透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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答えて!銀八先生

銀八「はぁい。三話連続で出勤させられてちょっとイラッときている坂田銀八でぇ〜す。」

「えぇっと今回は最近こそ無くなったであろう文章構成についての疑念について話しまーす。」

「コメントにある意見が届きました。」

『評価が落ちるのって話の内容ではなく文章が二度繰り返されてたり、台本方式だったりあやふやだからじゃないですか?』

「はい、その通り。まさにこの人が言った通りだと思います。書きたい話が先にあるから、とか。時間がないから詳細を書かずに台本方式しよう。とか」

「全てこの筆者の至らぬ結果が巻き起こした無様な結果と言えるだろうねぇ〜」

「ま、現にこの話も茶番っぽい話を予告で持ってきておきながら後半かっこいい銀さんでしゃばっちゃうし〜」

「ということで、自己中の筆者バカぁ?お前は廊下じゃ頭冷えねぇみたいだから三途の川のほとりで立ってなさい!」

ーーーーーーーーーーーー

            曇天

鉛の空 重く垂れ込み
真白に澱んだ太陽が砕けて
耳鳴りを尖らせる

ひゅるりひゅるり 低いツバメが
8の字なぞってビルの谷を翔る
もうじきに夕立が来る

曇天の道を傘を忘れて
歩く彼女は雨に怯えてる
ので僕も弱虫ぶら下げて空を仰ぐ

あちらこちらあんよは上手
珈琲屋に寄って一休み極めたら
帰れない帰らない

曇天の道をぶらりぶらぶら
歩く二人は足軽のごとく
危険好きの誰かのふりをする小心物共
曇天の道を傘を忘れて

歩く彼女は雨に怯えてる
ので僕も弱虫ぶら下げて空を仰ぐ


第百七訓 ジェイソンはチェーンソーじゃないらしいけどやっぱりチェンソーでしょ

どこか遠くで声が聞こえる――耳元をこすり抜けるような鋭い叫び声。それはまるで、夢と現実の境界線を乱暴に蹴破る警報音のように、銀時の脳髄を揺さぶっていた。

 

「ちょっと! ハナエちゃん!!」

 

「姉御も待つアル!!」

 

「いいえ……何日も起きてないじゃないですか!」

 

「そうよ! それに銀さんのことだから、また寝たふりでもしてるんでしょ!!」

 

 ――うるせェ。

 

 眉間の奥がビキビキと音を立てた気がした。穏やかな眠りを貪っていたはずの頭蓋が、外界の喧騒に無理やり引きずり戻されていく。まるで頭の中に小型の打楽器隊が入り込んできたかのような騒々しさだ。

 

「……う……」

 

 ゆっくりと、銀時は目を開けた。頭の血管が一本、浮き上がる。

 

「うるせェェェェ!!」

 

「何重病人がぐっすり眠ってる時にギャーギャー騒いでんだよ!!」

 

「うるさすぎて眠れしね……え?」

 

 

 病室に銀時の怒号が炸裂した。だが次の瞬間、彼の目に飛び込んできたのは――予想だにしないカオスの光景だった。

 

 右側では、目に涙を浮かべたピンク髪の看護師――セリナが、凶悪なチェンソーを抱えた小柄な看護師、ハナエを必死に抑えており、その横で新八が叫びながら加勢していた。

 

「ハナエちゃん! 少し落ち着いてください!!」

 

「ちょっと! いつもこの人こんな感じなの!?」

 

 「看護師というか人殺しそうな勢いですよ!殺人鬼ですよ!!」

 

 

 ハナエは理性を失った顔で叫んだ。

 

「いいえ! もう待ってられません!!これから――」

 

「解体して治療して治しますからァァァ!!」

 

 ブウウウン……ッ!! チェンソーの起動音が、銀時の脳を冷や汗ごと真っ二つに裂いた。

 

「いや待て待て待てェェェ!!」

 

「もう起きてるから!銀さんもう起きてるから!とりあえずその物騒なもん下そう?お願ァい!!」

 

 しかし――ハナエの目はすでに、患者という名の素材へと向けられていた。銀時の声など、彼女の耳には届いていないのか、はたまたチェンソーの駆動音で掻き消されているのか……。

 

『おい、どうすんだ〜? この状況……この小さな看護師は全然聞く耳持たねぇし……こっちは……』

 

 銀時が反対を振り返ったときだった。

 

「あら? 銀さん……起きたんですか?」

 

 涼しげな笑みを浮かべるお妙の顔。だがその笑顔は、春の陽気のように柔らかくも、なぜか背中を氷柱で撫でられるような冷ややかさを孕んでいた。

 

「……え、あ、うん。今ちょうど起きた。だからその……その物騒なもんを下ろしてくんない?」

 

 銀時は恐る恐る言葉を選ぶ。目の前で、薙刀を手にしたお妙が笑顔のまま頷いた。

 

「はい、わかりました。下ろせばいいんですね?」

 

「そうそう下ろせばいいんだよ。下ろせば。いいか?そ〜と」

 

 

 次の瞬間だった。

 

「――フンッ!!」

 

 お妙は、神楽の必死の拘束を一瞬で振り解くと、まるで戦国の鬼女のごとく、ベッド目掛けて薙刀を振り下ろした。

 

「ウォォォォォォ!!」

 

 銀時は反射的にベッドから跳ね起き、床を転げるようにして避けた。白衣がひらりと宙を舞い、銀色の髪が風を切る。

 

「何すんだ! このあばずれ!! そーっと下ろせつっただろうがァァ!!」

 

 お妙は涼やかに言った。

 

「ええ、確かにゆっくり下そうとしましたよ“首を”。」

 

「そっちの意味じゃねぇよ!! どんなに耳が遠いじいさんたちでもそんな聞き間違いしねぇぞ!!」

 

 背後から、再びハナエの絶叫が響く。

 

「逝きますよ!! 逝きますからねェェェ!!」

 

「だからお前は話を聞けェェェ!!」

 

 銀時の声が、再び病室に木霊した。

 

空気が、ひとときの静寂に包まれる。

 まるで嵐の目に入ったかのような錯覚だった。

 

 チェンソーの音が止まり、部屋にはかすかな呼吸音だけが漂っていた。

 

 そんな中、小柄な看護師――ハナエが、ふと手元のチェンソーを見下ろしながら、しおらしい声で呟いた。

 

「なるほど……私がチェンソーを持った時には、すでに起きていたんですね」

 

 つぶやきは、まるで事後報告のように淡々としていたが、内容は明らかに狂気の果てに片足を突っ込んでいた。

 

「すいません、早とちりしてしまって……」

 

 控えめな言葉と反比例するように、銀時の顔色はどんどん青ざめていく。

 

「いや、どんな早とちりしたら病人にチェンソー向けるなんてことになんだよ……」

 

 銀時は頭を抱えながら、ふらつく足でベッドの端に腰掛けた。

 

「ジェイソンか? ジェイソンなのか? 」

 

 その言葉に、空気がまたひとすじ、ピリリと張り詰める。

 今度は反対側――薙刀を抱えたお妙が、一歩前に出てきた。

 

「すいません、銀さん。でも、私としては……どうせまた起きたら危ないことするんだろうなと思って、止めようとしただけなんです」

 

 にこり。

 その笑みはまるで春の日差しのように柔らかだったが、手にした薙刀の刃先がわずかに光を反射し、まるで処刑台のような冷たい輝きを放った。

 

 銀時の顔が引きつる。

 

「……あの〜、すいません。止めるって……何を止めようとしてたのか聞いていい?」

 

 一拍おいて、苦笑いとともに銀時が問いかけた。

 

「……息の根、 息の根止めにきたよね?」

 

 お妙の目元がピクリと動き、無言で舌打ちが漏れる。

 

「チッ」

 

「今の、舌打ちだよねソレ!? 確実に失敗した時の舌打ちだよねソレェ!?」

 

 銀時がベッドの枕を盾に構え、後ずさる中、新八が場の空気を変えるように笑顔を浮かべた。

 

「それにしても、銀さん……無事なようで、本当に良かったですよ」

 

 

 隣でセリナが優しく微笑みながらうなずいた。

 

「はい、無事で本当に良かったです。でも……しばらくは絶対安静ですからね?」

 

 その言葉に、場の空気が少しだけ穏やかになった――が。

 

「2人とも、何言ってるアルか?」

 

 ふいに神楽が腕を組みながら言い放つ。

 

「銀ちゃんがこの程度で死ぬわけないアル。それにもうピンピンしてるネ。どうせすぐまたバカみたいに突っ込むアル」

神楽の発言を聞いた時ハナエとお妙は再び得物を構え出した。

 

「おい、神楽!何余計なこと言っちゃってくれてんだよ!お前のせいでもう一度あの世に逝きそうなんだよたった今……!」

 

 銀時がぼやく間もなく、ドアの向こうから突如として響いた足音にかき消された。

 

 ドタドタドタドタドタ……!!

 

 複数の足音が、建物全体を揺らす勢いで迫ってくる。

 そして次の瞬間――

 

「先生ィィィィ!!目を覚ましたって本当ですか!?」

 

 ガラガラァァッ!!

 

 扉が破れんばかりの勢いで開いたその瞬間、病室に全員の視線が集中した。

 そして、現れたのは――血と包帯にまみれ、ボロボロの制服をまとったまま飛び込んできた一人の生徒。

 

 現れたのは、ヨコチチこと、ゲヘナの風紀委員の行政官アコだった。制服の上からでもわかるほど、身体の至る所に擦り傷と包帯。そして何より――その特徴的な横に張り出した重力の反逆者たちが、いつものように右、左からこんにちはと挨拶していた。

 

「銀ちゃん、ヨコチチが飛び出して来たネ。しかも喋るアルよ。」

 

「誰のことをヨコチチと呼んでいるんですか!?」

 

 アコは眉を吊り上げ、唇を震わせながら叫んだ。

 

「それに、本体は胸じゃないので普通に会話できますからね!?」

 

「いや、どっからどう見てもヨコチチが喋ってるようにしか見えないネ」

 

 神楽の冷静な指摘に、アコの表情が引きつる。

 

 そこに、銀時がぽつりと口を開いた。

 

「……舐めねぇほうがいいぞ、神楽」

 

 銀時の目が妙に真剣だった。

 

「あいつのヨコチチは一味違ってな……。なんと呼吸も、思考も、意思表示も――全てヨコチチで成している。つまりは……」

 

 そこで一拍、銀時が重々しく言葉を繋ぐ。

 

「人間をぶら下げたヨコチチだ」

 

「なるほど……。人間をかけたメガネと、人間をぶら下げたヨコチチ」

 

 神楽が腕を組んで唸るように言った。

 

「つまり、ヨコチチがないあいつは、新八のメガネがない状態と同じってことネ」

 

「ちょっと!それって僕はメガネしか必要とされてないってこと!!?」

 

 

 新八が抗議する中、銀時は腕を組み、改めてアコを見やった。

 

「で、その人間をぶら下げたヨコチチは、一体なんの用でここに来たんだよ」

 

 アコは一瞬、口を結んだあと、静かに言った。

 

「……委員長が。ヒナ委員長が、いなくなったんです」

 

 室内の空気が、たちまち凍りついた。

 

 新八やセリナの顔からも、色が引いていく。

 

「え……? ヒナさんが?」

 

 新八が、まるで聞き間違いでもしたかのように聞き返した。

 

「はい……。あの怪我で、どこへ行ったのか……」

 

 セリナも青ざめながら呟く。

 

「そんな……こんな状態で……」

 

 アコは唇を噛み締め、拳を強く握りしめていた。

 

「……私たちにも意地はあります。できることなら、先生に頼らずに見つけたかった。でも、もう限界なんです。皆、満身創痍で……。だから――」

 

 アコは一歩前に出て、深く頭を下げた。

 

「先生、委員長を探してください。お願いします」

 

 その声は、必死さと、どうしようもない無力さを滲ませていた。

 

 しばしの沈黙ののち――神楽がそっと銀時に問いかける。

 

「銀ちゃん……どうするアルか?」

 

 銀時は静かに頭をかき、少しだけうつむいてから、すっとベッドから立ち上がった。

 その動きに、包帯の隙間から傷が痛みを訴えたが、銀時はそれを無視するように笑ってみせた。

 

「新八、神楽」

 

 銀時の声は、不思議な静けさと決意を宿していた。

 

「キヴォトス初の三人揃っての依頼だ。……俺が他んとこで色々やってる間に、探しとけ」

 

「え……? でも、銀さんはしばらく絶対安静って……」

 

 新八が思わず声を上げるが、神楽はそれを遮ってにっこり笑った。

 

「アイアイサー! さっ、行くアルよ新八ィ!」

 

「ちょっ、神楽ちゃん!? 」

 

 慌てる新八をよそに、銀時はどこか遠くを見つめながら、ぽつりと呟いた。

 

「安心しやがれ……。あのモップ委員長は、俺たちが必ず連れ帰る」

 

 その言葉には、軽口の裏に、誰よりも深く繋がった絆がにじんでいた。

 

 

 アコは黙っていた。

 

 その場にいた誰もが何か言葉をかけようとしたが、それを遮るように彼女は無言で病室の扉へ向かう。ドアノブに手をかけ、**ガラガラ……**と静かに扉を開けた。

 

 その背中を見送りながら、銀時がふいに声を上げた。

 

「――あっ、そうそう。忘れてた」

 

 その何気ないような一言に、アコは半身を扉の外へ出しかけたところで立ち止まった。

 

「早くそっから逃げねぇと……大変なことになるから」

 

「へ?」

 

 アコが困惑気味に振り返った瞬間、病室の奥――ちょうどベッドの影になっていたあたりから、二つの閃光が弾けるように飛び出してきた。

 

「ひィッ……!?」

 

 それは光などではない。いや、ある意味で確かに**“命の灯”**かもしれないが。

 

 一つは、唸りをあげるチェンソー。

 一つは、殺気と共に握られた鬼のような腕。

 

 ――そう、ハナエとお妙である。

 

「こんな怪我をして治療を受けずに無理をするなんて!!」

「頭がおかしいんですね!? そうなんですね!?」

 

 白衣をなびかせたハナエが、チェンソーを振りかざして叫ぶ。その姿は、天使というより医療に名を借りたホラーそのものだった。

 

「私が治してあげますからァァァ!!」

 

「なんでチェンソーで治療しようとするんですか!!頭がおかしいのはあなたのほうでしょ!!」

 

 アコが悲鳴をあげて逃げようとした瞬間、今度はお妙がその道を塞いだ。

 

「あなたも……あなたもなのね……」

 

 表情は笑顔。しかしその笑みはまるで猛獣が獲物を見つけた時のような静かな喜悦に満ちていた。

 

「は?」

 

「あなたも……胸が大きいのね!!」

 

 ぐにゅっ……!!

 

「いたっ、いたいっ! 痛いじゃないですか! この胸はヒナ委員長に捧げるって決めてたのにィィィ!!」

 

 アコの叫びが、病室中に響き渡った。まさに肉体と言葉のセカンドオピニオン地獄である。

 

 そんな混沌の中、銀時は涼しい顔でセリナに向き直った。

 

「やれやれ、さて――アンタはどうする? ピンクの清楚系看護師さん」

 

「アンタも、俺を止めるのか?」

 

 セリナはわずかに目を伏せ、そして静かに首を振った。

 

「……いいえ。あなたも団長と同じ。きっと、一度決めたことは曲げない頑固な人なんでしょう」

 

 そう言って、セリナは銀時に一式を手渡す。

 

 一つは、使い古された木刀。

 一つは、くたびれたジャケット。

 そして最後に渡されたのは、キヴォトスからの相棒――**シッテムの箱(iPad)**だった。

 

「これを持って、戦いに向かってください」

 

 銀時は少し目を丸くしながらも、それをひとつずつ受け取る。

 

「へぇ、意外だな。アンタも他の連中みたいに止めに来るかと思ってたが……割と理解あるじゃないの」

 

「これで何度も同じことを話さなくて助かるってもんだ。」

 

「私も本当は止めたいです。救護騎士団の一員として、怪我人を無理に動かすなんてあり得ないですから。でも――」

 

 彼女は一瞬だけ表情を曇らせ、そして凛とした目で銀時を見据えた。

 

「でも、あなたという人は『動かなければならない』って時は、誰が何と言おうと動くとわかってます」

 

 銀時は笑い、衣を肩にかけ、木刀を腰に差し、シッテムの箱を懐に押し込んだ。

 

「じゃ、行ってくるわ。できればアイツらが外科手術始める前に、な」

 

 そう言って歩き出す銀時の背中に、セリナが小さく声をかける。

 

「……でも、一つだけ」

 

 銀時は歩みを止める。

 

「必ず。必ず元気な姿で戻るって、約束してください」

 

 その言葉は、とても静かで、でも確かな祈りに満ちていた。

 

 銀時は肩越しに振り返り、少しだけ口元を歪める。

 

「……そいつも依頼か?」

 

「はい。破った時は、私もチェンソーで襲いかかりますから」

 

 その冗談に、銀時は肩をすくめて笑った。

 

「へへ、そいつはごめん被るぜ」

 

そう言って救護騎士団の病棟を後にした。

 

 

「HEY、アロナ。起きてるか?」

 

『はい起きてますよ先生。その呼び方久しぶりですね。』

 

「あれ?もうツッコねぇの?」

 

「『Siriみたいな感覚で言わないでください!』って」

 

『先生がおふざけするのは日常ですからね。いちいちつっこんでたら埒があきませんよ。で要件はなんですか?』

 

「なぁに、知ってる奴らに一斉送信してほしいやつがあるだけさ」

 

 そして、まるでいつも通り――それでいて、何かが変わり始めたように。

 銀時は、静かに歩き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

時は夜へと移ろい、雨音が静かに世界を包んでいた。

 

 窓の外では細かく冷たい雨が絶え間なく降り続け、街の喧騒を濁した水膜の向こうへと流していく。湿気を含んだ夜の空気が、じっとりと部屋の隅々に染み込んでいた。

 

 その暗い室内で、ヒナは小さな影となって蹲っていた。

 

 まるで時間の流れだけが彼女を置き去りにして進んでいくように、彼女はただじっと、身動きもせず、俯いたまま――生きていた。

 

 いや、生かされていただけだった。

 

 思考は止まり、感情は摩耗していた。

 

 もう私は頑張れない。

 

 そう心の奥底で呟いた時、ヒナの胸に重くのしかかるものがあった。銀時の、あの瞬間の姿。自分の目の前で、彼が撃たれたあの瞬間が、まるで夢の中のように何度も蘇る。

 

 私は、銀ちゃんを守れなかった。

 私がそばにいながら、彼は傷ついた。

 

 それだけじゃない。今までのゲヘナでの日々。張り詰めた責任と期待に潰されそうになりながら、それでも立ってきた。笑顔で、生徒たちを、街を、仲間を守ってきた。でも、もう限界だった。心も、体も、音を立てて崩れていく。と

 

 身体は震え、手は冷え、力が入らない。

 そして、思考の片隅には、かすかながら確かな影が潜む。

 

 死んでしまいたい。

 でも、それすら実行に移せない私は、やっぱり臆病者だ。

 

 だからヒナはこうして、時間だけを消費しながら、ただ世界の片隅にいることを望んだ。

 

 ……そんなときだった。

 

 コン、コン。

 控えめなノック音が、部屋の静寂を破った。

 

 ヒナはびくりと肩を震わせる。

 

 誰にも会いたくない。

 

 誰とも話したくない。

 

 世界が、自分を見つめることすら苦しい。

 

 ノックは鳴り止まない。むしろ次第に力を増していく。

 

 「アレ〜?おかしいなぁ。留守か?」

 

 ――その声には、確かに聞き覚えがあった。

 

 けれど、そんなはずはない。

 彼は撃たれて、今も病院で寝ているはずだ。

 いるはずがない。いや、いてはいけない。

 

 ヒナは首を横に振り、耳を塞ごうとした。

 それでも外の会話は止まらなかった。

 

 「おい、テメェらここ本当にモップ店の品出し会社なんだろうな?」

 

 「えぇっと確かにそのはずですけど……今日は留守なんですかね?」

 

 「いや、そんなはずないネだってここ、ずっと電気ついてないって言ってたアル。」

 

 「どうせどこぞの天パバカ侍みたく飲んだくれての生活を繰り返してるだけのマダオがいるだけネ」

 

 「おい、それ俺の言ってる?俺のこと言ってるよね?」

 

 飲んだくれ。モップ屋。

 突拍子もない会話が外から響き、現実味を失わせていく。

 

 ヒナは思わず口元を引き結び、胸を押さえる。

 

 ――これは、ただの幻聴かもしれない。

 

 そして、外の声はやがて遠ざかっていく。

 

 「しゃあねぇ、“ここ”は諦めるとするか……」

 

 「そうですね。ここに長居しても時間の無駄みたいですし……」

 

 「はぁ〜お腹すいたヨ。酢昆布10年分早く寄越すアル。」

 

 静かになった。

 

 ようやく一人になれた。

 

 ヒナは胸を撫で下ろす。

 

 ――その、刹那。

 

 「ウォォォォ!!」

 

 ガシャアアン!!

 

 窓ガラスが粉々に砕け、飛び散る破片がまるで星のように室内に舞い降りた。

 

 その星の中心に、銀髪の男が落ちてきた。

 銀色の乱れた天パ。間違いようもない。現実だった。

 

 「痛ぇ……」

 

 彼は身を起こしながら、割れた窓の外へと怒鳴った。

 

 「おい!神楽!!窓があるところまで投げろとは言ったが誰が窓ガラス割るくらい勢いよく投げろつったよ!!」

 

 外から響く声。

 

 「いや、突然可愛らしいJKの部屋を窓に汚ったないアラサー天パ男が覗きに込んでたらそれこそ色々とアウトね。」

 

 「私の優しい心遣いに感謝してほしいアル。」へっ

 

 「全然優しくねぇよ。言葉の刃もガラスの刃も突き刺さりまくってるわ!!」

 

 そのやり取りが、確かにここに「日常」を持ち込んできた。

 銀時の無遠慮な存在が、曇った空気を無理やり裂いた。

 

 ヒナは震える声で、口を開く。

 

 「ぎ、銀ちゃん………」

 

 銀時は、微かに口角を上げた。

 

 「……よぉ、ゲヘナシナシナシロモップ。お前の忠犬(アコ)が主人がなかなか帰ってこないって頼みにきてな。」

 

 「ちょっと様子だけでもと見に来た次第だが……」

 

 「相当まいってるみてぇだな」

 

 ヒナは言葉を返せなかった。

 

静寂が再び部屋に降りた。

 

 窓から入り込んだ風が、雨の匂いを伴ってカーテンを揺らす。湿った空気がヒナの肌を撫で、彼女の冷え切った心の奥へと染み込んでいく。

 

 彼女は唇を噛み締め、震える声で言った。

 

 

 

 ヒナ「…………っ!」

 

 

 

 そして、ついに言葉が溢れた。

 

 

 

 「なんで来たの?」

 

 

 

 その問いは、責めでも恨みでもなく、ただ自分自身を深く傷つける懺悔のようだった。

 

 

 

 「はぁ?」

 

 

 

 ヒナの肩がわずかに震える。

 

 降り積もった後悔が、喉元まで満ちていた。

 

 

 

 「私はあなたに会う資格なんてないの。だって私はあなたを守れなかった。」

 

 

 

 「おい、お前……」

 

 

 

 銀時が言いかけたその言葉を、ヒナは手で遮るように絞り出す。

 

 彼女の心は、あの日に取り残されたままだった。

 

 

 

 本当は、あの時。

 身体が動かなくても、立ち上がるべきだった。

 

 傷だらけでも、意識が朦朧としていても、踏み出すべきだった。

 

 それができなかったせいで――銀ちゃんは、自分を庇って撃たれた。

 

 

 

 だから、自分のせいだ。

 

 銀ちゃんが傷ついたのは、私の弱さのせいだ。

 

 

 

 恐れていた。

 大切なものを失うということが、あまりに怖くて……

 だから、逃げた。

 

 

 

 ヒナの中で、押し込めていたもう一人の自分が顔を出す。

 心の裏側に潜んでいた少女が、ヒナの口を通して語り始める。

 

 

 

 「私は……小鳥遊ホシノみたいには、なれない……」

 

 

 

 「銀ちゃんはしってるかもだけれど、前アビドス生徒会長、梔子ユメ。彼女の遺体を発見したのは……小鳥遊ホシノだったそうよ。かけがえのない、物凄く大切な人だったはずなのに……」

 

 

 

 あのとき、ホシノの瞳に宿っていた光。

 それは、何も変わっていなかった。

 失っても、傷ついても、彼女は折れなかった。

 

 

 

 彼女は今も、アビドスで戦っている。

 

 「強さ」の意味を、誰よりも知っている者の目で、前を見ている。

 

 

 

 「……あれだけの苦しみを味わっておきながら、彼女はまだアビドスで戦っている……私には、そんなことできない……私はみんなが思うほど強くないの……もう、あの瞬間に……もうーー」

 

 

 

 嗚咽まじりの言葉に、銀時は静かに口を開いた。

 

 

 

 「死にゃあしねぇよ俺ぁ。死にゃあしねぇ誰も」

 

 

 

 「ゲヘナと言わず……もうこのキヴォトスで、」

 

 

 

 「俺たちはお前を1人にはしねぇ……」

 

 

 

 その言葉は、ヒナの張り詰めた心の氷を、じわじわと溶かしていく。

 

 

 

 「………っ!」

 

 

 

 銀時はゆっくりと、言葉を続けた。

 

 

 

 「1人で何もかも背負い込むなんて水臭えことしてんじゃねぇよ」

 

 

 

 「涙垂れ流して助けを乞いやがれ」

 

 

 

 「鼻水垂れ流して縋りつきやがれ」

 

 

 

 「泣きてぇ時には泣けばいいんだ。今がその時だ。」

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 ヒナの胸の奥で、ずっと堰き止められていた感情が、一気に堤防を越えた。

 

 

 

 「う、……うわァァァァァ!!!」

 

 

 

 その叫びは、怒りでも悔しさでもなく、ただの涙だった。

 

 張り詰めた糸が千切れ、力が抜け、ヒナは膝をつく。

 

 上を向き、抑えようのない涙と嗚咽を空へ解き放った。

 

 

 

 「う"ァァァァァ!!」

 

 

 

 銀時はその頭に手を伸ばし、そっと撫でた。

 

 力強く、けれどどこまでも優しく。

 

 

 

 「お前は十分強ぇよ。」

 

 

 

 「背負い込んだ荷を誰にも背負わさずに1人で抱え込んで、ずっと1人で戦って……」

 

 

 

 「ホシノもお前も俺なんかよりもずっと強ぇ。」

 

 

 

 「だからもう1人で抱え込むんじゃねぇ……」

 

 

 

 ヒナは、涙に濡れた顔のまま、銀時の胸に縋りつきながら頷いた。

 

 泣いて、泣いて、泣いて……

 その中で、彼女の心の奥にほんの少し、あたたかな灯火がともった。

 

 

泣き疲れたヒナは、しばらくその場にしゃがみ込んだまま、静かに呼吸を整えていた。

 

 部屋の中はまだ湿気が残っているのに、不思議とその空気が少しだけ軽くなっているように思えた。銀時は、そんなヒナを黙って見守っていた。目を腫らし、鼻を赤くして、それでもどこか安堵した顔をしている彼女に、ひとつだけ問いを投げかける。

 

 

 

 「で、どうすんだよ。お前」

 

 

 

 ヒナが顔を上げる。まるで問いの意味を測りかねるように、瞬きした。

 

 

 

 「何を?」

 

 

 

 銀時は肩を竦め、そっけなく言った。

 

 

 

 「いや、風紀委員長を引退するって話……その様子だとお前ーー」

 

 

 

 ヒナの目が、しっかりと銀時を捉える。さっきまで涙で揺れていた光は、もう確かな意志を灯していた。

 

 

 

 「何言ってるの?まだ辞めない気はないわ。」

 

 

 

 「は?」

 

 

 

 その返事は意外だったようで、銀時は眉をひとつ持ち上げる。だがヒナは構わず、落ち着いた声で続けた。

 

 

 

 「銀ちゃん言ってたじゃない。『お前の忠犬(アコ)が主人がなかなか帰ってこなくて困ってる』って」

 

 

 

 「まあね、」

 

 

 

 ヒナは、口元にほんの少し微笑みを浮かべる。けれどその笑みは決して軽いものではなかった。泣きじゃくった後の声は少し掠れていたが、その言葉には確かな重みがあった。

 

 

 

 「だからもう少し背負ってみることにしたわ。」

 

 

 

 「大丈夫。次からはちゃんとみんなに頼るから」

 

 

 

 銀時は、彼女の言葉にわずかに目を細め、口の端を上げる。

 

 

 

 「…そうかい。」

 

 

 

 その短い返事を残して、銀時はくるりと背を向けた。破れた窓のほうへと歩みを進める。雨はもう止んでいたらしく、外の空気は一層澄んでいた。

 

 その背中に、ヒナの声が再びかかる。

 

 

 

 「ねぇ……」

 

 

 

 銀時の足が止まる。

 

 

 

 「またどこかへ行く気なの?」

 

 

 

 振り向きもせず、銀時はぼそりと呟くように返した。

 

 

 

 「ああ、あと一人。お前みたいな奴を相手しなくちゃいけねぇからな」

 

 

 

 それは、冗談のようでいてどこか本気で、優しいようで少し突き放すような……そんな彼らしい言葉だった。

 

 ヒナはそれ以上何も言わなかった。ただその背中を見送る。その瞳にはもう涙はなく、静かな決意だけが残っていた。

 

 

 

 風紀委員長、空崎ヒナは——

 

 もう一度、立ち上がる準備を始めていた。




次回、

銀時「ゴリラの救出に集まっての作戦会議?ああもう面倒くせぇよ。ってことであとは新八ィ、神楽よろしくぅ〜」

新八「え?ちょっと!?」

神楽「私も面倒ごとはごめんネ。新八に託したアル」

新八「ちょっとォォォ!!お前らいい加減真面目にやれェェェ!!」

次回 トリの糞は液体で構わず落とすから腹が立つ

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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