透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
「あーもうクソッ! なんだよこのガチャァァァ!!」
万事屋の居間に、親の仇でも見るかのような形相でスマートフォンを睨みつける坂田銀時の絶叫が響き渡った。
「どうしたんですか?」
呆れ顔でメガネの奥から視線を送る新八に対し、神楽はソファに寝転がりながら鼻をホジホジして言い放つ。
「どうせ、またガチャ爆死とかそういうのアル」
「見ろよ……この無惨なガチャ結果をよォ……」
血の涙を流さんばかりの銀時からスマホを受け取った新八は、画面に並ぶ生徒たちの顔ぶれを見て、思わず「うわっ……」と顔を引きつらせた。
「無料100連のマコトさんガチャですり抜けた上に、散財した残りの石で引いた60連。合わせて160連の結果が……水着verノノミにメイドアリス、クリスマスハナエさんにパジャマコユキって……。見事なまでのすり抜け爆死ですね」
「ざっけんなよ! なにが50パーだ!! なにが適当に引くやつはお得だよ!!!」
銀時は頭を掻きむしりながら、ガチャの確率と己の運の無さへの怒りを爆発させる。
「俺の目当ての催眠お姉さん(サツキ)出てこなかったじゃねぇか!!」
「生徒のこと『お姉さん』呼びとか、正直キツいアル……しばらく私に近づかないで」
ガチでドン引きした神楽が、あからさまにジリジリと距離を取った。
そこへ、静かな声が割り込んでくる。
「……残念でしたね」
「イロハさん! それに――」
「イブキだよ!」
いつの間にか部屋に上がり込んでいた万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の二人。イロハのどんよりとした労いの言葉を遮るように、イブキが満面の笑みで自分のスマートフォンを掲げてみせた。
「ねぇねぇ、見てみて! 先生たちのゲームの『銀バト』で出たんだよ! 0.5周年記念キャラの白夜叉先生!」
「星4で出てきました。普段の姿からは想像もつかないほどカッコいいので、とりあえずホーム画面に設定してます」
淡々と、しかしどこか誇らしげに語るイロハの画面には、銀時のかつての異名「白夜叉」の勇ましい姿が輝いていた。
目当てのキャラを引けず絶望する男の目の前で繰り広げられる、圧倒的な「神引き」の報告。
悲しきガチャの業とすれ違いは、こうして次元を超えて交差していくのだった――。
「あー……あー良かったねぇ。オタクらは神引きして、ホーム画面に俺のイキってた頃の姿をお迎えしてくれてさ……」
やさぐれた銀時は、己のスマートフォンの画面――『ブルーアーカイブ』のホーム画面に恨めしそうな視線を落とす。
そこには、銀時がガチャで爆死して青輝石を溶かし尽くしたことを咎めるかのように、机に頬杖をたてる一人の生徒の姿があった。
「こっちのホーム画面なんてアレだよ。毎度毎度、ログインするたびに『先生、この領収書は何ですか?』って家計簿の取り調べしてくる太ももだよ……!」
「銀さん、銀さん」
「ああ!? なに!?」
八つ当たり気味に振り返る銀時の袖を、新八がツンツンと引っ張る。
その視線の先には、いつの間にか万事屋の居間に佇む、見慣れぬ人影があった。
「何気に本編初登場の――」
「作者にして、時代に遅れている男……骨山仙人です」
現れたのは、仙人と名乗るにはあまりにも貧相な、ひょろひょろの人物だった。
「仙人っていうか、ガリガリアル」
「ガリガリっていうか、もう骨だよね!? アンパンマンに出てくるホラーマンだよね!? 骨山の『骨』ってそういうこと!?」
神楽の辛辣なツッコミに、銀時も全力で乗っかる。
しかし、骨山仙人は二人の暴言など意に介さず、仙人のような(あるいはホラーマンのような)穏やかな笑みを浮かべて、静かに口を開いた。
「すみません。ちょっとご報告がありまして」
「あ?」
「今回のガチャですが……無料100連の範囲内で無事にサツキを当てまして。さらに10連チケット6枚を使って、推しのパジャマユウカと、水着のイブキ&イロハを全員お迎えしました」
「…………は?」
「つまり、石の損害はゼロでした。私の貯めていた3万個の青輝石は、完全に無傷でーー」
ピキッ。
銀時の頭の中で、何かがへし折れる音がした。
己はすり抜け地獄を味わい、なけなしの石を砕いて爆死したというのに。
目の前の骨(作者)は、無料分と配布チケットだけで全ピックアップ対象と推しをコンプリートし、あまつさえ3万の石を温存しているという、圧倒的かつ残酷なガチャ格差。
数秒の沈黙の後、万事屋の屋根を吹き飛ばすほどの悲痛な叫びが、かぶき町に響き渡った。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
夕暮れ時の赤々とした陽光が、キヴォトスの一角にあるうらぶれた公園——SRT特殊学園・RABBIT小隊の仮設拠点を、長く物憂げな影で覆っていた。
滑り台の錆びた金属の匂いと、微かに揺れるブランコの軋む音が響く中。
パイプ椅子の上にふんぞり返り、さも「過酷な試練を乗り越えさせた恩師」のような堂々たる態度で鼻をほじっているのは、万事屋の坂田銀時だ。
「で、どうだった? 二日間の職場体験(地獄)は。身をもって、社会への貢献がいかに大事か学んだ感想はよォ」
銀時は、自身のやらかした数々の蛮行を完全に脳内から消去(デリート)したかのような、清々しいまでのドヤ顔で問いかけた。
その言葉に対し、小隊長であるミヤコは静かに顔を上げる。
彼女のルビー色の瞳からは、もはや怒りも悲しみも消え失せ、底なし沼のような『完全なる虚無』だけが横たわっていた。
「……ええ。あなたたちからは、大変多くのことを学ばせてもらいました……」
抑揚の一切ない、まるで呪詛を唱えるような冷たい声。
しかし、他人の感情の機微を都合よく解釈することにかけては宇宙一の才能を持つ銀時は、その言葉を額面通りに受け取り、満足げにウンウンと頷いた。
「そうかそうか。まァ、可愛い子には旅をさせよって言うしな。じゃあ、具体的にどんな素晴らしい社会の真理を学んだか、先生にレポートとして説明しなさーい」
銀時が教師気取りで手をヒラヒラと振ると、ミヤコの隣で腕を組んでいたサキが、汚物を見るような、ひどく冷めきった視線を真っ直ぐに突き刺してきた。
「そうだな……。お前たち大人は、例えるな『道に落ちてる手袋』みたいな奴だったってことかな」
「……そうか、そうか。道に落ちてる手袋ね。なるほど、なるほど………」
銀時は数秒間、その言葉の意味を脳内で反芻し——やがて、額にピキィィィンと青筋を浮かび上がらせて、パイプ椅子から勢いよく立ち上がった。
「ってオイ!! どういうことだそれ!!」
公園の鳩が一斉に飛び立つほどの、鼓膜を破らんばかりの大絶叫。
「道に落ちてる手袋ってアレだろ!? 片方だけで哀愁漂ってて、誰の持ち物かも分かんねェから触りたくもないし、ただアスファルトの上で車に轢かれてペチャンコになってるアレだろ!? それ、限りなくゴミに近いっつーか、完全にゴミそのものじゃねェか!!」
ゼェゼェと肩で息をする銀時。
すると、ミヤコが「はっ」としたように小さく息を呑み、ペコリと深く頭を下げた。
「すみません、不適切な例えをしてしまいました。間違えました」
「お、おう。分かればいいんだよ分かれば。ったく、言葉ってのは刃物だからな、ちゃんと選んで——」
「正しくは……『アイスの蓋を舐めずに捨ててしまった』みたいな感じでした」
「いや、だからゴミだよねそれ!? 結果的に捨ててるよね!?」
銀時の喉から、本日何度目か分からない血を吐くようなツッコミが炸裂する。
「なんだその例え!? ちょっとだけ勿体ない気もするけど、ベタベタしてて結局邪魔だからゴミ箱にポイってする時の、あの絶妙な『見切りをつけた感』! ゴミまみれだよね!? 俺たち、お前らの中で完全に『ベタつくゴミ』として処理されてるよね!?」
「「「………………」」」
ミヤコとサキは、一切否定することなく、ただ静かに視線を逸らした。その後方では、モエが「あははっ、ウケる」とチュッパチャプスを転がしながら、他人事のように笑っている。
その時だった。
——カコン。
公園のベンチの脇に置かれていた、市指定のスチール製ゴミ箱。
その蓋が、内側からゆっくりと数ミリだけ持ち上がり、暗闇の中から低く澱んだ声が這い出してきた。
『……呼びましたか、G』
「呼んでねェーよ!!!」
銀時はついに両手で頭を抱え、自身の髪をグシャグシャにかき毟りながら、ダストボックスに向かって吠え面をかいた。
「お前はいつまでそこに引きこもってんだ! いい加減そのゴミ箱から出てこい!! アフロの呪縛(Z)から解き放たれろォォォ!!」
しかし、銀時の魂の叫びも虚しく、ゴミ箱の蓋はパタンと無情に閉じられた。
中からは、カサカサという謎の蠢く音と共に、『私はここで光合成を続けますG……』という、哺乳類としての尊厳を完全に放棄した呟きが漏れ聞こえてくるだけだった。
「……はぁ」
ミヤコは深く、ひどく疲労の入り混じった溜息を吐き出すと、夕陽に照らされた銀時を真っ直ぐに見据えた。
「分かりましたか?これが、私たちがこの二日間で得た『学び』のすべてです。大人は決して絶対ではないし、時に理不尽で、時に子供以下の知能に成り下がる。……私たちは、もう二度と大人の甘い言葉(ボランティア)には騙されません」
純白のウサギ耳をピンと立て直し、ミヤコは小隊長としての毅然とした態度で宣言する。
「私たちRABBIT小隊は、自らの足で立ち、自らの手で正義を成し遂げます。……ですから、もう二度と私たちに関わらないでください。これは、最終通告です」
そう言って背を向けた少女たちの背中は、数日前よりもほんの少しだけ、逞しく(あるいは世の中への不信感で分厚く)なっているように見えた。
夕暮れの風が、公園の砂埃を微かに巻き上げた。
「……可愛げのねェウサギどもだ、全く」
取り残された銀時は、やれやれと首を振りながら、夕焼け空に向かって大きく息を吐き出す。そして、着流しの懐からペラリと一枚の小さな紙切れを取り出した。
ピラ……。
無造作に指先から放たれたそれは、風に乗って少女たちの足元へと舞い落ちる。
「最終レポートだ。やるかやらねェかはテメェら次第。俺ァこれ以上関わらねェよ」
背中を向けたまま、片手をひらひらと振って歩き出す銀時。その足取りは、最後までしまりがなく、しかしどこか飄々としていて……やがて、夕暮れの街の喧騒の中へとゆっくり溶けていった。
残されたRABBIT小隊の面々は、その見えなくなった背中を冷ややかな目で見送っていた。
「はっ、せいせいしたな」
サキがヘルメットの鍔を押し上げ、腕を組んで鼻で笑う。
「あんなふざけた大人に関わってたら、こっちの戦術眼まで腐ってしまうところだった。結局、あの天然パーマは私たちに面倒を押し付けて逃げただけじゃないか」
「もういいんじゃない? ……捨てちゃおうよ、そんな紙切れ」
モエが口の中でカラコロとチュッパチャプスを転がしながら、足元の紙を一瞥して吐き捨てる。
「どうせ『肩たたき券』とか『万事屋のツケの請求書』とか、ロクでもないものに決まってるし。それか、また爆弾の作り方でも書いてあるなら読んであげてもいいけど?」
「………………」
ミヤコは無言だった。
彼女は静かに視線を落とし、土の上に落ちているその小さな四角い紙切れを見つめた。
『もう二度と関わらないでください』と、自ら引導を渡したばかりだ。モエの言う通り、無視して風に飛ばさせてしまえばいい。大人のくだらない悪ふざけに付き合う義理は、もうどこにもないのだから。
だが――ミヤコはなぜか、何かに引かれるようにゆっくりとしゃがみ込み、その紙切れを指先で拾い上げた。
裏返して、そこに印字された文字を目で追う。
『スナックお登勢 キヴォトス支店』
「……え?」
ミヤコは小さく息を呑んだ。
それは、古びた飲み屋の名刺だった。そして裏面には、手書きのひどく汚い字で、こう殴り書きされていたのである。
『公園で野宿してるアホなウサギが四匹いる。公共の場に居座られるのも面倒だ。店の手伝いさせてまかない食わせながらでも雇ってくれ。溜まってた家賃のツケはこれでチャラな 銀時』
「……ミヤコ? どうしたの、その紙」
サキが訝しげに覗き込んでくる。
「何、やっぱり爆弾のレシピじゃなかったわけ?」
モエも気だるげに近寄ってくる。
さらには、いつの間にか這い出てきたダストボックス(ミユ)も、背後からスッと首を伸ばして覗き込んできた。
ミヤコは、その名刺を両手でギュッと握りしめた。
不器用で、ひねくれていて、どこまでも身勝手な大人の言葉。しかし、その乱暴な筆跡の裏にある確かな『温もり』に、ミヤコは小さく、しかし力強く頷いたのだった。
数日後——
カランコロン、と景気の良いドアベルの音がスナックの店内に響き渡る。
「いやぁ、良かったですねお登勢さん。人手が増えて、最近じゃ売り上げが鰻登りだって聞きましたよ?」
カウンター席でウーロン茶を傾けながら、新八がニコニコと穏やかな笑顔を向ける。
「まぁね。ここの子たちは、上の階の薄汚い天然パーマと違って、ほんと真面目な子たちばっかりだよ……」
紫煙を燻らせながら、スナックの女将・お登勢が満足げに頷いた。
制服の上に真新しいエプロンを身につけたRABBIT小隊の面々は、持ち前の軍事訓練で培った圧倒的な体力と機動力(オペレーション)を駆使し、瞬く間に店内のホール業務を制圧していたのである。
(※ただし、ミユだけは相変わらず部屋の隅のダストボックスに擬態しながら、ひっそりと皿洗いを担当しているが)絵面的にはゴミ箱から皿が出てくるという謎の光景が広がっている。
和やかな空気が流れる店内。しかし、その平穏は突如として破られた。
「オーイ! ご飯はまだアルか!! さっさともってこいヨ、子ウサギども!!」
店のテーブル席を占拠し、両手に持った箸をバシバシとテーブルに叩きつけながら暴君のごとく叫ぶチャイナ娘——神楽である。
「はい! お待たせしました。人参、いっちょあがりました」
ピキキキッ、と額に明確な青筋を浮かべたサキが、ドンッ!と乱暴に小皿をテーブルに叩きつけた。
皿の上に乗っていたのは、調理という概念を完全に無視した、葉っぱと泥のついた『生のままの人参』丸ごと一本だった。
「……オイ。人参そのままってどういうことネ!」
神楽の目がスッと細くなり、夜兎特有の殺気が店内に膨れ上がる。
「私をナメてアルか! 酢昆布と山盛りの白米と焼肉を持てと注文したはずヨ!!」
「お前も『夜兎(ヤト)』って名前の子ウサギなんだろ? だったら、人参程度がお似合いだ。」
サキも負けじと胸を張り、SRTのプライド(と私怨)を全開にして真っ向から睨み返した。
「……んだとォ!?」
「やるか、コラ!」
ギャーギャーギャー!!! ドタンバタンッ!!!
次の瞬間、宇宙最強の戦闘民族(夜兎)とキヴォトス最高峰の特殊部隊(SRT)による、店内を巻き込んだ超次元の乱闘が勃発した。
飛び交う人参、へし折れるテーブル、宙を舞うウサギたち。さらには「あはは、これも燃やせるゴミかな?」とモエが物騒な手榴弾を取り出し始め、店内は瞬く間に戦場と化す。
「あわわわ! ちょっと神楽ちゃん! サキさんも! 店の中で暴れないで!!」
新八の情けないツッコミと悲鳴が響き渡る中、お登勢はふぅと深くタバコの煙を吐き出し、二階でサボっているであろう『元凶』の顔を思い浮かべた。
「全く……あのバカ(銀時)に、この子たちの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいさ」
ふう、と紫煙を吐き出して呆れるお登勢。
その隣で、皿洗いの手を止めたモエが、チュッパチャプスをカラコロと転がしながら満面の笑みで同調した。
「ホントホント。どうせなら爪の垢じゃなくて、高性能な起爆薬のコア(核)でも飲ませて、あの天然パーマの頭ごとドカンとパーンってやっちゃおうよ。絶対面白い絵が撮れるって」
「オマエハ、ムダグチタタイテナイデ、ハタラケ!!」
「痛っ!?」
物騒すぎるジョークを飛ばすモエの顔面に、キャサリンの容赦ないスポンジのフルスピード投擲が炸裂する。
騒がしくも活気に満ちたスナックお登勢の営業は、こうして夜更けまで続いていった。
数時間後。
キヴォトスの夜空に星が瞬く頃。
「はぁ………」
小隊長のミヤコは、エプロンを外しながら深い疲労の溜息を吐き出した。肉体的な疲労はあるが、不思議と心は軽く、達成感すら感じていた。
「お疲れ様でした、SRTの皆さん」
ロボット店員のタマが、いつものように無表情ながらも丁寧にお辞儀をする。
「皆さん、この後ご一緒に夕飯でもいかがですか?」
同じくアルバイト店員のソラも、両手でトレイを抱えながら遠慮がちに声をかけてくれた。
「お気遣いありがとうございます……ですが、拠点の点検や明日の準備など、色々とやることがありますから……」
ミヤコは柔らかく微笑んで辞退する。
「そうですか……あ、タマさん。あれを」
「はい。では、こちら本日のまかないです。栄養素の補給に役立ててください」
タマが差し出したのは、スナックの厨房で作られた温かいお弁当の数々だった。
その瞬間、疲れ切っていたはずのウサギたちの目に、野生のハイライトが猛烈な勢いで復活する。
「わぁ! じゃあ私、この唐揚げ弁当もーらいっ!」
「おいモエ、ずるいぞ! それ一番おかずの量が多いやつじゃないか! 前衛(ポイントマン)の私こそカロリーを摂取するべきだ!」
『……じゃあ、私は余ったチキン南蛮でG』
「「あーっ! ミユお前、いつの間に一番高い弁当確保してんだ!!」」
『ひっ……G!』
ギャーギャーと弁当の争奪戦を繰り広げる部下たちを横目に、ミヤコはタマとソラに改めて深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございます……それでは」
温かい弁当の入った袋をしっかりと抱え、RABBIT小隊は仮設拠点である公園へと歩き出した。
カラン……。
深夜の公園。
入り口の前に転がっていた空き缶が、何かの拍子に蹴られて乾いた音を立てた。
「!」
ミヤコは即座に警戒態勢を取り、暗闇に視線を向ける。
ガサガサと茂みをかき分ける音と共に、公園の奥から三つの影が姿を現した。
頭に枯れ葉を乗せ、顔に泥を擦りつけ、服のあちこちを煤で真っ黒に汚した——無駄に薄汚れている銀時の姿だった。
「……何してるんですか、あなたたち」
ミヤコの目がスッと細くなる。
「もう、私たちには関わらないと――」
「勘違いすんな。別に関わってねェーよ。」
銀時は服についた泥をパンパンと払いながら、何事もなかったかのように、極めて不自然なほど堂々とした態度で明後日の方向を向いた。
「俺ァただ、昔この公園の茂みに隠しておいた『週刊少年ジャンプ(特大号)』を探しに来ただけだ。あーあ、どこ行ったかなァ、俺のジャンプ」銀時はゴホンとわざとらしく咳払いをし、バツの悪そうな顔で首の裏を掻いた。
「まァ、そういうこった。……邪魔したな」
銀時はそれ以上何も言わず、すれ違いざまにミヤコの頭をポンと一度だけ軽く叩き、新八と神楽を引き連れて夜の闇へと帰っていった。
「…………?」
ミヤコは頭を押さえながら、キョトンとその背中を見送る。
相変わらず、何を考えているのか分からない大人たちだ。ジャンプやアイスの蓋を探すために、あんな泥だらけになるまで公園を這いずり回るなんて。
しかし——。
「……え?」
公園の奥、自分たちの拠点スペースに足を踏み入れた瞬間。
ミヤコの思考は、完全に停止した。
「……おい。これ、どういうことだ?」
背後からついてきたサキも、手の中の弁当を落としそうになりながら絶句する。
そこにあったのは、昨日までの「ブルーシートを被せただけの惨めな野宿跡」ではなかった。
破れていたテントの布地は、継ぎ接ぎながらも頑丈な防水シートで完璧に補修されていた。
不安定だったポールの支柱には、添え木とロープが何重にも巻き付けられ、強風にも耐えうる立派な骨組みへと補強されている。
散らかっていた生活用品は綺麗にまとめられ、壊れかけていた雨水受けのバケツには、応急処置のガムテープが隙間なく貼られていた。
「おかしいな……。設備が、ちゃんと整ってる……」
サキが信じられないものを見るような目で、補強されたテントの結び目を撫でる。
「誰か、これやってたのか?」
モエが不思議そうに首を傾げた。
『……私じゃありませんG』
いつの間にか定位置のゴミ箱に収まっていたミユが、静かにプラカードを掲げた。
ミヤコは、先ほどすれ違った泥だらけの大人たちの姿を思い出した。
ジャンプを探していたわけじゃない。
彼は、自分たちウサギがいない間に、ボロボロだったこの拠点を、少しでもまともに生活できるように……必死に泥だらけになりながら、修繕してくれていたのだ。
『これ以上関わらねェよ』と言い放ちながら。
『恩着せがましいことはしない』とばかりに、へたくそな嘘をついて去っていった、あの不器用な背中。
「……なんで?どうして?」
ミヤコは、補修されたテントの柱にそっと触れた。
ロープの結び目は不格好だったけれど、どんなに強い風が吹いても決してほどけないような、確かな力強さがあった。
ミヤコの目から、一粒の涙がポロリとこぼれ落ちる。
それは悲しみの涙でも、悔しさの涙でもない。冷たい夜風が吹くキヴォトスの公園で、彼女が初めて感じた、絶対的な『安心』の温度だった。
深夜の公園、そのさらに奥深く。
街灯の光すら届かない鬱蒼とした木々の影で、ホームレスたちの秘密の集会が開かれていた。
「リーダー。どうやらあの公園の入り口付近に、新入りが来ているようです」
報告を受けた男は、段ボール箱を玉座のようにして深く腰掛け、哲学者のような重々しい渋い声でゆっくりと口を開いた。
「縁というのは……風のように訪れ、風のように去るもの……」
彼の名はデカルト。この公園一帯のホームレスたちを束ねる、誇り高き流浪の思想家である。
「それが我々にとって悪いものかどうかについては、早々には断定しきれません。ただ、彼女たちがこの厳しい大自然(公園)で我々との共存を望むのであれば……ありのままの状態を享受する、『無所有』の心を持ってもらう必要がありますが」
「いえ、リーダー。無所有どころか、奴ら完全に欲に塗れていました」
怪しい声のホームレスAが、血相を変えて報告に割り込む。
「その上やたらと行動力と制圧能力が高くて、スナックお登勢の廃棄弁当をほとんど持っていかれてしまい……今まで、誰にも見向きもされずほとんど消えることのなかった『もやし弁当』すら狩り尽くされてしまいました!」
「さらにです!」
怪しい声のホームレスBが、涙ながらに訴えかける。
「奴ら、周辺の廃材やブルーシートなども一通り持っていかれてしまい……私どもの方の拠点の補修もままなりません。先ほど、やけに手慣れた野良犬のような大人が、奴らのテントを完璧に補強していくのも見ました!」
「なるほど……」
デカルトは深く顎に手を当て、暗闇の中でギラリと目を光らせた。
「せっかくの縁でしたが、どうやら彼女たちはひどく物欲に侵されているようだ……」
デカルトはゆっくりと立ち上がり、ボロボロのコートを翻して夜空の月を指差した。
「ならば、同じ公園に住まう先輩として教えて差し上げましょう! 一切の執着を捨てる『無所有』の素晴らしさを! そして、社会の歯車から外れたからこそ得られる絶対的な自由——その素晴らしさを!!」
「「「おおおおお!! 流石はリーダー・デカルト!!」」」
こうして、公園の暗がりで、エリート特殊部隊に対する「マダオ化計画」が静かに幕を開けたのであった。
一方、その頃。
ウサギたちの拠点の補修という、柄にもない重労働を終えた坂田銀時は、首の後ろで手を組みながら夜道を気怠げに歩いていた。
「あーあ、疲れた……」
銀時は大きく欠伸をし、ボヤキを夜風に乗せる。
「全く、本当に手のかかる子ウサギどもだ。高校生にもなって大の大人にツンケンしやがって。反抗期とか、マジでめんどくせェ……」
銀時の脳裏に、生意気なミヤコやサキたちの顔が浮かぶ。
「ウチの神楽だって、あそこまで生意気じゃなかっ——いや、待てよ。アイツの反抗期はリアルに家の壁ぶち抜いてくるレベルだったわ。それに比べりゃ、あのウサギどもの方がまだ可愛いもんか」
一人で納得し、鼻をほじりながら歩き続けようとした、その時だった。
「——ちょっと、宜しいかな?」
街灯の死角から、ヌッと一つの影が立ち塞がった。
「ん? 誰だお前」
銀時が警戒心ゼロの気の抜けた声で振り返る。
そこには、ボロボロの衣服を身に纏いながらも、どこか貴族のような堂々たる風格を漂わせた男——デカルトが立っていた。
「私の名はデカルト。……貴方が、あのウサギたちを導く『シャーレの先生』ですな?」
「ん? あー……」
銀時は適当に鼻クソを弾き飛ばし、投げやりな態度で頷いた。
「まぁ、成り行きでな。で、オッサン何か用か?」
デカルトはふっと口角を上げ、背中に隠し持っていた「ある物」をスッと差し出した。
「なに。夜風も冷えてきましたし、同じ大人同士、ちょっと酒の一杯でも飲まないかと思いましてな」
チャプン、と音を立てたのは、見たこともない銘柄の、無骨な一升瓶だった。
「……え」
銀時の死んだ魚のような目に、突如として眩いハイライトが宿る。
「なに? オッサン、俺に奢ってくれんの!?」
「もちろんですとも」
デカルトは紳士的に微笑み、持参した紙コップになみなみと注いだ酒を銀時に手渡した。
「さァ、ここで乾杯しましょう。キヴォトスの救世主たる、偉大なるシャーレの先生との出会いに……乾杯!」
「カンパーーーイ!!」
タダ酒というこの世で最も甘美な誘惑の前に、銀時のIQは瞬時にゼロ(猿レベル)へと低下していた。疑うことなど微塵もせず、差し出された紙コップの酒を一気に喉の奥へと流し込む。
「クーッ!! 五臓六腑に染み渡るねェ! やっぱ労働の後の酒は美味ッ——」
ドサァァァァァァァンッ!!!!
「ZZZZZZZZZZZZZZ!!」
銀時の言葉は最後まで続かなかった。
白目を剥き、口から盛大に泡を吹きながら、丸太のように硬直してアスファルトに前のめりに倒れ伏したのである。
それはもはや「眠り」という生易しいものではなく、完全なる「気絶(シャットダウン)」であった。
「フッ……ちょろい物ですな」
デカルトは、足元でピクピクと痙攣する銀時を見下ろし、哲学的な笑みを浮かべた。
彼が振る舞ったその酒は、ただの酒ではない。
工業用のアルコールと見紛うほどの異常な度数を誇り、法律(キヴォトス基準)スレスレの理由で『廃棄物処理』に回されていた、正真正銘の**「ヤバい廃液(おさけ)」だったのである。
「さァ、自称・先生よ。貴方には我々と共に、ディープな『無所有』の境地へと堕ちてもらいましょう」
ーーーーーー
カァァァ、カァァァ……。
朝を告げるカラスの鳴き声と、ひどくカビ臭い段ボールの匂いが、強制シャットダウンされていた坂田銀時の意識を現実に引き戻した。
「ん……イテテ……頭痛ェ……飲み過ぎたか……?」
ガンガンとハンマーで内側から叩かれているような激しい頭痛に顔をしかめながら、銀時はのっそりと上半身を起こす。視界がぼやける中、周囲を見渡すと、そこはどうやら公園の死角にブルーシートと廃材で巧妙に作られた、巨大な『ホームレスの秘密基地』の中のようだった。
「おや、お目覚めですか?」
不意に、背後から芝居がかった男の声が響いた。
「気分はいかがです?」
「……あ?」
銀時が気怠げに振り返ると、そこには昨夜、得体の知れないヤバい廃液(酒)を飲ませてきたボロボロのコートの男——デカルトが、腕を組んで偉そうに見下ろしていた。
「てめーは昨日の!!」
一瞬で記憶がフラッシュバックし、銀時は額に青筋を浮かべて声を荒らげる。
しかしデカルトは、そんな銀時の怒りなどどこ吹く風といった様子で、やれやれと肩をすくめた。
「問題はなさそうで何よりです。下手なおもてなしで、万が一のことがあったらどうしようかとヒヤヒヤしておりました……なにせ、我々もこのような手荒なやり方で『外の世界』の方をお迎えするのは初めてでしてな」
「テメーら……一体何もんだ」
銀時は油断なく周囲を睨みつける。基地の薄暗がりの中には、デカルトと同じように薄汚れ、しかしどこか異様なほどの結束力を漂わせるホームレスたちが、ギラギラとした目でこちらを取り囲んでいた。
デカルトはコホンと一つ咳払いをし、胸を張って高らかに宣言する。
「我々はこのキヴォトスにおいて、物質的な欲望を捨て去った者たち……この組織、『所有せずとも確かな幸せを探す集い』……通称、『所確幸(しょかっこう)』」
「?」
あまりにも長ったらしく、そして絶妙にダサいネーミングセンスに、銀時の頭の上に巨大なクエスチョンマークが浮かんだ。村上春樹の「小確幸(小さくても確かな幸せ)」を絶妙にパクリつつ、圧倒的な貧乏臭さが漂うその名前に、ツッコミの言葉すら瞬時には出てこない。
「お耳に入れたのは初めてでしょうか?」
キョトンとする銀時を見て、デカルトは少しだけ意外そうな顔をした。
「清貧な人生を追い求める方であれば、一度は聞いたことがあるのではと思ったのですが……なるほど」
デカルトは顎に手を当て、一人で勝手に納得するように深く頷いた。
「まあ、そうかもしれないとは思っていました。ええ、無理もありません」
そして、その哲学者のような眼差しを突如として鋭く吊り上げ、銀時をビシィッと指差した。
「何せあなたは、部下を使って我々の食べ物を強奪していたようですからね!!」
「……は? 強奪? なんの話だ?」
完全に身に覚えのない言いがかりをつけられ、銀時は眉根を寄せる。
「とぼけるのも大概にしなさい!!」
デカルトの怒号が、段ボールハウスに響き渡った。
「私の仲間たちが、この目でハッキリと見たのです! あなたと、あの恐るべき戦闘力を持った『ウサ耳の生徒たち』が、公園の入り口で仲良く密談しているのを!!」
昨夜の出来事だ。
銀時たちが泥だらけになってテントを修繕していた時の言葉を交わしていたあの場面。デカルトの部下たちは、それを『廃棄弁当強奪組織の黒幕(銀時)と実行部隊(RABBIT小隊)の密会』だと完全に勘違いしていたのである。
「……ウサ耳?」
銀時は、その単語を聞いて心底嫌そうな顔になり、小指で耳をほじり始めた。
「あー……あのバカウサギどものことか。……つーか、お前らの目は節穴か? どこをどう見たら、俺とアイツらが『仲良く』見えんだよ。どう見ても俺が一方的に冷たくあしらわれてた、悲しき大人の図だったろーが。……とにかく、目が完全に腐ってんのは確かだな。眼科行った方がいいな」
フッと鼻で笑い飛ばす銀時。
しかし、デカルトの怒りの炎は、そんな適当な反論で消えるようなものではなかった。
「あの生徒たちの呼称については、特に興味ありません! というか……腐っているのはあなたたちの頭の方だ!!」
デカルトはボロボロのコートを翻し、悲痛な叫びを上げるのだった。
「大事なのはただ、あなた方が我々の求道を邪魔する、食欲に塗れた者たちであるということ」
デカルトは、まるで世界の真理を説く預言者のような、ひどく大仰な身振り手振りで語り出した。薄暗い段ボールハウスの中で、彼のボロボロのコートだけが異様なカリスマ性を放っている(ように見えなくもない)。
「……私たちは、世間の心無い者たちから時にこう呼ばれます。『穀潰し』、あるいは『社会の膿』、と……」
「要するにマダオ(まるでダメなおっさん)だな」
神妙な面持ちで語るデカルトの言葉を、銀時は小指で耳をほじりながらコンマ一秒で一刀両断した。
「しかし、それはどちらも的を射ていません。我々に対する重大な誤解です! 私たちはただ怠惰に何もしていないのではなく……ただ、崇高なる『無所有』を実践しているだけなんです!」
「いや、だからマダオだよね? 的射てるよね? ど真ん中ブチ抜いてるよねソレ?」
一切の妥協を許さない銀時のツッコミを華麗にスルーし、デカルトは目を閉じて両手を天へと掲げた。
「嘆かわしいことです。このキヴォトスの人々は、あまりにも多くの物を所有しすぎている……。最新鋭の戦車、無駄に高い小銃、ミサイルを防ぐための分厚いバンカーなどなど……」
デカルトの背後で、他のホームレスたちもウンウンと深く頷いている。
「こういった物質的な欲望はしかし、決して満たされるものではありません。より上に、より高く……際限のないその渇望は、最終的に人々の人生を疲弊させるだけなのです。真の幸せは『所有』ではなく、『無所有』から生まれるもの……」
声のトーンを落とし、デカルトは銀時の目を真っ直ぐに見据えた。
「生存に必要な最低限のもの以外を全て手放し、無為自然の在り方を維持する……。労働という束縛から己を解放し、それでこそ、人は真の幸福に辿り着けるのです。そこで私たちは働かず、所有せずの『無所有』を完璧に実践して、この公園で清らかに生活していたのです」
「……」
「ところがある日、この神聖なる無所有の聖地に、招かれざる客がやって来ました」
デカルトの顔から、哲学的な穏やかさがスッと消え失せた。代わりに浮かび上がったのは、ドロドロとした怨念と、どうしようもないほどの『執着』だった。
「ウサ耳を付けて、何やら高価な武装を手にしたその生意気な生徒たちは、あろうことか近所の『スナックお登勢』で働き始めました……」
「……あー、ハイハイ。で?」
嫌な予感しかしない銀時をよそに、デカルトはワナワナと拳を震わせ、ついに血を吐くような悲痛な叫び声を上げた。
「彼女たちがスナックに居座ってからというもの……店から出される『まかない』や廃棄弁当が……我々の口に入るはずだった恵みが……っ、もやし弁当一つすら残っていなかったのですッ!!」
薄暗く、カビと埃の匂いが立ち込める段ボールハウスの中に、デカルトの血を吐くような悲痛な叫びが木霊した。
先程までの、世界の真理を悟ったガンジーのごとき哲学的なオーラはもはや見る影もない。その顔に浮かんでいるのは、純度百パーセントの『食い物の恨み』であった。
「ただでさえ『焼肉弁当』や『チキン南蛮弁当』などは、廃棄の対象になりにくい超・希少種(レアリティ)なのに……ッ! それを含めて、あのウサギどもは毎日独り占めを……!! 許せるはずがない! あれは本来、無所有である我々が、大自然の恵みとして受け取るべき所有物だったのに!!」
「思いっきり『所有物』って言っちゃっるぅぅぅ!!!」
銀時の喉が千切れるほどの渾身のツッコミが、カビ臭い段ボールハウスの壁を物理的にビリビリと震わせた。
「めちゃくちゃ欲に塗れてんじゃん!! アンタらの掲げてた『無所有』の心!どこのゴミ箱にポイ捨てしてきた!? ていうか『超・希少種(レアリティ)』って何!? アンタら廃棄弁当でソシャゲのガチャでも回してんの!?」
あまりにも自己中心的な、かつ底辺極まりない怒りの理由に、銀時の脳内ツッコミメーターは限界を突破していた。
「ご、誤解しないでいただきたい!」
銀時の正論の矢を急所にモロに受けたデカルトは、ハッとしてコホンと大げさな咳払いをした。額からは滝のような冷や汗が流れ落ちているが、それでも無理やり威厳のある哲学者の仮面を顔面に貼り直そうと必死に取り繕う。
「こ、これは決して、私利私欲に基づく下劣な所有などではない! 宇宙の壮大な循環における……そう、『大自然のカロリーの一時的なお預かり』なのです!!」
「うるせェよ!! 宇宙の真理はチキン南蛮弁当になんか宿らねェよ!!」
銀時は、全身をロープでキツく拘束された状態のまま、どうにかしてこの理不尽極まりない屁理屈に抗議しようと、床の上を器用にシャクトリムシのように身をよじらせて暴れ回る。
しかし、デカルトはもはや銀時の正論など完全にシャットアウトしていた。
彼は両腕を天高く掲げ、虚空を見つめながら、まるで神の啓示を受けた預言者のような恍惚とした表情を浮かべた。
「そして……その宇宙の真理に最も近づきし者こそーー」
「ちょっと!! 人の話聞いてますか!?」
「完全なる無所有を体現せし神……いや、異世界よりこのキヴォトスへと舞い降りし、気高き天使ーー」
デカルトの瞳に、狂信的な光が宿る。
そして、彼は秘密基地の最奥に鎮座する、ひときわ巨大な段ボールの祭壇へと振り返り、その名を高らかに叫んだ。
「堕天使マダオ様だァァァ!!」
その宣言と同時。
薄暗い段ボールハウスの天井がパッカーンと開き、眩いばかりの青空の光が差し込んできた。
そして、舞い散る純白の羽と、なぜか一緒にハラハラと落ちてくる千切れた段ボールの破片の只中から、『それ』はゆっくりと降臨した。
無数のガムテープで継ぎ接ぎされた無骨な段ボールの翼(フラップ付き)を大きく広げ、神話の神々が纏うような白いトーガ風の布切れを身にまとい、青空を背にして神々しく宙に浮遊する一人の男。
その顔には、一切の希望を失った無精髭と、決して外されることのない漆黒のサングラスが光り輝いている。
まさに描かれた通りの、あまりにも神々しく、そしてあまりにも安っぽい『奇跡』であった。
その姿を目にした瞬間、銀時はシャクトリムシのように蠢いていた動きをピタリと止め、絶望的なまでに無表情になった後——肺の中にあるすべての空気を振り絞って絶叫した。
「結局マダオ(長谷川さん)じゃねェかァァァァ!!!」
キヴォトスの空に響き渡る、銀時の魂の叫び。
彼らの次元の低い争いは、果たしてどこへ向かうのか。
次回へ続く!!
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
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銀時
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新八
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神楽
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沖田
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土方
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山崎
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高杉
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桂
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定春
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エリザベス
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ホシノ
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シロコ
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ヒナ
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アコ
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ミカ
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ナギサ
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セイア
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ユウカ
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ノア
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近藤