透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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前回の話で思い知った登場人物が多すぎると管理が大変だってことを
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澄んでだ瞳が 呼び醒ます
忘れかけてた 正義感 正義感
酸いも甘いも しゃぶり尽くす
今日のテーマは 勧善懲悪さ

散文的な 口ぶりで
やたら嘯く エイリアン エイリアン
のらりくらりと 罪深き
桃源郷に グッドバイしたんならば

理想に 忠実な
uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ

シーソーゲームは 続いてく
そうそう ぼくらも譲れない
真剣勝負に 病み付きで
もうどうしたって やめられ ないやいや

運命論なんて
ぜんぜん関係ない
一所懸命だ だ だ


“何でもあり”の 世の中で
研ぎ澄ますのは 審美眼 審美眼
本音・建前 焼き尽くす
感じたままに 勧善懲悪さ

厚顔無恥な スタイルで
未だ蔓延る エイリアン エイリアン
かつて夢見た 美しき
桃源郷を ゲットバックしたいならば

理想に 忠実な
uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ

シーソーゲームの 行く末は
そうそう ぼくにもわからない
真剣勝負の 暁は
もうどうしたって 勝つしか ないやいや

シーソーゲームは 続いてく
そうそう ぼくらも譲れない
真剣勝負に 病み付きで
もうどうしたって やめられ ないやいや

運命論なんて
ぜんぜん関係ない
一所懸命だ !だ! だ!




第百二十五訓 今の時代学校でも覗きがあるとかロリコンもほどほどにしなさい!

窓の外から差し込む午後の陽光が、埃の舞う部室を穏やかに照らしている。

しかし、ここ「万事屋シャーレ」の空気は、その光に反してどこまでも淀んでいた。主である坂田銀時は、今日も今日とて一切の執務を放棄し、机に突っ伏したまま魂をどこか遠くへ飛ばしている。

ピンポーン。

間の抜けたチャイムの音が響き、新八が「はいはい」と重い腰を上げた。

「はーい、万事屋シャーレの銀ちゃんで――」

扉を開けた先に立っていたのは、彫刻のように整った容姿に、隙のないメイド服を纏った少女――飛鳥馬トキであった。

「あっ、トキさん。今日は当番で来たんですね」

「はい、その通りです。ミレニアムの完璧なメイド、飛鳥馬トキ参上仕りました。ピースピース」

無表情な顔の横で、指を二本立てて小刻みに揺らす。そのシュールな光景に、新八の頬がひきつった。

「え? ピースピースって何ですか。嬉しいんですか? どうなんですか?」

「あー、来た来た。まぁ入れや。待ってたぜぇ」

銀時が机から顔を上げ、死んだ魚のような目で気だるげに手招きする。トキが室内へ足を踏み入れると同時に、バタンと扉が閉まり、シュバシュバという不可解な風切り音が背後で微かに鳴った。

「悪りぃなぁ、出迎えが新八で。キモかっただろ? 部屋中に童貞臭が漂いすぎて、ミレニアムの高度な防臭システムでも対応しきれなかったろ」

「ちょっと銀さん! なんでこう毎回、ナチュラルに僕をディスるんですか!?」

新八の悲鳴に近いツッコミが響く中、トキはただじっと、無言で新八を見つめ返した。

「………………」

「トキさんも黙らないで 何か、何でもいいから抵抗してくれません!? その沈黙、無言の肯定みたいで一番心に効くんですけど!」

「正直に言っていいアルヨ、トキちゃん。もし吐き気が止まらなくなったら、全てコイツの眼鏡に吐き出すネ。それがメガネの存在義務アル」

「メガネ存在意義って何!?受け止めねぇよ! なんで僕だけバケツ扱い!?」

新八が吠えるが、トキはおもむろに頬を限界まで膨らませ、膨大な「ナニカ」を溜め込んだ状態で新八へと顔を向けた。

「トキさん!? なんで口膨らませた状態でこっち向いてんの!?吐かなくていいから! 律儀に言うこと聞かなくていいから!」

混沌とする部室。だがその喧騒の裏で、ノイズ混じりの無線が密かに息づいていた。

『……皆さん? 侵入できましたか?』

コタマの冷静な、しかしどこか悦びに満ちた声が耳元を掠める。

『こちらさっちゃん。侵入成功よ……』

『こちら、銀さんの未来の正妻(ワカモ)。同じく、潜入に成功いたしましたわ……ふふ、ふふふふ……!』

シャーレの影、天井裏、あるいはクローゼットの隙間。執念と愛執が入り混じった異分子たちが、確実に銀時を取り囲んでいく。

『頼みましたよ、皆さん。万事屋の「真実」を、その目に焼き付けてくるのです』

ヒマリの尊大な、しかし確かな期待を込めた指示が飛び、シャーレを舞台にした新たな騒乱の幕が、静かに、そして致命的な角度で上がろうとしていた。

ーーーーーーーーー

時は少し遡る。

ミレニアム・サイエンススクールの地下深く、特異現象捜査部の部室は、サーバーの駆動音だけが静かに響く知的空間のはずだった。

だが、その中心で車椅子に身を預ける少女は、知性の欠片も感じられないほどに混迷の極みにいた。

「うーん……困りましたねぇ。彼はコウなっているんでしょうか? いやでも、アーなってコーなっているんでしょうか? いやいや、やっぱりどう考えてもソウはならないというか――」

モニターを見つめ、ブツブツと虚空に独り言を吐き出す。彼女の脳内では、銀髪の天然パーマという名の「解けない数式」が、嵐のように渦を巻いていた。

ゴツン!

「痛ッ!?」

 

「何をするのですかエイミ!?」

鈍い音と共に、縦に構えられたノートパソコンが、ヒマリの華奢な頭頂部を容赦なく叩いた。犯人は、隣に立つ無機質な少女、エイミである。

「部長、うるさい。さっきからブツブツ何言ってるの?」

冷ややかな視線を向け、エイミは淡々と続けた。

「あの一件からずっと独り言言ってるし。身体だけじゃなくて、ついに頭までオーバーヒートした?」

そう、ヒマリはあのパヴァーヌ篇におけるリオの独断、そしてミレニアムを揺るがした大乱以降、その「理解の範疇を超えた銀髪の男」の存在に、文字通り憑りつかれていた。

「あら? そんなわけないじゃないですか。心外ですね。何せ私は、『超天才清楚系病弱美少女ハッカー』なのですから。脳内の演算速度は常に光速を超えているのですよ」

「……そのネーミングをかっこいいと思ってる時点で、一度精密検査してもらったほうがいいと思う」

エイミは呆れたように肩をすくめた。

「で、結局何をそんなに悩んでるの?」

その言葉を聞いた瞬間、ヒマリの瞳に怪しい輝きが宿った。

「気になりますか? 気になりますよね!? 私がどんな深遠なる難題に取り組んでいるのか! この『超天才清楚系病弱美少女ハッカー』である私にさえ解き明かせない究極の問いについて!」

「いや、別にそこまで深い意味で聞きたいわけじゃ……」

「全く、エイミったら仕方のない子ですねぇ。そんなに私の知の深淵に触れたかったのなら、もっと素直に甘えてくれれば良かったのに」

自信満々に、そして優雅に髪をかき上げるヒマリ。その姿に、エイミの冷めた感情はさらに一段階下がっていく。

「いいですよ。今回は特別に、同じ志を持った『仲間』として、この私から直々に真理を授けて差し上げましょう♪」

「もういいや。この人、全然話聞いてないし……」

エイミの溜息は、サーバーの熱気に呑まれて消えた。

「ズバリ言うとですね……シャーレの顧問、坂田銀時という男の『秘密』についてです!」

溜めに溜めた末の宣言。ヒマリの瞳は、解析不能なバグに直面したエンジニアのように、狂気的な輝きを放っていた。

「…………」

「気になりませんか!? あの死んだ魚の目をした、不潔にすら見えるボサボサの天然パーマ。何の脈絡もなく現れたあの侍が、今やキヴォトス中で話題になり、そして――『超天才清楚系病弱美少女ハッカー』である私よりも注目を集めているのですよ!」

「いや、部長。そもそもこの話、物語の構成上、部長の出番は数えるくらいしか無――」

「ゆえに知りたいのです! 彗星の如く現れて瞬く間に皆の心を掴み、人気投票という名の審判において、私よりも遥かに多くの票を獲得している彼の『抗いがたき魅力』の正体を!」

もはや、彼女の言葉は解析を超え、哲学の領域へと片足を突っ込んでいた。

「いや、そもそも部長。リストにすら載ってなかっ――」

「納得がいきません! 彼の隅々まで探求し、その構成要素を完全にデータ化しなければ気が済まないのです! 24時間365日、どこで誰と何を食し、どのような呼吸をしているのか! 身長、体重は当然として、もちろん『アンナところ』や『コンナところ』の大きさ、角度、耐久性に至るまでをすべて、一ミクロンも逃さず――!」

「……もしもし? ヴァルキューレ警察学校? はい、ここにかなり重症のストーカー予備軍、いや、現行犯の不審者が――」

エイミが無表情のまま受話器を耳に当てた、その瞬間。

シュバッ!!

車椅子のモーターが限界を超えた叫びを上げ、ヒマリは物理法則を無視した高速移動で、エイミの手から受話器を鮮やかに奪い取った。

「何をしているのですか、エイミ!」

「……だって、発想が完全にストーカーのそれだったから。」

エイミは微塵も動じず、ただ冷ややかに車椅子上の「超天才」を見下ろした。

「部長は、一度頭を冷やしたほうがいいと思う」

直後、エイミの手が室内のエアコンパネルを叩いた。設定温度はマイナス50度。設定風量は「最大」。

ごぉぉぉぉぉぉぉ!!

部室内にブリザードが吹き荒れる。常識的には積もるはずのない雪が、ヒマリの華奢な肩や、誇り高き「超天才」の頭頂部にしんしんと降り積もっていく。

「……エイミ。あなたという人は、もう少し『人の心を温める』という温情を学ぶべきでしょう」

身体中に雪をまとい、凍りついた睫毛を震わせながら、エアコンを操作し平温まで戻したヒマリはどこまでも優雅に(そして震える声で)説教を垂れた。

その瞳の奥には、冷気さえも焼き尽くすような、銀時への無自覚な「執着」という名の熱が、依然として燻り続けていた。

ブリザード吹き荒れる部室内で、頭に雪を積もらせたヒマリが、凍てつく唇で不敵な笑みを刻んだ。

「それに、もう遅いですよエイミ。私は超天才ですからね。ストーカー仲間を集め……いえ、協力者を募るなど、朝飯前なのです」

「今自分でストーカーって認めたよね?」

エイミが眉をひそめた瞬間、部室の窓を突き破らんばかりの勢いで、一筋の影がシュバッ!と音を立てて乱入した。

「話は聞かせてもらったわ!」

着地と同時に、紫色の長髪をなびかせた女が、芝居がかった所作で眼鏡を押し上げる。

「祇園精舎の鐘の声!」

「諸行無常の響きあり!」

「沙羅双樹の花の色!」

「盛者必衰の理をあらわす、ただし――!」

女は、鞭をしならせるような鋭い動きで決めポーズをとった。

「私と銀さんの愛情を除いてね!!」

「あらあら……小皺だらけの醜女がよく吠えること。聞いていて耳が腐りそうです」

影から滲み出るように現れたのは、愛銃を肩に担ぎ、狐の面をずらした少女。その瞳には、狂おしいほどの情熱と、目の前の女への剥き出しの敵意が宿っていた。

「あのお方の隣に立つのは、あなたのような賞味期限切れのアラサーなどではなく、私のようなピチピチの女子高生(JK)であるべきです」

「ああん!? 何か言ったか、この指名手配ヤロー!!」

さっちゃんがクナイを構え、血管を浮き上がらせて咆哮する。だが、ワカモは冷ややかな笑みを崩さず、ゆっくりと狐の面を外した。

「指名手配ヤローじゃありません――未来の――」

「お嫁です♡」

頬を染め、蕩けるような声を漏らしたのも束の間、彼女は一転して氷のような冷徹さで言い放つ。

「わかったら、すぐにこの場から帰っていただけます? あなたのような無粋な輩に、あのお方の隣が務まるはずありませんから」

「ああん!? いっぺん地獄に落としてやろうか、この女狐ェェェ!!」

「上等ですわ。あなたが消えれば、少なくともライバルは一人減るんですもの! このマゾ女ァァァァ!!」

「「ウォォォォ!!!」」

二人の殺気が衝突し、物理的な衝撃波が部室を揺るがした、その時――。

キィィィィィン!!!!!!

鼓膜を突き刺すような超高周波の爆音が、スピーカーから放たれた。

「ぐっ!」

「うっ……!」

悶絶する二人を余所に、マイクを握ったコタマが影の中から淡々と姿を現す。その瞳は相変わらず死角から獲物を狙うスナイパーのように据わっていた。

「二人とも、そこまでにしてください。……不快なノイズをこれ以上撒き散らされると、私の至福である『先生の吐息(ASMR)』の収集機会が台無しになります」

「ほら、言った通り集まったでしょう♪ 私が厳選した、先生に並々ならぬ執着……いえ、熱意を持つスペシャリストたちです」

雪に埋もれたヒマリが、鼻を高くして自慢げに胸を張る。その光景を、エイミは完全に虚無の目で見つめていた。

「……完全に、異常者の集まりにしか見えない。類は友を呼ぶって、本当なんだね」

エイミの呟きは、愛憎渦巻く「先生観察隊」の咆哮にかき消された。

「でも、どうやって侵入するつもり? 部長はシャーレのメインフレームを叩くつもりなんだろうけど……」

エイミは依然として冷ややかな視線で、鼻息を荒くする「ストーカー連合軍」の面々を一瞥した。

「この人たちは無理でしょ。コタマは至近距離に盗聴器を設置しなきゃ始まらないし、その設置役になるはずの二人は、先生から『要注意人物』として最警戒マークを付けられてる。……どう考えても、物理的に詰んでると思うんだけど」

「心配いりませんよ、エイミ。この『超天才清楚系病弱美少女ハッカー』である私に、抜かりという言葉は存在しません。正門から堂々と、かつ完璧に潜り込める『最後の切り札』がもう一人いますから……ね、トキ?」

ヒマリが促すと、部室の暗がりに潜んでいた影が、静かに、そして機械的な正確さで歩み出た。

「お呼びでしょうか、ヒマリ部長」

「……彼女、リオ会長の専属補佐じゃなかった?」

エイミの記憶に、かつての冷徹な「アビ・エシュフ」の操縦者の姿がよぎる。しかし、ヒマリは誇らしげに車椅子の上で髪をかき上げた。

「あら、エイミ。知らないのですか? 彼女はリオの失踪後、私が身元を預かり、C&Cに籍を置きながら私の補佐……いわゆる『足』となって働いてもらっているのですよ。身辺調査も完璧、先生も彼女なら無下に追い出したりはしません」

「ピースピース」

トキが無表情のまま、指をV字に立てて呟く。そのギャップに、エイミの眉間には深い皺が刻まれた。

「なるほど……。だから最近、部長の情緒が目に見えておかしくなってるのに、なぜか部室だけはチリ一つ落ちてないくらい綺麗だったんだ……」

納得するエイミに対し、トキは微塵も動じない。それどころか、反応の薄いエイミの目の前にまで歩み寄ると、その鼻先数センチの場所で「ピースピース」と連呼しながら、しつこくVサインを押し付け始めた。それを無感動に無視し続けるエイミ。シュールな時間が流れる。

「とにかく、今回の作戦の成否はあなたの双肩にかかっています。よろしく頼みましたよ、トキ」

ヒマリの声音が、真剣な指揮官のそれへと変わる。トキは押し付けていたピースサインをスッと下げ、背筋を伸ばして一礼した。

「お任せください。ミレニアムの完璧なメイドとして、一粒の吐息さえ逃さない完璧な偵察をお約束いたします」

「それでは――『シャーレ・モニタリング大作戦』、開始です!!」

「「「おお!!!」」」

歓声が部室に響き渡る中、エイミだけが遠い目で、窓の外の平和な空を眺めていた。

「……終わりの始まりだ、これ」

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

シャーレの執務室。

気だるげな午後の一コマに見えたその裏で、ミレニアムの誇る完璧なエージェント・トキの手先は、音もなく、しかし確実に任務を遂行していた。

書類を整理するフリをして、机の死角、ソファの裏、観葉植物の陰。ヒマリから託された超小型盗聴器と監視カメラを、彼女は手品のような鮮やかさで次々と設置していく。

「(……これでヨシ、ですね)」

マイクの感度良好、アングル完璧。トキは無表情のまま小さく頷き、最後の一個を銀時のデスクの裏に貼り付けた。

「おーい、ピースサイン? 何コソコソやってんの? 暇ならこっち来て仕事やってくんない?」

机に突っ伏してジャンプを読んでいた銀時が、気だるげに手招きする。その怠惰な姿は、今まさに自分が監視対象としてロックオンされたことなど露知らずだ。

「了解しました、銀さん。業務の代行ですね」

トキは即座に直立し、銀時の元へと歩み寄る。しかし、書類を受け取るだけでは終わらなかった。彼女は銀時の椅子の真横、パーソナルスペースを完全に侵害する距離にピタリと張り付き、真顔で告げた。

「では、代わりに――」

「私のそばから離れないでください」

「…………は?」

銀時の目が点になる。ページをめくる手が止まり、室内の空気が一瞬にして凍りついた。

「え、何? 急にどうしたの? 寂しいの? 銀さんにお小遣いでもねだってるの?」

「違います。別に銀さんのそばにいたいとか、片時も離れたくないとか、貴方の匂いを嗅いでいたいとか、そういう個人的な感情は一切抱いておりませんのでご心配なく」

「いや、心配しか出来ねぇよ!! 言葉の端々に重たい感情が見え隠れしてんだけど!? 否定すればするほど束縛強い系女子の波動が出ちゃってんだけど!?」

銀時が椅子ごと後ずさりするが、トキはその分だけ正確に距離を詰める。

新八もまた、眼鏡を光らせてドン引きしていた。

「トキさん、距離感バグってますって! それ完全に『彼氏の携帯を常時監視したい彼女』の距離感じゃないですか!」

「否定します。これはあくまで業務効率化のための配置です。……銀さんが視界から消えると、私が不安で爆発してしまう恐れがあるための処置です」

「それ一番タチの悪いメンヘラの発言だからね!? 物理的に爆発しそうなのが余計に怖えよ!!」

銀時の絶叫が響く中、トキは涼しい顔で「ピースピース」と指を立てる。

その瞳の奥にあるカメラレンズは、しっかりと銀時の脂汗一つ逃さず捉え続けていた。

 

「ったく……。また厄介な奴が当番に回ってきやがったなぁ、オイ」

銀時は大きく溜め息をつくと、自身の右腕にへばりつく無表情なメイドを見下ろした。まるで強力な接着剤で固定されたかのように、トキは微動だにしない。

「どうするんですか? 銀さん。この調子だと、しばらく身動き取れそうにないですよね?」

「ったりめぇだろ? 下手に離れた瞬間、背後から立体機動装置で追われてうなじ削がれても困るからな。俺は巨人じゃねぇっつの」

「銀さん、それ別のアニメの世界観……。壁の外の話ですよね?」

新八の冷静なツッコミも、今の銀時には暖簾に腕押しだ。

「まぁいい。とりあえず新八、俺の代わりに昼メシでも作っといてくんない? 腹が減っては戦も、ストーカー対策もできねぇからな」

「……仕方ありませんね。わかりましたよ」

新八はやれやれと肩をすくめ、執務室を後にした。

***

台所……またはキッチンと呼ばれる場所は、このシャーレの居住区画には確かに存在する。

だが、新八が向かったのは食材の並ぶ調理場ではなかった。料理の前に身を清めるため、そして何より、あの窒息しそうな空間から一時避難するために――洗面所へと足を向けたのだ。

しかし彼は知らなかった。そこが既に、別の捕食者のテリトリーと化していることを。

『あら、執務室から誰か一名、退室しましたね』

遠く離れたミレニアムサイエンススクール。特異現象捜査部の部室にて、ヒマリはモニター上の光点を冷ややかに見つめていた。

『一体誰なんでしょうか? まぁ、GPS反応を見るに銀さんではないことは、トキさんからの通信で把握済みです』

彼女は興味を失ったように、紅茶のカップを口元へ運ぶ。

『何も起こらなければ、何ら問題ありませんしね。他人の動向など、天才の思考リソースを割くまでもありません』

その他人が向かった先で、とんでもない怪物が口を開けて待っているとも知らずに。

***

シャーレ、洗面所。

その洗面台の鏡の「裏側」――あるいは鏡面世界とも言うべき異空間に、狐の耳を持つ少女が潜んでいた。

「ふふ……ふふふふふ……」

暗闇の中で、ワカモは恍惚とした表情を浮かべ、自身の作り上げた完璧な城を見回す。

「ついに、ついにこの時が来ましたわ……」

彼女が確保したのは、洗面台の鏡越しにターゲットを覗き見ることができる特等席。

「Long(長い間)、Gintoki(あなた様)の、Kintama(ゴールデンボール)を眺められる夢の物件!!」

彼女は頬を赤らめ、うっとりと宣言した。

「名付けて『1LGK』の完成です!!」

不動産屋も裸足で逃げ出す狂気の間取り。しかし彼女にとっては、こここそがエデンであった。

「これで……あなたさまのピーの先からピーの先まで、朝の身支度から夜の歯磨きまで、舐めるように眺められます♪ はぁ……考えるだけで、体が熱く火照って……」

ガタッ。

静寂を破る足音。ワカモの狐耳がピクリと跳ねる。

「はッ! 来ましたね!!」

バタン!

扉が開く音が響く。ワカモは息を飲み、鏡の向こう側に全神経を集中させた。

「さあ、ありのまま、そのままを曝け出しちゃってくださいね、あなたさま? あなたの全てを、このワカモが受け止め――」

期待に胸を膨らませ、眼球を限界まで見開いた彼女の視界に飛び込んできたのは――。

「ふぅ……。食堂で料理する前に、ちょっと手でも洗っておこうかなぁ。向こうの流し、ハンドソープ切れてたし」

どこにでもいる、地味な眼鏡の少年だった。

(…………は?)

ワカモの思考が停止する。

銀色の輝きも、侍の風格も、男の色気もない。あるのはただ、眼鏡掛け器としての機能を持った眼鏡(本体)と、その付属品である少年(新八)のみ。

(何ですか? この童貞臭が服を着て歩いているような眼鏡は? なぜ貴方がここにいるのです?)

ワカモの体内で渦巻いていた情熱が、急速冷却され、絶対零度の殺意へと変換されていく。

(私の神聖なる1LGKに、土足で踏み込んでくるとは……。さっさと消えてくれませんかね? 鏡越しに呪い殺しますよ?)

鏡の向こうから突き刺さる、視線という名の刃。

 

「あれ? この鏡、こんなにデカかったっけ? もう少し小さかったような……まぁ、いいか」

新八は首を傾げつつも、すぐに納得したように頷いた。

「よく使うし、大きくて困ることなんてないしね。大は小を兼ねるって言うし」

(はいはい、わざわざ解説お疲れ様です。尺の無駄ですので、さっさと退場してくださいな、ヤムチャ)

鏡の裏側――『1LGK』の密室で、ワカモは冷めた目で毒づいた。彼女が待っているのは、銀色の侍の裸体であって、眼鏡の少年の日常ではない。

だが、新八の行動はここから加速する。

彼は鏡に向けて、何度も何度もキメ顔を作り始めたのだ。顎に手を当て、流し目を送り、無駄に角度を変えて自分の顔面を確認する。

「ヒゲよし、眉毛よし、顔の剃り残しなし。うん、今日も決まってる」

(……はいはい。別にあなたのようなツッコミ担当のモブ顔に、そこまで執拗に画素数を割く必要はありませんから。さっさと出ていってくれませんこと?)

ワカモの苛立ちは募るばかりだ。

(大体、何をチェックする必要があるのです? どうせその服の下は、何の特徴もないツルッツルのチェリーボーイでしょうに!)

「あっ、そうだ。肌毛よし」

新八がおもむろに呟き、着ていた着物をバッと寛げた。

その瞬間――鏡の向こう側の世界に、衝撃が走った。

そこには、貧相な胸板などなかった。

代わりに現れたのは、アマゾンの密林も裸足で逃げ出すほどに鬱蒼と生い茂った、漆黒の「胸毛の森」であった。

(キャァァァァァァァ!!)

ワカモの絶叫(脳内)が、1LGKの狭い空間に反響する。

(よろしくありませんよ!? 何ですかそれは!! チェリー毛ダルマじゃないですか!! 頭の毛はあんなに薄くて地味なくせして、なんで体毛の方に全ステータス振ってるんですか!? 生命の神秘が暴走してますわよ!?)

新八が愛おしそうに胸毛を梳く。その指に絡まる剛毛の質感までが、4K画質並みの鮮明さでワカモの目に焼き付く。

(あああ! 私の清らかな瞳が! 銀さんを見るために取っておいた網膜の容量が、眼鏡の胸毛ごときに浸食されていく……!!)

ワカモは自身の目を狐のお面で覆い隠し、ガタガタと震えながら蹲った。

愛の巣窟は、一瞬にして地獄の観察部屋へと変貌を遂げてしまったのである。

「はぁ……。いっそ永久脱毛でもしようかなぁ……」

ジョリ、ジョリ。

新八は憂鬱な溜息と共に、T字カミソリを胸板へと滑らせていた。そこには、彼の地味な顔立ちからは想像もつかない、漆黒の原生林(ジャングル)が広がっている。眼鏡という本体の下に隠された、あまりにも野生的な真実。

(と、とんでもないものを見てしまいましたわ……!)

鏡の向こう側、1LGKの住人となったワカモは、戦慄していた。

(これが……これがキヴォトス随一と呼ばれるツッコミメガネの、ありのままの姿……。いいえ、これでは『童貞メガネ』なんて生温かいあだ名では足りませんわ)

彼女の脳内で、新八の評価が音を立てて崩れ去り、新たなカテゴリーへと再構築されていく。

(あれはまさしく――ディーディーコングにしか見えません!!)

だが、悲劇は唐突に訪れた。彼がまだ、人類の進化の過程から抜け出せていない猿人(マダオ)であることを嘲笑うかのように。

「ホアッチャァァァァ!!」

ドォォォン!!

爆音と共に、洗面所のドアが蝶番ごと吹き飛んだ。

神楽の飛び蹴りが空間を切り裂き、その衝撃波が新八の手元を狂わせる。カミソリの刃が、本来剃るべき毛を超え、柔らかい皮膚の上を横滑りした。

ブシャァァァァ!!

鮮血の噴水が、鏡を赤く染め上げる。

「うわァァァァァァ!!!」

(ディーディーコングゥゥゥゥ!!!!)

新八の悲鳴と、ワカモの魂の絶叫がシンクロした。

「何、さっきからやってるアルか!! 昼メシ作れって言われてから、もう随分経つネ! さっさと作るアルよ……ん?」

土煙の中から現れた神楽は、悪びれる様子もなくふてぶてしく言い放つ。だが、ふと新八の様子がおかしいことに気づいた。

「何、胸押さえてるアルか、新八? 顔色悪いネ」

新八は必死に胸の傷口を手で覆い隠していた。指の隙間から、ドロドロとした赤い液体が止めどなく溢れ出している。

「い、いや別に……! ファンタグレープ飲もうとしたら吹き出しちゃって……そう、炭酸がきつくて!」

「……ファンタ? それ赤くないアルか?」

「ブラッドオレンジ味の新種だよ!! ……ご、ごめん。ちょっと僕、ベタベタしてキッチンに立てそうにないから、お登勢さんのところにでも行ってご飯食べといてよ」

新八は脂汗を流しながら、這うようにして後ずさる。

「そ、その前に……ちゃんと顔とか洗ってね。女の子なんだから」

「うるせ~な~。お前に言われずとも、レディーはちゃんと身だしなみに気にかけてるアル」

新八は逃げるように去っていった。床には点々と赤い「ファンタ」の痕跡を残して。

静寂が戻った洗面所。

神楽は「やれやれ」と肩をすくめ、ゆっくりと洗面台の前へと歩み寄る。

その鏡の向こうでは、血飛沫に塗れた視界の中で、ワカモが次なる来訪者に息を飲んでいた。

 

(乗り切った……! 何とか乗り切りましたわ……!)

鏡の裏の狭小空間『1LGK』で、ワカモは荒い呼吸を整えながら胸を撫で下ろした。

あわやディーディーコング(新八)の生態をフルコースで観察させられるところだった。愛する銀さんを覗くための神聖な場所が、危うく珍獣の飼育小屋になるところだったのだ。

(何でこう……私がハラハラしなくてはならないんですか!? ……!)

だが、安堵も束の間。鏡の前に立った神楽が、日課の点検を開始した。

「目糞よし。鼻くそよし。……反対の鼻くそよし」

(……今度は貴女ですか!? まぁ、ヒロインですし? 全然恋愛とか興味なさそうですけど、腐ってもヒロインですし? そんな汚いものが詰まっているわけ――)

ビヨ~ン。

神楽の鼻の穴から、物理法則を無視した一本の「黒い糸」が、まるで生き物のように長く、長く伸びてきた。

「あっ、ヤベーー。毛のことすっかり忘れてたアル」

(キャァァァァァァァ!!)

ワカモの思考回路が焼き切れる音がした。

(ヒロインにあるまじき剛毛が、穴から飛び出て来ましたよ!? 何ですかその生命力溢れる一本は!!)

「これも『朝シャン』ならぬ『朝剃り』しないと……」

(え? 待ってくださいな。アレって……鼻毛ェェェ!? あんな長い鼻毛を生やしてたんですか、あの子!?)

ワカモは戦慄した。これはもはやキャラ崩壊などという次元ではない。

(原作も終わって、二次創作の世界線に至ってなお……まさかの第139話目にして驚きの新事実発覚!? 設定の底が見えないんですけど!)

神楽は伸びきった鼻毛を指で弄びながら、鏡に向かって独りごちる。

「こんな長い鼻毛見られたら、間違いなく刺客送られてくるネ。いっそ永久脱毛しちゃおうかな?」

(え? それって脳ミソとかに繋がってたりしませんか? その鼻毛剃っちゃったら、体のバランス崩れて死んじゃったりしませんよね!?)

「でもなぁ……これ無くなったら、髪編めなくなるしーー」

言うや否や、神楽はその鼻毛を器用に操り、頭の両サイドにあるシニヨン(お団子)へと巻き付け、固定し始めた。

(……それで編んでたんですかァァァ!? あの可愛いお団子の構造体、鼻毛で支えられてたんですか!?)

「それに、鼻毛使って祖国ぶっ壊した『毛狩り隊』も倒せなくなるしなぁ」

(戦うこともできるんですか、それ!? 攻守最強じゃないですか!!)

ワカモの中で、チャイナ服の少女の像が音を立てて崩れ去り、別のアフロヘアーの男の姿へと変貌を遂げていく。

(色々と中途半端なヒロインだとは聞いていましたが、モロホンのいい加減な方々だったなんて……! もうこれじゃあ『神楽』なんて生易しいものじゃありません……!)

(『ボボボーボ・ボーボボ』にしか見えませんわ!!)

ワカモの脳裏に、最悪のイマジナリー映像が浮かぶ。

アフロヘアにサングラスをかけた神楽(ボーボボ)が、鼻毛を鞭のようにしならせ、新八を殴打する図。

『ホー! メガネ拳マグナム!!』

『グハァ!!』

(どうしたらいいんですか? 次から次へと出てくるこの衝撃の新事実(NEW FACT)を、純情な乙女はどうやって受け入れれば――!!)

その時、どこか別の場所(おそらく天井裏)から、悲鳴が轟いた。

『キャァァァァァ!!!』

その声に驚いたのか、あるいは決心がついたのか。

神楽は「ええい、ままよ!」とばかりに、その長い鼻毛を力任せに引き抜いた。

ブチィッ!!

「グハァッ!!」

ブシャァァァァァァ!!!

鼻腔から噴き出したのは、先ほどの新八をも凌駕する鮮血の奔流。

(ボーボボさァァァァァン!!!!)

ワカモは心の中で、偉大なる鼻毛真拳の使い手(?)の死を悼み、絶叫した。鏡の裏側は、もはやお化け屋敷のような恐怖に包まれている。

そこへ、けだるげな足音が近づいてきた。

「ああ? 何やってんのお前? 洗面所からすげぇ悲鳴聞こえたけど」

銀時がひょっこりと顔を出す。そこには、顔面を朱に染め上げたヒロインの姿があった。

「べ、別に……」

神楽は鼻を押さえ、震える声で言い訳をひねり出した。

「ファンタグレープ飲んだら……炭酸強すぎて、鼻から吹き出してきただけアル」

 

「じゃあ、先にご飯食べて来るから……また後でネ」

 

「ったく、なんだってんだよアイツは……」

銀時は濡れた手をパパッと振って水を切りながら、気だるげに鏡の前で独りごちた。

そこへ、背後霊のように張り付いていたトキが、一切の抑揚のない声で囁く。

「銀さん、銀さん」

「ああ? 何だよ? まだ何かあんの?」

「……出てます」

「何が? やる気? それとも加齢臭?」

トキは銀時の股間付近に無機質な視線を固定し、淡々と事実を告げた。

「銀さんのアナログスティックならぬ……ボックススティック(ボックスドライバー)が」

「あ、ホントだ」

銀時は自分の股間を見下ろし、今日一番の納得顔を見せた。

「トイレに行って、そのまま出しっぱなしだったわ。いやー、最近のファスナーはハイテクすぎて閉め忘れちまうな」

 

***

(ピシッ)

鏡の裏側、夢の隠れ家『1LGK』の空間に、何かが決定的にひび割れる音が響いた。

(え……えぇェェェ!?)

ワカモは狐面の下で、眼球が飛び出るほどの衝撃を受けていた。

彼女が期待していたのは、逞しく猛々しい侍の象徴。あるいは、歴戦の傷跡が残る男の証。

だが、そこにあったのは――。

(ボ、ボックスドライバーァァァァ!?)

(どういうことですの!? え? 見間違い? いえ、私の動体視力は完璧なはず。銀さんの、あのアナログスティックであるべき部位が……先端が六角形の、工具の、ボ、ボックスドライバー!?)

彼女の乙女回路はショート寸前だった。恋い焦がれた人の身体の一部が、ホームセンターで売っている工具だという現実は、あまりにも重すぎる。

「も、もしもし? 少し良いですか?」

震える手でスマートフォンを取り出し、ワカモは藁にもすがる思いで回線を繋いだ。

「銀さんの……アナログスティックって……」

『……それについては、聞かないでください』

通話の向こう側、ヒマリの声は死人のように重く、そして疲弊しきっていた。

「え?」

『私も、つい先ほど初めて知ったのです。……さっき、トキさんから緊急連絡があって――』

***

――数分前の回想。ミレニアム、特異現象捜査部。

『ヒマリ部長、銀さんがトイレに向かいました。個室ではなく小便器です。同行しますか? どうぞ』

『えぇ、同行してください。あそこには天井裏にさっちゃんさんも潜んでいますが、データ収集のためには複数視点(マルチアングル)があった方がいいですからね。死角なきよう頼みますよ』

『了解しました。ピースピース』

それから、永遠とも思える数分の沈黙が流れた。

やがて、通信機からトキの声が戻ってきた。しかし、その声には微かな、本当に微かな困惑が混じっているように聞こえた。

『……どうでしたか、トキ? 銀さんのアナログスティック、その形状やサイズ、確認できましたか?』

『はい。完璧に、その形、質量、材質までも捉えました』

『素晴らしい! さすがは私の右腕です。では、教えていただけますか? 彼の秘密を』

『はい。ご報告します。銀さんのアナログスティックは――』

トキは一呼吸置き、真実を告げた。

『ボックスドライバーです』

『……? んんんん?』

 

 

【挿絵表示】

 

 

ヒマリは耳を疑った。通信ノイズか、あるいは隠語かと思った。

だが、直後に送られてきた画像データを開いた瞬間、天才ハッカーの思考は停止した。

そこには、モザイク処理の必要すらない、鈍い銀色に輝く「+(プラス)」でも「-(マイナス)」でもない、六角ボルトを締めるための工具が、股間から生えていたのだ。

『えっと……トキ? 今は冗談を言っている場合じゃ――』

『いいえ、全て事実です。私の光学センサーに狂いはありません。銀さんのアナログスティックは……』

『間違いなく、ボックスドライバーです』

***

「……というわけなのです」

現在のヒマリは、遠い目をして呟いた。

『信じたくはありませんが、事実は小説より奇なり……。彼の体は、我々の常識を超えた人体改造、あるいは天人の科学力によって、DIY仕様になっているのかもしれません』

「そ、そんな……」

ワカモは膝から崩れ落ちた。

(私が……私が毎晩夢にまで見たあのお方が……まさか、家具の組み立てに最適な体をお持ちだったなんて……!!)

鏡の向こうでは、銀時が何事もなかったかのように鼻歌を歌い始めている。

その股間に潜む「工具」の謎は、キヴォトスの乙女たちに、深いトラウマと混乱を植え付けたのであった。

 

「アレ……チャックが噛んで動かねぇ! なぁトキ、悪いけど代わりに俺の『社会の窓』閉めてーーー」

銀時が股間を突き出し、無防備にそう頼んだ、その瞬間だった。

 

天井裏と鏡の裏、二つの異次元から同時に殺気が噴出した。

ドカァン!!

凄まじい轟音と共に、紫色の影と狐面の影が交差する。さっちゃんとワカモ、二人のストーカーが嫉妬のあまり理性を焼き切り、渾身のダブル・ドロップキックを銀時の股間――すなわち「ボックスドライバー」へと叩き込んだのだ。

ガギィィィン!!

鈍い金属音が響く。

「お、お……」

「お邪魔しましたッ!!」

我に返った二人は、蹴り込んだ足の感触が明らかに人肌ではなかったこと、そして自分たちが完全に誘き出されたことを悟り、顔面蒼白で脱兎のごとく逃走した。

ウィーン。

正面の自動ドアが閉まる音が、嵐の去った静寂を告げる。

***

「……盗み見ってのはな、他人を覗くと同時に、己の汚ねぇ心を覗くハメになる『鏡』のようなもんなんだよ」

銀時は痛がる様子もなく、ニヒルな笑みを浮かべて語り出した。そして、股間に装着していたソレに手をかける。

キュポン!

間の抜けた吸着音と共に、銀色の「ボックスドライバー型アタッチメント」が取り外された。それは単なるイタズラグッズであり、彼の肉体の一部などでは断じてなかったのだ。

「奴らは俺たちを見ているつもりで、実はテメェ自身を見てたってわけさ。人の醜態を覗き見る、己の醜い姿をな」

夕陽を背に、いい声でまとめる銀時。だが、その足元にはファンタ(血)まみれの新八が転がっている。

「いや、どう考えても僕らの方が恥部を晒してましたよね!? 全力で醜態をさらけ出してましたよね!?」

「まぁ、これで少しは懲りてくれたらいいアルけどぉ? 二度とレディーの鼻の穴なんて覗かないことネ」

神楽が鼻をほじりながら(鼻毛を隠しながら)ふんぞり返る。

「まぁ、それもこれも全て、お前のおかげだな。……エイチ」

銀時が視線を向けた先、部屋の隅の空気穴から、赤いネクタイと奔放な肢体を持つ少女がぬるりと姿を現した。

「……エイミね。どういたしまして」

「露出魔エイミ。どうしてここに?」

トキが眉をひそめ、警戒心を露わにする。エイミは淡々と事情を説明し始めた。

「実は、今日の当番は本来、私が担当だったんだ」

「!?」

 

「でも部長、勝手にそれをトキの当番にデータ改竄した。」

 

「多分あの様子だと私が担当だったことまでは知らなかったんじゃないかな」

 

エイミはそこで言葉を切り、銀時へと視線を戻した。

「だから、いつもより早く来て通気口で待機してた。……銀ちゃんに、『今、複数の視線に監視されてるよ』って、こっそり伝えるためにね」

そう。銀時がボックスドライバーなどという狂気じみた工作を行い、わざとらしい演技でふざけ倒してたのも、すべてはエイミからの忠告があったからこそ。

ストーカーたちの「覗き」を利用した、万事屋と特異現象捜査部(の現場担当)による見事なカウンターアタックだったのだ。

 

「なるほど……。視覚情報の欺瞞によるカウンター。これは一本取られた、というわけですか」

トキは表情一つ変えずに敗北を認めた。その潔さは、完璧なエージェントであるがゆえの合理性か。

「まぁ、そうなるかな」

エイミは汗を掻きながらけだるげに、しかし確かな満足感を滲ませて銀時に歩み寄る。

「……ねぇ、銀ちゃん。私からも一つ、お願いがあるんだけど」

「ああ? 何だよ? ファスナーとか開けんなよ、もちろん冷房も禁止な」

「違う。……生徒が頑張って先生を助けた時、先生ならどうすべきだと思う?」

エイミは上目遣いで、じっと銀時の瞳を見つめた。その瞳には、言葉にしなくとも伝わる「要求」が揺らめいている。

銀時はポリポリと頭を掻き、「ったく、しゃあねぇなぁ」と吐き捨てると、乱暴に、けれどどこか優しい手つきでエイミの頭に大きな手を乗せた。

「……よく頑張りましたッ。これでいいか?」

ガシガシ、と頭を撫で回す。

エイミは目を細め、鼻を鳴らした。

「フフン……」

それは猫が喉を鳴らすような、微かな、しかし絶対的な充足の響き。

「なんか……ここでの銀さん、めっちゃモテてませんか? 歌舞伎町じゃ考えられない待遇なんですけど?」

新八が信じられないものを見る目でツッコミを入れるが、銀時はふんぞり返って鼻を鳴らす。

「気のせいだろ? 銀さんはいつでもどこでも大人気だよ? 」

「絶対嘘だ……」

和やかな空気が流れる中、トキだけがふと、何もない空間を見つめて首を傾げた。

「……何でしょう。何か致命的な『処理漏れ』があるような気がするのですが……」

その予感は、シャーレから遠く離れた場所で的中していた。

***

ミレニアムサイエンススクール、ハッカー集団「ヴェリタス」の部室。

モニターの明かりだけが灯る薄暗い部屋に、高速でキーボードを叩く音が響く。

カタカタカタカタ……ッターン!

「ふふふ……。他の三人が何を見たのかは知りませんが、私は違う……」

コタマはヘッドフォンを耳に当て、波形編集ソフトに映し出された音声データを愛おしそうに眺めた。

「映像などという不確定な情報に頼るから騙されるのです。真実は常に『音』にある。……このまま入手した銀さんの吐息、衣擦れの音、そしてボヤき音声を使って、自分だけの最強ASMRを作成すれば――」

「ふふっ、これであの人の鼓膜は私のもの……」

勝利の余韻に浸りかけた、その時だった。

ずしッ。

コタマの右肩に、重力が倍増したかのような「重み」が乗せられた。

「ん?」

ヘッドフォンの隙間から、冷気と共に流れ込んでくる、逃れようのないプレッシャー。

それは、ミレニアムの予算を握る者だけが纏える、絶対的な「管理」のオーラ。

コタマが恐る恐る、油の切れたブリキ人形のような動きで振り返る。

そこには――。

闇の中で、青白いモニターの光を下から受け、完璧な放物線を描く「笑顔(ニコッ)」だけが浮かんでいた。

怒声はない。説教もない。ただ、無言の笑顔と、電卓を弾くような冷徹な計算の輝きがそこにあった。

(あ、)

コタマの脳裏に、自身の活動予算、部室の使用権、そして明日からの平穏な日常が、音を立てて崩れ去る映像がよぎる。

「うわァァァァァァァ!!!!」

断末魔の悲鳴と共に、ヴェリタスの部室の明かりがプツンと消えた。

シャーレの平和を守るための戦いは、こうして幕を閉じたのである。

 




次回 

黒服「皆さん、大変です。資金が足りません」

武市「問題ありませんよ、ここは私に任せてください、そうこのフェミニストに」


次回 みんな成長することを望んでる

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
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  • 近藤
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