透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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アビドスの篇ようやく全て書き直し終わった……


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五周年のガチャ……以前ここに載せたケイちゃんの画像を背景に変えた瞬間出たのでもう一度載せます。ありがとうケイちゃん、ありがとう銀さん、紫封筒出してキサキくれアロナ


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本日の話はかなり高杉ファンを怒らせるかも……ただ最後まで見てくれれば救いがあるかも

"私はただ壊すだけだ。高杉ファンの心を"
ーーーーーー


澄んでだ瞳が 呼び醒ます
忘れかけてた 正義感 正義感
酸いも甘いも しゃぶり尽くす
今日のテーマは 勧善懲悪さ

散文的な 口ぶりで
やたら嘯く エイリアン エイリアン
のらりくらりと 罪深き
桃源郷に グッドバイしたんならば

理想に 忠実な
uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ

シーソーゲームは 続いてく
そうそう ぼくらも譲れない
真剣勝負に 病み付きで
もうどうしたって やめられ ないやいや

運命論なんて
ぜんぜん関係ない
一所懸命だ だ だ


“何でもあり”の 世の中で
研ぎ澄ますのは 審美眼 審美眼
本音・建前 焼き尽くす
感じたままに 勧善懲悪さ

厚顔無恥な スタイルで
未だ蔓延る エイリアン エイリアン
かつて夢見た 美しき
桃源郷を ゲットバックしたいならば

理想に 忠実な
uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ

シーソーゲームの 行く末は
そうそう ぼくにもわからない
真剣勝負の 暁は
もうどうしたって 勝つしか ないやいや

シーソーゲームは 続いてく
そうそう ぼくらも譲れない
真剣勝負に 病み付きで
もうどうしたって やめられ ないやいや

運命論なんて
ぜんぜん関係ない
一所懸命だ !だ! だ!





第百二十六訓 みんな成長することを望んでいる

薄暗い会議室に、重苦しい沈黙が落ちた。

ゲマトリアの定例会合――本来ならば、キヴォトスの神秘や崇高なる実験について語られる場であるが、今日の空気は明らかに違っていた。

「……皆さん、落ち着いて話を聞いてください。いいですか?」

黒服は、一枚の紙きれをテーブルの上に滑らせた。そこには赤字で埋め尽くされた決算報告書らしきものがあり、一番下には無慈悲な『残高:0』の文字が刻まれていた。

「我々の活動資金が、底をつきました」

「あ゛?」

鬼兵隊の紅一点、来島また子が、眉間に深い皺を寄せてドスの利いた声を上げる。

「おい、顔無し。今なんて言ったっすか? 『底をついた』? 冗談キツイっすよ。アタシら鬼兵隊と手を組むに当たって『資金提供は惜しまない』って大見得切ったのはドコのどいつっすか?」

「ええ、ええ。確かに申し上げました。ですが、想定外の事態というのは常に起こり得るものです」

黒服は悪びれる様子もなく、どこか他人事のように肩をすくめた。その態度が、また子の導火線に火をつけた。

 

「資金がねぇってどういうことッスか! 晋助様の大義を成すためには金がいるんスよ! ヤクルト代だってバカにならないんスよ!!」

 

「いや、ヤクルコ代は関係ないかと思いますが……というか節約してください」

 

ダンッ!!

また子がテーブルを蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、二丁拳銃を黒服の顔面に突きつけた。

「ナメてんスかテメェ! どこに使ったぁ! アタシらの活動費、一体どこに溶かしやがった!!」

「……ふふふ。落ち着いてください。私の私腹を肥やしたわけではありませんよ。原因は、主に身内の『芸術活動』と『暴走』にありましてね」

黒服が視線を横に流す。そこには、いつになく小さくなっているマエストロの姿があった。

「マエストロ、貴方の作った『ヒエロニムス』……あれの製作費、当初の見積もりの何倍でしたっけ?」

マエストロは咳払いを一つすると、大仰な身振りで語り出した。

「芸術とは、妥協を許さぬものだ。あの崇高なる赤き色彩、人工天使としての造形美……素材にこだわれば、予算などという俗世の数字は些細な問題に過ぎなーー」

「あんなデカいだけの置物に億単位溶かしたんすかァァァァ!!」

また子の銃口がマエストロに向く。

「ただでさえ見た目が不気味なんだよ! なんだあの赤いのは! 塗装代か!? あの赤色は全部高級なペンキ代なんすか!!」

「ペンキではない! あれは神秘の具現化であり、恐怖の概念を――」

「うるせぇ! その『恐怖の概念』を質屋に入れて金に変えてこいっつってんだよ!!」

マエストロがタジタジになる中、黒服が冷静に言葉を継ぐ。

「まあ、マエストロの浪費など、全体の損失から見れば可愛いものですよ。……最大の問題は、あちらです」

黒服が指差したのは、空席となっている一脚の椅子。そこは本来、ベアトリーチェが座るべき場所だった。

「ベアトリーチェ……彼女の暴走は目に余るものがありましてね。アリウススクワッドの育成、大聖堂内の祭壇の建設費、さらには個人的な趣味嗜好による儀式の数々……」

 

「あのババアァァァァァ!!」

 

また子は頭を抱えた。確かに、あの高圧的でヒステリックな女の顔が脳裏をよぎる。

「彼女は『全ては目的のため』と言って、ゲマトリアの共通口座から湯水のように資金を引き出していましてね。古聖堂の地下で何をやってるかと思えば、怪しげな実験で施設を爆破しては修繕費を計上し、失敗しては証拠隠滅のためにさらに金を使い……」

黒服は溜息をつき、領収書の山をパラパラとめくった。

「挙げ句の果てに、白夜叉への嫌がらせのためだけに高額な兵器を使い捨てにする始末。……正直、私の胃も限界なんですよ」

 

「知らねーよ!! テメェらの家庭の事情なんて!!」

また子は叫びながら、天井に向かって発砲した。

 

「どいつもこいつも好き勝手やりやがって! 晋助様の顔に泥塗る気ッスか!!」

怒髪天を衝くまた子の横で、しかし、河上万斉は一人、俗世から切り離された空間にいた。

彼はヘッドホンを耳に当て、恍惚とした表情でリズムを刻んでいる。

「ぽっぽっぽ……。良い旋律でござる」

「万斉先輩! 先輩もなんか言ってやるッス! 私たちが貧乏くじ引かされてるんスよ!」

「……静かにしろまた子。今、拙者の魂は震えているのでござる」

万斉はヘッドホンを指差し、真剣な眼差しで語った。

「『ブルーアーカイブ5周年記念キャラクターMV』……。この曲、この演出。透き通るような世界観の中に、確かな“業”を感じる……。まさにロックだ」

「現実逃避してんじゃねぇッスよ! 5周年とか祝ってる場合じゃないッスよ、こっちは明日の米もないんスよ!」

カサカサ、という安っぽいビニール音が、修羅場に割り込んだ。

入口のドアが開き、盲目の剣客――岡田似蔵がぬらりと姿を現す。その手には、コンビニの袋が提げられていた。

「おぅ、買ってきたぜ。……焼きそばパンだ」

「似蔵!?」

「あいにくイチゴ牛乳は売り切れててな。代わりにコーヒー牛乳にしておいた。……晋助は?」

「いや、なんでパシリになってるんスか似蔵! しかもなんでそんな当然のように焼きそばパンなんスか!」

「腹が減っては戦はできねぇだろ。……ほら、半額シール付きだ。感謝しろ」

「所帯染みてんだよ鬼兵隊!!」

また子のツッコミが虚しく響く。

資金難、趣味に没頭する音楽家、焼きそばパンを買ってくる人斬り。かつて江戸を震撼させたテロリスト集団の威厳は、キヴォトスの日常に侵食され、見る影もなく崩れ去ろうとしていた。

その時だった。

ザァァァァァ……。

室内の空気が、物理的な重さを持って一変した。

騒ぎ立てていたまた子の喉が引きつり、万斉がヘッドホンを外し、似蔵が焼きそばパンを持つ手を止める。黒服さえも、背筋を正さざるを得ない圧倒的なプレッシャー。

部屋の奥、最も暗い影の中から、その男は歩み出た。

「……皆、騒がしいぞ」

朧(朧)

かつて吉田松陽と呼ばれた男の姿をした、終わらない悪夢の下についていた。高杉たちの兄弟子である。

彼がただ一言発しただけで、場を支配していた喧騒は死に絶えた。

「お、朧……」

また子が震える声で呟く。

「静まれ。……聞け」

朧の視線が、部屋の中央にある椅子――そこに座り、静かに煙管を吹かしていた男へと向けられる。

「どうやら、総督の方から話があるようだ」

紫煙が揺らぐ。

高杉晋助が、隻眼をゆっくりと開き、困窮する仲間たちを見渡した

 

紫煙のヴェールを透かして、高杉晋助の隻眼が闇の中で妖しく、鋭く光った。

張り詰めた沈黙。

誰もが固唾を飲んで見守る中、彼はゆっくりと、まるで愛刀に触れるかのように繊細な手つきでテーブルへと手を伸ばす。

その細い指先が掴み取ったのは――黄色い「半額シール」が哀愁を漂わせる、売れ残りの焼きそばパンであった。

「……冷えているな」

低く、磁力を帯びたような艶のある声が響く。

それは単なるパンの温度への言及ではない。腐敗した幕府、形骸化した武士道、そして理不尽な世界の在り方そのものを嘆くような、深淵なる響きを持っていた。

「パンも、焼きそばも、そしてこの世界も……。かつて持っていた熱を失い、ただ乾いていくだけだ」

「晋助様……ッ」

また子の瞳が潤む。高杉が語れば、コンビニで廃棄寸前だった炭水化物の塊でさえ、憂国のメタファーへと昇華されるのだ。そのカリスマ性は、貧乏臭い現実さえもドラマチックに彩ってしまう。

高杉は静かに、包みを開け、パンを口へと運んだ。

ハムッ。

咀嚼する音さえも、どこか虚無的で、それでいて鋭利な刃物のような緊張感を孕んでいる。鬼兵隊の総督が、半額パンを噛み砕く。その光景はシュールを通り越して、一種の宗教画のような厳かさを帯びていた。

ごくん、と喉仏が動き、彼は再び口を開いた。

「似蔵」

「……あぁ?どうしたんだい?」

「紅生姜が、足りねェよ」

ズコォォォッ!!

また子が盛大にずっこける音が、会議室の重厚な空気を木っ端微塵に粉砕した。

「そこっスか晋助様ァ!? 世界の憂いじゃなくて、紅生姜の配分バランスを憂いてたんスか!?」

床に額を打ち付けながら、また子が叫ぶ。だが、高杉の表情は微動だにしない。真剣そのものだ。

「バカ言っちゃいけねぇ。……紅生姜のない焼きそばパンなんざ、牙を抜かれた狼と同じだ。ただのソース味の小麦粉の塊に過ぎねェ」

高杉は口元のソースを親指で拭うと、ニヤリと、背筋が凍るほどに凶悪で美しい笑みを浮かべた。それはかつて、江戸の夜を紅蓮の炎で焦がしたあの日と同じ、破壊のカリスマの表情。

「紅(あか)がねぇと、血が騒がねぇだろうが」

「いや、着色料で血が騒がれても困るんスけど!?」

高杉の視線が、ゆっくりと黒服へと移動する。

「黒服」

「は、はい。何でしょう」

「テメェは言ったな。『想定外の事態』だと」

射抜くような隻眼に見据えられ、黒服の額から冷や汗が流れる。

「俺たちに泥水を啜らせ、紅生姜すら入ってねェ安物のパンで腹を満たさせることが……テメェらの描く『崇高』ってやつか?」

「い、いえ、決してそのようなつもりでは……! ですが、現実問題として資金が底をつきまして――」

黒服の言い訳を遮るように、高杉が立ち上がる。

その全身から立ち昇るオーラに、会議室が震えた。また子は息を飲み、胸の前で手を組む。

(来るッス……! 晋助様の名セリフ!)

「なにもするこたぁねぇよ。俺ぁただ、壊すだけだ――」

(来たァァァァ! この全てを否定し、全てを無に帰す破壊の言葉! 世界を壊すという決意表明!)

また子の心臓が高鳴る。

高杉は、握り潰した焼きそばパンの袋を投げ捨て、高らかに宣言した。

「この腐った、資金難を!」

ズコォォォォォ!!

全員が椅子から転げ落ちる音が、美しくハモって響き渡った。

 

「資金難を壊す前に、晋助様のキャラクター像が粉々に壊されてるっスよ! 晋助様ァァァァァ!!」

また子の悲痛な叫びが、会議室の壁に虚しく反響した。だが、その悲鳴すらも今の高杉には届かない。彼は、世界の崩壊を見据えるような目で、空っぽになった焼きそばパンの袋を見つめていた。

「……ということは、何か策があると? そういうことですか?」

黒服が、顔のない頭部をわずかに傾けて尋ねる。その声音には、純粋な疑問と、一抹の不安が混じり合っていた。

「まぁな」

高杉は短く答え、再び紫煙を吐き出した。煙が晴れると、そこには不敵な笑みを浮かべた総督の顔があった。

「この俺、高杉晋助は――」

ゴクリ。

その場にいる全員が、固唾を飲んだ。彼が語る次なる一手。それはクーデターか、新たな兵器の投入か、それとも――。

「Vtuber(ブイチューバー)で、稼いでいこうと思ってる次第だ」

「「「なんでだよ!!?」」」

全員のツッコミが、美しくハモって炸裂した。

窓ガラスがビリビリと震えるほどの音圧。

「し、晋助様ァァァァァ!? 何言ってるんスか!? クーデターの計画じゃなくて、配信の計画立ててたんスか!?」

また子が頭を抱えて崩れ落ちる横で、河上万斉がサングラスの奥で目を瞬かせ、真剣な顔で顎に手を当てた。

「ブイチューバー……。拙者も聞いたことがあるでござる。確か、分身体を使って螺旋丸を放つ術の使い手が――」

「それ! NARUTOの影分身!! 分身体のところしか合ってないッス!!!」

また子が食い気味に訂正する。万斉のロックな感性は、デジタル社会には対応していなかったようだ。

「阿呆」

冷ややかな声と共に、朧が影から進み出た。

「3Dのアバターを使って配信活動を行う者のことだ。……だが総督よ。それを語る口調が、『脱サラしてラーメン屋始めたい』と言い出した中年サラリーマンのようなテンションであるべきではないと思うが」

「何、突然寝ぼけたことを言い始めてるんですか? 資金難で頭がオーバーヒートしましたか?」

黒服さえもが困惑を露わにする。しかし、高杉の自信は揺るがない。彼は懐から一枚のレポート――おそらく彼なりの「市場リサーチ」の結果――を取り出し、テーブルに叩きつけた。

「何、市場リサーチの結果、驚くべき事実が判明してな……」

高杉はニヤリと笑い、自らの喉元を指差した。

「俺のこの、重低音イケボには……激しく需要があることが分かったんでな」

 

 

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ドオォォォン……!

その瞬間、高杉の背後に、禍々しくも魅力的なオーラが立ち昇った。

それは単なる気迫ではない。

『時を止める吸血鬼(DIO)』や、『最強のフィジカルギフテッド(伏黒甚爾)』、あるいは『鼻毛真拳の使い手』など、彼の「声」と同じ魂を持つ歴代のカリスマたちの幻影が、走馬灯のようにぐるぐると回転し始めたのだ。

「……聞こえるか? この声が、スーパーチャットという名の集金を呼ぶ音だ」

「いや、分かるッス! 確かに晋助様の声は国宝級ッスけど!!」

また子は、あまりの説得力(物理)に圧倒されながらも、必死に現実にしがみついた。

「裏で動いてるテロ組織に、表舞台の需要とかありえないッスよ! 『スパチャありがとうございます、世界壊します』とか言うつもりッスか!? 垢バン確定ッスよ!!」

世界の破壊を目論む男が、今、配信業界の常識を破壊しようとしていた。

紫煙をくゆらせながら、高杉は心底心外だと言わんばかりに眉をひそめた。

「なんだ? 俺が中の人(ライバー)をやってるってことがバレたら困るってか……」

彼は手に持っていた焼きそばパンの袋を、まるで極秘の作戦計画書でも扱うかのように指先で弾いた。

「ハッ、その点なら問題いらねぇよ。……最近、この小説に追加された俺のイラストを『クリスタ(CLIP STUDIO PAINT)』に取り込み、レイヤー分けして清書と着色を行う。その上で……」

高杉は虚空に指を走らせ、見えないパラメータを操作する仕草を見せる。

「『Live2D』でデフォーマをかけまくって可動域を確保し、『FaceRig』でグリグリ動かそうと考えてる。物理演算も完璧にな」

(め、め――!)

また子は口をパクパクと開閉させ、声にならない悲鳴を飲み込んだ。

(め……! めちゃくちゃ調べ上げてるっスーー!! 何その専門的なワークフロー!? いつも破壊だの腐ってるだの言ってる間に、いつの間に「デフォーマ」なんて単語を覚えたんスか!?)

「めちゃくちゃ調べ上げてるねぇ~。感心したよ」

似蔵がニヤニヤと笑いながら、面白がるように茶々を入れる。

だが、高杉の「デジタルへの侵食」はそこで止まらなかった。彼はふっと遠い目をして、別次元の記憶を語り出したのだ。

「それに、俺は他次元で『ラブコメ主人公のお父さん』として、過去に配信業……OBS等の映像系ソフトは触ったことがある。……赤子を捻る程度のことだ」

「いや、晋助様のキャラクター像が捻られてるっス! ねじ切れてるっスよ!!」

また子が頭を抱えて絶叫する。

「ラブコメのお父さんって何!? 確かに声は一緒でしょうけど! 某配信者のパパみたいなこと言わないでください! ここから晋助様のクールなイメージを挽回する方が、赤子捻るより数億倍難しいっスよ!!」

「……チッ。俺のキャラ像についても心配はいらねぇよ。見た目がバレなきゃいいんだろ?」

高杉は不満げに舌打ちをすると、さらに恐ろしい提案を口にした。

「なんだったら『DAW』の『VSTプラグイン』でボイチェンかけて、萌え声系ライバーとして売り出す手もあるが――」

「いや、分かんないっス! そのアルファベットの羅列の意味も、晋助様の口から出る『萌え声』という単語の破壊力も、一ミリも分かりたくないっス!!」

また子は耳を塞ぎ、現実を拒絶した。

あの重低音ボイスが、機械的な加工によって「にゃん♡」などと言わされる未来。それは鬼兵隊にとって、幕府転覆よりも恐ろしい悪夢に他ならなかった。

「……こんなに噛み砕いているのに、分からねぇ奴らだ」

高杉は呆れたように首を振ると、冷え切った焼きそばパンをガブリと噛みちぎった。

モグモグと動くその口元には、紅生姜の赤よりも鮮烈な、配信者としての野望が燃え上がっていた。

「裏組織のボスが、バーチャルの存在……それも美少女アバターを被って『スパチャありがとうございます』などと愛想を振りまいていることが露見すれば、これ以降、我々は裏社会で活動などできません!!」

黒服が、珍しく声を荒げて机を叩いた。

キヴォトスの数多の神秘を研究してきた彼でさえ、「Vtuber高杉晋助」という概念の特異点には耐えられなかったようだ。

「却下だ。却下」

朧が冷徹に、判決を下すように繰り返す。

その言葉には、兄弟子としての威厳と、これ以上のキャラ崩壊を食い止めねばならないという必死の理性が滲んでいた。

「そうか……」

高杉は短く呟くと、最後の一口となった焼きそばパンを飲み込んだ。

その表情には、世界を壊すことすら厭わない男が、ほんの少しだけ残念そうな――「結構いいアイデアだと思ったんだがな」という未練が、紫煙と共に漂っていた。

会議室に、再び重苦しい沈黙が戻る。

Vtuberという突飛な打開策が消え、残されたのは「残高0」という冷酷な現実のみ。

「――フッ。賢明な判断です」

その沈黙を破り、部屋の隅にある暗がりから、一人の男が静かに歩み出た。

丸いサングラスの奥で、知性を宿した瞳が光る。

着流しに羽織という出で立ちでありながら、どこか近代的な戦略家の空気を纏った男。

鬼兵隊の参謀にして、自称・フェミニスト。

武市変平太である。

「た、武市先輩……」

また子がげんなりとした顔を向ける。

変人(マエストロ)、戦闘狂(似蔵)、中二病(万斉)、そして破壊神(高杉)に振り回され続けた彼女にとって、この男の登場は「真打ち登場」というよりは、「さらなる混沌の到来」を意味していた。

「晋助殿の美声、確かに捨てがたい資源ではありますが……リスクが高すぎます。我々にはもっと、こう……」

武市は眼鏡を中指でクイッと押し上げ、不敵な笑みを浮かべた。

「人の心の『闇』と『罪』を利用し、かつローリスクで資金を回収できる……そんな崇高な集金システムが必要なのです」

「……武市。策があるのか」

高杉が視線を向ける。

武市は恭しく一礼すると、懐から一枚の設計図のようなものを取り出した。

「ええ、勿論ですとも。この武市変平太、ただロリコ……いえ、フェミニストとして子供たちを見守っていただけではありません」

「今ロリコンって言いかけたっスよね!? 完全に見守るの意味が違うっスよね!?」

また子のツッコミを華麗にスルーし、武市は自信満々に続けた。

「キヴォトスの迷える子羊たち……彼女らは皆、誰にも言えぬ悩みや『罪』を抱えている。それを救済し、対価をいただく。……そう、これぞ究極のビジネスモデル」

ーーーーーーーーー

D.U.(District of Utnapishtim)――復興の槌音が響くこの地区の片隅に、あまりにも異質な「城」が鎮座していた。

スーパーマーケットの裏から回収してきたと思しき、大小様々なダンボール箱。それらをガムテープという名の包帯で無理やり繋ぎ合わせ、継ぎ接ぎだらけで建立されたその箱状の建造物には、黒のマッキーペンで殴り書きされた看板が掲げられている。

『懺悔室』

さらにその下には、欲望を隠そうともしない、あるいは隠す気すらない追伸が踊っていた。

『貴方の未来も見通します。※生徒限定』

「ふぅ……。ようやく、出来ましたね……」

額に滲む汗を拭い、武市変平太は満足げにそのダンボールの城を見上げた。彼の目には、このボロ小屋がまるでサン・ピエトロ大聖堂のような荘厳な建築物に見えているのかもしれない。

だが、現実は非情である。

「じゃ、ねぇだろォォォォォ!!」

「ブフォッ!!」

鋭い罵声と共に、背後から繰り出されたまた子の飛び蹴りが、武市の背骨に炸裂した。

カエルが踏み潰されたような声を上げ、武市は作りたてのダンボール壁へと顔面から突っ込む。

「どーゆーつもりっスか! 武市先輩!!」

また子は肩で息をしながら、目の前の「粗大ゴミ」を指差して吠えた。

「こんなオンボロな、風が吹けば飛ぶようなダンボールハウスを『懺悔室』だなんて言い張って、金なんて集まるわけないでしょうが!! それに何っスか、あの看板! 『生徒限定』って……ロリコンも大概にするッスよ! 隠す気ゼロかテメェは!!」

「…………ロリコンじゃない、フェミニストです」

ダンボールの残骸から這い出し、武市は鼻血を流しながらも、その表情は真面目腐っている。

「私は決して、幼気な少女たちに手を出そうとしているのではない。『道』を指し示そうとしているのです」

 

「いや、もう何言っててもロリコンにしか聞こえないっス! 下心が透けて見えるどころか全裸で歩いてるレベルっス! キメェッス先輩!!」

 

また子が蔑みの眼差しを向け、再び銃に手をかけようとした、その時だった。

「ん、ごめんください……」

喧騒を縫って、鈴の音のように静かで、しかし凛とした声が響いた。

ダンボールの入口に立つ影。

逆光の中に浮かび上がったのは、特徴的なヘイローと、オッドアイを持つ少女。

「……おや」

武市は瞬時に居住まいを正し、鼻血を拭って「聖職者(のようなもの)」の顔を作った。

 

「ほら……早速来ましたよ。迷える子羊が」

 

また子は口を開けたまま固まった。

(マジで来たっスか!? こんな怪しいダンボールに!?)

D.U.の片隅、欲望とダンボールで構成された懺悔室に、最初の客が足を踏み入れようとしていた。

 

ダンボールとガムテープで急造された「懺悔室」の内部は、湿気と古紙の匂いが充満していた。

薄暗い空間の中、武市変平太は祭司気取りで座り、その背後には来島また子が膝を抱えて身を潜めている。

「ん、匿名を希望する」

衝立(ただのダンボールの仕切り)の向こう側から、鈴を転がしたような、しかし抑揚のない少女の声が響いた。

「心配いりませんよ。こちらからは貴女のお顔は見えませんし、貴女の声も我々が開発した『特殊なマイク(空き缶と糸)』を通すことで、完全に加工されていますから」

武市はもっともらしい嘘を、呼吸をするように吐いた。

「ん、良かった……。じゃあ、私の懺悔、聞いて欲しい」

安堵の息遣いが聞こえる。

また子は暗がりの中で、仕切りの向こうにいる少女の姿を想像した。

(声のトーンからして、年は高2くらいッスかね……。まぁ、思春期の女子はデリケートな生き物ッスからねぇ。進路か、友人関係か、それとも恋の悩みか……。とんでもない重い相談をしてこないといいッスけど――)

鬼兵隊という裏社会に身を置くまた子だが、少女の悩みには多少の同情心を持っていた。かつての自分がそうであったように、揺れ動く心が痛いほど分かるからだ。

だが、少女の口から紡がれた言葉は、また子の予想の斜め上を低空飛行していった。

「ん、未来を見通せるって聞いて来た。……私、大きくなれる?」

少女の声が、ほんの少しだけ熱を帯びる。切実な、祈るような響き。

「……ノノミみたいに」

 

ダンボールの隙間から漏れ聞こえた「ノノミみたいに」という言葉。

その真意を理解するのに、来島また子は数秒の時間を要した。

(ノノミ……? 誰ッスかそれ。キヴォトスの有名人? ……いや、待てよ。「大きくなれる」? この年頃の女子が、特定の個人名を挙げて「大きくなりたい」と願う部位など、一つしかない……!)

また子はハッとして、自分の胸元を無意識に押さえた。そして、戦慄する。

目の前の少女(シロコ)の悩みは、進路でも恋でもない。

乙女たちの永遠の聖戦――『質量(サイズ)』の格差社会に対する嘆きだったのだ。

「……ふむ」

武市変平太は、目を細めた。

その脳内スーパーコンピューターが、「ノノミ」というキーワードから推測される人物像(おそらく豊満な母性を象徴する存在)と、目の前の少女の現在のステータス(希少価値の高い平原)を瞬時に比較・解析する。

「それはつまり……精神的な成長ではなく、物理的な、具体的には胸部装甲の拡張をご所望、ということですね?」

「ん。そう。……ノノミは歩くだけで揺れる。私は揺れない。空気抵抗が違いすぎる」

シロコの声は淡々としていたが、そこにはアスリートが自身の肉体の欠陥を嘆くような、切実な響きがあった。

「自転車に乗る時、私は風になる。でも、ノノミは風を受け止める。……その『重み』が欲しい」

(動機がストイックすぎるッスよ! なんで自転車目線なんスか!)

また子が心の中でツッコミを入れる中、武市の脳内にある一つの映像がフラッシュバックする

 

(……ふむ。ノノミ、とは確かあの豊満な胸部を持つ砂漠の少女のことでしたか。そしてこの声の主は、アビドスの『狼』)

 

それは、彼らがこの世界(キヴォトス)の深淵を覗き込んだ際に見知った、別の時間軸の可能性。

――色彩に染まり、反転したもう一人の彼女。

『シロコ*テラー』と呼ばれた、成熟し、冷徹な美しさを纏った死神の姿だ。

(……確かに。あの『向こう側の彼女』は、発育という観点においては目を見張るものがありましたねぇ。完成されていた、と言っても過言ではない)

武市は確信した。これは詐欺ではない。確定した未来(あるいは可能性)に基づく、正確無比な予言であると。

「……見えます」

重々しい声が、ダンボールの壁を震わせた。

「え?」

仕切りの向こうで、シロコが息を飲む気配がする。

「私には見えますよ。貴女が辿る、数多の可能性の一つが……。そこには、今の貴女からは想像もつかないほどに成長し、成熟した貴女の姿がある」

また子は、暗がりの中でハッとして武市を見た。

(先輩……まさか、あの『反転した世界』の彼女のことを言ってるんスか? 確かにあの姿なら、スタイルは抜群だったッスけど……!)

武市は、まるで聖女を導く祭司のように、優しく、しかし力強く言葉を紡ぐ。

「安心なさい、迷える子羊よ。貴女の未来は……豊かです」

「豊か……?」

「ええ。貴女が憧れているその『ノノミ』という少女にも劣らぬ、堂々たる風格と……質量(・・・)を、貴女はいずれ手に入れることになるでしょう」

「……!」

「それは時に、周囲を畏怖させるほどの妖艶さと威圧感を放つかもしれません。しかし、それは間違いなく貴女が望んだ『大人の女性』としての完成形。……何も心配することはありません。貴女のDNAには、そのポテンシャルが確かに刻まれているのですから」

嘘偽りのない、真実の言葉。

ただし、その代償として世界を滅ぼしかけるほどの絶望を経由するかもしれないという些細な(重大な)事実は、綺麗にオブラートに包んで隠蔽した。

長い沈黙の後。

ダンボールの向こうから、安堵と希望に満ちた声が漏れた。

「ん……。よかった」

声のトーンは変わらない。だが、そこには確かな喜びの色が滲んでいた。

「ありがとう。……少し、自信がついた」

「それは重畳。……では、鑑定料として」

「ん。これで」

チャリン、と硬貨が置かれる音がする。

足取りも軽く立ち去るシロコの気配を感じながら、武市は「ふぅ」と息を吐き、姿勢を崩した。

「……見ましたか?また子さん?これが大人の交渉術というものです」

「……あくどいッスねぇ、先輩」

また子は呆れたように呟いたが、その表情には微かな安堵があった。

「ま、嘘は言ってないッスからね。……あの子があの未来(テラー)にならねぇで、体型だけあの通りになれりゃ、それが一番いいってことッスか」

「そういうことです。……さあ、次はどんな迷える子羊が来るか、楽しみですねぇ」

 

武市がシロコからの「寄付」である硬貨をチャリンと指で弾き、してやったりという顔をした、その直後だった。

ズボッ。

入口のダンボールが、誰かの脱力した足取りによって物理的に踏み抜かれた音がした。

「ここかなぁ~? 未来を見通せる懺悔室って~」

気だるげで、それでいてどこか人を食ったような、独特の間延びした声。

また子の背筋に、先ほどのシロコとはまた異なる種類の、冷たい汗が伝う。

(ッ……!? この声、まさか……アビドス対策委員会の委員長、小鳥遊ホシノ!?)

ダンボールの隙間からチラリと見えたのは、特徴的なピンク色の髪と、オッドアイ。

キヴォトス最強の神秘の一角。「おじさん」を自称するその少女は、あくびを噛み殺しながら、ペラペラのダンボールの壁に寄りかかった。

「ウヘェ~、ごめんねぇ。おじさんのことも占ってくれない? ちょっと悩みがあってさ~」

武市は一瞬、鋭い観察眼を光らせた。

(……ふむ。先ほどの少女(シロコ)とは対照的だ。体躯は小柄、雰囲気は緩慢。しかし、その奥底に眠るエネルギーは計り知れない……)

「ようこそ、迷える旅人よ。……どのような未来を知りたいのですか?」

武市が厳かに問うと、ホシノは「んー」と首を傾げ、どこか遠くを見るような目で言った。

「おじさんさぁ、もう三年生なんだけど……まだ『成長期』って来ると思う?」

「……ほう」

「いやぁ、ほら。さっきの子(シロコ)みたいにさ、急にグンッて伸びたり、ボインッてなったり……そういう未来、おじさんにも残ってるかなぁって」

また子は息を潜めながら、(またその悩みッスか!)と心の中でツッコミを入れた。だが同時に、ホシノの声に含まれる微かな切実さも感じ取っていた。それは単なるスタイルへの憧れではない。彼女がかつて失った、憧れの先輩――「ユメ先輩」の姿を追い求めているような、痛々しいほどの祈り。

武市は沈黙した。

彼の脳内コンピュータが、フェミニストとしての美学と、現実的な生物学的観測データを高速で照合する。

(……残念ながら。先ほどのシロコ君には『シロコ*テラー』という成長の可能性(イフ)が存在しましたが……。目の前の彼女に関しては、このコンパクトなフォルムこそが完成形であり、至高。これ以上の物理的な増築は、神の設計図にはない)

武市は残酷なまでの真実を、彼なりの言葉で告げることにした。

「……お嬢さん。真実をお伝えしましょう」

「うんうん」

「貴女の未来には……これ以上の『変化』は見えません。貴女という器は、既にその可愛らしさとコンパクトさにおいて、完璧な均衡(バランス)を保っている。これ以上の成長は……蛇足というものでしょう」

遠回しな、しかし決定的な「成長終了」の宣告。

ダンボールの向こうで、ホシノの動きがピタリと止まった。

「……そっかぁ」

いつもの間延びした声。しかし、そこから感情の色がスッと抜け落ちたように感じられた。

「そっかそっか……。おじさんは、ユメ先輩みたくはなれないんだぁ……」

その呟きは、あまりにも小さく、儚かった。

また子の胸がチクリと痛む。憧れの人と同じ景色を見ることは、身体的な意味でも叶わないのだと悟った少女の、諦めの吐息。

「……残念だなぁ」

ホシノは寂しげに笑った――ように見えた。

ドォォォォン!!

次の瞬間、鼓膜をつんざく爆音が懺悔室を揺るがした。

ホシノが愛用するショットガンが、何の前触れもなく火を噴いたのだ。

至近距離で放たれた散弾が、武市の座っていた位置のわずか数センチ横、ダンボールの壁を消し飛ばし、背後のコンクリート塀に風穴を開ける。

土煙が舞う中、ホシノは銃口から立ち昇る硝煙をのんびりと見つめ、クルリと背を向けた。

「ウヘェ~、手が滑っちゃった。ごめんね~」

声色は、いつもの飄々とした「おじさん」のものに戻っている。

だが、その背中からは「これ以上余計なことを言ったら、次は眉間をぶち抜く」という、明確な殺意が放たれていた。

「じゃ、ありがとね~。インチキ占い師さん」

ヒラヒラと手を振り、ホシノは陽炎の揺らめく路地裏へと消えていった。

「……し、死ぬかと思ったッス……」

腰を抜かしたまた子が、震える声で呟く。

武市は、散弾で半分吹き飛んだアフロヘアーを触りながら、冷や汗まみれの顔で引きつった笑みを浮かべた。

「……やはり、キヴォトスの生徒は刺激的ですねぇ。……私のヘアスタイルが、図らずも最先端のモードになってしまいました」

「呑気なこと言ってる場合じゃないッスよ! 次こそ殺されるッスよ!?」

ボロボロになった懺悔室に、夏の乾いた風が吹き抜ける。

また子が心底嫌そうな顔で提案した、その時だった。

「パンパカパーン! 迷える子羊、到着です!」

元気な電子音と共に、瓦礫の山を越えて新たな訪問者が現れた。

特徴的なレールガンを背負ったアンドロイドの少女――天童アリスだ。彼女の両手には、オンライン通話中のタブレット端末が恭しく掲げられている。

「おや? 貴方は……ゲーム開発部の」

『あ、あの……ごめんください……』

タブレットのスピーカーから、今にも消え入りそうな、震える少女の声が響いた。

『懺悔というか……未来について、どうしても聞きたいことがあって……。あ、あの、匿名希望でお願いします……! 名前バレると、恥ずかしくて死んじゃうので……!』

画面の向こうは真っ暗で、音声のみの参加。その必死な様子に、また子も少しだけ毒気を抜かれた。

(ああ、この引きこもりっぽい喋り方……。確か、いつもロッカーに入ってる子ッスね。ま、匿名なら――)

「了解しました!」

アリスが元気よく敬礼し、大音量で復唱した。

「ユズちの匿名性は、アリスが鉄壁のガードで守ります! 任せてくださいユズ!」

『ヒィィッ!? アリスちゃん!? 今名前言った! 思いっきり名前言っちゃってるよぉぉぉ!!』

「あ」

アリスが可愛らしく口元を抑えるが、時すでに遅し。

また子は額を押さえた。

(……コントかよ。どいつもこいつも、ツッコミ待ちのボケばっかりッスか)

『うぅ……もういいです……。バレちゃったなら、もう開き直って聞きます……』

タブレットの向こうで、ユズ(仮)はやけくそ気味に鼻をすすり、震える声でその「悩み」を打ち明けた。

 

『あの……占い師様。私が聞きたいのは、私の「設定」についてなんです』

「設定……とは?」

『単刀直入に聞きます……』

ユズはゴクリと唾を飲み込み、悲痛な面持ちで叫んだ。

『私は……この二次創作(小説)においては、「巨乳」として書かれるんですか? それとも「貧乳」として書かれるんですか? どっちなんですか!?』

時が止まった。

『い、いや、原作では着痩せするタイプというか……色々な解釈があるんですけど、二次創作だと描き手によってサイズが極端に変動するんです! 私は「有る」のか「無い」のか……この作者(神)はどっちの解釈を採用しているのか、それが怖くて夜も眠れません!』

「……」

武市は、深い沈黙の後、真剣なトーンで答えた。

「……難しい問題ですね。所謂『シュレーディンガーのユズ』問題……。パーカーを脱ぐまでは、その質量は確定しない」

『はい……! どうなんですか!? 私はまな板なんですか、それとも隠れ巨乳なんですか!?』

そのあまりに切実すぎる、しかし側から見ればどうしようもない問いかけに、耐えかねたまた子が心の中で吠えた。

『どいつもこいつも!! なんでこう胸のことばっかりなんスかァァァァァ!!』

『さっきの狼女(シロコ)といい、おじさん(ホシノ)といい、今度の引きこもり(ユズ)といい! キヴォトスの悩みは『おっぱい』しかないんスか!? もっとこう、世界平和とか、明日のご飯とか、そういう崇高な悩みはねぇんスか!!』

また子のツッコミが、D.U.の空に虚しく響き渡る。

武市は真剣な表情で、タブレットの中のユズに向き直った。

「いいですか、ユズさん。……貴女のそのパーカーの下にある真実。それは『シュレーディンガーの猫』ならぬ、『シュレーディンガーの胸』なのです」

「シュ、シュレーディンガー……?」

『き、希望……?』

「そうです。有るかもしれないし、無いかもしれない。その『かもしれない』という揺らぎこそが、読者の想像力を掻き立て、貴女をヒロインたらしめている最大の武器。……よって、この小説において貴女は『着痩せしているだけで実は結構あるんじゃないか枠』として、読者の性癖を狂わせ続けるでしょう」

『そ、そんな……! 結局どっちつかずってことじゃないですかぁ!』

ユズが悲鳴を上げるが、隣のアリスがピコーンと反応した。

「理解しました! つまりユズのパーカーの中には宇宙(コスモ)があるのですね!」

『えっ、アリスちゃん?』

「勇者アリスは、未知のダンジョンを攻略せねばなりません! 今すぐその『チャック』という名の封印を解き放ち、世界の真実を暴きます!」

『ひぃっ!? ちょ、ちょっとアリスちゃん!? なんで私のパーカに目を向けてるの!? 後でリアルでやろうとしてない!?』

「問答無用! スーパーアリス・キャストオフ!!」

『いやァァァァァ!! ログアウト! 今すぐログアウトォォォ!!』

プツン。

激しいもみ合いと悲鳴の末、通信は唐突に切断された。

後に残ったのは、静寂と、また子の深い溜息だけ。

「……嵐のように去っていったッスね」

「ええ。ですが、彼女たちにも『道』を示すことができました。やはり私は教育者の鑑だ」

「どこがッスか。セクハラして追い返しただけッスよ」

 

「というかもういいっス! セクハラ室はもう閉廷っス! 懺悔室というか、やってることただのエロ占い師じゃないッスか!!」

また子の堪忍袋の緒は、とっくの昔に焼き切れていた。

ダンボールを蹴り飛ばし、撤収作業に入ろうとしたその時。

「あの……。懺悔室というのは、こちらでよろしいのでしょうか?」

凛とした、しかしどこか切迫した響きを持つ少女の声が、瓦礫の隙間から聞こえた。

また子がハッと振り返ると、そこには黒い修道服(シスター服)に身を包み、ケモ耳を震わせている少女――マリーが立っていた。

「あ……シスター?」

また子の表情がパァッと明るくなる。

『来た……! ついに本職のシスターが来たっス! これならまともな懺悔、あるいは神聖な対話が期待できるはず……!』

『どうぞどうぞ! お入りくださいッス! 変な客ばっかりで疲れてたところなんスよ!』

「コホン。……ようこそ、迷える子羊よ」

武市も襟を正し、サングラスの位置を直す。本職を前にして、少しだけ緊張しているようだ。

マリーはダンボールの敷居を跨ぐと、胸の前で十字を切り、悲痛な面持ちで口を開いた。

「あの……。単刀直入にお伺いします」

「はい、何なりと」

マリーは潤んだ瞳で武市を見つめ、震える唇でその言葉を紡いだ。

「私は……やはり『卑しい』のでしょうか?」

「……は?」

また子の思考が停止した。

シスターの口から飛び出した単語は、あまりにもその清楚な見た目と乖離していたからだ。

『い、いやいや! 何言ってるんスか! シスターさんが卑しいわけないじゃないッスか! というか聖職者の口から「卑しい」なんて単語、一番聞きたくなかったんスけど!?)

「……ほう。卑しい、とは?」

武市だけは動じない。むしろ、サングラスの奥でギラリと怪しい光を放った。

「何ゆえ、ご自身をそう思うのですか?」

「それは……」

マリーは頬を朱に染め、恥じ入るように語り始めた。

「この小説における『エデン条約編』での出来事です。私……あろうことか、公衆の面前で、その……『亀甲縛り』という緊縛を受け……」

「ブフォッ!?」

武市がむせた。

また子の目が点になる。

「さ、さらに……その際、あられもない姿で……パ、パンツを……全世界(読者)に向けて晒してしまったのです……!」

マリーはその場に崩れ落ちんばかりに顔を覆った。

「あれ以来……私の検索サジェストには『卑しい』『ドスケベシスター』『悪い子』といった言葉が並び……。私は……私は、聖職者としてあるまじき存在なのでしょうか!? それとも、あの緊縛シーンは私の深層心理が求めた結果なのでしょうか!?」

「なんちゅーハードな過去背負ってんスかこの小説のマリー!!」

また子が絶叫した。

(どんな二次創作っスか!? エデン条約編ってそんなアダルトな条約結んでたっスか!? 平和条約じゃなくて性癖条約だったんスか!?)

しかし、武市変平太だけは違った。

彼は静かに立ち上がり、震えるマリーの肩に(触れないギリギリの距離で)手をかざした。

「……顔を上げなさいシスター。」

「……神父様?」

「それは断じて『卑しい』などではありません」

武市はサングラスの奥で、確信に満ちた眼光を放った。

「それは『ギャップ』……すなわち『奇跡』です」

「き、奇跡……?」

「清廉潔白なシスターが、不可抗力とはいえ亀甲で縛られ、白日の元に晒される……。その背徳感と芸術点こそが、貴女を単なる聖職者から『ヒロイン』へと昇華させたのです」

武市は熱弁を振るう。

「つまり、貴女がパンツを見られたのは事故ではない。読者の心に信仰心を植え付けるための、崇高なる『布教活動』だったのですよ!!」

「な、なるほど……! あれは布教……!」

マリーの瞳に光が戻る。洗脳完了の瞬間だった。

「良かった……。私は卑しい女ではなく、熱心な布教者だったのですね……!」

「その通りです。さあ、胸を張りなさい。そして次回の出番でも、その身を挺して(サービスシーンで)迷える読者を救うのです」

「はい! ありがとうございます、神父様!」

マリーは清々しい笑顔で一礼すると、足取りも軽く去っていった。

残されたのは、頭を抱えるまた子と、満足げな武市のみ。

「……先輩」

「なんですかまた子さん?」

「アンタ、地獄に落ちても知らねぇッスよ……」

また子のツッコミすら追いつかないほど、この小説のカオスは加速していた。

 

ーーーーーー

黄昏時。

D.U.の空が茜色に染まり、ダンボール製の懺悔室にも長い影が落ちていた。

マリーの後にも、数人の迷える生徒たちが訪れた。

ある者はテストの点数を嘆き、ある者は限定スイーツの売り切れを悲嘆し、またある者は「先生の匂いを嗅ぐのは犯罪ですか?」というギリギリの問いを投げかけていった。

武市変平太は、その全てを「フェミニズム的解釈」という名の屁理屈で煙に巻き、あまつさえ小銭を巻き上げることに成功していた。

「ふぅ……。本日の業務はこれにて終了ですかねぇ」

武市は懐に入った硬貨の重みを確認し、満足げに顔を拭いた。

隣でぐったりとしている来島また子は、魂が口から半分出かかっている。

「やっと終わりッスか……。精神的疲労がハンパないッス……。どいつもこいつもキャラが濃すぎるんスよ……」

「何を言っているのです。彼女たちの悩みこそが、明日のキヴォトスを作る糧となるのですよ」

「よく言うッスよ。結局、先輩がJKとお喋りしたかっただけじゃないッスか」

そんな軽口を叩きながら、二人が店仕舞いの準備を始めた、その時だった。

ズズズズズ……。

それまでの「パタパタ」とか「コツコツ」といった可愛らしい足音とは明らかに異なる、地響きのような重厚な足音が近づいてきた。

同時に漂ってくるのは、甘いスイーツの香りでも、石鹸の香りでもない。

肺の奥まで焦げ付くような、濃厚な紫煙(タバコ)と硝煙の匂い。

ダンボールの入口を塞ぐように、巨大な影が立ちはだかった。

「……おい」

その声は、コンクリートの上を引きずった鉄板のように低く、しわがれていた。

夕陽を背負い、逆光の中に浮かび上がるシルエット。トレンチコートの襟を立て、ティアドロップのサングラスを光らせるその男は、明らかに「生徒」という枠組みから逸脱した存在だった。

「おじさんの懺悔も、聞いてくれるかぁ~?」

男――松平片栗虎は、くわえタバコを揺らしながら、ニタリと笑った。

『な……なんか全然違うやつ来たァァァァァァ!!!!』

また子は戦慄した。

本能が警鐘を鳴らしている。これは「迷える子羊」ではない。「飢えたティラノサウルス」だ。

背負っているオーラが違う。頭上のヘイロー(天使の輪)の代わりに、修羅場の数だけ積み重ねた死線が見える。

(ヤバイっス! 今すぐ逃げないとヤバイっス! ここは女子生徒の園であって、加齢臭漂うハードボイルド警察長官の来るところじゃないんスよ!!)

しかし、武市変平太の対応は、あまりにも「マニュアル通り」だった。

彼は集計した小銭に夢中で、相手の顔をまともに確認していなかったのだ。

「すみませんねぇ~。本日の営業はもう終了でして。それに、ここは『生徒さん限定』の聖なる領域――」

武市が言い終わるよりも早く。

片栗虎が懐から愛銃「マグナム」を抜き放つ動作は、瞬きよりも速かった。

「あ?」

ドォォォォォォォォォン!!

問答無用。

説得不要。

轟音と共に放たれた大口径の弾丸が、ダンボールの受付カウンターを吹き飛ばし、武市のアフロヘアーを本日二度目の爆風で焦がした。

「『生徒限定』だぁ? 堅いこと言ってんじゃねーよ。男は死ぬまで精神年齢中2の生徒みたいなもんだろうが」

片栗虎は硝煙を吹くと、カチャリと次弾を装填した。

「さぁて、懺悔のじかんだぁ。……じっくり聞いてもらおうかおじさんの懺悔ぇ」

ダンボールが悲鳴を上げ、武市は直立不動で震え上がる。

「は、はい……! どうぞ、何なりとお話しください……!」

「……聞いてくれよ。最近、ウチの防衛室長のカヤちゃんとな、あのメガネのリンちゃんがよぉ」

片栗虎は天井(空)を仰ぎ、深く紫煙を吐き出した。

「おじさんのこと、ガッチガチに拘束しやがるんだよ。……おじさんがちょっと、夜の街(キャバクラ)で経済回そうとしてるだけだってのによぉ」

「は、はぁ……」

「特にあのリンちゃん。あいつは頭が固ぇ。俺がこの前、馴染みの店の『りえちゃん』の誕生日にドンペリ入れた領収書をよぉ、『必要経費(防衛費)』として計上しようとしたら、鬼のような顔で怒鳴り込んできやがってよぉ」

(うわぁ……真っ黒だ……)

また子はドン引きした。

これまでの少女たちの「胸が小さい」「背が伸びない」といった可愛らしい悩みとは次元が違う。これは純然たる汚職、横領、そして職務怠慢だ。

「片栗虎さん、これ以上勝手な行動をするなら拘束しますよ、だとな。……ったく、世知辛ぇ世の中だぜ。男が汗水たらして働いた(※働いてない)金で、キャバ嬢の笑顔を守って何が悪いんだ?」

片栗虎は悪びれる様子もなく、懐から新たな領収書の束を取り出し、ヒラヒラとさせた。

「で、だ。俺ぁ懲りずに今夜も『スマイル』って店に行こうと思ってるんだが……。どうやったらリンちゃんの目を盗んで、この請求書を経費で落とせると思う?」

その瞬間、また子の心の中で盛大なツッコミが炸裂した。

(よりによって!! このおっさんが最も『懺悔』らしい懺悔をしに来たんスけどォォォォ!!)

(今までのが可愛く見えるレベルの、ガチの罪(SIN)! 迷える子羊じゃなくて、ただの強欲な豚ッスよ!! 神様コイツです、コイツを裁いてくださいッス!!)

武市は冷や汗をダラダラと流しながら、引きつった笑顔で答えた。

「そ、それは……やはり、誠心誠意、土下座をするのが一番かと……」

「あ゛? おじさんに地面を舐めろってか?」

カチャリ。撃鉄が上がる音。

「おい、テメェ、御託はいいんだよ、御託は」

紫煙を吐き出しながら、片栗虎は凄む。その背後には、キヴォトスのどの生徒よりも色濃い、修羅場を潜り抜けた『男』のオーラが渦巻いている。

「俺が欲しいのは、裏帳簿の作り方じゃねぇ。今すぐにリンちゃんを黙らせ、俺が胸を張ってキャバクラに行けるようになる……そんな『神の言葉』だ」

「か、神の言葉……ですか!?」

「ああ。それを今ここで捻り出せ。……猶予は3秒だ」

武市らが青ざめる。コンサルタントだろうが詐欺師だろうが、3秒で汚職を正当化するロジックなど組めるはずがない。

「出なけりゃ、このふざけた懺悔室ごと……地獄(した)へ送ってやる」

片栗虎の指がトリガーにかかる。

その殺気は、冗談でも脅しでもなかった。

「……ハイ、イーチ」

ドォォォォォン!!!!

数える間などなかった。

「1」と宣告された瞬間、轟音がD.U.地区を揺るがした。

言葉通りの即時発砲。マグナム弾の破壊的な衝撃が、ガムテープで補強されただけのダンボールの城を、内側から木っ端微塵に粉砕する。

舞い散るダンボール片。

宙を舞う「生徒限定」の看板。

そして、黒焦げになって吹き飛ばされる武市変平太。

「2と3はァァァァァァァ!?」

瓦礫の山の中から、黒焦げになった来島また子が飛び出し、血を吐くようなツッコミを入れた。

だが、片栗虎は悪びれる様子など微塵もなかった。

まだ煙を吹いている銃口にフッと息を吹きかけ、ダンディズムの塊のような顔で、こう言い放った。

「知らねぇなぁ……」

彼はサングラスの位置を直し、ニヤリと笑う。

「漢(おとこ)は、『1』だけ覚えておけば生きていけるんだよぉ」

「どんな人生観っスかァァァァ!!」

また子の絶叫が、夕焼け空に虚しく響き渡る。

理不尽なる破壊神・松平片栗虎の前に、ゲマトリアの資金調達計画(懺悔室)は、物理的に「1」秒で幕を閉じたのであった。

「結局……どうだったんスか、稼ぎの方は。あんな目に遭ったんだ、少しは足しになったんでしょうね?」

黒煙を上げるダンボールの残骸を背に、また子は煤けた顔を拭いながら問いかけた。

武市は割れたサングラスを掛け直し、懐から大切そうに何かを取り出す。

「……先ほどの爆発で、集めた賽銭は全て吹き飛びました。収支はチャラ、いえ、設備投資分を含めれば赤字です」

「徒労じゃねぇか!!」

「ですが、ご安心を。……会話のデータを記録したこの『フィルム』だけは、我が身を挺して死守しましたから。ヨシとしましょう」

「やっぱりアンタ、ただ女子生徒らと会話したかっただけじゃないっスか!! 捕まれ変態!!」

また子の怒号も虚しく、夜の帳が下りていく。

疲労困憊の体を引きずり、また子たちはアジトへと帰還した。

「晋助様ぁ……。ただいま戻りましたッス……。もうボロボロっス……」

重い扉を開ける。

そこには、いつものように窓際で紫煙をくゆらせる高杉晋助の背中があった。

その孤高の背中を見るだけで、また子の疲れは少しだけ癒やされる――はずだった。

「……フッ。借金が嵩んで今や一文無しで、困ってねぇのかって?」

高杉が、誰に語りかけるでもなく呟いている。また子は首を傾げた。

「問題ねぇ……。俺ぁただ、壊すだけだ。この腐った世界、そして――この資金難を!」

いつもの決め台詞。ああ、やはり晋助様はブレない。

また子が安堵の息を吐こうとした、その時。高杉は滑らかに、そして流暢にこう続けた。

「Hなのはダメ死刑。赤スパありがとう。……この金で、世界をブッ壊します」

「………………」

ピシッ。

また子の心の中で、何かが決定的にひび割れる音がした。

「……は?」

「許せ、また子……」

影から朧が歩み出た。その顔には、苦渋と、奇妙な達成感が入り混じっている。

「Vtuberがダメなら、生身のYouTuberならどうかと……多数決で可決したのは良かった。……だが、思いの外、人気が出てしまってな」

「見るかい? これが今の状況だ」

ニヤニヤと笑う似蔵が、タブレットをまた子の目の前に突き出す。

画面に映し出されていたのは、見慣れた動画サイトのチャンネルページ。

【チャンネル名:借金五億円の三十路侍】

【概要:全てをぶっ壊します。ヤクルトが好きです。】

「と、登録者数――」

また子は目を剥いた。

「ご、五万!? いつの間に!?」

「登録者は指数関数並に増加中。……正直、めちゃくちゃ稼げてます」

黒服が電卓を弾きながら、冷静に、しかし興奮を隠せない様子で補足する。

「マジで言ってるんスか……?」

その時、どこからともなく、あの聞き慣れたハイテンションなナレーションが脳内に響き渡った。

『ストリーマー!! 数えきれない有象無象と、ほんの一握りのスターが入り乱れるYouTube界! そこから一歩抜きん出るのは、生半可なことではない!!』

『だが、高杉晋助は鬼兵隊総督としての卓越した「戦略家スキル」や――! 幕府転覆を目論んだ波乱続きの人生で得た「稀有なエピソードトーク」!』

『また、どこで身につけたか不明な「高い動画編集力」と――何より、「実質無職」ならではの圧倒的な更新頻度を生かし――!』

『チャンネルは、開設数日にしてまさかのォォォ!!!』

『収益化成功!!!!』

ドォォォォン!! という効果音と共に、高杉の背後に金色のオーラが見えた気がした。

「で、稼ぎの方はどうなんです?」

武市が身を乗り出す。

朧は腕を組み、冷静に分析結果を口にした。

「再生数、スパチャ、メンバーシップ……ざっと見積もって、今月だけで100万は超えるだろう」

「ひゃ、ひゃくまん……!?」

また子の思考回路がショートする。

テロリストの首領が、部屋で独り言を喋っているだけで、命がけのテロ活動よりも遥かに効率よく大金を稼ぎ出している。

そのあまりに現代的すぎる現実に、また子の精神は限界を迎えた。

「し、し、晋助様ァァァァァ!!!!!」

世界を壊す前に、プライドとか威厳とか大事なものが壊れてるっスよォォォ!!

***

「――ハッ!」

また子は弾かれたように上体を起こした。

全身が冷や汗でぐっしょりと濡れている。荒い呼吸を整えながら、恐る恐る周囲を見渡す。

そこには、YouTuberの機材も、スパチャの通知音も、ダンボールの残骸もなかった。

あるのは、静寂に包まれたいつものアジトと、窓から差し込む青白い月明かりだけ。

「……よ、良かった……」

また子はへなへなとその場に崩れ落ちた。

「夢……か……」

あまりにもリアルで、あまりにも世知辛い悪夢だった。

しかし、夢でよかった。晋助様が「赤スパありがとう」などと口走る世界線など、あってはならないのだ。

「……ん? 魘されていたようだが、大丈夫か?」

不意に、窓際から声がした。

月光を背に、高杉晋助が静かに紫煙をくゆらせている。その姿は、また子が崇拝する孤高の総督そのものだった。

「し、晋助様! ……はい、ちょっと変な夢を見ただけで……」

「そうか。……ならいい」

高杉は短く答えると、ふと手元のスマートフォンに視線を落とし、小さく呟いた。

「……チッ。低評価が一つ増えてやがる」

「……え?」

また子の表情が再び凍りついた。

月明かりの下、悪夢はまだ、続いているのかもしれない。

 




次回予告

神楽「銀ちゃん、どうしたアルか?その姿……」

銀時「神楽お前も……」

レイジョ「小さくなってますね」

新八「なんで僕だけメガネェェェ!?」

次回 誰もが一度は若返ることを夢に見る

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
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