が木っ端微塵に破壊されてんだァァァァァ!!」

 

 その魂の底からの悲鳴に、隣で煙をくゆらせていた男がぼそりと呟く。

 

沖田「すいやせん旦那ァ。俺がしっかりしておけば、土方の野郎を永遠に愛の鎖に縛りつけることができたってのに」

 

土方「おい、それはどう言うことだ?」

 

 混沌の只中、瓦礫の影から姿を現した桂が、負傷したアズサを支えながら顔を上げる。

 

桂「アズサ殿、無事か?」

 

アズサ「ああ、エリザベスのおかげでな」

 

 煙の向こうから、白くもふもふとした影が手を振る。アズサは肩を軽く動かし、視線を爆心地へと向ける。

 

「それにしてもこれは――」

 

ハナコ「爆発の威力からしてグレネードランチャーでしょう。それも、通常の比ではない火力。……」

 

 足元に転がった薬莢と、黒焦げの聖書が示すのは、ここがただのいたずらでは済まされないことを物語っていた。

 

ヒフミ「でも、一体誰がこんなこと……」

 

 そこへ、炎の向こうから一歩踏み出す銀時。その目はかつてないほど鋭く、明確な敵意を放っていた。

 

銀時「やつだ。野郎……ここまでして現実逃避しようたあいい度胸じゃねぇか」

 

沖田「旦那ぁ?」

 

 銀時は息を荒くし、天空に向かって怒声を響かせた。

 

銀時「待てやがれ蟲柱の紅茶中毒!!絶対、劇場版鬼滅の◯無限城篇第一弾で台本に天狗の鼻より長いう◯こつけて出番消してやるからなァァァァァ!!」

 

 絶叫に、時空を超えた怒りと情熱がこもっていた。

 

コハル「いや何の話をしてるのォォォ!!!」

 

 完全に時事ネタと私情が入り混じる中、校舎は無惨にも黒煙を上げ続ける。情報戦と緊張の渦中にあるはずの戦場で、ギャグの応酬が巻き起こる。

 

 そして、遠く、静かな一室で。

 

ナギサ「くしゅん!」

 

 ひとつ、くしゃみが落ちた。

 

 冷たい空気が入り込んだのか、それともどこかで誰かが彼女の悪口を叫んでいたのか――その理由は、まだ明らかではない。

 

 

 

 




次回

ヒフミ「銀さん!試験会場が!!」

銀時「爆破に加えて試験会場もとはどんだけ暇人なんだよ」

アズサ「それは先生も同じことだ」

銀時「それじゃあ舐めに行きますか〜コノヤロ〜」

コハル「え?何を?」

銀時「イオリの足」

「「「「はぁァァァァァ!?」」」」

桂「お前もレロレロ花京院にならないか?」

次回、試験会場には前もってついておけ

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
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