透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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「ブルアカももう五周年か……。早いもんだなぁ。ま、俺たちの歴史の四分の一程度だけどよ」
シッテムの中のソファに深く腰掛け、銀時はジャンプを眺めながら鼻をほじった。
「一言余計なんですよ、先生。……というか、前回言ってませんでしたっけ? 『投稿が滞る』とか何とか」
端末の中からジト目を向けてくるのは、お馴染みのアロナである。彼女は不服そうに頬を膨らませると、銀時のだらけきった態度を咎めるように言葉を継いだ。
「ああ、その件ね。なんか作者の野郎、共通テストでそこそこ点取れたらしくてさ。少しばかり心の余裕が生まれたんだとよ」
「へぇー、それは良かったじゃないですか!」
アロナは一転してパッと表情を輝かせ、手を叩いて喜んだ。だが、その後に続いた言葉は、およそ電子の妖精とは思えないほど現実的で、かつ無慈悲なものだった。
「これでお年玉を全額使って、周年キャラにフルベットできますね!」
「笑顔でとんでもねぇこと言ったよこの子! やっぱり企業の回し者だよ! 搾取の構造を笑顔で肯定しちゃってるよ!」
銀時は椅子から転げ落ちんばかりにツッコミを入れる。
「ま、まだ合格が決まったわけじゃねぇから油断はできねぇけどな。……まぁ、投稿頻度は少しはマシになるんじゃねーの? 知らんけど」
投げやりな言葉を口にする銀時。その時、どこからか静かな、しかし確かな怒気を含んだ声が割り込んできた。
「……ちょっと、今回の主役を忘れてはいませんか?」
「あっ、わりぃわりぃ。すっかり忘れてたわ、――○穴」
「だから変なところに伏字を入れるのはやめてください! それに私は鍵穴じゃありません、『ケイ』です!」
ホログラムとなって姿を現したのは、アリスによく似た、しかしどこか冷徹で、それでいて年相応の幼さを残した少女――ケイであった。
「いやぁ、良かったですねケイちゃん。今作の二次創作では出番がたくさんありましたけど、原作(ほんぺん)だと後半まで全然出番なかったですもんねぇ」
アロナがこれ幸いと茶化すと、ケイは顔を赤くして声を荒らげる。
「誰がケイちゃんですか! 馴れ馴れしくしないでください!」
「はいはい、照れ隠しはもういいから。……それより五周年の話をしようや。祝杯のいちご牛乳、奢ってやるからよ」
銀時はそう言って、少しだけ相好を崩した。
「それにしても見たか? あの合理主義女の新衣装……あのメモロビ」
銀時はリオの画像を凝視したまま、感心したように、あるいは呆れたように低く唸った。画面に映っているのは、ミレニアムサイエンススクールのセミナー会長、調月リオ。普段の冷徹なコート姿からは想像もつかない、どこか扇情的な装いだ。
「見ました見ました! まるで退魔スーツ……っていうんですか? ああいうピッチリした素材で、しかも胸元が大胆に開いてて……。あれは攻めてますよね!」
アロナも身を乗り出し、年頃の女の子らしい(?)好奇心で声を弾ませる。
一方で、その横に立つケイだけは、心底理解できないといった様子で眉間に深い皺を寄せていた。
「……アレのどこが合理的だというのですか。私は彼女の演算を長らく傍で見てきましたが、あのデザインに合理性の欠片など微塵も感じたことはありません。むしろ防御力の面から見ても、致命的な欠陥(スリット)があるようにしか……」
「まあまあ、そう固いこと言うなよ、○穴ちゃん」
「ケイです」
即座に飛んできた訂正を無視して、銀時は「やれやれ」と首を振る。
「いいか、アレは真ん中から効率よく外気を取り込んでるんだよ。空冷式だ、空冷式。名付けて『ヨコチチならぬウチチチ』。まさに最新の熱対策ってわけよ」
「……ただの露出狂の言い訳にしか聞こえませんが」
ケイの冷ややかなツッコミを背中で受け流しながら、銀時はさらにニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
「これ、後で『退魔忍リオ』とかいうタイトルで、薄い本が大量生産されるんじゃねーの? ほら、感度3000倍のヘイロー壊され系とかさぁ……」
「先生、発言のラインが思いっきりアウトです! R-18Gに片足突っ込んでますからね!?」
アロナの悲鳴のような制止が、青空に空しく響き渡った。
「ま、その点で言えばケイ。お前、ようやくまともな実体をゲットできたらしいじゃねぇか」
銀時は鼻をほじっていた手を止め、ひらひらとスマホを振った。画面の中では、リオの「合理的」な装いとは対照的に、アロナと並んで立つ少女の姿がある。
「そうですよ! あの無骨で、可愛げも、機能美も、センスの欠片も感じられない鉄クズのような身体(アトラ・ハシース)から、ようやく抜け出すことができたんです!」
ケイはここぞとばかりに胸を張り、その声を弾ませた。普段の無機質なトーンはどこへやら、今の彼女からは確かな自尊心が透けて見える。かつて巨大な色彩の尖兵として振る舞っていた頃の面影は、その可憐な制服姿のどこにも見当たらない。
「良かったですね、ケイちゃん。これで一緒にプリンも食べられますし、オシャレも楽しめますよ!」
「……ふん、別にオシャレなど興味はありません。ですが、この形態の方が、王の……いえ、アリスをサポートする上で便利であることは認めざるを得ませんね」
ツンとそっぽを向くケイだったが、その頬は心なしか微かに赤らんでいる。
「はいはい、良かったな。……でもよ、銀さんとしては、せっかくの実体化ならもう少しこう、ダイナマイトなバディとかになれなかったのかよ、両方同じ体型だとそのーーバリエーションが」
銀時は残念そうに、自分の胸のあたりで大きな弧を描くジェスチャーをしてみせた。
「万死に値します。先生、今すぐその思考回路をフォーマットしてください」
ケイの瞳からスッと光が消え、冷徹な「名もなき守護者」のトーンが戻ってくる。
「あ、これアカンやつです。先生、ケイちゃんの怒りゲージが最大出力(マキシマム)ですよ! 謝って! 今すぐ土下座して石(青輝石)を差し出して!」
「待て待て! 冗談だって! お前それ実体化した瞬間に物騒な機能まで引き継いでんじゃねーよ! 分かった、分かったから! ほら、記念撮影だ!」

「アリスゥゥゥ!!俺たちの写真撮ってくれ!」

「クエストですね!勇者アリス受注しました!」
銀時は慌てて外にいるアリスに呼びかけるに切り替えると、嫌がるケイの肩に強引に腕を回した。
「ほらケイも、そんなシケた面してんなよ。せっかくの五周年、それに実体化のお披露目なんだ。パッといこうぜ、パッと!」
「離してください……。そもそも私はお祝いなど……」
「まあまあケイちゃん! ほら、笑って!」
アロナが満面の笑みでクラッカーを鳴らす。パンッ、という景気のいい音と共に色とりどりの紙吹雪が青空に舞った。

「それじゃあ撮りますよ」
「ちょ、王女!? 鼓膜に響きま……っ」
「はい、チーズ!」
シャッター音が響く。
画面の中には、底抜けに明るい笑顔の銀時と、それにつられて弾けるような笑みを浮かべるアロナ。そして、文句を言いたげに目を伏せながらも、どこか諦めたようにその場に収まっているケイの姿があった。


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 百二十四訓 責任転嫁しても結局は何も変わらない

夕闇が砂浜を包み込み、昼間の喧騒を塗りつぶしていく。

波の音はどこまでも穏やかだが、浜辺の一角では焚き火が爆ぜ、肉が焼ける香ばしい匂い――そして、何かが決定的に間違っている不穏な空気が漂っていた。

「よぉし、そろそろいい塩梅だな」

銀時はうちわでパタパタと煙を扇ぎながら、火の番人として満足げに頷いた。

「おーいテメェら! 集まれ~! 鳥だかカバだか知らねぇが、特大の丸焼きが出来上がりそうだぞ~!」

「「「「はーい!」」」」

空腹に負けた少女たちの返声が夜風に乗って響く。だが、その直後、網の上(正確には巨大な串の上)から魂の絶叫が炸裂した。

「じゃ、ないでしょォォォ!!」

「……あ、やっぱり生きてた?」

銀時が心底面倒くさそうに目を向ける。そこには、太い紐で雁字搦めに縛り上げられ、遠火でじっくりと炙られているヒフミの姿があった。隣を見れば、補習授業部の面々や、なぜか宇宙の彼方から帰還したらしいゴリラストーカーまでもが、等間隔に串刺しにされている。

「何が『いい塩梅』ですか! なに当然みたいに生徒を丸焼きにしてるんですか!!」

火の粉が舞う中、ヒフミは必死に身を捩りながら抗議を続ける。

「それに鳥とかカバとか言わないでください! ペロロ様はペロロ様です!! それ以上でも以下でもありません!!」

「いや、キレるとこそこなの!? というか、よくこの煙の中でこれがペロロ様(の着ぐるみ)だって分かったわねアンタ……」

同じく串刺しにされ、脂が滴りそうなほど熱せられているコハルが、隣の親友に呆れた視線を送る。

「うるせぇな。いいか、よく聞け」

銀時はだらしなく鼻をほじりながら、教壇に立つ教師のような(ろくでもない)口調で語り始めた。

「女キャラには清楚系、ヤンデレ、ツンデレ、猫耳……色々属性ってのがあるがな。古来より『褐色系』ってのは根強い人気を誇ってんだよ。BLEACHの夜一さんしかり、『不思議の海のナディア』しかり。新たな性〇に目覚めさせた例は枚挙に暇がねぇ」

「……何の話をしてるの、この人」

「だから俺の優しさでテメェら全員、いい感じの褐色キャラにジョブチェンジさせてやろうとしてんだよ。感謝しろ。これからは小麦色の肌で天下取れ」

銀時がトングをカチカチと鳴らす横で、信女が音もなく刀を抜いた。氷のような瞳が、獲物を定めるように細められる。

「いや、褐色になる前に死体にジョブチェンジされそうなんですけど! 新しい性〇に目覚めさせる前に、三途の川の向こう側の世界に目覚めそうなんですけど!!」

コハルが半べそをかきながら叫ぶ。その必死の制止をよそに、信女の剣気が一段と冷たさを増した。

「……バラした方が、早い」

「アンタの早まり方が早すぎるわ!!」

「じゃあ、こんな感じで――」

信女の手首がしなやかに返り、一閃。白刃が月光を跳ね返して振り下ろされる。

鈍い音と共に、何かが火の中に「ボトッ」と落ちた。

それは――近藤であった。厳密に言えば、近藤の大切な「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲」であった。

「近藤さァァァァァん!!」

ハナコが、まるで戦場で戦友を失ったかのような悲劇的なヒロインの表情で、火の中に消えた「それ」を仰ぎ見る。

「いや、それ近藤さんじゃないし!! その部位を名前で呼ぶのやめてくれる!?」

コハルのツッコミが夜の砂浜に虚しく響き渡る。

焚き火の爆ぜる音をBGMに、シュールな対話が夜の波音に溶けていく。

「銀時、俺はいつまでこうやって縛られなければならぬのだ。この扱いは人道的ではないぞ」

「ヅラが焼けるまで一生焼かれてろ。テロリスト」

背後からお決まりの「ヅラじゃない桂だ」という抗議が聞こえたが、銀時は耳に小指を突っ込んでそれを完全に無視した。今はそれどころではない。全員の顔に影を落としているのは、極限状態の空腹だ。

「で、どうするよ、これから」

銀時の問いに、伊東が眼鏡を押し上げながら冷徹に分析する。

「どうするも何も、今回の作戦で我々が収穫したのは、あの串刺しのバカたちだけだ。腹を満たすまともな食糧もない。状況としては一刻を争う飢餓状態と言わざるを得ないね」

「まぁ、間違いないね~。まずは食糧をなんとかしないと、おじさん干物になっちゃうよ」

ホシノがのんびりと同意する中、砂浜の片隅では一触即発の睨み合いが続いていた。

「おい、どうした? 腹が減りすぎて砂でも食べるようになったか、ダンゴムシィ」

「テメェと一緒にすんな。俺は拾い食いなんざしねぇよ」

沖田は無表情のまま、砂に火を向けて熱し続けている。その姿を、神楽が挑発的な薄笑いを浮かべて見下ろした。

「絶対だな? 絶対に拾わないんだな?」

神楽は懐からおもむろに最後の一枚の「酢昆布」を取り出すと、わざとらしく指を離した。

「おっと。手が滑って酢昆布が落ちちまったぜ。えへへ、どうしようかなぁ」

その瞬間、獲物を狙う肉食獣の如き殺気が爆発した。

「「「だァァァァァ!!」」」

銀時、新八、シロコ、アコが一斉に、地面に落ちた一枚の紙切れのような昆布に向かって跳躍した。砂が舞い、人間の尊厳が火花を散らす。

「な、何やってるアルか!? 銀ちゃん、新八、恥ずかしいからやめてヨ! 乙女の落としたものに群がるなんて不潔ネ!」

「シロコ先輩、恥ずかしくないんですか……?」

アヤネの震える声に、シロコは砂を噛みながら鋭い眼光で返した。

「ん……一回落ちた時点で、それはもう戦利品。これを取らないと、死ぬ。サバイバルは常に真剣勝負」

「甘いんですよ! この食糧は、なんとしてもヒナ委員長に献上しなきゃならないんです!」

アコが必死に砂を掘り返し、銀時がその腕を強引に跳ね除ける。

「甘めぇのはテメェらだ! 地面に落ちた時点でそれはもう大地(アース)に還ったんだよ! ならば年長者のこの俺が自然の恵みを頂くのが筋ってもんだろ!!」

「違うネ! 私が落としたんだから私のネ!」

収拾のつかない醜い争いに、冷ややかな視線が注がれる。

「……アコ、見苦しい」

「本当だ。ガキどもと一緒に騒ぎやがって、それでも先生か? そんなんなら、さっさとその砂と一緒に自然に還れ」

土方が呆れ果てたように吐き捨て、隣のナギサも優雅に頷いた。

「全くです。貴重な食糧をあんな風に粗末にするなんて」

言いながら、土方は手元にマヨネーズを、ナギサは自身の命の次に大事な紅茶を、吸い寄せられるように地面へと置いた。

「おーと、手が滑ってマヨネーズが……」

「まぁ、こんなところに紅茶が落ちていました。どうしましょう……」

露骨すぎる自作自演。二人の顔には「さぁ拾え、そして崇めろ」という傲慢な期待が透けていた。だが、それを許すほど、彼らの部下(?)たちは甘くはなかった。

沖田とミカが、示し合わせたような無表情で立ち上がる。

「フン!」

「えい⭐︎」

沖田はマヨネーズを、ミカは紅茶を、迷いなく大海原に向かって全力で遠投した。

「うわァァァァァァァァ!!!」

「ァァァァァ!!!」

土方とナギサは、悲鳴と共に放物線を追って海へと飛び込んだ。主人の尊厳を乗せた供物は、波間に消えていく。二人は必死に波をかき分け、結局そのまま暗い海へ消え、戻ってくることはなかった。

「オボボボ……!」

遠くで聞こえる断末魔を背に、沖田は満足げに砂を払った。

「これで、邪魔者は消えた」

焚き火の熱気に揺れる夜の砂浜で、沖田は無表情のまま、執念深く砂の山を加熱し続けていた。その異様な光景に、新八が恐る恐る声をかける。

「沖田さん……もしかしてそれ。砂の熱で、野菜とかを蒸してるんですか?」

「こんな人里離れた海水浴場に、調理器具が揃った小屋なんてねぇ。日帰りの予定だったから鍋もねぇ……なら、この熱伝導性の高けぇ砂を使うしかねぇと考えたわけでい」

沖田は火を突き崩し、淡々と、しかし確かな合理性をもって続けた。

「幸いここは海。砂なんてもんは、死ぬほど、腐るほどあるからな」

その言葉を聞いた瞬間、銀時が嫌な笑みを浮かべ、わざとらしく周囲に触れ回った。

「おやおや、聞きましたかみなさん? 目の前の若きドS王子は、食べ物を野生動物と同じように砂に埋めて調理なさるそうですよ」

「グフフ、いよいよ江戸の番犬どもが獣らしくなってきたアルな。そのうち言葉も忘れてウホウホ言い出すネ」

神楽が鼻を鳴らし、シロコもまた、疑い深い視線を砂の山へと向けた。

「ん……砂の中に直接入ってるものなんて、美味しいわけない。ジャリジャリするだけ」

「すなおくんの中に食糧隠したって何の意味もねぇんだよ。

奴と関わった奴らが全て砂になった妖◯ウォッチ♪恐怖の第39話を忘れたかァ? 」

メタ的な恐怖を煽り立てる銀時に、沖田は不機嫌そうに口角を下げた。

「……だったら、四の五の言わずに嗅いでみろい。中には野菜だけじゃなく、肉も少量だが入ってる。今なら、ちょうどいい具合に蒸し上がってるはずだ」

「いえ、結構ですゥ〜。俺、体の中に砂とか異物が入るの、生理的に受け付けないんで〜」

銀時はヒラヒラと手を振り、これ見よがしに距離を取る。

「あっ、後で『誰かが水かけた』とか言って、いちゃもん付けんのナシにしてね。もし俺がそこを便所と間違えてスッキリしちゃっても、一切の責任は取らないから~」

「いいから早く嗅げって言ってんだろ!!」

海からずぶ濡れで這い上がってきた土方が、咆哮と共に銀時の後頭部を砂の山へと押し付けた。

理屈も倫理も、すべては熱い砂の中に埋もれていく。夜の海風が、ほんのりと蒸された肉の香りを運んできたが、それを素直に「美味そう」と言えるほど、彼らの心はもう白くはなかった。

砂の山から立ち上る湯気は、夜の闇に白く溶け込んでいた。

その熱気に誘われるようにして、半信半疑の面々が、土方に押し付けられる形でおずおずと顔を寄せる。

「シロコ先輩、みなさん。どうですか……?」

アヤネの不安げな問いかけに、新八もまた、唾を飲み込みながら状況を見守った。

「いい感じですか、あれ。銀さん、神楽ちゃん?」

返事はない。ただ、砂の中に顔を埋めるようにして匂いを嗅いでいる三人の時間が、不自然なほどに停止していた。

その沈黙の深淵で、彼らの心象風景は激しく波打っていた。

(……何コレ。やだコレ)

神楽の胸の内に、言葉にできないざわめきが広がる。嗅覚を通じて脳に直接訴えかけてくるのは、単なる「蒸した肉」の匂いではなかった。

(なんかこう、温いんだよ……。表面的な熱さじゃねぇ)

銀時は、瞼の裏側に広がる奇妙な郷愁に戸惑っていた。

(外側から焼かれるような熱量じゃない。もっとこう、芯の方からじわじわと染み渡ってくるような、この全肯定されたような暖かさは……)

シロコもまた、無機質な砂の山を前にして、無意識に呼吸を深くしていた。

(ん、心の底から温まる、この感じ……。冷え切った身体の奥底に、灯火が宿るみたい。すごく、安心する)

(何コレ、何この気持ちアルか!? 私の野性が「ここはお前の居場所だ」って囁いてる)

激しい混乱の中、銀時の中でパズルのピースが音を立てて噛み合った。

(この気持ちは、そう……! ずっと忘れていた、あるいは、ずっと求めていた……!)

理屈を通り越し、魂の最下層から浮上してきた答えに、シロコが静かに唇を戦慄かせる。

「ん……お袋の味」

「「「それだァァァァァ!!!」」」

三人の叫びが夜空に重なった。

砂に埋まった食材から漂うのは、洗練されたシェフの香りでも、土方のこだわり抜いたマヨネーズの芳香でもない。

それは、すべてを許し、すべてを包み込む慈愛の香り。

まさかの「砂蒸し料理」が、荒みきった彼らの心に、忘れ去られた母性を呼び起こしてしまったのだ。

感動の余韻など、この男たちの前では一瞬の徒花に過ぎなかった。

「……まぁ、お前らには一口もやらねぇけどな」

沖田は冷淡な声で言い捨てると、慈愛の香りを放つ砂の山を独占するように立ちふさがった。

「これからもっといい食いもんが届くらしいんで、これは俺たちだけで処分させてもらうぜ」

「べ、別に欲しくもなんともねぇけどよ~! 砂混じりの肉なんて、おじさんのデリケートな胃腸には刺激が強すぎるっつーの!」

「そうアル! こんな雀の涙みたいな量じゃ、私の宇宙(いぶくろ)の一割も満たせないネ!」

「ん、お腹の足しにもならない。ただの気休め」

銀時、神楽、シロコの三人は、未練がましく砂に顔を突っ込んだまま、負け惜しみの三重奏を奏でる。その無様な姿に、土方の血管が限界まで浮き出た。

「だったらさっさとそこから離れやがれ! いつまで犬みたいに砂に鼻突っ込んでんだ!!」

「るっせぇな! テメェが『嗅げ』っつったから、律儀に食いついてやってんだろうが! ありがたいと思え!!」

その反論の勢いと共に、銀時の尻から「ブッ!」という、夜の静寂を切り裂く乾いた音が放たれた。

「うわぁ! テメェ、なに屁をこいてやがる!! 」

「よっこらせい!!」

土方が顔を背けた刹那、銀時はその隙を見逃さず、電光石火の手つきで砂の中の「獲物」を強奪した。

「あっ! 」

「よし。つーわけで俺らも本格的に食糧探しに行くか」

もぐもぐと口を動かし、証拠を隠滅しながら平然と言い放つ銀時に、土方の怒号が炸裂する。

「何勝手に食ってんだ!! 毒ガスで目くらまししてまで盗み食いかコラ!!」

「ああん? 何言ってんの? ただでさえ人手が欲しいってのに、真選組の皆さんが砂食って腹下したら困るだろ? だから代わりに毒見してあげようかっていう、武士の情けをかけてやったんだ。ありがたく思え!!」

「ふざけんな! わざとだろ! 完全に悔しくて、強引に腹の中に収めただろ!?」

「全く、何を騒いでいるのですか。この極限状況で無駄に体力を浪費するのは、得策ではないことぐらい、凡人のあなた方にも理解できると思っていましたが」

冷ややかなのような声と共に、佐々木が悠然と姿を現した。その隣で、いつの間にか拘束を解き、砂浜の向こうから激しく手を振る男がいる。

「おーい! みんな、こっちだ! こっちに来てくれ!!」

桂の、妙に切迫した、それでいて希望に満ちた叫び。

その声に導かれるように、いがみ合っていた一同の視線が、夜の帳の向こう側へと吸い寄せられていった。

「こんな時まで喧嘩をしていてはいけないよ。さあ、俺の食糧庫に案内してやるから早く来い」

桂は、ついさっきまで火に炙られていた男とは思えないほど涼しげな顔で、暗闇の先を指差した。

「おい桂、テメェ! 何勝手に動き回ってんでさぁ。おとなしく焼かれてりゃいいものを」

「ようやく冷え切った体も暖まったのでな。調査をしていたところ、この洞窟を見つけたのだ」

桂の後に続いて一同が辿り着いたのは、波に侵食された不気味な口を開ける巨大な横穴だった。

「うわぁ……大きいですねぇ~」

「それに深いわよ。ねぇ、ここ熊でも居るんじゃないの?」

ノノミの感嘆とセリカの警戒が混じり合う中、桂は迷いなく足を踏み入れていく。

「いや、こんなところに熊などいない。この洞窟は海と繋がっていてな、ある『先住者』がいたのだが、安心しろ。俺が丁重に追い払っておいた」

「え、本当に生き物の巣だったんですか?」

「安心しろと言っただろ。そんなに俺の言葉が信用できないのか?」

アヤネの懸念を、桂は一片の曇りもない笑顔で撥ね除ける。だが、その自信満々な態度こそが、チナツたちの背筋に冷たいものを走らせていた。

「……何でですかね。すごく嫌な予感しかしないんですよ」

「ただの――クラーケンだ」

 

 

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その直後、洞窟の内部が露わになった。

地面には毒々しい青い液体がぶちまけられ、そこにはとんでもない大きさの、もはや重機の一部かと見紛うほど巨大な「手袋」が無造作に転がっていた。

「ただのクラーケンなんてこの世に存在するかァァァ!!」

「何でこんなところに伝説の魔物が生息してんだ! おまけに何でクラーケンが手袋なんてハイカラなもん付けてんだよ!!」

イオリと銀時の叫びが洞窟内に反響する。だが、桂は顎に手を当て、どこか遠い目をして首を傾げた。

「いや、確定はできんがな。何分俺も動揺していた。実際のところ、くねくねと動く人型だったかもしれん」

「どっちにしても碌なもんじゃねぇ!! 逃げろよ! 友好関係結ぶ相手のチョイスが世紀末なんだよ!!」

「そこで一晩の宿と食事を、と頼み込んだのだが、全く聞く耳を持ってくれなくてな。ならば一筆認めて、手袋に手紙を画鋲で留めておいたら、どうやら俺の誠意が伝わったらしい」

桂が指し示した手袋の指先で、画鋲の先端が月光を受けて不吉にギラリと光った。周囲の水面には青い体液がどろりと浮き、その惨状は「誠意」という言葉からは程遠い。

新八が恐る恐る、その「手紙」を覗き込んだ。

『ごめーん、俺たち今衣食住の何もないから今晩だけ食事と寝床貸してくれない? ダメ? カラダでけーケド、ノーミソちょーチッチェーな! このバカーケン!』

「何も伝わってねぇよ! むしろ火に油を注いでんだろうが!! 画鋲で触手血だらけにされて、煽り散らかされて、それで和解したと思ってるのアンタだけだよ!!」

魂のツッコミが炸裂するが、桂はどこ吹く風で、巨大な手袋を愛おしそうに撫でた。

「おまけに、こんな布団まで用意してくれたぞ」

「それただの生臭い手袋!! クラーケンさんの遺品だよ!!」

「まぁ、ここで待っていれば、後でクラーケンさんが食糧を持ってきてくれるだろう」

桂がそう言い切った、その時だった。

ブスッ!

「痛ッ!! 背中に何か刺さった! 誰だ、こんなところに画鋲を仕掛けた不届き者は!!」

桂が背中を押さえて飛び上がる。一同は、無言で顔を見合わせた。

「皆さん、早くここから離れたほうがいいですよ」

佐々木が表情一つ変えず、静かに携帯端末を閉じる。その冷徹な警告に、その場にいた全員の肩が跳ねた。

「ある『モノ』が、すぐそこまで近づいていますから」

「そう……。クラーケンさんが、ね」

伊東の言葉を裏付けるように、洞窟の奥底から地鳴りのような重低音が響き渡った。

ズゥゥゥゥ!!

「お、おい! 冗談抜きで逃げるぞ! 全員脱出だァァ!!」

銀時の号令と共に、蜘蛛の子を散らすように出口へと走り出す面々。だが、その波に取り残された男が一人。

「おい待て! どこへ行く! 誰か、先に背中の画鋲を取ってくれ! 痛くて走れんのだ!!」

桂が情けなく背中に手を伸ばしていると、足元の水面が爆発した。

ザパァン!!

目の前に現れたのは、無数の吸盤が蠢く、太刀打ちできないほど巨大な触手の群れ。

「あ、ああ、戻ってきてくれたのか? クラーケン殿。ちょうど良かった、ここらへんに刺さっている画鋲をだな、抜いて欲し……あ、そうそう。それ、それだ」

触手の一本が、桂の背中にそっと添えられた。

直後のことだった。

ズブズブ!!

抜くどころか、巨大な力で根元まで押し込まれた。

「…………んあァァァ!!!!」

夜の洞窟に、魂を削り取るような絶叫が虚しく木霊した。

「皆さん! 戻ってきたんですね!」

焚き火の残骸を守っていたヒフミが、砂まみれで逃げ帰ってきた一同を迎え入れる。

「どうだった? 食糧、あったの?」

「ありませんでしたよ。あったのは、ただの『バカ』だけでした」

コハルの期待を、ナギサが氷のような声で打ち砕く。隣ではミカも、疲れ果てた様子で砂の上に座り込んだ。

「もうわけわかんないよ。クラーケンとか伝説の魔物とか……ここはRPGの世界なの?」

「え!? クラーケン!? それって、あの触手で絡んだり絡まれたりする、アレですか!? いわゆる、触手プレイという禁断の……!」

ハナコの瞳が、夜の闇に怪しく輝き出す。

「そうだね。ネットの深淵を探せば必ず出てくる、アレなプレイをするためのアレな生き物だよ」

「ということは、アレをアレして、こう、ヌルヌルとアレする感じの――!」

「アレアレうるさい!! というかHなのはダメ、死刑!!!」

コハルが顔を真っ赤にして叫ぶが、銀時は冷めた目で彼女を見下ろした。

「じゃあ、まずお前から死刑執行な。衣装のど真ん中に、そんな『ここから割ってください』と言わんばかりの線入れやがって……存在自体がムッツリ不純なんだよ、お前は」

「なんでそうなるのよ!! 私のせいじゃないでしょ、この服は!!」

「おい、いい加減にしろ! 下らねぇ痴話喧嘩してる場合か! このままじゃ俺たち、全員まとめて餓死だぞ!」

土方が胃を押さえながら咆哮する。空腹はすでに限界を超え、全員の頬がこけ始めていた。

その時――暗闇の向こう側から、鈴を転がすような、しかし聞く者が聞けば背筋が凍りつく、あの女の声が響いた。

「みんな~、こっちこっち!」

暗闇から現れたのは、微笑みを絶やさないお妙。その手には、湯気を立てる「何か」が乗った大皿が握られていた。

「姉上! どうしたんですか、そんなに慌てて。もしかして、何か食糧を――!」

新八が希望に縋るような声を上げた。暗闇からしなやかな足取りで現れたお妙は、聖母のような、それでいて全てを諦めさせるような慈愛の微笑みを浮かべていた。

「そうよ。見て、これ!」

彼女が差し出したのは、銀色の皿に乗った、緑色の皮膚に爛々と輝く赤い目を持つ「何か」の首だった。

ズゥゥゥゥ、と。

切り落とされてなお、その頭部からは生命の残滓を思わせる不気味な重低音が漏れ出している。

「あの……すみません、お妙さん。それ、一体なんですか?」

ヒフミが引き攣った笑顔で問いかける。

「何って、決まってるじゃない。チュパカブラよ」

「「「………………」」」

沈黙。夜の静寂が、物理的な重さをもって一同の肩にのしかかる。だが、その沈黙を切り裂いたのは、エリートを自称する男たちの冷徹な分析だった。

「聞いたことがあります。ここ一帯にはチュパカブラの巣があり、その深部にはクラーケンでも熊でもない、チュパカブラの手によって一夜にして滅んだとされる超古代文明都市『ファザーン』が存在すると」

佐々木が眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせ、淡々と語る。

「なるほど。もしチュパカブラを制圧し、あのファザーンの中枢システムを占拠できれば、食糧問題どころか、我々の置かれているこの窮状は些細な問題に過ぎない。すべて解決だ」

伊東が不敵な笑みを浮かべて応じる。そのやり取りは、まるで破滅的な軍事作戦を練る参謀同士のようだった。

「よくできました。流石は真選組随一の頭脳を持つエリート、伊東鴨太郎殿だ」

「ハハハ、佐々木殿。それは言い過ぎだ。僕には『芋侍』ぐらいの肩書きがちょうどいい」

「……なるほど。エリートの会話とは、これほどまでに高尚なものだったのだな」

アズサが真剣な表情で頷き、手帳を取り出そうとする。

「いや、絶対違うでしょ!! 何なの!? 二人して何に感化されてるの!? チュパカブラ一匹で文明滅ぶとか、もうそれバカンスの規模じゃないから!!」

コハルの絶叫が響く中、洞窟の方からフラフラと、しかしどこか満足げな足取りで桂が戻ってきた。

「なんだ貴様ら。まだ食糧を探していたのか?」

 

「俺はクラーケン殿の打ってくれた『吸盤式特製針』のおかげで、皮膚から直接水分を確保することに成功したぞ。今からでも遅くはない。みんなでクラーケン殿の元へ戻り、一晩中吸い尽くされようではないか」

「「「絶対に嫌です!!」」」

アヤネをはじめとする対策委員会の面々が、全力の拒絶を叩きつける。

しかしハナコはーー

 

「え?いいですか!?」

ノリノリだった。

 

「アンタは引っ込んでて!!」

 

「あら、そんなに怖がらなくていいのよ? みんな、私の作った料理があれば大丈夫。ほら、見て。こんなにたくさんチュパカブラを『焼いて』あげたんだから」

お妙が指し示した背後には、天を突くほどの高さに積み上げられた「黒い山」があった。それは禍々しいオーラを放ちながら、ドロドロとしたナニカを滴らせている。

「結局この人、未確認生物(UMA)すら未確認の物質に変えちゃったよ!! どうやってもダークマターだよ! 」

銀時の絶叫が、夜の砂浜に虚しく響く。

「そもそも、こんな化け物や魔女がいるところで、一夜なんて過ごせるわけないだろ!! 怪物よりお前の姉ちゃんの方がよっぽどクリーチャーだよ!!」

イオリが震える指でお妙の料理を指差す。

夏の海、青い空、楽しいバカンス。

それらはすべて、チュパカブラと黒焦げのダークマター、そして吸盤まみれの狂気の中に、音を立てて消え去っていった。

月明かりに照らされた砂浜を、幽霊の行列のような足取りで一行は進む。

寄せては返す波の音さえ、今の彼らには自分たちの命の火を削り取る砂時計の音のように聞こえていた。

「ウヘェ~、もうおじさんクタクタだよぉ。これ以上歩いたら、おじさんの成分が全部砂に溶け出しちゃう……」

ホシノが今にも崩れ落ちそうに膝を笑わせ、気だるげに首を振る。その横では、土方が険しい顔で周囲の闇を睨みつけていた。

「まずいな。かれこれ数時間は歩き通しだ。体力の限界が近い」

「このままじゃ、近藤さんも将軍様も帰ってこねぇ。江戸もキヴォトスも、このまま幕引きでさぁ」

沖田の乾いた言葉に、銀時が虚空を見つめながら、どこか遠い場所を指差して呟いた。

「心配すんな。二人とも、きっと帰るさ。……土にな」

「不吉なこと言ってんじゃねぇよ!! んなことになれば、俺たち全員もれなく切腹した上で土に還ることになるんだぞ!!」

土方の咆哮も、飢えと疲労のせいでどこか力なく響く。その横で沖田が、まるで辞世の句でも詠むかのような、薄ら寒い笑みを浮かべた。

「土方さん、大丈夫でさぁ。きっとみんな帰れやすよ。将軍の真っ白なブリーフも、俺たちの青白くなっていく顔も、何もかもが……」

「みーんな、この広大な海に呑まれて、母なる自然に帰るんだ。すべてがゼロに、無(マサラ)に還るんだよ……」

「……全員バラしたほうが、早い」

信女が刀の柄に手をかける。もはや「生きる」という目的が、「いかに終わらせるか」という短絡的な思考に塗り替えられようとしていた。

「ドS倶楽部打たれ弱っ!! 早くも諦めモード全開だよ! 」

新八の必死の叱咤が響く中、ミカだけが場違いなほど明るい声で拳を握った。

「元気出してこ、先生! 諦めなければなんとかなるよ、きっと⭐︎」

「そうね。これ以上、今より最悪な状況なんて起こり得ないわ。後は這い上がるだけよ」

ヒナの静かな、そして断固たる決意。

それは、どん底まで落ちた者だけが持てる、最後の希望の光だった。

だが。

ざっ、ざっ、ざっ。

不自然に重く、湿った砂を踏みしめる音が背後から近づいてくる。

「あのー、皆さん……」

ヒフミの、震える指先。その指が指し示す闇の奥から、月明かりを遮るほどの巨大な影がぬっと姿を現した。

「最悪な状況、ありましたァァァ!!」

咆哮一閃。

そこには、空腹の極みに達し、眼前の人間たちを「一口サイズのおつまみ」としか認識していない、山のごとき巨大なヒグマが立っていた。

這い上がるための土台さえも、一撃で粉砕されかねない暴力の化身。

夏の夜の悪夢は、まだ終わることを許してくれなかった。

「ウワァァァァ!!!」

悲鳴が夜の静寂をズタズタに切り裂く。

「何で、何でこんな時に限って熊が来るのよ!! 」

セリカの絶叫は、飢えと疲労、そして目の前の野生の暴力に対する純粋な恐怖が混ざり合い、もはや旋律のようになっていた。

「お、お、落ち着くんだみんな! 熊相手に足で勝負を挑んでも勝ち目はない! 逃げれば本能を刺激するだけだ! こんな時は――」

桂がバッと両手を広げ、月光を背に受けて凛然と言い放った。

「死んだふりだァァァ!!」

その宣言と同時に、彼は迷いなく背後の断崖絶壁へと身を躍らせた。

「それ『ふり』じゃ済みませんんんん!! 」

ヒフミの魂を削るようなツッコミが、夜空に吸い込まれていく。

「何をやっているのですか……。熊に死んだふりなど通用しませんよ、仕方ありませんね、ここはエリートの私が教えてあげましょういいですか?こういう時は、相手の目を睨み据えたまま、ゆっくりと距離を空けるのです。背中を見せた瞬間に――」

佐々木が冷徹に解説を始めたその時、肉を切る鈍い音が響いた。

ブスッ。

「……安心していいよ、異三郎。先に土に還ってて。後で私も、そっちに行くから」

信女の無慈悲な一突きが、佐々木の背中を正確に捉えていた。

「まさか、またあそこに行く羽目になるとは――。エリートとしての再就職先を、今のうちに探しておく必要がありそうです、ね……」

「テメェらこそ何やってんだ!! こんな時に仲間割れしてる場合じゃねぇだろ……」

土方が崩れ落ちる佐々木を見て吠えたが、その背中にも同様の衝撃が走った。

ブスッ。

「あらら、土方さん。ダメですよ、こんなところで立ち止まってちゃ。……チッ、熊を狙ってたのに、余計なもんが刺さっちゃったじゃねぇですか」

「し、しまった……ハナから仲間割れを予定してた奴が、身内にもい……た――」

土方は裏切りの痛みに顔を歪めながら、砂浜に沈み込んだ。

「何してんだテメェらァァァ!!」

「仲間割れしてる場合ですかァァァ!! 死ぬ時は全員一緒だって言ったでしょ!!」

新八とアヤネ、二大ツッコミの怒号が重なるが、事態は待ってくれない。

巨大な熊が、地響きを立てて突進を開始した。

「新ちゃん! 熊がそっちに、危なァァァい!!」

お妙の悲鳴が聞こえた瞬間、新八の足元の砂が崩れた。崖の縁。暗い海が大きな口を開けて待つ絶望の淵。

「うわッ! あっ、あ……ウワァァァァ!!」

浮遊感。重力に魂をひったくられる恐怖に、新八は目を瞑った。

「新ちゃァァァん!!」

だが、死の衝撃は来なかった。

ガシッ、という力強い、そしてあまりにも毛深い感触が、新八の手首をガッチリと固定したのだ。

「……え?」

恐る恐る目を開けた新八の視界に飛び込んできたのは、獰猛な牙でも、血走った眼球でもなかった。

自分を助け、崖から落ちるのを止めた熊の瞳。

そこには、獣の凶暴さではなく、どこか哀愁と……そして、見覚えのある「誠実さ」が宿っていた。

「どうやら、皆無事なようだな」

「そ、その声は!!」

新八を助け上げた巨躯が、ゆっくりと頭部の毛皮に手をかける。ズルリと剥ぎ取られた熊の被り物の下から現れたのは、月光を反射するほどに磨き上げられた、あの高貴な御尊顔であった。

「元征夷大将軍、徳川茂茂――」

ドカァ!!

名乗りを上げる刹那、お妙の必死の形相から繰り出された、重戦車のごとき飛び蹴りが将軍の側頭部に炸裂した。

「あ……」

一国の主は、一言の反論も許されぬまま、放物線を描いて再び暗い崖下へと消えていった。

「新ちゃん! 大丈夫!? 無事なのね新ちゃん!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

潮風に晒された古びた小屋の内部。

ランプの灯が揺れる中、そこには奇跡的に合図を送り合っていた別働隊の姿があった。

「いや、まさか将軍様がご自身でこの避難小屋を見つけていらっしゃったとは……」

近藤は、救出された(自力で生き延びていた)喜びと情けなさが入り混じった顔で、天を仰いだ。

「実は俺も、このオートマター(バカイザー)も、将軍様に助けられた口でな。……全く、これではどちらが護衛か分からん。武士として万死に値する。腹を切る覚悟はいつでもできている。だが、将軍様から繋いでいただいたこの命――」

「今は将軍を無事に帰すために使うべきだろうな」

隣で焚き火にあたるバカイザーMADAOが、殊勝な面持ちで頷く。ライフセーバーの職をクビになることが確定した今、彼は将軍の覚えをめでたくし、幕府への再就職という名の藁を掴もうと必死であった。その瞳には、かつてないほどの(私欲にまみれた)忠誠心が宿っている。

「ああ、その通りだ!」

熱い抱擁を交わさんばかりの勢いで立ち上がった、その時。

ガチャリ、と不吉な音を立てて小屋の扉が開いた。

そこに立っていたのは、幽霊のように青白い顔をした一行。そして、その中心には――土方と沖田の二人に、さながら戦死者のように担がれ、白目を剥いて意識を失っている将軍の姿があった。

「って、将軍様ァァァァァ!!」

近藤の叫びが小屋を震わせる。

「おい! お前ら! 一体何をした! 救出に行ったはずが、なんで変わり果てた姿になってんだ!!」

「将軍様に何があったんだ!! っつーか、なんでお前ら、どいつもこいつもボロボロなんだよォォォ!!」

バカイザーと近藤の怒号。追い詰められた土方は、冷や汗を滝のように流しながら、泳ぐ視線を銀時へと向けた。

「え、えーと、近藤さん……これはだな……」

「……クラーケンとチュパカブラにやられたんだよ。俺たちも必死に応戦したんだが……クソッ! UMAの野郎ども、なんて強さだ!!」

銀時は顔の汚れを拭うふりをしながら、もっともらしい嘘を吐き散らした。その背後では、対策委員会の面々も、死んだ魚のような目で深く頷いている。

「本当だよ~。みんな、みーんなUMAのせいなんだよ。おじさんたち、未確認な恐怖と戦ってきたんだよ~」

「……(裏声で)うん、ベーダー!」

桂の場違いなエコーが響く。

「クソォ! UMAの奴らめ、よもやこれほどまでの手傷を将軍様に負わせるとは……!」

「将軍! 将軍、しっかりしてください! 気を確かに!!」

近藤の悔し涙とバカイザーMADAOの(保身を孕んだ)必死の呼びかけに、担ぎ込まれた男のまぶたが、ピクリと震えた。

「ん……んぅ……。こ、ここは、どこだ。何故、余はこのような場所に伏しているのだ?」

焦点の定まらない瞳。それを見たバカイザーが、わざとらしく天を仰いで叫ぶ。

「まずいぞ! 記憶障害を起こしていらっしゃる! おそらく、落下……いや、UMAとの死闘の際に頭に強い衝撃を受けられたのだ!」

「こ、近藤……何故、余は――」

言葉を継ごうとする将軍に被せるように、銀時がしれっと、しかし断定的な口調で物語を捏造し始めた。

「将軍様、お忘れですか? あなたはここにいる『ゴリラ防衛隊』を率いて、伝説のUMA狩りにこの海へと降り立ったんですよ。しかし、クラーケンの触手を見つけて後を追いかけるうちに、隊は食糧難に陥り、遭難。……ここにいる皆、あなたの茶番に付き合わされて死にかけてるんですよ」

「!」

将軍の顔から血の気が失せていく。

「何という……何ということだ。余としたことが、そのようなくだらぬ余興のために、民の尊き命を危機に晒すなど――」

「いやぁ、ちょっと違うような……」

近藤が良心の呵責に震えながら口を開きかけるが、将軍の自己嫌悪はすでに限界を超えていた。

「余は……上に立つ資格などない……!」

バァン!!

突然、将軍は小屋の窓を力任せに開き、荒れ狂う夜空に向かって叫んだ。

「天よ! この苦しみが余に対する罰だというなら、どうか! この愚かな暴君一人の命と引き換えに、民をお救いくだされ!!」

「(裏声で)うん、将軍!」

その感動的な(勘違いの)叫びに、桂の場違いな合いの手が重なる。直後、背後で待機していた全員の足が、無言で桂の脛を執拗に蹴りまくったのは言うまでもない。

「しょ、将軍様! 滅相もございません、将軍様のせいではございませんから!! 元々、準備を怠っていた我々臣下の責任にございます!!」

必死に縋り付く近藤を、ハスミがどこか慈しむような(あるいは諦めたような)目で見守り、優しく場を収めようと口を開いた。

「まぁまぁ……今は皆、こうして無事に集まれたことを喜びましょう。いずれにせよ、将軍様が見つかったのですから、ここから出られれば――」

「それは、無理だろうな」

アズサが窓の外、急速に厚さを増す雲を睨みながら遮った。

「実は、大型の台風が急速に接近している。海から魚の気配が消えていたのも、おそらくそのせいだ。今外に出れば、暴風雨の被害をもろに受けるだろう。服もビーチに置いたままだし、ひとまず今夜はこの小屋で過ごすのが賢明だ」

「じゃあ……ひとまず助けが来るまで、ここで待機ということでいいですか?」

チナツの控えめな確認に、万事屋、真選組、そして対策委員会の面々が、疲れ果てた様子で一斉に同意の声を上げた。

「「「賛成……」」」

外では、嵐の前触れを告げる波濤が岩を砕く音が、より一層激しさを増していた。

「おい、どーだ。これで全ての罪は帳消しだ。将軍様への『UMAからお守りしましたキャンペーン』、後でたっぷり褒美が出るように口利きしとけよ、マヨラ君」

「ん、私たちの分も。銀行のローンとか、その辺よろしく」

シロコの淡々とした便乗に、土方の顔がマヨネーズのように白濁した怒りに染まる。

「ふざけんじゃねぇ! 元はと言えばテメェらが犯した不敬の数々だろ! どの面下げて請求書叩きつけるつもりだ!」

「土方君の言う通りだ。それに、まだ何も解決してはいない」

伊東が冷静に眼鏡を押し上げ、冷え切った空気の中で釘を刺した。しばらくの間、ただ風の咆哮だけが小屋を包み込む沈黙が流れる。やがて、土方が重い口を開いた。

「……いいか。少なくとも今晩は身動きが取れねぇ。下手に動いて被害が拡大するより、ここで助けを待つ。だが、問題は俺たちの格好だ。全員、水着だってことだ。」

「男性の方々と、水着で、一つ屋根の下……。これはつまり、濡れた肌と肌が触れ合って、体温だけでなく何かしら別の熱が――」

「はいそこ! 勝手に不純な想像を広げるな!」

ハナコの妄想を即座に叩き斬り、土方は咳払いを一つ。

「いいか、言いたいことは、気を抜けば死ぬぞって話だ。いいか、固まって暖を取るんだ。互いに密着して、叱咤し合って夜を越す。分かったか」

土方の「命を守るための命令」が下された。しかし、直後に起きた光景は、彼の予想を遥かに裏切るものだった。

キヴォトスの少女たちの多くが、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、銀時の周りへと固まり始めたのだ。

一部、エリザベスの白い布地に埋もれる者や、ヒナやヒフミに寄り添う百合な一団もいたが、それ以外の大部分が銀時を選んでいた。

「……おい、どうしてそうなる! 」

「普通に考えたら、将軍様の周りに集まるべきだろ」

バカイザーMADAOが悲鳴のようなツッコミを入れるが、ノノミが困ったように微笑みながら首を傾げる。

「だって、シロコちゃんの話だと……将軍様、ちょっと『古い雑巾の匂い』がするって話ですし……」

「いやぁ、いい人なのは分かるんだけどさぁ。やっぱり頼りになるのは銀ちゃんかな~、なんて」

ホシノがのんびりと銀時の肩を借りる。シロコに至っては、じっと将軍を見つめたまま呟いた。

「ん……それに、なんだか興奮してるように見える。危険」

「んなわけねーだろ! 命の危機っていう瀬戸際に、将軍がそんな不謹慎なこと考えるわけ――」

土方が勢いよく振り返る。

そこにいた将軍は、相変わらずの無表情を貫いていた。しかし、その鼻孔は不自然なほど大きく広がり、機関車のような荒い鼻息が漏れ出していた。

「将軍!! 別にそういう意味じゃありませんが!?」

 

「えへへ、悪りぃな。モテる男は辛いぜ。ブハハハ!!」

 

「うるせぇ! 将軍のガラスの心がさらに冷え切るだろうが!」

土方は焦燥感に駆られ、地団駄を踏んだ。

「いいから! さっさと上様の脇を固めて暖めろ! 」

「仕方ないわね。誰も行かないなら、私たちが行くわ」

ヒナが溜息混じりに立ち上がる。すると、ハスミがどこか冷ややかな視線を将軍に向けながら、条件を提示した。

「もしかしたら、その着ている毛皮(熊)から匂っているのかもしれません。ちょっと頼んでくれませんか?」

「ふざけんな! これから夜を越そうって時に、唯一の防寒具を脱がせて何を――」

土方が再び振り返った。

そこには、言われるがままに従順に毛皮を脱ぎ捨て、月明かりの下で一点の曇りもない「真っ白なブリーフ」一枚となった将軍が、堂々と直立不動で立っていた。

「将軍!! まだ世継ぎはいませんがァァァ!!?」

土方の絶叫が、台風の暴風さえもかき消さんばかりに、夜の山小屋に虚しく響き渡った。

「おい、将軍……脱いでくれたぞ。これで文句はねぇだろ。さあ、上様を暖めろ!」

だが、一歩踏み出そうとした面々の足が、見えない壁にぶつかったように止まった。

「……おいちょっと待て。なんか、さっきより臭くね?」

銀時が露骨に鼻をつまみ、顔をしかめる。

「テメェまで何を抜かしやがる! 毛皮はもう脱いだんだ、臭いの元凶は消えたはずだろ!」

「いや、そもそもあの臭いは毛皮だったのか……? さらにキツくなった気がする。鼻腔を直接蹂躙されるような、この不快感は……」

アズサが眉根を寄せ、警戒を強める。セイアもまた、空気を手で払いながら静かに呟いた。

「……臭いがキツくなったというか、別の性質の臭いに変化してはいないか? 湿り気を帯びた、より根源的な腐敗の香りに……」

「テメェらいい加減にしろよ! もう将軍、パンイチなんだぞ! これ以上何を脱げってんだ! この状況で何が臭えってんだ!」

土方の悲鳴に近いツッコミが響く中、近藤が涙ながらに叫んだ。

「やめて! 将軍、今しれっと伸びをするフリをして、さりげなく自分の脇の匂いを確認したよ! やめて! もう傷つけないであげて!」

「……となると、考えられる理由は一つしかないな」

アズサの呟きを引き継ぐように、佐々木が眼鏡を光らせ、無機質なエリートの分析を口にする。

「間違いありませんねぇおそらく将軍様は、海水で濡れたパンツを着用したまま毛皮を纏い、そのまま体温で蒸されて中途半端に乾いた……。その結果、生乾き特有の『モラクセラ菌』が大爆発を起こしたのでしょう。エリートの目は誤魔化せませんよ」

「なるほど、そういうわけか。道理で、新八のパンツがいつも納豆みたいな臭いがするわけだ」

「僕の関係ないでしょ!! 勝手に人のパンツいじるのやめてくれません!?」

銀時のデタラメを新八が叩き斬るが、銀時は既にその先を見据えていた。

「まぁ、理由がわかったならやることは一つだ」

佐々木が冷徹な宣告を下す。

「将軍様。……パンツを、脱いでください」

「ふざけんじゃねぇ! それがエリート様の抜かすことか! この嵐の中、全裸なんて自殺行為だろうが!」

土方が激昂して振り返る。だが、言葉はそこで止まった。

「将軍んん!! もう趣旨変わってますよね!? おもいっきり欲望の方も曝け出してますよね!?」

そこには、もはや命令されるまでもなく、一点の曇りもない笑顔でブリーフを脱ぎ捨てようとしている将軍の姿があった。その表情は、恥じらいを捨て去った者だけが到達できる、突き抜けた虚無の境地。

「……もうなんか、キモいから嫌アル。生理的に拒絶反応が出てるネ」

「「「うんうん」」」

神楽と面々が、まるで汚物を見るかのような冷ややかな視線を一斉に向ける。

「殺してやろうか貴様ら! テメェらがめちゃくちゃ言って脱がしたんだろうが!」

土方の怒号が空腹の胃に響く。

「いいから! 早く暖を取りやがれ! 体も心も凍え切ってるぞ将軍!!」

「いい加減にしてくださいよ皆さん! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?」

アヤネの悲痛な叫びに、新八もまた眼鏡を光らせて毅然と立ち上がる。

「アヤネさんの言う通りですよ! 相手は国を背負う御方ですよ? デリカシーってもんがないんですか! 仕方ない、ここは僕とアヤネさんの二人が代表して暖を取りに行きます!」

「おう、もういい。誰でもいいから早くいけ! 」

土方の切羽詰まった声に背中を押され、二人の「ツッコミ担当」は意を決して、全裸で屹立する将軍の懐へと飛び込んだ。

「何も、臭いなんてことはないじゃないですか。ただの、健康的な男の匂い――」

「ウップ」

「おぼぼぼ!!」

刹那、二人の顔面は蒼白を通り越して土色に染まった。肺腑を直接蹂躙する生乾きの魔力に、理性の防波堤が一瞬で決壊する。

「将軍様! そいつら今すぐ打ち首でいいです! 」

近藤の叫びが響く中、アヤネは砂浜に這いつくばり、涙ながらに謝罪した。

「す、すみませんでしたシロコ先輩…………」

「ん、分かればいい。無理は禁物」

「何もよくねぇよ! 何勝手に敗北を認めて納得しちゃってんの!?」

土方のツッコミを余所に、事態の深刻さを察した「大人」たちが動き出す。バカイザーMADAOが悟りを開いたような目で頷いた。

「仕方ない。ここは大人の我々が体を張るしかないな。」

「ああ。作戦を変更し、我々が将軍を全方位から包囲して温める形にしよう」

「図で表すとこうだな」

桂が即座に図解を示す。だが、その図を見た土方の顔が引き攣った。

「……待て。なんで俺の方向にだけ、将軍の『モザイク必須部位』が向けられてんだ?」

「誰かが犠牲にならなきゃダメなんだよ。わかるだろ? この世は誰かの不利益で成り立ってんだよ」

「そうだ、土方君。君は鬼の副長だろう? 汚れ役、もとい『汚れ部位』を引き受けるにはもってこいの逸材じゃないか」

「汚れすぎだろ! 物理的にも社会的にも!」

「つべこべ言うな! 将軍の『将軍』に暖をとらせろと言ってんだ!」

銀時が吼えた瞬間、男たちの醜い連帯責任が爆発した。銀時、桂、近藤、バカイザー。彼らは一丸となって全裸の将軍を背後から押し込み、その「一物」の先端を土方の顔面へと突き出した。

「ぐわぁ! 全ての元凶はテメェだろうが天然パーマァ!! テメェが何とかしろ!!」

土方は超人的な反射神経で将軍の体を回転させ、その矛先を銀時に向ける。

「ウォォォォ!! ヅラ、幕府はねぇが討幕のチャンスだぞ! 今こそ悪徳将軍に一撃を!」

「ぬぅ、俺が手を下さずとも、倒れているではないか真選組!」

桂は身を翻して近藤に標的を回す。

「貴様ら、敵に『中枢』を晒すとは恥ずかしくないのか! 武士の誇りはいずこへ行った!」

近藤は鼻を限界までつまみ、涙目でバカイザーへと責任転嫁のパスを回す。

「グワァ!! 貴様らのせいで再就職の夢が台無しだ! 責任を取れぇぇ!!」

男たちの阿鼻叫喚と、凄まじい速度での押し付け合い。

その遠心力はやがて限界を超え、全裸の将軍はタケコプターのごとき猛烈な勢いで回転を始めた。

ドカァン!!

「将軍んんんん!!」

屋根を紙屑のように突き破り、将軍は一筋の光となって夜空へと打ち上がった。超高速回転が生み出した竜巻状の波動が、空を覆っていた大型台風の雲を完膚なきまでに散らしていく。

静寂が訪れた。

屋根のなくなった小屋から見上げた空には、嘘のように美しい満月が輝いていた。

「……まぁ、なんだ」

土方が、ポッカリと空いた屋根と、キラキラと輝く星空を仰ぎ見ながら、魂の抜けた声で呟いた。

「暖……取れたな」

夏の海、嵐の夜。

一人の男の尊厳とブリーフを犠牲にして、世界に束の間の平穏が訪れた瞬間だった。

あの日から数日が過ぎ、夏の海は再び穏やかな輝きを取り戻していた。

「クールだなぁ……!」

「かっこいい……!」

浜辺に集まった避難民ならぬ観光客たちの間から、割れんばかりの歓声が上がる。

陽光をその身に浴び、煌めく飛沫を散らしながら波間を駆けるその男の姿は、誰がどう見ても非の打ち所のない「絵」になっていた。

真っ白な波の頂で、微塵もバランスを崩すことなくボードを操るその技は、もはやアスリートを超え、ある種の芸術、達人の領域に達している。

「すごい。……あれ、プロの人なのかな」

「めちゃくちゃ飛んでる!」

「まるで鳥だよ! 自由を象徴する鳥そのものだ!」

青く澄み渡った空を背景に、キリリと結ばれた「ちょんまげ」が凛々しく風を切る。

弾ける飛沫が七色の光を纏い、彼が通る軌跡そのものが神々しく輝いて見えた。確かに――その姿はもはや一介のサーファーではなかった。海を、空を、そして民の心を征く真の将。

だが、その感動が絶頂に達しようとした、その刹那――。

「……アレ?」

見守る一同の脳裏に、小さな違和感が芽生えた。

波の斜面を滑走していたはずの「将」がおもむろに衣服を脱ぎ捨て、足元のボードさえも蹴り飛ばして、生身で波頭へと躍り出たのだ。

「ああ、もしもし、あの時はご苦労さん、世話かけちまったな。……おう、上様もすっかりあの一件で『波』にハマっちまったみてぇで、今日も元気に海に来てるところだぁ」

浜辺のパラソルの下で、片栗虎が気だるげに携帯電話を耳に当てている。ハードボイルドな渋みを漂わせながら煙草を吹かしていたが、その視線の先で繰り広げられる「絶景」に、ふと眉をひそめた。

「だがよぉ……ちょーっと聞きたいことがあるんだが」

サングラスをずらし、片栗虎は呆然と海を見つめる。

「サーフィンってのは、あんな風に滑り方だっけ?」

視界の先では、一糸纏わぬ姿となった将軍が、その鍛え上げられた腹筋をボード代わりにして波を切り裂いていた。もはやサーフィンではない。それは、自身の尊厳と皮膚の耐久度を極限まで削りながら進む、前代未聞の「人間サーフィン」であった。

夏の海に、肉体と水面が激突する鈍い音と、観客の悲鳴にも似た歓声がいつまでも響き渡っていた。

 




次回予告

コタマ「皆さん……準備はいいですか?」

ワカモ「勿論です。」

さっちゃん「いつでもOKよ」

コタマ「それじゃあ始めましょう。銀さんの日常生活モニタリングを」

次回 今の時代学校でも覗きがあるとかロリコンもほどほどにしなさい!
ーーーーーーーー

あのー人気ランキング上位3人のキャラの画像を作る予定ではあるので参加投票参加よろしくお願います。
銀さんはもう殿堂入りでいいんじゃないかというくらい人気があるんだけど……

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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