透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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もうカオスがすぎるって……

マリオネタ多くない?

いや、多いよ。

だって根っからの弁天堂派だから

ーーーーーーー
あと百花繚乱のアヤメさん。まだストーリー見てないのですが……

「最初からあんたを友達だと思ったことなんてない」のセリフ……

ナグサを助けるためについた嘘なんじゃないかな〜と私は思ってるんですけど……どうなんですかね。

そうじゃないと私のストーリー困るんですけど……


第九十二訓 追走の美食と爆炎の罠には気をつけて

ヒフミ

「し、試験会場は、ここ……?」

「み、みたいです、ね……」

 

 おそるおそる顔を上げた先にあったのは、まるで時間に置き去りにされたような朽ち果てた廃屋だった。

 屋根は半ば崩れ、窓ガラスは粉々。扉には「立入禁止」と書かれたプレートが斜めにぶら下がり、軋む風が鉄骨を揺らすたびに不気味な音が響く。

 

 周囲を見渡せば、どの建物も似たり寄ったりの荒れ果てた有様。落書きとガレキが無造作に積まれ、まるでポストアポカリプスのロケ地のような光景が広がっていた。

 

桂「こんなところが試験会場とは……。どれだけ我々を愚弄しているのか分かったものではないな」

 

 肩を怒らせる桂の声には怒気が滲むが、それ以上に周囲との不釣り合いな真面目さが際立っていた。

 

銀時「ホントだよ。俺たちがどれだけ苦労してスーパーカツ◯ブラザーズ最終ステージをクリアしたと思ってんだ」

 

 肩肘をつきながら、銀時が真顔でそうぼやくと、その場に妙な空気が流れる。

 

 ……その瞬間。

 

コハル「……」

 

コハルはワナワナと体を震わせている。その様子を不思議に思ったアズサが

 

アズサ「ん? コハル、どうしたんだ?」

 

 無表情ながら微かに眉を寄せ、問いかける。

 

ハナコ「あら? もしかして……」

 

「夜の誘惑が溜まって――」

 

コハル「んなわけないしょォォォ!!!!!」

バッコン!!!

 ハナコの顔面に炸裂する、正義のアッパー!

 

ヒフミ「ハナコさんンンンンン!!!!!」

 間髪入れず、ヒフミの悲鳴がこだまする!

 

銀時「おいピンク頭!!どういうつもりだ!!?」

 

コハル「どういうつもりだ!?じゃないでしょ!!」

 興奮気味に詰め寄るコハルの目が鋭く光る。

 

コハル「橋での戦闘シーンは!? タイトルにもあるじゃないのよ!」

 

「『追走の美食と爆炎の罠』って!!!!!」

 

「またタイトル詐欺でもするつもり!? あんた銀魂の時の終わる終わる詐欺で学ばなかったの!!?」

 

銀時「え? あの橋ステージは――」

 

 唐突に視界がホワイトアウト。

 

 次の瞬間、ゲーム画面風の回想が始まる。

 8ビット調の銀時が橋の上を疾走し、巨大な斧で「橋をブンッ!

 グラリと揺れる吊り橋の鎖。

 ガシャーンッ!!!

 

 下から煮えたぎる溶岩がゴボゴボと泡を吹き、落ちていくのはピクセル化された風紀委員会の面々。

 

 ……回想、終了。

 

銀時「斧を取った後、橋を落としてあいつらを溶岩の海に落としただろうが」

 

コハル「じゃないでしょォォォ!!!!!!」

 

 渾身のツッコミが廃墟の街路に木霊する。

 

 コンクリートの壁に反響しながら、物語そのものを揺さぶるような怒声。

 ヒフミは額を押さえ、ハナコは鼻を押さえ、アズサは黙っていたが、明らかに目の前の現実に対して何かしらのコメントを飲み込んでいた。

 

「回想シーンのアレ、完全にスーパーマリオのクッ◯を倒す時のアレじゃないの!?」

 

「マリオはもう良いって言ってるでしょ!?今さらそのネタ擦ってどうすんのよ!!」

 

 怒りに任せて振り上げた指が空を切る。コハルの声は泣き笑いの混じったトーンで、もはやこの状況のメチャクチャさに言葉が追いついていなかった。

 

 

 

「それにーー」

 

 再び言葉を繋ごうとするその瞬間、脳裏に浮かぶのはあの光景。

 

 燃え上がる吊り橋。川面に落ちてゆく仲間たち。

 

 

 

コハル

「協力してくれた美食研究会のあの人たちも、川に落ちちゃったでしょ!!」

 

「それはどうしたのよ!!!」

 

 

 

ヒフミ

「そ、そうですね……」

 

「ハルナさん、親指を立てながら沈んでいきましたが……」

 

 思い出したのか、ヒフミの顔が少し切なげに曇る。

 

 確かにハルナは、最後の最後、沈みゆく水面の中で――まるで映画のラストシーンのように――濡れた手を掲げて、グッと親指を立てていた。

 まるで彼女なりの「使命を全うした」サインだったのかもしれない。

 

 

 

銀時

「……もう言うな。奴らの死を無駄にするな」

 

 重々しい声で、銀時がゆっくりと前を見据える。

 

 目元に影を落としながら、口元だけが静かに動いた。

 

 

 

銀時

「俺たちがするべきは、この試験で満点とって……」

 

「あいつらの墓標に答案用紙をお供えすることだ」

 

 

 

 風が吹いた。どこからか紙くずが一枚、ヒラリと舞う。

 まるで試験の答案用紙を模したその紙が、風に乗って、消えていくように――

 

 

 

コハル

「勝手に殺さないの!!」

 

「それでもアンタ先生!?!?!?」

 

 

 

 血管が浮かび上がるほどの全力ツッコミ。

 だが銀時は、その怒号すらもどこ吹く風といった様子で背中を向けたまま。

 

ハナコ

「まぁまぁコハルちゃん。ボケとツッコミはそこまでにしておいて、中に入りましょ?」

 

 

 

 肩を軽くすくめながらハナコが促すと、一同は半ば不安そうな面持ちで廃屋の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

ヒフミ

「中は……ほ、本当に“廃墟”って感じですね?」

 

 

 

 扉が軋む音とともに開かれたその空間は、まさに“使われなくなった”という言葉の具現だった。

 薄暗く、埃が舞い、床には経年で剥がれた床材が散乱し、壁の塗装は所々剥げ落ちている。落書きまみれの壁には、「〇〇参上」やら「青春無罪」やらと、微妙に方向性の異なるスローガンが乱雑に刻まれていた。

 

 

 

アズサ

「でも、一応机はある……」

 

 

 

 薄闇に浮かび上がる木製の机と椅子たち。そのほとんどが傷だらけで、ひとつとして真っ直ぐに立っていない。

 だが、形としては確かに“教室”であった。

 

 

 

ヒフミ

「うぅ……暗くてよく見えないんですけど……」

 

 

 

 窓ガラスは煤け、外光すらも室内に届かない。壁の電灯は点く気配もなく、唯一目についたのは、机の隅に置かれたレトロなライトスタンド。

 

 

 

ハナコ

「あら、でも……これ、点くのでしょうか」

(カチ、という音)

 

コハル「――あ、点いた。手元だけ照らせってことみたいね」

 

 

 

ヒフミ

 

「これで手元を照らせって事でしょうか……あ、試験用紙とかはどうなるんでしょうか? 誰か、銀さん以外の監督の方が……?」

 

 

 

 一瞬、教室内に疑問と沈黙が流れる。

 

 

 

銀時

「え?俺ってそんなに信用ねぇの?」

 

 

 

 ちょっと残念そうに言う銀時に、ヒフミが微妙な笑みを浮かべて誤魔化そうとするが――

 

 

 

ヒフミ

「いや、そういうことじゃなくてですね……」

 

 

 

 ――その時。

 

 

 

アズサ

「……ん?」

 

 

 

 ふと銀時たちが教卓の裏側に回る。薄暗い中で手探りに近い探索の末、何かが床に転がっているのを見つけた。

 

 

 

銀時

「おい、これ……なんかあるぞ?」

 

 

 

 乾いた音を立てて、銀時が手に取ったのは金属の円筒形。ずしりと重く、古びていながらも鋭利な存在感を放つ。

 

 

「むっ、アズサ殿、あれは――」

 

 

 

アズサ

「ふむ。不発弾……だろうな。見覚えがある」

 

 

 

ヒフミ

「これは……L118。牽引式榴弾砲の弾頭、ですかね……」

 

 

 

 重苦しい空気が一気に場を支配する。床に転がったその異物は、かつての戦場を思わせるリアリティを宿していた。

 

 

 

エリザベス(プラカード)

《不発弾? L118?》

 

 

 

ハナコ

「L118……という事は、ティーパーティー――つまりナギサさんからの“メッセージ”の可能性が高いですね」

 

 

 

 まるで、ここがただの試験会場ではないと告げるかのように。

 ナギサの名前が口にされた瞬間、机の上のライトがチカチカと明滅した。

 

 まるで警告のように。

 あるいは、誰かが見ているという兆しのように――。

 

桂が手を伸ばしかけた瞬間、その前に白い手がすっと翳される。静かだが、明確な拒絶の意思を孕んだその仕草に、桂は思わず動きを止めた。

 

 

 

アズサ「――桂、トラップがあったらいけない。私が開ける。念のため、離れていて」

 

 

 

 声音は冷たく、鋼のように硬い。

 桂は一瞬だけ視線を泳がせたが、すぐに頷いて数歩退く。

 

 

 

桂「……なるほど、餅は餅屋に、ということだな」

 

 

 

 その言葉に、ヒフミとコハルも気配を察して距離を取った。ハナコが一歩前に出て、自然とアズサの背後に銀時たちをかばうように立つ。

 彼女たちにはヘイローがある。いくら銀さんたちが強いといえ人間である銀時たちは、爆発や攻撃へのある程度の耐性がない。言葉にはしないが、その立ち位置には明確な「護る」意志があった。

 

 

 

 アズサは全員の位置を目視で確認すると、深く息を吸い、そっと榴弾に手を掛けた。

 

 

 

アズサ「……うん、大丈夫そう。炸薬も雷管も抜かれている。弾殻だけの張りぼてのようだ」

 

 

 

 中空に向けての言葉は、警戒から解放された安堵の呼吸へと変わっていた。

 

 

 

ヒフミ「そ、そうですか……よ、良かったぁ……」

 

 

 

銀時「なんだよ。驚かせやがって。心臓に悪ぃっての」

 

 

 

ハナコ「となると、完全に“メッセージボックス”の役割、という事でしょうか」

 

 

 

 ホッとした空気が流れると同時に、部屋の外で耳をそばだてていた補習授業部の面々が、安堵と興味の入り混じった顔で中へと駆け寄ってきた。

 

 

 

 アズサが開いた榴弾の中には、紙束がいくつか丸められ、テープで固定されていた。奥には金属の反射――何か小型の端末のようなものが見える。

 

 

 

ヒフミ「中に紙が……! これが試験用紙という事ですね!」

 

 

 

アズサ「……そのようだな。だが――むっ、これは通信機か?」

 

 

 

 彼女はライトスタンドの明かりを紙束に向けながら、端末を慎重に取り出す。金属の重みと冷たさが指先に伝わり、アズサは無言でそれを観察する。

 

 

 

 やがて危険性がないと判断すると、端末の電源を押した。

 

 

 

 静寂を破るように、淡い光が端末から溢れる。

 浮かび上がったのは、立体映像――ホログラムだった。

 

 

 

 暗い教室に明滅するそれは、まるで亡霊のように浮かび上がり、次の瞬間には紅茶を手にしたひとりの少女の姿が現れた。

 

 

 

ナギサ『――これを見ているという事は、無事に到着されたようですね』

 

 

 

ヒフミ「な、ナギサ様……!?」

 

 

 

ハナコ「………」

 

 

 

コハル「えっ、この方が……ティーパーティーの……?」

 

 

 

 ホログラムは微かにノイズを走らせながらも、その姿は確かにナギサのものだった。

 完璧に整えられた髪、優雅な身のこなし。ティーカップを傾け、ほのかに笑うその顔は、優美でありながらもどこか底知れない気配を纏っている。

 

 

 

ナギサ『ふふっ……恨み辛みの声が聞こえてきそうですね――まぁこれは録画映像なので、リアルタイムでの意思疎通は不可能です。今の私に何を訴えても無意味で――』

 

 

 

銀時「定春」

 

桂「エリザベス」

 

 

 

 その言葉を遮るように、ふたりの声が静かに響いた。

 

 

 

 次の瞬間――ドォン!

 

 

 

 定春の足が地を蹴り、エリザベスが無言で前進。ホログラムを映していた不発弾に向けて、それぞれ容赦なく拳と肉球を叩き込んだ。

 

 

 

エリザベス(プラカード)

《フン!》

 

 

 

定春「バウ!」

 

 

 

 大音量の衝撃が教室に反響し、ホログラムが一瞬で掻き消える。

 

 

 

『…………』

 

 

 

 空間に残されたのは沈黙のみ。

 

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 

銀時「よし、コレであの腹立つ演説を聞かなくて済むな」

 

 

 

ヒフミ「な、な、何をやってるんですかおのれはァァァ!!?」

 

 

 

桂「ん?何だヒフミ殿」

 

 

 

ヒフミ「何、ホログラムの相手にムカついて本体攻撃してんですか!?」

 

「これじゃ受験要項などの説明がないじゃないですか!?」

 

 

 

銀時「いやぁ、攻撃っていうほどじゃねぇよ? ちょっと小突いただけだよ。なー定春?」

 

 

 

定春「ワン!」

 

 

 

ヒフミ「いや、全然ちょっとじゃない! 全然ちょっとじゃないですよ!」

 

「だって“ドォン”って音しましたもん!!」

 

「お二方、明らかにオーラ纏ってましたもん!!!」

 

銀時「うるせ〜な〜……どうせ監視カメラで観察してんだろ?」

 

 教卓の上に胡坐をかいていた銀時が、ダルそうに天井を見上げながら鼻を鳴らす。

 その目線の先、壁の角に据え付けられたレンズのような小さな装置が、鈍く反射していた。

 

 

 

「もう良いって、アイツの“優雅なひとときアピール”。」

 

「本性現してロールケーキ持って、なんでも破壊する暴力ゴリラと追いかけっこでもしてろっての」

 

 

 

コハル「ティーパーティーってそんな物騒なところなの!?」

 

 

 

 銀時の毒舌に、コハルの声が裏返る。突拍子のない比喩にツッコミを入れる気力すら、どこか削がれかけていた。

 

 

 

アズサ「……まぁ、過ぎたことは仕方ない。もう時間がないから席に着こう」

 

 

 

 冷静なアズサの言葉が、空気に一本の芯を通す。

 皆の動きが、少しずつ統一されていく。

 

 

 

 不安、疑問、苛立ち、緊張――様々な感情が胸の奥をざわつかせる中、補習授業部の面々はそれでも席に着く。

 時計の針は、既に**“それ”**が迫っていることを告げていた。

 ――第二次特別学力試験、開始まで五分。

 

 

 

 机の上に置かれた小さなスタンドライトが、弱々しく手元を照らす。

 まるで暗闇に点された希望の灯火のように、揺れる光の下で彼女たちは静かに筆記具を取り出した。

 

 

 

 銀時は教卓に立ち、テープで束ねられていた用紙の封を切る。

 紙の擦れる音が教室に響き、張り詰めた緊張が更に高まっていく。

 

 

 

銀時「問題用紙は……こっちか――よし、テメェら、さっさと筆記用具だけを出して席につきやがれ」

 

 

 

 声に、ピンと空気が張り詰める。

 問題と解答用紙を一枚ずつ手渡していく銀時の動きはいつになく真剣で、どこか教師らしさすら感じさせた。

 

 

 

 だがその視線の先――生徒たちの様子は、お世辞にも万全とは言えなかった。

 

 

 

 ヒフミの胸には未だ消えぬ疲労の痕。

 コハルの指は小刻みに震えていた。

 ハナコとアズサは、見た目こそ冷静だが、その目の奥にはわずかに緊張の色が浮かぶ。

 

 

 

 思い出すのは、合宿で過ごした日々。汗と涙、時には笑いに包まれた時間。

 ――あの一週間を、無駄にはしたくない。

 

 

 

 教卓の上の時計の秒針が、静かに“最後の一分”を刻む。

 

 

 

銀時「おいおい、これからが本番だってのに、ぎこちねーなーおい」

 

「入学式当日のガキですか〜コノヤロー」

 

 

 

コハル「き、緊張するに決まってるじゃない!!」

 

「だって試験はあと二回しか……!」

 

 

 

銀時「二回“しか”ないってか?」

 

 

 

 ピタリと空気が止まる。

 銀時は口元の棒付き飴を指で弾きながら、少し視線を落とした。

 

 

 

銀時「いいか、テメェら……何を不安に思うことがあるよ?」

 

 

 

 その声はいつもより低く、どこか温かい。

 

 

 

「人間ってもんはな――背伸びしようとしても、背伸びできねぇんだよ」

 

「自分の力より下の結果が出ることはあるが、上の結果が出ることなんざ、滅多にねぇ」

 

「だからって無理に合格しようなんて思うな。そんなことばっか考えてたら、出来るもんも出来なくなる」

 

 

 

 彼の言葉が、静かに、だが確かに彼女たちの心に届いていく。

 

 

 

「今持ってる力を、全力で発揮することだけ考えやがれ」

 

「……コレが最後じゃねぇんだからよ」

 

 

 

コハル「……先生」

 

「わ、分かった!」

 

 

 

 目に力が戻ったコハルが、歯を食いしばる。

 ヒフミはそっと胸に手を当てて、深く息を吐いた。

 ハナコが小さく笑い、アズサはわずかに頷いた。

 

 

 

 高く聳え立つ壁。

 理不尽で、冷酷で、容赦がない。

 でも――乗り越える価値がある。アズサが言ったように、今は嘆く時ではない。ぶつけるのだ。学んだすべてを、この一時間に。

 

 

 

 補習授業部の皆が、手元のペンをしっかりと握りしめた。

 ライトの光が紙の上に広がる。

 秒針が、最後の一刻を打つ。

 

 

 

 桂が片手を静かに上げた。

 

 

 

桂「よし、それじゃあ第二次特別学力試験――開始!」

 

 

 

 その瞬間、教室の中で紙の音が一斉に響く。

 問題用紙が裏返される音が、まるで戦場の号砲のように静寂を打ち破った――。

 

 

「で、此処が……例の場所?」

 

「うん。住所的には合ってる……ここから、あそこまで全部だね」

 

 

 

 その場所は、灰色の風が吹く死地だった。

 朽ち果てた建物の骸骨が並び、風が割れた窓を吹き抜けては、哀しげな笛のような音を奏でていた。

 ――廃墟街・外周。

 

 

 

 並ぶトラックの荷台には、きっちりと積まれた木箱が山のように詰められていた。

 温泉開発部の生徒たちが端末を手に、それぞれ散開しながら土地を確認する。

 画面に浮かぶのは、つい数時間前、匿名で送られてきた『温泉開発候補地』のマーク――赤い円が、この死の街を中心に大きく描かれている。

 

 

 

「へへっ、どこからの情報かは知らねーけどよ……親切な奴もいたもんだ! 温泉の場所、丁寧に教えてくれるなんてよ!」

 

 

 

 そう叫んだ誰かの声を皮切りに、部員たちが一斉に駆け出す。

 足元のアスファルトにブーツが弾む音、カチリと爆薬を嵌める金属音。

 躊躇も、疑念も無い。

 彼女たちは信じている――温泉が「そこにある」と。

 

 

 

 ビルの影に、瓦礫の隙間に、地下の崩れかけた通路にまで、容赦なく設置されていく爆薬たち。

 彼女たちにとって、情報源の信頼性など塵芥。

 可能性が、ほんのひとひらでもあるならば、それは即ち「掘削」の理由になる。

 

 

 

 例えそこがゲヘナの中心街だろうと、トリニティの聖堂の下だろうと、はたまた風紀委員の管轄区域だろうと――関係ない。

 

 

 

 ――そこに、温泉があるかもしれないから。

 

 

 

「――あ、そうだ! どうせならさ、持ってきた爆薬、ぜんぶ使っちゃおっか!」

 

「は!? マジで!? それ天才じゃん!? ド派手に火花が散る中で温泉が湧き出すとかさ……もう、ロマンの塊!」

 

「よっしゃああ! 火薬マシマシで行くぞ! 倍の倍の倍でぇッ!」

 

 

 

 掛け声と共に、次から次へと追加で積まれる爆薬。

 重みで軋むトラック、煙を噴き上げながら到着する増援の荷車。

 やがて廃墟街は、まるで軍事演習地のような様相を呈し始める。

 ――いや、もはやこれは「開発」ではない。爆撃である。

 

 

 

 それでも、部員たちの顔は満ち足りていた。

 巨大な爆発の中、熱泉が天へと吹き上がる……その幻想を、誰もが信じて疑っていなかった。

 火薬の匂いと夢の香りが、同じ比率でこの空間を支配していた。

 

 

 

「よぉし、発破準備完了ォッ!」

 

「全員退避ィィィィ! 巻き込まれたら温泉どころか灰になるぞッ!」

 

「旅館建てんぞ~~~ッ! まずは更地からだ~~~ッ!」

 

 

 

 狂気と情熱が入り混じった咆哮が響き渡る。

 部員たちは廃墟街から慌ただしく退避し、外周の崩れかけた壁や鉄骨の陰に身を潜める。

 彼女たちの目は輝き、呼吸は荒く、頬は紅潮していた。

 誰かが手にした発破装置が、緊張の中で高く掲げられる。

 

 

 

「――発破ッ!!」

 

 

 

 指がボタンを押した瞬間――

 

 

 

 地鳴り。

 空気が一瞬、張り詰めたように沈黙し――

 直後、爆音。

 

 

 

 廃墟街が、燃えた。

 

 

 

 音は雷鳴、光は閃光、風は嵐。

 あらゆる感覚が一瞬で塗り潰され、地面が震え、空が赤黒く染まる。

 

 

 

 黒煙が吹き上がり、瓦礫が粉塵となって巻き上がる。

 建物は次々と崩れ、風圧に押されてトラックすら浮き上がる。

 まるで地獄の口が開いたように、都市の一角が**“消失”**した。

 

 

 

 そしてその爆煙の只中にあったのは――

 

 

 

 補習授業部のいた建物だった。

 

 

 

「ごほっ……ゴホッ! けほっ……う、ぅ、一体、何が――?」

 

 砂埃と煤煙が充満する空気の中、ヒフミのか細い声がかすかに響いた。灰色の世界で、彼女は崩れ落ちた机の下から這い出る。制服は焼け焦げ、髪には粉塵が絡みつき、ペロロバッグを抱きしめる手にも細かな傷が浮かんでいた。焼け焦げた書類、砕けたガラス、捻じ曲がった金属――それらが無数に散らばる地面の上に、彼女の膝が音もなく沈む。

 

「み、皆さん……ご無事で……?」

 

 目を見開いた瞬間、言葉が喉の奥で凍り付く。先程まで「部屋」と呼べたその場所は、もはや瓦礫と炎の坩堝へと姿を変えていた。壁は吹き飛び、天井は崩落し、床は無残なほどに抉れている。その全てが、地獄めいた一瞬で変貌を遂げたのだ。

 

 その中で、ヒフミの意識を急激に支配したのは――仲間の安否だった。

 

「銀さん……! 桂さん……エリザベス様ぁッ……! どこですか――!!」

 

 胸の内から突き上げる焦燥に突き動かされ、ヒフミは焼けた瓦礫を跳ね除け、砂塵の中を駆け出す。目には涙が滲み、声は掠れ、呼吸する度に肺が焼けるようだった。それでも構わなかった。今ここで立ち止まることの方が、よほど怖かった。

 

 そんな彼女の傍で、不意に瓦礫の山が微かに蠢く。

 

「っ、ぎん――!?」

 

「けっほっ、コホッ……! うぅ……」

 

 顔を出したのは――コハルだった。煤と埃にまみれた顔で、咳き込みながら這い出てくる。その姿は痛々しくも、生きているという事実が何よりも救いだった。

 

「コハルちゃん……無事だったんですね!」

 

「ヒフミ……? な、なに、ここ……一体、何が起きたの……?」

 

 掠れた声、揺れる瞳。立ち上がったコハルは、まるで夢でも見ているように周囲を見回し、そして現実の惨状に言葉を失った。

 

「建物が、全部……消えてる……?」

 

 コハルの言葉は、すぐにヒフミの慟哭でかき消された。

 

「銀さんがいないんです! 桂さんたちも……! お願い、コハルちゃん、一緒に探してください!」

 

 そこへ――また別の声が、濛々と立ちこめる煙の向こうから響いた。

 

「ぐっ……何だ、一体……爆発……?」

 

「っ、皆さん……ご無事ですか?」

 

 焦げた制服を引き摺り、アズサとハナコが姿を現す。その傷だらけの姿は、まさしく死線を越えてきた者たちだった。

 

「あ、アズサちゃん! ハナコちゃんも……!」

 

「ヒフミちゃんたちも……! よかった、無事で――なら……」

 

 ハナコが言葉を途中で止める。皆の視線が、自然と辺りを彷徨った。

 

 居ない。――彼が、居ない。

 

「……桂たちは、何処だ?」

 

 アズサが鋭く切り込む。だが誰も、答えを持ってはいなかった。空気が重く、風すらも呼吸を忘れたように沈黙する。嫌な予感が、胸の内で不快な音を立て始める。

 

「……瓦礫の下かも……! 早く探さないと!」

 

「待て、コハルっ!」

 

 焦燥に駆られ瓦礫に手をかけたコハルに、アズサの怒声が飛ぶ。

 

「不用意に瓦礫を崩すな! もしその下に、銀さんたちが居たら……!」

 

「……ッ……うぅ……」

 

 手が震える。冷たい汗が背を滑り落ちる。コハルはその場に凍り付き、瓦礫から手を離した。

 

 皆が、初めて感じていた。失うかもしれないという、真の「恐怖」と「絶望」の感触を。

 

 ハナコは目を閉じ、深く息を吸い込む。熱く、埃臭く、焦げ臭い空気が肺に焼き付く。それでも、今は冷静を装わねばならない。

 

「……得策ではありませんが、二人一組で捜索しましょう」

 

「でも……っ、全員で探せばもっと――!」

 

「私達が倒れてしまっては、先生を助けることも出来ません!」

 

 その一言が、場に緊張の線を引く。ヒフミとコハルが頷き、アズサとハナコは即座に建物の内側へと駆け出す。

 

 

 

「先生っ!? どこですかっ……!」

 

「銀さんっ!! 返事してくださいっ!!」

 

 声を張り上げ、炎と噴煙の中を掻き分ける。その声は、幾度も瓦礫に跳ね返り、どこか虚ろに消えていくばかりだった。

 

 

 

 ――そのとき。

 

 爆風が残した大地の焦げ跡を背にして、何かを発見したかのように立ち上がる影がある。

 

「うっひょ~~ッ!! 凄い炎だぁッ!」

 

「芸術は爆発だ~~ッ!!」

 

「でも温泉は出て来なかったぞ?」

 

「うーん、あと3メートルくらい下だったんじゃない?」

 

「でも周囲が綺麗になったし、後は掘削で行けるっしょ!」

 

「りょうか~~い!」

 

 ――温泉開発部。

 

 彼女達は、まるで地獄の景色すら祝福の舞台のように騒ぎ立てていた。崩壊し尽くした建物、空を覆う噴煙、焼け落ちた瓦礫の山――それすらも彼女達には「成功の証」として映っている。

 

 その時――背後から、低く、くぐもった声が響いた。

 

「おいおい……またテメェらか?」

 

 一瞬で空気が変わる。あの地獄のような爆炎の後でもなお、聞き違えるはずのない、あの声。

 

「どこそれ構わず温泉だ!って爆発しまくるのは〜……」

 

 ヒフミの瞳が見開かれ、全身が震える。

 

「その声は――!!」

 

 声がした――その瞬間、ヒフミの足が勝手に動いていた。

 

「銀さん……!」

 

 焦げた空気を切り裂くように、埃と炎の海を駆け抜ける。振り向きざま、ヒフミを追ってアズサの声が飛んだ。

 

「おい、ヒフミ!」

 

「見つけたの!?」コハルが叫ぶ。

 

「……とにかく、行ってみましょう」ハナコが冷静に言いながらも、どこか弾んだ声音で彼女たちもまた後を追った。

 

 崩れた瓦礫の向こう、視界の先――燃え残る煙の切れ間に、彼女たちは“それ”を見た。

 

「……その声は……まさか!?」

 

 温泉開発部の一人が呻いた。

 

 立ち上る煙の中、逆光に照らされた銀髪の影――だがその頭は、もはや銀というより燃え滾る太陽のような爆発パーマ。焼け焦げた天パはアフロと化し、銀色の帽子が妙に似合っていた。

 

「テメェらのおかげで、モテない原因の天パがさらにきっついアフロヘアーに早変わりだよ!!」

 

 火傷一つ負わず、憤怒の形相で現れたのは、巨大な白い犬・定春の背に跨がる男――いや、今や彼は"シルバーマリオ"と化していた。

 

「全くだ。主らの蛮行のせいで、配管工が壊れてしまったではないか?」

 

 続いて現れたのは、赤いMの帽子に髭、どこか影の薄い“カツオ”――かつては桂だった男だ。

 

 そしてその隣、緑色の帽子に“L”の字、無駄に発達した筋肉と不気味な無表情。エリザベスはもはやエルイージと化し、黙ってプラカードを掲げていた。

 

《修理代その他諸々で訴えるぞ》

 

 書かれた文字が、瓦礫の上で微かに揺れた。

 

 その異様な光景に、温泉開発部の一人が唇を震わせた。

 

「そんな……アンタ(銀時)がいるなんて、聞いてないぞ……」

 

 銀時は一拍の“間”を置いて、苦味を含んだ笑みを浮かべる。

 

「聞いてなくても普通はしないよね? こんなところで温泉なんて湧くわけねぇだろうが。温泉わくわく大決戦じゃねぇの。温泉Gーメンでも丹波○郎でもねぇんだよ」

 

「うぅ……まじか……」

 

 肩を落とす彼女たちに、銀時が気だるげに言葉を重ねる。

 

「でもまぁ、マリ○だと……共通点があるんだよな~」

 

 ピクリと反応する温泉開発部。

 

「本当か!?」

 

「ああ――」

 

 そこへ、遠くから少女たちの声が駆けてきた。

 

「銀さんッ!」

 

 ヒフミの声が、響く。

 

「みんないるみたいだな」アズサが軽く息をつき、

 

「まぁ、あの様子だといるどころか、全然問題ないみたいだけど……」とコハルが肩を落とす。

 

「ふふ……平常運転で安心できますね」ハナコは思わず微笑んだ。

 

 温泉開発部はふと銀時へと視線を戻し、問う。

 

「ところでその共通点って、何だったんだ?」

 

「それはーー」

 

「それは?」

 

 銀時は軽く顎をしゃくり、代わりにカツオ――桂が口を開く。

 

「敵役は皆、マグマに落ちる。ということだ」

 

「え?」

 

 その瞬間だった。

 

 バンッ!!

 

 プラカードが、地響きのような音を立てて地面に叩きつけられた。風が巻き起こり、舞い上がる灰と火花。そして次の瞬間――地面が裂けた。

 

「ぎゃああああああああああ!!??」

 

 温泉開発部のメンバーが揃って重力に引きずられ、マグマの底へと吸い込まれていく。悲鳴が炎に溶け、虚空へと消えていった。

 

 エリザベス――いや、もはや誰とも呼べぬその“化け物”が、燃え尽きるプラカードの破片を一瞥する。

 

 銀時は髪から立ち上る煙を手で仰ぎながら、言った。

 

「な? 地獄に落ちるってのは、ああいうやつらのためにあんだよ」

 

 温泉開発部がマグマに消えてから、数秒。

 

 ――静寂。

 

 吹き上がる熱気の柱だけが、そこに取り残された。

 

 その沈黙を最初に破ったのは、ヒフミだった。

 

「銀さんっ!! 無事だったんですねぇぇぇ!!」

 

 声を上げて走り寄ると、まるで映画のワンシーンのように銀時に飛びついた――が、

 

「おい、そっちはさらに荒くなるからやめろテメェ!今の俺の髪、ちょっと触れただけでぐちゃぐちゃになるから!?お前までマグマ行きにすっぞゴラァ!!」

 

「ふぇぇ……!」

 

 涙目で転げ落ちるヒフミ。コハルがすかさず肩を支える。

その視線の先、銀時は腰を下ろして胡座をかき、気怠げに息を吐く。

 

 頭からはまだ、くすぶるように湯気……いや、焦げた希望のような煙が立ち上っていた。

 

「全くよぉ……温泉開発だかなんだか知らねぇけど、街中で温泉とか……バカじゃねぇの。温泉ってのはな、雪山でしんしんと湯気が立ち上る中、木の桶でポン酒飲むもんだろうが。風情の“ふ”の字もねぇんだよ、あいつら……」

 

 その口調はぶつぶつと文句を垂れているが、どこか安心したようでもある。

 

「ていうか……先生たち、またなんでそんな格好してるのよ?」

 

 コハルの率直な疑問に、銀時は帽子をくいと持ち上げ、ぽりぽりと頭を掻いた。

 

「これか? 気づいたらこうなってたんだよ。定春が『ワン!』って鳴いた瞬間にだ。おそらく黒幕はあいつだな……」

 

 視線の先。定春が「ワウ」と低く鳴いた。どこで手に入れたのか、鼻の下には銀色のマリオひげが追加されていた。

 

 あまりの状況に、ヒフミが恐る恐るつぶやく。

 

「それよりも……さっきの人たち、温泉開発部でしたっけ? あの人たち、どこに……?」

 

 銀時は重たげな動作で腕を上げ、親指でマグマの噴出口を指し示す。

 

「下。ボーナスステージ行き。エルイージ(仮名)による叩き落としの刑だな」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 ヒフミが、地響きのような絶叫を上げた。

 

 アズサは眉根を寄せ、低く問いかける。

 

「……処理したのか?」

 

 すかさず、桂――いや、赤い帽子の“カツオ”が淡々と答える。

 

「処理はしておらん。ただの“熱めの追い焚き風呂”だ。あれくらいで死ぬようなら、配管工の資格は得られん」

 

 コハルが額に手を当ててつぶやく。

 

「いや、そんな資格いらないし……」

 

 だが、そこに――銀時の口調が急に変わった。

 

「……それよりだ。お前ら……テストは?」

 

 その一言に、場が固まる。

 

 沈黙。

 

 続けて、ハナコが静かに言葉を紡ぐ。

 

「無効でしょうね。先ほどの爆発で、問題用紙ごと跡形もなく吹き飛びましたし。たぶん温泉開発部の騒動も、ナギサさんが何かしら“帳消し”に動いたんじゃないでしょうか」

 

 銀時の目がかすかに光を失う。

 

「ってことは……?」

 

 そこへ、ヒフミの小さな、でも確信に満ちた声が落ちる。

 

「再試験ですね……」

 

 と、追い討ちのようにハナコが畳みかけた。

 

「もう一週間よろしくお願いします、銀さん」

 

 銀時の顔が、見る見るうちに絶望の色に染まっていく。

 

「ゲームオーバーでニューゲームかよォォォ!!!!!」

 

 地響きのような叫びが、マグマの底にまで届いたのか、遠くから“ぬるま湯”のような泡がぼこぼこと噴き出した。




おまけ

桂「そういえば、栗子殿は?」

「「「「「あ、そういえば」」」」」

ーーーーーーーーーー
真選組

取り調べを待つ隊士たちが土方の方をジト目で見る。なぜならーー
本来いないはずの栗子がいたからだ。

土方「おい、なんでアンタがここにいるんだ?」

栗子「私はマヨネーズ星の王子の嫁でござりまする。最後までお供するでござりまする。」

「「「「「いや試験の方に最後までお供しろよ!!!!!」」」」」
ーーーーーーーーーーーーーーー

次回予告

銀時「ったく、このままじゃ洒落になんねーよ。いやホントに」

ヒフミ「うぅ………」

桂「ここは忍び込むのはどうだろう?」

銀時「は?どういうことだよ?」

アズサ「名付けてミッションインポッシブーー」

ヒフミ「それ以上はやめてください!!!!!」

次回 日本のスパイは忍者、外国の忍者はスパイ。コレは定められた方程式

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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