透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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第百三十六訓 超かぐや姫?いや、超カズサ姫です

 

静寂に包まれた深夜のキヴォトス。

昼間の喧騒が嘘のように、冷たい月光が無機質なアスファルトの路面を青白く照らし出していた。

その静謐な空気を切り裂くように、一人の少女が路地裏を猛然と駆け抜けていた。

「はぁ……はぁ……はぁ……っ! っ、なんなのよアイツ……っ!」

黒いパーカーのフードを深く被り、時折、猫の耳を思わせる柔らかなシルエットを揺らしながら、少女は必死に息を切らす。背後から迫る「不快な騒音」を振り切るように、泥水を跳ね上げ、迷路のような繁華街の隙間へと滑り込んでいく。

彼女の瞳に宿るのは、恐怖ではなく、極限まで高まった**「煩わしさ」**だった。

「待てェェェェェ!! 待て待て待てェ!! 今度こそ捕まえて、宿命の決着をつけて見せますよォォォォ!!」

夜の静寂を粉々に粉砕する、あまりにも無邪気で、あまりにもやかましい叫び声。

背後から迫るのは、派手な制服を翻し、重い盾を軽々と振り回しながら、尋常ならざるスタミナで追いすがってくる「自称ライバル」の少女であった。

その真っ直ぐすぎる情熱は、もはやストーカーの領域を優に超え、一つの天災となってキヴォトスの夜を蹂躙している。

「もうっ……しつこいって言ってんでしょォォ!!」

逃走者の少女は、苛立ち紛れに叫びながら急角を曲がった。

しかし、その瞬間。彼女の目の前に立ちはだかったのは、高くそびえ立つ無慈悲なコンクリートの壁だった。

「って……しまっ! 行き止まり!?」

「逃がしませんよぉ! つっかまえたァァァァァ!!」

背後の追跡者が、勝利を確信した獰猛な笑みを浮かべ、弾丸のような勢いで突っ込んでくる。

もはや、狭い路地裏で回避する術はない。

**ドォォォォォォンッ!!!!!**

夜の街に、火薬の爆発音とも、肉体同士の衝突音ともつかない凄まじい轟音が響き渡った。

「…………アレ?」

追跡者の少女は、土煙の中で首を傾げた。

手に残っているはずの、宿命のライバルを捕らえた確かな感触がない。

彼女が視線を上げた、その先。

先ほどまでそこにいたはずの「黒いパーカーの少女」は、物理法則を派手に無視した衝撃によって、文字通り**『飛んで』**いた。

「……なんで私が、こんな目にィィィィィ!!!」

夜空の彼方、満天の星々の中へと吸い込まれていく絶叫。

逃げ惑っていた少女は、美しい尾を引く流れ星のように夜空を舞い、キヴォトスの闇の中へとキラリと光って消えていった。

ーーーーーーーーーーーー

夜空に、凛とした銀色の月がぽっかりと浮かび、静寂の中で世界を見下ろしている。かつて多くの物語がそうであったように、神秘的な夜の静謐(せいしつ)がそこにはあった。

『今は昔――あれれ?』

語り部の調子外れな声が響いた瞬間、夜の闇は暴力的なまでの光に塗りつぶされた。無機質な電柱が列をなし、色鮮やかなネオン看板や無数の窓から漏れる街の明かりが、闇夜を文明の色彩で強制的に上書きしていく。

『ではなくて――超(チョー)未来だったり?』

カメラが天を仰ぐように移動すると、そこには雲を突き抜け、天空を貫く巨大な「サンクトゥムタワー」がそびえ立っていた。キヴォトスの理(ことわり)の象徴。

映像は目まぐるしく切り替わる。

腰に木刀をぶら下げた、メガネに、番傘を片手に歩く女性。

鋭い眼光を放ち、抜き身の日本刀を携えた**不良警察**。

闇に紛れ、指の隙間にクナイを挟んだ**くの一**。

そして、その横を平然と歩く、アサルトライフルを肩にかけた**ごく普通の一般生徒**。

刀と銃、過去と未来、日常と非日常。それらが何の矛盾もなく混ざり合う、歪(いびつ)で美しい光景。

『いやいや、大昔でも超(チョー)未来でもなくて~』**

「……ふぁあ」

大きく顎(あご)を外さんばかりのあくびが、どこからか聞こえてきた。

『あなたたちのよく知る。青春に満ちた物語の世界。』

「ったく……飲み過ぎた……。頭ん中で工事現場の重機が暴れてやがる……」

赤ら顔でこめかみを押さえ、よろよろと千鳥足で歩いてきたのは、一人の男だ。死んだ魚のような瞳には覇気の「は」の字もなく、着流しの襟元からは隠しきれない安酒の臭いが漂っている。

「もう今回こそ誓うわ。もう二度と酒は飲まねぇ。誰に誓おうか……。そうだ、昨日深夜に見たお天気お姉さんの、あの眩しい笑顔に誓うわ俺」

『どこにでもいる、のんだくれた中年親父の物語である。』

「誰が中年親父だ、くそナレーション!! 俺はまだギリギリ『お兄さん』の枠(ワク)だから! メタいこと言ってんじゃねェよ!!」

『この者、ある日酒飲みの帰りに突然に異世界に飛ばされ、あろうことか「先生」になれとの依頼を受けつけん』

キヴォトスの澄み渡る空。その中心にそびえ立つサンクトゥムタワーの影が、シャーレのオフィスに長く伸びる。だが、窓から差し込む神々しい光とは裏腹に、部屋の主が纏う空気はひどく淀んでいた。

『しかし、やることは相も変わらず。酒を飲み、メタに走り、手抜きをし、たまにカッコつける。そんな、ろくでもなき日々を過ごしにけり』

デスクの上には、山積みにされた書類。その合間を縫うように、空になったワンカップの瓶が転がっている。

『中身は聖人君子と程遠く、まさに「マダオ」の二つ名がふさわしき者なり。……されど、そんな彼に付き従う生徒たちのなんと多いことか』

「ハイハイ、じゃあそこの書類、適当にハンコ押しといてくんない? これからお天気お姉さんの時間だかさ」

死んだ魚のような瞳をした男――坂田銀時は、やる気なさそうにシャチハタを放り投げ、液晶画面を食い入るように見つめた。

「はーい。ちゃんとやっておきますね⭐︎」

銀時の差し出した無茶な頼みに、シャーレの当番だったノノミは瞳を細めて微笑んだ。彼女はまるで迷子の子犬を世話するかのような手つきで、山積みの書類を引き受ける。

「ちょっとォォォ!! 少しは先生らしく、事務仕事に勤しめ!!」

静寂を切り裂いたのは、新八の鋭いツッコミだった。彼のメガネが怒りで白く光る。

『その他は、酒を飲んだり、パチンコ打ったり、競馬に賭けたり、酒を飲んだり――欲望全開で過ごしていました』

『名をば、坂田銀時となん言いける。好きに呼ぶべし!』

「ちょっと待てェェ!! めっちゃ適当なナレーション流すのやめてくんない!?」

銀時は虚空に向かって指を突き出した。

「いくら「はやみん」設定だからって、言っていいことと悪いことがあるからな! 清楚で上品な声で、俺のプライバシーをボロクソに暴くんじゃねーよ!」

彼は周囲を見回し、どこから聞こえてくるかも分からぬその『声』の主を探す。

「っていうか、誰よこのナレーション! 銀魂にもブルアカにも、こんなナレーション話す奴、マダオのおっさん以外いなかっただろ!? 今度はどこの誰とコラボしてんだよ!? オイ、ナレーション!! 」

ーーーーーーーー

深夜のキヴォトスは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。だが、その静寂を台無しにする、ひどく不快な「足音」がアスファルトに響いていた。

『そんな、マダオこと銀さんの、いつも通りすぎるある日のこと――。』

 

『えぇっと――泥酔して、前後不覚のまま千鳥足で徘徊していた深夜のこと!』

「うう……頭いってぇよォ……。誰か、誰かペパリーゼ……無理ならヘパリーゼ……せめてウコンの力を持ってきてくれよォ……」

坂田銀時は、こめかみを指で押さえ、今にも胃袋の中身が逆流しそうな喉元を必死に抑えながら、よろよろと歩いていた。死んだ魚のような瞳は、今や濁った深海魚のそれへと退化している。

『今日も今日とて、自業自得なアルコール摂取による頭痛に悶え苦しむのでした……。』

その時、青白い月夜を切り裂くように、一条の光――「流れ星」が夜空を駆けた。

「よ、よっしゃァ! えぇっと、何を頼もうか……願い事、願い事……!」

銀時は、千切れるほどに激しく振れる視界の中で、消えゆく光の尾を必死に追いかけた。

「えぇっと、パチンコで万発出せますように……? いや、違うな、ここんとこ連敗続きの競馬で万馬券が転がり込んできますように……!? いやいや、酒をバカみたいに飲んでも内臓が悲鳴を上げない、鋼の五臓六腑をください! いや待てよ――」

「……このまま何も起こらず、面倒ごとの一つもなく、平和に家まで辿り着けますように!!」

**シュンッ!**

銀時が最後の一言を吐き出した刹那、光は無情にも地平の彼方へと消え去った。

「ァァァァァァ!! 逃しちまった!! どちくしょうが! 神様も仏様もお天気お姉さんも、みんなみんな俺を見捨てやがったァァァ!!」

だが、その「流れ星」は、決して消えたわけではなかった。

銀時が家路につく道すがら――。

『銀さんがようやく辿り着いた角を曲がると、そこにはなんと――!!』

夜の闇の中に、異様な光を放つ一本の電柱が立っていた。

『もと白色に光るゲーミング電柱なん一筋ありける。』

「……は?」

銀時の酔いが、一瞬で半分ほど冷めた。電柱のコンクリートの隙間から、まるで最新式のLEDを過剰に埋め込んだかのような、眩い光が漏れ出しているのだ。

『怪しがりて、寄りて見るに――。』

「ちょっと。すみませ〜ん。俺、独り身の自由を愛するタイプなんで。子育てとか、竹から赤ん坊が出てくるとか、そういうハートフルな展開は無理なんで。そちらで、なんとか公共の機関にでも連絡して引き取ってもらうように頼んでくんない?」

銀時は、電柱に向かって手で「シッシッ」と追い払う仕草をする。

「俺なんかより、こう……もっと大きな抱擁力で包み込める、そんなおっかさんみたいな愛を持った誰かさんのところへ行ってくんない頼むから……。俺、今から自分の吐瀉物と格闘しなきゃいけないんだから」

『電柱の中、光りたり。』

光は、銀時の拒絶を無視してさらに輝きを増していく。

「もしもーし、聞いてますか? 警察呼びますよ? それともお天気お姉さんに通報しますよ?」

その時、電柱の向こう側から、苛立ちの限界を超えた少女の声が響いた。

「もうっ! なんなの! どうして私が、こんな目に遭わないといけなーー!!」

**ドカァァァッ!!!!!**

内部からの凄まじい蹴りか、あるいは不可視の衝撃か。

輝く電柱を物理的に「ぶち破って」、一人の少女が飛び出してきた。

「ゲホッ! ゴホッ! ゲホッ! ……っ、も、もう最悪……。……あっ、どうも」

「………………」

『中より出でしは、スマホのライトを片手に、壁ごと常識をぶち破ってきた猫耳少女にあり!』

銀時は、ポカンと口を開けたまま、目の前の光景を凝視した。

黒いパーカーのフードから覗く、柔らかな猫耳。乱れた髪。そして、なぜか電柱から「排出」されたという不条理すぎるシチュエーション。

「ちょ……、ちょ、ちょ……」

銀時の喉が、驚愕で引き攣る。

「**超(チョー)カズサ姫かよォォォォォォォォォ!!!!!**」

キヴォトスの夜に、ある意味「宿命の出会い」を果たした男の、魂のツッコミが響き渡った。

 

 

【挿絵表示】

 

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澄んでだ瞳が 呼び醒ます

忘れかけてた 正義感 正義感

酸いも甘いも しゃぶり尽くす

今日のテーマは 勧善懲悪さ

 

散文的な 口ぶりで

やたら嘯く エイリアン エイリアン

のらりくらりと 罪深き

桃源郷に グッドバイしたんならば

 

理想に 忠実な

uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ

 

シーソーゲームは 続いてく

そうそう ぼくらも譲れない

真剣勝負に 病み付きで

もうどうしたって やめられ ないやいや

 

運命論なんて

ぜんぜん関係ない

一所懸命だ だ だ

 

“何でもあり”の 世の中で

研ぎ澄ますのは 審美眼 審美眼

本音・建前 焼き尽くす

感じたままに 勧善懲悪さ

 

厚顔無恥な スタイルで

未だ蔓延る エイリアン エイリアン

かつて夢見た 美しき

桃源郷を ゲットバックしたいならば

 

理想に 忠実な

uh 希望は まだ 捨ててはいけないさ

 

シーソーゲームの 行く末は

そうそう ぼくにもわからない

真剣勝負の 暁は

もうどうしたって 勝つしか ないやいや

 

シーソーゲームは 続いてく

そうそう ぼくらも譲れない

真剣勝負に 病み付きで

もうどうしたって やめられ ないやいや

 

運命論なんて

ぜんぜん関係ない

一所懸命だ !だ! だ!

 

ーーーーーーーーーーーーー

シャーレ、本来なら生徒と先生が心を通わせるべきその神聖な執務室には、今、何とも言い難い不条理な空気が立ち込めていた。

部屋の片隅、椅子に座らされた杏山カズサは、自分を縛り上げている太い縄の感触に顔を顰め、呆れ果てたような声を絞り出した。

「あのさ……。居候の身として意見するのはどうかと思うけどさ……」

カズサは、目の前で死んだ魚のような瞳をして耳をほじっている天然パーマの男を、射抜くような視線で見つめた。

「紐で縛るようなこと、生徒にするかな普通!? どこの薄い本のシチュエーション!」

「うるせぇな〜。お前は俺らの『敵』なんだよ。……分かるか? 命のやり取りが必要なレベルの、深い深い因縁の相手なんだよ」

坂田銀時は、死んだ魚のような瞳に僅かな殺意(という名の私怨)を宿し、だらしなく着流しの襟を正した。

「先生と敵対した記憶なんて、コンマ一秒もないんだけど!? むしろさっき会ったばっかりでしょ、私たち!」

「いーや、お前になくても俺にはあるね! 業界の、こう、ドロドロとした暗黙の了解的なアレがお前には染み付いてるんだよ! 教えてやれ神楽!」

「はい! 了解であります銀ちゃん!」

神楽が、番傘を突きつけながら、ビシッとカズサの鼻先を指差した。

「**杏山『カグヤ』**……。お前は私たち新『銀魂』の映画の後に登場したにも関わらず、16億円という興行収入をすぐさまに達成した。……その罪は、万死に値するネ!」

「いや、私の名前、**カズサ**だし! カと濁点と子音しか合ってないし! 」

新八が、メガネを鋭く光らせながら一歩前に出た。その手には、近年のメディア動向をまとめたと思わしき、怨念の篭ったメモ書きが握られている。

「それも劇場放映を開始した理由は、**Netflix**という、近々ではワールドベースボールクラシック(WBC)の独占配信を画策してお金を巻き上げるなど、お金の亡者どもの集まりに……『コイツは売れるな』と、僕らの映画代金よりワンコインほど高い金額(500円)をとっての16億円……。喧嘩を売ってくるにも程がありますよ」

「いや、金の亡者たちの手にかかってる作品に言われたくないし……というか今の完全に作者の私念的なもの混ざってなかった!? WBCの独占配信が見れなくてブチギレてる個人の恨みでしょ、それ!」

カズサの魂のツッコミがシャーレのオフィスに虚しく響くが、万事屋一行の耳には届かない。

カズサは絶叫したが、万事屋一行の耳にはもはや届かない。彼らは自分たちの「興行収入格差」という名の個人的な恨みを、目の前の猫耳少女に投影して盛り上がっていた。

「……そういうわけだ、超(チョー)カズサ姫。月に(天に)還る準備は出来たか?」

銀時は愛用の木刀『洞爺湖』を肩に担ぎ直し、いかにも悪役らしいニヤリとした笑みを浮かべた。

「だから還らないし、姫でもないってば!! 誰か助けて、この人たちキヴォトスの理性をどっかに置き忘れてきたみたいなんだけど!!」

夕闇が迫るシャーレの一室に、理不尽すぎる言い掛かりと、不遇な侍たちの魂の叫び(嫉妬)が空しく木霊した。

 

「いいから話を聞いて! 私、本当に、洒落にならないレベルの**ストーカー**に追われてるの!」

縄で縛られたまま、カズサは身を乗り出して叫んだ。その瞳には、ただただ粘着質な追跡者から逃げ惑う、一人のいたいけな少女としての恐怖が溢れている。

しかし、その必死の訴えを受け止めるべき「先生」はといえば、耳をほじりながら窓の外の月を眺め、ひどく感心したように頷くだけだった。

「なるほどな……。道理で俺ん家の電柱に、不自然なほどスタイリッシュに埋もれてたわけだ」

銀時は死んだ魚のような瞳をカズサに向け、さも全てを理解したといった風な、悟りを開いたような表情を浮かべた。

「ストーカーっていうか、あれだろ? 月の使者だろ? 迎えが来ちゃったんだろ? もしかして、その電柱の中に光り輝く最新式のUFOでも隠してたんじゃねーの?」

「電柱にUFOなんて隠せるわけないでしょ!? さっきから私の話、一ミリも脳みそを通過してないよね!? 脊髄で適当な返事してるよね!?」

カズサの正論(ツッコミ)は、銀時の強固な「メタ・パロディ脳」の前では無力だった。

「安心しろ……。下界のストーカーなんぞに怯える日々は、今日で終わりだ」

「……え? 助けてくれるの?」

「ああ。これからは――**月の上から覗きやがれ**。あそこならストーカーも来ねェし、お天気お姉さんの放送も衛星放送でバッチリ見れるだろうよ」

 

銀時はそう言って、ドラマチックに夜空を指差した。その姿は、一見すれば不器用な優しさを放つ侍のようでもあるが、言っている内容は「社会的な保護」ではなく「物理的な月面追放」である。

「だから違うって言ってんでしょォォォ!!」

カズサは椅子をガタガタと鳴らしながら、涙目で吠えた。

「なんで私のストーカー対策が『地球脱出』一択なの!? 月から覗くって何!? 私がストーカーになる側なの!? いい加減にしてよ、この天然パーマ!!」

キヴォトスの夜に、解決の兆しが全く見えない少女の悲鳴と、適当すぎる侍の鼻歌が、不協和音を奏でながら消えていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

翌日、トリニティ総合学園のキャンパスは、春の柔らかな日差しに包まれていた。洗練された石畳の道、手入れの行き届いた並木道、そして行き交う生徒たちの清楚な制服姿。まさに「お嬢様学校」を体現したような平和な光景の中に、どうしようもなく浮いた一団がいた。

「………………」

杏山カズサは、自身のトレードマークである猫耳を心持ち伏せながら、無言で歩いていた。その瞳には、これから起こるであろう「惨劇」を予感した、深い諦念の色が混じっている。

「本当にいるんですかねぇ、ストーカーなんて。これだけ平和な学園内で、白昼堂々そんな不埒(ふらち)な真似をする不審者が……」

隣を歩く志村新八が、ズレた眼鏡のブリッジを押し上げながら、半信半疑といった様子で周囲を見渡した。

「ストーカーっていうか……。本人には、その自覚がこれっぽっちも無いっていうか……」

カズサは溜息を吐きながら、パーカーのポケットに手を突っ込んだ。

「いや、ストーカーに自覚があればなおさらアウトっていうか……。確信犯じゃないですか。それはそれで、もう法的にヤバい領域の人じゃないですか?」

「そうだねェ〜。まぁ、昨晩の深夜に電柱の中にスタイリッシュに忍び込んで隠れてた本人も、自分をストーカーだっていう自覚が無いって言い張るんだから……。それぐらい、キヴォトスじゃ『普通』の範疇なんじゃないのかな、神楽ちゃん?」

最後尾を歩く坂田銀時が、死んだ魚のような瞳で耳をほじりながら、嫌味たっぷりに言葉を投げかけた。

「そうネ、銀ちゃん。江戸にいたあのゴリラストーカーも、自分を『愛のハンター』とか抜かして天井裏でスタンバってたし、ストーカーに自覚がある奴は、もうそれはストーカーじゃなくて『ストーキング』という名の道を究めた職人アル。ストーカーの神様アル」

「全然嬉しくない称号……。っていうか、ストーキングって動詞になっただけじゃない。……まぁ、見れば分かるわよ。すぐそこまで来てるから」

カズサが立ち止まり、キャンパスの向こう側を指差した。その瞬間、トリニティの静寂を粉々に粉砕する、あまりにも真っ直ぐで、あまりにもやかましい絶叫が響き渡った。

「ついに見つけましたよ、杏山カズサさぁぁぁぁぁぁん!!」

石畳を激しく蹴る足音と共に、一人の少女が猛然とこちらへ駆けてくる。派手な制服を翻し、重いシールドを軽々と構えたその姿は、一見すれば正義の味方のようでもあるが、その執着心は間違いなく「天災」のそれだった。

「大人しく挑戦を受けなさい! この『私』との宿命の決闘を、避けられると思わないでください!!」

白昼のキャンパスに堂々と響き渡る、あまりにも純粋で、あまりにも独りよがりな決闘の宣告。清楚な生徒たちが足を止め、困惑の視線を向ける中、当の宣告者はシールドを構え、爛々(らんらん)とした瞳で標的を射抜いていた。

「……誰アレ?」

銀時は死んだ魚のような瞳をさらに濁らせ、耳をほじりながら隣の少女に問いかけた。彼の平穏を愛する(あるいは怠惰を愛する)魂が、目の前の騒音の塊を「関わってはいけない存在」だと直感している。

「……アレは宇沢(うざわ)レイサ。私のストーカー……」

カズサは答えるが早いか、反射的に踵を返して走り出した。かつての伝説のスケバンとしての矜持(きょうじ)よりも、この「面倒」から逃げ出したいという生存本能が勝った瞬間である。

「待ちなさい! なんで逃げるんですかぁぁ!?」

「当たり前でしょォォ!!」

 

逃げるカズサ、追うレイサ。その光景を眺めていた銀時は、ついに我慢の限界を迎えたように声を張り上げた。

「ウザいからだよ、お前という存在そのものが!」

「ウザイ? 私はウザイではありません! **宇沢(うざわ)レイサ**です!!」

レイサは走りながらも、完璧な滑舌で自身の名を訂正した。その瞳には一切の悪意も嫌味もなく、ただ純粋な「事実の訂正」としての響きがある。それが、銀時の神経をさらに逆撫でさせた。

「ちょーウゼェ! めちゃくそウザいんだけどこの子!!」

銀時は頭を抱え、自身の「お天気お姉さん」に誓った平和が崩れ去る音を聞いた。

「話聞きそうにないわ、苗字にならってちょーウザいわ! 昨日のカズサに続いて、今日はお前が超(チョー)・ウザワ姫だわ!!」

「姫!? 姫とお呼びですか!? それは決闘の前の敬称ですか!?」

「絶叫の後の蔑称だよ! どっからどう解釈したらポジティブに変換されんだよ、そのウザワ脳!!」

トリニティの青空の下、逃走する猫耳少女と、それを追う絶叫少女。そして、その背後に漆黒の隊服が二つ。

一人は腰に無骨な日本刀を差し、なぜかマヨネーズの容器の形をしたライター(いや、もしかしたら本物のマヨネーズかもしれない)を手慰みに弄ぶV字前髪の男。

そしてその隣には、死んだ魚のように濁りきっていながら、同時に獲物を狙う鷹のような冷徹さを併せ持つ、端正な顔立ちの少年が立っていた。

「アレ? 土方さん。何やらアッチ側が、随分と騒がしいですぜィ」

沖田総悟は、自身のトレードマークであるサディスティックな無表情を微塵も崩すことなく、スッと指を突き出した。

その指の先には、白昼堂々繰り広げられている騒音の震源地――カズサとレイサの終わりなき追いかけっこがあった。

「ああ……?」

土方十四郎は、口に咥えたタバコの紫煙を苛立たしげに吐き出し、眉間に深い谷間のような皺を刻んだ。

彼の『真選組副長』としての鋭い嗅覚が、この平和な学園に漂う、不釣り合いな「理不尽」と「火薬」の匂いを敏感に察知している。

「ったく……。どこの自治区もガキの喧嘩が絶えねェな。おい総悟、野次馬してねェでさっさとパトロールに――」

「死ねェ、土方」

「あ?」

土方の小言が最後まで紡がれることはなかった。

振り返った先、副長の視界を完全に覆い尽くしたのは、沖田の手の中にいつの間にか(四次元ポケットから取り出したとしか思えない速度で)握られていた、無骨で巨大な対戦車ロケットランチャーの砲口だった。

「えっ、ちょ、おま――」

土方の焦燥の叫びを完全に掻き消して、鼓膜を破るような轟音がトリニティの青空に炸裂した。

**ドォォォォォォォォォン!!!!!**

突如として巻き起こった爆風と、石畳を砕いて天まで舞い上がる巨大な土煙。

その凄まじい衝撃波に、猛追していたレイサが急ブレーキをかけて足を止めた。

「だ、誰ですか! こんなところでロケランなんて物騒なものをぶちかましたのは!」

レイサはシールドを構え、土煙の向こうを警戒する。しかし、彼女の驚きは恐怖へ変わることなく、すぐに本来の(狂った)軌道へと修正されていく。

「い、いや! 止まっていてはいけません! すぐにあの爆発の犯人にも決闘を申し込まないと……待てェェェ!!」

爆発の余韻すらも自身の闘争心に変え、レイサは再び猛然と走り出そうとする。

一方、ロケランの爆音がもたらした一瞬の空白と土煙は、逃亡者にとってこれ以上ない天国からの蜘蛛の糸だった。

「た、助かった……!」

カズサは胸を撫で下ろし、背中に冷たい汗をかきながらも、爆煙を隠れ蓑にしてパーカーのフードを深く被り直す。

見知らぬ黒服たちの理不尽な同士討ち(暗殺未遂)がなぜ起きたのかは全く分からないが、今はその奇跡に感謝するしかなかった。

「悪いけど、今のうちに全力で逃げるよ!」

カズサは音を立てずに素早く踵を返し、トリニティの複雑な迷路のような校舎の裏手へと、猫のようにしなやかにその身を躍らせていった。

 

ーーーーーーーー

トリニティの優雅な白亜の校舎群から少し外れた、人目のつかない裏庭の木陰。

遠くから微かに聞こえていた爆音と怒号(主に土方の悲鳴)が完全に聞こえなくなったのを確認し、カズサはひんやりとした石壁に背中を預けて、大きく、深く息を吐き出した。

「………ここまでくれば、流石に追ってこないはず……」

乱れた息を整え、パーカーの襟元を軽く手でパタパタと扇ぎながら安堵の声を漏らす。

その彼女の横で、いつの間にか同行していた(というより、銀時たちのカオスな狂宴から一緒に逃げ出してきた)新八が、純粋な疑問を口にした。

「それにしても……カズサさん。どうしてあのレイサさんって人に、あんな親の仇みたいに追われてるんですか?」

「そうアル。アイツ、なんか『宿命の決闘』だの『挑戦を受けろ』だの、打ち切り寸前の少年漫画のライバルみたいな痛いセリフ叫んでたネ」

神楽もまた、近くのベンチにどっかりと腰を下ろし、どこから取り出したのか酢昆布をモチャモチャと噛みちぎりながら不思議そうに首を傾げる。

その二人の真っ直ぐすぎる問いかけに、カズサはズーンと目に見えるほど肩を落とした。

それは、あまり語りたくない「消し去りたい黒歴史(過去)」の扉を叩かれた者の、深い疲労感だった。

「……ストーカーっていうか、ただの思い込みの激しい一直線なバカっていうか……」

カズサは自嘲気味に息を漏らし、芝生に視線を落とす。そして、ふと気がついたように顔を上げた。

「……あれ、先生は?」

「え?」

カズサの問いに、新八と神楽が周囲を見渡す。

そこには、木陰の涼しい風が吹いているだけで、あの特徴的な天然パーマの姿はどこにもなかった。

「そういえばーー」

新八の背筋に、嫌な予感が走る。あの男が姿を消す時、それは大抵、ろくでもない事態が進行している証拠なのだから。

ーーーーーーーーーーー

その頃。

裏庭からほど近い、トリニティの生徒たちが優雅なティータイムを楽しむお洒落なオープンカフェにて。

「すみませーん、俺、いちごパフェで」

フリルのエプロンをつけたウェイトレスに、死んだ魚のような瞳で気怠げに右手を挙げている男――坂田銀時がいた。

彼は当然のようにテラス席を陣取り、メニュー表を満足げに眺めている。

「ふ、ふ、ふ。なかなか良いチョイスだ、先生」

向かいの席から、意味深な笑い声が漏れた。

短いボブヘアに絆創膏を貼り、どこか気怠げでありながらも哲学者のような深い瞳をした少女が、スプーンを片手に口を開く。

「ところで、いちごパフェというものがどういったものか、深く考えたことはあるかな? あれは単なる甘味ではない。幾重にも重なる層が織りなす、ロマンと宇宙の――」

「いちごを乗せた、糖分補給のエネルギー資源」

少女のロマンチックなスイーツ哲学を、銀時は一秒で物理的かつ身も蓋もない言葉で叩き斬った。彼の脳内では、パフェとは己の血糖値をブチ上げるためのガソリンでしかない。

「先生、先生。私のチョコミントも食べてみませんか?」

今度は銀時の隣に座る、ミントグリーンのパーカーを羽織った長身の少女が、ふんわりとした聖母のような笑顔で、アイスの乗ったスプーンを差し出してきた。

「いや、銀さんはいいかな。歯磨き粉は最後に食べるって自分の中でルール決めてるから。食後にスッキリしたい時にでももらう派だから」

世のチョコミント愛好家(チョコミン党)を敵に回す最低の暴言を平然と吐き捨て、銀時は差し出されたスプーンをひらりと躱す。そして、悪戯っぽい視線をもう一人の少女へと向けた。

「そこの……金髪チビのお前はどう? お友達が誘ってるよ? 」

「ち、ちびっ子って!!」

銀時のその一言に、金髪のツインテールを揺らした小柄な少女が、バンッ! とテーブルを叩いて立ち上がった。その勝気な瞳が、怒りで吊り上がる。

「アンタみたいな、自分の嫌いなものを他人に押し付ける子供みたいな大人に言われたくないんだけど!! そもそも私はちびっ子じゃないし! 成長期なの!!」

そう叫びながら、彼女は手元にあったパックの牛乳を、親の仇のようにゴクゴクと一気飲みし始める。

「というか見てなさい! 将来性はものすっごいんだから! あと数年したら、この学園の誰よりもナイスバディに――」

**「ちょっと待てェェェェェェェェ!!!!」**

**ビューーーーーーン!!!**

トリニティの優雅なカフェの空気を真っ二つに切り裂きながら、猛烈な速度で突っ込んできた影があった。

それは、凄まじい勢いでスライディング土下座のような体勢で滑り込んできた、志村新八である。

「ブフォォッ!?」

突然の乱入者に驚き、金髪ツインテールの少女が盛大に牛乳を噴き出した。

「お前ェェェ! 僕たちが必死こいてバズーカの爆煙から逃げて息潜めてる間に、なんで女子高生たちと優雅にスイーツ囲んで合コンみたいなことしてんだよ!!」

新八はズレた眼鏡を直すことも忘れ、顔を真っ赤にして銀時の胸倉に掴みかかった。

「おっと、危ねぇなぱっつあん。気をつけろよ……せっかくのいちごパフェが倒れちまうだろうが。それに合コンじゃねェよ、これは立派な『シャーレの先生としての生徒との交流(ティータイム)』だ。お前らこそ、いつまでかくれんぼしてんの?」

銀時は全く悪びれる様子もなく、運ばれてきたばかりのいちごパフェにスプーンを突き立てる。

「交流ってなに! 初対面の子を『ちびっ子』呼ばわりしてキレさせてるだけでしょーが!!」

「騒がしいネ。せっかく静かに酢昆布食べてたのに、新八のツッコミのせいで台無しアル」

「……もう、どこ行ったかと思えば……」

新八の後方から、ゆっくりと歩いてきた神楽とカズサがテラス席へと合流する。

呆れ顔でため息をつきながら歩み寄ってきたカズサの姿が、カフェの席に座る三人の少女たちの視界に入った瞬間。

「あ」

「あ」

カズサと、三人の少女たちの動きが、不自然なほどピタリと止まった。

「……カズサ?」

気だるげなボブヘアの少女が、目を丸くして呟く。

「カズサちゃん! どこに行ってたの?」

ミントグリーンの少女が、パッと花が咲いたような笑顔になる。

「ちょっとカズサ! あんた、こんな変な大人とどういう関係なわけ!?」

牛乳で口の周りを白くしたツインテールの少女が、ビシッとカズサを指差した。

「……うわっ、最悪」

カズサはパーカーのフードをさらに深く被り、顔を逸らして「見つかっちゃった」とでも言うように舌打ちをした。

「なにお前ら、知り合い?」

いちごパフェを頬張りながら、銀時が呑気に首を傾げる。

平穏を求めるカズサの逃避行は、どうやら自らが所属する『放課後スイーツ部』の面々と、最悪のタイミングで鉢合わせるという形で、新たなカオスへと突入しようとしていた。

この後、自らの経緯を話すとともに首を絞めることになる話はまた別の話……

 

次回に続く!!






次回 

アイリ「カズサちゃんこれって………」

神楽「キャスパリーグ?なんか厨二くさいネーミングアル……」

銀時「言っちゃダメだよ神楽、人にはそういうお年頃もあるんだよ……人類悪ビーストになりたい!って思うやつもいるだろ?」

カズサ「本当の人類赤ってやつ見てみる?」

次回  
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〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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