透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
祝杯の場、仁義なき戦い
(背景:シャーレの外観
銀時
「……おいおいどういうことだぁこれは?」
シロコ
「ん、どうしたの? 銀ちゃん?」
銀時
「『ん』じゃねーよ! カレンダー見ろカレンダー! 今日は何の日?」
シロコ
「2月4日。私の記憶が正しければ……ブルーアーカイブ5周年の記念すべき日」
銀時
「そこだよ! なんで被せてくんだよ! 今日は俺たちの新しい戦場、『銀バト』の記念すべきリリース日だぞ!? 本来なら俺が1人でドヤ顔して天下取るはずだったのに、なんでお前も一緒じゃなきゃならねーんだ!」
シロコ
「偶然。……と言いたいところだけど、これは必然かもしれない」
銀時
「どこが!! こっちは週刊少年ジャンプの看板背負ってんだぞ? 20年の歴史があるんだぞ? なのになんで、祝杯の場の隣を女子高生に場所取られなきゃならねーんだって聞いてんの!!」
シロコ
「銀ちゃん、勘違いしないで」
銀時
「あ?」
シロコ
(キリッとした顔のアップ)
「アニメや漫画の歴史では、確かに銀ちゃんの方が長いかもしれない。……でも、**『アプリの稼働年数』**という土俵において、私は5年のキャリアを持つ大先輩」
銀時
「……は?」
シロコ
「対して銀時、あなたのアプリは今日生まれたばかりの0歳児。つまり、このスマホ画面の中では、私の方が圧倒的に『格上』ということ」
銀時
「屁理屈こねんじゃねェよ!! なにその謎マウント!? 0歳児のおっさんって絵面最悪だろうが!」
シロコ
「ん。だから敬ってほしい。先輩として、5周年の貫禄を見せつけてあげる」
銀時
「うっわ腹立つなぁこのオオカミ! アビドスの時あんなに一緒に戦ったのに! 砂漠のために一緒に身体張った仲だろうが!」
シロコ
「それはそれ。これはこれ。……銀ちゃん、私たちがこれまで積み上げてきたクロスオーバー作品としての絆、無駄にするつもり?」
銀時
「お前が一番無駄にしようとしてんだよ! なんだよその『アプリ界では私が姉さん』みたいな態度は!」
シロコ
「ん、事実だから仕方ない。……それに、せっかくリリース日と5周年が重なったんだから、これをネタにしない手はない。メタ発言と便乗商法は、銀魂の十八番でしょ?」
銀時
「……チッ。痛いとこ突きやがって。確かに、ここまでガッツリ絡んじまった以上、今さら『別々の作品です』なんて顔はできねーけどよぉ」
シロコ
「観念して。……ほら、並んで。お祝いの挨拶をする」
銀時
「へいへい。ったく、なんで5年も続いてる覇権アプリの横で、こちとら新人みたいな顔しなきゃなんねーんだ……」
シロコ
「ん、立ち位置は私が前。先輩だから」
銀時
「そこは譲れよ! ジャンプだぞ!? 主人公だぞ!? ……ああもう、わかったよ! やりゃいいんだろやりゃあ!」
(二人、並んで正面を向く)
シロコ
「銀魂ファン、そしてキモトスの住民の皆さん。5年間、ありがとう。そしてこれからも……」
銀時
「透魂も! 銀バトもよろしく頼むな! 課金しろよ! ガチャ回せよ! こっちは初動が大事なんだよ!!」
シロコ
「……銀ちゃん、被ってる。私のセリフと被ってる」
銀時
「知るか! 生き残るのに必死なんだよこっちは!」
シロコ
「ん……仕方ない。強行突破する」
(シロコ、覆面を被りショットガンを取り出す音)
銀時
「ちょっと待て、なんで今その装備出した? なんで銀行に行く前のテンション? ここは祝いの席なんだけど?」
シロコ
「5周年と新作リリース。……祝砲が必要」
銀時
「ちょっとシロコちゃん?祝砲の向きが俺に向いてる気がすんだけど!? 」
シロコ
「ん、覚悟」
銀時
「ギャアアアアア!! ……」
作者「間に合わなくてーースンマセンでしたァァァァァ!!」
※ 晴れ着銀ちゃん、神楽当たりました。
ーーーーーー
【挿絵表示】
澄んでだ瞳が 呼び醒ます
忘れかけてた 正義感 正義感
酸いも甘いも しゃぶり尽くす
今日のテーマは 勧善懲悪さ
散文的な 口ぶりで
やたら嘯く エイリアン エイリアン
のらりくらりと 罪深き
桃源郷に グッドバイしたんならば
理想に 忠実な
uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ
シーソーゲームは 続いてく
そうそう ぼくらも譲れない
真剣勝負に 病み付きで
もうどうしたって やめられ ないやいや
運命論なんて
ぜんぜん関係ない
一所懸命だ だ だ
“
“何でもあり”の 世の中で
研ぎ澄ますのは 審美眼 審美眼
本音・建前 焼き尽くす
感じたままに 勧善懲悪さ
厚顔無恥な スタイルで
未だ蔓延る エイリアン エイリアン
かつて夢見た 美しき
桃源郷を ゲットバックしたいならば
理想に 忠実な
uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ
シーソーゲームの 行く末は
そうそう ぼくにもわからない
真剣勝負の 暁は
もうどうしたって 勝つしか ないやいや
シーソーゲームは 続いてく
そうそう ぼくらも譲れない
真剣勝負に 病み付きで
もうどうしたって やめられ ないやいや
運命論なんて
ぜんぜん関係ない
一所懸命だ !だ! だ!
薄暗い一室。ビーカーやフラスコ、古びた書物が乱雑に積み上げられたその場所で、怪しげな液体が試験管の中で妖艶な光を放っていた。
「ふふ、ようやく試作品が完成した……」
その女性――『七囚人』の一人にして、かつての山海経錬丹術研究会会長、申谷カイは、紫煙の向こうで口元を歪めた。
彼女の手にあるのは、常識を覆す秘薬。
「今回はその成果を確認するとともに、より完成品に近づけてもらおうか。ここ(実験室)では、データも被験体も、色々と足りないからね」
カイは指先で地図アプリを開き、ある地点をタップする。そこは彼女にとっての古巣であり、最高の実験場。
「となると、送る場所はーー」
彼女の瞳が、悪戯を思いついた子供のように、しかし底知れぬ狂気を孕んで輝いた。
「ハハ、楽しみだ……」
その指が『実行』ボタンを押した瞬間、山海経の日常に一滴の波紋が投じられた。
***
山海経高級中学校、梅花園。
子供たちの騒がしい声が遠ざかった放課後の教室で、深く、重い溜息が一つ落ちた。
「はぁ……。流石に、疲れましたね……」
シュンは凝り固まった肩を回しながら、誰もいない天井を仰いだ。
梅花園の子供たち。普段はその無邪気な笑顔に癒やされる「天使」たちだが、ひとたびスイッチが入れば、そこは制御不能の動物園と化す。
「一度はしゃぎ始めると、何を言っても聞かなくて……時々、本当に困ってしまいます」
窓の外で揺れる梅の枝を見つめながら、彼女の胸中にふと、抑え込んでいた本音が漏れ出した。
「たまには私もあんな風に……何のしがらみもなく、地面に寝転がって駄々をこねたくなってしまいますね……」
教官という立場、年長者としての威厳。それらが彼女の「子供心」を厳重に封印している。
「……いえ、いけません。私が逃げるわけにはいきませんから」
シュンは頭を振り、自分自身を叱咤した。
「あの子たちを導くことは、山海経の教官としての責務! 愚痴を吐いている場合ではありません!」
鏡に映る自分の顔をパンパンと叩き、作り笑顔を浮かべる。
「それに、ずっと顔をしかめているのは美容にも良くないらしいですからね。……さて」
彼女の瞳に、今日一番の輝きが宿る。
「気分転換に、ちょっと自分への『ご褒美』でも頂くことにしましょう?」
足取り軽く向かった先は、職員室の冷蔵庫。
その冷凍室の奥深くに隠された、至高の宝石。
「ふふっ……『バーゲンダッツ』のラムレーズン味……!」
その名を口にするだけで、芳醇な香りと濃厚なミルクの味わいが脳内で再生される。
「山海経では中々手に入らない味なので、ずっと大事にしていましたが……今日くらいはこれを食べて、ゆっくりしても良いですよね? 神様もきっと許してくださいます」
期待に胸を膨らませ、シュンは冷凍庫の扉を開けた。
冷気が溢れ出す。彼女の手が、いつもの場所へと伸びる。
「では……いただきます――」
しかし。
彼女の指先が掴んだのは、虚空だった。
「……あ、あれ?」
何度手探りしても、あの冷たくて硬いカップの感触がない。あるのは保冷剤と、霜のついた壁だけ。
「冷凍庫に入れておいたはずなのですが……?」
「アレ、シュン姉さん。何を探してるの?」
背後からかけられた声に振り返ると、そこにはキツネ耳をぴょこぴょこと動かす妹分、ココナが立っていた。
「あら、ココナちゃん。実はここに入れておいたアイスクリームがなくって……見たことありませんか?」
シュンの問いかけに、ココナは悪びれもせずに首を傾げた。
「あぁ、あれ? ……美味しかったよ?」
時が止まった。
「えぇぇぇっ!? た、食べてしまったんですか!?」
シュンの悲鳴が響く。
「うぅ……い、いつか食べようと、特別な日のために大事にとっておいたのに……!」
大人の余裕などかなぐり捨て、シュンは膝から崩れ落ちそうになった。しかし、ココナは不思議そうに目をぱちくりとさせている。
「で、でも……先週姉さんが、『ダイエットをするので、これからアイスやお菓子は一切食べません!』って宣言してなかった……?」
「うっ……そ、それは……!」
「だから、そこにあっても目の毒だし……逆に私が食べちゃった方が、シュン姉さんを我慢の苦しみから救えるかなって……」
あまりにも純粋で、あまりにも残酷なロジック。
自らの発言がブーメランとなって突き刺さり、シュンは言葉を失った。
「うぅぅぅ……」
「ご、ごめんなさい……。そんなに落ち込むと思わなくて」
流石に悪いと思ったのか、ココナが冷蔵庫からガサゴソと何かを取り出した。
「えっと……この間買ってきた『ゴリゴリ君』のコンポタージュ味ならあるけど、食べる?」
「……いえ、大丈夫です。ありがとうございます……」
芳醇なラムレーズンから、ジャンキーなコンポタージュ味への落差。今のシュンの傷心には、その塩気はあまりに重すぎた。
「ちゃんと『取っておいて』と言わなかった私も悪いですし……」
力なく笑うシュンに、ココナは「あ、そうだ」と手を打った。
「ところでシュン姉さん。今日のひまわり組のおやつ当番、私の代わりにお願いしても良い?」
「……それは構いませんが、何か急な予定でも入ったのですか?」
「ううん」
ココナはバツが悪そうに、しかしはっきりと理由を告げた。
「ただ、今日のおやつが『キャロットケーキ』って聞いて……。私、人参はちょっと……無理だし」
「…………」
シュンのこめかみに、青筋が浮かぶ。
「ココナちゃん……前にも言いましたけど、教官たるもの、好き嫌いしてると立派な大人には……」
「うう、そうやってすぐお小言! 言われなくても分かってるっ!」
ココナは耳を塞ぎ、逃げるように背を向けた。
「とにかく、埋め合わせはどこかでするから! お願いねーっ!」
「ま、待ってください、ココナちゃん!」
制止の声も虚しく、ココナの姿は廊下の向こうへと消えていった。
残されたのは、空っぽの冷凍庫と、押し付けられたシフト。
静寂が戻った部屋で、シュンは拳を震わせた。
「………みなさん、どうしてそんなに自分勝手に……」
溜め込んでいたストレスと、ラムレーズンへの未練、そして理不尽な業務命令。
それらが限界を超え、彼女の中で何かが弾けた。
「私だって……私だってたまには、子供っぽく好き勝手に振る舞いたいんですっ!!」
誰にも届かない叫びが、虚空に溶けていく。
だが、その願いを聞き届けたかのように――窓の外から、怪しげな煙を含んだ風が吹き込もうとしていた。
「いけません、いけません……! ストレスは美容の最大の敵! こんなことばかり考えて眉間に皺を寄せていては、日々のアンチエイジングも全て水の泡になってしまいます」
誰もいない準備室で、シュンは手鏡を覗き込みながら、必死に自分に言い聞かせていた。
鏡に映る自分の顔を指先で優しくなぞる。心なしか、目元に疲労の影が落ちているような気がして、彼女は小さく溜息をついた。
「ただでさえ最近は疲れのせいか、お肌の曲がり角を感じて……いえ、荒れてきてしまって。何か抜本的な、新しい美容法を探してみないとですね」
その時、ふと視界の端に、机の隅に積まれた小包が映った。
それは先日、山海経の錬丹術研究会――から送られてきた怪しげな試供品だった。
「あ、そういえばこの間……届いた薬に『不老不死の霊薬』がどうこうと、仰々しい効能書きがあったような……?」
シュンは紫色の液体が入った小瓶を手に取る。
普通なら警戒すべきその輝きも、今の美容に飢えた彼女には「希望の光」に見えていた。
「『不老不死』とまではいかなくても、錬丹術の粋を集めた薬なら、もしかしたらアンチエイジングに劇的に効く美容液(サプリメント)かもしれません……」
チラリと時計を見る。おやつの時間までは、まだ少し余裕がある。
「まだ時間はありますし……少し、試してみましょうか」
シュンはコルク栓を抜き、その液体を一気に煽った。
喉を焼くような甘美な熱さが、彼女の体を駆け巡っていく――。
***
それから、現在。
山海経高級中学校、玄龍門(げんりゅうもん)本拠地。
重厚な中華様式の装飾が施された会議室には、張り詰めた空気が漂っていた。
「つまり……梅花園の教官、シュンさんがいなくなって見つからない。だから僕らに捜索依頼を頼んだ、そういうわけですか?」
新八は緊張した面持ちで、目の前の幹部を見据えた。
対面に座るのは、玄龍門の執行部長、ミナ。彼女は憂いを帯びた瞳を伏せ、短く頷いた。
「その通りだ。ココナ教官の話によると、シュン教官に『キャロットケーキを子供たちに出す』という仕事をお願いしてから、ぷっつりと連絡が取れなくなったと聞いている」
「シュンさんが仕事を放り出すことなんて、今までなかったのに……どうして……」
新八は困惑した。あの責任感の塊のようなシュンが、たかがおやつの配膳を前に蒸発するなど考えられない。事件か、事故か、あるいは――。
「何でって、決まってるだろ。過酷過ぎたんだよ、仕事が」
その深刻な空気を、気だるげな鼻声がぶち壊した。
ふんぞり返ってソファに沈み込んでいた銀時が、天井のシミを数えるような目で言い放つ。
「銀さん、聞いてましたか? シュンさんは仕事を放り出すような人じゃないって言いましたよね?」
「そうだ。そこのメガネの言う通りだ」
ミナがムッとして銀時を睨みつける。
「シュン教官はいつ何時も真面目に職務にあたっている、山海経の模範のようなお方だ。一度も山海經に訪れたことのないお前が、シュン教官について何を知っていると言うんだ?」
「知ってるよ。そりゃあもう、色々と」
銀時は半身を起こし、やれやれと首を振った。
「これはアレだよ。職場のストレスに負けて引きこもってんだよ。……『よい子のみんな~! 今日も社会の歯車として死んだ目で笑ってるかな~?』ってな」
「ちょっとどこのお兄さんの話!?」
銀時は新八のツッコミを無視し、どこか遠い目をして語り出した。
「考えても見ろぉ、保育園での勤務の実情ってやつを。万年人手不足で猫の手も借りたい状況なのに、ガキどもの純粋無垢な頼みや底なしの探究心は、収まるどころか増えてくばかり……」
彼は指を折りながら、その地獄を数え上げる。
「愚痴は漏らすわ、トイレは漏らすわ、自分の時間なんて全然取れないわ。そりゃあ『子供と遊ぶのが楽しい』って欲求を満たせる瞬間はあるかもしれないよ? でもさ~、好きは好きでも『もう顔も見たくねぇ』って思う時くらいあるわけよ」
「例えを入れるならアレだよ。好きな人と四六時中一緒にいる生活をしてても、喧嘩の一つや二つするだろ? それが言葉の通じない無数のガキたちと、無数に繰り広げられるわけ」
銀時は両手を広げ、世界の真理を説くように宣言した。
「毎日が『大乱闘ガキッシュブラザーズ』の開戦しまくりなんだよ」
「全員参戦しちゃったよ!!」
「その無限の乱闘の中で心が壊れ、ガキに手を出したり暴言吐いたりする奴がいる中……『何も言わずに姿を消して引きこもる』って選択をした時点で、シュンさんはもう十分立派だよ。最後の理性で職場放棄を選んだんだよ」
重苦しい沈黙が落ちた。
あまりに解像度の高い、夢も希望もない保育現場の描写。
ミナでさえ、「そ、そうなのか……?」と動揺している。
「ちょっと何の話してんの!? それシュンさんの話じゃなくて、ただの銀さんの保育士に対する偏見とトラウマじゃないですか!?」
「そういえば、キサキちゃんはどうしたアルか? 姿が見えないネ」
神楽がふと、周囲を見回して尋ねた。
ミナは一度だけ視線を伏せ、重々しく答えた。
「門主様なら、奥の部屋でお休みになられている。……シュン教官の失踪について、誰よりも心を痛めておられるのは門主様ご自身だ。心労が祟ったのだろう」
ミナはそこで言葉を切り、鋭い視線を扉の方角へと向けた。
「それにあたって、我々玄龍門だけでなく、外部からも『専門家』を招集した。捜査のプロフェッショナルだ」
ーーーーーーーー
そして、舞台は梅花園へ。
そこは、ミナの言う「捜査」などという言葉が霞むほどの、純粋無垢な暴力(カオス)の坩堝と化していた。
「銀ちゃん、銀ちゃーん! 高い高いして~!!」
「わぁ~! すっごいモジャモジャ~! 鳥の巣みたい~!」
「おい、コラ。髪引っ張るなっての! 大人の毛根はな、お前らが思ってるよりずっとデリケートな地盤の上に成り立ってんの!!」
銀時は園児たちに四肢を絡みつかれ、人間ジャングルジムと化していた。
頭皮に走る鈍痛。小さな指が、天然パーマの聖域を無慈悲に蹂躙していく。
「引っ張ると禿げちゃうから……! ジャムおじさんみたくなっちゃうから! 新しい顔は焼けても髪の毛は焼けないから!!」
一方、教室の隅では神楽が我関せずと酢昆布を齧っていた。
「ねぇ神楽ちゃん、それなーに? 昆布?」
「これアルか? これは酢昆布ネ。大人の味がするヨ」
「食べたーい!」
「甘いネ。これが食べたければ、お年玉10年分前借りして持ってくるヨロシ」
「ちょっと神楽ちゃん!? 園児相手になんてこと吹っかけてんの!?」
新八が必死にツッコミを入れるが、そんな彼にも純粋な悪意(?)が襲いかかる。
「すごいや!」
一人の園児が、キラキラした瞳で新八を見上げ、感嘆の声を上げた。
「見て見て! 人間をかけたメガネがつっこんだ!」
時が止まる。
新八の眼鏡の奥の瞳が、虚無に染まった。
「……人間をかけた、メガネ?」
「うん! 本体が喋った!」
「誰が本体だァァァァァ!! 逆! 逆だから! 君の目には僕のことどんな風に見えてるわけ!? メガネが本体で肉体が付属品だと思ってるの!?」
新八のアイデンティティが、幼児の純粋な眼差しによって粉砕される。
もはやこの場を収拾できるのは、あの「外部からの協力者」しかいない。
「ちょ、ちょっとキリノさん! そこでメモ取ってないで、僕たちと一緒に園児の相手してくれません!? 人手が足りないんですけど!!」
新八が助けを求めた先には、ヴァルキューレ警察学校の制服を着た少女――中務キリノが、鬼気迫る表情で手帳にペンを走らせていた。
「すみません! 今、重要参考人であるココナ教官から、事件当時の詳細な状況を聴取している途中ですから! 捜査の邪魔をしないでください、もう少しお待ちを!!」
「いや、待たせすぎだよね?」
頭に園児を二人ぶら下げた銀時が、死んだ目で吐き捨てる。
「おい、あいつ何しに来たの? さっきからずっと話聞いてるだけだよね?事情聴取で小説でも書く気ですか? 現場百回より現場の保父さんを手伝えっての……!」
梅花園の平和が戻る気配は、今のところ皆無であった。
「も、もういいですか……? そろそろおやつの時間ですし、準備をしないと……」
ココナが疲れ切った顔で提案すると、キリノはハッと我に返り、勢いよく敬礼した。
「は、はい! 貴重な証言、ご協力ありがとうございました!! 捜査資料として活用させていただきます!」
メモ帳をバタンと閉じ、キリノが下がると同時に、ココナは気を取り直して手を叩いた。
「はーい、皆。お待たせしました、3時のおやつの時間ですよー」
その言葉は魔法の呪文だった。
今まで銀時の毛根を死守せんと群がっていた園児たちが、一斉に動きを止める。そして次の瞬間、彼らは獲物を見つけたピラニアのようにターゲットを変えた。
「やった! ココナちゃんのおやつの時間だ!!」
「「「わァァァァァ!!」」」
ザザァァァッ……。
潮が引くように、園児の波が銀時から離れていく。
「た、助かった………」
銀時は魂が抜けたようにその場に崩れ落ちた。頭髪は鳥の巣のように乱れ、ジャージは涎とシールの跡でデコレーションされている。
一方、新たな標的となったココナは、殺到する園児たちを前に声を張り上げた。
「ココナちゃん、おやつを早く早く!!」
「私はココナちゃんじゃありません!! ココナ教官です! 何度言ったら分かるんですか、もう立派なレディーなんですから!」
必死に威厳を保とうとするココナ。しかし、子供たちの目は残酷なほど純粋で、そして容赦がなかった。
「えェ~? でも先生は大人だけど『銀ちゃん』って呼ばせてくれたよ~? お勉強ばっかじゃないし~」
「そうだよ~、面白いし。それにココナちゃん、人参残して好き嫌いしてるじゃん!」
「え? いや、それは――」
痛いところを突かれ、ココナが言葉に詰まる。
だが、ここで引けば教官の名折れ。彼女は苦し紛れの理屈を捏ねくり回した。
「れ、レディーは大人だから、多少の好き嫌いをしてもいいんです! それに、あそこの先生は『銀ちゃん』っていう名前なんです。愛称じゃなくて本名なんです!」
ココナはビシッと銀時を指差し、同意を求めた。
「ねぇ、先生?」
「いや、俺『銀時』って立派な名前あるけど? 坂田っていう苗字もあるけど?」
「ーーーッ!」
ココナの顔が絶望に染まる。味方だと思っていた大人が、梯子を外すどころか燃やし始めたのだ。
銀時は寝転がったまま、鼻をほじりながら追い打ちをかける。
「それによう、レディーってのは、少しくらい大きな器でもって受け流すぐらいの気概がないといけねぇんじゃねぇの? ……なぁ、『シュエリン』?」
その場にそぐわない、聞き慣れない名前。
新八が眉をひそめた。
「シュエリン? ……そんな名前の生徒、いましたっけ?」
すると、園児の群れの中から、一人の黒髪の少女がスッと立ち上がった。
幼いながらも、どこか優雅で、それでいて教官のような風格を漂わせるその少女は、困ったように微笑んだ。
「もう……。銀ちゃんの言う通りです」
鈴を転がすような、愛らしくも落ち着いた声。
少女――シュエリンは、ココナを見上げて諭すように言った。
「それに、一人前のレディーは『背が伸びますように』なんて神頼みしながら、毎朝バンザイ体操なんてしませんし、人参を避けて好き嫌いもしません」
「なっ……!?」
ココナがギクリと肩を震わせる。その「バンザイ体操」は、彼女が毎朝こっそり行っている涙ぐましい努力(トップシークレット)だったはずだ。
さらに、その隣で優雅に紅茶(に見せかけた麦茶)を啜っていた、黒髪ショートの少女が口を開く。
「そうそう。バンザイ体操なんてしても、身長も……『胸』も、大きくならないんだからやめた方がいいよ~。無駄な努力ってやつ? ……ねぇ、銀ちゃん?」
毒を含んだ、しかし絶対的な知性を感じさせる響き。
そして何より、その冷ややかな視線は、間違いなく山海経の裏社会を統べる「女帝」の幼少期そのものだった。
カァーーーーッ!!
新八の脳天に、雷に打たれたような衝撃が走った。
全てのピースがハマる音。
消えた教官。突然休み出した門主。そして目の前にいる、妙に理屈っぽい二人の園児。
照明の光を反射させて白く光る眼鏡。
その瞳は、まるで全ての謎を解き明かした名探偵のように――あるいは、現実のあまりの馬鹿馬鹿しさに悟りを開いた僧侶のように、どこか遠くを見つめていた。
「銀さん………事件解決です」
その確信に満ちた声に、真っ先に反応したのはキリノだった。
「えっ、本当ですか!? まだ何の証拠も出てきてませんけど!?」
「証拠なら、目の前にありますよ」
新八は冷静に、そして疲弊しきった声で、銀時の膝元にいる二人の少女を指差した。
「銀さん……その二人。どう見ても『門主様』と『シュンさん』ですよね?」
梅花園の混沌、消えた二人、そして現れた、妙に理屈っぽく態度のデカい園児たち。全ての点が線で繋がったのだ。
だが、銀時は心底心外だと言わんばかりに、鼻をほじりながら首をかしげた。
「あァ? 何言ってんのお前? 脳みそまで曇ってるんじゃねぇの」
銀時は、自身の膝に乗っている黒髪の少女(シュエリン)の頭をガシガシと撫で回した。
「写真で見たあの『ダイナマイト・ショタキラーお姉さん(シュン)』が、こんなストイックで仏頂面のガキなわけねぇだろ? あのお姉さんはもっとこう、包容力と母性の塊だったはずだ。……なぁ、シュエリン?」
話を振られたシュエリン――幼き日のシュンは、小首をかしげてきょとんとしてみせた。
「はい。……あの、そこの『人間をかけたメガネ』のお兄さんが何を言っているのか、私にはさっぱり分かりません」
「おいコラァァァ!! 小さいからってわざと言ってるだろ!!」
新八が食い気味にツッコミを入れる。
「人間をかけたメガネ」という表現は、明らかに高度な知性と悪意を持った大人の語彙力だ。
「それに、こっちのキキもだ」
銀時はもう一方の腕で、チャイナドレスの少女(キキ)を抱え上げた。
「こんな色気を出して甘えてくる園児ちゃんが、あの堅物の門主様なわけねぇだろ? 門主様っつったら、もっとこう、氷のような冷徹さと威厳を兼ね備えてるはずだ。……なぁ、キキ」
「うん。キキは、キキだよ? 銀ちゃん♡」
キキ――幼き日のキサキは、あざとさ全開の上目遣いで銀時の胸に顔を擦り付けた。その計算され尽くした可愛さは、もはや兵器の領域だ。
「オイィィィィ!! 二人とも園児なのをいいことに、めちゃくちゃ甘えてるよ! 大人の理性をかなぐり捨てて、ここぞとばかりに欲望のまま生きてるよ!!リミッター解除して欲望全開だよ!!」
新八の絶叫が響く中、それまで酢昆布を齧っていた神楽が、ふんと鼻を鳴らして割って入った。
「いい加減にするアル、新八。……その二人は、銀ちゃんの頭皮をクソガキ共から守った英雄(ヒーロー)ネ」
「……は?」
「その二人がいなかったら、銀ちゃんの髪は今頃むしり取られて、ただの甘ったるいジャムおじさんになってたヨ。……二人の功績を忘れるなネ」
神楽の言葉と共に、新八の脳裏に先ほどの光景がフラッシュバックする。
――回想――
銀時に群がり、髪を引っこ抜こうとする無邪気な園児たち。
その前に立ちはだかったのは、満面の「笑顔」を浮かべたシュエリンとキキだった。
『あら、みなさん? 銀ちゃんは疲れているんです。』
『そうだよみんな、向こうで遊びましょうね?』
だが、その背後からは、覇王色の覇気のごときドス黒いオーラが立ち昇っていたのだ。
それは「守る」というよりは、「私の獲物に手を出すな」という、圧倒的な捕食者の圧。
園児たちはその殺気に恐れおののき、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていったのだった。
――回想終了――
「いや、追っ払ったって言うより、独占欲むき出しにしてるだけだけど!? 自分の縄張りを死守する野獣の目だったよ!?」
新八の的確なツッコミに対し、銀時はやれやれと溜息をついた。
「そもそもだ。どうやって大の大人が、こんなガキみてぇな姿になるっていうんだよ。お前、漫画の読みすぎじゃねーの?」
銀時は小指で耳をほじり、フッと息を吹きかけた。
「コナンか? テメーは。どこぞの黒ずくめの男たちに『アポトキシン4869』でも飲まされたんですか? コノヤロー」
「黒ずくめの組織でも出てきたのか? 兄貴、こいつ始末しちまいましょう……ってか! ウォッカ!」
神楽がノリノリでサングラス(どこから出した)をかけ、ドスの効いた声で乗っかる。
「誰がウォッカだ!!」
新八は即座に叫び返した。
「なんで僕が一番下っ端の太った舎弟ポジションなんだよ! ツッコミ役ってだけで扱い雑すぎない!?」
だが、そのギャグ空間の中心で、小さくなった二人の少女だけは、静かに、しかし確実に銀時の服の裾を握りしめて離さなかった。
その必死な力強さが、何よりも雄弁に正体を物語っていた。
梅花園の教室に、湿っぽい咀嚼音と、絶望的な沈黙が落ちた。
「うわぁ……。なんかココナちゃんのおやつ……ベチャベチャするぅ……」
園児の一人が、フォークの先で正体不明の物体(元キャロットケーキ)をつつきながら、素直すぎる感想を漏らした。それはもはやケーキというより、雨に打たれた泥のような粘度を誇っていた。
「も、文句を言わないっ!」
ココナは顔を真っ赤にして、腰に手を当てた。その姿は威厳ある教官というより、図星を突かれて焦る子供そのものだ。
「これでも、れっきとした一人前のレディーが丹精込めて作ったおやつなんだから! 好き嫌いせずに残さず食べなさい!」
その悲痛な叫びを聞きながら、銀時は天井を仰ぎ、やれやれと首を振った。
「あちゃあ……やっちまったなぁ、オイ」
彼はスプーンですくった「泥」を光にかざし、ポツリと呟いた。
「こりゃあ……新八の恋路くらいマズい」
「女に騙されて泣きべそかく新八並みにマズいネ」
神楽がすかさず追撃を入れる。酢昆布をかじりながらの辛辣な一言。
すると、園児たちもその空気を敏感に察知し、半泣きで連鎖し始めた。
「うえぇぇ……。人間かけたメガネの初恋並みにマズいよう、ココナちゃん~!」
「そ、そんな……」
ココナがショックで膝をつく横で、新八が音速で立ち上がった。
「ちょっとォォォ!! 誰かツッコんでくれない!? 僕の恋路って園児に泣かれるほどそんなにマズいの!? 味が想像できるレベルで悲惨なの!?」
「そりゃあそうだろ。童貞臭(チェリーしゅう)プンプンするもん」
銀時が真顔で言い放つ。
「園児の手前で『童貞臭』とか言わないでくれません!? ネタが完全に下なんですけど!! 教育に悪いわ!!」
新八の悲鳴も虚しく、ココナは再び立ち上がり、必死に教官としての(薄っぺらい)プライドを振りかざした。
「と、とにかく! 私は子供じゃないんだから、ご飯くらい作れるんです! レディーの嗜みです! ……だから、残さず食べなさい!!」
「「「えぇぇ~~~~」」」
園児たちの大ブーイングが教室を震わせる。
銀時はその騒音を小指でほじりながら、気だるげに言った。
「ったく、さっきからレディーやらレディースやらギャーギャー言いやがって。……いかんぞ、ココナ」
銀時の目が、スッと細められる。
「ガキがガキってことを認識出来てねぇ時点で、そいつは大人じゃねぇんだよ。……レディーになりたいなら、まず自分の弱さを認めるこった」
「ッ……」
正論。あまりに的確すぎる大人の説教に、ココナが言葉を失う。
だが、そこで終わらないのが坂田銀時だった。
「と言うわけで――ココナちゃんには宿題として、『当て馬』と言う漢字を百ぺん書き取ってきなさーい」
「ぐっ……! じゃ、じゃあ先生は『アホ』という漢字を百ぺん書き取ってきてください!!」
ココナが涙目で言い返す。
銀時はキョトンとした顔で、ホワイトボードマーカーを手に取った。
「待って、アホってどうやって書くんだっけ? 」
「うっす! 先生! こうであります!!」
神楽がビシッと挙手し、小さなホワイトボードを掲げた。
そこには、達筆な文字でこう書かれていた。
『 銀 時 』
堂々たる「アホ」の定義。
しかし、そんなコントをしている間にも、園児たちの限界は近づいていた。
「う、うっ……! お腹空いたよぉォォォ!!」
空腹とマズいおやつのダブルパンチ。ついに決壊した涙腺が、大合唱を引き起こす。
「「「ウワァァァァァァン!!!」」」
「うわわっ! み、皆さん泣き出してしまいました!! どうしましょう……!?」
キリノが慌てふためき、おろおろとポケットを探り始めた。
「と、とりあえずマヨネーズでもかけとけば泣き止むんじゃ……」
「良いわけねぇだろ!! どこぞのマヨラ副長かアンタは!!?」
新八が全力で阻止する。
阿鼻叫喚の地獄絵図。そのカオスを切り裂くように、甘く、ねだるような声が響いた。
「キキぃ~……銀ちゃんのパフェ食べた~い」
キキ(キサキ)が、上目遣いで銀時の袖を引く。
それに呼応するように、シュエリン(シュン)も反対側の袖を掴んだ。
「シュエリンも~、銀ちゃんのおやつが食べたいです! あの甘~いのがいいです!」
その言葉は、空腹の園児たちにとって天啓だった。
「そうだ……! 銀ちゃんに作ってもらおうよ!」
一人の園児が叫ぶ。
「そうだ、そうだ! 銀ちゃんなら美味しいの作れる!」
「あの髪型は綿あめで出来てるもん!」
「銀ちゃん! 銀ちゃん!」
瞬く間に広がるシュプレヒコール。
数十人の純真無垢な瞳が、一斉に銀時をロックオンした。
「「「銀ちゃん! 銀ちゃん! 銀ちゃん!」」」
「……あァ?」
銀時は嫌そうに顔をしかめたが、その逃げ場はすでに、腹を空かせた猛獣(ガキ)たちによって完全に封鎖されていた。
「何言ってんの、銀さんは――」
銀時が言い訳を口にしようとした瞬間、その声は圧倒的な音圧によってかき消された。
「「「「銀ちゃん! 銀ちゃん! 銀ちゃん!」」」」
数十人の園児たちによる、シュプレヒコール。
それは純粋無垢な期待という名の、逃れられない圧力(プレッシャー)。
四方八方から突き刺さるキラキラした視線に、銀時はたじろいだ。
だが、トドメを刺したのは、足元からの静かな一撃だった。
「作って……くれないの?」
キキ(キサキ)が、銀時のズボンの裾をギュッと握りしめ、潤んだ瞳で見上げている。
計算され尽くした上目遣い。
本来なら玄龍門のトップとして君臨する冷徹な瞳が、今はただ、糖分を渇望する幼子の哀れさを演じきっていた。
銀時が「うっ」と言葉に詰まる。
その躊躇いを「拒絶」と受け取ったのか、園児たちの我慢のダムが決壊した。
「「「ウワァァァァァン!!!」」」
教室を揺るがす大合唱。
鼓膜を突き破らんばかりの泣き声の嵐に、銀時は耳を塞いでのけぞった。
「うわぁ! めんどくせっ! ちょーめんどくせっ! 高倉健よりめんどくせぇ!!」
「先生! お願いです!!」
混乱の中、キリノが必死の形相で詰め寄ってきた。彼女は手帳を握りしめ、真剣な眼差しで訴える。
「これは先生にしか頼めない仕事なんです! この子たちの笑顔を守れるのは、貴方しかいません!!」
「お前はずっとメモ取ってるか、マヨネーズかけるかしかやってねぇじゃねぇか!! 仕事しろサボりマヨラー!!」
銀時のツッコミも虚しく、泣き声はボリュームを増していくばかり。
「「「ウワァァァァァン!!!」」」
阿鼻叫喚。
カオス。
糖分不足による暴動。
「………」
銀時は大きく息を吐き出し、乱暴に頭をガシガシとかきむしった。
死んだ魚のような目が、覚悟を決めた(諦めた)色に変わる。
「……はいはい、わーりましたよ。分かりましたっての」
銀時は着流しの袖をまくり上げ、やれやれと立ち上がった。
「期待外れでもわめき泣くなよ、クソガキ共……。銀さんの特製スイーツ、食らって虫歯になりやがれ」
その言葉が聞こえた瞬間、園児たちの涙がピタリと止まった。
「「「やったァァァァァ!!!」」」
歓声が爆発する。
さっきまでの地獄が嘘のように、教室は期待と興奮の熱気に包まれた。
ーーーーーー
数分後。給湯室(簡易キッチン)。
銀時は慣れた手つきでボウルをかき混ぜながら、ふと窓の外の空を見上げた。
「ったく……ガキのお守りも大変だなぁ」
背後からは、まだ興奮冷めやらぬ子供たちの声と、それを制御しきれないココナや新八たちの悲鳴が聞こえてくる。
終わりのない要求。
理不尽な泣き声。
そして、一瞬たりとも気が休まらない緊張感。
銀時は、調理器具の音に紛れ込ませるように、ポツリと独りごちた。
「こりゃあ……逃げたくもなるわ」
シュンが姿を消した理由。
その一端を肌で感じながら、銀時は甘い香りの漂う生地をフライパンへと落とした。
完成した特製チョコレートパフェは、梅花園の教室に甘ったるい香りを充満させていた。
生クリームの白き山脈、チョコレートソースの黒き奔流、そして頂に鎮座する真っ赤なチェリー。それは、園児たちを黙らせるための、銀時による渾身の芸術作品(ワイロ)だった。
「あー……もう腕がパンパンだよぉ。ホイップ絞りすぎて手首が腱鞘炎の一歩手前だっつーの」
銀時は、気だるげに自分の二の腕を揉んだ。
目の前では、園児たちが狂喜乱舞してパフェに群がっている。何の悩みもなく、ただ糖分を享受するその姿。
「俺もガキになりてぇなぁ~……ん?」
ふと、視界の端に映り込んだものがある。
調理台の隅、誰かが置き忘れたかのようにひっそりと佇む、紫色の液体が入った小瓶。
それは、どこか怪しげな輝きを放っていたが、渇ききった銀時の喉には、極上のグレープジュースか何かに見えた。
「何だこれ? ……まぁいい。ちょうど喉が渇いてたんだ……」
銀時がその瓶を手に取り、口元へ運ぼうとした――その刹那。
「あー! 銀ちゃんだけズルいネ!! 私にも飲ませろ!!」
風を切り裂くような勢いで、神楽の手が伸びてきた。
夜兎族特有の、食い物が絡んだ時のみ発揮される超反応速度。
「うおっ!? こぼれるだろバカヤロー!」
「独り占めは良くないアル! その毒々しい色、絶対高いジュースネ!」
「離せ! これは俺が見つけたオアシスだ!」
小瓶を巡って繰り広げられる、醜い大人の奪い合い。
そこへ、呆れたような、しかしどこか割り込む隙を伺っていたような声が割って入った。
「もう、何みんなして争ってるんですか?」
新八が眼鏡を光らせ、二人の間にスッと手を差し伸べる。
「仲良く分ければいいでしょう? 三人で三等分。これぞ万事屋の絆ってやつですよ」
「あ? なんでお前まで勘定に入ってんだよ」
「絆の安売りすんな」
文句を言い合いながらも、結局三人はその小瓶の中身を少しずつ回し飲みすることになった。
喉を滑り落ちる液体は、妙に甘く、そしてカッと熱くなるような不思議な喉越しだった。
「チッ! お前らのせいで減っちまったじゃねぇか……。ワンコインジュース並みの量しか飲めなかったぞ」
銀時が空になった瓶を振りながら悪態をつく。
「グズグズ言わず、最初から私に渡しとけば良かった話ネ。そうすれば私が全部美味しくいただいたヨ」
神楽が口元を拭いながら、不満げに鼻を鳴らす。そして、最後に瓶を空にした新八をジロリと睨んだ。
「というか、何でお前まで飲むことになってるアルか? 眼鏡(本体)に水分補給は必要ないヨロシ。錆びるだけネ」
「いいじゃないですか? 僕だって園児と遊んで喉が渇いてたんです。人間ですからね?」
新八はそう反論しながら、ふぅと息を吐いた。
三人はまだ気づいていない。
体内で弾けたその「熱」が、単なる糖分によるものではないということに。
そして、世界が――視線が、急速に低くなっていく感覚に。
不思議な熱が引いた後、世界は唐突にその尺尺(スケール)を変貌させていた。
「アレ? ……神楽、どうしたお前その姿……」
銀時が違和感に眉をひそめる。
目の前にいるはずの神楽の視線が、妙に低い。それだけではない。彼女が着ているチャイナ服が、まるで布団かカーテンのようにダボダボに膨れ上がり、その裾が床に余っているのだ。
その布の山から、ぽてっとした愛らしい顔が覗いている。
「銀ちゃんこそ、どうしたアルか? ……縮んでるよ」
神楽もまた、きょとんとした瞳で銀時を見上げていた。
銀時の着流しは、今や彼の身体を覆うテントのようになっている。天然パーマの銀髪は、ボリュームこそそのままだが、その下にある顔はあどけなさを残した幼児のそれになっていた。
「アレ? ……どうしたんだろう?」
そして、新八の声が虚空から響く。
だが、その声はどこか頼りなく、そして物理的な反響音がおかしかった。
「なんか、神楽ちゃんに銀さんが……とても大きく見えるような……いや、天井が高い? 床が近い? というか、身体の感覚がない?」
新八の視界――もし彼に「視界」という概念が残っていればの話だが――には、巨大な壁のようにそびえ立つ教室の机や、山のように見える脱ぎ捨てられた衣服が映っていた。
「皆さん! 大丈夫ですか!? お腹を壊したんじゃ……」
異変を察知したキリノが、慌てて駆け寄ってくる。
しかし、彼女の足がピタリと止まった。
彼女の瞳孔が限界まで見開かれ、持っていた手帳が手から滑り落ちる。
「え、えぇ!? み、皆さん!! どうしたんですかその姿!!」
キリノの絶叫に、三人の思考がようやく現実に追いつく。
互いの姿を、あるいは近くの鏡に映る自分を認識した瞬間、時が凍りついた。
「「「え?」」」
一拍の静寂。
そして、梅花園を揺るがす絶叫が炸裂した。
「こ、こ、子供になってるゥゥゥ!!!」
銀時と神楽が、互いのプニプニした頬を指差しながら叫ぶ。
あの劇薬は、身体年齢を強制的に引き下げる若返りの秘薬だったのだ。
だが、悲劇はそれだけではなかった。
床の上。
銀時と神楽の服の残骸の横に、ポツンと取り残された「それ」が、魂の叫びを上げた。
「何で僕だけ、メガネェェェ!!?」
そこには、本体(肉体)を完全に消失し、ただの「眼鏡」そのものへと退化(?)した志村新八の姿があった。
レンズが光を反射し、ツルが虚しく震える。
若返りの副作用か、あるいは「新八の本体=眼鏡」という世界(作者)の認識が具現化したのか。
彼はついに、人間としての形すら失ってしまったのである。
ーーーー
次回予告
銀時「ネクスト銀ちゃんズヒーント!!!」
「ネバーランド」
新八「完全にパロディったァァァァァ!!」
次回 大きくなっても心は中2、それが男という生き物
ーーーーーーー
春王サクラ「あなたが……シャーレ所属の坂田銀時?」
「あなたに恨みはないけど……死んでもらうから……」
【挿絵表示】
ナレーション 突如現れた謎の刀剣使いの少女 サクラ
【挿絵表示】
新八「キヴォトスで僕ら以外に刀を扱う人がいたなんて……」
サクラ「師匠の形見なの……」
神楽「すごいネ銀ちゃん!刀から水が出てくるヨ!!」
銀時「水の呼吸……」
新八「オイィィィィ!!」
【挿絵表示】
鉄子「こ、これはーー!!」
バカイザーMADAO「どこでそれを手に入れた!?」
ナレーション 刀身から水の滴る刀を巡り百鬼夜行が再び混乱の渦に呑まれる!!
【挿絵表示】
影虎「裏切り者には天誅を……すべてをーー我らが神に!!」
銀時「さぁ行こうぜ、レッツパリィィィィィ!!」
「「「「フィアウィーゴォォォォ!!!」」」」
【挿絵表示】
ミチル「私たちの初任務よ!」
ワカモ「ゲス共の好きにはさせません……」
さっちゃん「そこに畜生も加えてね」
【挿絵表示】
影虎「ガキの分際でーー何ができる!!」
サクラ「私はもうーー1人じゃない!!」
銀時「誰がテメェらの流れに身を任せるっつった
よ......。
俺たちの進む航路(ミチ)も、舵(カジ)の取り方も......
決めるのは荒波(テメェら)じゃねェ......この自分(テメェ)自身だ。
さぁ、どっちが先に流されるか......勝負といこうじゃねぇか!!」
【挿絵表示】
銀時「オボボボボ!!」
「あっ、なんか……ごめん」
サクラ「……殺す!!」
近日公開?
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
-
銀時
-
新八
-
神楽
-
沖田
-
土方
-
山崎
-
高杉
-
桂
-
定春
-
エリザベス
-
ホシノ
-
シロコ
-
ヒナ
-
アコ
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ミカ
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ナギサ
-
セイア
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ユウカ
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ノア
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近藤