透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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ナギサ「ミカさん」

「面会をしに来ました。いい加減顔を見せてくれませんか?」

ミカ「ナギちゃん、私は今全然そんな気分じゃないんだァ。帰ってくれない。」

ナギサ「…………」


第九十九訓 本当にほしいものは意外とそばにある

トリニティ自治区 隔離塔地下――

 

 

冷たいコンクリートの壁が、沈黙を押し返すかのように音を吸っていた。そこは、地上から切り離された閉鎖空間――静寂さが時折耳鳴りのように反響し、誰もが思考の隅にまで冷気を忍び込ませる場所だった。

 

 

 

この地下牢に拘束されている少女の報告は逐一、本部へと届けられている。

たとえ「ティーパーティー殺害未遂事件」の容疑者としての立場であろうと、彼女は依然としてティーパーティーの一員であり、いかなる私刑も許されるはずがない。――形式上は、だ。

 

 

 

それでも現実は、ある程度の制限と冷たい視線から逃れられはしなかった。

 

 

 

独房の奥に座り込んだミカの姿は、まるで影の中に沈んでいるかのようだった。

髪は乱れ気味に肩へ流れ、どこか焦燥を孕んだ眼差しは乾いた空洞のように濁っている。

 

表情だけを見れば穏やかにも映るかもしれない――けれど、その眼の奥には眠れぬ夜の累積と誰にも見せぬ自己嫌悪の色が薄らと滲んでいた。

 

 

 

「……ナギサ様と面会なさらなくて良かったのですか?」

 

 

 

独房の扉の外から、管理担当の生徒が控えめに声を掛けた。

それは既に何度目かの問いだった。

 

 

 

「……うん、まぁ、ね」

 

 

 

短く、途切れた返答。

その声は乾いて、どこか遠くを見ているようだった。

 

 

 

管理生徒は、それでもなお静かに言葉を重ねた。

 

「なら、なぜ、拒むのですか?」

 

 

 

その問いかけに、ミカは答えられなかった。

わずかに肩が震える。唇をきつく噛み締め、細い指が膝の上で無意識に握られる。

 

 

 

彼女は知っている。

ナギサが正式に面会申請を出したことも、その申請が承認されたことも。

 

 

 

だが――

 

彼女の口から出たのは、ひどく掠れた呟きだった。

 

 

 

「……飽き飽きするほどされた取り調べで……アリウスの情報は全部話したし」

 

 

 

「今の私に、ナギちゃんに会う顔なんて……ないから」

 

 

 

独房の壁にうつるミカの影が、揺らいだ。

 

その髪は俯いた顔を隠している。けれど声の震えまでは隠せなかった。

 

 

 

管理生徒は、しばし沈黙したのち、静かに息を吐いた。

 

「……そうですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで……良かったんだよ。これで……」

 

 

 

ミカの声は、自分に言い聞かせるようだった。

 

「私を理解できる人も……友達も……何もいらない」

 

 

 

その言葉が、冷たい石の壁に虚しく吸われていく、その時だった。

 

 

 

――不意に、別の声が響いた。

 

 

 

「本当に君は、そう思うのか?」

 

 

 

ミカの背筋が跳ねた。

 

「!?」

 

 

 

目を見開き、独房の中を見回す。

 

「……誰?」

 

「どこにいるの?」

 

 

 

声は平静だった。しかしその裏に奇妙な暖かみを含んでいた。

 

 

 

「僕は君の独房の壁の向こう側にいる」

 

 

 

その言葉に、ミカの呼吸が浅くなる。

 

牢の壁の向こう……? 一体誰が? どうして?

 

 

 

けれど声は続いた。

 

 

 

「それより、問いに答えてくれないか?」

 

「本当に――友達もいらないのか?」

 

 

 

ミカは言葉を失った。

 

――この期に及んで、なぜそんなことを問う?

 

けれどその問いは、まるで心の奥底を直に突き刺すようで。

 

胸の奥の、凍りついたはずの場所が、微かに軋んだ。

 

「……うん、いらない。」

 

 

 

ミカはわずかに視線を逸らしながら、乾いた声でそう言い切った。

 

その答えの冷たさは、まるで自分自身に言い聞かせる呪文のようだった。

 

 

 

「結局、何が言いたいの?」

 

独房に響くその声は、氷の刃のように尖っていた。

 

「………」

 

応えは返ってこない。ただ沈黙が壁の向こうから流れ込む。

 

それがかえって彼女の苛立ちに火をつけた。

 

 

 

「もしかして、私が可哀想だって? 本当はそんな事したくなかったんじゃないかって、同情してるの? それとも――」

 

一瞬、唇の端が歪んだ。

 

「間違った選択をしようとしてるおバカさんだって、笑いたいのかな?」

 

 

 

鋭く吐き出された言葉は、まるで自分自身への毒でもあった。

 

 

 

顔を両手で覆い、その影の中でひそやかに笑う。

 

しかしその笑い声は歪んでいて、どこか無理やりに引き出したような苦しさが滲んでいた。

 

 

 

「あはっ……とんだ見当違いだよ……!」

 

 

 

泥濘(ぬかるみ)のような悪意が声に絡みつき、独房の中の空気までも淀んでいく。

 

 

 

「私はただの裏切り者、友達も仲間も売り飛ばした、邪悪で腹黒な人殺し――」

 

 

 

その言葉は刃となって自分の胸を刺すようだった。

 

 

 

けれども、それがミカにとっては必要な儀式だった。

 

過去を否定せず、赦すこともせず、すべて自分が抱えて罰を受けるための呪詛だった。

 

 

 

握り締めた指先が震えているのに気付いても、彼女は止めなかった。

 

 

 

「ついでに、最後まで手を伸ばしてくれた先生を傷つけた、冷酷な不良生徒。」

 

 

 

その瞬間、わずかに声が掠れた。

 

心のどこか、言葉にすることで痛みが増していくのを知っていながら、それでも口にせずにはいられなかった。

 

 

 

銀時――。

 

思い出すたびに、胸の奥に黒い染みが広がるようだった。

 

 

 

あれだけ守ろうとしてくれた存在を、自らの手で裏切った。

 

それは弁解の余地などない事実だった。

 

 

 

「……その事実から目を背けるつもりはないよ。どんな理由があっても、現実は変わらない。」

 

「それに、仮に理由があったとして……それが何になるの? どうなるってのさ……!」

 

 

 

最後の言葉は、怒りとも絶望ともつかない叫びに変わっていた。

 

その胸の奥には、誰にも見せられぬ赦されない自分が確かに存在していた。

 

 

 

だが。

 

 

 

その時、壁の向こうの声が再び響いた。

 

 

 

「――実は、僕もある組織を裏切ってしまったことがあってね。」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

ミカは小さく息を呑んだ。

 

思いも寄らぬ言葉だった。

 

 

 

「時に敵と内通し、時に蹴落とし、必要とあらば殺しもした。」

 

 

 

その語りは、奇妙なほど静かだった。まるで罪の重さすら、遠い記憶の影のように淡々と告白している。

 

 

 

ミカの胸がざわめいた。

 

 

 

(まさか……この人も?)

 

 

 

「僕は当初、自分を見てくれる存在が欲しくてね。」

 

「そのためには、自分の力を示すしかないと思っていた。そして――作戦を決行した。」

 

「目の前に、自分を仲間として見てくれていた者がいたにも関わらず、だ。」

 

 

 

ミカは思わず拳を緩めた。

 

その話はまるで、自分の歩んだ道そのもののようだった。

 

 

 

……どうして、この人はこんなにも似ているの?

 

……こんなにも、自分の胸の中に手を突っ込んでくるような言葉を並べるの?

 

 

 

「結局、僕は共に力を高め合うことも、一緒に戦うことも叶わなくなってしまった。」

 

 

 

その語り口は悲しみも、怒りも、赦しもないただの事実の羅列だった。

 

 

 

だが、その平坦な声こそが、ミカの心にじわりと染みこんでいく。

 

 

 

彼女はただ黙っていた。

 

言葉を探そうとしても、喉が震えて声が出なかった。

 

 

 

――胸の奥で、かすかに何かが揺れていた。

 

 

 

それは否定なのか、それとも――。

 

 

「僕が思うに、大切なものというのは――」

 

壁越しの声が一拍、間を置いてから、静かに続いた。

 

 

 

「手の届く間に、手を伸ばしておかないと……取り返しがつかないものだと思っている。」

 

 

 

その言葉は柔らかかった。だが、確かな熱を帯びていた。

 

まるで、かつて自身がそれを失った後悔を知っている者の声のように。

 

 

 

ミカは沈黙したまま俯いていた。

 

指先は膝の上で絡まり、固く結ばれている。

 

 

 

(……今さら、何が届くっていうの)

 

胸の奥から湧き上がる声は、虚無と疲弊にまみれていた。

 

 

 

けれど、次に響いた問いは、そんな彼女の心に静かに波紋を走らせた。

 

 

 

「もう一度、聞こう。」

 

「本当に――誰もいらないのか?」

 

 

 

……。

 

 

 

重く垂れた睫毛の奥で、ミカの瞳がかすかに揺れた。

 

だが、その揺れを誤魔化すように小さく息をつき、彼女は口を開いた。

 

 

 

「その問いに答える前にさ。」

 

声は低く、かすれていたが、どこかにわずかな好奇の色が宿っていた。

 

 

 

「私も、一つ聞いていい?」

 

 

 

壁の向こうの沈黙が、一瞬だけ伸びる。

 

 

 

「……何だ?」

 

 

 

「あなた。」

 

顔を上げず、ミカは問うた。

 

 

 

「名前、なんて言うの?」

 

 

 

再び沈黙。

 

今度は少し長かった。

 

 

 

だが、その向こうで微かに別の記憶の影が揺らめいた。

 

 

 

『一つ、頼まれてくれねぇか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………。

 

『お前の仲間を助けるその時まで……正体を明かさねぇでくれよ』

 

 

 

ほんの一瞬、逡巡する気配。

 

そして、低く穏やかな声が戻ってきた。

 

 

 

「カモだ。」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

「僕のことはカモと呼んでくれ。」

 

 

 

一瞬ぽかんとした後――ミカはふっと力の抜けた笑みをこぼした。

 

 

 

「カモ……うん、カモちゃんね⭐︎」

 

「覚えたよ。」

 

 

 

小さな声だったが、明るさを思い出した少女の声だった。

 

 

 

その瞬間、壁の向こうの声がわずかにうろたえた気配がした。

 

 

 

「カ、カモちゃん!?……ま、まぁ……よしとしよう。」

 

 

 

――ガチャリ。

 

 

 

独房の錠が静かに開く音が響く。

 

足音が遠ざかっていく。

 

 

 

「……そろそろ、時間だ。」

 

 

 

唐突に告げられた言葉に、ミカは顔を上げた。

 

「え?」

 

 

 

「僕の問いには……これからの対応で示してもらうとしよう。」

 

 

 

振り向く暇もなかった。

 

足音はすでに遠ざかりつつあり、その姿を確かめることもできない。

 

 

 

「ちょ、ちょっと! カモちゃん!?」

 

 

 

だが、扉の向こうは静かだった。

 

ただ、その背後からかすかに聞こえてきたのは――

 

 

 

「おいおい、カモちゃんだってよ。」

 

「ナギちゃん的に大丈夫ゥ? お前のとこのメスゴリラ、誰かに餌付けされてるみたいだけど?」

 

 

 

思わず吹き出しかけた声。

 

聞き覚えのある、どこか軽薄なあの声。

 

 

 

「だ、大丈夫です。わ、私は全然……へ、平気ですからっ……」

 

必死な声が、それに重なっていた。

 

 

 

独房の中。

 

ミカはしばしぽかんとした表情で扉の方を見つめた

 

「せ、先生に……ナギちゃん!」

 

 

 

思わず声を上げたミカの瞳が、面会室の扉の向こうに立つ二人をしっかりと捉えていた。

 

 

 

「よぉ。」

 

銀時は、まるで散歩でもしてきたかのような軽い足取りで入ってくると、片手をひらひらと振った。

 

「思ったより元気そうだな。」

 

「こんなことなら、差し入れにバナナ持ってくる必要なんて無かっーー。」

 

 

 

その瞬間――

 

ガシッ。

 

 

 

ミカの手が素早く伸び、銀時の頭をがっちりと鷲掴みにする。

 

 

 

「やぁ、先生⭐︎ 独房だと身体が鈍って仕方なくてさ〜。」

 

口元に明るい笑みを浮かべたまま、指先に力がこもる。

 

「ちょっとトレーニングに付き合ってくれない? 地獄まで⭐︎」

 

ギュウゥゥゥゥゥゥ……!!

 

 

 

銀時の顔が引き攣る。

 

「い、いえ決行です……現在進行形で地獄の底までランデブーしてるんで……。」

 

 

 

そのやり取りを見つめていたナギサの顔が少しだけ緩んだが、すぐにきりりと引き締め直した。

 

 

 

「ナギちゃんも、懲りないねぇ⭐︎ あれだけ追い払ったのに……。」

 

ミカはちらりと視線を向ける。

 

そこに映ったのは、毅然と立つナギサの姿だった。

 

 

 

「ミカさん……。」

 

 

 

「ナギちゃん、こんな犯罪者と面会していていいの?」

 

さらりと投げかけたその言葉の裏には、ほんの少しの怯えにも似た照れ隠しが滲んでいた。

 

だがナギサの答えは迷いのないものだった。

 

 

 

「何を言っているのですか?」

 

 

 

「だって、トリニティの裏切者はこうして捕まって、アリウスはもう脅威にはならない。これでエデン条約が締結されたら、ナギちゃんの望んだ平和が現実になる――ほら、ハッピーエンドじゃんね……?」

 

 

 

ミカは笑みを浮かべてそう言った。

けれど、その視線がナギサをとらえた瞬間、ふと目を見開いた。

 

見慣れた幼馴染が――今まで見せた事のない表情をしていたからだ。

 

 

 

「何が。」

 

 

 

制服の裾をぎゅっと掴んだナギサの声は低く震えていた。

 

怒りと悲しみが滲んだ視線は、鋭くミカを射抜く。

 

 

 

「何が、ハッピーエンドですか……。」

 

 

 

その言葉とともに、ナギサの肩が小さく震える。

 

「こんな状態で……ミカさんが裏切り者で……何が――っ!」

 

 

 

胸に溜め込んでいた感情が堰を切ったように溢れ出す。

 

あの時、共に座っていたティーテーブルはもう空席だ。

 

自分ひとりしか座っていない。

 

セイアはトリニティーの中にいるとはいえ行方知れず、ミカは独房の中――。

 

エデン条約など叶ったところで、自分が何を得たというのだ。

 

 

 

(……ナギちゃん……。)

 

 

 

ミカの胸の奥が、小さく軋んだ。

 

ナギサが心配して、自分に会おうと何度も申請していた事は知っている。

 

銀時も、そんな顔をして、ここに来たのだ。

 

 

 

(それなのに……私は。)

 

 

 

ナギサの声がなおも続く。

 

 

 

「私は、私自身に迫る死の恐怖、幼馴染に迫るかもしれない魔の手、それを退けるために、私は――」

 

 

 

その言葉に、ミカの心が大きく揺れた。

 

 

 

「ナギちゃん……。」

 

 

 

――誰もいらない。

 

そう言い聞かせていた筈なのに。

 

本当は、違ったのかもしれない。

 

 

 

(……君は、本当に、友達も何もいらないのか?)

 

 

 

壁の向こうで響いた声が、ふと脳裏を過る。

 

 

 

「もう、ナギちゃんったらシャッキっとしないと〜。」

 

無理に笑顔を作りながら、ミカは言った。

 

「ティーパーティーのホストなんだから⭐︎」

 

 

 

銀時が口を挟む。

 

「そうそう、こんなゴリラに手綱付けられてるようじゃ何も出来――」

 

 

 

「だからゴリラじゃないって言ってるじゃん⭐︎」

 

 

 

再び銀時の頭がぎゅっと締め上げられ、苦悶の声が漏れた。

 

 

 

「く、苦しいィィィィ……。」

 

 

 

――でも、ミカの心はもう、静かに変わりつつあった。

 

 

 

(カモちゃん……。)

 

 

 

(私、やっぱ……友達は、欲しいかな。)

 

 

 

心の奥底で、ほんの小さな、でも確かな灯がともっていた。

 

それは誰にも見せない、まだ自分の中だけにある小さな光だった。

 

 

 

けれど、その光が消える事は、もうないだろう

 

 

 

 

 




次回予告

マコト「キキキ、ようやくだ。ようやくこのマコト様の出番がやってきたぞ!!」

佐々木「マコト殿、残念ながら今回は私がメインとなる話です。ここはゲヘナのエリートを率いるエリートとして黙ってていただく事をお勧めしますよ」

マコト「な、な、なんだとォォォ!!?」

武市「キヴォトス青少年健全育成条例改正案ォォォ!!」

また子「黙っててください武市変態!」

次回 ロリコンじゃないフェミニストいや、お父さんです。

イブキ「ぜーったいに読んでね」

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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