透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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アンケートご協力していただきありがとうございます。ヒナとアビドスと便利屋の話に決まりました。お楽しみに


第十六訓水着の主張は控えめに

 

 

 

 

 

某日。

キヴォトスの太陽が容赦なく照りつける、うだるような暑さの日。

アビドス対策委員会の一行は、とあるショッピングモールを訪れていた。

「うへぇ……何もこんな灼熱地獄の日に買い物に行かなくてもいいじゃないの〜。おじさん、干からびてスルメになっちゃうよぉ」

 ぐったりと背を丸め、今にも溶け出しそうなホシノの背中を、セリカがバシバシと叩く。

「なーに言ってんの! バーゲンよバーゲン! 今日を逃したら欲しかった雑貨が定価になっちゃうのよ!?」

「私も新しい水着が欲しかったので、みんなと一緒に買い物に来れて良かったです~♪」

 ノノミは暑さをものともせず、楽しそうにショッピングバッグを揺らしている。

 一方、シロコは普段と変わらぬ涼しい顔で周囲を警戒……もとい、散策していた。

「シロコ先輩は水着、買わなくていいんですか?」

「ん。もう持ってるから大丈夫。それに、いつでも泳げるように服の下に着てる」

「えっ、今着てるんですか!?」

 アヤネが驚く中、一行は涼しいエアコンの効いたショッピングモールの中へと足を踏み入れた。

 休日ということもあり、様々な学園の生徒たちで賑わっている。

「ふふっ、これだけ人がいると、銀ちゃんもここに来てるかもですね♪」

「それはないでしょ。銀ちゃんだって暇じゃないんだから、シャーレで書類仕事してる……はずよ。多分」

 セリカは語尾を濁した。あの男が真面目にデスクワークをしている姿が想像できなかったからだ。

 だが、その予想は斜め上の方向で裏切られることになる。

「ん、噂をすれば」

 シロコが足を止め、ある一点を指差した。

「えぇ!」

 全員が一斉にその指差す方向を見る。

 そこには、白地に青の波模様が入った着物――つまり、銀時のいつもの服――だけが、壁一面にずらりと陳列されている、狂気じみた専門店があった。

 そして、鏡の前でその着物を合わせている銀髪の男の姿も。

「おぉ! これは銀時の旦那! 新作が入ってきた所だから見ていってよ」

 店主と思しきオヤジが、揉み手をしながら銀時に話しかけている。

「そうだなぁ、第一章も終わったし、ここらで心機一転、イメチェンでもしようかなぁと思ってよ」

 銀時は真剣な眼差しで、ハンガーにかかった着物(いつもの)と、自分が着ている着物(いつもの)を見比べていた。

 その光景に、シロコとホシノ以外のメンバーは真顔になった。

 思考が停止した、と言ってもいい。

「あの……ホシノ先輩? あれは……何屋ですか?」

 アヤネが恐る恐る尋ねる。

「えぇ? ただの着物屋でしょ〜。なに聞いてんのさアヤネちゃん」

「いや、私たちの目には全部同じ物に見えるんだけど……!」

 セリカが、自分とアヤネ、そしてノノミの気持ちを代弁して叫んだ。

 ――――――――――――――――――――――――ー

 そんな彼女たちの困惑を知ってか知らずか、銀時は「新作」と称された着物を羽織り、鏡の前でポーズを取っていた。

「どうだい旦那。今回のモデル、よく似合ってると思うんだけど」

「う~ん……何か違うんだよなァ! 襟元のシャープさが足りないっつーか」

 銀時が渋い顔をする。

 それを遠巻きに見ていたアヤネが、心の中で鋭いツッコミを入れた。

『何も違いませんよね!? 全くなにも変わってないですよね!? 型番一緒ですよね!?』

「何かなぁ、ここまで冒険するつもりはないんだよ。もっとこう、前のイメージを取り込んだ、シックなやつないの?」

 次はセリカがこめかみを押さえてツッコミを入れる。

『前回十分冒険らしきことしたでしょ! 戦車斬ったりしたでしょ! それに冒険するような服って何!? 全部同じ柄じゃん!!』

「あー、この間まで旦那が好みそうな『ビンテージ加工(ただの古着)』の品があったんだけど、残念ながら売り切れてしまってね」

「マジかー。人気あんだなーこのブランド」

 その会話に、セリカとアヤネの我慢が限界に達した。二人の心の叫びがシンクロする。

『あんなの銀ちゃんぐらいしか買わないでしょうがァァアア!!! 需要どこにあんのよォォォォ!!』

 その魂の絶叫(ツッコミ)が聞こえたのか、銀時がピクリと耳を動かし、声が聞こえた方向へと歩き出した。

「すまねぇなおっちゃん、また来るわ」

 試着したまんまで。

「毎度!」

 試着したまんまなのに見送る店主。

 ――――――――――――――――――――――

 そして、銀時は柱の陰にいた対策委員会の面々と合流した。

 

「やっぱりお前らだったのか! どうりで威勢のいいツッコミが聞こえてきたと思ったよ。鼓膜が破れるかと思ったぜ」

銀時は悪びれる様子もなく、片手を挙げて挨拶する。

「銀ちゃん、それ……試着したままですよ? お会計は?」

ノノミが心配そうに銀時の着物を指差す。

しかし、銀時は着物の袖を摘み上げ、真剣な顔で否定した。

「なに言ってんの。違うよ! ほら、ここのシワとか全く変わってないから? これは俺の自前のやつだから」

「はぁ!?」

セリカが銀時の袖を掴んで確認する。パリッとした糊の効いた感触。新品の匂い。

「シワはつくでしょ! 動いてんだから! 逆に何で全く変化しないんですか! 新品特有の畳みジワが残ってるじゃない!」

「いやいや、これは演出上の都合っていうか……。ほら、ここ小説の中だし? 立ち絵が変わると作画コストとか、時間的な事情が発生するわけよ」

銀時はカメラ目線で、とんでもないメタ発言を口にした。

「はいストップ!」

セリカが銀時の口を両手で塞ぐ。

「メタイこと言わないでよ! ここは神聖なキヴォトスなの! ジャンプの巻末コメントじゃないのよ!!」

アヤネは深いため息をつき、シロコは「ん、新しい服、似合ってる」とズレた感想を漏らし、ホシノは「うへへ、賑やかでいいな~」と笑っている。

アビドスの休日は、今日も騒がしく過ぎていく

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

水着コーナーへと続く通路を歩きながら、アヤネは額を押さえて深いため息をついた。

「全く、何やってるんですか! 着ていた服と同じものを買おうとするなんて……」

「ホシノ先輩。どうやら水着や服を買うことに関しては、私たちより銀さんの方が深刻そうよ」

セリカが呆れたように肩をすくめると、銀時は不服そうに口を尖らせた。

「何言ってんだ。服なんてのは飾りだろ? どんな物でも着こなすことが大事であって、肝心なのは中身なんだよ。俺のダンディズムが滲み出ちゃってるから、服の方が霞んじまうだけの話で――」

「いつも死んだ目でふざけてるのは銀さんでしょ! ダンディズムなんてどこにもないわよ!」

セリカの鋭いツッコミに、銀時は「ぐぬぬ」と口ごもる。

そんなやり取りを横目に、シロコは少し嬉しそうに銀時の袖を引いた。

「ん、でも良かった。これでみんなでイメチェン出来るね」

その瞳は、銀時と一緒に服を選べるという期待に輝いている。

だが、銀時は気まずそうに視線を逸らした。

「おいおい! 何勝手に決めてんだよ。俺はもう帰るモードに入ってんだけど」

背を向けようとする銀時を、ホシノがのんびりとした口調で引き止める。

「まぁまぁ、いいじゃない。これからの季節、冬服もいるでしょう?」

「冬服?」

銀時はきょとんとした顔をした。

灼熱の砂漠、アビドスに「冬」という概念があるのか、という顔だ。

「だって銀ちゃん、それ冬も着るつもりなの? 寒くない?」

「え?」

銀時は自分の格好――片方の袖を脱ぎ、下にはジャージという独特のスタイルを見下ろした。

そこに、シロコがここぞとばかりに食いついた。純粋な好奇心という名のナイフを持って。

「うん、銀ちゃん。気になったこと全部言うね」

シロコは一歩踏み出し、銀時の目を真っ直ぐに見つめた。

「何で浴衣は片肌脱ぎなの? ちゃんと着ないの?

何で浴衣の下にジャージ着てるの? 和洋折衷?

一回ちゃんと着てから、もう一回脱ぐの? なんで? なんでわざわざ脱ぐの?」

「っ……!!」

銀時の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。

長年続けてきたこのスタイル。それは「粋」であり「傾奇者(かぶきもの)」の象徴だと思っていた。

しかし、女子高生の純粋な疑問の前では、ただの「露出狂の変な重ね着」でしかなかったのだ。

それを見たシロコは、ハッとして口元を抑えた。

「はっ、ごめん……まさか、それが『かっこいい』とか思ってやってたとか、そういう……」

グサッ!!

 

トドメの一撃。

それは、誰あろう銀時自身が墓穴を掘った結果だった。

銀時は焦りに焦った。

「カッコつけてる」と図星を突かれた恥ずかしさで、脳内の糖分回路がショートし、煙を上げている。

「い、いやぁ〜! 長・袖! そうだ長袖買おうかな! 寒いしな! 砂漠の夜は冷えるしな! お腹冷やしてポンポン痛くなったら困るしな!」

「え?」

突然の、あまりにも露骨な宗旨替えに、アビドスの一同が驚く。

だが、銀時の暴走機関車は止まらない。早口で、必死にまくし立てる。

「べ、別にカッコいいとか思ってねーし! 全然思ってねーし! 片肌脱ぎの方が剣振るう時に動きやすいなぁとか、あくまで機能性を重視してただけだからね! オシャレとか意識してないからね! 厨二病とかじゃないからね!」

その必死すぎる弁解。

泳ぐ視線。

赤らんだ耳。

シロコ以外の全員が(ああ……カッコいいと思ってたんだ……ガッツリ中二病だ……)と察し、生温かい目で銀時を哀れんだ。

「ん、やった! 冬服もゲット!」

「誰がテメェらまで買っていいって言ったよ! 便乗商法やめろ!」

「じゃあこれ、これも買っていきな!」

店長が謎の壺を持ってきた。

「オメェに至っては全然関係ぇねぇだろ!!」

カオスと化す店内で、アロナが呑気な声を上げる。

『冬服ですか〜。良いんじゃないんです? だって先生、季節感という概念が欠落してますからね』

「うるせーよ。……ただ、あんまし突拍子のねぇ格好は出来ねぇぞ?」

銀時は商品棚を物色しながら、ボソリと呟く。

「下手すると、ネットで『痛いアニメ服ぅ〜』とか言われかねねぇからな! 俺のキャラ崩壊に関わるからな!」

「そうですねぇ……。ある程度、銀ちゃんのイメージは保ったまま、暖かくてオシャレなものが良いんじゃないでしょうか……あっ」

ノノミが良いアイデアを思いついたように手を叩いた。

          †

【試着コーナー】

汚名返上のため、銀時は大人しく着替えをすることになった。

「じゃあ銀ちゃん、これを着てみてください♪」

ノノミが選んだのは、爽やかな色合いのカジュアルシャツ。

銀時はそれを受け取り、狭い試着室へと入っていく。

シャラシャラシャラ……(カーテンが閉まる音)

中でゴソゴソと衣擦れの音が響く。

そして数秒後。

シャラシャラシャラ……(勢いよく開く音)

「そうか? あんま変わんねぇけどな」

そこには、ノノミが選んだ新品のシャツの片袖を物理的に引きちぎり、いつものように片肌脱ぎスタイルで着こなす銀時の姿があった。

「なんで長袖まで片肌脱ぎなんですか!? 新品ですよ!?」

アヤネの悲鳴に近いお説教が飛ぶ。

対して、銀時は真顔で、さも当然の真理のようにボソリと答えた。

「なんか……片方脱いでないと気持ち悪いっつーか、落ち着かねーんだよ。乳首が窒息する」

「アンタの片肌脱ぎへの執着の方が気持ち悪いわ!」

セリカが頭を抱える。

「侍はな、いつでも利き手です瞬時に得物を抜けるような佇まいじゃなきゃダメだ。いざという時に袖が引っかかったらどうすんだ」

「ただの半裸の変態侍に言われたくありませんよ! 冬服の意味まるっきり無くなってるじゃないですか!? むしろ寒いでしょそれ!」

「うーん……やっぱり片肌脱ぎは譲れませんか〜」

しかし、ノノミはめげなかった。

彼女はおっとりとした笑顔のまま、次の服を持ってきた。

「じゃ、じゃあ……これを上から羽織るのはどうですか? これなら脱がなくて済みますし、和風で素敵ですよ」

渡されたのは、シックなデザインの和風の羽織。

これなら着物の上から着るコートのように使えるはずだ。

「お、それいいな。最初からそれ持ってこいよ」

銀時は羽織を受け取り、再びカーテンを閉めた。

シャラシャラシャラシャラ……

数秒の静寂。

そして、自信満々にカーテンが開く。

バァァン!!

「うーん、やっぱダメだ! 上だけ変えても、あんま変わってねえ気がする……」

銀時は羽織を羽織っていた。

上半身は完璧だ。シックでカッコいい。

しかし――下半身は、イチゴ柄のトランクス一丁だった。

「どこを片肌脱ぎしてんですか!!」

アヤネが即座にツッコミを入れる。

「やっぱどっか一ヶ所脱げてねぇと、ヌきがねぇと気持ち悪りぃんだよ」

「銀さんの『ヌき』への執着度合いの方が気持ち悪いです! 変な意味に聞こえます!」

銀時はトランクスのゴムをパチンと鳴らし、キメ顔で言った。

「侍はな、いつでも瞬時に股間の得物を引き抜ける佇まいじゃなきゃダメだ」

「ナニを抜くつもりなんですか!?」

アヤネの顔が真っ赤になる。

その時、横からシロコが割り込んだ。

「仕方ない。イメージを保ちつつ、防寒とオシャレ出来るところだけを集中砲火すべき。……こんなふうに!」

シロコが目にも止まらぬ速さで銀時の頭に飛びつき、愛用の『覆面(マフラー)』を強引に銀時の顔に被せた。

「ん! 完璧」

羽織。

イチゴ柄トランクス。

そして、覆面。

完成した姿は、完全に通報案件の変質者だった。

露出狂が強盗を始めようとしている図にしか見えない。

しかし、その鍛え上げられた腹筋や胸板、無駄に引き締まった太ももの筋肉は本物だ。

ノノミやセリカ、ホシノは「いやー、これはないわー」「うへぇ、捕まるよぉ」と言いながら、指の隙間からガッツリと筋肉をガン見している。

そのふしだらな、かつカオスな空気に、アヤネの中で何かが切れる音がした。

プツンッ。

彼女はどこからともなく、往年のバラエティ番組でしか見ないような特大のハリセンを取り出した。

「いい加減にしなさぁぁぁぁい!!」

スッパァァァァァーン‼︎

乾いた、しかし重みのある炸裂音が試着室に響き渡る。

銀時の顔面に見事な縦線が入る。

「元祖ッ!」

謎の芸人魂を発揮して、銀時は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

アヤネは無慈悲な手つきで、気絶した変質者を隠すようにカーテンを閉めた。

シャラッ……。

アビドスのショッピングは、まだまだ前途多難であった。

 

アヤネは無慈悲にカーテンをシャラッと閉める。

    †

「……暴力反対!!今の時代、体罰はコンプライアンス的にアウトだと思うよ銀さんは!PTAが黙ってないと思うよ!」

「誰のせいでこうなったと思ってるんですか! 一応これでも私たちは学生なんですよ! 思春期の女子生徒にパンツ姿を見せるって正気ですか‼︎ 教育委員会に訴えますよ!?」

 アヤネが怒り心頭で捲し立てる。その手にはまだハリセンが握られている。

「ちぇっ……」

「残念……」

「うへぇ、いい筋肉だったのにねぇ」

 他のメンバーは(主に銀時の筋肉美が見られなくなって)露骨に残念そうな表情を浮かべている。

 アヤネは深いため息をつき、ハリセンをどこかへ(四次元ポケット的な場所に)収めた。

「はぁ……もういいです。銀さんにはいつもの服しか合わないことが、よーく分かりましたから。余計な出費(主に銀時が破いた服の代金)が増えただけでした」

 アヤネは試着室から出てきた(いつもの着物に着替えた)銀時の腕を、逃がさないとばかりにガシッと掴んだ。

「銀さん。次は私たちの手伝いに来てください。荷物持ちです」

「えー、俺怪我人なんだけど。精神的にも肉体的にもダメージ負ってんだけど。労災申請したいんだけど」

「問答無用です! 拒否権はありません!」

 有無を言わさぬ迫力。銀時は女子高生たちの水着選びという、別の意味で精神力を削られる戦場へと連行されていくのだった。

          †

【水着売り場】

 そこは色とりどりの布面積の少ない衣類が並ぶ、男にとっては天国であり地獄でもある場所。

「うへぇ……別におじさんはいいんだけどな~。スク水で十分だよぉ」

 そんなことを言って逃げようとするホシノを、ノノミが笑顔でガッチリと捕獲し、次々と水着をあてがっていく。

 キャッキャウフフと選ぶこと数十分。

シャラシャラシャラ……ッ!

 試着室のカーテンが一斉に開き、水着に着替えたアビドス対策委員会の面々が、銀時の前にその姿を現した。

 ノノミの大胆なビキニ、セリカの可愛らしいフリル付き、アヤネの清楚なワンピース、そしてホシノの……意外と似合う可愛らしい水着。

 眩しいほどの青春の輝きに、銀時は目を細め、棒読みで一言。

「おう、似合ってる似合ってる。悪い男どもに捕まらないように気をつけるんだぞ~。おじさん、向こうでジャンプ読んでるから」

 完全に他人事のように言って背を向けようとしたその時、シロコが不思議そうに声をかけた。

「ん? なに言ってるの銀ちゃん」

「あ?」

「銀ちゃんが、海のあるところに連れて行ってくれるって言ったのに」

「……へ?」

 銀時は間の抜けた声を出し、振り返った。

 そこには、キョトンとした顔のシロコと、期待に目を輝かせる他のメンバーの姿があった。

――――――――――――――――――――――――ーー

【回想:祭りの日 後半の部】

 銀時がホシノを探して席を外していた時のこと。

 シロコとエリザベス、そしてヒフミは、屋台の焼きそばを食べながら話をしていた。

「ねぇエリザベス様。いつかみんなで、海に行きませんか?」

 ヒフミの提案に、エリザベスがプラカードを掲げる。

【 いいペロね。行こう! 行こう! 】

「ん? 海……」

 シロコが呟く。その瞳には、少しの憧れと諦めが混ざっていた。

「えっと……シロコさんは、海を見たことないんですか?」

「うん。私たち、学校を守るのと借金返すので精一杯だったから……みんなで遊びに行った事がないの」

「そう……だったんですね」

 その言葉を聞いたエリザベスは、しばし考え込むように腕組みをし、ポンと手を打った(ような動きをした)。

「エリザベス様、どうしたんですか?」

 エリザベスがサラサラとプラカードに文字を書く。

【 そういえば銀時が、みんなと海に行きてえなあって言ってた気がするペロ 】

「本当ですか!?」

「良かったですね、シロコさん!」

 ヒフミが手を叩いて喜ぶ。シロコの表情がパァっと明るくなり、珍しく感情を表に出して頷いた。

「ん! 楽しみ」

――――――――――――――――――――――――ーー

 回想終了。

「……あの話は、嘘だったの?」

 シロコの瞳から光が消えかける。

 他のメンバーも、「え、嘘なの?」「期待させといて?」と、ゴミを見るような目で銀時を見る。

(……あの珍獣(エリザベス)ゥゥゥ!! あることないこと吹き込みやがってェェェ!!)

 銀時は心の中で絶叫し、桂のペット(相棒)への殺意を募らせたが、目の前の少女たちの期待を裏切るわけにはいかなかった。

「い、いやいやいや! 嘘じゃないよおー! 全然嘘じゃない! ただほら、日程調整? そう、大人の事情的なスケジュール調整が上手くいってなかっただけで! ちゃんと連れて行ってあげるから! 先生に任せなさい!」

 必死に弁解し、アビドスの生徒をなだめる銀時。

 その額には大量の冷や汗が流れていた。

(あのヤロー! 帰ったら仕事の全部アイツにやらせてやる!! 天誅だ天誅!!)

 その後、銀時は泣かせかけたお詫びとして、大量のキャンプ道具を買わされる羽目になった。

 ホシノには特大のクジラの浮き輪。

 シロコには、本格的な釣り道具一式。

 財布の中身が軽くなっていくのと反比例して、生徒たちの笑顔は輝きを増していった。

          †

【シャーレ 部室】

 買い出しを終え、疲れ果てて帰宅した銀時。

 ドアを開けるなり、彼は怒りを爆発させた。

「おい! エリ! そこになおれ! 切腹の準備はできてるかァァァ!!」

 しかし、部屋には誰もいなかった。

 シーンとした静寂が返ってくるだけだ。

「……って、あれ?」

 銀時が首を傾げたその時、ポケットのスマホが震えた。

 桂からのメールだった。

 添付されていた写真を開くと――。

 そこには、どこかの砂浜で、体操座りをして海を見つめる桂とエリザベスの哀愁漂う背中が写っていた。

 そして、本文には一言。

『 海で遊ぶと聞いて、ずっとスタンバってました。 』

 銀時はスマホを握りしめ、血管を浮き上がらせて叫んだ。

「知らねえーよ!! 勝手に行って勝手に待ってろ! 自分で泳いで帰ってこいバカヤロー!!」

 銀時の絶叫が、夕暮れのシャーレに虚しく響き渡った。

 海への旅路は、波乱の予感しかしなかった。

 

 




次回予告
ムツキ「アルちゃん!依頼がきたよ」
アル「ムツキいい加減に…まぁいいわ。で内容は?」
ハルカ「どうやら巨大な犬が公園で人を襲ってるそうです。撃ちますか?」
カヨコ「待ってハルカ、もしかしたらその犬は興奮してるだけかもしれないから」
アル「じゃあ便利屋68出動よ!!」
次回 犬いつでも狩りの時間

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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