透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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銀時「なんかさ〜俺たちここ最近ずっとシリアスじゃない?」

新八「急にどうしたんですか?」

銀時「いや……ずっと誰かと戦ってばっかだし、そろそろボケたいな〜つーか、ボケとシリアスのバランスで銀魂って成り立ってたもんじゃん?それがずっとシリアスって……アニメ時代だと制作費足りなくて総集編にまわされるパターンだよ。」

「それにアレだって、エデン条約篇が最終章に突入だって終わるんだってさこのすっごく長そうに感じたこの話が早いよね〜」

「こんな調子じゃジジイになった時F-1カーが通り過ぎる並のスピードで時が話が過ぎるんじゃねぇの?というかもう少しでこの作品も一年経つらしいし」

神楽「私はまだまだ大丈夫アル。」

銀時「いやいや、俺なんてビンジャンソンが走り去るくらいまで来てるからね。来てるからねそこに便が……」

「お前らも若いからって調子乗ってるとすぐ来るよ便が」

神楽「マジかよべんが来るのかよ。私はカールの方がいいアル。」

銀時「まぁつまりだ。この一年間いい感じで時を過ごせたって事ですいいんじゃね?」
銀時「確かにジャンプ的な展開でいいんだけど、やっぱねぇ〜。」

銀時「つーか、銀魂としてのアニメがおしゃべりダラダラするのが予定の予算で困っていたってなら、俺たちがブルアカのアニメに入ってやったら俺らも予算が増えてブルアカも第二期に入って一石二鳥だったんじゃねえの?」

新八「何さりげなくよそ様のアニメ乗っ取ろうとしてんだァ!!」

神楽「だって〜あそこずっとバトルばっかだし、知名度もあるし、乗っ取っとけば今頃安泰だったの間違いなしアル。」

銀時「それに、あの先生。ソシャゲの指示内容が難しいのは分かるけど……ゲームをしてる俺たちと認識が異なったことが第二期制作に踏み切れなかった理由だと思うんだよね〜」

「やっぱここは一歩踏み出して先生が戦う世界線で出した方がイメージは違ってもこれはこれで有りかって感じになったと思うんだよ。」

新八「いや、それもう本来のブルアカじゃないし、生徒の見せ場もアンタが奪うじゃん。青春どころか曇り空しか残らないよそのアニメ。」

銀時「最初の場面で最終章のシーンを持ってきたんだからそこまでやってくれないとね。」


「なんて第二期制作が始まらない愚痴はここまでにしてそろそろ本題に入るか、つっても頭硬ぇやつらの会談だから別に面白くもなんともないけど」

新八「いや製作陣営に謝れェェェ!!!」


エデン条約アリウス彰晃篇
第百十二訓事故報告は真面目にやらないと。絶対に


 

 

「いたぞ、向こうだ、追えッ――!」

「くッ……!」

 掠れた怒声が、夜気を裂いた。

 煤けたスラムの路地に、無数の足音が乱れ飛ぶ。

 背後では金属を弾く硬質な音――発砲だ。

 白い閃光が闇の奥で瞬き、直後、壁面を抉るように弾丸が衝突する。砕けたコンクリ片が雨のように頬を打ち、熱い痛みが皮膚を裂いた。

 スクワッドの面々は息を切らしながら、ただ足を前へと運び続ける。額を伝う汗は冷たいはずなのに、血のように重く感じられた。

 アリウス分校に捕捉されてから、どれほど走ったのか。時計も当てにはならず、感覚はすでに麻痺している。少なくとも一時間や二時間などという生易しい時間ではない。

 そして、この追撃劇は初めてではなかった。逃亡生活に入ってから幾度も繰り返された、終わりの見えぬ悪夢――。

 先頭を駆けていたサオリの手首を、後ろから伸びたミサキの手が掴む。

 荒く息を吐きながら、彼女はかすかに首を振った。

「リーダー、この先は袋小路、誘導されているよ」

「何――?」

 その声に、サオリはほんの僅か足を緩めた。

 暗闇の中、唯一の明かりは雲間から覗く細い月。

 目を凝らすと、前方は廃墟が密集して立ちはだかり、行き止まりとなっているのが分かった。

 脇の建物――その影から、複数の銃口が月光を鈍く反射させながら現れる。

 誘い込まれた。

 歯を食いしばる音が、サオリの喉の奥で小さく響いた。

 銃を構えるが、数の差はあまりに歴然。

 背中は冷たい外壁に押し付けられ、左右の建物の影からも敵が銃を覗かせている。正面には、先ほどまで背後を追っていた部隊が足並みを揃えて迫る。

「も、もうおしまいです……っ!」

「……反対側も、包囲された」

 誰かの掠れた声が、空気をさらに重くした。

 正面から吹きつける湿った風に、火薬と油の匂いが混じる。

 ヒヨリが嗚咽混じりに震え出し、ミサキは唇を噛んで視線を逸らす。

「万事休す、だね」

「っ……」

 その呟きに、サオリは歯を軋らせた。

 頭の中で逃げ道を探すも、すぐに壁へと突き当たる。

 これまでの追撃戦で体力も弾薬も削られ、武器は重く、呼吸は凍り付くように浅い。

 包囲網はじりじりと狭まり、敵の足音が地面に響くたび、彼女の心臓も小さく跳ねた。

 その時、前列の中から一人の生徒が静かに踏み出した。

 肩越しに下がった部隊員たちの視線と緊張感からして、恐らく部隊長。

 月光を背に受け、彼女は銃を抱いたまま言い放つ。

「スクワッド――諦めろ、これ以上の抵抗は無意味だ」

「………」

 同情か、冷たい勧告か。

 どちらにせよ、その言葉に頷ける覚悟しかないのなら――そもそも無謀な離反など起こしてはいない。

「ミサキ、セイントプレデターの弾薬は」

 サオリの声は、かすれ、しかし確かな芯を持っていた。

「……まだ残っている、でも撃ってどうするの? 前方に展開した部隊を私の攻撃で吹き飛ばしても、皆もう逃げるだけの体力も、弾薬も残っていないよ」

 ミサキはそこで言葉を切り、サオリを見た。

 泥と砂塵、そして銃弾の痕で外套は無惨に裂け、露出した肌は無数の傷に覆われている。

 顔色は蒼白で、息も浅い。

 折られた腕は治ったとはいえ、万全など程遠い。

「それに、リーダーの体調……逃げるどころか、このままだと命が危ない」

「と、投降するしか、ないのでしょうか……?」

「――いいや」

 ヒヨリの弱々しい問いに、サオリは静かに首を横に振った。

 そして懐へと伸ばした指先が、冷たい金属の感触を確かめる。

「最後の手段なら、まだ残っている」

 掌に収まったのは、歪な形の手榴弾。

 ヒヨリは息を呑み、ミサキの表情はわずかに歪む。

「えっ、ま、まさか……!」

「ヘイロー破壊爆弾……」

 その名が、包囲する空気を一瞬で変えた。

 アリウス側の生徒たちが揃って息を詰め、銃口がわずかに揺らぐ。

 引き金に掛けられたサオリの指先へ、無数の視線が釘付けになる。

 撃てない。

 万が一起爆すれば、サオリも、周囲の敵も、確保対象すら巻き添えにしてしまう。

 サオリはそれを計算した上で、爆弾を高く掲げ、静かに一歩踏み出した。

「ミサキ、ヒヨリ、私が時間を稼ぐ――その隙に離脱しろ」

 右手には愛銃、左手には世界を壊す爆弾。

 額から流れる汗は顎を伝い、地面に落ちて消えた。

 指先はわずかに震えていたが、視線はただ前だけを見据えている。

 恐怖よりも先にあるのは、守るべき仲間の姿――そのためなら、この命さえ惜しくはない。

雨は、降りやまない。

 黒ずんだ舗道を叩く無数の水滴は、破裂音を繰り返しながら地面を濡らし、そこに映る街灯の光を歪ませていた。

「まだ抗うか……天に」

 低く湿った声が、雨音を切り裂くように響く。

 それは鋼のように冷たく、骨の芯にまで届く響きだった。

「散々聞かされたはずだ。全ては虚しいものであると――」

「希望など、貴様らには存在しないと」

 朧の言葉は、夜気と雨粒に混ざって淡々と落ちてくる。

 ヒヨリの喉がひゅっと鳴り、か細い息が漏れた。

「ふぇ……!?」

 その声を振り返るように、ミサキが低く呟く。

「ねぇ、アレって――」

「朧……」サオリの声は湿った空気に溶けた。「高杉のところと、マダムの橋渡しの役割を果たしている大人だ」

 朧の瞳に、僅かに嘲笑めいた光が揺らめく。

「あの男に唆されたか………天に抗い、地に堕ちたあの鬼に」

 雨粒がその頬を滑り落ち、顎から細い雫となって落ちた。

 答える者はいない。ヒヨリも、ミサキも、サオリも――ただ沈黙が全員の間を支配していた。

「まぁいい。お前たちを始末することに変わらないのだからな」

 その宣告は、刃物よりも鋭く周囲の生徒たちへ突き刺さった。

 膝をつくサオリは、顔を上げもせず、雨音の中で微動だにしない。

 ヒヨリは驚愕に体を震わせ、呼吸が乱れていく。

 ただ一人、ミサキだけが小さく「あぁ」と息を吐いた。諦観と、冷笑と、わずかな自嘲が混ざった吐息だった。

 ――本当に愚かだった。

 この期に及んで、アリウスに誓いが通じると信じていた自分自身が。

 ミサキは唇の端を僅かに吊り上げた。

 それは笑みというより、濡れた刃の鈍い光のような苦笑。

「返答がないな」

「――承知しました」

 朧の冷たい声に、部隊長が機械のような響きで応える。

 そしてゆっくりと、左手を掲げた。

 その仕草に呼応するように、包囲していた生徒たちが再び銃口を上げ、雨水を滴らせた銃身を的へ向ける。

 ヒヨリは怯え混じりに視線を彷徨わせ、ミサキはふっと息を吐いて愛銃を泥濘へと投げ落とした。

 金属が湿った地面に叩きつけられ、鈍い音と共に泥が跳ねる。

 ヒヨリも、ミサキの動作と動かぬサオリの背を見て、ゆっくりと背嚢を降ろした。腰を下ろし、泥と雨水に濡れた膝に手をつく。

「まぁ、こうなるよね……結局全部、無駄だった」

「あ、あはは……苦しい人生でしたね」

 その声には、もはや希望のかけらも残っていなかった。

 銃口の列。雨粒を受けて黒い穴は光を宿し、冷たい息を吐くかのように蒸気を漂わせる。

 引き金へかかる指――一斉射撃なら数秒もかからないだろう。

 朧の頭には既に、ヘイロー破壊爆弾で事後処理をする算段まで描かれていた。

「次があったら……もし、生まれ変わりがあるのなら」

 不意に、ヒヨリが呟いた。

 曇天に覆われた夜空を見上げ、肩を落とし、雨をその身に受けながら――小さく笑う。

「――陽の下で、皆一緒に笑える人生が良いですね」

「……なにそれ」

 鼻で笑い、俯くミサキ。

 雨が髪を伝い、顎から地面へ落ちるたび、音がやけに大きく聞こえる。

「私達に、そんな未来は許されないでしょう」

 罪を背負い、苦しみを他者へと返すことでしか生きられなかった自分たちに――救いなど、あってはならない。

 返答はなく、ただ朧が左腕を振り下ろす。

 その動きと同時に、雨音に混ざり一斉の銃声が夜を裂いた。

 閃光がスラムの暗闇を白く染め、乾いた衝撃が胸を貫く。

 悲鳴はない。

 銃声と閃光は夜空へ吸い込まれ、すぐに闇と静寂へと戻っていく。

 最後に残ったのは――降りしきる雨と、濡れた石畳の匂いだけだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 「皆様、お越し頂きありがとうございます。――多忙の中、申し訳ありません」

 涼やかな声が、磨き抜かれた大理石の床に柔らかく反響する。

 第一会議室――トリニティ自治区の中でも限られた者しか足を踏み入れられない厳粛な空間。

 高い天井には繊細な装飾が彫り込まれ、中央には堂々たる円卓が鎮座している。その奥、背筋を真っ直ぐに伸ばして座るのは、ティーパーティーのナギサ。

「フン! 忙しい時にこのマコト様を呼ぶとは――」

 マコトが椅子の背に片肘を掛け、挑発めいた笑みを浮かべた瞬間――

「セイッ!」

 乾いた音と共に、ミネの拳が容赦なくマコトの鳩尾を撃ち抜いた。

「ぐはっ!」

 豪奢な椅子が軋み、マコトが前屈みに咳き込む。

 ミネは何事もなかったかのように表情を戻し、きっぱりと言い放った。

「救護完了です」

 ……救護、とは一体。

 サクラコが眉をひそめ、軽くため息をつく。

「ミネさん、会って早々暴力を振るわないでいただけませんか? 現にナギサさんもお困りのようですし」

「む、私はホストを困らせるつもりはないのですが……信念と誇りを掲げる尊き騎士団の一員として、道を誤った者を正すだけです。例えそれが正義実現委員会やティーパーティーの生徒であったとしても」

「……そのお言葉が既にナギサさんを困らせていますが」

 サクラコの視線の先では、ナギサが微妙な笑みを浮かべつつ、紅茶をひと口啜っていた。

 ミネは無言で踵を返し、静かに席へ戻る。

 その様子を薄目で確認したナギサは、わずかに咳払いをして空気を切り替えた。

「ところで、先生――坂田銀時はどうしたのだ?」

 マコトがようやく体勢を立て直しながら問い掛ける。

 サクラコも首を傾げた。

「そういえば……」

「…………」

 ミネの沈黙に、サクラコが半ば呆れた顔をする。

「あの……まさかとは思いますが……"救護"したりなんてことは――」

「いえ、彼は――」

 ミネが口を開くと同時に、場面は遡る。

ーーーーーーーーーーーー

 ――あの戦いの後。

 傷だらけで運び込まれた銀時が、目を覚ました時のこと。

「……あの〜」

 薄く目を開けた銀時の視界に入ったのは、チェンソーを構えたハナエの姿だった。

 その笑みは優しげでありながら、どこか凶器のような光を帯びている。

 背後には、同じく助っ人として駆けつけた生徒たちが、揃ってにこやかに――しかし妙に圧のある視線を注いでいた。

「先生、あの怪我で戦ってまた怪我をして帰ってくるなんて、頭がおかしいんですよね? そうなんですよね?」

「いや、怪我人の治療にチェンソー使う奴に言われたくないんだけど……」

「いやぁ〜、おじさんはここらでちょっと安んで欲しいと思うな〜」

 

「そうですね。自分の身を顧みずに戦うところはすごいですが……同時に安心出来ません」

 

「いや、あの……その“安む”って字が安らぎの方になってんだけど……川で安めってか? 三途の川で安めってことですかコノヤロー!?」

「先生」

「ああ!?」

「私、言いましたよね? 無事に帰って来ないとチェンソーで襲うって……」

「いや、あの……だから今こうして無事に――」

 ブンッと空気を裂く音。

 次の瞬間――

「ギャァァァァァァァァ!!!!!」

 悲鳴はシャーレ中に木霊し、鳥すら飛び立ったという。

 

ーーーーーーーーー

 ――現在。

「と、救護を行われて今シャーレにて休養中です」

 ミネがさらりと説明を終える。

 

 「いや、それ救護という名の――ただの拷問!!」

 サクラコの鋭い声が、会議室の静寂を切り裂く。

 その一言に、ナギサ以外の全員の視線がミネへと集中した。

「そもそもミネ団長。あなたの暴走癖が原因で、"ミネが壊して騎士団が治す"って言われてるんですよ! その教えが、よりにもよってハナエさんやセリナさんにまで悪影響を――」

 サクラコの説教を最後まで聞く間もなく、マコトが肩を震わせ、ニヤリと笑った。

「なるほど……だから貴様はトリニティ三大ゴリラと呼ばれているんだな。キヒヒ、キヒヒヒヒヒ!!」

 その瞬間、ミネの眉がわずかに動いた。

「何を言っているんですか? 私たちは原因から取り除くことを救護と言っているんですよ――」

 すっと右手がマコトの襟元を掴む。

「このように」

「ぐはぁ! ごほっ! がはぁ!!」

 ゴツン、と重い音がして、マコトが椅子ごと横に倒れ込む。

 バタン、と豪奢な椅子が床を叩き、振動が円卓の脚を伝った。

「だから! それが原因だって言ってるんでしょうが!!」

 サクラコが両手を振り上げる。

「ナギサさん、あなたも止めてください!」

 しかし、ナギサはというと――何事もなかったかのように湯気の立つ紅茶を啜っている。

 琥珀色の液面がわずかに揺れ、ソーサーの上で小さな音を立てた。

 サクラコはその悠然とした姿に思わずため息をつく。

 ミネは無言で踵を返し、再び自分の席へ戻った。

 ナギサは薄目でその背を追い、カップを置くと小さく咳払いを一つ。

「ごほん……構いません。こうなることは予測できていましたから――」

「出来てたら何で呼んだんですか!?」

「――兎角、本題に入りましょう」

 静かに告げ、紅茶をソーサーに戻す。

 ナギサの声音はいつも通り落ち着いていたが、その瞳の奥には会議の本題に踏み込む覚悟が宿っていた。

 ――この場に、会議の出席者が揃った。

 ナギサは全員を見渡し、一つ頷くと、努めて平静を装った声で切り出した。

「さて、この度みなさんをお呼び立てした理由は他でもありません。エデン条約以降の顛末と事件、その後始末について話し合うためです」

「トリニティ及びゲヘナの復興状況と、認識の擦り合わせですよね? 一応、報告は小まめにもらっていますけれど――」とサクラコ。

 ナギサは頷き、淡々と続けた。

「エデン条約の騒動はどうにか収まりを見せていますが、事件の処理と状況分析は依然として終わっていません。シスターフッドとしても無関係ではありませんから、分析の一部は私たちが担当しているのです――この席は、そういったティーパーティー以外の派閥における情報共有及び事後処理について話し合う場でもあると思っていただければ」

 合理的な理由だった。

 各派閥が持つ情報を出し合い、協力の土台を築けるのなら、それに越したことはない。サクラコも小さく頷いた。

 しかし、その表情がすぐに硬くなる。

 ナギサの口から次に出た言葉は、ティーパーティーの現状を赤裸々に示すものだった。

「お恥ずかしい話ですが、現在ティーパーティーは外部の手助けを必要としています」

「……と、いうと?」

「エデン条約の前後に、ティーパーティーの一員がホストを襲撃する事件が起こり、その結果メンバーが監獄に入れられるという前代未聞の事態となりました」

 その説明を引き継ぐように、サクラコとミネが補足を重ねていく。

 語られるのはミカの失脚、ナギサの越権行為、そしてセイアの容態の悪化――いずれも、学園の屋台骨を揺るがす失態だった。

「つまり、ティーパーティーは現在非常に不安定な体制である。故に外部からの手助けが必要という判断に至りました」

「――ということです」

 ナギサは二人の説明を受け、ゆっくりと息を吐く。

 失われた権威は簡単には戻らない。今のティーパーティーは、多派閥を束ねる力を欠き、ただ名ばかりの組織と化している。

 そして話題は、事件の黒幕――アリウス分校へと移っていった。

 エデン条約会場の爆破、襲撃、その背後に潜む目的。

 やがてマコトが、まだ息も整わぬまま呟く。

「……ユスティナ聖徒会、だな」

 その名を聞き、室内の空気が一瞬だけ重くなる。

 ナギサは静かに頷き、目を細めた。

 「はい。正確に申し上げれば、あの姿は実体ではなく……幽霊めいた模造品に過ぎません。しかし、もしそれらを無傷のままトリニティ、あるいはゲヘナ中央区へと侵攻させていれば――両学園の崩壊は、決して絵空事ではなかったでしょう」

 

 ナギサの声音は、表面こそ平静だが、底には硬質な緊張が潜んでいた。長机を隔てた向かい側で、ミネが腕を組み、短く唸りを漏らす。その横で、サクラコは珍しく口を閉ざしたまま視線を落としている。

 机上に並ぶ茶器の蒸気が静かに揺れ、光を受けた銀のスプーンがわずかに瞬いた。

 

 

 ナギサは――あの異形の存在を、単なる異常事態ではなく、明確な滅びの兆候として捉えていた。自らは初動の爆撃で意識を刈り取られ、目覚めたときにはすべてが終わっていた。その無力感を抱えたまま、彼女は事件後の分析と事後処理に人一倍心血を注いだのだ。映像記録、生徒の証言、当時動員可能だった戦力の計算……その全てが、あのユスティナ聖徒会の力が両学園を壊滅させ得ることを示していた。

 ほんの僅かな分岐で――ミカやハナコが蜂起しなかった未来、先生が意識を取り戻さなかった未来。そのどちらもが、すぐ隣に口を開けていたかもしれない。

 「……ユスティナ聖徒会。件の存在は、シスターフッドの前身とも聞きます。――サクラコさん、代表である貴女なら何かご存知では?」

 ミネが静かに言葉を投げる。その双眸は研ぎ澄まされた刃のように正面のサクラコを射抜いていた。

 

 「……いいえ。残念ながら」

 サクラコは、わずかに瞼を伏せて否定する。指先でティーカップの取っ手を撫でながら、その声音は波紋一つ立たぬ湖面のように穏やかだった。かえってその無風さが、ミネの胸奥の不信を撫で立てる。

 

 「シスターフッドは秘密の多い組織です。外部への露出は極端に少なく、情報の統制や秘匿、時には歪曲にも長けている」

 「元より、そう在るべき組織でした」

 互いの言葉が刃先を交わすように重なり合う。サクラコは唇の端をわずかに上げ、肩を竦めて続けた。

 「……ユスティナ聖徒会に酷似した存在について、内部ではいくつか仮説もあります。しかし、それを裏付ける証拠は依然として見つかっておりません。今ここで推測を口にしても、混乱を招くだけでしょう。それに――私がシスターフッドのすべての秘密を握っていると思うのは、過大評価です」

 「と、云いますと」

 「シスターフッドには、私ですら知らぬ事が数多くあります。――これ以上は申し上げられませんが」

 ミネはその言葉を受け、しばし沈黙の後に頷いた。

 「……そうでしたか。先程は失礼しました」

 「――はぁ」

 張り詰めていた空気がわずかに緩み、ナギサが安堵の息を落とす。彼女はカップを持ち上げ、一口、紅茶を含んだ。香りが胸の奥を満たすと同時に、わざと僅かな音を立ててソーサーに戻す。その所作は、礼儀を逸した行為である一方、この場の視線を集めるための小さな技巧でもあった。

 「――一先ず、ユスティナ聖徒会については保留としましょう。今は、分かっている事から順に整理するのが肝要です」

 その提案に、ミネが頷きつつ問いを挟む。

 「では、調印式会場に撃ち込まれたあのミサイルについては?」

 誘導弾頭――破片と残骸は事件直後に回収班が押収し、現在も厳重に保管されている。

 

 ナギサは短く息を吸い、淡々と述べる。

 「あれは現在も分析中ですが、出所も構造も不明。唯一分かっているのは――キヴォトスの既存技術ではない、ということです。そして……」

 彼女の視線が、正面に座るマコトへと流れた。

 マコトはそれを受けて口角を吊り上げ、円卓の天板を指先で小気味よく叩いた。

 「我ら万魔殿の見解も同じだ。ただし、あの弾頭の内にあった爆弾については補足がある。――あれはヘイロー破壊爆弾だった。下手をすれば、何万人という生徒が一瞬で死に絶えてもおかしくない。……このマコト様も存在は知っていたが、実物を見るのは初めてでな。さすがに度肝を抜かれたぞ」

 「……となれば、アリウス分校は少なくとも二つの未知の力を手にしているということですか」

 サクラコの低い声が落ちる。

 「二つ、アリウス分校は一体何を計画しているのか」

 ナギサの声は、淡々とした響きの中に冷鋼の刃のような硬さを含んでいた。

 「………」

 会議の空気が一瞬で凝り固まる。

 「これについては、私達は何も分かっていません。簡素に考えるのであれば――私達トリニティ、そしてゲヘナを殲滅し、かつての憎悪を晴らす、というのが尤もらしいですが」

 「トリニティとゲヘナを壊滅させ、『その上で何かを為そうとしていた』可能性がある――という事ですね?」

 ミネの言葉は、鋭い探針のように場を突き刺す。

 「はい」

 ナギサの肯定に、サクラコが膝上で静かに指を組み、長い睫毛の影に瞳を沈めた。ミネは眉間に深い皺を刻み、唇を結んだまま考え込む。

 推測のための材料は、あまりにも少ない。空の地図を前にして道を探すようなものだ。

 何せ――今のトリニティは、彼女たちの本拠地であるアリウス自治区を見つけることすらできていない。

 「それにセイアさんもまだお目覚めになっていません」

 「!」

 乾いた音を立て、サクラコの瞳が大きく見開かれる。

 「…………」

 マコトは腕を組み、深刻そうに顎を引いたまま、言葉を挟まず耳を傾けている。

 「それはーー」

 「サクラコさん、疑いたくなるのも無理はないですが、これは事実。ミネさんによると、何かに縛られているように見えるとのことでしたが?」

 ミネが視線を横切らせながら頷き、低く言葉を継ぐ。

 「えぇ。セイアさんは元々虚弱体質ではありましたが、ここまで眠り続けるのはおかしいと個人で診断をしたところ――」

 「何者かに意識を封じられていることが分かりました」

 「!」

 会議室の空気がきしむ。

 サクラコが椅子の背に寄りかかることも忘れ、身を乗り出した。

 「意識を封じるとは一体どうやって……そんな術、聞いたこともありません」

 「そうですね」

 ナギサは眉を寄せ、ゆっくりと頷く。

 「普通なら信じられる話ではない。しかし、あれだけ不可解な武器や戦闘を行ったアリウスなら、考えられない話でもないはずです」

 「……あの者なら……あるいは……」

 マコトが低く呟く。

 「マコトさん、何か思い当たる節でも?」

 ナギサの問いに、マコトはしばし口を閉ざし、腕を組んだまま長い沈黙を落とす。

 「……………」

 やがて、息を吐き、顎をわずかに上げて彼女は言った。

 「フン! 今は共にエデン条約機構を成しているのだから、仕方ない。この私が貴様らに情報をくれてやろう」

 

 

 

 ――あの日、秘密裏に行われたアリウスとの会合。

 その場に立ちはだかったのは、ただ一人、圧倒的な存在感を放つ女――ベアトリーチェ。

 マコトは淡々と語る。彼女の一挙手一投足が、周囲の空気を支配していたこと。

 そして、自分たちは佐々木をその場に残し、背を向けるしかなかったほど、追い詰められていたことを。

 「なるほど……って。それはつまり、元々アリウスと共同でトリニティを襲うつもりだったってことですか?」

 ナギサの声音は静かだったが、その静けさは嵐の前の凪のような圧力を孕んでいた。

 「ぎくっ………いやはや、このマコト様に限ってそんなことあるわけが……」

 「ありますよね?」

 「あるでしょう」

 「ないという方がおかしいですよ」

 矢継ぎ早に浴びせられる声に、マコトは椅子ごと半歩のけぞった。

 「な、何だと! まっ、待ってくれ……まだ話はァァァァァ!!」

 次の瞬間、ふわりと漂った甘い香り――目の前に現れたのは、予想もしない凶器。

 丸ごとのホールケーキが、マコトの口に無理やり押し込まれた。

 「んぐっ……!?」

 むせる彼女をミネが追い打ちをかけて"救護"し、横ではサクラコが静かに両手を組み、祈りを捧げている。

 ――チーン。

 鈴のような、どこか仏事めいた音が、場の空気を妙な方向に和ませた。

 「さて、その交渉で現れたというベアトリーチェという人物とは、一体何なんでしょうか?」

 ナギサの声が、再び場を現実に引き戻す。

 「アリウスがこのカタコンベの構造を把握している事も、彼女達の持つ不可思議な力に関係があるのでしょうか?」

 ――トリニティの過去は、そもそも霧の中にあった。

 表に見える歴史は、整えられ、飾られ、丁寧にコーティングされた外殻にすぎない。

 その奥底――カタコンベの謎や構造を完全に把握していた時代が、本当にあったのかもしれない。

 だが、長い年月の中でそれらは失われた。あるいは、意図的に封じられ、一部の者だけが知る秘匿の知識となった。

 とはいえ、今必要なのは明快だ。

 ――カタコンベを通過する方法、そしてアリウス自治区を見つけ出すこと。

 しかし、構造が常に変化する迷宮は、一度の正解など意味をなさない。翌日には、道は変わる。

 規則性すら掴めない現状、全ての入口を常時監視するなど、そもそも不可能だった。

 「確実な手段を取るのであれば、通路を把握している人に話を聞くのが一番でしょう」

 穏やかな声でサクラコが告げる。

 「通路を把握?」

 「――アリウス・スクワッドですよ」

 その名を聞いた途端、ナギサとミネの表情が微かに変わった。

 アリウス・スクワッド――トリニティを追い詰めた特記戦力。そのリーダー、錠前サオリ。

 彼女であれば、確実に通路の詳細を把握しているはずだ。

 「ですが、仮に捕らえたとしてどうやって聞き出すのですか?」

 「今は薬剤による自白も促せますが……まぁ無理でしょうね。学園の特殊部隊なら、尋問への対策も十分でしょうし、」

 「第一、彼女たちの行方も分かっていませんからね」

 冷静な現実が、場をさらに重くする。

 「実質的な調査は難しい、情報源もない、これでは手詰まり――」

 ミネが吐き出すように呟く。

 「いいえ」

 サクラコがそれを遮った。

 涼しげな笑みのまま、彼女は告げる。

 「スクワッドから聞き出すのが難しいのなら、彼女達以外に通路を知る可能性のある生徒に当たりましょう」

 「……通路を知っている生徒?」

 「そんな方がどこに」

 「えぇ、いらっしゃいます――このトリニティに」

 息を呑む音が、会議室のあちこちで重なった。

 「――聖園ミカ」

 その声は決して大きくなかった。それでも、壁に反響して全員の鼓膜を打つ。

 カタリ――ナギサの手元でティーカップが震え、陶器同士が小さく触れ合った。

 「ミカさんが……?」

 「少しお待ちください」ミネが低く制した。

 「後にお話しするつもりでしたが、ミカさんは精神的にかなり参った状態にある。この状況で取り調べを行うとは正気ですか?」

 ナギサも即座に声を重ねる。

 「そ、そうです! 既に調書は皆さんと共有しているはずです! ミカさん本人も、アリウス自治区の位置は知らないと仰っていると――」

 「お言葉ですが」

 サクラコの声音が鋭く割り込んだ。

 びくりと、ナギサの肩が震える。閉じられていたサクラコの瞳が大きく開き、その双眸がまっすぐに彼女を射抜いた。

 「彼女は長い間アリウスと内通していました。誰にも悟られず、パテル分派の傍付きにすら気付かれず――そんな彼女が、アリウスの位置を微塵も知らないなど、果たしてあり得るでしょうか?」

 ナギサは口を閉ざし、額に冷や汗を滲ませる。

「で、ですが、ミカさんは――……」

 ナギサの声は、ためらいを孕んで震えた。彼女の胸の奥では、ミカの現状に対する同情と、現実を直視しなければならない理性とがせめぎ合っている。

 その葛藤は、この場にいる全員が共有していた。ミカが今の状態に至ったのは、偶然でも一瞬の過ちでもなく、幾つもの理由が積み重なった必然。そのことを理解していながらも、ナギサは唇を結び、言葉を閉ざす。

 サクラコは静かに息を吐いた。細い指先が額に触れ、軽く押し解すような仕草。その動作の間にも、彼女の声音は微塵も揺らがない。

「現在のパテル分派とサンクトゥス分派の対立は、彼女が根本的な原因であるとも言えます。もちろん、それだけではありません。しかし――彼女が積み重ねてきた行いが一因である事実は、否定できません」

 淡々と告げられるその言葉は、氷片のように鋭く、しかし静かに心臓の奥へと沈んでいく。

「……それは、ミカさんが嘘を吐いた、という事ですか?」

 ナギサの声はわずかに掠れ、問いの最後が小さく震えた。

 サクラコは一瞬、目を閉じた。その瞼の奥に何かを沈めるように。そして両手を膝の上に重ね、静かに頷く。

「……可能性のひとつとしては」

 ガタリ――

 乾いた音が会議室に響いた。ナギサの椅子が勢いよく後ろに揺れる。立ち上がった彼女は、円卓に両手を叩きつけるようにつき、まるで敵を睨み据えるかのようにサクラコを見据えた。

「ありえません!」

 その声には、普段のティーパーティーの優雅さも、淑女らしさもない。感情の奔流が、その仮面を打ち砕いていた。

「ミカさんがそんなことをして、一体何の利になると云うのですか――ッ!?」

「落ち着いて下さい、ナギサ様」

 ミネの声は低く、しかし柔らかい響きを持っていた。そっと差し伸べられたその言葉は、激しい波立ちを鎮めようとする月明かりのようだった。

「ナギサ様が冷酷無慈悲で血も涙もない女であることもありますが、ミカ様を想うお気持ちが強いこともよく分かっています。その上で、不躾なことを申しますが……もし『ミカ様の一番の理解者は誰か』と問われれば――幼馴染であるナギサ様だと、誰もが答えるでしょう」

 

『ミネ団長……それは私から守ってるんですか?貶してるんですか?馬鹿にしてるんですか?どっち何ですか?』

 

「ッ……!」

「では、ナギサ様から見て――ミカ様には、まだ私達に隠していることがあると感じられますか?」

 その問いは、真正面から突きつけられた刃のようだった。

 ナギサは視線を落とす。両手を固く握りしめ、その白くなった指先を見つめる。唇を噛み締めたまま、答えは出ない。

 ――分からない。

 どれほどの年月を共に過ごしてきても、ミカの心の奥底までは届かない。喜びも、怒りも、悲しみも……その全てを分かち合えたことはなかった。

 結局、自分たちは――他人なのだ。

 肝要なのは「隠しているか否か」ではない。

 聖園ミカというひとりの友人を、桐藤ナギサは信じるのか、それとも疑うのか――それだけだ。

 ナギサは深く息を吸い込み、胸の奥に熱を溜めた。

 ミカは、決して善良な生徒ではない。癇癪を起こし、暴力に頼り、我儘で無鉄砲。気に入らないことがあれば、子供のように喚き散らし、数えきれない騒動を起こしてきた。泣かされた生徒も、一人や二人ではない。

 ――それでも。

 桐藤ナギサにとって、彼女は唯一無二の幼馴染であり、友人だった。自らの命を失ってでも、その後を案じるほどに大切な存在。

「……いいえ」

 囁くような声は、やがて力強さを帯びていく。

「いいえ!」

 全身の空気を吐き出すように、ナギサは宣言した。

「ミカさんが嘘を吐いている――そんな事実はありません!」

「ナギサ様――」

「私は、ミカさんを信じます!」

 その目に、迷いも逡巡もない。鋼の意志を宿した少女だけがそこに立っていた。

「彼女が善良でないことは事実です。それを誰よりも知っているのは、この私です。それでも――私は彼女を、彼女が私達を想う心を信じる。信じると、決めたのです! これこそが、この騒動で私が得た教訓なのですからッ!」

 その熱を前に、サクラコは静かに手を上げた。

「――いいえ、もう結構です」

 瞳を閉じたまま、彼女の表情は柔らかな温度を帯びていた。

「どうやら誤解を招いてしまったようです。申し訳ありません、ナギサ様……私はただ、仮説を申し上げただけ。他意はありませんでした」

 

ミネは軽く首を振り、静かに言葉を紡いだ。

「この場で仲間割れが起こらなかったことは良いことです。しかし、ミカさんの精神的な状態が悪いことに、変わりはありません」

 その声は淡々としていたが、その奥底には水面下で渦を巻く不安が潜んでいた。

 ナギサは眉を寄せ、一歩前に出る。

「……それは、ミカさんを糾弾しようとしている連中がいる、ということですか?」

 問い掛けは鋭く、感情の刃を帯びていた。

 しかしミネは、首を横に振る。

「いいえ。それについては問題ありません」

 少し視線を落とし、彼女は淡く息を吐いた。

「サクラコさんやナギサ様はご存知ないでしょうが……将ちゃんが、他人を蔑むことしかできなかった彼らを叱責し、まとめてくれています。そのおかげで、数は減りました。今は正義実現委員会の活動で十分に対応できる範囲です」

 ナギサはわずかに安堵の息を漏らす。

「では――」

 しかし、その続きを遮るようにミネが口を開いた。

「先日、セイアさんとの面談を予定していました。ミカさんは……謝りたいとおっしゃっていたのです」

 だが、とミネは小さく首を振る。

「知っての通り、セイアさんはまだ目を覚まさない。その姿を見て……ミカさんは、自分のせいだと、ひどく思い詰めてしまっているのです」

 ナギサは小さく息を飲んだ。

「……そうですか……」

 その声は沈み、重く、どこか遠くの響きを持っていた。

 沈黙を破ったのはサクラコだった。

「つまり、ミネ団長は――ミカさんがうつ病になり、近日の聴聞会がまともにできなくなることを懸念しているのですね?」

 ミネはしばし視線を伏せ、そしてゆっくりと顔を上げた。その瞳には、先ほどまでの淡さはなく、硬質な光が宿っている。

「いいえ」

 短く切り捨てるようなその否定の後、わずかな間が落ちる。

 そして、低く、しかしはっきりとした声が場に響いた。

「私が心配しているのは――」

 空気が一段と冷え込む。

 その次の言葉は、場の全員を凍らせた。

「……彼女が一人で、復讐に向かってしまうのではないか――ということです」

 その一言は、静かでありながら、まるで深夜に落とされた小石のように、全員の胸の底に波紋を広げていった。

 

その頃、ある者がミカの牢屋の鍵を開け、ミカはある場所へ向かった。それが知られるのはまた後の話。

 

「あっ、マコトさんを」

ーーーーーーーー

曇天の光が窓越しに差し込み、シャーレの居住区にある部室は昼間にもかかわらず薄暗く、どこか落ち着かない空気が漂っていた。

 新八は部屋を見回し、感嘆の声を漏らす。

「……それにしても、銀さん、すごいところに住んでたんですね。万事屋に比べたら、ここ、もう天国みたいですよ」

 神楽は両手を広げ、部屋の広さを誇示するようにぐるぐる歩き回った。

「すごいネ、新八! 広すぎて部屋の中で定春と散歩できるアルよ」

「いや、散歩は外でしようよ……」

 新八は苦笑しつつも、目の奥に怪しい光を宿す。

「でも、こんだけ広いってことは……日頃から女子を呼んでたって……」

 その想像が脳裏に浮かんだ瞬間、彼は机を叩き、叫んだ。

「羨ましすぎんだろォォォォ!!!」

 神楽が呆れたように眉をひそめる。

「ヤバいアル、新八が童◯病を発症したヨ」

「誰が童◯だ! だってだって、そうだろ!? 頼めば手伝ってくれる女子がいるんだよ!? つまりここで新しい青春を――ぐへっ」

 その言葉は、不意に伸びてきた手に首根っこを掴まれ、途中で潰えた。

「何が羨ましいって? あァァァァ!?」

 銀時が不気味な笑みを浮かべ、ぐっと新八の顔を引き寄せる。

「羨ましいわけねぇだろうが……! アイツらのせいで俺は、今こうして包帯ぐるぐる巻きなんだよ!」

 銀時は、机を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、怒号をぶつける。

「何が青春だ! あんなあばずれ共と一緒に青春なんて過ごしたら、命がいくつあっても足りねぇ! 消えるがいい青春! 滅ぶがいい青春! 今度青春なんて口にした奴は、問答無用で死刑で!!ファイナルアンサー!?」

 新八は呆れ混じりにため息をつく。

「……とことん荒んでますね。それに誰の意見なんですか、それ」

「どうせ作者の代弁だアル。こっちの作者もゴリラ原作者みたいに文化祭とか大嫌いネ」

「オイィィィ! 一体作者の身に何があったァァ!?」

 そんなバカ騒ぎを断ち切るように、呼び鈴が鳴り響いた。

 ピンポーン、ピンポーン……

 神楽は鼻を鳴らす。

「あ、誰かが来たアル。新八、お前が出ろよ」

「え、なんで僕が?」

「青春したいんだろ? 女と話したいんだろ? 行けよ」

「あの神楽ちゃん何その蔑んだ目。……夢見たらいけないの? ツッコミ役は夢見たらいけないなんてルールあるの?」

「いいから行けェェェ!!」

 有無を言わせぬ勢いで神楽に背を押され、新八は扉へと転がるように進む。

「うわぁぁぁぁ!」

 ドンッ!

 扉の向こう側にいた人物と派手にぶつかり、二人まとめて床を転がった。

「いったた……神楽ちゃん! 酷いじゃないか! お客さんまで吹っ飛ばして――」

 低く落ち着いた声が返ってきた。

「……なるほど。呼び出されたら相手にタックルするのが礼儀、というわけか。覚えておこう」

 新八の顔が引きつる。

「そ、その声は……銀さんを撃った……!」

 視線の先には、黒い制服をまとい、冷たい瞳でこちらを見下ろす少女――

 かつて敵対したアリウススクワッドのリーダー、サオリが立っていた。




次回予告

銀時「俺は女を貶す時は言葉なんかいらねぇ……目で貶す。」




次回、口説き文句は使ってるところマンガとかでしか見たことないけど皆さんはありますか?

「すいません、そんなところで眠るくらいなら俺と一緒に回転ベットで眠りませんか?」

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
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