透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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銀魂読みながら思いますけど銀さんってアドバイスが上手いですよね。

今回の話は少しシリアスかもしれません。


第十一訓 誰もが誰かを想っている

アビドス高等学校、対策委員会教室。

 

黄昏時の教室に、張り詰めたような静寂が満ちていた。

全員の視線が、アヤネが操作するタブレットの画面一点に注がれている。

 

「アヤネちゃん……どう?」

 

セリカが祈るように手を組む。アヤネは震える指先で更新ボタンを押し、表示された数字を凝視した。眼鏡の奥の瞳が、信じられないものを見るように見開かれる。

 

「ほ、本当に……半分になってます」

 

彼女が画面を皆に向ける。そこには、今まで彼女たちを重く縛り付けていた桁違いの数字が、明確に減額された状態で表示されていた。

 

一瞬の空白。

そして、教室の窓ガラスを震わせるほどの歓喜が爆発した。

 

「ヤッタァァァァアアア!!」

 

「本当ですね♪ すごいです、本当に減ってる……!」

ノノミが感極まって目を潤ませる。

 

まさに敵なし、皆が金利が半分になったことに歓喜する中ーー

 

「ハハハ、どうしたアヤネ殿?我々の勝利だぞ?もっと喜ばんか」

 

「いや、その……皆さん、とても嬉しがってるなか悪いんですがーー」

 

「金利は前より増えてることに変わりはないですからね。」

 

「え?」

 

「いや、0から3000になって1500万になったので実質的な損害は増えたままなんです。お分かりいただけましたか?」

 

「……………」

 

「寝るか」

 

「そうだね」

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

夜、アビドス高等学校。

 

校舎は深い静寂に包まれていた。

普段ならば、居候(潜伏)中の桂とエリザベスが寝息を立てているだけの時間帯。

しかし今夜は、廊下を歩くもう一つの足音があった。

 

小鳥遊ホシノ。

 

彼女は月明かりの下、いつもの猫背ではなく、どこか重たいものを背負った足取りで部室の前まで歩いてきた。

扉に手をかける直前、彼女の足が止まる。

 

(……気配がする)

 

中にいるのは桂たちだけではない。もっと鋭く、重厚な気配。

ホシノの瞳から「おじさん」の色が消える。

彼女は流れるような動作で愛銃「アイ・オブ・ホルス」を構え、音もなく扉を開け放った。

 

「動くな!! そこから動けば――」

 

銃口を突きつけ、鋭い警告を発する。

だが、暗闇の奥、窓から差し込む青白い月光に照らされて浮かび上がったのは、見慣れた天然パーマのシルエットだった。

 

「!?」

 

「おいおい、いい月出てるってのに、いきなり生徒指導の時間になるとはな。物騒なこった」

 

銀時はパイプ椅子に浅く腰掛け、まるでそこだけ時間が止まっているかのように静かに座っていた。

 

「……どうして。銀ちゃん、いつもならもう帰ってるはずじゃ……」

 

ホシノが銃を下ろし、動揺を隠して問いかける。

 

「昼間、お前の様子を見てな。……何か一人で抱え込んでんじゃねぇかって、気になっちまってよ」

 

「うへぇ、考えすぎだよー。おじさんはただ――」

 

「それに」

 

銀時はホシノの言葉を遮り、机の上に置いてあった「それ」を、長い指でトントンと叩いた。

 

そこにあったのは、二枚の紙。

一枚は、対策委員会への別れを綴った手紙。

そしてもう一枚は――『退会届』。

 

「!? い、いつの間にそれを……?」

 

ホシノの息が止まる。

誰にも見られないよう、鞄の奥底に隠していたはずのもの。

 

「こいつに関しても、きっちり説明してもらいたくてな。悪いが、勝手に漁らせてもらったぜ」

 

「…………」

 

ホシノは観念したように肩を落とし、苦笑いを浮かべた。

 

「はぁ……。銀ちゃんには敵わないなぁ」

 

あの大騒ぎの最中、いつこの手紙の存在に気づいたのか。

この男の観察眼と、ふざけた態度の裏にある鋭さは、やはり只者ではない。

ホシノは銃を置き、小さく息を吐いた。

 

「……面と向かっては、話しづらいからさ。……銀ちゃん、ちょっとそこを一緒に歩かない?」

 

「ああ。付き合うぜ」

 

二人は静まり返った廊下へと出る。

窓枠が切り取る月明かりが、等間隔に二人の影を伸ばしていた。

 

月明かりが廊下を青白く染め上げる中、ホシノの静かな独白だけが響いていた。

いつもの「おじさん」のような軽口はそこにはなく、ただ、一人の傷ついた少女の声があった。

「実はね……私には、この学校を護りたいって思う理由が、シロコちゃんたち以外にもあるんだ」

ホシノは一度足を止め、窓の外、広がる砂漠の闇を見つめた。

「私には……『ユメ先輩』っていう、能天気で、学校一のバカで……とても頼りない先輩がいたんだよ」

懐かしさと痛みが入り混じった瞳。

彼女の口から語られるのは、砂に埋もれていた日々の記憶。

「あの人は本当にバカでさ……。よく悪い大人に騙されて、変な契約書に判子押しちゃって。そのたびに私が怒りながら助けてた。……私たちはよく砂漠に出かけて、水着で水を掘り当ててオアシスを作ろうなんて、本気でやってたこともあったなぁ」

フフ、と乾いた笑いが漏れる。だが、すぐにその表情は曇った。

「……でも、その頃の私は短気で、余裕がなくて。……ある時、先輩が『昔あったアビドス砂祭り』を復活させようって、私に提案してきたことがあるの」

『ホシノちゃん! 夢と希望があれば、砂漠だって楽園になるよ!』

脳裏に蘇る、眩しすぎる笑顔。

「出来っこない話だって、分かってた。だから私は……怒って、先輩が作った手作りのポスターを目の前で破り捨てて……そのまま部室を出て行っちゃったんだ」

ホシノの手が、自身の腕を強く抱きしめる。

「……それが最後だった。帰ったら、ユメ先輩はいなかった」

銀時は何も言わず、ただ黙って隣に立ち続けていた。

かける言葉が見つからないのではない。安っぽい慰めなど、彼女の傷には塩にしかならないことを知っているからだ。

「私は始めは、すぐに見つかるって思ってた。謝って、仲直りできるって……。でも、先輩は…………」

言葉はそこで途切れ、喉の奥で嗚咽として消えた。

語られなかった結末。見つかったものが「生きた先輩」ではなかったこと。

それが、小鳥遊ホシノという少女の時間を止めてしまった楔(くさび)。

沈黙が落ちる。

やがて、銀時が夜空を見上げたまま、ぽつりと口を開いた。

「……俺の話を聞いたなら分かると思うが。俺も、大事な仲間や師(せんせい)を亡くしてる」

ホシノが涙に濡れた目で銀時を見上げる。

「俺も当たり前だと思ってたよ。先生はいつまでもいる……何かあっても、きっと戻ってきて、俺の頭を小突いて叱ってくれるってな。……でも、当たり前じゃなかった」

失って初めて知る、空いた穴の大きさ。

その空虚さを知る者同士の視線が交差する。

「……じゃあ……なんで銀ちゃんは……前を向いて進めるの?」

ホシノの問いは切実だった。

全てを失って、どうして笑っていられるのか。どうしてまた、誰かを護ろうと思えるのか。

銀時は懐に手を入れると、どこか遠くを見るような目で、静かに語り始めた。

「荷物ってんじゃねーが……誰でも両手に大事に何か抱えてるもんだ。だが、担いでる時にゃ気付きゃしねー。その重さに気付くのは、全部手元から滑り落ちた時だ」

それはかつて、彼自身が己の魂に刻み込んだ言葉。

「もうこんなもん持たねェと、何度思ったかもしんねェ。なのに……またいつの間にか背負いこんでんだ」

銀時はホシノの方を向き、その小さな肩に視線を落とした。

「いっそ捨てちまえば楽になれるんだろうが、どーにもそーゆー気になれねー。……荷物がいねーと歩いてても、あんま面白くなくなっちまったからよォ」

「……っ」

ホシノがハッとして息を呑む。

「ホシノ。俺は『先生』という荷物を滑り落としちまったが……その後、万事屋のぱっつぁんや神楽、江戸の街の仲間……そして今は、お前たちを荷物に背負い込んで、結構楽しいんだよ」

銀時はニカっと笑い、指を折って数えてみせる。

「銀行強盗する狼に、詐欺に引っかかるツンデレ、大人買いするお嬢様に、ツッコミ担当のメガネ…………お前も、こいつらっていう重たい荷物を背負い込んで、楽しいだろ?」

「…………うん! ……うんっ!」

ホシノの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

重いと思っていた。苦しいと思っていた。けれど、それこそが自分が生きている証であり、喜びだったのだと、気付かされた。

銀時の表情が真剣なものに変わる。

「だったら……『自分の腕を見込まれた』だの、『借金を返すために一人でどっかに行く』だのと言って、俺やあいつらの荷物から勝手に滑り落ちることも……お前が荷物を捨てて一人で苦しむことも、俺は許しはしねぇ」

「……う、うぅ……っ、ぎん、ちゃ……」

「泣け。今は泣いていい。その代わり……明日は笑え」

銀時は大きな掌で、ホシノの頭を優しく、くしゃくしゃと撫でた。

ホシノは銀時の胸に額を押し付け、声を上げて泣いた。

二年分、ずっと一人で抱え込んでいた孤独が、涙と共に夜の闇へと溶けていく。

――――――――――――――――

どれくらいの時間が経っただろうか。

ひとしきり泣いて、目が赤くなったホシノが顔を上げると、銀時はいつもの調子に戻っていた。

「……落ち着いたか?」

「うん……ごめんね、銀ちゃん。シャツ、濡らしちゃった」

「いいってことよ。……で、だ」

銀時は木刀を腰に差し直し、ギラリと目を光らせた。

「ホシノ。俺も、あの『黒服』ってやつの所に連れて行け」

「え……?」

予想外の言葉に、ホシノが目を丸くする。

「俺の大事な生徒を、勝手に勧誘した罰を……たっぷりとあいつに与えないとなァ。教育的指導ってやつをよ」

「でも……あいつは、カイザーの理事なんかより、もっと……」

「関係ねぇよ。お前を縛り付けてる鎖があるなら、俺が全部ぶった斬ってやる」

その言葉に、迷いはなかった。

ホシノは少しの間銀時を見つめ――やがて、憑き物が落ちたような顔で頷いた。

「……うん。分かった。……案内するよ、銀ちゃん」

これで、黒服との腐れ縁も切れるかもしれない。いや、切るのだ。

この、頼もしすぎる「先生」と共に。

二人は一度部室に戻り、隠れていたエリザベスに「ちょっと悪役退治に行ってくる」と告げると、月明かりの下、黒服の待つ無人ビルへと足を踏み出した。

夜風が、二人の背中を押していた。

 

 

 




次回予告
銀時「テメーが黒服か?」
黒服「おや、あなたは先生ではないですか?ホシノさんと共に何故こちらへ?」
黒服「すでにこの誓約書にはホシノさんも賛成しており、」
ドォォン!
銀時「テメーらに貸す手なんてホシノは持ってねぇよ!」
次回 誓約書の中身はよく見ないと騙し取られることがあるから気をつけようね

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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