透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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すいません。カオスすぎました。

話を長くしすぎて二話構成

そして2万文字も言っちゃいました。


第九十一訓 試験会場には前もってついておけ!

「ふぅー……大分暗くなってきましたね」

 

「うん、そろそろ切り上げた方が良いだろうか?」

 

「そうですね、根を詰め過ぎて明日に響いても嫌ですし……今日は、此処までにしましょう!」

 

 少しずつ、重かった空気が緩んでいく。補習授業部を襲った“何者か(片栗粉)による結婚式場(校舎)爆破事件”も、何とか鎮静化に至り、皆の顔に安堵の色が浮かび始めていた。

 

 外では星が瞬き始め、ひとときの平穏が訪れている。

 

「全く、ここがコメディーの世界で良かった。そうでもねぇとこんな大規模な修復作業、何年もかかってたでしょうからね」

 

 沖田の皮肉じみた笑みを受け、近藤が神妙な面持ちで頷く。

 

「ああ、なぜか会話が読まれている感覚が終わった瞬間から力が沸いたおかげだな」

 

「そりゃそうだろ。そこは作者が何とか話を合わせるために修復作業のスピード上げた。ここはあいつらじゃなくて作者に感謝すべきだ。」

 

「そうか……ありがとう作者よ」

 

「おい、テメェら一体何の会話してんだ?」

 

 土方がツッコミを入れるも、既に空気は温かく、どこか家族のような一体感があった。

 

 

 

「これで後は第二次特別学力試験……本番だけ、だよね?」

 

「はいっ、ですが私達はここまでの合宿で、十分に合格できる程の学力を身に着けた筈です!」

 

「うん」

 

「えぇ♡」

 

「っ、そ……そうねっ!」

 

 一瞬、戸惑いを見せたコハルだったが、皆の表情に勇気をもらい、力強く頷いた。

 

「――あとはしっかり試験に合格して、堂々と補習授業部を卒業するだけです! 今までの勉強が無駄ではなかった事を、きっちりと証明しに行きましょう! そして最後は、皆で笑ってお別れ出来る様に……!」

 

 ヒフミの拳が空を突く。小さな拳は、確かに皆の胸を打った――はずだった。

 

「……そうか、合格したら……お別れ、なのか」

 

 ぽつりと、アズサの声が漏れる。彼女の腕の中には、ヒフミから贈られた小さなぬいぐるみ。その毛並みをなぞる指先は、どこか寂しげだった。

 

「ちょ、ちょっとアズサ!? どうして急にしんみりする訳!?」

 

「ふふっ、合宿含め、何だかんだで凄く楽しかったですもんね?」

 

「……うん、でも、それでもやっぱり、出会いがあれば別れもある。全ては、虚しいものだ」

 

 まるで、この瞬間が永遠に失われるかのような声。アズサの瞳には、光が射さず、ただ、静かに沈んでいた。

 

「――そこまで思い詰める必要はありませんよ」

 

 静かに、しかし確かに。ハナコの声が空気を包む。

 

「アズサちゃん含めて皆、試験が終わったらどこかに行ってしまう訳ではありません。補習授業部が解散しても、同じ学園に居るんですから、逢おうと思えばいつでも会えますよ」

 

「そ、そうよ! ほら! 私はいつも正義実現委員会の教室にいるし! ひ、暇な時があったら来れば……!」

 

「き、気持ちとしては私も同じなんですけれど……でも、ハナコちゃんの云う通りです。今生の別れではありませんので……!」

 

「えぇ、教室でもどこでも、いつでも遊びに来て下さい」

 

「……うん、ありがとう、ヒフミ、コハル、ハナコ」

 

 アズサが微笑む。その笑みに、ほんの僅かな翳りと――罪の重さが、滲んでいた。

 

(だって――裏切り者が、許される筈などない)

 

 それは、アズサの心に染み付いた、禍々しい烙印。もはや信頼や赦しでさえ、消すことはできなかった。

 

「そうだぞ、アズサ殿?」

 

 桂が軽やかに声をかけてくる。

 

「これが終わっても俺とエリザベスは離れんからな。また共に攘夷志士として活動しようではないか!」

 

「勝手にテロ活動に勧誘するのをやめてください!!」

 

「安心しろい。もしテメェらが攘夷活動しようもんならーー」

 

「今度こそメス豚飼育コースに招待どころか強制するんで」

 

「マヨネーズのぶち込んだマヨネーズコースもな」

 

「何言ってるんですかあなたたちは!? 自分趣味を相手に押し付けようとしてるだけじゃないですか!」

 

「まぁ、お前らここで卒業できても後でここに戻ってくるって決まってるからな〜お別れも何も、ゲームの都合上、新しい部活に所属してるより、補習授業部に所属で固定化した方が運営側も楽ーー」

 

「銀さんはメタな発言とソシャゲの裏側、そしてネタバレするのをやめてください!!」

 

 

 

 やがて――

 

「……そう云えば、明日の試験会場は前と同じところなのか?」

 

 アズサの一言に、空気が少し現実へと戻る。

 

「あっ、そうですね、確認は大事ですし……えっと、告知は――」

 

 ヒフミが端末を取り出し、トリニティの掲示板にアクセスする。しばらくスクロールするうちに、指が止まった。

 

「――えっ?」

 

 息が、止まる。

 

「……ヒフミちゃん、どうしましたか?」

 

「ヒフミ?」

 

「え、嘘っ!? 嘘ですよね……ッ!?」

 

 顔面蒼白。両手で端末を抱え、震えるヒフミ。その異常を察した仲間たちが、即座に駆け寄る。

 

「おいおい、今度は何?ハーメルンからR18タグに変更してくれって頼まれた?」

 

「こ、これ――……」

 

 震える手で差し出された端末。皆が覗き込むと、そこに表示されたのは冷酷な現実だった。

 

「えっと……『補習授業部、第二次特別学力試験に関する変更事項のお知らせ』……?」

 

「何よ、別に、普通のお知らせじゃ……」

 

 コハルがそう言いかけたその時。

 

「――試験範囲を、事前に掲示した内容より約三倍に拡大」

 

「は、はぁっ!?」

 

 叫びがこだまする。

 

「三倍か〜界王拳でいうところのサイヤ人襲来篇のベジータぐらいだな」

 

「つーことは近藤さんが月を見て巨大化したのと同じくらいってことですかい」

 

「いや、あれは十倍だからな〜、近藤さん一人分、いや、お妙一人分ってところだろ」

 

「何の話をしてるんですか!? 茶化すところじゃないですよ!!」

 

 しかし地獄は、それで終わらなかった。

 

「また、合格ラインを六十点から九十点に引き上げとする――……」

 

「きゅ、九十点なんて……わ、私も、超えた事なんてないのに……!」

 

「ど、どういう事よ、これ……!?」

 

「日付を見るに、先程アップされたばかりみたいですね……試験直前になって、こんな――」

 

 ハナコは険しい目で掲載日時を確認し、修正履歴の記載を見つける。どうやら今夜、つい数時間前に改定されたもののようだった。

 

「――成程。私達の模擬試験の結果を、ナギサさんも何かしらの手段で把握しましたか」

 

「も、模擬試験って、あの全員合格した奴!?」

 

「でも、あれは私達が作った授業資料で、別にちゃんとした試験じゃ……!」

 

「……この学園に居る以上、ティーパーティーの目となり耳となる存在からは逃れられません」

 

 冷たく張り詰めた空気が、補習授業部を包み込む。

 

ティーパーティー――あの白き支配者たちは、網を張り巡らせた蜘蛛の如くこの学園の全域を掌握している。情報という名の糸は教室の隅にも、掲示板の裏にも、きっと息を潜めて張りついているのだ。シスターフッドや正義実現委員会、救護騎士団といった堅牢な組織の内部であれば話は別だが、たった四人の補習授業部。その動向を、密かに掴むなど赤子の手を捻るようなもの。

 

 思わず眉間に皺が寄る。

 苦々しい沈黙の中、彼女はぽつりと呟いた。

 

「……露骨なやり方ですねぇ。どうあっても、私達を“退学”にしたいと」

 

 その言葉に、空気が凍る。

 アズサの眉が、ピクリと動いた。

 

「――退学?」

 

 その声に含まれた微かな驚愕は、鋭い刃のように他の少女たちの心にも突き刺さる。

 

「えっ、た、退学……? ちょ、ちょっと待って、どういうこと……!?」

 

 コハルが声を上げた。震える声は、まるで足元が崩れていくかのように不安定だった。

 

沖田「おや?知らなかったのか? テメェら全員、三回ある学力試験に合格できなかったら、退学ってことになってるんでさァ」

 

 冗談ともつかぬ口調。それでいて、その目だけは冗談ではないことを物語っていた。

 

「な、何よそれ……!? 何がどうなってるの……!?」

 

 パニックの渦がコハルの中で巻き起こる。今まで積み重ねてきた努力、その先にあるものが“強制的な終わり”だと告げられたのだから。

 

土方「その様子だと、あのことも知らされてなさそうだな」

 

アズサ「“あのこと”……?」

 

 鋭く反応するアズサに対して、近藤はわざと視線を逸らし、苦笑を浮かべて話題を逸らした。

 

近藤「……いいや、こっちの話だよ。」

 

銀時「それよりだ。ヒフミ、試験会場と時間、どうなってんだ?」

 

 ヒフミは手元の端末を震える指で操作する。表示された内容に、目を疑い――絶句する。

 

ヒフミ「し、試験会場は……ゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街、廃墟一階……です」

 

 沈黙が落ちた。今度は、耳を疑う番だった。

 

『ゲヘナ……?』

 

「な、何で……なんでトリニティの試験をゲヘナで……!? 意味が分かんない……!」

 

 コハルが声を荒げる。恐怖と混乱が混じり合い、胸の奥をぎゅっと掴まれたような感覚に襲われる。

 

ハナコ「……けれど、行かなければ未受験。即ち不合格、退学です」

 

「ど、どうすれば……私……退学になったら、正義実現委員会にも戻れなくなっちゃう……!」

 

 コハルが顔を両手で覆いそうになったその瞬間、静かに、しかし迷いのない音が響いた。

 

 ――ごとっ。

 

 アズサが、机の上に背嚢を置いた音だった。

 視線が自然と彼女へと集まる。アズサはその視線を受け止め、静かに筆記用具を背嚢に詰め込みながら口を開いた。

 

アズサ「……状況は理解した。なら、準備をして、今すぐ出発しよう」

 

ヒフミ「えっ、今からですか!? でも――」

 

 だがその言葉を遮るように、桂が冷静な声で割り込む。

 

桂「――見ろ。試験時間が深夜の三時と記載されている。今から出発しなければ間に合わん」

 

 ヒフミが慌てて掲示を再確認する。そこには、確かに試験時間――「翌日・午前三時」の記述があった。時計の針は、すでに十一時を回ろうとしている。

 

 都市をまたいだ移動。トリニティからゲヘナへの移動には、少なくとも二時間は掛かる。余裕など、欠片もなかった。

 

近藤「となると、俺たち真選組の車で裏道を使って移動すれば――」

 

 ――ピッピッピ。

 

 突如、端末がけたたましい電子音を響かせた。表示されたのは山崎の顔だった。

 

土方「山崎、どうした?」

 

山崎『大変です! 副長! ただちに屯所に戻ってください!!』

 

土方「何があった」

 

山崎『ティーパーティーから連絡が……真選組に、“裏切り者との関係性について取り調べ”の通告が届きました! 取り調べは、00時に実施されるとのことです!』

 

土方「……何っ……!?」

 

沖田「どうやら……俺たちと、旦那たちとの関係性がバレたみてぇでさぁ」

 

 時間が止まったような沈黙の中、近藤の眉が苦悩で歪んだ。

 

土方「近藤さん……」

 

近藤「……」

 

 その場を満たす、ひとときの重たい静寂を破ったのは、銀時の柔らかな――しかしどこか覚悟を孕んだ声だった。

 

「いいよ。真選組の大将は、お前らだけなんだ。……こっちは、こっちでちゃんとやっておくからよ」

 

「お前……」

 

「行け、近藤。仲間の元へ」

 

 桂の声は、まるで背を押す風のように優しかった。

 

「……すまん。みんな、頑張れよ」

 

 振り返ることなく、近藤はその場を駆け去っていく。その背中に、誰も言葉をかけなかった。

 それは――“託された想い”を、確かに受け取った証拠だった。

 

ヒフミ「銀さん、どうしますか? 無法地帯に関しては……銀さんたちがいるから、なんとかなりそうですけど……でも、ここからゲヘナなんて、車を使わないと到底間に合いませんし……」

 

 不安げに眉を下げるヒフミ。その声には、切迫した現実に対する焦りと、どうにか希望を掴もうとする懇願が滲んでいた。

 

ハナコ「そうですね……近藤さんたちの力を借りることも、もうできませんし……」

 

 状況は詰んでいる。もはや選択肢は尽きたかに思えた――が。

 

銀時「おいおい、この世の乗り物が車だけだと思うなよ〜。なぁに、銀さんがノープランでお前ら向かわせたとでも?」

 

 にやりと自信たっぷりに笑みを浮かべ、銀時が胸を張る。その様子に、皆の目が一斉に輝いた。

 

コハル「えっ、何か案があるの!?」

 

銀時「もちろんだとも。こんな時のために、ちゃんと隠しておいたんだよ――俺だけのとっておきの相棒をな……!」

 

 言葉の語尾と共に、空気がぴんと張り詰める。

 

「「「「「ごくっ……」」」」」

 

 皆が息を飲み、次の言葉を待つ。その沈黙を破ったのは、銀時の大声だった。

 

銀時「――おーい、定春!!!」

 

 ――ガブッ。

 

 突如として飛び出した白い巨体が、銀時の頭部に噛みついた。バリバリという不穏な音と共に、銀時の額から鮮血が滴り落ちる。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 全員が固まった。誰一人として言葉を発せず、ただ、絶句。

 

桂「定春くぅぅぅぅん!!」

 

 その叫びと共に、次に犠牲となったのは桂だった。抱きつこうとした瞬間、まるで大蛇が餌を丸呑みするように、定春が頭から彼を飲み込んだ。

 

 ――ずるっ。

 

ヒフミ「えっ……あ、あの……すいません。それが“相棒”……なんですか……?」

 

銀時「そーだよ。俺の愛犬、定春(さだはる)だけ。見ての通り、超大型犬。でかいだろ?」

 

ヒフミ「いや、でかいだろ?じゃなくて……まさか……その定春に、乗れってことですか?」

 

銀時「ああ、そうだけど?何?まさか俺の愛犬に乗りたくないって?」

 

コハル「……うん、普通に乗りたくない。」

 

銀時「全く……これだから今どきのガキは……」

 

 呆れたようにため息をつきながら、銀時はポケットから何かを取り出した。それは、段ボールで作られた即席のプラカード。裏には油性ペンで雑に書かれた選択肢。

 

銀時「じゃあーー今から“乗り物候補”のプラカード立てるから。好きなのに並んでくれや」

 

 一枚一枚、地面に突き刺していく。

 

「俺のスクーター(ボロい)」

 

「化け物(ヅラとセット)」

 

「定春(愛情多め噛み癖あり)」

 

銀時「さあどれにーー」

 

 ――がちゃがちゃっ!

 

 その瞬間、少女たちは一斉に動いた。無言の速さで列を作る。

 

 スクーターには、コハルとハナコ。仲良く縦に並び、すでにヘルメットまで装備済み。

 

 化け物(エリザベス)には、アズサとヒフミ。エリザベスは目だけで「来るがいい」と言っているようだった。

 

 そして――定春の前には。

 

 ゼロ人。

 

 定春、鼻でふんっと音を立てた。どこか切なげだ。誰にも並ばれない犬の姿に、空気が少しだけ重くなる。

 

銀時「…………おいィィィィ!!」

 

 突如、破裂音のような絶叫が場を割る。

 

銀時「なんでだよ!? なんで俺の相棒だけゼロなの!? 定春ゼロ!? ゼロ春!? は!? これ絶対見た目で判断してんだろ!? 可愛いだろ!? 白くてもふもふでちょっと体がデカいだけだろ!?」

 

 銀時の指先はぷるぷると震えていた。それは怒りの震えか、哀しみの震えか、それとも……定春に噛まれた後遺症か。

 

コハル「どこがよ!? あんなガブガブ噛み付く犬と一緒にいたら、命が何個あっても足りないじゃない!!」

 

銀時「テメーら銃弾喰らっても死なねぇくせに何ビビってんだよ!! 俺なんて頭喰われてもこの通りピンピンしてんだぞ!? これが安全性の証明ってやつだよ!」

 

 銀時の額から血がまだ少し滲んでいた。

 

コハル「じゃあアンタが乗りなさいよ!! 愛犬でしょ!? 相棒でしょ!? 情熱の白い恋人でしょ!? じゃあ、乗れッ!!」

 

銀時「やだよォォ!! 臭ぇんだよコイツのクソ! あと何かしらガジガジ噛んでくるし、もう銀さん嫌なんだってば!!」

 

 突然の駄々っ子ムーブ。全力で地面をバタバタし始める三十路。

 

 その様子を、アズサが冷めた目で一瞥した。

 

アズサ「……桂、そろそろ行かないと間に合わない。」

 

桂「ああ、そうだな……」

 

 颯爽とエリザベスの横に立ち、マントを翻す。

 

桂「――行くぞ、貴様らァァァァァァ!!!」

 

エリザベス『ウォォォォ!!!』

 

ハナコ「ふふ、女の子二人で夜のお出かけ……これは、ちょっと……」

 

コハル「それ以上言わないで!! Hなのはダメッ! 即死刑ッ!!!」

 

 

 

 夜の闇を切り裂き、スクーターとエリザベスが一斉に走り出す。地面に残されたのは、走行音と、置いていかれた男一人、犬一匹。

 

銀時「おい待ってェェェェェ!! 置いてくなァァァァ!! 俺と定春が一番戦力あるんだぞォォ!! そして一番乗りたくないんだぞォォ!!」

 

 誰も答えなかった。背中は遠ざかるばかり。

 

 ……空しく、広場に夜風が吹いた。

 

 ――ゲヘナ・スラム街。

 

 コンクリの裂け目から滲み出す排気の熱気。乱雑に貼られたネオン看板は、どれも異常な明度でチカチカと瞬いており、周囲の闇を逆に鈍く濁らせていた。

 

ヒフミ「はぁ、ふぅ……ここからはもう、ゲヘナの自治区ですね……!」

 

 先頭を駆けていたヒフミが、ようやく足を止めた。荒く息を整えながら、視線を左右に巡らせる。

 そこはトリニティとは別の世界。塵芥が風に舞い、アスファルトは割れ、歩道の端には誰の物とも知れぬジャケットや空き缶が放置されている。歩いている生徒たちも、睨みつけるような目付きの者ばかりで――ヒフミは無意識に背筋を正していた。

 

ヒフミ「桂さん、ここはお願ーー」

 

桂「zzzzzz」

(※目は全開)

 

ヒフミ「……寝てますね」

 

 その姿はもはや立ったまま幽体離脱しているかのようだった。

 

アズサ「桂は……置いといて、流石エリザベスだ。予定より早いぞ。」

 

 エンジン音のような唸り声と共に滑り込んだエリザベス。異様な体躯とは裏腹に、その走行性能はなかなかのものだ。

 

ハナコ「それにしても先生、大丈夫でしょうか?」

 

コハル「良いわよ。私たちを化け犬に乗せようとした時点で人権剥奪ものよ。」

 

 その時――空気が微かに変わった。冷えるような気配が、夜の闇の奥から忍び寄る。

 

「おんやぁ? こんな時間にトリニティのお嬢様方が、何のご用でぇ?」

 

 現れたのは、フルフェイスのヘルメットを被った少女と、顔にバツ印のマスクをつけたスケバン風の生徒。袖には不穏な刺繍、「夜露死苦」の文字が光っている。

 

「そんなに急いでどこ行くのさぁ?」

「……わぁ、無法地帯といえばコレって感じですねぇ……」

 

 あまりにも“教科書通り”なスラムの不良登場に、逆に感心したようにハナコが漏らす。

 

「くくく、こんな時間に出歩いてりゃよぉ、怖~いお姉さんに襲われても文句言えねぇぜ?」

「お友達と冒険ごっこかい? ふふっ」

 

ヒフミ「え、ええっと……冒険というか、私たちは試験を受けに行く途中でして……」

 

 精一杯の柔らかい物腰で事情を説明するヒフミ。だが、返ってきたのは冷ややかな嘲笑だった。

 

「試験……?」

「頭、大丈夫かよ? トリニティの生徒が、こんな夜中にゲヘナで試験……? プッ……!」

「どこのギャグだよ、それ」

 

 真実なのに信じてもらえない――そんな状況に、ヒフミは内心で深く頷く。ほんの数時間前まで、自分自身も同じ反応をしただろう。

 

「ま、理由はどうあれ――やることは変わんねぇけどな!」

 

 不良たちの目がギラリと光る。懐から引き出されたのは、無骨な拳銃。引き金にかかる指は慣れている。冗談では済まない雰囲気が一気に広がった。

 

「ひゅーっ、身代金いただきってやつ?」

「金持ちの制服ってのは、狙われるためにあるんだよなぁ!」

 

 その時――地面が、揺れた。

 

ドタドタドタドタ……

 

「……おい、何だこの音?」

 

 鼓膜に響く、四足の獣が突撃してくるような足音。その振動が地面から伝わる。

 

ヒフミ「な、何の音でしょう……?」

 

アズサ「……四足歩行の、大型生物。それも――激怒中だ」

 

 瞬間、エリザベスがヒフミとアズサを抱え上げ、文字通り"投げる"ように道の端へ飛び退いた。

 

銀時「ウォォォォ!! 邪魔だァァドケェェェ!!」

 

 白い嵐が突風の如く駆け抜けた。

 

 不良の一人が「おごぁっ!」と悲鳴を上げた刹那、銀時は跳躍と同時に木刀を叩き突け、顔面を弾き飛ばす。そしてそのまま腕を掴んで引き込み、地面へ叩き伏せた。

 

 まるで風のような動き。目で追えた者はいない。

 

 アズサはその背中を踏み台に、愛銃を構える。

 

ヒフミ「アズサちゃん……あれって……」

 

アズサ「うん。きっと私たちが置いてったこと、まだ怒ってるんだと思う」

 

 そう言いながら、銃口をもう一人の不良へと向ける。

 

アズサ「この際だから。先生と一緒に不良ごと吹き飛ばそう。」

 

ヒフミ「つ、つまり――」

 

「て、てめぇ、ナメんなよッ! こっちには……へぼぁッ!?」

 

 言葉より早く、銃声三発。乾いた破裂音が夜を裂く。

 

 弾丸は迷いなく、不良の眉間へと吸い込まれた。意識を手放した彼女は、ゆっくりと後ろへ倒れ込む。地面に落ちる時の鈍い音が、辺りを静かにした。

 

 アズサは、不良の肩を足場にしながら静かに降り立ち、鼻を鳴らす。

 

アズサ「強行突破あるのみ……!」

 

ヒフミ「ア、アズサちゃん……!? 速すぎて、止める暇も……」

 

 まるで武術の演舞のような一連の流れ。周囲がようやくその動きに気付く頃には、もう勝負は決していた。

 

 しかし――ここはスラム街。音に敏感な夜の巣窟。

 

 静寂の後には、さらに深い闇が牙を剥くのだった。

 

「いたっ、あいつらだッ!」

「待てェッ! てめぇ、よくも仲間を!」

「……あん? おい、見ろよ、ありゃあトリニティの制服じゃねぇか……」

「へへっ、こりゃあ当たりだ。金髪、白服、金の匂いッ!」

「攫って身代金たっぷりだ! ぜってぇ逃がすなッ!!」

 

 怒号と喚声が、次々と夜のスラムを揺らす。

 

 背後から広がってくる足音の波。コンクリートを乱暴に蹴りつける音が、幾重にも重なり迫ってくる。ヒフミが反射的に振り返ると、そこには黒い制服に身を包んだ不良の群れが、道路を埋め尽くすように走り寄っていた。

 

 なぜこんなに居るのか、どこから湧いたのか。思わず問いかけたくなるほどの数だ。

 だが、彼女の視線はさらに奥――巨大な鉄の音を伴って現れた“それ”に釘付けになる。

 

 唸るエンジン、軋むサスペンション、ガレージの扉を破って現れたのは、装甲の剥げた粗野な四輪駆動車だった。ルーフは撤去され、パイプフレームむき出し。まるで戦場から直輸入されたかのような無骨なシルエット。その中央、銃座には――M240汎用機関銃。

 

ヒフミ「な、なんでこんなに不良生徒がっ……!? って、あれって……もしかしなくても装甲車……ッ!?」

 

アズサ「む……違う。恐らく、原型はハンヴィー……装甲車というよりは軍用ジープのカテゴリだ。状況次第では軽装甲機動車両ともなるが、あの損耗状態では――」

 

コハル「ちょ、ちょっと!? マニアックに分類してる場合じゃないでしょ!? 似たようなモノでしょ!? ていうか、なんで不良がそんなの持ってんのよッ!?」

 

ハナコ「……そういえば、ブラックマーケットで、アレ系の兵器って安く出回ってるとか……」

 

 車両の前方、まるで肉食獣の眼光のように輝くヘッドライトが補習授業部の一行を照らし出す。その光の中心、銃座に固定されたM240の銃口が、ゆっくりと――まるで意志を持つように――彼女たちに照準を合わせた。

 

ヒフミ「あ、あんなのに撃たれたら、ひとたまりもないですぅ――!!」

 

 その瞬間、前へと歩み出る影が一つ。

 

ヒフミ「エリザベス様……?」

 

 白く、巨大で、もふもふしたその背中。エリザベスは一歩、また一歩と前に出て、手にしたプラカードを静かに掲げる。

 

エリザベス・プラカード『任せろ』

 

 ――次の瞬間。

 

「うごッ!?」

「え、おまっ、おいちょっま――」

 

 エリザベスの口が、ぐぐぐっと不自然に開いたかと思えば、その中から戦艦クラスの砲塔を思わせるエネルギーキャノンが現れた。そして次の刹那、スパークする青白い閃光が街を焼き、一条の奔流が空気を切り裂いた。

 

 ズォォオオオンッッ――――!!

 

 放たれたエネルギー砲が直撃。銃座付き車両のフロントを一撃で抉り、鋼鉄の骨格ごと吹き飛ばす。制御を失った車両は左右に揺れ、凄まじい音を立てながら、スラムの建物に真正面から突っ込んだ。

 

 衝突音。鉄とコンクリの砕ける重い音。悲鳴。そして煙。

 

 誰も振り返らなかった。補習授業部はただ、音を背にして走り続ける。

 

アズサ「……エリザベス。すごいぞ。」

 

 後方の爆煙を確認しながら、アズサが淡々と呟く。だが、その目はわずかに見開かれ、口元には誇らしげな笑みすら浮かんでいた。

 

ヒフミ「ほ、ほんとに……ありがとうございます……! あれがなかったら今頃……エリザベス様、命の恩人です……!」

 

 ヒフミは走りながら、感極まったように何度も頭を下げる。エリザベスは何も言わず、ただ無言で走りながらプラカードを掲げる。

 

エリザベス『当然のことをしたまでだ』

 

「はぁっ、はっ……ま、撒いたんでしょうか……?」

「お、追って来る様子は……ない、けど……」

 

 息を切らしながら、ヒフミとコハルが振り返る。喧騒の渦巻くスラムの街並みは、既に遠く彼方。乱雑に積まれたコンテナ群の向こうに、微かに爆炎の残光と黒煙が滲んで見えるだけだった。

 

 雑多な路地を幾度も抜け、ようやく辿り着いた交差点。街灯の灯りがやや不安定に明滅する中、アズサは銃を抱え直し、警戒を解かぬまま周囲を一瞥する。

 

ヒフミ「あっ、アズサちゃん、こ、ここは……?」

アズサ「……うん。もう、ゲヘナ自治区の内部。スラムは抜けられた」

ヒフミ「そ、そうですかっ……!」

 

 その言葉に、ヒフミは胸を撫で下ろすようにして深く息を吐いた。張り詰めていた空気が、ようやく少しだけ緩む。

 

コハル「にしても、なんか……背後から銃声と爆発音、すっごい聞こえてなかった?」

ヒフミ「わ、私も……あれ、何だったんでしょう……?」

コハル「流れ弾とか爆発とかが他の不良に当たって、仲間割れでも起こしたとか……?」

アズサ「……それも、あり得るけど――」

ハナコ「どの勢力も、決して一枚岩ではありませんからね。特にスラムの武装グループは」

 

 緊張の名残が微かに残る空気の中、そのとき、ひときわ緩い声が風に乗って聞こえてきた。

 

???「おーい、ようやく見つけたぞー……って、うお、なんか思ったよりボロボロじゃねーかお前ら」

 

 その声に全員が反応する。振り返れば、雑居ビルの陰からぬっと現れる白銀の髪。肩に木刀を担ぎ、面倒くさげに片手を上げながら歩いてくるその男――

 

桂「銀時……ようやく見つけたぞ」

 

銀時「ああ?」

 

 銀時の隣には、白い巨体――定春が、のっそりと従っていた。その存在感たるや、周囲の空気すら変えてしまうかのようで、どこかほっとするような、頼もしさがあった。

 

ヒフミ「銀さん……!」

 

 思わず声を上げて駆け寄るヒフミたち。だが、銀時は彼女たちを見るなり、明らかに「お前ら何やってたんだよ」的な顔で眉をひそめた。

 

銀時「いやいや、なんだその泥まみれのボロボロ具合。お前ら、何? 軍事訓練でもやってたの? それともどっかの傭兵にスカウトでもされたの? ……ていうか、俺の可愛い生徒たちがなんでここで命の綱渡りしてたの?」

 

コハル「かわいいって……嫌な事を押し付けようとした教師がよくそんなセリフ吐けたわね」

 

「いやいやいやいや、俺は“お前らに経験を積ませてやる”っていう、教育的観点からですね――」

 

 銀時がいつもの調子で弁解を口にした瞬間だった。

 

 カチリ、と金属のわずかな音。

 

アズサ「……皆、作戦行動中は静かに。それと、道路のど真ん中で立ち止まるのは感心しない。壁際に寄って、狙撃を警戒しよう」

 

 その声は普段よりも一段低く、鋭かった。咄嗟に全員が口を閉じ、言われるがまま壁際へと身を寄せる。

 

「え、あ……は、はい……!」

 

 ヒフミが戸惑いながらも従い、コハルも小声で「物騒すぎるってば……」と呟きつつ、警戒態勢に移った。アズサの視線は鋭く、先程背後から聞こえた銃声――車両の破壊――それが偶発的な混乱ではなく、明確な“狙撃”だったと理解していた。

 

(第一射が不良生徒を狙ったのは、味方の可能性がある……でも、油断は禁物)

 

 アズサは無言のまま、愛銃のグリップを強く握り締める。その指先には、かすかな緊張が滲んでいた。

 

アズサ「……どうも、街の様子が変だ」

 

ヒフミ「えっ、そう……ですか?」

 

 言われて周囲を見渡したヒフミの目に映るのは、どこまでも静まり返った街の姿だった。商店のシャッターはすべて閉ざされ、建物の窓は闇に沈んでいる。街灯が照らす舗道だけが、現実との繋がりをかろうじて保っているように見えた。時折、壊れかけの自販機の光がちらつき、蛍のように頼りない光を周囲に投げていた。

 

ヒフミ「……確かに、夜中とはいえ、人の気配が全くありませんね……?」

コハル「い、言われてみれば……」

 

 まるで、都市そのものが深呼吸を止め、音の一切を呑み込んでしまったかのような異様な静けさ。そんな中、カン、と乾いた音が一つ、路地の奥で響いた。

 

パンッ!

 

 明確な銃声。アズサは即座に地面に膝を突き、愛銃を構える。鋭く鋼を打つような目が、暗がりを捉えようと光を追った。

 

ヒフミ「今のは、銃声……?」

コハル「ど、どこかで戦闘が? 方向的には……スラムじゃないよね?」

 

アズサ「違う」

 

 アズサは耳を澄ませ、即座に否定する。さっきまで居たスラム街からは、もう十分以上の距離がある。仮に今、スラムで戦闘が起きていても、音がここまで届くことはあり得ない。今の銃声は、もっと近く――

 

ハナコ「音の方向的には――恐らく、こっちですね」

 

 ハナコが指差したのは、ゲヘナ中央区と外郭を結ぶ一本の大橋。ビルの谷間を縫うようにして伸びるアスファルトの道は、街灯に照らされて遥か向こうまで続いていた。

 

アズサ「……確か、目的地の第十五エリア、その最短ルートは此処を真っ直ぐの筈」

 

コハル「と、ということは……」

 

ヒフミ「銃声のする方に、行くしか……」

 

アズサ「そういうことになる」

 

 アズサの淡々とした口調に、コハルは露骨に顔をしかめた。ヒフミも唇を噛み、不安げにその道の先を見つめる。暗がりの中、街灯の灯りが一定間隔で並ぶ様は、まるで沈黙の監視者のようだった。

 

 だが――遠回りをする時間は、彼女たちにはもう残されていなかった。

 

 アズサは愛銃のマガジンを抜き、カチリと新しい弾倉へと換装する。その動作はまるで儀式のように静かで、正確だった。

 

アズサ「行こう。ここを越えれば、試験会場は目前だ」

 

ヒフミ(……試験に遅刻したら、目も当てられない……)

 

 ヒフミはその思いを胸に、大橋へと駆け出した。都市の静寂を切り裂くように、彼女たちの足音が闇の中に響いた。

 

 

 

桂「銀時、俺たちも行くぞ」

 

銀時「ちょっと待って、俺いま頭咥えられたままなんだけど?」

 

 定春が銀時の頭をがっつり咥えたまま、何故か誇らしげな顔でヒフミたちの後を追おうとしていた。

 

銀時「ていうかお前、さっきからずっと俺の頭がフロントガラスみたいに……あっ、引きずられてる、髪が、俺の髪があああ……!」

 

 銀時が定春の口の中から必死に抗議の声を上げるも、定春はお構いなしに歩を進める。

 

「ふぅ、結構長いですね、この橋……」

 

 ヒフミが足を止め、額に汗を浮かべながらぽつりと漏らす。その声は、深夜の大橋を渡る靴音に混ざって、微かに空へ溶けていった。

 

ハナコ「外郭地区と中央区を繋ぐ橋ですからね、それも仕方ありません」

 

ヒフミ「って……あれ、何か向こうに人が居ない?」

 

 橋の先に視線を向けたヒフミが、不意に眉を寄せた。

 

アズサ「えっと……検問、でしょうか?」

 

 橋の中程、道路に貼られた通行禁止の黄色テープ。その両脇にはゲヘナ風紀委員会の車両と制服姿の委員たちが並び、通行を厳しく監視している様子だった。赤と黒を基調としたその制服は、灯りの下でも凛々しく目を引いた。

 

ハナコ「まずいですね。トリニティーの生徒というだけで引っかかる恐れがあります。それに、ここには正義実現委員会のコハルちゃんが――」

 

コハル「あっ……!」

 

 思わず自分の胸元に視線を落としたコハル。そこにあるのは黒地に金の縁取りがされた、正義実現委員会の特別制服。一般生徒とは異なるそのデザインは、ひと目でその立場を物語っていた。

 

アズサ「どうしようか……」

 

ヒフミ「まずいです。このままじゃ試験に……間に合いませんよ」

 

 その時だった。

 

桂「ふっふっふっ……」

 

アズサ「桂、どうかしたのか?」

 

桂「“逃げの小太郎”の変装技術を舐めてもらっては困る」

 

 そう言って桂は一歩前に出ると、黒マントをひるがえすように物陰に姿を消した。

 

 

 

 ――そして数分後。

 

風紀委員会「止まれ! 此処から先は現在、立ち入り禁止だ!」

 

銀時「え、えぇ〜立ち入り禁止ですか〜?」

 

 やや間延びした声と共に姿を現したのは――銀一色に塗られたスーツに銀色帽子を被った謎の男だった。顔まで銀色に塗られ、ヒゲは明らかに黒マジックで描いたような代物。それでも何故か、堂々と歩いてくるその姿は自信に満ちていた。

 

 その後ろには、赤帽の男と同じような服装の――マリオ風の桂。さらに、緑の帽子と服を着た、妙に無言で堂々とした“ルイージ”――エリザベスが続く。

 

銀時「どうするよ、ヅラオー。このままじゃ、ゲヘナにさらわれた姫さん助けられねぇよ」

 

桂「ヅラオじゃない、カツオだ」

 

 力強く訂正しながら、桂はどこか誇らしげにポーズを決めた。風にひらめくマントの代わりに、安っぽい赤い布がぱたぱたと翻る。

 

物陰から:

 

コハル「何やってんのォォォ!!」

 

ヒフミ「ほんとにあれで大丈夫なんですか!? あれが、変装の名人がする変装なんですか!?」

 

 目を覆いながら、悲鳴交じりに声を上げるヒフミ。だが隣のアズサは、冷静な視線でその様子を観察していた。

 

アズサ「……よく出来てる。正体を知らなかったら、判断つかない」

 

コハル「いや、そんなマ●オもル◯ージも見たことないからッ!!」

 

 ひときわ大きなツッコミが、橋中に響き渡る。だが、変装三人衆はまるで動じる様子を見せなかった。

 

 

 

風紀委員会「◯ッパもクリ◯ーもここにはいない。今ゲヘナでは緊急事態が起きているんだ。茶番に付き合っている暇などない」

 

 その真っ当な返答に、一瞬沈黙する銀時。

 

 だが――すぐに、手に持った携帯端末を操作し、映像を風紀委員たちに見せつけた。

 

銀時「そう言わずに助けに行かせてくれよ〜。姫さんが助けを求めて叫んだんだよ、ホラ」

 

 画面に映し出されたのは、ピンク色のドレスを着せられたヒフミが、カメラの向こうで「カ〜ツオ〜!」と絶叫している映像だった。映像のブレと無理やりな演出が妙に生々しく、逆にリアリティを醸し出していた。

 

風紀委員会「……え、姫さん?」

 

風紀委員会B「というか、あのドレス着せられてる子……どっかで見たような……」

 

ーーーーーーーー

物陰

 

コハル「ヒフミィィィィ!!あの子もあっち側に行っちゃったなんて!!」

 

コハルは補習授業部の少ないまとも枠のヒフミまで銀時たちのような変態側に行っちゃったことを嘆いていた。

 

ハナコ「そういえばヒフミちゃんは?」

 

アズサ「ヒフミならーー」

 

「橋の向こう側でフーミ姫を演じてる。」

 

アズサの言うようにヒフミは橋の渡った先でヒフミは◯ーチ姫の格好をして映像をとっていた。

 

コハル「なんでよ!!向こうへ行ったならもうあれでいいじゃん!

なんであんな周りくどいことしてんのよ!?」

 

 

その時、ひときわ鋭い声が響いた。

 

???「なんだ?騒がしいぞ」

 

 靴音と共に現れたのは、夜風にも揺るがぬ気迫を纏った、長身の少女。銀色の瞳が射貫くように辺りを見渡し、肩に背負った巨大な武装が月明かりにきらりと光った。

 

風紀委員A「あっ、イオリ先輩!」

 

―――――

 

物陰。

 

アズサ「……誰だ?」

 

コハル「あれは――!」

 

ハナコ「ゲヘナ風紀委員会、切り込み隊長・銀鏡イオリさんですね。」

 

 

―――――

 

風紀委員A「イオリ先輩。さっきからこいつらが『クッ◯から姫様を助ける』だのなんだの言ってきて、全然話にならなくて……」

 

イオリ「……馬鹿なことを」

 

 イオリは眉をひそめ、無言で一歩前へ出る。そして、銀色の奇妙な男――銀時を睨みつけた。

 

イオリ「今、ゲヘナでは温泉開発部の連中が暴走していて風紀委員会はその鎮圧で手一杯だ。不審者を通す余裕などない」

 

「……というか、マリオとルイージはギリ分かる。だが、銀色のお前は何だ?」

 

 その指摘に、銀時が堂々と胸を張った。

 

銀時「えぇ〜? 俺? 俺はねぇ――メタルマリ◯、もとい“シルバーマリオ”でぇ〜す」

 

イオリ「シルバーマリオ?」

 

銀時「そうそう、シルバー帽子をかぶったらこうなっちゃったの。固くて重いけど心は優しい! フーミ姫の危機を聞いて駆けつけたヒーローってわけさ。な〜、ヅラオ?」

 

桂「ヅラオじゃない、カツオだ」

 

 その瞬間、空気が止まる。

 

物陰から:

 

コハル「何よシルバーマリオってえええええ!!! そんな設定どこにあんのよ!? あんなので突破できると思ってるの!?」

 

 頭を抱え、コハルが絶叫する。だが、それを意に介さず、風紀委員のひとりが真面目な顔で口を開いた。

 

風紀委員B「おい、こいつ……武器、銀色じゃないです。ブロンズです!!」

 

コハル「そこじゃないでしょォォォ!!」

 

「いやいやいや、何その鑑定眼!? 見るとこそこ!? 他にツッコむべきとこ、もっとあるでしょ!? てかそもそも、マリオ剣なんかないからね!?」

 

イオリ「……おい、シルバーマリオ。なぜ武器が銀じゃない?」

 

銀時「実はね……銀の値段が最近ずっと上がってて、買えなかったんだよ。だから……泣く泣くブロンズにして……」

 

物陰:

 

コハル「ちょっとォォォ!! なんでそこだけ現実味ある話してんのよ!!」

 

ハナコ「……確かに、ここ数年で銀の国際取引価格は上昇傾向ですね。けれど、同様に銅の価格も上がっていた筈です。少し待ってから購入すれば、銀製武器も視野に――」

 

コハル「その冷静な分析いらないから!! っていうかあれ、ブロンズじゃなくて木刀だから!!」

 

 視線の先、銀時が腰に差していたのは――どう見ても木刀。どこぞの土産物店で売っていそうな、“洞爺湖”と書かれた代物だった。

 

イオリ「……貴様、本当に姫を助けに来たのか?」

 

銀時「もちろんさ。例え武器がブロンズ刀でも木刀でもなんでも、姫さんのピンチとあらば――」

 

 そう言って、再び携帯をかざす。

 

画面内では、ドレスを着せられ、まるでゲームのヒロインのように叫ぶヒフミの姿が――。

 

ヒフミ(録画)『カ〜〜〜ツオ〜〜〜! 助けてぇぇぇぇ!!』

 

風紀委員C「うわ、なんか……演技が妙にうまいな……」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 どこか他人事のような声音が漏れた。

 

銀時「頼むよ〜ホラ〜姫さんが助け求めてるんだって〜」

 

 銀時が飄々とした口調で言うと、隣に立つ“マリオ”……否、“カツオ”がうっかり本音を漏らす。

 

銀時「なぁ〜ヅラ?」

 

桂「ヅラじゃない桂だ!じゃなかったカツオだ!!」

 

 桂の混乱っぷりが爆発する中、風紀委員の一人が苛立ちを露わにして声を張り上げた。

 

風紀委員「おいもういい加減にーー」

 

 その瞬間、誰よりも鋭く、冷静な声が割って入る。

 

スッ

 

イオリ「分かった。」

 

 それは、まるで騒然とした場に突然放り込まれた冷水のようだった。全員が思わずイオリの方を見る。

 

風紀委員「イオリ先輩!」

 

銀時「そうそうわかりゃいいんだよ。わかりゃ……」

 

 ようやく話が通じたかと安堵しかけた、その時だった。

 

――――――――――

 

物陰

 

コハル「え?上手く行っちゃった?え?あれでいいの!?」

 

 ぽかんとした表情で、コハルが思わず声を漏らす。

 

アズサ「やっぱりクッ◯って怪物の存在に恐れを成したのだろう。流石マリ◯だ。」

 

コハル「いや、クッ◯出てた?マリオ要素全然無かったでしょ!?」

 

 唇をひきつらせながら振り返るコハルに、ハナコが静かに指を指す。

 

ハナコ「見てください何か動きが……」

 

――――――――――

 

イオリ「私の足を舐めろ。」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 橋の空気が、またも凍りつく。風紀委員たちは目を見開き、銀時と桂もまばたきすら忘れていた。

 

――――――――――

 

物陰

 

コハル「はぁぁ!?あの人風紀委員なんだよね!?」

 

ハナコ「あらあら、風紀委員が自ら風紀を……」

 

アズサ「ふむ……」

 

 空気の重みに耐えきれず、言葉を選びかねる面々。だが、事態はそれで終わらなかった。

 

――――――――――

 

銀時「え?お前何言ってんの?」

 

 銀時が眉をひそめ、怪訝な顔でイオリを見返す。

 

イオリ「お前らが姫をそんなに助けたいならこれぐらいの事簡単に出来るだろ?」

 

『ふん。こんな得体の知れない奴を簡単に通すわけには行かない。どうせ出来やしなーー』

 

レロレロレロ

 

『ん?』

 

銀時&桂「レロレロレロレロレロレロ」

 

 その瞬間、銀時と桂が躊躇なくイオリの足元にしゃがみ込み、異様な速度と舌技で足元を舐め始めた。

 

風紀委員「な!?」

 

イオリ「な、な、な、何やってんだァァァァァ!?お前らァァァァァー!!!」

 

 あまりの行動にイオリが目を見開いて怒鳴りつける。

 

銀時「何って舐めてんだよ。舐めろって言っただろ?」

 

桂「姫様を助ける為にあらゆる配管から苦難を乗り越えた俺たちにとって足舐めなど取るに足らないものだ。」

 

銀時&桂「レロレロレロレロレロレロ」

 

 あまりに堂々とした舐めっぷりに、風紀委員も声を失う。

 

――――――――――

 

物陰

 

コハル「Hなのはダメ!!死刑ィィィィ!!」

 

 顔を真っ赤にして飛び出しそうになるコハルに、アズサが静かに言う。

 

アズサ「コハル……声が大きい」

 

コハル「あっ……」

 

ハナコ「もう遅かったみたいです。」

 

 コハルの悲鳴に呼応するように、場の視線が物陰に集中し始める。

 

――――――――――

 

銀時&桂「レロレロレロレロレロレロ」

 

イオリ「やめろォォォ!!」

 

 もはや耐え切れず、イオリは全力で銀時と桂を蹴り飛ばした。その一撃は重く、確実に的確に、二人を吹き飛ばす。

 

銀時&桂「ブフォ!!」

 

 宙を舞いながら悲鳴を上げ、数メートル後方に転がる銀時と桂。

 

イオリ「お、お前ら………」

 

 絶句するイオリに、銀時が呻きながら帽子を押さえる。

 

銀時「あっ帽子が……」

 

桂「髭が……髭……」

 

 道化た姿が次第に崩れていく中、決定打が投じられる。

 

風紀委員「イオリ先輩!物陰に正義実現委員会とトリニティーの生徒が!!」

 

イオリ「条約締結前にゲヘナ自治区に正義実現委員を派遣だと!? 正気かトリニティ!?」

 

 イオリの目が鋭く光り、状況が再び緊迫する。

 

ヒフミ(フーミ姫)「桂さん銀さん逃げますよ!!」

 

 まるで本当にヒロインのような台詞を放ち、ヒフミが叫ぶ。その隣に、白くて巨大な犬――定春が姿を現した。

 

定春「ワンワン!!」

 

 さらに、エリザベスが高くプラカードを掲げる。

 

エリザベス:『乗れ!!』

 

 まるで用意された脱出劇の一幕。銀時たちは、転がりながらもすぐに反応し、定春の背に跳び乗る。

 

 夜の道路を滑るように疾走する二つの影。定春にまたがる銀時と、その後ろを猛スピードで追いかけるスクーターに乗ったコハル。そしてエリザベスを駆る桂。その背後で、怒声と足音が地響きのように迫ってきた。

 

風紀委員「待てェェェ!!」

 

イオリ「逃さないぞ! あの変態どもォォォ!!」

 

 追いかけてくる風紀委員たちの怒りは尋常ではない。その筆頭たるイオリの顔には、もはや風紀という言葉がかすんで見えるほど、怒りと羞恥の混濁が刻まれていた。

 

 だが、そんな怒りを背中に感じながらも、銀時はどこ吹く風とばかりに定春の上で気怠げに振り返る。

 

銀時(定春に乗りながら)「全く、ギャーギャーやかましい奴だなオイ」

 

 その気の抜けた一言に、後方から突っ込みが飛ぶ。

 

コハル(スクーターで追いながら)「いやいや、足を舐めた変態教師が何言ってんの!!」

 

 全身からツッコミオーラを撒き散らすコハルに対し、銀時はきょとんとした表情で答える。

 

銀時「え?俺たち舐めてねぇよ?」

 

コハル「え?」

 

 思わずスクーターのハンドルがぐらつくほど、予想外の返答に虚を突かれるコハル。その瞬間、桂が颯爽とエリザベスの背から声を張り上げた。

 

桂(エリザベスに乗りながら)「あれはな、以前コラボした斉木楠雄の◯難の主人公の父から習った、足を舐めるフリをしてその下で丁寧に気付かれないように足磨きをする技術だ。」

 

コハル「どんな技術よ!!」

 

 怒りより先に困惑が勝る絶叫が響き渡る。夜風が妙に冷たく感じられたのは気のせいか。

 

銀時「おいおい、10年間の社会生活で唯一培ったスキルだってのに、そんな言い方はねぇだろ?」

 

コハル「いや、そんなスキル使い道ないし! というかよくそれで生きていけたわね!?」

 

 会話の応酬が飛び交う中、ふとヒフミが上空を見上げて叫んだ。

 

ヒフミ「というか爆撃凄すぎませんか!?」

 

 その言葉が終わるよりも早く――

 

 ドンッ!!

 

 目の前で、まるで映画のクライマックスのような盛大な爆発が巻き起こった。

 

 耳を打つ鋭い金属音、空を切るような放物線。そして、何かの投擲物が弧を描いて着弾したのは、まさに風紀委員たちの中心だった。

 

 その直後、炎と轟音が空を裂き、車両や街路の照明ごと一帯を飲み込む。

 

「のわぁぁあッ!?」

「ぐああぁあッ!?」

 

 風紀委員の面々が宙に吹き飛ばされ、激しくアスファルトへと叩きつけられていく。砂塵が舞い、赤い火花が乱反射する中、ヒフミの顔は一気に蒼白となった。

 

 そして隣にいたアズサの腕を、ほぼ反射的に掴む。

 

ヒフミ「あ、アズサちゃんんんっ!?」

 

アズサ「……い、いや、ヒフミ、待って、私は手を出していない」

 

 アズサは冷静さを保ちつつも、額に一筋の汗を浮かべる。

 

ハナコ「……そうですね、今の攻撃、私達の後方から飛んできました。一体誰が――」

 

 その疑問に答えるように、背後からタイヤが焦げる音とともに――**キィィィィィーーッッ!!**と甲高いブレーキ音が夜の道を切り裂いた。

 

 見れば、一台の車両が物凄いドリフトと共に横滑りしながら現れた。猛煙と共にブレーキを踏み込み、停止した車体の側面には、大きく『給食』と書かれていた。

 

その車両から降り立つ影。それは、見慣れた――いや、忘れようにも忘れられない、黒を基調とした制服に身を包んだ、美食の求道者たちだった。

 

???「あら☆ やっぱり銀さんでしたかっ!」

 

 月明かりを背に、朗らかな笑みと星を飛ばしながら声をかける少女――アカリ。その背後でドリフトしたタイヤの跡が煙を上げる。

 

???「大当たりでしたわね、ご機嫌よう銀さん――こんな時間に、一体なにをなさっているので?」

 

 助手席のドアがゆっくりと開き、月の下に佇むのはハルナ。涼やかな微笑みを浮かべ、優雅な所作で愛銃を肩に担ぐ姿は、まるで暗闇に咲く鉄火の花のようだった。

 

銀時「お前らは、マグロ研究会!!」

 

ジュンコ(後部座席から飛び出しながら)「**美食研究会!!**名前くらい覚えてよ!!!」

 

 その叫びに、補習授業部の面々が一斉に振り返る。空気が一変するのを感じた。まるで、コントが始まる直前の静寂のような緊張と、不穏な期待。

 

コハル「あ、あれ!? 確かこの間戦った、ゲヘナの――!?」

 

ハナコ「あら、アクアリウムを襲撃した……」

 

 二人の声が重なる中、ハルナが微笑みながら言葉を滑らせる。その口調はいつも通り丁寧で穏やか――だが、どこか“重要な部分”を軽やかにスルーしていた。

 

ハルナ「まぁ、それについて忘れていただきましょう。」

 

ハルナ「銀さん、ここはあの時の借りを返させてください」

 

銀時「じゃあ、あの現実でもここでも足を強調してくるあいつら足止めしてんくんない?」

 

ハルナ「えぇ、喜んで――と云いたい所ですが、タイミングが悪かったですわね……この辺りは今、それなりに大きな騒動になっていまして」

 

銀時「そ、騒動……?」

 

 銀時の問いに、今度はハンドルを握っていたアカリが、にこりと無邪気に微笑みながら人差し指を立てた。まるで授業中の優等生のように、楽しげに答える。

 

アカリ「はい、温泉開発部が市街地のど真ん中をドカン☆ と爆発させたとかで、兎に角滅茶苦茶な状態なんですよ~」

 

ハルナ「そのせいで風紀委員会も慌ただしく動いている状態でして……まぁ、その機に乗じて風紀委員会の牢屋から抜け出せたのですけれど、ふふっ♪」

 

 言いながら笑うハルナの背中からは、まるで散歩帰りのような穏やかさが滲み出ていたが、内容は普通に脱獄である。

 

コハル「そ、それは、何と云うか……」

 

 その説明に、コハルの表情が引き攣る。表向きは平静を装っているが、内心は赤信号。ヒフミに至っては、口元を押さえながら何度も瞬きをしていた。

 

 ――もしかしなくても、この人達、ヤバいのでは?

 

 ヒフミの脳裏に警報が鳴り響く。ゲヘナという名前に、地理的意味ではなく**“魔窟”という地獄のイメージ**が刻み込まれ始めていた。

 

 そして、さらなる衝撃が追い討ちのように襲いかかる。

 

アカリ「それに非常事態という事もあって、またしてもその場に偶然居合わせた給食部のフウカさんが、部の車を快く貸し出してくれまして☆」

 

「んんッ!? んーっ! んんーッ!?」

 

 トランクの中から、布で口を塞がれ、ロープでぐるぐる巻きにされた少女――フウカが飛び出しそうな勢いで身を捩らせていた。その目は全力で否定している。叫んでいる。「貸してねぇ!!!」

 

アカリ「新調したばかりの車を貸し出してくれるなんて……これぞ美しい友情という奴ですね☆」

 

ヒフミ「……その友情のお相手、縛られたままトランクに積まれていませんか?」

 

 涼やかな一言が、夜の空気に妙な重みを加える。ハルナが黙り込んだ。いや、皆が黙った。沈黙の中で、再び星を飛ばすアカリ。友情とは、時に手段を問わぬ支配である。

 

銀時「おい、また強奪したよね? ゴリラに追いかけられるのもう嫌なんだけどー?」

 

 銀時の口から自然に出る「また」の一言が、これまでの経緯すら暗示していた。

 

ハルナ「問題ありませんわ、フウカさんはこういった事に慣れていらっしゃいますので」

 

アカリ「もはや専門家といっても過言ではありませんね!」

 

銀時「そんな事はどうでもいいんだよ!! あのゴリラ(お妙)に殺されるって話をしてんの!!」

 

 彼の叫びは、ゲヘナの狂気と、お妙の鉄拳制裁のどちらが恐ろしいのか分からないほど切実だった。

 

 静まり返った夜の道に、再び“ヤバさ”という名の火種が投下される――しかも今度は複数同時に。

 

 

ドォォォォン!!

 

 耳をつんざく爆音と共に、視界を埋め尽くすような火柱がビルの間から立ち昇った。

 

ヒフミ「銀さん!! こんな話をしている場合じゃ……!」

 

 炎に照らされたヒフミの顔は青褪め、開かれた眼が震えていた。その背後では、爆風に煽られてアスファルトが割れ、街路樹が軋みを上げて倒れる。

 

銀時「いやマジで、またかよ……爆発多すぎねぇ?」

 

銀時「西◯警察並みの爆発量だよコレェ」

 

 既に常軌を逸した爆発の数々に、銀時は若干うんざりしつつも、どこか慣れた口調で毒を吐く。その横で、建物の外壁が音を立てて崩れ始め、瓦礫がまるで雨のように降り注いだ。

 

コハル「ちょっと!!あのビル傾いてません!?」

 

ヒフミの叫びにアカリがケロリとした表情で手を叩いた。

 

アカリ「どうやら私たち、またしても“やりすぎた”みたいですね~☆」

 

ハルナ「落ち着いてください、アカリさん。こういう時こそ冷静に――そして迅速に逃げるべきですわ」

 

銀時「そう言うこと。逃げるが勝ちってな」

 

 そう言うや否や、銀時は腰の木刀を片手で抱え直し、定春をひょいと背に飛び乗る。その目が真剣に細められ、次の爆発音を待つように風を読む。

 

銀時「よし、全員そのまま走れッ!!お前ら、全員まとめて逃走のプロ・銀時様の後に続きやがれェ!!」

 

アカリ「は~い☆ 銀さんのあとにゾロゾロ~っと☆」

 

ジュンコ「言い方ぁ!!」

 

 バイク、車両、定春、そして銀時を先頭に、即席の逃走チームが結成される。

 

 背後ではさらにもう一発、火の玉が夜空を焦がし――

 

ドォォォォン!!!

 

 ――空間が揺れる。黒煙が這うように街を包み込む中、彼らはビルの影をすり抜け、炎の合間を突き進む。あまりにも爆発が多すぎて、もはや爆風を利用した加速まで行う銀時の妙技が冴え渡る。

 

ヒフミ「えぇ!? 爆風使って加速ってそんな漫画みたいな!?」

 

銀時「小説だからいいんだよぉォ!!」

 

 叫びながら、銀時のスクーターは空中を跳ね、ビルの影へと姿を消していく。その後を追うように、美食研究会と補習授業部も市街地の夜を疾走する。

 

 混沌と炎の向こう――誰もが予想だにしなかった新たな嵐が待ち構えているとも知らずに。

 

 

 

 

 

――次回、『追走の美食と爆炎の罠には気をつけて』へ続く。

 

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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