透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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軟弱な二次創作者が銀魂らしさを出すには勢いとパロディを駆使するしかない………

そんな勢いなくなった今回の主役は図書館の魔術師である彼女ーー

※僕ヤバが悪いとは言ってない
ーーーーーーーーーーー
ーーーーー


澄んでだ瞳が 呼び醒ます
忘れかけてた 正義感 正義感
酸いも甘いも しゃぶり尽くす
今日のテーマは 勧善懲悪さ

散文的な 口ぶりで
やたら嘯く エイリアン エイリアン
のらりくらりと 罪深き
桃源郷に グッドバイしたんならば

理想に 忠実な
uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ

シーソーゲームは 続いてく
そうそう ぼくらも譲れない
真剣勝負に 病み付きで
もうどうしたって やめられ ないやいや

運命論なんて
ぜんぜん関係ない
一所懸命だ だ だ


“何でもあり”の 世の中で
研ぎ澄ますのは 審美眼 審美眼
本音・建前 焼き尽くす
感じたままに 勧善懲悪さ

厚顔無恥な スタイルで
未だ蔓延る エイリアン エイリアン
かつて夢見た 美しき
桃源郷を ゲットバックしたいならば

理想に 忠実な
uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ

シーソーゲームの 行く末は
そうそう ぼくにもわからない
真剣勝負の 暁は
もうどうしたって 勝つしか ないやいや

シーソーゲームは 続いてく
そうそう ぼくらも譲れない
真剣勝負に 病み付きで
もうどうしたって やめられ ないやいや

運命論なんて
ぜんぜん関係ない
一所懸命だ !だ! だ!



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第百二十九訓 図書館司書のヤバいやつ

カビと古紙の匂いが染み付いた、薄暗く静寂に包まれた空間。

私の名前は古関ウイ。ここ、トリニティ総合学園の片隅でひっそりと息を潜める、古書館の司書をしているしがない女です。

本は、いい。

文字を追うその瞬間だけは、煩わしい現実を完全に遮断し、読んでいる私と物語の登場人物だけの、密やかで親密な世界を築き上げてくれる。

本は、いい。

現実という名の退屈な檻から私を解放し、決して足を踏み入れることのできない、独創的で美しい未知の世界へと連れ出してくれる。

そして何より――本は、いい。

ページを捲るたびに満ちていく知識の重みと引き換えに、ひどく億劫で無駄な「他者との関わり」を、物理的にも精神的にも完全に断ち切ってくれるから。

ーーーーーー

そんな静寂を愛する私にも、当然「嫌いなもの」があります。

人間として生きている以上、何かしら苦手なもの、生理的に受け付けないものが存在するのは、決して異常なことではありませんよね。

私が、この世で最も憎悪し、嫌悪するもの……それは――

「あのー、すみませぇん。この本、借りてる時にちょっと破いちゃったんですけどぉ」

ピキッ。

鼓膜を無遠慮に叩く、緊張感の欠片もない間延びした声。

そして、無惨にもページを引き裂かれた私の愛する「子ども」の姿が視界に映った瞬間。

私の額に、青白い血管が鮮明に浮かび上がった。

――次の瞬間。

トリニティの一般生徒の視界から、ひ弱なはずの司書の姿がブレて消えた。

ウイは無音のステップで生徒の死角へと回り込むと、流れるような動作で背後から首を締め上げ、そのまま躊躇なく至近距離から弾丸を撃ち込んだのである。

その間、実に0.1秒。

もはや芸術の域に達した、瞬きすら許さぬ神業(アサシネーション)であった。

ーーーーーー

硝煙の匂いと、床に崩れ落ちる鈍い音を背に、私は愛しい本を胸に抱き寄せ、冷え切った目で見下ろす。

……そう。私が一番嫌いなもの。

それは、こういった愛すべき子(本)たちを、ちっとも大事に扱おうとしない、知性の欠片もない猿どもです。

静寂を愛する古書館の司書として、私は今まで、それはもう数え切れないほど多様な「サルども」の生態を観察してきました。

先ほどの愚か者のように、本という名の繊細な芸術品をちっとも大事に出来ない、知性の欠けたサル。

ですが、あれすらまだ序の口に過ぎません。古書館という聖域には、時としてさらに凶悪な外敵が土足で踏み込んでくるのです。

たとえば、あろうことか神聖なページの上に、どろりとした黄色い『マヨネーズ』をボトボトと落とすサル。

あるいは、その隣から真っ赤な『デスソース』をぶちまけ、活字を物理的に焼き尽くして本を穢すドSなサル。

極めつけは、片手でバナナをつまみ食いしながら、その脂ぎった指で羊皮紙をめくるゴリラ……いえ、サル。

もはや言語道断。万死に値する蛮行です。

そういった、私の愛する子たちを傷つけるサルどもの結末がどうなったか?

……ふふっ。そんなの、決まってるじゃないですか。

全員――もれなく、死にました。

 

 

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私の脳裏に、ある美しい光景が鮮明にフラッシュバックします。

荒涼とした大地に冷たい風が吹きすさぶ中、ズラリと無数に立ち並ぶ、冷たく硬い石の群れ。

そこには、ハッキリとこう刻まれているのです。

『ゴリラのはか』

『マヨラーのはか』

『ドSザルのはか』

そして、数え切れないほどの『サルのはか』……。

そう、彼らは皆、私の手によって静かな土の下へと還っていったのです。本を穢した罪の重さを、永遠の沈黙の中で噛み締めながら――。

「いい加減に――」

突如、私の壮大で猟奇的な脳内スライドショーを、鼓膜を劈(つんざ)くような鋭い声が引き裂きました。

「してくださいっ!!」

 

「うわぁあ!」

カビと古紙の匂いが漂う薄暗い古書館に、ウイの情けない悲鳴が響き渡った。

先ほどまで彼女の脳内で繰り広げられていた「冷徹な暗殺者」としての壮大なモノローグは、たった一言の叱責によって無惨に打ち砕かれた。ウイは抱えていた分厚い古書を盾にするようにギュッと身をすくませ、ビクビクと肩を震わせる。

その目の前には、図書委員会であるシミコが、呆れと怒りが入り交じった険しい表情で仁王立ちしていた。

「……何、急に物騒な自分語りをし始めたかと思ったら、勝手に生徒を始末してるんですか!?」

シミコの鋭いツッコミが、ウイのガラスのハートを容赦なく抉る。

「ヤバいやつですよ! 厨二病を拗らせた生徒が、誰も聞いてないのに一人で暗殺の武勇伝を語り出すなんて、ヤバいやつそのものですよ!!」

痛いところを正確に突かれ、ウイは顔を真っ赤にして視線を泳がせた。冷徹な司書の面影など欠片もなく、そこにあるのはただの「妄想を見られてパニックに陥った日陰者」の姿である。

「うぅ……な、何を言っているのか、さ、さっぱりですね……」

ウイはしどろもどろに弁解を試みる。額には冷や汗がびっしりと浮かんでいた。

「わ、私は……ただ……彼らを元のいる場所に……かえしただけでして……。ええ、あくまで比喩的な表現と言いますか……」

ボソボソと消え入りそうな声で紡がれる苦しい言い訳に、シミコは眉間のシワをさらに深くした。長年の付き合いから、彼女には嫌な予感しかしない。

「……一応聞きますが」

シミコは、逃げ道を塞ぐように一歩前へ踏み出し、地を這うような低い声で尋ねた。

「それは、どこに?」

 

「だ、だから言ってる通りーー」

逃げ場を失ったウイは、観念したようにギュッと目を強くつむり、震える唇からその単語を絞り出した。

「……つ、土に」

 

 

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その瞬間、シミコの脳裏にも、ウイの恐ろしい妄想のビジョンが共有されたような気がした。

荒涼とした大地に並ぶ、無数の冷たい墓標。「ゴリラのはか」、「マヨラーのはか」、「ドSザルのはか」、そして数え切れないほどの「サルのはか」と刻まれた墓石が、ずらりと並んでいる光景である。

「結局死んでるじゃないですか!?」

シミコの魂の叫びが、静寂であるべき古書館の天井に、虚しくこだました。

シャアッ!!

重々しい空気の立ち込める古書館に、カーテンレールが悲鳴を上げるような鋭い音が響き渡った。

分厚い遮光カーテンがシミコの手によって勢いよく引き開けられ、長年この部屋が拒絶し続けてきた強烈な太陽の光が、容赦なく室内に雪崩れ込んでくる。

「うわぁあ!!」

網膜を焼くような眩しさに、ウイは鼓膜を劈(つんざ)くような悲鳴を上げた。

まるで十字架を突きつけられた吸血鬼のように、あるいは太陽の下に引きずり出された深海魚のように、彼女は両腕で顔を覆い隠し、光の届かない床の隅へとジリジリと這って逃げようとする。

そんなウイの無様な姿を見下ろし、シミコは腰に手を当てて深く、深くため息をついた。

「もう……。本を大事にしているのはよく分かりますけど、限度ってものをわきまえてください」

シミコの呆れを含んだ厳しい声が、光と共にウイの全身に突き刺さる。

「少しは日の光でも浴びて、自分のしでかそうとしたこと(物騒な妄想)の異常性を反省してください」

それは、日陰でしか生きられない古書館の司書に与えられた、あまりにも残酷な罰だった。

肌をジリジリと焦がす(ような気がする)太陽の熱に晒されながら、ウイは床にペタンと突っ伏し、この世の終わりを告げる予言者のように悲痛なうわ言をこぼし始める。

「あぁ……血が……私の肉が……そして愛する本(こども)たちが……! 忌まわしき陽光によって、全てが干からびて、渇いていくぅぅ……っ」

干ばつに見舞われた大地の如く、ウイの精神世界はどこまでも枯渇と絶望の淵へと沈んでいく。

しかし、そんな悲劇のヒロインを気取るウイの頭上から、シミコの絶対零度のツッコミが、冷や水を浴びせるように降り注いだ。

「……渇いてるのは、委員長のその厨二病に侵された『脳みそ』の方ですよ」

ピシャリと言い放ち、シミコはくるりと背を向けた。

これ以上、この妄想の砂漠に付き合っている暇はないとばかりに、彼女は呆れ顔のまま古書館の出口へと向かって歩き出す。

「引き続き、お仕事よろしくお願いしますよ。……くれぐれも、これ以上変な妄想を拗らせて暴れないでくださいね」

パタン、と。

きつめに釘を刺す言葉を残し、シミコは無慈悲にも扉を閉めて去っていった。

後には、煌々と照りつける西日と、その下で干物のようになりながらピクピクと痙攣するウイだけが残されたのだった。

 

 

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パタ、パタ、と遠ざかるシミコの足音が完全に途絶えると、古書館には再び、埃すらも息を潜めるような重苦しい静寂が舞い戻った。

残されたウイは、床にへばりついたままジリジリと肌を焼く(ような気がするだけの)西日に耐えかね、ようやく重い腰を上げる。

「あぁ……早く、あの忌まわしき光のカーテンを閉めないと……私が灰になってしまう……」

ふらふらと覚束ない足取りは、灼熱の砂漠でオアシスを求める遭難者そのものだ。しかし、彼女がすがるように窓際へ手を伸ばそうとした、まさにその時だった。

――ギィィィ……。

古書館の重厚なオーク材の扉が、控えめな、しかしウイにとっては死刑宣告にも等しい確かな音を立てて開かれた。

それに続くのは、パタ、パタ、という柔らかな足音。

(ヒッ……!?)

ウイの全身の産毛が、文字通り総毛立った。

日光のダメージなど一瞬で彼方へ吹き飛ぶほどの、絶対的かつ根源的な恐怖。

『来訪者』である。

それは、対人コミュニケーションを極限まで避けて生きる日陰者のウイにとって、太陽光の何倍も恐ろしい、平穏な生態系を無慈悲に破壊する脅威に他ならなかった。

(だ、誰!? また本を破りに来た野蛮な猿!? それとも、貸出期限を一年過ぎた本の言い訳を並べ立てに来た厚顔無恥な生徒……!?)

パニックに陥った思考回路が、瞬時に最悪のシナリオを弾き出す。

ウイは頭で考えるよりも早く、生存本能に突き動かされるまま、最も近い巨大な本棚の裏へと文字通り**「飛び込んだ」**。

影から影へ。その滑らかな身のこなしは、光から逃れる深海魚か、あるいは殺虫剤から逃げ惑う害虫の如く素早い。胸に抱えた古書を命綱のように強く抱きしめ、ウイは棚の裏でピタリと息を殺した。

「あのぉ……すみません。どなたかいらっしゃいますか……?」

本棚の隙間。埃がキラキラと舞う僅かな空間から、ウイは怯えた小動物のような目で侵入者の姿を盗み見た。

そこに立っていたのは、凶悪な猿でも、取り立て屋でもない。

シスターのベールを被り、その豊満なプロポーションを慎ましやかな修道服で包み込んだ少女――トリニティのシスターフッドに所属する、若葉ヒナタであった。

シミコが開け放った窓からの陽光が、ヒナタの背後から後光のように差し込んでいる。ただでさえ清らかな彼女の存在感をさらに神々しく――日陰者のウイにとっては暴力的なまでに眩しく――照らし出していた。

(し、シスターフッド…!?)

ウイは本棚の裏に冷や汗ばんだ背中をへばりつかせ、ガチガチと鳴りそうになる奥歯を必死に噛み締めた。

彼女は決して悪い人間ではない。むしろ、トリニティでも有数の心優しい善人であることは知っている。だが、ウイにとって、彼女の放つ純度100%の「善性のオーラ」は、直視すれば網膜が焼き切れてしまいそうなほどの猛毒だった。

(うぅ……まずい……かなり、まずいことになりました……っ!)

光に満ちた聖女と、影にすがる図書委員。

絶対に交わってはいけない二つの生態系が、今、古書館という密室で鉢合わせようとしていた。

 

本棚の裏側に身を潜めるウイの耳に、静寂を破るヒナタの困惑したような独り言が届いた。

「おかしいですね……。ちゃんと、シミコさんから入館許可証まで貰ってきたのに……」

(入館許可証!?)

ウイは埃まみれの床にへばりついたまま、ギリッと奥歯を噛み締めた。

(あのシミコめ……! また私に無断で、こんな光属性の塊みたいな生徒に勝手な許可を……! あとで絶対に呪ってやります……!)

そんなウイの恨み節など知る由もなく、ヒナタは「うぅ……仕方ありません」と困ったように眉を下げた。

その手元が視界に入った瞬間、棚の隙間から覗き見ていたウイの瞳が、驚愕に見開かれる。

(あ、あれは――!!)

ヒナタの腕に抱えられていたもの。

それは、古書の修復に用いられる専門的な接着剤である『水苔膠(みずごけにかわ)』、そしてシスターフッドならではの『清聖水』。さらに、それらと一緒に大事そうに抱えられている、今にも崩れ落ちそうなほどボロボロの物体は――間違いなく、歴史的価値のある『古書』であった。

(なぜ、一般のシスターが古書の修復に必要な専門道具を!? しかも……)

ウイの視線が、ヒナタのもう片方の手に握られたプラスチックカップに釘付けになる。

氷がカラカラと涼しげな音を立てる、黒い液体。

(アイスアメリカーノ! 私の好物まで……!)

完璧な手土産と、専門的な修復道具。シミコから入れ知恵されたであろうその完璧な布陣に、ウイは戦慄した。

「誰もいないなら……こうなったら、私一人で修復するしか……」

ヒナタが、不退転の決意を込めてそう呟いた。

その瞬間、ウイの心の中で警報(サイレン)がけたたましく鳴り響いた。

(い、いや! 触らないで! そこにポンと置いて帰ってくれれば、あとは私が勝手に完璧な修復を施しますから! だからお願いです、今すぐ手放して出て行ってください!!)

声なき叫びを上げながら、ウイはハッと冷静さを取り戻す。

(……ちょっと待ってください。別にここで息を潜めていなくても、私がスッと出ていって『預かります』と言えば済む話では……?)

そう思い至り、ウイが本棚の裏から足を踏み出そうとした――その刹那。

彼女の優秀すぎる頭脳が、わずかコンマ数秒の間に『最悪のシミュレーション』を弾き出した。

ーーーーーー

――脳内シミュレーション・開始。

「んーーーっ、ここをこうして……」

不器用な手つきで、必死に古書を繋ぎ合わせようと悪戦苦闘するヒナタ。

そこへ、背後からウイが声をかける。

「あ、あの〜……」

「うわぁっ!!?」

突然の背後からの声。ただでさえ怪力で知られるヒナタが、驚きのあまりその規格外のパワーを制御しきれずに腕を跳ね上げる。

ビリィィィィィッ!!!

空中に舞う、無数の紙吹雪。

修復するはずだった貴重な古書は、哀れにも原形を留めない完全な塵(ゴミ)へと変貌を遂げるのだ。

「ま、またやっちゃいましたァァァ!! ど、どうしましょう!!」

泣き叫ぶヒナタ。そして、宙を舞う古書の残骸。

――脳内シミュレーション・終了。

ーーーーーーーー

(…………そうなれば、今度こそ凄惨な殺戮ショーの幕開け……)

 

本棚の深い影の中、ウイの瞳から一切のハイライトが消え去った。

チャカッ……。

冷たい金属音が鳴る。彼女は暗闇の中で、静かに愛用の狙撃銃(スナイパーライフル)を構えた。

窓から差し込む一条の陽光を反射して、黒鈍色の銃口が、獲物を狙う猛禽の目のようにギラリと妖しく光を放ったのである。

 

声をかければ、驚いて古書を物理破壊される。

声をかけなければ、ヒナタの不器用な素人作業によって古書が破壊される。

どちらに転んでも、目の前のシスターの眉間を撃ち抜く未来しか見えない。詰み(チェックメイト)である。

静寂に包まれた古書館に、この世で最も聞きたくない、そして最も恐ろしい破滅の音が響いた。

――メリッ。

古き良き装丁が悲鳴を上げ、紙の繊維が残酷に断ち切られる、その鈍い不協和音。

それを耳にした瞬間、本棚の裏で息を殺し、必死に気配を消していたウイの理性が、いとも容易く吹き飛んだ。

「あっ、あああぁぁッ!!」

シミュレーションも、対人恐怖症も、ヒナタに対する防衛本能も、すべてが彼方へと消し飛んだ。考えるよりも先に、ウイの身体は本棚の暗がりから文字通り弾け飛んでいた。愛する我が子(古書)が物理的に引き裂かれようとしている凶行を前に、日陰の司書は恐怖すら忘れて光の中へと躍り出たのだ。

「……! え?」

突如として影から飛び出してきたボサボサ髪の司書に、ヒナタは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった。手には、今まさに致命傷を負いかけている哀れな古書が握られている。

「あ、……」

我に返ったウイは、ヒナタの放つ強烈な存在感と、事態の深刻さに圧倒され、口をパクパクと金魚のように開閉させた。しかし、ここで引けば古書は完全に塵となる。ウイは震える両手を前に突き出し、引きつった声で必死に懇願した。

「あの〜……! そ、その子は……私に、ま、任せてください……!」

「…………」

ヒナタは目を丸くしたまま、声の出所を探るようにウイを見つめる。

「こ、こう見えても……私、修復には……かなり、自信がありまして……っ」

ウイは冷や汗をダラダラと流しながら、自分の専門領域を盾にしてジリジリと距離を詰めた。相手を刺激しないよう、まるで猛獣から人質(本)を奪還するネゴシエーターのような慎重さである。

「本当ですか!?」

その瞬間、ヒナタの顔にパァッと満開の花が咲いたような、純度百パーセントの喜悦の表情が浮かんだ。

ウイにとって、それは直視すれば網膜が焼き切れてしまいそうなほどの、暴力的なまでの『聖女の輝き(陽キャのオーラ)』であった。

「うわぁ……っ!」

思わず腕で顔を覆い、ウイはジリジリと後ずさる。眩しい。眩しすぎる。この薄暗い古書館には不釣り合いなほどの圧倒的な善性が、ウイのHPをゴリゴリと削っていく。

「はぁ……! これで一安心です」

ヒナタは心底安堵したようにふんわりと微笑み、古書をそっとウイの震える手へと委ねた。「それでは、私は何をすれば良いですか? 力仕事ならお任せください!」

ウイは戦慄した。

この規格外の怪力シスターにこれ以上何かを手伝わせることなど、古書館の完全崩壊を意味する。被害を最小限に食い止めるための最適解は、ただ一つ。

「え? ………えっと……」

ウイは必死に頭を回転させ、どもりながら指示を出した。

「と、とりあえず――そ、そこで、寝といてください」

「は、はい!」

ヒナタは、そのあまりにも奇妙で理不尽な指示を微塵も疑うことなく、素直に元気よく頷いた。そして、備え付けの読書用ソファに大人しく向かおうとして――ふと、ウイの方を振り返った。

「あっ、寝る前に一言だけ……」

窓から差し込む西日を背に受け、ヒナタは柔らかな、ひだまりのような微笑みを浮かべた。

「ありがとうございます」

その飾らない、心からの純粋な感謝の言葉。

裏表のない真っ直ぐな感情の矢が、ウイの胸にスッと突き刺さった。

「………!」

ウイは息を呑み、目を丸くした。

いつもなら煩わしいと思うはずの他者からの言葉。しかし、ヒナタのそれは不思議と嫌な感じがしなかった。冷え切っていた日陰者の胸の奥に、ほんのりと温かい灯りがともる。

ウイは気恥ずかしさを誤魔化すように、バサッと前髪で目を隠し、そっぽを向いた。

「い、いえ。……別に」

ぶっきらぼうに呟きながらも、その手は預かった古書をまるで我が子のように、愛おしげに、そして優しく抱きしめていた。古書館に、先ほどまでの重苦しい静寂とは違う、少しだけ柔らかな空気が流れ始めていた。

次静寂に包まれた古書館。

微かに漂うカビと羊皮紙の匂いに、膠(にかわ)の仄かな香りが混ざり合う。ウイの優しい指先と極限の集中力によって、断裂していたページは、目を凝らさなければ破れていたことすら分からないほどに見事な接合を果たし、元の姿を取り戻していた。

「ふぅ……」

ピンセットを置き、ウイは満足げに細く息を吐いた。

手袋を外し、滲んだ額の汗を手の甲で拭った瞬間――張り詰めていた『修復家』としての魔法が解け、いつもの『日陰者の図書委員』としての現実が急激に押し寄せてくる。

「……何故、自ら声なんてかけたんでしょうね、私は……」

後悔の念が、今更ながらにどっと胃の腑を重くした。

放置して隠れていればよかったのだ。そうすれば、少なくとも対人コミュニケーションという最大の苦行は避けられたはずなのに。

しかし、直ってしまったものは仕方がない。

ウイは重い足取りで、規則正しい寝息を立てている『光の塊』――若葉ヒナタが眠るソファへと近づいた。

「あの……起きてください……」

消え入りそうな声で呼びかけるが、ヒナタは「すぅ、すぅ」と平和な寝息を立てたままだ。

「……終わりましたから。起きてください」

ウイが少しだけ声を張り、ソファの背もたれをトントンと叩くと、ようやくヒナタの長い睫毛が震えた。

「ん……うぅ……?」

ぼんやりとまぶたを擦りながら身を起こしたヒナタは、焦点の合わない目でウイを見上げ、それからウイの胸に抱かれた古書へと視線を移した。

「……ッ! お、終わったんですか!?」

弾かれたように立ち上がったヒナタの瞳が、驚愕に見開かれる。

その眩しすぎる反応に、ウイはビクッと肩をすくめて後ずさった。

「は、はい……」

「す、すごいです……!」

ヒナタは、ウイから受け取った古書――歴史ある分厚い聖書――のページを、壊れ物を扱うようにそっと捲った。

「あんなにボロボロに千切れていた聖書が、完璧に元通りになっているなんて……!」

純度百パーセントの尊敬と感動の眼差し。

それを真正面から浴びせられ、ウイはたまらずバサッと前髪で顔を隠した。だが、自らが手掛けた愛する本(こども)のこととなると、特有のオタク気質(プロ意識)がどうしても顔を出してしまう。

「だ、大体の本は……年月を経ても劣化しないよう、強力な防腐加工や保存処理が施されているので、あんな風に簡単に裂けることはないんですが……」

ウイは早口で、ボソボソと語り始めた。

「おそらく、この子にはそれがされていなかったんでしょう。保存状態もあまり良くなかったようですし……」

「えっ!? そんなことまで、触っただけで分かるんですか!?」

ヒナタがパァッと顔を輝かせ、さらに身を乗り出してくる。

「………え、えぇ。まぁ……」

(しまった、また余計なことを……!)

ヒナタの放つ『陽のオーラ』に耐えきれなくなったウイは、逃げるように背を向け、シッシッと手を振った。

「と、とりあえず! は、早く持っていってください……! わ、私の仕事はもう、終わりましたから……!」

「は、はい! 本当に、本当にありがとうございます!!」

ヒナタは修復された聖書を胸に大事に抱きかかえ、深々と、それはもう見事な90度のお辞儀をしてから、足早に古書館を後にした。

パタパタという足音が完全に遠ざかり、再び静寂が戻った空間で、ウイは小さく首を傾げる。

> (そう言えば――彼女、どうしてあんなにも焦っていたんでしょうか……?)

>

ヒナタの去り際の慌ただしさに、ほんの少しの疑問符を浮かべながら、ウイは冷え切ったアイスアメリカーノの残りをストローで啜った。

後日。

「流石は委員長ですね……」

いつものように薄暗い古書館のカウンターで。

書類仕事をしていた図書委員会のシミコが、ふと思い出したようにぽつりと呟いた。

「うえぇっ!? ……な、何のお話ですか?」

突然の誉め言葉に、ウイはビクンと肩を跳ねさせて怪訝な顔を作る。

「あれ? 理由も聞かずに直してあげたんですか?」

シミコはペンを置き、丸眼鏡の奥の目をパチクリと瞬かせた。

「直してあげた……ハッ!」

その言葉で、数日前の『光のシスター襲来事件』を思い出したウイの額に、青筋がピキッと浮かび上がった。

「シミコ! ……アンタ!? 勝手に私の聖域(いばしょ)に、あんな光属性のシスターなんて放り込んで!! 一体私がどれだけ精神をすり減らして苦労したと――」

「委員長は、もう少しその引きこもり事案なところを解消した方が良いですよ」

ウイの抗議を柳に風と受け流し、シミコはやれやれと肩をすくめた。

「……って、言っても聞きませんよね。でも、あの年代物の聖書の修復ができるのは、トリニティで委員長しかいなかったのも事実でしょう?」

「う、ぅぅ……」

痛いところ(技術への自負)を突かれ、ウイは唸り声を上げて本で顔を隠す。

「おかげで本当に助かったと、ヒナタさんが涙ぐんで感謝していましたよ」

シミコはふっと表情を和らげ、事の真相を語り始めた。

「何せ、あの聖書の内容を朗読する重要な集会が開催されるまで、もう全く時間がなかったと言いますからね。……間に合って、本当によかったですよ」

「…………」

その言葉を聞いて、ウイの動きがピタリと止まった。

脳裏に、ボロボロの聖書を抱えて途方に暮れていたヒナタの顔が浮かぶ。もしあの日、自分が本棚の裏から声をかけず、彼女を見捨てていたとしたら。

(……ふん。別に、私はただ……本が可哀想だったから直しただけです)

ウイは顔を隠した本の裏側で、誰にも見えないように、ほんの少しだけ口角を上げた。

煩わしいことこの上ない出来事だったが、結果的にあのアイスアメリカーノの味は、悪くなかったと、心の中で密かに認めるのだった。

次ドォォォォン!!!

静寂を是とする古書館に、爆撃のような轟音が叩きつけられた。

数百年もの間、無数の知識と静寂を守り続けてきた重厚なオーク材の扉が、まるで薄っぺらいティッシュペーパーのように呆気なく蝶番から吹き飛び、宙を舞う。

土煙と木端が舞い散る入り口に立っていたのは、申し訳なさそうに眉を八の字に下げたシスター――若葉ヒナタであった。

「す、すみません!!」

「…………」

「…………」

突然のテロ行為に等しい惨状を前に、カウンターにいたウイとシミコは、声を発することすら忘れ、完全に虚無の表情で立ち尽くした。

「ウイさんはいますか!?」

悪気など微塵もない、ただただ無自覚な暴力。

焦った様子のヒナタが大きな声で尋ねると、ようやく我に返ったシミコが、ズキズキと痛み出したこめかみを押さえながらピシャリと叱責した。

「ヒナタさん! 図書館ではお静かに!!」

「は、はいっ! すみません……」

シュンと肩を落とすヒナタ。シミコは深くため息をつき、気を取り直して尋ねた。

「それで……今日は一体、どういったご用件で扉を吹き飛ばしに?」

「先日は、本当にありがとうございました。……実は、ですね」

ヒナタは躊躇いがちに、背中に隠し持っていた『それ』をカウンターの上にそっと置いた。

(……ッ!!)

それを見た瞬間、ウイの心臓が警鐘(アラーム)を打ち鳴らした。

ヒナタが取り出したのは、もはや「本」と呼ぶことすら烏滸(おこ)がましい、ただの紙くずの集合体だった。表紙は千切れ、ページはズタズタに裂け、活字の判別すら不可能なほどに原型を留めていない『何か』の山。

「実は、また見つかったんですけど……あ、あの、どうしたんですか?」

ヒナタは不思議そうに小首を傾げた。

目の前で、ボサボサの前髪に隠れたウイの身体が、まるで極寒の地に放り出されたかのようにガチガチと小刻みに震え始めていたからだ。

嫌な予感を察知したシミコは、一切の躊躇なく両耳をきつく塞いだ。

「え、えっと……シミコさ――」

ヒナタが助けを求めようとした、その刹那。

「なぁァァァァァっ!!!!!!?!?」

古書館に眠るすべての蔵書が震え上がるほどの、鼓膜を劈く絶叫が爆発した。

「い、一体なんて事ォォォ!!!?」

ウイはカウンターから身を乗り出し、血走った目でヒナタに詰め寄った。先ほどまでの日陰者の面影など微塵もない。そこにあるのは、愛する我が子を惨殺された母親の狂乱そのものだった。

「何なんです、この子たちは!? 前回は驚きのあまり口にするのもアレでしたが、どうして短期間でこんな猟奇的な状態になるんですか!? シュレッダーと素手で格闘でもしたんですか!?」

「う、ウイさん……っ、す、少し落ち着いて……!」

「お、落ち着く!? 落ち着く!?!? これを見て落ち着けというんですか!?」

ヒナタの必死の宥めも、完全に理性が焼き切れたウイの耳には届かない。

「無理言わないでください! こんな無惨な死体(本)を見せられて、どうやって落ち着けと!? ティーパーティーのホストの前で同じ余裕をかませるつもりですか!? 随分と豪胆なシスターですね!?」

ウイの口から、早口で呪詛のような怒りの言葉がマシンガンのように連射される。

さらに、散乱した紙片のわずかな装丁の欠片がウイの目に入った。

「それに……この子、またものすごく貴重な初版本――!!」

プツン。

ウイの中で、何かが決定的に切れる音がした。

彼女は流れるような無駄のない動作で自身の背後に手を伸ばし、愛銃である消音狙撃銃(スナイパーライフル)をガシャリと構えた。

「えっと……ウイさん……?」

ヒナタの顔から、さぁっと血の気が引いていく。

「ふふふ……」

銃身を撫でるウイの瞳から、光が完全に失われていた。

薄暗い古書館の中で、カチリ、と安全装置(セーフティ)を外す冷たい音だけが響く。

「こうも殺気立つのは……久しぶりですね……」

「ウ、ウイさ――」

ヒナタの弁明を待つ義理などない。

ウイは、冷酷なる暗殺者の瞳でスコープを覗き込み、トリガーに指をかけた。

「この子たちの痛みを知れェェェ!!!」

ドォォォォン!!!

静寂の古書館に、本日二度目となる規格外の轟音が、無慈悲に木霊したのだった。

ーーーーーー

一方、その頃。

トリニティ総合学園の古書館を揺るがした凄惨な大爆発(と発砲音)の余波など微塵も届かない、キヴォトスの中心・シャーレの部室(オフィス)は、ひどく平和で長閑(のどか)な空気に包まれていた。

『――本日のニュースです。本日のお昼過ぎ、トリニティ総合学園の古書館が、何らかの原因により突如として爆散するという事件が発生し――』

壁掛けの大型薄型テレビから、アナウンサーの無機質で平坦な声が垂れ流されている。

画面には、黒煙を上げて無惨に崩れ落ちた古書館の痛ましい中継映像と、パニックに陥る生徒たちの姿が鮮明に映し出されていた。

「へぇ〜」

応接用の高級ソファにだらしなく寝転がり、顔の上に『週刊少年ジャンプ』を乗せたまま、銀時が死んだ魚のような薄目でテレビ画面を横目に見やった。

彼は自身の小指で器用に鼻をほじりながら、全く感情のこもっていない、炭酸の抜けたサイダーのような声で呟く。

「あの『◯ヤバ』って、てっきり壁ドンとか顎クイとかする胸キュン系の恋愛映画かと思ってたけどよ……マジで物理的に周囲を吹き飛ばす『ヤバいやつ』だったんだな〜。大掛かりなプロモーションじゃねーの。最近の映画業界は派手だねェ」

ニュースで報道されている惨状(リアル)と、自分たちが興行収入を争っている同日公開のライバル恋愛映画(フィクション)を完全に混同し、独自のガバガバな解釈で無理やり納得する駄目な大人がそこにいた。

「まぁ、仕方ないアルよ」

ソファの反対側では、神楽が定位置で酢昆布をくちゃくちゃと噛みちぎりながら、全てを悟った賢者のようなしたり顔で深く頷いた。

「公開初週から私たち(銀魂)に興行収入で負けてるぐらいネ。よっぽど現実を受け入れられなくて、ストレスで爆発するくらい拗らせちゃってるように見えるネ。敗者の末路アル。哀れなもんネ」

大人の事情(興行収入)と生々しい数字の勝敗を流暢に語る、チャイナ服の少女。

あまりにも現実離れした二人のメタ発言がシャーレの部室を満たした、その瞬間――。

「ちょっとォォォォォォ!!!」

部屋の隅で大人しく書類整理をさせられていた新八の『魂のツッコミ』が、部室の窓ガラスをビリビリと震わせた。

「さっきから何パロディネタの現実の事件と映画の興行成績を混同して話進めてんの!?」

新八は束ねた書類を机に叩きつけ、テレビ画面をビシッと指差した。その顔面に装着されたメガネのレンズが、怒りと焦りでピカッと鋭く光を反射させる。

「ニュース映像よく見てくださいよ! トリニティの由緒正しい古書館が完全に木端微塵になってんですよ!? 恋愛映画の『ヤバい』ってそういうC4爆弾的なヤバさじゃないから! もっとこう、エモいとか胸キュン的な意味だから! 物理的に爆散して炎上してんのはただの事件だから!!」

ぜえぜえと息を切らし、常識人としての責務を全うする新八。

しかし、その必死の形相を前にしても、銀時と神楽は「何マジになってんのコイツ」と言わんばかりの、完全な虚無の表情を浮かべていた。

「……何マジになってんだ、ぱっつぁん?」

銀時が鼻をほじる手を止め、憐れむような目で新八を見る。

「彼女いなくて、あんな映画でも参考にしようとしてたアルか? 必死すぎて引くネ」

神楽が酢昆布を指に巻き付けながら、思春期の少年の最も柔らかく痛い部分(プライド)を正確に抉り抜いた。

「さ、参考なんてしてねぇっしゅ!!」

図星を突かれたのか、単なるパニックか。新八の声が見事に裏返り、世にも無様な噛み方をしてしまった。

「『ねぇっしゅ』ってなんだよ。完全にしてんだろ。動揺が言葉の端々にダダ漏れしてんぞ、童貞メガネ」

銀時が容赦なく追い討ちをかける。

「ぜ、全然だけど〜!? 僕、あんな厨二病みたいな恋愛映画なんて全然興味ないし! 羨ましくなんかないし!」

新八は顔を真っ赤にして両手を振り回し、必死の防衛線を張る。しかし、銀時と神楽のニヤニヤとした冷ややかな視線に耐えきれず、ついに彼の中で眠っていた『悲しき自尊心』が暴走を始めた。

「こ、こう見えても僕……っ、けっこう人気あるから……!!」

 

「公式の人気投票じゃ……大体いつも8位か、7位にランクインしてるからァァァ!!」

新八の魂の叫びが、シャーレのオフィスに虚しく木霊する。

己のアイデンティティを「中途半端な順位の死守」に求めるその姿は、涙ぐましくもどこか滑稽であった。

しかし、その必死の主張に対し、銀時は週刊少年ジャンプを顔からどけもせず、鼻をほじった指をピーンと天井に向けて弾いた。

「おいおい、パッツァン。お前、いつの時代の話してんの? ついこないだ公開された**『新劇場版 銀魂 -吉原大炎上-』**……あの映画の入場者特典のキャラクターランキング、もう忘れたのか?」

「ッ……!?」

新八の動きが、凍りついたようにピタリと止まる。

「そうネ。現実逃避は良くないアル」

神楽が酢昆布をくわえたまま、憐れみを含んだ瞳で新八を見上げた。

「あの特典……主要キャラはおろか、下っ端ポジの兎ですらランクインしていたのに、お前だけ綺麗に**『圏外』**だったアル。文字通り、ランキングという枠組み(フレーム)から弾き出されたメガネ。それが今の現実(リアル)ネ」

 

「ふ、ふざけんなァァァ!! なんで本体(メガネ)が『その他』に含まれてんだよ!! 僕という人間はどこに行った!?」

 

「ドンマイアル、新八。所詮お前は『その他』の王ネ。特典の袋を開けた子供たちが『ちぇッ、メガネかよ』って舌打ちする音が、私には聞こえるヨ」

 

「幻聴だよ! 子供たちの夢を壊すようなこと言わないでくれない!!」

 

図星を突かれた新八が、顔を真っ赤にして暴れ回る。

銀時と神楽の容赦ない嘲笑と、新八の断末魔のようなツッコミが交錯し、部室はいつものように騒がしいカオスに包まれていった。

だが――。

そんな彼らの馬鹿騒ぎにかき消されるように、誰の意識にも留まることなく、つけっぱなしのテレビからは不穏なニュースが淡々と流れ続けていた。

『――続いてのニュースです』

アナウンサーの無機質な声が、張り詰めた緊張感を帯びる。

『連日、百鬼夜行連合学院の管轄区内で確認されている連続襲撃事件ですが、未だ犯人の手掛かりは掴めず、現在も逃亡中とのことです』

画面には、規制線の張られた和風の路地裏と、不安そうに行き交う生徒たちの姿が映し出されている。石畳には、洗い流しきれない黒い染みが点々と残っていた。

『昨夜未明、百鬼夜行の治安維持部隊の一つである**『百華(ひゃっか)』数名も被害を受けたとの情報が入ってきています。現場の調査関係者の取材によりますと、被害者の傷は銃創ではなく、鋭利な刃物による切り傷**のようなものであり……』

ノイズ交じりの映像。

そこには、得物に刻まれた、鋭い斬撃の痕跡が一瞬だけ映り込んだ。それは、単なる暴力ではなく、研ぎ澄まされた「技」による破壊であることを雄弁に物語っていた。

『目撃証言によりますと、犯人は狐の面を付けているとのお話もあり、連邦生徒会はあの指名手配中の『災厄の狐』との関係性も視野に入れ、慎重に調査を――』

狐の面。

そのキーワードが出た瞬間、画面には資料映像としてワカモの手配書が映し出される。

しかし、そのニュースの奥底に潜む「真の凶器」の冷たさに、まだ誰も気づいてはいなかった。

それはワカモではない。

もっと古く、もっと怨嗟に満ちた、血を啜る鋼の匂い。雨の日にだけ現れる、人斬りの影。

騒ぎ続ける万事屋の声の裏で、テレビ画面のノイズが、まるで何かが嗤うかのように一瞬だけザザッと歪んだ。

 

 

 

 




次回

???「水……一生とは水と例えてもおかしくない……」

「生きとし生けるもの全てが弱者……弱者は強き者に流されることで生をもたらされる」

「逆らえばーー」

???「あなたがシャーレ所属の坂田銀時?」

「悪いけど、その命もらいうける」

次回 世の中流れに身を任せるのも大事

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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