透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
特別企画 ブルアカ大炎上篇
薄暗い空間に、異様な緊張感が漂っていた。
部屋の中央には、白装束に身を包んだ謎の人物が正座している。その目の前には、白木の三方に乗せられた一振りの短刀。誰がどう見ても、これから腹を召そうとしている――つまり、「取り返しのつかないレベルの謝罪」が行われる直前の光景であった。
そんな重苦しい空気をぶち破るように、高笑いが響き渡る。
「キキキ、待たせたな先生諸君! 万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の羽沼マコト様だ!」
自信満々にふんぞり返るマコト。その背後から、ひどく気怠げなため息とともに赤髪の少女が姿を現した。
「……イロハです」
「イブキだよ!」
イロハのどんよりとした声とは対照的に、イブキは無邪気な笑顔で手を振る。さらに、その後ろから妖艶な笑みを浮かべた長身の少女が、悪びれもなく言い放った。
「本編初登場の、京極サツキよ」
一切の躊躇なく第四の壁を破壊したサツキをスルーし、イロハは手元の端末を操作しながら、淡々と語り始めた。
「皆さんは、すでにご存知かもしれないですけど……今、ブルアカは5.5周年という大きな節目の時を迎えています」
「そうだ! そしてついに、我々万魔殿の水着姿が満を持して登場するのだ!」
マコトが両手を広げ、己の輝かしい未来を確信したように声を張り上げる。しかし、イロハは無慈悲にマコトのドアップの画面を押し込んだ。
カシャッ
背後の巨大スクリーンにスライドが投影される。
「そう……私たちの水着イベントの開催を、完全に押し流す勢いで大炎上してしまいました」
「その原因が、コレよ」
サツキが指し示したスクリーンには、『募集のリニューアルについて』と題された無情なスライド資料がデカデカと映し出されていた。そこには「呼び出しポイントの廃止」や「呼び出しチャージ」といった、見慣れぬ文字が並んでいる。
「イブキちゃん、説明してあげて」
「うんっ! あのね、先生!」
サツキに促され、イブキが一歩前に出る。そして、その愛らしい声で、全プレイヤーを絶望の淵に叩き落とした「新仕様の地獄」をすらすらと読み上げ始めた。
「1天井分の青輝石をいーっつも一生懸命やりくりしてる先生たちからするとね、すっごく悪い変更なんだって!」
イブキの無邪気な言葉が、白装束の人物の背中にグサリと刺さる。
「新しい仕様はね、他のアプリみたいにピックアップが1人だけのゲームだったら『わーい、改善だ!』って喜べるんだけど、ブルアカは違うの。だってブルアカは、常にWピックアップで2人の生徒が同時に実装されるゲームだからね!」
「従来だったらね、200回募集する間にどっちか1人でもお迎えできたら、そのまま天井まで引いてもう1人を交換できたの。つまり、消費する石は絶対に24000個で終わってたんだよ!」
「でもね、新仕様だと……天井はあるんだけど、ピックアップ対象をお迎えできた瞬間に、それまで貯めてたポイントがリセットされちゃうの!」
イブキの純真無垢な瞳が、恐るべきガチャの真理を射抜く。
「つまり! どのタイミングで1人目を引けても、そこから運が悪かったら、最悪もう一回、追加で24000個の石を消費することになっちゃうんだって!」
「一応、新仕様にも今までになかった『ピックアップが引けなかった分のポイント持ち越し』があるんだけど……なぜか恒常キャラとフェス限定キャラでポイントの管理が別々になってて、意味不明な仕様になってるの。正直、天井分の石をしっかり貯めてから引き切る先生たちにとっては、いらない仕様なんだって!」
ズバーーーン!!!
イブキの完璧かつ残酷な解説が終わると同時に、マコトの背後に雷が落ちたような錯覚が起きた。
「……つまり」
イロハが、死んだ魚のような目でマコトを見遣る。
「今回のピックアップで、サツキさんに脳を焼かれた先生たちは……石が足りなくて、マコト先輩を引かないかもしれないってことですよ」
「なっ!?」
マコトの顔から、さぁっと血の気が引いていく。
そんなマコトに追い打ちをかけるように、サツキがクスクスと笑いながらトドメを刺す。
「おまけに、今回のアニバーサリーキャラはイロハちゃんとイブキちゃんでしょ? 先生たちの多くは、どうせこの二人を目当てに石を貯めて引くつもりだったんでしょうから、マコトちゃんを引く余裕なんて、余計にないんじゃないかしら?」
「そ、そんな……そんなこと! このマコト様が、水着に着替えてまでスルーされるなど……そんなことがあってたまるかァァァァッ!!」
頭を抱え、絶望のあまり発狂しかけるマコト。
しかし、サツキは懐から一枚の五円玉を取り出すと、それを紐で吊るし、マコトの目の前でゆっくりと揺らし始めた。
「はーい、おやすみなさーい」
「マコト様を舐めるな! 誰がそんな子供騙しの催眠術に――……むにゃ」
ドサッ
あっさりと白目を剥いて倒れ伏す万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の議長。
静まり返った部屋の中、イロハは端末から目を離し、深く息を吐き出した。
「ふぅ……コレでひと段落ですか……」
厄介払いが済んだとばかりに肩の力を抜いた、その時だった。
「ちょっと待てェェェい!!」
バンッ! と乱暴に扉が蹴り破られ、白装束――もとい、いつもの波模様の着流しを羽織った銀髪の天然パーマが血相を変えて転がり込んできた。
「来たんですか、先生」
「『来たんですか?』じゃねぇだろ! なんだよこの改悪修正!!」
イロハの氷点下の塩対応などお構いなしに、坂田銀時は巨大スクリーンに映し出されたスライドを指差して吠えた。その後ろから、チャイナ服の少女・神楽が酢昆布を囓りながらひょっこりと顔を出す。
「銀ちゃんの言う通りアル! よく見るヨ! 『呼び出しポイントの廃止』で『呼び出しチャージ』に変更? 聞こえはいいけど、要するにピックアップ生徒を引いたら天井までのカウントがリセットされる極悪非道な集金システムネ! 大人はみんな汚いアル!」
「何、銀さんたち映画以上に変な意味で炎上かましてんだよ! もういいんだよ、ケロロ軍曹のコラボとかで腹一杯なんだよ……福田組大炎上でもう十分なんだよ! ブルアカ大炎上篇開幕だよコレ!」
【挿絵表示】
頭を抱えてメタ発言のオンパレードをぶちまける銀時。その隣では、いつの間にか現れた眼鏡の少年――志村新八が、スライドを見つめながら冷静に推察を始めていた。
「そんなこと私に言われても……」
と、面倒くさそうに目を逸らすイロハに対し、新八はスッと眼鏡を押し上げる。
「節目のライブを現地(オフライン)にしなかったのも、こうして荒れるのが分かっていたからでしょうね……」
「おまけに、ガチャ発表から視聴者3万人ぐらい減りましたし」
「確信犯だったよなアレ」
「コメント欄もすっごい荒れてたアル」
新八のあまりにも鋭く、そして生々しい指摘に、銀時と神楽も深く頷く。
部屋の空気は、5.5周年の祝祭ムードから一転、さながらお通夜のような重苦しさに包まれていた。
そして、この「大炎上」の波紋は、彼らだけにとどまらなかったのである――。
> 【キヴォトス(?)各地の反応】
> 「イブキのためにガチャ石を貯めてたというのに……さぁ、ここに署名してください。『キヴォトス健全育成条例改正案』を」
> ―― フェミニスト・武市
> 「イブキィィィ!!!」
> ―― 偉大なるマコト様
> 「エリートは、どんな状況に対応できるよう常に石を準備しているもの……これもまた、エリートの嗜みです」
> ―― エリートの中のエリート
> 「石が……大暴落。変数が多すぎる…………」
> ―― ロリコンでも体重100kでもない
>
「いやそれ! ただの変人たち!!」
新八の渾身のツッコミが、虚しく万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の執務室に木霊した。
しかし、ツッコミの余韻など気にも留めず、銀時は木刀を肩に担ぎながらずんずんと前に出る。
「ツーわけだ。謝れ! いますぐそこのバカマコトの腹を十字に掻っ捌いて、全国の先生に謝罪しろ悪魔ども!!」
「ひどい言いようね。先生が生徒に向かってそんなこと言っていいのかしら?」
サツキが頬に手を当て、わざとらしく悲しげな(しかし目は全く笑っていない)表情を作ってみせる。
その横から、神楽が夜兎の怪力で机をバンバンと叩きながら同調した。
「うるさいんだヨ! ごちゃごちゃ言ってないで、そのゲヘナバクハツバカマコトをさっさと処刑しろヨ!! ギロチンにかけるアル!」
ぎゃーぎゃー! わーわー!
収拾のつかなくなった大人たちの醜い言い争いが続く。
そんな地獄のような空間で――ふと、イブキが小首を傾げて、純真無垢な瞳で銀時たちを見上げた。
「ねぇねぇ、先生たち」
「あん?」
「先生たちのゲームの『銀バト』ってあるよね?」
「……ん?」
イブキは、悪意の欠片もない、100%の純粋な声色で、恐るべき事実を口にした。
「ブルアカみたいに天井まで引いても星1とかしか出ないし、キャラクターの強化も全然できないし……みんなから『クソゲー』だって言われてるみたいだけど……先生たちは、それについて謝ったりしないの?」
「へ?」
銀時の動きが、ピタッと止まった。
時が止まったかのような万魔殿の執務室。先ほどの勢いは完全に消え失せ、冷や汗が銀時の頬を伝う。
そこに、トドメとばかりにイロハが冷ややかな視線を投げかけた。
「そういえば……このお話の『作者さん』。最近、オリジナル小説の執筆に没頭していて、こっちの二次創作の更新をそっちのけにしていたとか――」
「あー……」
「人のゲームの炎上をイジる前に、ご自分の足元はどうするんですか? 先生」
「…………」
痛いところを無慈悲なコンボで突かれ、完全にフリーズする銀時。
数秒の沈黙の後、彼は虚空を見つめたまま、急に記者会見のような真顔を作って言い放った。
「……全ては、NEXONのCEOが責任を取ります。以上です」
(スッ……)
銀時が謎の宣言をした瞬間、空中に突如として一枚のウィンドウが浮かび上がる。そこには、堂々と一つのリンクが表示されていた。
https://syosetu.org/novel/415357/1.html
「さらっと宣伝URL載せてきたァァァ!!!」
新八の今日一番の絶叫が、ゲヘナの空に虚しく吸い込まれていった。
(ブルアカ大炎上篇・完)
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深い不快足掻いて参上
苦い願い 砕いて無情
暗いCRY 湿っぽい現状
幼気な理想は一体どこ?
心の負傷
常にロードショー
夢と現実のズレで「チクショー」
そろそろでしょ?
反撃の狼煙上げましょう
したり顔する曲者たちを今度こそ返り討ちにしてやれ
LAI LAILA LAI LAI
どこまでも
LAI LAI LA LAI LAI
超えていけ
LAI LAILA LAI LAI
魂を
LAI LAI LA LAI LAI
燃やしていけ!
万の宴で舞い踊って
互い違い 迷ったダンジョン
伝え難い 孤高の焦燥
うざいくらい上がったテンション
「控えめに言って、マジ、神だね」
そう言われるほど斬新な
0点か100点のイメージ携えて切った張ったの浮世で
やんちゃに自分(おのれ)奏でましょうや
LAI LAI LA LAI LAI
どこまでも
LAI LAI LA LAI LAI
超えていけ
LAI LAI LA LAILAI
熱い血を
LAI LAI LA LAI LAI
たぎらせて!
破綻した思想を剥ぎ取る
爆ぜるか否か
覚悟を決める
その決意が本当の刃したり顔する曲者たちを今度こそ返り討ちにしてやろう
さぁさぁ皆の衆!
やっちゃって!
LAILAI LA LAI LAI
どこまでも
LAI LAI LA LAI LAI
超えていけ
LAI LAI LA LAI LAI
魂を
LAI LAI LA LAI LAI
燃やしていけ!
万の宴で舞い踊って
キヴォトスの中枢にして、絶対的な権力の象徴——サンクトュムタワー。 その威容を誇る大講堂の入り口には、『特別治安部隊対象 現場講習会』と墨文字で堂々と書かれた立て看板が設置されていた。
「俺たちの仕事ってのはなぁ、何よりも『現場』が大事なんだ」
教壇のど真ん中に陣取るのは、警察組織のトップに君臨する男・松平片栗虎。 屋内だというのにサングラスを外しもしない彼は、咥えタバコから紫煙を燻らせながら、渋みと威圧感のある低い声で語りかける。
「だが……仕事ってのは皮肉なモンで、出来るヤツから現場を離れ、人を取り仕切る側に回っていく。お前たちのように、治安維持や捜査を仕事とするヤツらは、出世するにつれて『権力』という甘い汁の味を覚えていくわけだ」 静まり返る講堂。松平はふと息を吐き、ドスの効いた声で締めくくった。 「だが、俺はお前たちを腐らせるために上に引き上げたわけじゃねェ。つまり、おじさんが言いたいのは一つだ。どんなに上に立とうとも、己の原点——『現場』を決して忘れるなということだ」
百戦錬磨の長官による、組織の真理を突いた重厚な演説。
普通ならば誰もが背筋を正し、その金言を胸に刻み込むような感動的な場面である。……普通ならば。
「流石、血税を使ってキャバクラに繰り出すエロ親父の言うことは一味違うな」
「サキ、言葉を慎んでください。仮にも本人の目の前ですよ」
会場の後方席。
RABBIT小隊のサキは、感動するどころか冷ややかなジト目を壇上のトップに向け、毒を吐き捨てた。それをたしなめるミヤコの声も、どこか諦めの色が滲んでいる。
「全く……こんな男が上で私たちの未来は本当に大丈夫なのかって不安になるぞ……」
「あー、本当だ。実際のところ、俺んとこは日々現場を這いずり回ってるっての」
サキの切実なぼやきに、隣からひどく気怠げな声が同調した。
見れば、真選組副長・土方十四郎が、講習会中であるにも関わらず堂々と腕を組み、忌々しそうに隣の席を顎でしゃくっていた。
「見ろ」
「ZZZZ……」
土方の視線の先。そこには、アイマスクを完璧に装着し、規則正しい寝息を立てて爆睡している一番隊隊長・沖田総悟の姿があった。
「デスクワークなんざ、机で寝ることだと勘違いしてるバカしかいねェからな」
土方はギリッと奥歯を噛み鳴らす。
「それに大方、ここに来てる治安部隊の連中も、コネやらゴマスリやらで成り上がった成金野郎ばっかりだろーが」
「おいトシ、滅多なこと言うもんじゃねェよ……」
周囲の冷ややかな視線に気づいた近藤が、慌てて土方を宥めようとする。
「少々、言葉が過ぎるんじゃないですか?」
ミヤコもまた、あまりにも好戦的な土方の態度に眉をひそめた。いくら何でも、他組織の幹部たちを前にして喧嘩を売りすぎている。
「気にする必要はありませんよ。放っておきなさい、エリートの雛たち」
その時、後方からひどく冷徹で、抑揚のない声が割り込んできた。
「佐々木、さん……」
ミヤコが振り返ると、そこには純白の外套を羽織った見廻組局長・佐々木異三郎が立っていた。彼は壇上の演説など一切聞く耳を持たず、最近買い換えた手元のスマートフォンを高速でタップし続けている。
「貴方たちは、私が長官になった暁には、エリートによるエリートのためのエリートな改革の上で、必要なポジションを確保させてあげましょう」
パチパチパチパチ、と無機質なフリック音が会議室に響く。
「なんなら——副流煙を撒き散らすそこのバラガキ(土方)、居眠りをするバカガキ(沖田)、ストーカー行為を続けるエロゴリラ(近藤)をクビにし、その代わりのポジションに立つなんてどうです?」
土方のこめかみにブチィッと青筋が浮かび、腰の刀に手が伸びる。
近藤が呆れたような冷や汗をダラダラと流しながら、土方の肩を両手で必死に押さえ込んだ。
そんな一触即発の事態にも、佐々木は一切動じることなくスマホから目を離さない。
「大体、前回の話(1話)で貴方たちの出番は済んだはずですよね? なぜここにいるんですか?」
「俺たちも治安部隊の幹部として呼ばれたんだよ!!」
「おや、そうでしたか。すみません。てっきり現場を這いずり回り、荒らすだけ荒らして回るカラスどもが迷い込んだのかと思いましたよ」
一切の感情を込めずに放たれる、佐々木の容赦ない煽り。
そして彼は、画面から視線を上げると、ミヤコたちRABBIT小隊の面々へ向けて、いかにも「教育者」めいた顔で語りかけた。
「皆さんは、こんなふざけた真似をする彼らのような大人になってはいけませんよ——」
佐々木が勝ち誇ったように言い放った、まさにその瞬間だった。
「ZZZZZZZZ……」
隣の席で、見廻組副長・今井信女が机に突っ伏していた。
ご丁寧に『こくご』と平仮名で書かれた教科書(どこから持ってきたのか)を枕にし、沖田と完璧なシンクロ率で意識を飛ばしている。
『G G G G G G G……』
さらにその足元では、会議室に不法に持ち込まれたダストボックスの隙間から、ミユの悲しきイビキ(プラカード表記)が漏れ出している。
「はぁ〜、やっぱりこれだよね〜」
極めつけに、モエが恍惚とした表情で大量の爆弾の起爆スイッチを愛でながら、チュッパチャプスのようなアメ玉をペロペロと舐め回していた。
もはや講習会など完全に眼中になく、各自が自由すぎる無法地帯を形成している。
「何がエリートの雛だ!! テメェらのとこも大して変わんねェじゃねェか!!!」
土方のツッコミが、サンクトゥムタワーの窓ガラスを震わせた。
しかし、信女とモエは悪びれる様子もなく、顔を上げて同時に言い放つ。
「居眠りじゃない……」
「これはれっきとした——」
「「早弁(ドーナツ / アメ玉)」」
二人の手には、ちゃっかりと食べかけの糖分が握りしめられていた。
授業をサボる不良学生の、もっともらしいが全く論理の通っていない堂々たる言い訳。
そのあまりにも舐め腐った態度に、土方とサキの堪忍袋の緒が、寸分の狂いもなく同時に弾け飛んだ。
「「どっちもろくなもんじゃねェだろ(ないだろ)!!!」」
真選組のツッコミ役と、SRTの常識人。
組織の垣根を越え、魂のレベルで完璧にハモった二人の絶叫が、厳粛なる特別講習会の会場に虚しく木霊するのだった。
「悪いが俺も寝ちゃあいねぇぜ」
土方とサキの渾身のツッコミが木霊する中、机に突っ伏していたはずの沖田が、不敵な笑みを浮かべながらスッと身を起こした。
彼は目元を完全に覆っていた真っ赤なアイマスクをゆっくりと外し、なぜか誇り高き勇者のような、堂々たるドヤ顔で言い放つ。
「休み時間友達がいないのをバレないように寝たフリしてただけさ」
「なんで勝った顔!?なんで学校あるある勝負みたいになってんの!?」
自らの悲しき「ぼっちエピソード」を、まるで名誉の勲章かのように語る一番隊隊長。そのあまりにも低次元なマウントの取り方に、土方の喉から血管がブチ切れんばかりのツッコミが飛び出した。
しかし、その声が響き渡るや否や、今度は足元のダストボックスがガタガタと揺れ出し、暗闇の底からスゥッと一枚のプラカードが掲げられた。
『私も休み時間友達がいないのをバレないようにゴミ箱のふりをしてただけです G』
「いやそんな学校あるあるないから!というかお前はいい加減口で喋れ!」
ミユの提示した、あまりにも重度すぎる社会不適合エピソード。それに伴う謎の仲間意識の芽生えに、サキはバンッと机を叩いて絶叫した。極度の人見知りから遂に「物質」へと自らをダウングレードさせてしまった仲間を前に、サキの頭痛は限界を突破しようとしている。
「大体、講習中にスマホいじってる奴の言うことなんて信用できんのか?子ウサギども」
カオス極まる部下たちから強引に視線を切り離し、土方は忌々しそうに佐々木へと矛先を向けた。
純白のエリート局長は、周囲の騒ぎなど我関せずといった様子で、未だに手元の画面を猛烈な勢いでタップし続けている。
「雛たちを惑わす真似はおよしなさい。これは講習の内容をメモしてるだけです」
「俺だって講習聞くために、タバコ吹かして頭冴えさせてんだよ!」
無表情のまま放たれた佐々木の涼しい反論に、土方も負けじと苦し紛れの大義名分をふっかける。神聖な講習会場に紫煙を撒き散らしている時点で完全にアウトなのだが、意地になっている今の土方に自覚はない。
その時だった。
超高速で動いていた佐々木の親指が、ピタリと止まった。
常に鉄仮面のように感情を排していた彼の顔に、突如としてこの世の終わりを見たような、深い絶望の影が落ちる。
「しまった爆死だ。Wピックアップにきつい害悪修正が来たせいですね」
「お前やっぱブルアカやってただけだろ!」
壇上の長官のありがたいお言葉など一切メモしていなかった。エリート警察のトップは、ただ己の欲望のままにガチャを回し、そして散ったのだ。
土方がここぞとばかりに佐々木の化けの皮を剥ぎ取り、鬼の首を取ったように指を突きつける。
すると、その騒ぎのすぐ横で、ミヤコがスッと手を挙げた。
彼女の手には、いつの間にか佐々木と同じように、横持ちにされたスマートフォンがしっかりと握られている。
「土方さん、銀バトならセーフですか?」
「アウトだ!!というかエリートの矜持どこ行った!?」
一切の悪びれる様子もなく、真顔で別のソシャゲ(銀魂のゲーム)のプレイ許可を求めてきたエリート小隊長。
完全に毒され、泥水に染まりきってしまったウサギの成れの果てを前に、土方はついに頭を抱え、サンクトゥムタワーの天井に向かって魂のツッコミを咆哮したその時、
ドン!!
鼓膜を容赦なく蹂躙する、耳をつんざくような凶悪な破裂音。
先程までのカオス極まる口論も、不毛なマウント合戦も、その鼓動を止めるほどの一撃によって完全に沈黙させられた。
パラパラと天井から剥がれ落ちる石膏の粉。立ち込める硝煙の匂い。
壇上で分厚いサングラスを光らせる警察庁長官・松平片栗虎の右手には、銃口から白煙を上げる愛銃(マグナム)がしっかりと握りしめられていた。
「オイ! うるせぇぞテメェら!」
チャカを片手に凄むその姿は、治安部隊のトップというよりも、完全に裏社会のドンである。
松平から放たれる、有無を言わさぬ絶対的な殺気。真選組も、見廻組も、そしてエリートの雛たち(RABBIT小隊)も、突如として振り下ろされた理不尽な暴力の気配にビクッと肩を震わせた。
「……3秒以内に廊下に立たねぇとドタマぶち抜く」
チャキッ、と。
背筋の凍るような金属音と共に、無骨な銃口がゆっくりと土方たち——真選組、見廻組、そしてRABBIT小隊の面々——へと向けられた。それは指導者の警告などではない。正真正銘、純度百パーセントの『死の宣告』であった。
「いち」
命のカウントダウンが始まった。
その場にいた全員の首筋に、氷の刃を突き立てられたような致命的な悪寒が走る。「3秒」という絶望的に短い猶予。急いで退避しなければ、この破壊神(トップ)はマジで自分たちの頭(ドタマ)を吹き飛ばしにくる。
土方も、サキも、スマホから顔を上げた佐々木すらも、生き残るために筋肉を反射的に収縮させ、全力で駆け出そうと身構えた——。
しかし。
ドン!ドン!ドン!ドン!
猶予など、最初からコンマ一秒すら存在していなかった。
「いち」の直後、間髪入れずに連続して轟く無慈悲な銃声。弾丸の雨が容赦なく降り注ぎ、彼らの足元の床や高価な机が、次々と紙屑のように爆ぜて木っ端微塵に吹き飛んでいく。
死の弾幕を前に、治安組織の幹部としての威厳も、エリートとしての矜持も完全に消し飛んだ。
土方はタバコを噛み千切り、佐々木はスマホを放り出し、サキは悲鳴を上げ、ミユに至ってはゴミ箱ごと高速回転しながら、全員が蜘蛛の子を散らすようにパニック状態に陥り、阿鼻叫喚の地獄絵図の中で命からがら廊下へと逃げ惑う。
そんな理不尽極まりない鉛玉のスコールから必死に逃げながら、彼らは組織の垣根を完全に越え、これ以上ないほど完璧なユニゾンで魂のツッコミを咆哮した。
「「「「2と3はァァァ!?」」」」
死のカウントダウンをコンマ一秒でスキップされた被害者たちの絶叫が、硝煙の立ち込める廊下に虚しく吸い込まれていく。
ーーーーー
「えぇ〜、ということでだ」
天井に開いた真新しい風穴からパラパラと石膏の粉が降り注ぐ中、警察庁長官・松平片栗虎は凶器のマグナムを懐にしまいながら、何事もなかったかのように葉巻を咥え直した。
「今からこの廊下に並ばされたモルモットどもに、ある現場を体感して捜査してもらう。シミュレーションだが、コイツらと一緒に頭を働かせてほしい」
「シミュレーションだか何だか知らねェが、上等だ」
まだ心臓が早鐘を打っているはずの土方が、負けじと鋭い牙を剥いて凄んでみせる。
「全く……こんな泥に塗れた人たちと、同じ土俵で比べられたくはないのですがね」
佐々木は純白の外套についた埃を優雅に払いながら、やれやれと冷ややかなため息を吐いた。
「どうして……私たちの専門は対テロ戦闘であって、しかも今回はただ理不尽に巻き込まれただけだってのに……」
そしてサキは、完全に理不尽の濁流に飲み込まれた自らの不運を呪い、顔を伏せている。
三者三様の反応が交錯する中、その後方ではさらに別の次元の会話が繰り広げられていた。
「曹操とか早いうちに倒すとテンション下がって、中華統一とかどうでも良くなる」
いつの間にか携帯用ゲーム機を取り出していた信女が、死んだ魚のような瞳でポチポチとボタンを押しながら呟く。
「じゃあ、曹操がラスボスってことで手打ちにしやしょう」
隣で同じく画面を覗き込む沖田が、歴史の事実を根底から覆す適当な相槌を打つ。
『先に魏を統一した方が勝ちってことですねG』
さらに足元のゴミ箱の隙間から、ミユが三國志ゲームに対する独自の勝利条件をプラカードで提示してきた。
「確かにシミュレーションだけれども!!」
一向にまとまらない面々に、近藤の血を吐くようなツッコミが炸裂する。
「まァ、四の五の言わずに見てな。架空の現場が、今からバーチャル映像で完全再現される」
片栗虎が指を鳴らした、その瞬間だった。
——ザザーッ……。
突如として、無機質なサンクトゥムタワーの廊下に『潮騒の音』が響き渡った。
空間が青白いデジタルノイズに包まれたかと思うと、足元の硬いリノリウム床が、きめ細やかな白い砂浜へと変貌を遂げる。肌を撫でる潮風と、磯の香り。見渡す限りに広がるのは、夏の太陽を反射して煌めく青い海だった。
「うわっ!」
近藤が目を丸くして、足元の砂をギュッと踏みしめる。
「な、なんだこれ。波の音から砂の感触まで、まるで本物みてェだ……!」
「ここはキヴォトスの中枢、サンクトゥムタワーだぞ? 最新鋭の機器が揃ってんだ」
片栗虎は得意げに鼻を鳴らし、広大な仮想空間を見渡した。
「過去のあらゆる凶悪事件、テロリズム、戦闘のデータがここに記録されている。その膨大なデータを元に構築された事件現場は、本物と何ら変わらねェよ。……さて、今回の事件のあらすじはこうだ」
長官の足元には、真っ白なブルーシート(仮想空間なのにブルーではない)が被せられた、人間サイズの『何か』が転がっていた。
「この浜辺で、身元不明の死体が発見された。第一発見者は、近所に住む『亀』だ」
「……はい?」
「竜宮城のキャバクラに戻ろうとしてたところ、コイツが浜辺に打ち上がっていたらしい」
バサッ!!
片栗虎が勢いよくシートを剥ぎ取った。
そこに横たわっていたのは——
腰に藁の蓑(みの)を巻き、髪を頭頂部で結い上げ、手には古ぼけた釣り竿を握りしめた、『どう見ても浦島太郎にしか見えない男』の遺体であった。
「オイィィィィィィ!!!」
サキの常識のダムが決壊し、鼓膜を破らんばかりの絶叫が青空にこだました。
「何だこのふざけた事件は!!」
「どんな事件だァァァ!!」
近藤も両手で頭を抱え、目を血走らせて咆哮する。
「キヴォトスの最新鋭の事件データの中に、明らかに日本の昔話が混入してんだろ!!」
「あー、そういえば聞いたことがあるね〜」
阿鼻叫喚のツッコミが飛び交う中、モエだけはアメ玉を転がしながら、至極呑気な声を上げた。
「むかしむかしあるところに、海で亀を助けた男が、数日後に浜辺で水死体として発見されたって事件が」
「マジであったの!? このハイテクな世界で、マジでそんな頭の悪い事件が存在したの!?」
近藤の精神が混乱の極みに達する。
「いや、これ完全に『浦島太郎』だろ……亀助けてるし、格好もそのまんまだし……」
サキが引きつった顔で遺体を指差す。
「サキ、いけませんよ」
しかし、ここでミヤコがスッと前に歩み出た。その瞳は、エリート捜査官としての(無駄に)鋭い光を放っている。
「そんな先入観を持って初動捜査にあたってしまっては、捜査官として完全に失格です」
「いや、そもそも私たち捜査官じゃないし!! 特殊部隊だし!!」
「ああ、この小娘(ウサギ)の言う通りだ」
あろうことか、真選組の頭脳であるはずの土方十四郎までもが、腕を組みながらミヤコの推理(?)に深く頷いた。
「そうだ。まだコイツが『浦島太郎』だと決まったわけじゃねェ。単なるコスプレ狂いの変態って線も残されてるだろ」
「いや、どう見ても浦島太郎だよね!? 第一発見者で『亀』が出てきちゃってるし!! 前提条件のすべてが完全に御伽噺のソレだったよね!?」
近藤の血を吐くような悲鳴が、ザザーッという穏やかな波の音にかき消される。
しかし、真選組の頭脳(のはず)である土方は、そんな局長のツッコミを完全なるBGMとして処理していた。彼は懐からジッポを取り出し、潮風の中で器用にタバコに火を点けると、鋭い鷹のような目で死体(浦島)を見下ろした。
「とっつぁん。被害者の死因が『溺死』だとしたら、死後数日は経ってる計算になる。その間、こんな開けた浜辺で誰にも発見されなかったってのか?」
「ああ。数日後にノコノコ現れた第一発見者の『亀』が通報するまで、ホトケはずっとここに放置されてたらしい」
片栗虎はサングラスの奥の目を細め、紫煙を吐き出しながらハードボイルドな刑事ドラマのトーンで答える。
「え、始めんの!? このバカみたいな事件、捜査し始めんの!?」
常識人の近藤がワナワナと震える横で、今度はエリート小隊長・ミヤコが顎に手を当て、名探偵のように鋭い知性をそのルビー色の瞳に宿した。
「妙ですね……。死後数日間も経過していたなら、夏の浜辺という環境下ではもっと腐敗が進行しているはずです。何より、その間たった一匹の亀以外に発見者が現れなかったという事実にも、重大な疑問が残ります」
「オイ!! ミヤコ、お前今思いっきり『浦島』って言っただろ! 完全に童話の登場人物だって認めた上でプロファイリングしてるだろ!!」
サキがバンッと見えない机を叩く勢いで吠える。
しかし、土方とミヤコの『名探偵モード』はもはや誰にも止められない。
「第一、『竜宮城』ってなんだよ。海中の建造物だとしたら、塩水の腐食作用ですぐに建材がダメになるはずだ。水圧の計算も合わねェし、そんな違法建築物が海の底にあること自体……」
土方は眉間に深いシワを刻み、未だかつてないほど真剣な顔で『おとぎ話の建築工学と物理法則』についての矛盾点を洗い出し始めていた。
「確かに、妙だな」
「そこツッコむの!? 今さらながら、そこから論理的にツッコんでいくの!?」
ファンタジーの概念を根底から否定する土方に、近藤が目を剥く。
「とっつぁん、第一発見者である『亀』の犯行当日のアリバイは」
土方が低く、静かな声で尋ねる。
「『海水浴』だそうだ」
片栗虎が短く答えた。
「…………」
「どんな状況なの!? 海亀のくせにレジャー感覚で海水浴楽しんでたの!? それとも何、そういうホラーな暗喩なの!?」
近藤の背筋に、得体の知れない悪寒が走る。
その瞬間。
沈黙した土方とミヤコの優秀すぎる脳裏に、ある恐るべき『最悪のシナリオ(仮説)』がフラッシュバックのように閃いた。
——暗く冷たい、深海の底へ。
『助けていただいたお礼に、竜宮城へご案内します』
そう言って背中に男を乗せた亀が、一切の酸素供給手段(ダイビング機材)を与えずに、無慈悲な速度で海中へとダイブしていく光景。
ゴボッ、ゴボボボッ……!!
肺を海水で満たされ、白目を剥いて絶命していく浦島太郎。そして数日後、証拠隠滅のために「溺死体」として浜辺に投棄し、あえて第一発見者を装う知能犯のサイコパス亀——。
「とっつぁん」
土方は咥えタバコをポロリと砂浜に落とし、ゴクリと生唾を飲んだ。
「……亀のアリバイに偽装工作の可能性がある。再確認のため、徹底的な事情聴取を頼む」
「ついでに、肺に残っているプランクトンの種類と、正確な死亡推定時刻も再度洗い直してみてください。……おそらくこれは、極めて計画的で残忍な殺人事件です」
ミヤコもまた、戦慄に純白のウサギ耳をブルブルと震わせながら、童話の欠片もないダークすぎる推論を口にした。
「どんな恐ろしげなサスペンス妄想してんだお前ら!!」
サキの肺活量が限界を迎えた絶叫が、美しい仮想現実(バーチャル)の海へと虚しく吸い込まれていった。
「塩水が死体の腐敗を遅らせ、見事に防いでいたとするなら……この不可解な遺体の状態も納得がいきます」
ミヤコは顎に手を当て、ルビー色の瞳に名探偵のごとき鋭い光を宿した。エリート特殊部隊としての戦術的思考が、完全に『架空の殺人事件のプロファイリング』へと無駄に全振りされている。
「あァ。それも、体の中にも大量の海水が入っていたとするならな」
土方はくわえタバコの煙をふぅと吐き出し、ハードボイルドな刑事を気取って目を細めた。
「つまり――犯人は、『亀』だ」
「これなんつー昔話!?」
近藤の血を吐くようなツッコミが美しい仮想の浜辺にこだますが、土方の暴走する推理はもう誰にも止められない。
「おそらく殺意があったわけじゃねェ。故意じゃない、不運な事故(アクシデント)だ。だからこそ奴は、己の生態と『海』という広大な密室を最大限に活かしたアリバイ工作を――」
「――それは違いますね」
緊迫(?)する捜査会議を切り裂いたのは、ひどく冷徹で、どこまでも上から目線な声だった。
振り返ると、純白の制服を潮風に揺らす見廻組局長・佐々木異三郎が、エリート特有の優雅な足取りで砂浜を歩み寄ってくるところだった。
「どうやら『浦島太郎』という強固な御伽噺の呪縛に縛られているのは、あなたたち二人のようだ。それ故に、一番大事な証拠を見落としたのです」
「なに?」
土方が眉根を寄せ、ミヤコもまた怪訝な顔で佐々木を見上げる。
「なんの証拠ですか? 佐々木さん」
「お二人は、『溺死した男』と『第一発見者の亀』……これらの初期情報が頭の中で大きすぎるインパクトとして残ってしまい、この死体が『浦島太郎の物語の冒頭で起こった悲劇』であると思い込んでしまった」
佐々木は無表情のまま、一つ溜息をついた。
「だが、それは決定的な間違いだ。なぜなら――」
佐々木はスッと指を突き出し、物語の根底を揺るがす残酷な真実を口にした。
「亀は人語を話せないのに、なぜ彼は『亀が恩返しをしてくれる』と理解できたんですか?」
「いや、今更そこツッコむの!?」
近藤が両手で頭を抱え、鼓膜を破らんばかりの絶叫を上げる。
「いろんな物語の根幹に関わるような、絶対に触れちゃいけないファンタジーの絶対領域(タブー)に、このタイミングでツッコむの!?」
「「なっ……!!」」
佐々木の残酷なメタ視点推理を聞いた土方とミヤコは、雷に打たれたように目を見開き、息を呑んで硬直した。
「なんで、一番衝撃受けた顔だ!!」
あまりにもアホすぎる二人の反応に、サキの堪忍袋の緒が完全に弾け飛ぶ。
「彼の遺体をよく観察しなさい」
怒号が飛び交う中、佐々木は一切のペースを崩さず、足元の死体へと視線を落とした。
「この若い骨格でありながら、完全に真っ白になってしまっている頭髪。そして何より、彼の傍らに転がっている『すでに開けられた形跡のある箱』を見るに……彼はすでに、乙姫と呼ばれる女性から『玉手箱』を受け取った後であることがわかります」
佐々木は白手袋の指先で、見えない眼鏡をクイッと押し上げるような仕草をした。
「つまり、この事件は物語の始まりではない。全てが終わった後(エピローグ)の話なんですよ」
「じゃ、じゃあ……なんで彼は、全身ずぶ濡れだったんですか?」
ミヤコが戸惑いながら尋ねる。玉手箱を開けて老人になったのなら、陸地の上のはずだ。
「彼の浜辺での位置を見てください」
「位置……波打ち際……潮……まさか――!」
ミヤコの赤い瞳が見開かれる。
「そう。彼は、満潮時には海に完全に埋もれてしまい、干潮時には浜辺に露出する――そんな絶妙な位置で亡くなってしまったのです。だからこそ、第一発見者の亀が現れるまで死体の発見が遅れ、なおかつ塩水による防腐処理で腐敗も目に見えるように進まなかった」
「いや、どんな天文学的ミラクル!?」
サキが空に向かって吠える。
「余計事件がややこしくなってんだけど!?」
近藤も砂浜を転げ回らんばかりに頭を抱えた。
「ですが、おかげで犯人は一人に絞り込めましたね」
周囲の喧騒をBGMに、佐々木は勝ち誇ったように唇の端を歪めた。
「すでに開けられた箱が現場に残されている以上――『乙姫さま』が真犯人です」
「な、なんだって……!?」
「一般的に、玉手箱は『絶対に開けてはいけない』と乙姫が手渡したと言い伝えられています。……しかし、おそらく彼は、乙姫が想像する以上に女癖が悪かったのでしょう。竜宮城での度重なる浮気に激怒した乙姫は、玉手箱の煙の中に、あらかじめ致死性の毒ガスを仕込んでいたのです。すべては、この憎きプレイボーイを暗殺するために」
「浦島と乙姫、とんでもない極悪人に仕立て上げたよこのエリート!!」
子供たちの夢を粉々に打ち砕く昼ドラ顔負けの愛憎劇に、近藤が涙目で抗議する。
「長官。この玉手箱の中の残留ガスを、大至急科捜研に回して――」
佐々木が完璧な推理の仕上げに入ろうとした、その時だった。
「――待ちな」
砂を擦る気怠げな足音と共に、けだるそうな声が割り込んできた。
佐々木が「ん?」と視線を向けると、そこには、いつの間にかアイマスクを額にずらし、鞘に収まった刀を肩に担いだ一番隊隊長・沖田総悟が、ひどく薄ら寒いサドッ気を孕んだ笑みを浮かべて立っていた。
「アンタこそ、『浦島』って名前の呪縛に縛られて……一番肝心なところを、すっかり見落としてんじゃないかい?」
「海じゃ、毒ガス作れねェ」
それは、まるで世紀の大発見を世界に向けて発表する天才学者のような、一切の迷いもない完璧なドヤ顔だった。
潮風に髪をなびかせながら一番隊隊長・沖田総悟が放ったその言葉に、数秒の静寂が落ちる。
「ドヤ顔で、極めて普通のこと言ったァァァ!!」
近藤の喉がちぎれんばかりのツッコミが、仮想空間の青空にこだました。
「大丈夫なのかコレ!! さっきから推理のレベルが段々バカになってきてるんだが!?」
サキもまた、加速度的に低下していく捜査官たちのIQに耐えきれず、頭を抱えて絶叫する。
「なっ……!」
しかし、驚くべきことに見廻組局長・佐々木異三郎は、その当たり前すぎる物理の真理に目を見開き、信じられないものを見たかのように息を呑んでいた。
「そしてなんでアンタが衝撃受けた顔してんだ!!」
近藤の血圧はすでに危険水域を突破している。
「つまり、真犯人は乙姫でも亀でもねェ。海に無関係な陸の連中……あのいじめっ子たちってことになるな」
沖田は顎に手を当て、名探偵さながらの鋭い視線で虚空を睨む。
「いや、奴らにも致死性の毒ガスを生成する化学的知識なんて絶対に無理だろ!」
サキの至極真っ当な反論。しかし、そこに思わぬ横槍が入った。
「それは違うんじゃない?」
「……あなたたちは、『浦島太郎』という強固な概念に縛られるあまり、一番大切なものがなにも見えなくなっている」
声の主は、アメ玉を転がすモエと、死んだ魚のような瞳をした信女だった。
さらに足元では、ダストボックスの隙間からミユが新たなプラカードをスッと掲げている。
『ここに犯人は、いません G』
「んだと?」
沖田が怪訝な顔で眉をひそめる。
「なんで、この不可解な現場に犯人がいねェと断言できるんでィ」
沖田の問いに対し、モエ、信女、そしてミユ(ゴミ箱)の三人は、顔を見合わせることもなく、一切の感情を排した無機質な声で、完璧に声を揃えて言い放った。
「「『めんどくさいから』」」
「最終的に『めんどくせェ』の一言で済ませやがったァァァ!!」
近藤はついに膝から崩れ落ち、砂浜を両手でバンバンと叩いた。
「推理でも何でもない! ただの職務放棄だ! そりゃ衝撃も受けるわ! そんな顔にもなるわ!!」
「まァ、いずれにせよ過去の事例だ。容疑者たちから直接の事情聴取を取れねェなら、物証に頼るしかねェか」
部下たちの極度の怠慢を強引にスルーし、土方がタバコの灰を落としながら仕切り直す。
「すみません、長官」
ミヤコが小隊長としての凛とした表情を取り戻し、片栗虎へと向き直った。
「その遺体の検死結果はどうなっていますか? 解剖記録を見れば、本当の死因が科学的に証明されるはずです」
「あぁ、お嬢ちゃん。残念ながら、外傷も内臓も特に目立った特徴はなくてなァ〜」
片栗虎が軽い口調でそう言いながら、空中に一枚のレントゲン写真をホログラムで投影した。
そこには、浦島の頭蓋骨のX線写真が映し出されていたのだが——その脳のシルエットは、通常の人間サイズの約五倍、今にも頭蓋骨を突き破らんばかりのエイリアンのような異様な肥大化を遂げていた。
「いや完全にそれだろ!! 脳の肥大化!! どう見ても未知の何かに寄生された結果だろソレ!!」
誰の目にも明らかな死因(異常事態)を前に、近藤が白目を剥いて絶叫する。
「コレだから凡人は困る。それは寄生などではない……『薬物』による異常反応です。彼が竜宮城で貪った豪勢な食事に、遅効性の劇物が混入されていたんですよ」
佐々木はフッと鼻で笑い、優雅に白手袋の指を鳴らした。
「男という生き物は、すべからく凡人であり獣(ケダモノ)でしょ。そんな獣の裏切りに絶望した……やはり乙姫が真犯人だ。私は正しかった。エリートは正しかった。エリート万歳」
「いや、どんだけ乙姫を犯人に仕立て上げたいんだよこのエリート!!」
サキが空に向かって魂のツッコミを咆哮する。
「アホか! そんな劇薬入りの食事なんかして、帰路の数日間をまともに生活できるわけねェだろ!」
土方が佐々木の論理を真っ向から一刀両断する。
「帰りがけの海中で、奴は未知の深海微生物に寄生されて死んだんだよ! 亀の安全管理義務違反による、業務上過失致死だ! やっぱり亀が犯人だ、俺は正しかった。マヨネーズ万歳」
「お前、さっき自分で『竜宮城なんて海中にあるわけない』って存在自体を否定してたよね!? 前提条件ブレブレじゃねーか!!」
マヨネーズ万歳という謎の祈りと共に繰り出される土方の推理に、近藤が涙声でツッコミを入れる。
しかし、両組織のナンバー2同士による意地の張り合いは、もはや止まらない。
「乙姫です」
「亀だ」
「乙姫です」
「亀だ」
「亀の乙姫です」
「乙姫の亀だ」
あまりにも不毛すぎるラリーの果てに、二人のエリートの脳細胞はついに融解し、完全に意味不明な概念を生み出し始めた。
「……それ、ただの亀ですよね?」
ミヤコが、氷点下の温度を持ったジト目で、静かに、そして残酷な事実を突きつける。
「まァまァ。分かりやしたよ」
見かねた沖田が、ポンと手を打って二人の間に割って入った。
「この際、二人の間をとるってのはどうですかい?」
「間をとる……?」
土方と佐々木が同時に首を傾げる。
その疑問に答えたのは、チュッパチャプスを口からポンッと引き抜いたモエだった。
彼女は悪戯っぽく笑いながら、この世で最も冒涜的な推理を口にした。
「つまり、真犯人は——『乙姫と亀の間に生まれた子供』ってことで」
「どんな狂ったプレイかましてんのその二人(一人と一匹)!?」
種族の壁も倫理も童話の美しさもすべてを粉砕する最悪のキメラ創造に、近藤勲の今日一番の悲鳴が、キヴォトスの空高くへと吸い込まれていく。
カコン、と。
またしてもゴミ箱の蓋が開き、暗闇の中から新たなプラカードがスッと掲げられた。
『じゃあ、OTOHIMEBEAVERの「亀」が犯人ってことでいいんじゃないですか G』
「SUPERと「燦然」どこいった!?」
サキの喉が限界を迎え、血を吐くようなツッコミが炸裂する。
もはや推理でもなんでもない、ただの大喜利と化した惨状。
しかし、見廻組局長・佐々木異三郎だけは、誰よりも真剣な顔で純白の制服を翻し、ビシッと片栗虎に向かって指を突きつけた。
「こうなったら、白黒はっきりつけましょう」
その声は、法廷で最後の切り札を切る天才弁護士のように冷徹で、自信に満ちていた。
「長官、どなたでも結構です。彼らの関係性を深く知る者と、直接話をさせてください」
「あー、奴らなら――ここだ」
片栗虎は咥え葉巻の煙を吐き出しながら、手元のコンソールを操作した。
ピーッ、という電子音と共に、空中に投影されていた浦島太郎のX線ホログラムが『頭部』から『腹部』へとスライドする。
そして、その胃袋のあたりを拡大表示した瞬間――その場にいた全員が、息を呑んで絶句した。
——お腹の中に、たくさんの卵が。
レントゲン写真の胃袋の中には、消化されきっていない無数の丸い球体……どう見ても『亀の卵』としか思えない物体が、ぎっしりと詰まっていたのである。
「普通に子供殺ってるじゃないか!!」
サキが青ざめた顔で絶叫した。
「なんだよこのサイコパス浦島!! 亀に恩返しされた帰り道で、その亀の卵を大量に腹に詰め込んでた!? ただの極悪人じゃないか!!」
誰もが浦島の非道な本性に戦慄する中、佐々木だけは違った。
彼はハッと目を見開き、見えない眼鏡をクイッと押し上げるような仕草をすると、深く、どこまでも重々しい声で呟いたのだ。
「……いや、違う。これは……なるほど、そういうことか」
「は?」
土方が怪訝な顔をする。
「彼は、見てしまったのですよ。竜宮城での、部下たちの非人道的な扱いを……。華やかな宴の裏で使い潰される海の生き物たち。あまりのブラックな働きぶりに、浦島はここ(心)を痛め……」
佐々木の語り口は、まるで一編の悲劇の映画を読み上げるかのように、哀愁を帯びていく。
「助けた亀の子供たちも、産まれてくれば、このような過酷な未来しか待っていないのだと哀れんだ。だから彼は、いっそのことここで……この卵たちが世界の残酷さを何も知らないまま、自らの手で殺してしまおうと考えたのです」
ざわっ、と。
仮想空間の海風が、悲しい潮騒の音と共に吹き抜けた。
「そして――卵を……」
自らの命と引き換えにしてでも、未だ見ぬ命をブラック企業(竜宮城)の呪縛から救おうとした、不器用すぎる男の哀しき鎮魂歌(レクイエム)。
「嘘だろ……」
そのあまりにも飛躍しすぎた、しかし謎の説得力を持ってしまったエリートの妄想推理を聞き、近藤勲の目からホロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「こんな馬鹿げた事件に……こんな、悲しい結末が待ってたなんて……」
たかがバーチャル空間のバグじみたギャグ事件。
しかし、その場にいた誰もが謎の感動に包まれそうになった、その時だった。
「……これが、現実と理想の違いって奴なんですかね」
凛とした、しかしどこか憂いを帯びた鈴を転がすような声。
振り向くと、エリート小隊長・ミヤコが、潮風に純白の髪をなびかせながら、水平線の彼方を見つめていた。
そのルビー色の瞳には、先ほどまでの「虚無」はない。
あるのは、自らの過去の過ちと、残酷な世界に立ち向かうための『確かな覚悟』だった。
「私たちが起こしたテロも……受け入れ難い事実に目を背けていたことが原因で、起こったことでした」
彼女の脳裏にフラッシュバックするのは、SRT特殊学園の崩壊、キヴォトスでの逃亡生活、そして先輩たち(FOX小隊)との悲しきすれ違い。
「先に進むためにも……私たちは、それを学ばないといけない」
ミヤコは胸に手を当て、自らに言い聞かせるように、強く、言葉を紡ぎ出す。
夕陽(仮想)の光が、彼女の横顔を美しく、神々しいまでに照らし出していた。
悲壮な決意を胸に、世界の不条理(ブラック企業と亀の卵)を乗り越え、真の正義へと至らんとする少女の、完璧すぎる成長のワンシーン。
「つまり、この事件の真相は……過酷な未来を哀れみ、自らの手で子供(亀の卵)を殺してしまったという、深き罪を背負った浦島太郎の……悲しき自殺——」
感動のフィナーレ。
誰もがその美しい結末(?)に息を呑み、静かに涙を拭おうとした、まさにその瞬間だった。
「ブッブー」
気の抜けた、あまりにも場違いな音声。
いや、効果音ですらない。松平片栗虎が、自らの口で直接発した無慈悲な不正解(エラー)の通知だった。
「………え?」
ミヤコの頭の中で鳴り響いていた壮大なオーケストラBGMが、レコードの針を乱暴に引っこ抜かれたような音と共に急停止する。彼女は美しい夕陽に照らされたまま、完全に間抜けな声を出して固まった。
片栗虎は咥えていた葉巻を灰皿に揉み消すと、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべてマイク(どこから出した)を握った。
「いやぁ、惜しい! いいところまで行ったんだけどな〜」
「浦島太郎の『自殺』ってのは合ってるよ? ただ……」
片栗虎が手元のコンソールをターンッ!と叩くと、空中のホログラムがパッと切り替わった。
そこに映し出されたのは、海亀の背中などではなく、薄暗い路地裏で焦点の合わない目をバキバキに見開き、口から泡を吹きながら謎の粉末を吸引している浦島太郎(防犯カメラ映像)であった。
「◯薬(ヤク)の強烈な幻覚症状で、頭ん中が完全な『ヒャッホー状態』になっちまって、そのままのテンションで海にダイブして物理的に昇天した……ただのジャンキー浦島太郎です」
「「「「「…………………」」」」」
「全ては、質の悪い売人に騙されて、大量の◯薬で脳味噌ぶっ飛ばされた結果、『竜宮城に行った』などと奴が勝手に勘違いして見ていたに過ぎねェ……まやかし(幻覚)だ」
片栗虎はカラカラと笑いながら、キヴォトスと江戸の治安を守るエリートたちに向けて、身も蓋もない現実を突きつけた。
「まァ、本場の昔話の真実なんて、裏を返せば大体こんなもんよ〜」
そして、仮想空間の空に備え付けられた巨大スピーカーから、長官の気の抜けた声が、エコー付きで高らかに宣告される。
「てなわけで、本当の死因は……『◯薬の過剰摂取(オーバードーズ)』でーーす!」
(でーーす……でーーす……でーーす……)
無機質なエコーが、美しい夕陽の浜辺に虚しく木霊していく。
ザザーッ、と寄せては返す波の音だけが、やけに鮮明に鼓膜を打った。
「「「「「…………………」」」」」
沈黙。
それは、宇宙の始まりから存在していたかのような、圧倒的で絶対的な『無』の時間だった。
土方の名推理も、佐々木の悲劇的解釈も、モエのキメラ説も、そしてミヤコの『正義への悲壮な覚悟』も。
すべては、一人のヤク中が見た幻覚(バッドトリップ)の前に、チリとなって消え去ったのである。
ウサギ耳を完全にへし折られ、白目を剥いて石化したミヤコ。
口からタバコをポロリと落とした土方。
スマホを握る手が空中で完全にフリーズした佐々木。
そして、あまりの衝撃にプラカードを描くマジックのインクをポタポタと漏らし続けるミユ。
数分前まで真面目に「卵が〜」だの「乙姫が〜」だのと熱弁を振るっていた自分たちの姿がフラッシュバックし、全員の顔から急速に血の気が引いていく。
(私たち/俺たちは……ヤク中が見た幻覚に対して、本気で同情して涙を流し、勝手に成長の糧にしようとしていたのか……?)
誰も口を開くことはできなかった。
バーチャルの海風が、彼らの失われた尊厳と知性を、ただただ優しく撫でていった。
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
-
銀時
-
新八
-
神楽
-
沖田
-
土方
-
山崎
-
高杉
-
桂
-
定春
-
エリザベス
-
ホシノ
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シロコ
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ヒナ
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アコ
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ミカ
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ナギサ
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セイア
-
ユウカ
-
ノア
-
近藤