透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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深い不快足掻いて参上
苦い願い 砕いて無情
暗いCRY 湿っぽい現状
幼気な理想は一体どこ?
心の負傷
常にロードショー
夢と現実のズレで「チクショー」
そろそろでしょ?
反撃の狼煙上げましょう
したり顔する曲者たちを今度こそ返り討ちにしてやれ
LAI LAILA LAI LAI
どこまでも
LAI LAI LA LAI LAI
超えていけ
LAI LAILA LAI LAI
魂を
LAI LAI LA LAI LAI
燃やしていけ!
万の宴で舞い踊って
互い違い 迷ったダンジョン
伝え難い 孤高の焦燥
うざいくらい上がったテンション
「控えめに言って、マジ、神だね」
そう言われるほど斬新な
0点か100点のイメージ携えて切った張ったの浮世で
やんちゃに自分(おのれ)奏でましょうや

LAI LAI LA LAI LAI
どこまでも
LAI LAI LA LAI LAI
超えていけ
LAI LAI LA LAILAI
熱い血を
LAI LAI LA LAI LAI
たぎらせて!
破綻した思想を剥ぎ取る
爆ぜるか否か
覚悟を決める
その決意が本当の刃したり顔する曲者たちを今度こそ返り討ちにしてやろう
さぁさぁ皆の衆!
やっちゃって!
LAILAI LA LAI LAI
どこまでも
LAI LAI LA LAI LAI
超えていけ
LAI LAI LA LAI LAI
魂を
LAI LAI LA LAI LAI
燃やしていけ!
万の宴で舞い踊って


【挿絵表示】




第百四十八訓 正義と悪の境界線はいつも曇天

 

深夜のキヴォトスに威風堂々とそびえ立つ、ヴァルキューレ警察学校本館。

 

本来なら厳重な警備が敷かれているはずの中枢エリアに、黒い影たちが音もなく潜入する。

 

モエを後方支援に残したRABBIT小隊の面々と、なぜか巨大な白い犬(定春)まで連れてきている万事屋一行だ。

 

薄暗い廊下の壁に背を預け、ミヤコが無線機に向かって小声で報告を入れた。

 

 

「ここはRIBBIT1。現在の時刻2330、只今ポイントEに到着しました」

 

 

特殊部隊らしい完璧なクリアリング。しかし、背後で銀時は、拍子抜けしたように頭を掻き毟る。

 

 

「おいおい、敵の本陣に伏兵がいないとかどういう事よ。見せ場ないんだけど、トム走り見せらんないんだけど」

 

 

『まぁトム走りとかどうでも良いけど。監視カメラもろもろハッキングしたから、ポイントSまで進んじゃっていいよ〜』

 

 

トランシーバー越しに聞こえてくる、拠点でポテトチップスでも齧っていそうなモエの気の抜けた声。

 

 

そんな順調すぎるステルスミッションの最後尾で、誰よりも震え上がっている男が一人、銀時の袖を必死に掴んだ。

 

 

「おい銀さん、どうして俺も連れてこられてんの?」

 

 

「お前がカイザー事情諸々ゲロったんだろうが。それに元々警察長官だったんだろ?」

 

 

潜入捜査には不釣り合いすぎるボロボロのコート姿の長谷川に対し、銀時は冷酷な事実を突きつける。

 

 

「責任とってもらうからな」

 

 

「今の俺ダンボール暮らしのマダオなんだけどォォォ!!」

 

 

かつての輝かしい経歴など、今の彼には呪いでしかない。

悲痛な叫びを上げる長谷川を強引に引きずり、一行は目的の最深部へと足を踏み入れた。

ーーー

ヴァルキューレ本館地下、クローバー金庫前。

 

重厚な金属の扉の前に到着した神楽が、暗闇の中で目を細める。

 

 

「ついたアル」

 

 

「RIBBIT1、ポイントSに到着」

 

 

ミヤコが最終ポイントへの到達を告げた。周囲を見渡しても、警備の生徒一人すら見当たらない。

 

「ホントに拍子抜けだな。これだからヴァルキューレには入りたくないんだ」

 

 

サキが呆れたようにため息をつき、隣でお座りをしている巨大な宇宙生物を胡乱な目で睨む。

 

 

「というか、何で犬、連れてきてるんだ?」

 

 

「良いだろ? ペットの定春。ぴょんこより役に立つこと間違いなしよ」

 

 

銀時は定春のモフモフとした頭を撫で回した。

 

 

「まだ根に持ってるんですか?」

 

 

ミヤコが氷点下の視線を向ける。

 

 

『良いからさっさと書類探してきて。時間30分しかもたないから』

 

 

通信越しにモエの急かす声が響き、神楽と定春の怪力によって分厚い金庫の扉がこじ開けられた。

 

無数の書類とファイルが眠る金庫内部。一行は手分けして『証拠』を探し始める。

 

 

「公安局、公安局……」

 

 

サキが棚から棚へと目にも留まらぬ速さでファイルを漁っていく。

 

 

『カイザーカイザー見つからないG』

 

 

ミユも段ボールの陰からプラカードを上げる。

 

そんな中、書類の山と格闘していた新八が声を上げた。

 

 

「一週間前……皆さん、コレじゃないですか!」

 

 

新八の手には、厳重にファイリングされた黒革のバインダーが握られている。

 

 

「よくやった新八!」

 

 

「見せてもらってもいいですか?」

 

 

銀時に褒められドヤ顔を見せる新八からバインダーを受け取り、ミヤコは素早く中身に目を通す。そして、それを背後でオロオロしていた長谷川へと差し出した。

 

 

「どうでしょう」

 

 

長谷川は泥だらけのサングラスを押し上げ、かつての長官としての鋭い目つきで文字列を追う。

 

 

「『カイザーインダストリー』と公安局との間に交わされたリベート記録だ」

 

 

決定的な証拠の発見に、室内の空気がピンと張り詰めた。

 

「内容に子ウサギタウンの再開発も含まれてるし、間違いないと思うよ」

 

 

「この資料さえあれば彼女たちの動きを止められそうです」

 

 

ミヤコがルビー色の瞳に力強い光を宿して頷く。

 

 

「公安局の奴らに一泡吹かせられるな」

 

 

サキもまた、エリートとしてのプライドを取り戻したようにニヤリと笑った。

 

 

「よし、今日はコイツで引き上げて焼肉にでも行くか」

 

 

完全勝利の余韻に浸りながら、銀時が大きく伸びをして打ち上げの提案をする。

 

 

「安くてもいいアル。早く行くネ」

 

 

神楽がすでにヨダレを垂らしながら臨戦態勢に入った。

 

 

「先生、それは私たちも……」

 

 

ミヤコが少し遠慮がちに、しかしウサギのように耳を立てて期待の視線を向ける。

 

 

「奢らないってわけじゃないよな?」

 

 

サキに至っては、もはや完全に財布として銀時をロックオンしている。

 

 

「銀さん、俺も……」

 

 

長谷川までもが、便乗してひもじいアピールをしてきた。

 

 

「仕方ねぇ、ツケはリンちゃんにでもつけておくか」

 

 

連邦生徒会にツケを回すという最低の決済方法を悪びれもなく採用する銀時。すかさず懐のシッテムの箱から抗議が飛ぶ。

 

 

『先生、最低です』

 

 

「まぁまぁ、そこんとこは何とかするから……とにかく早く出よ?」

 

 

冷や汗を流しながら、銀時は強引に話を打ち切って金庫の出口へと足を向けた。

 

 

「朝から何も食べてねぇのよ。俺たち」

 

 

『ねぇ、何やってんの? さっさと出ないと……』

 

モエからの焦ったような通信が響く中、先頭を歩いていた新八が、開いていたはずの扉の取っ手を掴み——ふと、動きを止める。

 

 

「すみません。この扉、開かないんですけど」

 

 

新八が力を込めて引っ張るが、重厚な金属の扉はピシャリと閉ざされたまま、微かな音すら立てない。

 

 

「扉、ビクともしないんですけど」

 

 

「お前がひ弱なだけじゃねぇの?」

 

 

呆れたように鼻で笑い、銀時がツッコミを入れた。

 

 

「そうなんですかね……」

 

 

新八が自信なさげに一歩下がると、代わりにサキが進み出て取っ手を握る。

 

 

「何を言ってるんだ? 貸してみろ」

 

 

サキは特殊部隊の卓越した膂力と体重を乗せ、力任せに扉を引っ張った。

グヌヌヌ!!

 

……しかし。

 

サキの顔が真っ赤に染まるほど力を込めても、扉は1ミリたりとも動かない。

 

 

「すみません。やっぱり、扉開かないんですけど」

 

 

新八の冷静な報告が、ひんやりとした金庫室内にこだまする。

 

 

「………………」

 

 

一同の間に、重すぎる沈黙が流れた。

 

 

「心配いらないネ。扉が開くまでの時間がすごーく長いだけアル」

 

 

神楽が、虚空を見つめながら引きつった笑顔で言い放つ。

 

 

「そうか」

 

 

新八は一瞬だけ現実逃避に乗っかったが、すぐに冷静なツッコミ役へと復帰した。

 

 

「つうか、そんな扉なくね?」

 

 

「ないね、開く時間がすごーく長い自動扉とか聞いた事ないね」

 

 

銀時が完全に血の気を引いた顔で、凄まじい勢いで扉にすがりつく。

ガン、ガン! ポチポチ

 

力任せに扉を蹴りつけ、横の電子操作盤のボタンを滅茶苦茶に連打する。しかし、無機質な機械は無慈悲な沈黙を保ったままだ。

 

 

「操作盤反応なし」

 

 

「扉もビクともしない」

 

 

全員の背筋に、この世の終わりにも似た絶望的な悪寒が走る。

 

その重苦しい事実を、長谷川がガタガタと震える声で代弁した。

 

「もしかして、俺たちー」

 

 

「閉じ込められたァァァァ!?」

 

 

証拠を掴んだ直後の完全勝利のムードから一転。

 

ヴァルキューレの地下深くで、彼らの魂からの絶叫が空しく響き渡る。

 

 

「最悪アル!!」

 

 

分厚い金属の扉に張り付き、神楽がドスンドスンと容赦ない打撃を加え始めた。

 

しかし、対爆破用の頑強な扉は、彼女の拳を受けても鈍い音を響かせるだけでビクともしない。

 

 

「よりによってこんなお腹ぺこぺこな時に!!」

 

 

「誰か助けて! ヘルプ! ヘルプミー!」

 

 

ガンガンガン!!

 

 

「待て待て待て」

 

 

半狂乱になって扉を殴り続ける神楽の首根っこを、銀時が慌てて引っ張って引き剥がした。大人の余裕を醸し出すようにため息をつき、ひどく落ち着き払った声で諭し始める。

 

「落ち着け騒ぐなバカタレ」

 

 

「……」

 

 

「こんな事よくある事だろ?」

 

 

「これしきで騒ぎ立てるんじゃねえ。みっもねぇ」

 

 

さも人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男のように言い聞かせるが、神楽はヨダレと涙を撒き散らしながら食ってかかった。

 

 

「だってこのまま出られなかったらどうするつもりアルか!」

 

 

「私このまま餓死してしまうヨ!」

 

 

「んなわけねぇだろ?」

 

 

銀時は呆れたように鼻で笑うと、金庫の壁面に設置された赤いカバー付きのボタンを指差す。

 

「こういう所には、こういう時のために非常用ボタンってのが付いてんの」

 

 

「コイツを押せば異常が管理室に伝わって、すぐ助けが……」

 

 

ドヤ顔でボタンに手を伸ばした銀時。しかし、その指が触れる直前で、ミヤコの冷徹な声がストップをかけた。

 

 

「待ってください。それはつまり、私たちの侵入がバレるだけでなく、この密閉空間で逃げ場がないところに追い詰められることになります。そのボタンは使えません」

 

 

「…………あっ」

 

銀時の指が、数ミリ手前でピタリと硬直する。

 

警察の本丸に不法侵入して機密文書を盗み出そうとしている最中に、自ら「ここにいます」と通報するようなものだ。ミヤコの指摘はぐうの音も出ないド正論である。

 

 

「どーすんだよ! このままはホントに飢え死にか! 転生してもまた此処でおっ死ぬのか俺!!」

 

長谷川が頭を抱え、泥だらけのコートを振り乱して絶叫した。

 

 

異世界に飛ばされてまで餓死するという、マダオとしての逃れられない宿命に心が完全に折れかけている。

 

 

「お、お、落ち着け。だ、だ、大丈夫だって」

 

 

先ほどまでの余裕はどこへやら。銀時は顔面から滝のように冷や汗を流し、声を見事に裏返らせながら必死に場を丸め込もうとする。

 

 

「扉が開かないのはまたシステムが起動したとかそういうのだろ? だったらあのアメ玉女がなんとかしてくれるはず」

 

 

自分に言い聞かせるように呟き、引きつった笑顔を浮かべた。

 

 

「こういう時こそ冷静にならないとダメなんだよ」

 

「みんな、焦りすぎィ」

 

 

完全に一番焦っている男の震える言葉。

 

しかし、その一縷の望みすらも、通信機越しに響いた非情な宣告によって打ち砕かれた。

 

 

『無理だよ。オートロック式の扉。電子ロック外しただけじゃ開くわけないじゃん。そもそも扉自体重くて開けらんないって』

 

 

モエのあっけらかんとした声が、金庫室内に絶望の鐘を鳴らす。

 

 

『そもそも、誰が閉めたのさ?』

 

 

その問いかけに、金庫の隅の段ボールの陰から、小さな手がスッ……と震えながら上がった。

 

 

『わ、私ですG』

 

 

ミユが、涙目でプラカードを掲げている。

 

 

「え? じゃあ何、俺たちこのまま……」

 

 

銀時は、ミユの顔と、絶対に開かない分厚い扉を交互に見つめた。

 

 

ーーコンマ一秒後、自ら扉にへばりつく。

 

 

「誰かァァァァ!! ヘルプ!! ヘルプミー!!!!」

 

なりふり構わぬ絶叫。先ほど神楽を制止したことなど完全に忘れ去り、銀時は両手両足で金庫の扉をバンバンと乱打し始めた。

 

 

「開けろォォォ!! 誰かァァァァ助けてくださァァァァい!!」

 

 

「最終的に、あの人が1番取り乱してんですけど……」

 

 

新八が虚無の瞳で惨状を見つめながらポツリと呟く。

 

 

「テメェ! 何勝手にドア閉めてんだよ!!」

 

 

完全にパニックに陥った銀時が、今度はミユに向かって鬼の形相で詰め寄った。

 

 

「つうか、テメェがやったんだろ! 何とかしろこの状況!!」

 

 

『す、すみません。開けっぱなしだったら誰かに見つかるかなって』

 

 

ミユがウサギの耳をぺたんと伏せ、ブルブルと震えながら弁明する。

 

 

『それについては私が見てるって……どうしてそんな心配になるかな〜』

 

 

通信越しに、モエの呆れ返った深いため息が聞こえてきた。完璧なオペレーションを組んでいたのに、味方のドジによって密室に閉じ込められるとは本末転倒である。

 

 

『やっぱり、私なんかSRTに入るべきじゃなかったんだ……』

 

 

怒られ、呆れられ、ミユのネガティブな思考が地の底まで沈み込んでいく。

 

 

「銀さん、ここは資料室だ」

 

そこに、ダメ押しとばかりに長谷川が重々しい声で告げた。

 

 

「見つかる見つからない以前に、機密文書保持の目的に使われる金庫だから……下手したら」

 

 

言葉の先にある意味。機密情報を保管する場所ということは、日常的に人が出入りするような場所ではない。数日、いや下手すれば数週間、誰もこの扉を開けに来ない可能性があるのだ。

 

「え、おい、ちょっと待ってそれってーー」

 

銀時の顔から、完全に血の気が引いて真っ白になった。

 

閉ざされた重厚な金属扉。酸素と食料の限界。そして、背後で「お腹減ったワン」とでも言いたげに、無垢な瞳でこちらを見つめている巨大な犬。

 

 

「もうダメだおしまいだぁ……」

 

 

銀時はその場に力なくへたり込み、虚空を見つめながら絶望の底で呟いた。

 

 

「俺たちぁここで死ぬんだ。定春の餌になって干からびて死ぬんだ……」

 

 

「と、とにかく。まずはここから出ることを目的にして頑張りましょう!」

 

 

新八がパンッと柏手を打ち、引きつった笑顔で必死に場を盛り上げようとする。

 

しかし、分厚い金属扉に閉ざされた金庫室内には誰の反応もない。

 

 

「……………」

 

 

「あの、何か喋りませんか!? 空気を変えましょうよ! 扉みたく重い空気に押しつぶされそうになるんですけど!」

 

 

耐えきれなくなった新八が叫ぶが、その声すらも密室の淀んだ空気に吸い込まれていく。

 

 

「空気なんて変わらないさ……」

 

 

サキが壁に背を預けてズルズルと座り込み、うつろな目で虚空を見つめた。

 

 

「だって私たちはこの密閉空間で、同じ空気を吸って、吐いて……ただただ、澱んだ二酸化炭素が流れるだけなんだ……」

 

 

「何だか、空気が薄くなってきた気がするネ……」

 

神楽が喉を押さえ、わざとらしくぜえぜえと息を切らし始める。夜兎の肺活量ならあと数日は保ちそうだが、気分の問題である。

 

 

「ハハハ! 殺せ、殺せよ! このままみんなで窒息死して死ぬんだァァァ!!」

 

 

長谷川が完全に発狂し、自らの髪を掻き毟りながら暗闇の中で高笑いを上げた。

 

 

『私の存在みたいに酸素が薄く……やっぱり私なんて、最初からいない方が……』

 

 

ミユがゴミ箱の陰で膝を抱え、完全に自己否定の沼へと沈み込んでいく。

 

 

「ちょっとやめましょう!!」

 

 

あまりにも急速な世紀末的メンタル崩壊に、新八が悲鳴のようなツッコミを入れた。

 

 

「このネガティブな感じ、らしくないです! こういう時こそポジティブに考えないと!」

 

 

しかし、新八の必死の励ましも空しい。大人たちは酸欠の金魚のように口をパクパクさせ、元エリートたちは絶望に打ちひしがれている。

そんな有様の中で。

 

 

ミヤコは一人、静かに俯いていた。

 

 

(私の計画は、今まで失敗ばかり……)

 

SRTを復活させるための野宿。公園での防衛戦。そして今回の潜入任務。

小隊長として完璧な戦術を立てようとしても、いつもイレギュラーに振り回され、結果的に無様な姿を晒してきた。エリートとしての正攻法は、理不尽な大人たちの前では通用しないのだ。

 

 

(でも、この状況を抜けないと、私たちは先に……)

 

 

(先に進むには……!)

 

 

その時、ミヤコの脳裏に、土砂降りの雨の中でシャベルを振るっていた銀髪の男の言葉がフラッシュバックする。

 

 

『俺たちゃあ、小汚くても自分の夢を貫き通すバカウサギの未来を見たくなったーーただのバカだ』

 

 

『看板がなくなったくらいで折れる正義なら、最初から捨てちまえ。だが、テメェらの中にまだ『SRT』って誇りが残ってんなら……まずはその足元から綺麗に掃除してみせやがれ』

 

 

そうだ。正攻法が通用しないなら、バカになって泥を被るしかない。

 

退路が断たれたのなら、自らその壁をぶち破って進むしかないのだ。

 

 

「ーーっ!」

 

 

ミヤコは顔を上げ、泥だらけのブーツで力強く立ち上がった。

 

そして迷いのない足取りで、先ほど自ら「押してはいけない」と制止した壁の装置ーー赤いカバーに覆われた『非常用ボタン』の前へと歩み寄る。

 

 

「ミヤコさん?」

 

 

新八が不思議そうに首を傾げた。

 

次の瞬間、ミヤコは一切の躊躇なく、その赤いボタンを思い切り叩き込む。

ーーーーーーーー

ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

けたたましい警報音が、深夜のヴァルキューレ警察学校の廊下に鳴り響いた。

 

 

「警報だ!」

 

 

「何事!?」

 

 

深夜の警備にあたっていた公安局の生徒たちが、慌ただしく銃を構えて駆けつけてくる。

 

 

「でも、監視カメラの映像には何も映ってないよ? 猫とか犬とか、ネズミじゃないの?」

 

 

一人の生徒が、手元のタブレットを確認しながら首を傾げる。

 

 

「保管庫の警報だぞ。あんな分厚い扉の中、どうやって入り込むんだ」

 

 

「穴でも掘ったんじゃない?」

 

 

隊員たちは警戒しつつも、相手が小動物であるとタカをくくり、保管庫のロックパネルに解除コードを打ち込んだ。

 

 

ピピピピッ、ガコォンッ!

 

 

重厚な金属の扉が、外側からの操作によってゆっくりと開いていく。

 

隙間から漏れ出る暗闇に向かって、隊員の一人が気の抜けた声で呼びかけた。

 

 

「ほら、犬ちゃん? 出ておいで〜」

 

 

「アーバク」

 

 

「!?」

 

 

暗闇の中から、凄まじい巨体がヌッと顔を出した。

 

『犬ちゃん』などという愛らしい呼称からは程遠い、見上げるほどの真っ白な巨大宇宙生物ーー定春が、呼びかけた隊員の頭から上半身を、丸ごとパクリと見事に咥え込む。

 

 

「ば、化け犬だァァァァ!!?」

 

 

「バク!!」

 

 

悲鳴を上げる隊員を頭から丸呑みにした定春は、さらに隣にいたもう一人の隊員にもガブリと食らいつき、ぶんぶんと巨大な尻尾を振って廊下で大暴れし始めた。

 

 

突然の巨大生物の襲撃に、完全武装していたはずのエリート隊員たちは完全にパニックに陥り、現場は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。

 

「定春、ナイスネ!」

 

神楽が無邪気に親指を立てた。

 

 

「いや、ナイスっていうか大丈夫なの!? 手加減してるよね!? ちゃんと甘噛みにしてるよね!?」

 

 

新八が冷や汗を吹き出しながら尋ねるが、神楽は誇らしげに胸を張る。

 

 

「大丈夫ネ。振り落とされないように、ちゃんと『しっかり咥える』ように言ってあるアル」

 

 

トバババババッ!

 

 

定春の口の端から、白目を剥いた隊員たちの足が激しく痙攣して跳ねている。

 

 

「いや、全然大丈夫じゃないよねソレ! 物理的に下に落ちなくても、アッチの世界に完全に落ちちゃってるよねソレ!!」

 

 

「新八さん、今はツッコミを控えてください」

 

 

悲鳴を上げる新八を、ミヤコが冷静沈着な声でピシャリと遮った。

 

 

「警報によって敵の注意は惹きつけました。これより爆煙と遮蔽物を駆使し、目標地点(ORT)まで一気に突破しましょう」

 

 

その凛々しい小隊長の姿を見て、銀時がこれ見よがしに小指で耳をほじりながら口を挟む。

 

 

「あの〜すいません。これなら最初から銀さんの言う通り『非常ボタン』押しときゃ良かったんじゃね?」

 

 

「…………」

 

 

ドヤ顔の指摘に対し、ミヤコは絶対零度の沈黙で応じた。自分の判断ミスは華麗にスルーする構えである。

 

 

「あ、俺からも一つ質問」

 

 

ぐるぐる巻きにされたままの長谷川がおずおずと声を上げる。

 

 

「もし、この先で大勢の敵に遭遇した時にはどうすーー」

 

 

ガシッ。

 

 

質問の途中で、ミヤコの両手が銀時と長谷川の襟首を恐るべき握力でガッチリと掴み上げた。

 

 

ドォォォォン!!

 

 

「「ウォォォォォォォォ!!!」」

 

 

ヴァルキューレ本館の廊下に、野太い三十路男たちの絶叫がこだまする。

再び発動した、対装甲用・人間鈍器の二刀流だ。

 

 

「敵に遭遇した時は……薙ぎ倒すまでです!!」

 

 

「いや、薙ぎ倒してんのは敵じゃなくてアンタの『理性』の方だろォォ!!」

 

 

空を切って猛烈な勢いで振り回される長谷川が、涙目で叫び返す。

 

 

「何回俺たちをバット扱いすれば気が済むんだテメェは!! もういいんだよ! 流石に飽きてきたんだよこの展開!!」

 

 

三半規管を破壊されながら、銀時が限界突破したメタ発言でクレームを叩きつけた。

 

しかし、ミヤコは一切のブレを見せない澄み切った瞳で前を見据え、凛とした声で言い放つ。

 

 

「RABBIT小隊は、いかなる状況下でも周りにある『全ての物』を駆使する訓練を受けています!」

 

 

「もういい!って言ってんだろ!! どんだけ持ちネタにしてェんだよそのセリフ!!」

 

 

「面白そうネ。私もやるアル」

 

 

「ちょっ! え、僕もォォォォ!!?」

 

 

銀時のツッコミも虚しく、神楽までが便乗して新八の両足を掴み、ジャイアントスイングの構えに入る。万事屋の男たちが、悉く戦術兵器として再利用されていく。

 

そこへ、廊下の奥から増援の公安局生徒たちが駆けつけてきた。

 

 

「おい待て! 止まーー」

 

 

「脆いんですよ!!」

 

 

制止の声をかき消し、ミヤコが鬼神の如き膂力で銀時と長谷川を大上段から振り下ろす。

 

 

「ポリウ◯タン製よりもろーい!!」

 

 

フルスイング!!!

 

凄まじい質量を持った人間バットが炸裂し、武装した隊員たちがボウリングのピンのように次々と宙を舞って吹き飛んでいく。

 

「そんなんでキヴォトスの治安ーー守れるんですか!!」

 

 

熱血刑事ドラマのような、熱く誇り高い決め台詞を叫ぶミヤコ。

 

しかし、その両手には白目を剥いた大人の男が握られている。

 

 

「ミヤコ!! キヴォトスの平和の前に、人間としての尊厳を守れ!!」

 

 

サキの魂からのツッコミが、夜のヴァルキューレ本館に空しく響き渡るのだった。

 

目標地点であるヴァルキューレ本館の屋上へと続く、最終防衛ライン。

そこを守る生徒たちは、下層から響いてくる凄まじい破壊音と悲鳴にガタガタと銃を震わせていた。

 

 

「どういうこと? たった数人でこの人数の精鋭を制圧するとか……」

 

 

「もしかして、アイツら人間じゃないんじゃ……。対装甲用の砲弾か何かなんじゃーー」

 

 

恐怖に引きつる隊員たちの前に、硝煙と土煙を切り裂いて一人の少女が姿を現す。

 

 

「砲弾じゃありません」

 

 

「誰だ!?」

 

生徒たちが一斉に銃口を向けた。

そこには、無機質なダストボックスを足元に置き、完璧なシュートフォームの構えに入っているミヤコがいる。

 

 

「サッカーです!」

 

「おい、ミヤコまさかー」

 

『いや、ミヤコちゃん……ちょっと待ってほしーー』

 

 

中からミユの悲痛な命乞いが聞こえた気がしたが、ミヤコは一切の慈悲もなく右足を振り抜いた。

 

 

「キックオフです!!」

 

 

ドォォォォン!!

 

凄まじい運動エネルギーを与えられたダストボックスが弾丸のような速度で宙を舞い、陣形を組んでいた隊員たちをなぎ倒していく。

 

ストライク。完璧な弾道計算による、文字通りの『ゴミ箱シュート』だ。

 

 

「呆気なかったですね」

 

 

ミヤコが、前髪をフッと吹き上げながら涼しい顔で呟く。

 

 

「ああ、呆気なかったよ。お前の人間としての尊厳破壊まで、ソニックの勢いで剥がれていったよ」

 

 

サキが、転がっていくダストボックスと白目を剥いた隊員たちを見つめながらツッコミを入れた。もはや小隊長は『戦術』という言葉を隠れ蓑にした、ただの狂戦士と化している。

 

そんな嘆きをよそに、ミヤコは無線機に手を当てて凛とした声で報告を入れる。

 

 

「ここはRABBIT小隊1、現在時刻0100。たった今、ORTに到着しました」

 

 

『ごめん、ごめん。原作と違って突破スピード早すぎて、色々とシステム解除が遅くなった!』

 

 

通信越しにモエの楽しそうな声が響いた。イレギュラーだらけの突破劇は予想外のタイムアタックだったらしい。

 

 

『いいデータ取れたし、私も次から人間バット使おっかなぁ』

 

 

「やめてくれ、SRT(ここ)に人間がいなくなる」

 

 

サキは頭を抱えながら屋上へと続く重い鉄扉を閉め、大急ぎで周囲の資材をかき集めてバリケードを張り始めた。

 

 

扉の向こうからは、すでに追っ手の足音と怒号が間近に迫ってきている。

バン! バン! と、鉄扉が乱暴に叩かれ始める。

 

 

「大丈夫アルか? 敵さんすぐそこまで迫ってきてるヨ」

 

 

神楽が、扉を押さえるサキの背中を叩きながら暢気に尋ねた。

 

 

『追い詰められた屋上、閉ざされた扉、その扉を叩く人々、そして中々来ない脱出用のヘリ……先週見たゾンビ映画と一緒だ、クヒヒ……』

 

 

モエが通信越しに、緊迫した状況をわざとらしく実況する。

 

 

「一応聞くけど、それどんな結末だった?」

 

 

扉に体重をかけながら、サキが嫌な予感を抱きつつ尋ねた。

 

 

『ヘリにぶら下がったゾンビのせいで、墜落して全滅』

 

 

「聞いた私が馬鹿だった!!」

 

 

サキが絶叫する。生存フラグをへし折るような結末に、エリートの胃壁が削られていく。

 

 

「でも、ここにゾンビなんていないアルよ?」

 

 

神楽が不思議そうに周囲の屋上を見渡した、その時だった。

 

 

「……またしても、貴様らか」

 

 

地を這うような、底冷えのする低い声。

 

屋上の別ルートから静かに姿を現したその人物は、漆黒の制服を夜風に靡かせ、鋭い眼光で万事屋とRABBIT小隊を睨み据えている。

 

ヴァルキューレ警察学校・公安局局長、カンナだ。

 

 

「あ、ゾンビアル!」

 

 

神楽が指を突き刺して無邪気に叫んだ。

 

 

「誰がゾンビだ。せめて公安局長と呼べ」

 

 

徹夜の執務と緊急事態の連続で、目の下にうっすらとクマを作ったカンナが、青筋を浮かべながら低く唸る。

 

「公安局長!」

 

 

突然の強敵の出現に、ミヤコが鋭く声を上げる。

サキも信じられないものを見るような目で、カンナと鉄扉を交互に指差した。

 

 

「どうしてここに! 屋上へ続く扉は完全にロックしたし、開けられた形跡もないはず……」

 

 

「外壁をよじ登ってきた」

 

 

カンナは、さも階段を上ってきたくらいのトーンで淡々と答える。

 

 

「マジかよ、ここ10階建て超えてるぞ……なんつー無茶を……そんな訓練ヴァルキューレには無いだろうに。しかもハーネスも無しで!?」

 

 

「犯罪者を捕まえるためなら、公安局は何でもする」

 

 

乱れた制服の襟を正し、カンナは冷徹な眼光を放った。

 

 

「……言い訳は聞かない。よもや、その『惨状』で通じるわけもないのは分かってるだろ?」

 

 

顎でしゃくった先には、全身打撲で震えている「元・人間バット」の銀時と長谷川、気まずそうに目を逸らす新八、そして未だにヴァルキューレの生徒を口にくわえてモゴモゴしている定春の姿がある。

 

「…………………」

 

 

銀時、長谷川、新八、そしてダストボックスの中のミユまでもが、完全なる沈黙で視線を泳がせた。言い逃れ不可能なテロリストの図である。

 

 

「無駄な抵抗はやめろ。大人しくお縄につけ」

 

 

絶対的な降伏勧告。だが、ミヤコは黙ったまま、瞳でカンナを見据えて微動だにしない。

 

「……あんな目にあったばっかりで全く懲りないとは、気は確かか?」

 

 

カンナは深いため息を吐き出し、眉間を揉みほぐした。

 

 

「今のキヴォトスは、貴様らを必要としていない。いや、必要としたくないが正しいな……このままじゃ、みんながみんな『人間バット』でフルスイングされて終わりだ。これ以上、被害者を増やすわけにはいかない」

 

 

「大丈夫です」

 

 

ミヤコが、至極真面目な顔でスッと胸を張る。

 

 

「次はホームランかましますから」

 

 

「そういう意味じゃない。まず戦力外通告じゃないんだよ」

 

 

カンナが即座にツッコミを入れた。

 

「ミヤコ、お前いつからボケ役になったんだ」

 

 

サキもまた、予想外すぎるストロングスタイルなボケに虚無の顔を向ける。

 

 

「公安局長、危ないのそちらの方ですよ」

 

 

不意に、ミヤコの声色から温度が消え去った。

 

冷たく澄み切った声と共に、彼女は背後に隠し持っていた『黒革のバインダー』をカンナの目の前へと突きつける。

 

 

「……何?」

 

 

カンナの目が、僅かに見開かれる。

 

 

「公安局の取引記録を発見しました」

 

 

夜風が吹き抜ける屋上に、ミヤコの毅然とした声が響き渡った。

 

 

「『子ウサギタウン』の再開発のため、放浪者たちを強引に追い出す。その見返りとして、カイザーグループと公安局との間に、最新装備の裏取引が発生していた。……そうですね?」

 

 

「っ……!」

 

 

カンナの表情が、目に見えて強張る。

 

 

「どうして、それを……」

 

 

「そりゃ、貧乏なお前らがいきなり新装備とか手に入れて、おかしいと思ったからに決まってるアル」

 

 

神楽が鼻をほじりながら、容赦のない正論を突きつけた。

 

 

「キヴォトスの治安を担当するヴァルキューレが、私企業との取引において犯罪行為に手を染める……これは、確実に問題かと思われます」

 

 

ミヤコはバインダーを片手に、一歩、また一歩とカンナに歩み寄る。

 

 

「治安部隊としてなら、お前のその『人間鈍器戦術』もだいぶ問題になると思うが……」

 

 

サキのボソッとした的確なツッコミも、今のミヤコの耳には届かない。彼女はただ真っ直ぐに、歪んだ正義の責任者へと糾弾の刃を向けた。

 

 

「連邦生徒会の定めた、公的な規則に従わない処理……公安局長、これをあなたが知らなかったはずがありません」

 

 

ミヤコの目が、鋭くカンナを射抜く。

 

「これは、ヴァルキューレ警察学校の理念に反する、重大な犯罪です!」

 

 

「いや、この状態もSRTの理念に反する重大問題だと思うけど」

 

サキが頭を抱える中、屋上には息を呑むような重い沈黙が落ちた。

 

 

「っ……」

 

 

カンナは、ギリッと奥歯を噛み締める。

 

獣耳が伏せられ、握りしめられた拳が微かに震えている。

 

 

「……本当に、言いたい放題だな」

 

 

絞り出すような声だった。

 

そこには冷徹な警察トップとしての余裕はなく、現場で泥水をすすってきた一人の少女の、生々しい感情が滲み出している。

 

「公的な規則……そうだな。貴様のいう通り、ヴァルキューレは公正であるべきだろう」

 

カンナは俯いたまま、自嘲気味に口角を歪めた。

 

 

「……しかし、世の中は、貴様らが思うほど公正ではない」

 

 

顔を上げたカンナの瞳には、血を吐くような悲痛な怒りが宿る。

 

 

「貴様らには『特権』がある! エリートとして特別扱いされ、潤沢な資金と最新の装備を与えられてきた! その上で安全な場所から正義を論じている間に……私たちが何をしていたか知っているか!?」

 

 

夜風を切り裂き、狂犬の魂からの咆哮が響き渡った。

 

「予算の足りない汚い職場で、どれだけ『妥協』に塗れながら公務を処理していたことか! 上層部からの理不尽な圧力に耐え、泥を被り、それでもこの治安を維持するために、どれだけ歯を食いしばってきたことか……!」

 

 

SRTという絶対的な正義と特権を持っていた彼女たちには、決して見えなかった世界。

 

綺麗事だけでは回らない、巨大な都市の暗部だ。

 

 

「それが社会だ! 現実だ!!」

 

 

カンナの怒鳴り声が、ミヤコの鼓膜を激しく打つ。

 

 

「手を汚さずに、純白の正義を掲げ続けることなどできない! 貴様らのような特権階級のガキに、それが分かるか! その判断をせざるを得なかった、この私の気持ちが!!」

 

 

悲痛なる叫び。

 

その重すぎる現実の重圧を前に、ミヤコはバインダーを持った手を僅かに震わせ、言葉を失って立ち尽くした。

 

沈黙を埋めるように、夜風に乗って、ひどく掠れた低い声が響く。

 

 

「確かに、カンナちゃんのいう通りだ。この社会は汚ねぇ事ばかり。綺麗事じゃあ、正義なんて通せねぇ」

 

 

「……長谷川さん」

 

 

ミヤコがハッとして振り返った。

 

 

そこに立っていたのは、幾重にもロープでぐるぐる巻きにされたままの、みすぼらしいホームレスの男。つい先ほどまで「人間バット」として振り回されていた背中が、今は不思議なほど大きく、重く見える。

 

割れたサングラスの奥で、長谷川泰三はかつての『長官』としての思慮深い光を宿していた。

 

 

「正義。たった二文字の言葉。ガキの学級目標でも上がるぐらい、誰もが知ってる簡単な言葉……だがな」

 

 

長谷川は、キヴォトスの煌びやかな夜景を見下ろし、自嘲するようにふっと息を吐く。

 

 

「そいつは、この世で最も難しい言葉の一つだよ」

 

 

その言葉には、底知れぬ説得力がある。

 

 

「正義とは、己の守りたいものを守るために、いつしか手を汚してるもんさ。どんだけ純白で綺麗に見えても、気づいてない間で必ずどこか汚れてる。……それが『正義』って言葉だ」

 

 

長谷川は、ゆっくりとカンナの方へと向き直った。

 

 

重圧に押し潰されそうになりながらも必死に牙を剥いて立つ不器用な少女に向けて、ひどく優しい声をかける。

 

 

「多分、アンタにも『守りたい何か』があったんだろ。そのために、自分から進んで泥を被ったんだ」

 

 

「…………っ」

 

 

図星を突かれたカンナの肩が、微かに震える。

 

 

カイザーと手を結んだのも、すべては「ヴァルキューレ警察学校」という組織と生徒たちの居場所を守るため。純白の正義が解体されるのを見たカンナは、自らが泥を被ることでしか足元を守れないと悟ったのだ。

 

 

「……そうだ。自分の信念を貫いてるだけでは、全てを失ってしまう」

 

 

カンナは力なく銃口を下げ、絞り出すように本音をこぼした。

 

防衛室長カヤからの圧力。強大な権力と現実の壁の前では、個人の信念などちっぽけなものでしかない。妥協しなければ、ヴァルキューレもまたSRTと同じ運命を辿る。その恐怖が、彼女を追い詰めていた。

 

 

その悲痛な告白を聞いて、長谷川は哀しげに目を伏せる。

 

 

「だよなぁ……」

 

 

ポツリと、夜風に溶けるような声で呟いた。

 

 

「以前の俺も……そうだった」

 

 

入国管理局局長というトップに立ちながら、たった一つの信念を貫き通した結果、地位も名誉も愛する妻も、すべてを失って『マダオ』へと転落した男。

 

「信念を貫けばすべてを失う」という残酷な真理を誰よりも深く理解しているのは、他でもない彼だ。

 

社会の底辺を這いずる敗北者と、治安維持の頂点に立つ警察局長。

 

決して交わるはずのない二人の間に、ただ『重すぎる現実を知る者同士』の、静かな共鳴が生まれる。

 

長谷川は、自らを縛るロープの窮屈さなど忘れたかのように、遠くのネオンサインを見つめながら静かに口を開いた。

 

 

「でも、ある時……こんな言葉を吐いた馬鹿がいた」

 

 

それは、かつて彼がどん底の絶望の中で聞いた、真っ直ぐな咆哮。

 

『幕府が滅ぼうが! 国が滅ぼうが! 関係ねぇ! 俺はーー自分の肉体が滅ぶまで、背筋伸ばして生きてくだけよッ!!』

 

長谷川の言葉に、サキやモエが息を呑む。

 

 

「笑えるだろ?」

 

 

長谷川は泥だらけの顔に、ひどく穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

「大の大人が『背筋伸ばして生きる』なんて言って、国と助手一人を天秤にかけて、迷わず助手を取るなんてよ」

 

 

綺麗事すら通り越した、ただのエゴイズム。だが、その愚直なまでの『芯』の強さに、彼は救われたのだ。

 

長谷川は、割れたサングラス越しの視線をカンナへと向ける。

 

 

「なぁ、カンナちゃん。アンターー今、背筋伸ばして生きてるか? 真っ直ぐ生きてるって、胸張って言えるか?」

 

 

「…………っ」

 

 

カンナは息を詰まらせ、ギリッと唇を噛み締めた。

 

圧力に屈し、巨大企業に尻尾を振り、力なき放浪者やエリートの少女たちを叩き潰そうとしている今の自分。その背中は、誰の目から見ても重圧と妥協で丸く歪んでいる。

 

何も言い返せないカンナの横を通り抜け、銀時がゆっくりと前へ出る。

 

彼は泥だらけになりながらも真っ直ぐに立つミヤコたちを親指で指し示した。

「少なくとも、コイツら……アンタよりはよっぽど背筋伸びてるぜ」

 

 

「……先生」

 

 

ミヤコが、小さくその名を呼ぶ。

 

 

「小汚くても、テメェらしく、テメェのやり方で生きていってるからな……」

 

 

銀時の死んだ魚のような瞳が、夜の闇の中で確かな熱を帯びてカンナを射抜いた。

 

 

「別に、アンタを咎めようとも何とも思わねェよ。組織を守るために泥を被ったんだろ?」

 

 

「……」

 

 

「守りてェもんを守る魂は、何も間違っちゃいねぇからな」

 

 

正義を語るのではなく、ただカンナが背負い込んだ重圧と不器用な優しさを認める言葉。不意を突かれたカンナの瞳が揺れ、張り詰めていた糸が微かに緩む。

 

 

「だが」

銀時は懐に手を突っ込み、低く真面目な声で言い放つ。

 

「誰かの用意した汚ェ首輪に繋がれて守るんじゃねェ。一度は、テメェ自身の手足で守ってみるのも良いんじゃねェの?」

 

 

冷たい風が、カンナの獣耳を大きく揺らす。

 

 

「……テメェが、今の自分に嫌気がさしてるならな」

 

 

すべてを見透かすような言葉が、カンナの心の最も脆い部分を的確に叩き割る。

 

 

「カンナ」

 

 

万事屋のリーダーは、迷える警察のトップに力強く告げた。

 

 

「テメェの道は、他の誰でもねぇテメェ自身の手で切り開くもんだ」

 

 

その言葉はどんな銃弾よりも深く、カンナの胸の奥底へと突き刺さる。

屋上に静寂が舞い降りた。防衛室からの命令という鎖に繋がれていた公安局長が、自らの手でその鎖を引きちぎるための、最後にして最大の決定打である。

 

沈黙を切り裂くようなけたたましいローター音が響き渡り、強烈なダウンウォッシュが吹き荒れる。

 

 

『ミヤコ、お待たせ! ポイント上空に到着した!』

 

 

通信機から、モエの明るい声が響いた。

 

見上げれば、ヘリポート上空に漆黒の攻撃ヘリがホバリングしている。ハッキングでシステムを掌握し、遠隔操縦で呼び寄せたのだ。

 

 

「……来ましたか」

 

 

ミヤコは瞳を細め、吹き荒れる風の中で短く頷く。

 

 

「総員、ハーネスを準備。順番に離脱します」

 

 

「装着完了! 上げて!」

 

 

サキの合図と共に、ヘリからウインチのワイヤーが降りてきた。

 

ミユが震えながらしがみつき、新八と神楽も手慣れた様子でロープを掴む。ぐるぐる巻きのマダオは、もはや荷物扱いで定春に咥えられたままだ。

 

最後に残ったミヤコは、ヘリへと向かう銀時の背中を一度だけ見つめた後、静かにカンナへと向き直る。

 

 

「公安局長」

 

 

風の音に負けないよう、ミヤコは声を張った。

 

 

「あなたがいう『正義』は、決して間違っていないのでしょう。組織を守るためのその覚悟も、本物だと思います」

 

 

「……」

 

 

「ただ……私たちが信じる『正義』とは、少しだけ違うだけで」

 

 

手にした黒革のバインダーをしっかりと抱き直し、ミヤコは言葉を継ぐ。

 

 

「あなたと私たちの違いはーー自分に嘘をつかずに進めたかどうか。それだけです」

 

 

誰に繋がれることもなく、泥にまみれても己の足で立つことを選んだ少女たち。

 

その誇り高き宣言は、カンナの心の奥底に燻っていた炎を確実に燃え上がらせた。

 

「それでは」

 

 

ミヤコは深く一礼し、ワイヤーのフックをハーネスに掛ける。

 

 

「ミヤコ、急げ! 公安の増援が来るぞ!」

 

 

サキの叫びと同時に、屋上へと続く鉄扉が内側から激しく叩かれ、カンヌキが悲鳴を上げ始める。

 

 

ウィンチが巻き上げられ、ミヤコたちの体が夜空へと浮かび上がった。

 

 

「待てッ! 逃がすな!!」

 

 

扉をぶち破って雪崩れ込んできた生徒たちが、空へ逃れる標に向かって一斉にアサルトライフルを構える。

 

「撃て! 撃ち落とーー」

 

「撃つな!!」

 

全員の動きを止める、雷鳴のような鋭い一喝。

 

声の主は、他でもないカンナだ。

 

 

「きょ、局長……!?」

 

 

驚愕する隊員たちを尻目に、カンナは夜風に制服を翻しながらゆっくりとヘリを見上げた。

 

その瞳にはもう、組織の犬としての迷いや妥協の色はない。真っ直ぐに背筋を伸ばした『狂犬』の顔がある。

 

「追撃は不要」

 

それは事実上の『敗北宣言』。

 

遠ざかっていくヘリの機影を見つめながら、カンナは長く深いため息を吐き出す。

 

そして、部下たちには聞こえないほどの小さな声で、自嘲気味にポツリと呟いた。

 

 

「………始末書を、用意しておくか」

 

 

巨悪との癒着を断ち切り、自らの足で歩き出すための山のような始末書。

決して後悔の言葉ではなく、どこか清々しさすら感じさせる決意の辞だ。

月明かりの下、夜空を飛び去る黒いヘリコプター。

 

大人の泥を被った決断と少女たちの折れない誇りが交差した長い一夜が、こうして幕を下ろす。

 

夜の帳が完全に下りた本館前は、普段の厳格な静寂が嘘のような喧騒に包まれていた。

 

煌々と焚かれたテレビカメラのライトが闇を切り裂き、クロノス報道部のシノンがマイクに向かって声を張り上げる。

 

 

「私は今、カイザーグループとの癒着問題が噂になっているヴァルキューレ警察学校の前に来ています!」

 

 

隣に立つマイも、興奮気味に眼鏡を押し上げながら言葉を継いだ。

 

「市民を保護し正義を守るべきヴァルキューレが私企業と裏で手を取っていたというのは、キヴォトス全土を揺るがす衝撃的な情報です! さらに先日、謎の武装集団が地下金庫に侵入し、施設の一部を破壊したとの情報も……果たして真相はどうなのでしょうか!?」

 

 

矢継ぎ早に投げかけられるセンセーショナルな憶測。

 

そこへ、エントランスから足音も荒くカンナが姿を現す。

 

疲労と苛立ちを隠しきれない彼女は、低い声で群がる報道陣を睨みつけた。

 

「……何の騒ぎだ」

 

 

「あっ、カンナ公安局長です!」

 

 

獲物を見つけた肉食獣のように、シノンがマイクを突き出す。

 

 

「突然ですが、今回の違法リベートの件につきまして一言頂けますでしょうか!」

 

 

「待て、それはどこからの情報で……というかここは敷地内だ。許可は得ているのか?」

 

 

「おおっと、やはりマスコミと権力とは衝突する運命なのか! しかし私たちクロノスは圧力には屈し——」

 

 

「良いからさっさと出ていけ!」

 

 

カンナの怒号が夜空に響き渡る。

不正の証拠を握り潰された上にマスコミの処理まで押し付けられた狂犬と報道陣との不毛な押し問答は、夜更けまで延々と続くのであった。

 

* * *

 

一方その頃。

 

子ウサギ公園のテント前では、焚き火を囲みながらRABBIT小隊と万事屋の面々がニュースの音声に耳を傾けている。

 

 

「……すごいニュースになっていますね」

 

 

焚き火の光に顔を照らされながら、ミヤコが静かに呟いた。

 

 

「う、うん。朝からずっとそのニュースが……」

 

 

ミユも、ダストボックスの蓋を抱えながら不安げに頷く。

 

サキは泥汚れを落としたヘルメットを弄りながら、興味もなさそうに肩をすくめた。

 

 

「別に関係無い。私たちはやるべきことをやっただけだ。どうせ今のヴァルキューレは対応に追われてる。私たちなんかに構っている暇は無いはずさ」

 

 

しかし、モエだけは端末の画面を見つめたまま、一人思案顔を浮かべている。

 

 

「それはそうなんだけど、なんか引っかかるって言うか……めちゃくちゃ対応が『速い』んだよね。連邦生徒会が即座に調査チームを組織したのもそうだし、あのカイザーがスッパリと『再開発中止』を宣言するなんて……」

 

 

不自然なまでの、巨大組織たちの迅速な幕引き。

 

その違和感に気づいた新八が、欠伸をしている銀髪の男へと視線を向けた。

 

 

「銀さん、あの後……裏で何かしたんですか?」

 

 

「さぁな」

 

 

銀時は小指で耳をほじりながら、何でもないことのように鼻で笑う。

 

 

「ま、当分の間は大丈夫だろうさ」

 

 

はぐらかすような苦笑い。その真意を深く問いただすことはせず、ミヤコは小さく息を吐いて安堵の表情を見せた。

 

 

「……? とにかく、安心しました。再開発が中止されるなら、放浪者の方々を追い出すことも無いでしょうし……私たちも、まだここにいられます」

 

 

失いかけた『居場所』を、自分たちの手で確かに守り抜いた。

 

穏やかな風が公園の木々を揺らし、心地よい静寂が訪れる。

 

 

「あの……」

 

 

暗がりから、突如としてくぐもった男の声が響いた。

 

 

「っ!」

 

 

サキが弾かれたように立ち上がり、瞬時に得物を構える。

 

 

「うわ、侵入者だ」

 

 

モエがニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、危険な要求を口にした。

 

 

「サキ、手榴弾ちょうだい。朝のトレーニングがてら、軽く一発お見舞いしてあげる」

 

 

「待て待て待て! 侵入じゃない、ただの挨拶に来たんだ!!」

 

 

慌てて両手を挙げて飛び出してきたのは、身の丈ほどの段ボールを被った放浪者のリーダー——『マダオ二号機』こと、デカルトだ。

 

 

「……挨拶?」

 

 

サキが銃口を下げずに眉をひそめる。

 

 

「ああ、何か昔の本で読んだことがある。『ちょっとした挨拶だぜ!』って言いながら、鉛玉と爆薬を食らわせるあの……」

 

 

「これだから無法者は!!!」

 

 

物騒すぎる解釈にデカルトは悲鳴を上げたが、すぐに咳払いをして姿勢を正す。

 

 

「……あぁもう。とはいえ助けてもらった手前、何も言わないわけにもいきませんからね。君たちには助けられてしまいました」

 

デカルトは、大仰な身振りで語り始める。

 

「どうやら危険を顧みずヴァルキューレに潜入し、陰謀を暴いたのだとか。おかげでこの子ウサギタウンも脅かされることがなくなり、『所確幸』の仲間たちも無事に公園へと戻ってきています」

 

 

深く頭を下げるデカルト。

 

 

「私たちのためではなかったのかもしれません。それでも、恩を受けて知らぬ存ぜぬは真の求道者としてできませんので……今日は感謝の印として、特別な食べ物をプレゼントしに来たのです」

 

 

「特別な食べ物!? 何それ!」

 

 

連日の飢餓状態に苦しんでいたモエが、即座に目を輝かせた。

 

しかし、現実主義のサキは胡乱な目を向ける。

 

「……まさか、また廃棄寸前のモヤシ弁当じゃないよな?」

 

 

「いえ。私たちが持っている中で、最も貴重なものです。それは、こちら……」

 

 

デカルトが恭しく差し出した紙皿。そこに鎮座していたのは、紛れもない——

 

 

「唐揚げです!」

 

 

「……唐揚げ、ですか?」

 

 

ミヤコが瞬きをする。しかし、皿の上にあるのはどう見ても肉のついていない残骸だった。

 

 

「はい。普通の唐揚げとは違って、拾い集めた『鶏の骨』を二度揚げしたものですので、そのまま食べることはできません」

 

 

食えないんかい、という新八の呟きを意に介さず、デカルトは熱弁を振るう。

 

 

「しかし、香りは本物の唐揚げそのもの! この匂いを存分に味わうことで、極上の肉を食らっているという楽しい気分を錯覚しつつ、その実カロリーはゼロ! これ一つでビール3缶は飲めます! もちろん白ご飯との相性もバッチリ。さあ、遠慮せずに存分に味わってください!」

 

 

ドヤ顔で言い放つデカルト。

 

しかし、革命的食材を前にした一同の反応は、真冬のツンドラ気候よりも酷く冷ややかだった。

 

数秒の沈黙の後、全員の声が綺麗にハモって響き渡る。

 

 

「ただのゴミじゃねぇかァァァ!!!」

 

 

完璧なユニゾンによる怒号。

 

 

「ふざけるなヨ! こんなもん、ただの生ゴミじゃないアルか!」

 

 

激怒した神楽が、デカルトの被っている段ボールに向かって容赦のない飛び蹴りを放った。

 

 

「ああっ!? 私の極上フルコースが!」

 

 

「テメェ、俺たちを犬扱いしてんのか! いや、見ろ! 犬だってそんなモン見向きもしねェよ!」

 

 

銀時が指差した先では、定春が紙皿の上の骨を嗅いだ後、露骨に「プイッ」と顔を背けている。雑食の極みのような巨大犬のプライドすら傷つける、正真正銘の産業廃棄物。

 

 

「サキ、やっぱり手榴弾。今すぐピン抜いてちょうだい」

 

 

 

モエが完全に据わった目で要求を繰り返した。

 

 

「やはり我々『所確幸』は、あなたたちとは相容れない!」

 

 

ゴミを振る舞っておいて理不尽に憤慨するデカルトに対し、ついにサキの堪忍袋の緒が切れる。

 

 

「それはこっちの台詞だ! モエ!」

 

 

「よっしゃ、ホームランかますよ!」

 

 

モエが邪悪な笑みを浮かべ、暗がりから『何か』を引きずり出してバッターのフォームで構えた。

 

 

「またこの展開なのォォォ!? 絶対こうなる展開が見えてたから、隠れてたのにィィ!!」

 

 

悲鳴を上げたのは、ロープでぐるぐる巻きにされたままの長谷川だ。先ほどのハードボイルドな空気はどこへやら、再び人間バットとして装填される。

 

 

「あー、長谷川さん。アンタまだ居たの?」

 

 

銀時が素で忘れていたような気の抜けた声を出す。

 

 

「隠れてたけどそのリアクション酷くない!?」

 

 

ぐるぐると振り回され始めた長谷川の絶叫とデカルトの悲鳴が交差する公園の惨状を見つめながら、新八は深くため息をついた。

 

 

「……またこうなるんですか」

* * *

静寂に包まれた連邦生徒会、防衛室のオフィス。

 

窓の外に広がるキヴォトスの夜景を見下ろしながら、不知火カヤは一人、不満げに独り言をこぼしている。

 

 

 

「……やはり、こうなってしまいましたか。ヴァルキューレはしばらく動けそうにありませんね。クロノスもしつこそうですし……相変わらず、私は人に恵まれませんねぇ……」

 

 

「……それは前にも聞いた」

 

 

照明の落ちた室内の暗がりから、ふと冷静な声が響く。しかし、カヤは驚く様子もなく口元を綻ばせた。

 

 

「とはいえ、カイザーと『こちら側』についての繋がりを示す証拠は見つかっていないようですし……計画に支障は無さそうです」

 

 

「その辺に気を遣っている暇があったら、信じられる仲間を増やすことに時間を使うべきでは?」

 

 

「信じられる仲間、ですか……」

 

 

カヤはゆっくりと振り返り、闇に潜む四つの影を見つめる。

 

 

「そういえば、あなたの後輩たち……中々良さそうですね? 腐っても鯛と言いますか。熟練度は足りませんが、やはりSRTに入れただけのことはあります」

 

 

影の一つ——キツネの耳を持つ少女、ユキノが淡々と答えた。

 

 

「私からしたら、まだSRTを名乗るには未熟。ニコが甘やかしただけ。もし私だったら、警報など鳴らさずに一分で脱出できた」

 

 

辛辣な評価を下すユキノだったが、直後、ひどく真面目なトーンでこう付け加える。

 

 

「だが、あの『人間バット』は面白い戦術発想だ。こちらも状況次第で採用できれば採用しよう」

 

 

「まあ、まだ一年生ですものね。みなさんのようなベテランの実績を求めるのも酷というものでしょう」

 

 

狂っているエリートの戦術眼を優雅にスルーし、カヤはにっこりと微笑んだ。

 

 

「とはいえ、そうですね……使わないのは勿体ないですし。私たちの『クーデター』計画に、彼女たちも参加させる……というのはどうでしょうか? 先輩としてどうですか? SRT特殊学園、『FOX小隊』のみなさん?」

 

 

暗闇から姿を現したFOX小隊の面々が、それぞれの反応を見せる。

 

 

「まあ、良いんじゃないかねぇ」

 

 

オトギが、気怠げに笑う。

 

 

「こうなったら、それくらい埋め合わせはしてもらわないと」

 

 

クルミが、呆れたように肩をすくめた。

 

 

「可愛い後輩たちの手は汚したくなかったけど……仕方ないかな?」

 

 

ニコが、少しだけ寂しそうに目を伏せる。

 

そして、ユキノが静かに、だが確固たる冷たい意志を込めて告げた。

 

 

「……仮にもSRTに入った身。最初から覚悟はしてたはず。全ては、SRTの復活。そして——」

 

 

ユキノの冷徹な眼光が、夜の闇の中で鋭く光る。

 

 

「『シャーレ』廃絶のために」

 

 

華やかなネオンが瞬くキヴォトスの夜は、静かに、しかし確実に次なる動乱の足音を響かせていた。

 




マダオナレーション



透魂投稿開始より早2年。遂に


【挿絵表示】


「え、終わんの?マジで?」


「こ……ここが」

乾いた風が、荒廃した街の土埃を巻き上げる。見慣れたはずのキヴォトスの街並みは、変わり果てた姿でそこにあった。


「すべてが終わった。俺たちの……世界」


立ち尽くす銀時の目に映るのは、かつての活気を失い、静寂と絶望に支配された別の世界の光景だった。

銀時は別の世界へ――


「銀ちゃんは……どこ?」

赤く染まる空。崩落するサンクトゥムタワー。


キヴォトスの空を覆い尽くす前代未聞の絶望を前に、少女たちは銃を手に取り、激しい戦いへと身を投じる。
虚妄のサンクトゥム攻略戦――それは、彼女たちの生きる世界と未来を懸けた、決死の最終決戦の幕開け!

誓約:巡り合う記憶と侍の矜持

無数の星々が瞬き、青い光の渦が広がる静寂の空間。

水面のような場所に佇む一人の少女――連邦生徒会長が、過去を悔いるように、そしてひとつの真理へ辿り着いたように静かに口を開く。


「責任を負うものについて話したことがありましたね」


透き通るようなその声は、どこか優しく響く。


「あの時の私には分かりませんでしたが、今なら理解できます。侍としての責任と矜持」


彼女の言葉に呼応するように、過酷な戦場に立つ生徒たちの姿と、これまでの軌跡が重なり合う。


「そして、その延長線上にあったあなたの選択。それが意味する心ばえも」


世界はねじれ、歪み、本来であれば悲劇的な終着点へと向かっているのかもしれない。しかし、生徒たちのために傷つくことを恐れず、決して見捨てることのなかった「侍」が導く結末は、きっと違うはずだ。


「ですから、坂田さん」


少女は祈るように、たった一つの確かな希望へと思いを託す。


「私が信じられる侍であるあなたになら、このねじれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……」


夜明けの光が差す海辺。そして、彼と共に過ごしてきた愛おしい日々。
どうか、この道の果てに、誰もが笑い合える明日が待っているように。

「だから、どうか――」


これは、絶望に抗い、あまねく奇跡の始発点へと至るための、最後の物語。

銀時は血に塗れた顔を上げ、決意と共に剣を握り直す。


「俺を殺れんのは……」


雷鳴が轟き、禍々しい妖気が渦巻く中、彼は――自らの宿命と対峙する。


「俺しかいねぇだろ」


「コイツを託す……」


世界がどれほど変わろうとも、護るべきものは変わらない。


【挿絵表示】


ーーーーーーー

新八「おお、遂にこの作品も完結篇が始まるんですね」

銀時「まぁ、完結篇に入るまでに色々とやんないといけないことあるけど…」

「雪山にバニーに、運動会。これが終わったら完結篇に入る」

神楽「まぁ突然出たことない生徒が出てきても困るからな」

新八「というか本当に完結するんですか?色々と不安なんですけど、」

銀時「終わる終わる。心配しなくてもちゃんと終わらせるって……」

「それより心配なのは、タイトルよ」

新八「え?タイトル?」

銀時「実は銀さん、5月ぐらいから出張に出てて〜先生二股してんだけど」

「そこのタイトルと被ってんだよ」

新八「えぇ!?大丈夫なんですかソレ!訴えられたりしないですか?大丈夫ですか?」

銀時「まぁ、お互いに干渉しなけれりゃ大丈夫何じゃね?」

新八「いや、今思いっきり干渉しまくってんですけど、子離れできない親並に干渉してるんですけど」

銀時「えぇ、この完結篇は今までの銀魂キャラの登場秘密や、原作お馴染みのアレが出てくるんで。絶対見逃さないように!」

神楽「ヅラとゴリラの話は別枠の分岐の三の超大作アル」

銀時「というわけでこれからも透魂をー」

万事屋「よろしくお願いします!」


〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 桂
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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