透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
銀時「一ヶ月更新なかったけど通常運転で頑張りまーす。これからが終盤だよ。」
「つーか……」
「評価黄色にしたやつ誰だァァァァァ!!」
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曇天
鉛の空 重く垂れ込み
真白に澱んだ太陽が砕けて
耳鳴りを尖らせる
ひゅるりひゅるり 低いツバメが
8の字なぞってビルの谷を翔る
もうじきに夕立が来る
曇天の道を傘を忘れて
歩く彼女は雨に怯えてる
ので僕も弱虫ぶら下げて空を仰ぐ
あちらこちらあんよは上手
珈琲屋に寄って一休み極めたら
帰れない帰らない
曇天の道をぶらりぶらぶら
歩く二人は足軽のごとく
危険好きの誰かのふりをする小心物共
曇天の道を傘を忘れて
歩く彼女は雨に怯えてる
ので僕も弱虫ぶら下げて空を仰ぐ
トリニティの救護騎士団本部――その一角にある、特別治療室。
カーテン越しに射し込む陽の光は、どこか霞がかったように鈍く、病室の空気は沈黙の絹で覆われていた。大型モニターに映し出された空中放送のニュース、その音声は既に途切れているというのに、なお誰も口を開こうとしなかった。
最初に沈黙を破ったのは、新八だった。
「……まさか、こんな事態になるなんて……」
苦悶に似た低い呟き。握りしめた拳には汗が滲み、彼の視線は、いまだ黒く沈んだモニターに釘付けとなっていた。
その横で、神楽が息を吐く。彼女の頬には、めずらしく疲労の色が滲んでいた。
「さっきのテレビの後、外も慌ただしくなってきたネ。誰もが……何かが崩れ始めてるのを感じるアル……」
彼女の声は冗談めいてはいたが、その奥にある焦りと寂しさは隠せていなかった。だが、その空気を和らげるように、柔らかな声が背後から差し込む。
「それだけ先生は……生徒たちに影響をもたらした、ということですよ」
白衣の裾を揺らしながら現れたのは、トリニティの医療部所属、セナだった。
「セナさん……!」と、新八が顔を上げる。
「銀ちゃんは……!?」神楽の声には、どこか懇願にも似た響きがあった。
セナは、ふ、と笑みを浮かべた。
「ご安心ください。傷は深かったですが――あの新鮮な死体……いえ、体を蝕んでいた毒は解毒済みです」
瞬間、空気が止まった。
「今、死体って言おうとしましたよね!?今、完全に患者のことを死体って言おうとしたでしょ!?」
「気のせいですよ、気のせいです」
と、飄々とした笑みのまま、セナは誤魔化すように軽く手を振る。その横顔には一切の悪意も動揺もなかった。医療者特有の、生死を並列に見る視点――それがそこにはあった。
「なお、現在の看病は、先ほどの救護騎士団の方々と……あなたの姉と名乗る方が担当されています。会いたければ、その病室へ行くと良いでしょう」
その一言に、室内の空気が再び動いた。
「姉上が……」
新八が言いかけたその横で、神楽が瞳を見開いた。
「姉御! 姉御も来てるアルか!?」
セナは、無言で小さく頷く。その静かな仕草を見た神楽は、まるでロケットに点火されたかのように立ち上がった。
「こうしてはいられないネ! 猛スピードで行ってくるアル!!」
「ちょっ、神楽ちゃん! 病院で走っちゃダメって言われてるだろ!?」
新八が慌てて追いかけるが、彼女は既にドアの向こうへと駆けていた。勢いよく閉まった扉に、少しだけ安堵の余韻が残る。
そして、二人の足音が遠ざかっていくのを見届けてから、セナはゆっくりと後ろを向き、静かに吐息を漏らした。
「……さてと」
誰に聞かせるでもなく呟きながら、彼女は卓上のタブレットを指先で開く。
病室のモニターは、今もなお静寂の中に沈み続けていた。
「…………」
静寂の中、まぶたの裏に微かに光が差し込む。
「……あれ? 俺はさっきまで……」
まぶたが重たげに開かれる。世界がぼんやりと形を取り、やがてはっきりとした輪郭を持ち始める。その光景に、坂田銀時は瞬きもせず、ただじっと視線を注いだ。
――松下村塾。
木造の柱。磨り減った床板。懐かしい香り。草木のざわめきが風と共に流れ込み、土の匂いが鼻腔をくすぐる。
陽の光はやさしく、どこか夢の中のように柔らかく差し込んでいた。遠くから聞こえる鳥のさえずりが、現実との境界を曖昧にする。
(……何で俺は、ここに……)
この光景には見覚えがあった。以前、補習授業部の依頼で訪れたあの時と似た空気。だが、そこに漂うのは明確な違和感だった。まるで時間が止まり、空間そのものが薄紙のように静止している。
そして、縁側にひっそりと佇むその姿。
――大きな耳。湯気の立つ茶碗。人ならぬ、だが人の温かみを持つ佇まい。
セイア。以前、銀時がこの場所で出会った少女が、再びそこにいた。
「やぁ、銀時……いや、立場を鑑みると“銀時先生”と呼んだ方がいいかな?」
小さく微笑むその声に、銀時は眉をわずかに動かす。
「お前……前にも会ったな」
「そうだね。しかし、再びここで会うとは思ってもみなかったがね」
セイアは湯飲みに口をつけながらも、その目は銀時から逸らさない。銀時はその無邪気さと老獪さの入り混じる瞳に、違和感の正体を探し続けていた。
「まぁ君には色々と感謝しなくてはいけな――」
「……あーもう、社交辞令とかどうでもいいから」
銀時が手をひらひらと振って遮る。その仕草にセイアは微笑し、茶碗を置いた。
「俺の質問にこたえてくんない?」
「……ああ、いいだろう」
「ここは一体、なんなんだよ」
セイアの笑みがふと翳る。風が吹き、縁側の風鈴がちりんと短く鳴った。
「…………」
沈黙が落ちる。やがて、銀時がその沈黙を切り裂く。
「お前は、ヘイローが壊されて死んだって聞いた。……そして、現に俺も撃たれてここにいる」
言葉に、セイアの表情が静かに揺れる。だが答えはない。ただ、静寂があった。
「……ここは天国か何かなのか?」
そう問う銀時の声には、いつもの軽薄さも飄々さもない。かつての戦場で何度も見た、死の淵に立つ者の声だった。
セイアはそっと目を伏せる。光が縁側の板に細長い影を描く。
この場所が夢なのか、それとも死の狭間なのか。
いま、銀時はその境界に立たされていた。
縁側を渡る風が一層強まり、葉擦れの音が耳元にささやく。その風の中で、セイアは沈黙を貫いたまま、ゆっくりと口を開いた。
「……………」
「ここは夢の中だよ。」
その一言に、銀時は軽く片眉を上げる。
「夢?」
確認するように問い返す声に、セイアは首肯しながら、まるで授業でも始めるかのように話し始めた。
「そう、誰もが寝ている時に見る夢だ。」
「具体的には、明晰夢を見るかのように、はっきりと意識を持った状態で――場所や未来・過去・現在を問わず観測できる能力――」
そこまで言ったところで、
ゴンッ! ガンッ! ガンガンガン!
突如として、銀時が縁側の柱に額を打ちつけ始めた。
「な、何をしているんだい?」
驚くセイアに、銀時はきまり悪そうに肩をすくめながら振り返る。
「いや、お前の能力で俺は夢の中に入れられたんだよね?」
「そ、そうだね。そういうことになるね。」
「つまり、俺って寝たまま夢の中に入り込んだから、死神みてぇなスタンドに鎌で切り刻まれるんだろ?」
ガンッ!
「起きろォォォォォォ俺!!目覚めろォォォ俺!!助けて花京院!!」
縁側に轟く絶叫と共に、銀時はさらに頭を柱にぶつけた。
セイアは静かにため息をついた。
「誰が『DIOの刺客デス13』だ。」
「全く、君はいつもユーモアに溢れているね。」
彼女の声には、呆れとほんの僅かな笑みが混ざっている。
「そりゃどうも。褒めても何もでねぇけどな。」
「皮肉だよ。」
素っ気なく返され、銀時はふてぶてしく鼻を鳴らす。セイアはそのまま視線を空へと投げた。
「まぁ、つまるところ……今は訳あって“予知夢”を扱うことは出来ないから、これは私の力ではないのだが………」
「おい、それはどういう――」
銀時の問いかけを、セイアの軽やかな声が遮る。
「とにかくだ。今はそんなこと気にしなくていいよ。」
彼女は軽く掌を上げ、言葉を締めくくるように告げる。
「とにかく本題に入ろうか。」
風が再び、庭の草を撫でていった。
風に揺れる木々の音が、どこか重たく響いていた。
セイアはゆっくりと正面に座る銀時を見つめ、その目に宿る光を見逃さなかった。あの男がただの道化ではないことは、今では明白だ。だからこそ――彼女は、静かに切り出した。
「先生、君たちはキヴォトスの外部から来た大人だ。となれば、契約取引……そういった『約束事』のもつ重要性について、よく知っていることだろう」
銀時は鼻を鳴らす。何か面倒な話が始まる気配がした。案の定、セイアは言葉を重ねていく。
「たとえば『悪魔と契約する』という言い回しがあるだろう? 昔話では『驚異的な存在が、些細な約束を破ったがために敗北する』、あるいは逆に『約束によって打ち勝つ』といったお話もある」
銀時はふっと口元を緩めた。
「……ああ、マキのお◯ぱい揉みたいがためにデビルハンターになる奴ね。ほんとセクハラもいいところだよなホント」
まるで他人事のように言い放つその口ぶりに、セイアの眉がわずかに動いた。だが、反論はせず淡々と続ける。
「…………。まぁ、そうだね。しかし、お◯ぱいを揉みたいがためとはいえ、悪魔と契約し、人智を超えた力を手に入れたのは事実だろう?」
「そこからこうも読み取れないかい?」
セイアの視線が、鋭く銀時に向けられる。
「たとえ紙切れ一枚、あるいはお◯ぱいを揉むという下らない約束だったとしても……『契約』というものは何かを強く拘束し、定義付ける力を持っている」
「つまり、お◯ぱい一つだとしても、誰かを縛れるほどの強力な拘束力が――」
「……どうした?」
不意に言葉を切ったセイアは、視線の先に異変を感じた。銀時が難しい顔で彼女を見つめている。
いや、違う。その目はどこか、哀れむような、あるいは悟った者が見る“残酷な真実”を直視した人間のものだった。
「いや、さっきからお◯ぱいお◯ぱいって言うから……ロバートゼッペキス(まな板)に悲壮感でもあるのかと」
言ったその瞬間、銀時の視界が歪む。
「ブフォ!!」
怒号と共に、セイアの掌が天を貫く。
「誰がロバートゼッペキスだって、先生?」
「……あっ間違えました。し、シルベスタスタローンさんでしたね」
「どっちも一緒だろう」
足元に裂けた穴が突然口を開き、銀時の体が吸い込まれるように落下する――
「ウォォォォ!!」
が、辛うじて縁側の端を指で掴んだ。
「おい!狐女ァ!!これが生徒が先生にする態度かゴラァ!!」
銀時の怒声に、セイアは冷ややかに言い放つ。
「君がデリカシーの欠片もない発言をするからだ。罰としてそのまま話を聞くといい」
「聞けるかァァァァ!暇あるわけねぇだろ!デカ耳狐!!」
銀時が叫んでも、セイアの語りは止まらない。
「例えば――」
「おいッ!」
「例えば、トリニティーの経典には、太古の始まりに現れた『神性』との間に結ばれた“十の戒律”が描かれている」
「また、私たちは『原初の約束』を破ったから楽園を追放された。そう書き伝えられてもいる」
その語り口は、冷徹というより静謐だった。まるで自身の存在を肯定する根源に触れるように、セイアは言葉を紡いでいく。
「まぁ、君たちにとってみたら今さらな話かもしれない。なにせ実際に君は、そういった“概念”を利用して誰かを救ったことがあるはずだ」
――アビドスのホシノ。
ゲマトリアの要求をのむ代わりに、学校の借金を肩代わりしようとした少女。その愚直な決意を、銀時は自身のやり方で打ち砕いた。
「思い出してほしい。ゲマトリアはアビドスの生徒に何かを強いることはできず、ただ『契約を要求していた』だけだった」
「その契約が成立しない限り、ゲマトリアは引くしかなかった。なぜなら、契約とは言霊と同じく、絶対であると信じられている“ルール”だからだ」
長い語りの末、セイアはようやく問いを投げた。
「………」
銀時は目を伏せ、静かに息を吐いた。
「……つまり、お前は何が言いてぇんだよ」
セイアの言葉が響いた時、銀時の表情に軽い困惑が浮かぶ。
「この事件もつまりそういうこと。」
静かな口調で続けられる言葉が、松下村塾の縁側に吹き抜ける風と共に流れていく。
「『エデン条約』、これ自体が学園間で行われる約束事であることは確かだ」
縁側の下、草の葉がそよぎ、カエルが遠くで鳴いている。だが、その平和さとは裏腹に語られる事実は、あまりに重かった。
「しかし、この条約が行われる『特別な場所』……」
「そして条約締結のために集まった代表者たちの資格」
「こういった要素により、これは大きな意味をもつ『約束』となった。歪曲されつつも、これは明らかに『公会議』の再現」
言葉の一つ一つが、銀時の胸に重くのしかかる。
「そしてその約束である、『戒律』を守護するユスティナ聖徒会、君たちが幽霊だと言っていたアレだよ。アレを特殊な方法で『複製』として顕現させた。」
銀時は眉をひそめる。あの、青白く透けた少女たち。銃弾も通じず、言葉も通じず、ひたすらに戒律を守ろうとした存在たちの姿が脳裏に蘇る。
「つまるところ、契約を歪曲し、自分たちの望む結果を捏造した……そうまとめても良いだろう。」
「これがゲマトリアの言う、『大人のやり方』………」
そう結んだセイアの声音は、嘲るようでもあり、どこか冷ややかでもあった。
「ああ、念の為言っておくが私はこれらのことを全て知っていたわけではないよ。あくまで以前に君の夢を通じて観測しただけだ。」
その言葉に銀時はすかさず立ち上がる。
「いや、全然安心できないんだけど、人の夢に勝手に不法侵入したってことだよね?そう言うことだよね!?」
「現行犯逮捕もんだよ!」
肩を怒らせて詰め寄る銀時に、セイアは肩をすくめて答える。
「あれは私の基本的な理解を超えた不可解な存在だからね」
「俺からしたらお前も十分不可解な存在なんだけど!」
すかさずツッコミを入れる銀時の反応も、もうこの空間では日常の一部だった。
セイアは話を続ける。
「形式的な話から離れるとつまりだ。……アリウスの背後には『ゲマトリア』がいて。アリウスは倒れることも死ぬ事もない、強大な軍隊を手に入れた。これに誰かの入れ知恵があったのかも知れないが、これが現在わかっている状況だ。」
「私たちがかつて追放された楽園……『エデン』、その名を冠する条約のもとに」
その言葉を最後に、セイアはふと空を見上げた。無風の青空に、一筋の光が差し込む。その光が、空に映像を浮かび上がらせる。
「?」
「おや、どうやら現実の方で動きがあったようだ。」
そして、映像は静かに切り替わった。
――それは、トリニティのシスターフッド会議室。白亜の壁に囲まれた空間の中、緊迫した空気が張り詰めていた。
「先生の容体は?」
ハナコの声が震えていた。彼女の目には疲労と焦燥、そして何より強い責任感が滲んでいた。
「現在は救護騎士団の部屋に!団員によると出血多量ではありますが、命に別状はないとのことです。」
「無事なんですね?」
「は、はい。まだ意識は戻っていないようですが……」
安堵とも言えぬ微妙な空気が流れる。
「分析結果が出ました!古聖堂に向けて放たれたのは、ラムジェットエンジンのものではありません!」
「!!」
鋭く目を見開いたハナコが、すぐに問い返す。
「ラムジェットではない……となるとゲヘナは、そんなあり得ないレベルの技術をどうやって手に入れたんですか?」
「発射位置についても現在確認中……!」
「ゲヘナのどの連中ですか、場所さえわかれば……!」
「い、いえ、それが……」
「詳しい位置は特定できませんが……発射地点は『トリニティ自治区の内部』です!」
「………!!」
雷が落ちたような衝撃が、会議室全体に走った。誰もが言葉を失った。
カメラの映像が再生される。そこに映っていたのは――
――焼け野原になった古聖堂、そして銀時たちの前に立ちはだかる青白い幻影のような姿。
「これは………」
ハナコの声が震えた。画面の中の存在に、確信を持って名を告げる。
「………『ユスティナ聖徒会』です。」
「え、えっ……!?」
マリーの動揺した声。だが、ハナコはそれに応えず、自らの思考の中へと深く沈んでいった。
(ユスティナ聖徒会、エデン条約、あの襲撃……)
(アリウススクワッド、第一公会議、古聖堂、発射地点とタイミング……)
(カタコンベ、アミューズパークの怪談、アリウス自治区の位置……)
(戒律の守護者……………エデン条約………「エデン」)
パズルのピースが繋がっていく音が、彼女の頭の中で響く。
「仮定にすぎません。」
「数十にも渡る飛躍を前提としていますが、しかし、万が一これが本当なら……」
「これらを解決できる方法は、存在しない……?」
その言葉は静かだった。だが、その破壊力は、銃声よりも凶悪だった。
「このままでは……トリニティとゲヘナは文字通り、キヴォトスの地図から消えてしまいます。」
「………かつて『第一回公会議』の後、アリウスがそうなったように。」
セイアの視線が再び銀時に戻る。
「…………」
「ハナコは賢い。盤面に落ちている情報だけでも、確かに彼女なら真実のすぐそばまで至れるだろう。」
「今こうして繰り広げられてる状況、その原因、そして自分にはこれを防ぐ方法がないということまで。全て理解しただろうね。」
「君たちのおかげでようやく好きになれたトリニティ総合学園……その終わりを為す術なく見守るしかないというのは、ハナコにとって残酷な話だ。」
「そしてそこに至ろうとしているのは、1人ではないみたいだね。まぁここでの『1人ではない』というのは、決して希望のある話ではないのだが。」
「アズサを探して奔走していたヒフミ……彼女もまた、同じような結論に到達しつつあるようだ。」
「一通のマッサージ。座標と時間、そして動物の名を用いた隠語。そんなメッセージを送ってくる相手が誰なのか、それに気が付かない彼女ではない。」
そして、また空の映像が揺らめき、次なる場面が銀時とセイアの前に映し出されようとしていた。
空に揺らぐ水面のような光が波紋を描き、映像がゆっくりと浮かび上がる。銀時とセイアが眺めるその先、まるで夢のスクリーンのような空のキャンバスには、一人の少女の姿が映し出されていた。
ヒフミ――その顔は焦りと疲労に濡れていた。汗ばむ額を拭うことも忘れ、彼女は学園中を駆け抜けていた。焦燥と恐怖、そして微かな希望を抱えて。
「……アズサちゃん」
唇が微かに震え、呼ぶ声が空気を裂く。
「アズサちゃん…どこにいるんですか?……アズサちゃん!」
「アズサちゃん……答えてください……アズサちゃん」
その声は、何処か遠くにいる誰かに届くことを祈るように、哀願するように放たれていた。やがて――
「ヒフミ」
風のない空間に、不意に聞き慣れた声が舞い降りる。柔らかくも凛としたその声に、ヒフミの全身がビクリと震えた。
「ッ!」
声の方へと振り向けば、長い廊下の奥。影の中に微かに佇む、あの白銀の髪を持つ少女の姿があった。
「アズサちゃん! 今までどこに行ってたんですか?今、学園中大騒ぎで――」
「うん、しってる」
その答えは、あまりにも淡白だった。
ヒフミはアズサのもとへと駆け寄ろうと一歩踏み出す。だが、なぜかその足が止まる。――何かがおかしい。
「アズサ、ちゃん……?」
彼女の名を呼ぶ声がかすれる。
目の前にいるのは、確かにアズサ。だが、その姿には見慣れた清廉さや静謐な雰囲気がなかった。纏う空気は重く、淀んでいる。まるで夜霧に包まれたような違和感。
制服は擦り切れ、袖には血の滲んだ痕。硝煙の匂いが微かに漂っていた。
ヒフミは息を呑む。アズサの姿が、まるで戦場から戻った兵士のようだった。
「これを誰かが止めなくちゃいけない。」
アズサの言葉は、まっすぐだった。迷いのない声。しかし、その声には沈んだ悲哀と苦悩、そして決意のようなものが滲んでいた。
その拳が、ぎゅっと強く握られているのが見えた。白い指が痛ましいほどに食い込み、皮膚がきしむ音すら聞こえてきそうなほどだった。
「アズサちゃん……?」
ヒフミの声は震えていた。そこに立つアズサは、いつか彼女が憧れ、隣に立ちたかった少女ではなかった。
心の底から感じる、形容しがたい悪寒。寒気が背骨を這い、血が凍りつく。アズサが今、どこか遠くへ行ってしまう――そんな予感に胸が締めつけられる。
だからこそ、ヒフミは必死にその手を伸ばした。
「アズサちゃん、何で、そんな顔で――」
「来ないでッ!」
その瞬間、空間が震えた。
アズサの叫びが、刃のように空を裂いた。ヒフミの足はその場に釘付けにされる。身体が言うことを聞かない。視界の端で、光が揺れる。
アズサは肩を震わせ、唇を噛みしめたまま、ゆっくりと口を開く。
「……ありがとう、ヒフミ、でも、ここから先には来ちゃいけない」
その言葉に、ヒフミの瞳が揺れる。
彼女の立つ扉の前――そこだけがぽっかりと闇に沈んでいた。明かりは届かず、まるで光と闇を隔てる境界線のように、ヒフミの立つ明るい場所とアズサの立つ暗がりがくっきりと分かれていた。
「此処から先は……私の居る場所(陽の当らない場所だから)」
昏くて、辛くて、孤独な裏側。
「ヒフミみたいな善良な人が来ていいところじゃないんだ。」
ヒフミは、どうしていいか分からなかった。
「アズサちゃん何、何のお話なんですか?」
「……私じゃ、何が駄目なんですか……?」
声が震える。理解できない。拒絶される理由が、分からない。
アズサは一歩、影へと退く。光はその姿を飲み込み、肌も瞳も表情も、徐々に見えなくなっていく。その中で、ただ白い髪だけが闇の中に沈まず、鈍い光を放っていた。
「……平凡で優しいヒフミには似合わない話だよ。」
「アズサちゃん、私は……!」
「――人殺し」
ぽつり、と。
まるで風が吹き抜けるように、冷たい言葉が落とされた。
「人を殺してしまったら、もう……友達ではいられないだろう?」
そして――その顔が、光に照らされる。
アズサは、今にも泣き出しそうな顔で笑っていた。
「だってだってアズサちゃんはそんな………」
ヒフミの声が震える。
「私のせいだ」
それは――ただの独白ではなかった。懺悔。断罪。自己犠牲の誓い。
「私のせいで――皆が傷付いて、先生は……」
拳を握りしめたまま、一筋の涙が頬を伝う。細い肩が震え、背が僅かに丸まった。あまりにも小さく、あまりにも痛々しい。
「セイアが昏睡状態になったのも、学園が破壊されたのも、不良警察たちが血を流しながらも戦っているのも、全て、私のせい」
そう語る姿は、罪を背負った殉教者そのものだった。
たらればに意味はない。だが、彼女は確かに「その未来」を選んでしまった。そして、後戻りのきかない場所まで来てしまった。
「だから――責任は、私が負う」
「ち、違います! アズサちゃんのせいなんかじゃありませんッ、それは――っ!」
胸元を掴み、必死に否定の言葉を叫ぶヒフミ。
「それにーー!」
「……あの銀さんですよ!先生とはあるまじき、金に執着。授業とか、私たちのことそっちのけでお金目当てに魚を強奪にバカですけどーー」
「決して諦めることはしないんですあの人は!!だからーー!」
「撃たれてもきっとひょっこりと出てきてーー!」
それは信仰に近い希望だった。混沌の中で、確かに笑っていた、あの頼れる大人。あの銀髪の非常識な教師に、救いの象徴を見出すように。
そして――
「……ヒフミ」
アズサは微かに微笑んだ。
それは痛ましいほど優しい、そして……絶望を滲ませた微笑みだった。
「この世界に、ハッピーエンドなんて存在しないんだ」
その言葉は、まるで凍てつく吹雪のように、ヒフミの心を静かに、確実に凍らせていった。
今日は、ただ穏やかな一日になるはずだった。
ヒフミたちは、何気ない日常の中で笑い合いながら、カフェでこんな話をしていた。
どんなエンディングが好きか、物語がどう終われば心が満たされるか。
その中でヒフミは、「誰も不幸にならない、みんなが笑って終わるハッピーエンドが好き」と、少し恥ずかしげに語った。
賛同は得られなかった。けれどアズサは、確かにこう答えてくれた――「ヒフミが好きなら、きっと悪くない結末なのだろう」と。
光に満ちた終わり。
笑顔で迎える幕引き。
夢のように綺麗で、幻想のように遠い結末。
――でも、それはどこまでいっても「物語」の話だった。
現実(キヴォトス)は、それとはあまりにも違っていた。
昏くて、重くて、苦しくて。
幸福の約束など、初めから交わされていなかった。
アズサは背嚢から、一つの仮面を取り出す。見慣れたガスマスク。
その冷たく無機質な造形を、まるで自分の運命を確かめるように見つめ、呟く。
「私は、今からサオリのヘイローを破壊しに行く」
その言葉は、あまりにも静かで、あまりにも重かった。
「それ以外に、止める術はない」
「ま、待ってくださいアズサちゃん!」
ヒフミは叫んだ。焦りと恐怖、そして抑えきれぬ願いを滲ませて。
「方法……方法なら、きっと、きっとあります……!」
しかしアズサは、躊躇いなくマスクを装着した。
カチリと音が鳴る――それはまるで、決別の合図のようだった。
「これから私は人を殺す」
声には確信があった。自嘲でも後悔でもない、ただ「そう在るべきもの」としての認識だった。
「私はそういう風に育てられた存在なんだ」
ヒフミは息を呑む。
「それが当たり前の場所で、どうやって人を殺すかを教わってきた――だから、元々私たちは住む場所が違った」
アリウスで生まれ、アリウスで育ったアズサ。
教室ではなく、訓練場。
教科書ではなく、銃。
学ぶべきは数式ではなく、引き金の重みだった。
その記憶の中に、一輪の野花があった。
射撃訓練場の隅、空薬莢に囲まれたコンクリートの割れ目に、ひっそりと咲いていた名もなき花。
誰にも気づかれず、誰にも見守られず。
誰のために咲くわけでもなく、ただそこに、在った。
それが、今のアズサのようだった。
だけど。
あの花が咲いていた事実に、きっと意味はあった。
だから、彼女もまた……。
「補習授業部で過ごした毎日は――私にとって、一生の宝物だ」
その言葉に、ヒフミの視界が滲んだ。
「可愛いぬいぐるみをありがとう」
「知らないものをたくさん教えてくれて、ありがとう」
「みんなと一緒にいられて、私は、本当に幸せだった」
背を向けるアズサの輪郭が、闇に溶けていく。
遠ざかるその背中に、ヒフミは縋るように手を伸ばした。
「海に行くっていう約束は守れないけど」
「私はヒフミたちの明日を守りに行ってくるよ」
「さよなら、ヒフミ。エリザベスに桂、他のみんなにもよろしく」
「アズサちゃんッ!」
ヒフミは、声を振り絞った。
その叫びは、祈りだった。
恐怖と涙と、友を想う心が混ざり合った、必死の叫び。
けれど、足は動かない。
膝が震えて前に出ない。
それでも叩く、力を込めて。自分の情けなさを打ち砕くように。
「駄目です……!まだ、やりたいことが沢山あるって言ったじゃないですかっ!」
そう叫びながら、ヒフミは倒れた。
地面に伏して、それでもアズサに手を伸ばし続けた。
「一緒に行きたい場所、見たい景色、全部、まだこれからだって……!」
「劇場版のペロロ様だって、まだ……まだ見てないんですよ……!」
――まだ、約束が残っている。
どんなに涙を流しても、足掻いても、
闇の中に向かう彼女の背は、振り返ることはなかった。
「アズサちゃん……私たちは……友達じゃないですか……っ!!」
その言葉さえも、追いつかない。
「――さようなら、みんな」
その声を最後に。
アズサの姿は、完全に暗闇へと沈んだ。
ヒフミの肩が、崩れ落ちる。
口から嗚咽が漏れた。涙が頬を濡らし、指先は力なく垂れる。
額を床に押し当て、声にならない叫びを吐き出す。
虚空を見上げながら、セイアはまるでそこにしか存在の意味を見出せないかのように、彷徨う視線を宙にさまよわせていた。
白く乾いた唇が、ひとつの言葉を産み落とす。
「これが――」
その声は酷く静かで、酷く脆かった。
「これが全ての……無意味な足掻きの、終着点……」
彼女の言葉に呼応するように、虚無の空にかつての光景が浮かぶ。
――トリニティという学園の終焉。
――ティーパーティーの崩壊。
――数々の苦難を越えてきた補習授業部、その瓦解の序章。
――そして、誰よりも歩み続けた“先生”という名の存在、その帰らぬ終着。
その波は、いずれキヴォトス全体を覆うだろう。ゲヘナを、アリウスを、そして、名もなき日々を――全てを、静かに、冷たく。
これは一つの結末だった。
けれどそれは、同時に“始まり”でもあった。
本当の意味での――絶望という名の、物語の。
「私はアズサに、そして君に――銀時、君に、何度も警告していたはずだ」
囁くように、けれど確かな声で、セイアは言った。
「こんな風にしか終わらないと。いずれ皆が壊れると」
そして、彼女は視線を落とす。
そこには、異様な佇まいの男がいた。
体操服に片袖だけ羽織った和服。無遠慮な眠気と無責任をまとうような、けれどどこか傷を知っている横顔。
坂田銀時――夢の中でさえその風貌を変えぬ、ズボラな現実逃避者。
撃たれた痕跡も、傷の痛みも、ここでは消えている。
それもそのはず。この世界は、ただの夢。
誰も傷つかず、誰も泣かない――そんな幻想をなぞる、甘く儚い虚構の空間だった。
「それでも、彼女は……アズサは、抱いてしまったんだ」
淡い、小さな、そして恐ろしく脆い――希望を。
「もしかしたら、運命は変えられるかもしれないって。もしかしたら、乗り越えられるかもしれないって……夢に、甘い夢に……賭けてしまった」
そこに奇跡は起きなかった。
セイアが予知した未来は、ただ冷たい正確さで現実に一致していった。
「これが、物語の結末……虚しく、苦く、破局へと至るエンディング。そこから先には、無意味な苦痛しか続かない」
吐き捨てるように言いながら、セイアの肩が小さく震える。
彼女は知っていた――予知者として、指導者として。
この未来が避けようもないことを、知識として理解していた。
けれど心は、そうではなかった。
どこかで、誰よりも強く、期待していたのかもしれない。
アズサと同じように。
ヒフミと同じように。
――ほんのわずかでも、希望があるのだと。
だが今、その希望は音もなく、崩れ落ちた。
「これは……誰かが必ず手を汚し、人を殺す物語」
「そうならざるを得ないように作られている。みんなが誰かを傷つければ終わると思ってる、殺せば正義になると信じてる……それは幻想じゃない。そう“信じたい”と、どこかで願ってしまったから」
その声はもう、呪詛にも似ていた。
「忌まわしくて、不快で、不愉快で、眉を顰めたくなるような――それが、この物語の“正体”だ」
彼女の言葉には、怒りよりも、諦めが混ざっていた。
それは何年もの間、彼女の心に巣食っていた冷えた絶望だった。
「君はかつて言っていたね、“くだらない”と。五つ目の古則を聞いた時、君は笑っていた。だがあの問いに答えを与えるのは他でもない、自分たちなのだと――君はそう言った」
セイアは、銀時の瞳を見つめた。
その奥には、かつての無邪気も激情もなく、ただ静かな諦観が広がっていた。
それは、セイア自身の目にも宿っているものだった。
「だが……信じた結果がこれだよ」
静かに、言葉を落とす。
「不可能だったのだ。エデン条約などという理想は。『憎み合うのをやめよう』なんて、そんな約束が通じる世界じゃなかった」
なぜ先人たちは、それを果たせなかったのか。
なぜ私たちは、愚かにも“私たちの代ならば”と、そう信じてしまったのか。
「他人の感情なんて、証明できるものではないのに。理解し合えるなんて――幻想にすぎなかったのに」
そして、セイアは皮肉めいた吐息を漏らす。
「その上、条約に“エデン”などという名を冠した……これが楽園? 笑わせないで欲しい」
連邦生徒会長の不愉快な冗談。それは、最早悪意に近かった。
ゲヘナとトリニティの間に積もった何百年の不信。
アリウスに受け継がれた呪いのような怨嗟。
そんな矛盾を抱えたまま、エデン条約は歪な形で締結され――破綻へと至った。
「だが……そうか。そうかもしれない」
セイアの声が低くなる。
「これこそ、楽園から追放された者たちにふさわしい“結末”なのかもしれないな……」
その時、テーブルの向こう側。
穴の縁に指をかけていた銀時が、のそのそと這い上がってきた。
血の痕も、苦悶の表情も、そこには無い。
ただ、無精な大人がいつも通りの調子で、砂を払うようにして立ち上がる。
――ここは夢だから。
どれだけ痛んでも、どれだけ壊れても、すべてが幻想だから。
だからこそ、ここでだけは“まだ、話せる”。
「おい、何をしに行くんだ?」
低く、乾いた声だった。
それは懇願にも、怒りにも、あるいは諦めにも似ていた。
セイアの問いに、銀時は振り向かない。ただ、虚ろな門の向こう――夢の終わりへと続く境界を見つめていた。
「何って決まってんだろ。アイツら助けに行くんだよ」
軽く言ったつもりだった。けれど、そこにあったのはひどく確かな意思だった。
銀時が門を潜ろうとしたその瞬間、セイアが一歩、踏み出して声を上げる。
「ま、待ちたまえ!」
その声には、確かに焦りがあった。
冷静沈着な予知者である彼女には不似合いなほどに、切羽詰まった叫びだった。
「戻るだと? 君の身体は、銃弾に対する耐性などないんだぞ……!」
彼女自身の肉体は既に癒えていた。だがそれは、単なる回復の問題ではない。
起き上がるか否かは意志の問題であり、彼女はその選択を“しなかった”。
しかし銀時は違う。彼の肉体は既に破綻している。
夢の中でこうして立っていられることさえ、奇跡に等しかった。
「君が戻ったところで、何が変わると言うんだ! これは私がかつて予知した未来であり、七つの古則が示していた――この世界の、真実なんだ!」
声が震える。
知識として理解していたはずの運命が、今、感情の壁に突き刺さっている。
七つの古則。
古の契約。
避けられぬ破滅。
幾千の運命を視てきた彼女には、既にこの先が見えていた。
銀時が足掻いても、抗っても、その先には“虚無”しかない。
信じて歩いた先に待つのは、終わりなのだと。
けれど――
銀時は黙したまま、門の前に立ち尽くす。
背を向けたまま、微動だにしない。
「……まさか君は、まだ“楽園”の存在を信じているのか?」
セイアの声には、憤りと共に、確かな――祈りの色があった。
「この様な惨状を見ても、なお……! 証明すらできない幻想を、盲目的に信じているというのか……?」
沈黙。
まるで時が止まったようだった。
セイアの言葉に、銀時はようやく――ほんの僅かに振り向いた。
けれど顔は見せない。ただ、半身を傾け、静かに呟いた。
「さぁな。そいつは俺にもわかんねぇよ」
静かな声だった。
重さも、熱も、ただ一つの確信のように淡々と。
セイアは思わず言葉を失う。
それだけの言葉で、あまりにも多くを覆してしまう男だった。
銀時はゆっくりと歩き出す。
だがその背中が再び動いた瞬間――彼は続けた。
「だが――」
一拍、間を置いて。
「ここで立ち止まっちまったら……俺が、死んじまうのさ」
セイアは目を見開いた。
「命は助かっても、俺の剣が――俺の魂が、折れちまうんだよ」
それは、セイアには理解できない世界の言葉だった。
命以上に、大切なものがあるなんて。
結果よりも、信じることの方が重要だなんて。
セイアの喉が詰まる。しかし、銀時は言葉を止めない。
「それにーー」
ふと、遠くから風が吹いた気がした。
夢の中で揺れる記憶の声が、彼の背中を押す。
――『決して諦めることはしないんです、あの人は!』
――『だから、撃たれてもきっと、ひょっこりと出てきて――!』
ヒフミの声だった。
泣きながらも、信じようとした声だった。
銀時は笑った。寂しそうに、けれど暖かく。
「アイツらが助けを求めてんなら、行ってやるのが万事屋……いや、シャーレの銀ちゃん。」
そして――
「先生としての仕事だろ?」
その言葉に、セイアの目が見開かれる。
それは、かつての自分が夢見た光景だった。
皆が皆のために戦い、誰かのために傷ついて、それでも信じる道を進もうとする――そんな物語。
銀時の足取りは、止まらない。
夢から現へ。
虚構から、痛みのある現実へ。
その先に待つものがどれだけ残酷であろうとも。
たとえ彼の肉体がもう、戻れないところに在ろうとも。
魂だけは、折れない。
セイアは立ち尽くしていた。
もう何度も予知で視た未来だった。
何度も否定した結末だった。
それでも――その背中は、どこまでも真っ直ぐで。
“希望”というものが、ただの幻想ではないと
――門の外へ。
銀時は一歩、現実へと足を踏み出そうとした。
その時だった。
「待て!」
鋭く、けれどどこか焦燥を含んだ声が、背後から響く。
銀時が振り返りもせずに肩をすくめる。
「……何だよ、何度も何度も止めやがって……お前は子離れできねぇバカ親かっての」
冗談めかして笑う彼に、セイアは冷たくも微かに震える声で告げた。
「君の覚悟は理解した。もう止めようとはしない……だが――」
そこで、言葉を一つ呑み込む。視線が、夢の空を彷徨うように揺れる。
「これから君が戦うことになる敵。君を撃った、あの“連中”について……話しておくべきだ」
時間が、静かに動き始める。
セイアは淡々と語り出した。
まるで、自分の中に積もり積もったものを、全て削ぎ落とすかのように。
冷静さを保とうとしているが、言葉の端々に滲む感情は抑えきれていなかった。
語られたのは――
このキヴォトスという世界を覆い尽くす、「契約の抜け穴」を利用し蠢く者たち。
“エデン”の名のもとに偽りを重ね、戒律を歪めて尚、微笑を浮かべる者たち。
そして、それらを操る「影の存在」――“ゲマトリア”の1人の名。
銀時は一言も返さず、それらをただ黙って聞いていた。
「――以上が、これから君の“敵”となる者たちだ。後は……任せるよ」
静かに、けれど確かな声で語り終えると、セイアは小さく息を吐いた。
銀時は頷く。
「ああ……任せやがれ」
そして、迷いなく――門を、くぐった。
その背中が、夢の境界を越えて消えていく。
セイアは、長く息を吐いた。
「はぁ〜……」
「結局、彼の言う通りだった……というわけか」
その言葉に、自嘲にも似た響きが滲んでいた。
――そう、ずっと前にわかっていたのだ。
彼を止めることは、できない。
彼が命を投げ出すとわかっていても、銀時は決して道を引き返さない。
◇ ◇ ◇
夢の片隅に、微かな記憶が蘇る。
あの、静謐な松下村塾の縁側。
陽光と風の匂いが混じる、穏やかな時の中で交わされた、あの人との会話。
かつてのセイアは、困惑していた。
銀時の行動を理解できず、問いを投げていた。
「……何だって……?」
「彼を止めることはできないって、どういう意味だ……?」
問いに答えたのは、柔らかな声だった。
あの穏やかな笑みを湛えたまま、あの人は語った。
「そのままの意味ですよ」
「君がどれだけ説得しようと……いいえ、私が説得したところで同じことです」
「彼は――自分の生徒を、仲間を、助けに行く。それだけのことです」
その声は、あまりにも自然で、そして静かだった。
「何が起きようと、どんな結末が待っていようと……彼は歩みを止めない」
「それが、“坂田銀時”という、たった一人の侍なのです」
風が、縁側を撫でていた。
落ち葉が揺れて、小さな舞を描いた。
「だからこそ、最後まで――見届けてみてはどうですか?」
「彼の――」
「彼らの紡ぐ未来を」
「君のように結末を予測して逃げては手に入らないものを……」
◇ ◇ ◇
セイアは静かに、拳を握った。
かつて、数多の未来を視てきた手。
数多の失敗を回避するため、知識を蓄積し、理を重ね、可能性を切り捨ててきた。
彼女は未来を知るがゆえに、いつだって“正しい”選択をした。
危険を避け、破滅から逃げ、滅びを回避するために、後退してきた。
だが――それでは、前には進めない。
いかなる未来も、ただ“回避する”だけでは辿り着けない場所がある。
そう、“未来”は。
誰かが信じ、選び、歩んで初めて、そこに「到達する」ものだった。
「……もちろんだとも」
かすれた声が、風の中に溶ける。
「この目で、最後まで」
セイアは、自分の中にあった“否定”が静かに崩れていくのを感じていた。
信じることができなかった。
自分の可能性を。
他者の歩みに宿る力を。
この世界の片隅に、ほんの僅かに灯る、小さな希望の光を。
けれど今は――
その背中に確かに見えた。
歩む者の姿に、嘘偽りのない想いを見た。
それがどれほど愚かしくとも、非合理的であろうとも、心が動かされてしまった。
「見届けるとも……」
呟いた言葉に、自身でも驚くほどの熱があった。
自嘲でもなく、皮肉でもない。
ただ、確かな“希望”を灯した一言。
セイアは静かに空を見上げた。
雲がゆっくりと流れていく。
未来という名の、果てなき空がそこにあった。
そう。
まだ、物語は終わってなどいない。
――そして今こそ、始まろうとしている。
教えて!銀八先生!!
銀八「はぁーい久々に登場の銀八先生でぇーす。いやぁ水着イベント凄そうだね。エデン条約篇終わったらアビドスゲヘナトリニティー含めた大人数で海に行くからそのつもりで……」
「ん?今回は告知に来たのかって?」
「んなわけねぇーだろ。今回はみんな忘れてるかも知れないけど、前回のあるシーンについての疑問があったのでお答えしまーす。」
「えぇ〜ユーザーネームursusからの質問」
『銀さんの心臓って右側にあった描写や説明が原作にありましたか?』
「はい、お答えします。これは完全にこれ書いてるバカ作者の独断です。」
「なぜこんなことになったのか。原作の紅桜篇と死神篇をご覧ください。紅桜篇で以蔵に貫かれた時左だったよね?」
「あんな大きな剣で貫かれているのに心臓に当たってないのが不思議だなぁと感じた。」
「死神篇では落ちそうになっていた浅右衛門の手を引こうとした時に左胸に銃を受けた。なのに動けていた」
「まぁ理由としてはこんなもんです。あのゴリラ原作がそこら辺は考えてなかっただけかも知れないし、これ書いてるバカ作者の思い違いかも知れない。真相は闇の中ってことでよろしくぅ〜」
「じゃあ時代に遅れているの作者。いい加減なこと書いて読者混乱させたから廊下に立ってなさい。」
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
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