透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
「はぁい久しぶりの銀八先生のコーナーです。まずは、はちゃめちゃ設定でお詫びしまぁす。」
「ではさっそく質問何故原作終了後の世界からなのに伊三郎がいるのですか、はいズバリ言いますと今回のような生き返り現象は今後も起こり得ます。それは元凶となるある男が影で暗躍していますがそれは後々明らかになるでしょう!」
「では質問した人今から小説読んで廊下に立ってなさい!」
今日は、銀時がとある計画を実行に移そうとしていた日である。
それは、『過労死寸前のヒナを強制的に休ませる』という名の、サボり……もとい、視察案内計画。
だが、朝のシャーレにて。その計画はいきなり頓挫しかけていた。
『先生! 先生! いい加減に起きてください!』
「あぁ? ……うるせーな、どうした……」
『どうした? じゃありません! 今日はゲヘナに行って、ヒナさんを休ませる予定があったでしょ!』
布団という名の絶対防御結界にくるまったまま、銀時は気だるげに鼻をほじった。
「何メンドくさい事提案したんだ、俺。昨日の俺はどうかしてたんだよ。嫌だよ、俺これからパチンコいくんだから。新台入れ替えなんだから」
『いけません! こないだユウカさんに投資のイロハを教えてもらったばかりでしょ! それに生徒の体調より自分のギャンブル優先なんて、大人としてどうなんですか!』
アロナがプンスカと怒るが、銀時は腐った理屈を捏ね始める。
「バカ言っちゃいけねぇ。銀さん思ったんだけどよ、投資でお金増やしつつパチンコやれば、これ永久機関完成じゃね? 倍々ゲームじゃね? それに今日はなんか、俺の第六感(シックスセンス)が出そうだって囁いてんだよね。確変の予感がすんの」
そう言って、銀時は着の身着のままフラフラと玄関へ向かおうとする。
その背中を見送りながら、アロナは静かに、しかし冷酷な指令を下した。
「……定春さん。噛み砕いてください」
「ワン!」
巨大な白い影が、ドアノブに手をかけた銀時の背後に音もなく忍び寄る。
「あれ、どうした定は――」
【バクンッ!!】
「ギャアアアアアア!!」
†
【ゲヘナ学園 風紀委員会執務室】
ゲヘナ学園。
そこは、銃弾が挨拶代わりに飛び交うキヴォトス随一の無法地帯。
この世紀末のような学園の秩序を、たった一組織で支えているのが『風紀委員会』であり、その頂点に立つのが委員長・空崎ヒナである。
しかし、その実態は――。
(……ハァ。休みたい)
執務室の窓際で、ヒナは深く、重い溜息をついた。
机の上には処理しても処理しても湧いてくる書類の山。
その小さな背中には、学園全体の不始末という巨大な荷物がのしかかっている。
今の彼女は、まさに生気を吸い取られた**『シナシナシロモップ』**状態だった。
ふと、気分転換に窓の外を見る。
ゲヘナの正門付近。そこに見慣れた、しかし異様な姿があった。
頭から鮮血を噴水のように吹き出しながら、笑顔で手を振っている白髪の男。
「…………え?」
ヒナの思考が一瞬停止する。
次の瞬間、彼女は自分でも驚くほどの速さで椅子を蹴り倒し、部屋を飛び出していた。
「い、委員長!?」
「どいて!」
部下たちが驚くのも構わず、ヒナは廊下を疾走し、校門へと躍り出た。
「お! 来た来た。よう、元気かシロモップ」
「……っ! 銀ちゃん!?」
駆け寄ったヒナは、銀時の惨状を見て顔を青ざめさせた。
「私は大丈夫だけど……銀ちゃんの方こそ、大丈夫なの!? 頭からすごい血が出てるけど!?」
「あ? これ? 平気平気! ちょっと家出る時に飼い犬に頭蓋骨ごとかじられただけだから。甘噛みされただけだから」
(それ甘噛みっていうのかしら……?)
ヒナは戦慄したが、銀時は何事もなかったかのように血を拭い、ニカッと笑った。
「それよりお前、今日は天気もいいしよ、息抜きがてら俺をゲヘナの案内してくれねぇか? ほら、俺まだここの地理に詳しくねぇし」
それは、明らかにヒナを連れ出すための口実だった。
ヒナはその優しさに気づき、嬉しそうに目を伏せたが……すぐに現実に引き戻される。
「……行きたい、けど。ごめんなさい、まだ仕事が山のようにあって……」
力なく断ろうとするヒナ。その姿は再び『シナシナシロモップ』へと戻りかけていた。
だが、銀時はその小さな肩にポンと手を置いた。
「仕事なんてほっとけよ。人生で大事なのは仕事じゃなくて、いかに楽しくサボるかだろ? 働きすぎてカピカピになっちまうぞ? シナシナシロモップになっちゃうよ?」
「シナシナ……?」
「そう、水分失ってシナシナになったモップ。そんなの掃除にも使えねーぞ」
銀時が強引にヒナの手を引こうとした、その時。
「いけませーーーーーん‼︎ 引っ張らないでくださいィィィ!!」
猛ダッシュで走ってきた天雨アコが、二人の間に割って入った。
「何だよ、風紀乱しヨコチチハミデヤン。俺は今日、このシロモップに用があるんだけど?」
「誰が風紀乱しヨコチチハミデヤンですか!! 私の名前は天雨アコです!! 訂正してください!!」
銀時が面倒くさそうに耳をほじる。アコは鬼の形相で二人の間に割って入った。
「いけないものはいけないんです! ヒナ委員長はあなたみたいなプータローと違って暇ではないのです! あの狸(たぬき)たちのせいで、仕事が山のようにあるんですから‼︎」
「狸? 誰だそいつ。動物園?」
銀時が首を傾げると、ヒナが疲れ切った声で説明した。
「……アコがいう狸は、万魔殿(パンデモニウム)……ここの生徒会のこと。そこの議長の羽沼マコトが、私に対して一方的に対抗意識を持っていて……自分たちの仕事を全部、風紀委員会に丸投げしてくるの」
「なるほどなぁ……」
銀時の目が、スッと細められた。その瞳から、先ほどまでの気だるげな色が消える。
「おいおい、万魔殿のマコトだぁ? 生徒会だか何だか知らねぇが、随分とタヌキらしい陰湿なことしてくれるじゃないの。部下がただの便利屋かなんかだと思ってんのかね?」
銀時はボキボキと指を鳴らし、ヒナの方を向いた。
「つまりだ。その狸をシメて……指導して、仕事を突き返してやりゃあ、お前らの仕事もチャラになって、シロモップの晴れて自由の身ってわけだろ?」
「え?」
「そ、そうですけど……まさか……」
ヒナとアコは、銀時の発言に目を丸くした。
万魔殿は腐ってもゲヘナの頂点。そこに殴り込みをかけるなど、正気の沙汰ではない。
銀時の声のトーンが落ちる。
それは、かつて『白夜叉』と呼ばれた男の片鱗。
「つまり、だ。そいつを**『指導』**してわからせてやれば、お前らの仕事もチャラになって、ヒナを休ませられるってことだろ?」
「え……? そ、そうだけど……」
「まさか……」
ヒナとアコが顔を見合わせる。
銀時は木刀「洞爺湖」を肩に担ぎ直し、不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ決まりだ。まずはその性根の腐った狸の根城に案内しな」
「えっ?」
「仕事を減らせば休めるんだろ? 水漏れしてんなら床を拭くんじゃなくて、元栓を閉めに行くのが一番早ぇんだよ」
銀時はヒナの手を取り、グイと引っ張り上げた。
「行くぞ。今日は特別課外授業だ。『タヌキ退治』といこうじゃねぇか」
戸惑いながらも引かれるヒナの手。その顔には、困惑と共に、微かな期待の灯がともっていた。
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万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)
ゲヘナ学園の生徒会室。重厚な扉の奥で、豪奢な椅子にふんぞり返る一人の少女がいた。
ゲヘナ生徒会長、羽沼マコトである。
そこへ、一人の役員が慌てた様子で駆け込んできた。
「マコト様! 報告します! ヒナが……空崎ヒナがこちらに向かって来ています!」
「キキキッ……! 遂に痺れを切らしたか、空崎ヒナ。まぁ、何をされようとこの私は屈しないがな」
マコトは不敵な笑みを浮かべ、長い金髪を払った。その表情には余裕――というよりは、根拠のない万能感が張り付いている。
「それが……ヒナだけではなく、銀髪の男も一緒でして」
「あん? 銀髪の男?」
マコトが怪訝そうに眉をひそめる。
その横で、気怠げに本を読んでいた棗(なつめ)イロハが、呆れたように補足した。
「はぁ……皆さん知らないんですか? 最近噂になっている、連邦生徒会シャーレの先生ですよ」
「ねぇねぇイロハ先輩、センセーってなに?」
イロハの足元で遊んでいた丹花(たんが)イブキが、無邪気な瞳で見上げる。
イロハは表情を緩め、優しく頭を撫でた。
「先生というのは、私たちに善悪や物事について教える大人のことですよ、イブキ」
「ふん! そんな先生が来て何になると言うのだ!」
マコトが鼻を鳴らす。
イロハは「やれやれ」といった様子で、淡々と情報を読み上げた。
「全く……世情に疎いんですね。情報によりますと、あのアビドス高等学校の借金問題を解決。それだけでなく、悪徳銀行の制圧や、あのカイザーコーポレーションの大軍をたった数人で壊滅させた、かなりのやり手ですよ」
イロハとしては、事の深刻さを伝えて警戒を促すつもりだった。
だが、マコトの思考回路は常に斜め上を行く。
「キキキッ! つまりだ、あのヒナがそいつに屈して、先生の力を借りてここに直談判しに来たというわけか! ならば、その『先生』とやらを私が打ち負かせば、私はヒナより優位な立場に立てる! 完璧な作戦だ!」
マコトは自身の天才的(と本人は思っている)発想に酔いしれ、高笑いを上げた。
そのどうしようもない姿を見て、イロハは静かに本を閉じた。
「……イブキ、危なくないうちに戦車(トラさん)で巡回に行きましょうか」
「うん! いってきまーす!」
イロハは面倒ごとの匂いを敏感に察知し、イブキを抱えて早々に部屋を後にした。沈む船から逃げ出すネズミの如く、鮮やかな撤退であった。
†
数分後。
ヒナと銀時は、万魔殿の巨大な扉の前に立っていた。
「ここが狸の根城だな。随分と立派な建物じゃねーか。中は空っぽかもしれねーけど」
「そうよ。……でも先生、マコト以外はそこまで悪質なことしてないから、指導するのはマコトだけにしてあげて。あの子、ちょっと……アレだから」
ヒナが心配そうに釘を刺す。
銀時は「はいはい」と小指で耳をほじった。
「あたり前田のクラッカー。罪を憎んで狸を憎まず、だ」
ヒナがコンコン、と扉をノックする。
「キキキッ! 入るがいい!」
許可を得て重厚な扉を開けると、そこには無駄に広い空間と、その最奥でふんぞり返るマコトの姿があった。
「ようこそ! 我が万魔殿へ! 私は生徒会長の羽沼マコトだ。よろしく頼むぞ、シャーレの先生!」
「おう、こっちこそよろしくな。……ま、俺が生徒会長なんていう肩書きに縛られるわけないから、好きにやらせてもらうぜ」
銀時はマコトの威圧など微塵も感じていない様子で、マコトが眉をひそめた瞬間、銀時の雰囲気が変わった。
気怠げだった瞳に、ドス黒い光が宿る。
「おい」
低く、地を這うような声。
「お前のせいで休日出勤だよ! こっちはこれからパチンコの新台入れ替えに行こうとしてたの! 昨日から並んで整理券まで取るつもりだったの! 俺の第6感が『今日は確変だ』って叫んでたの! その予感がビンビンしてたの! どうしてくれんだコラァ!!」
銀時はマコトの目の前まで詰め寄り、唾を飛ばしながら怒鳴り散らした。
予想外の剣幕と、あまりに個人的すぎる理由に、マコトは呆気にとられる。
「は……? パ、パチンコ……?」
(ぎ、銀ちゃん……?)
後ろで見ていたヒナも、予想していた「正義の説教」とは違う展開に冷や汗を流す。
だが、銀時の怒りは収まらない。彼はマコトの胸ぐら(襟元)を掴まんばかりの勢いでまくし立てた。
「お前さ〜、いい加減にしろよ? こっちはなァ、万事屋っつー不安定極まりない自営業やってたの!」
銀時は指を三本立てて突きつける。
「家賃は滞納! 従業員(新八・神楽)の給料は未払い! 冷蔵庫開ければイチゴ牛乳の空パックしか入ってねぇ! そんなギリギリの生活の中で、たまの休日に一攫千金を夢見てパチンコ屋に並ぶ……それが俺たちダメな大人の唯一の明日への希望(ひかり)なんだよ!」
「な、何を言って……」
「それをテメェは! くだらねぇ対抗意識だか何だか知らねーが、仕事を右から左へ受け流して全部押し付けやがって! ムーディ勝山かお前は! お前のせいで俺の確変タイムが消滅したんだぞ!?」
銀時はヒナを指差す。
「いいか? こいつを見ろ。働きすぎて目の下にクマ作って、あわや『シナシナシロモップ』になる寸前じゃねーか! 仕事ってのはなァ、人に押し付けるもんじゃねぇ! 自分で抱え込んで、締め切り前日に泣きながら終わらせるもんなんだよ! 夏休みの宿題を8月31日にやるスリル、それが人生のスパイスだろうがァァァ!!」
「き、貴様……言っていることが滅茶苦茶だぞ!?」
周りにいる護衛は反論しようとするが、銀時のマシンガントークは止まらない。
「うるせぇ! 狸寝入りしてんじゃねぇぞこのタヌキ女! とにかく俺の失われた休日と確変期待値を返せ! それが出来ねぇなら、今日からお前がパチンコ玉を一粒ずつ磨く刑に処す!!」
しかし、マコトはニヤリと笑い、ビシッと指を突きつけた。
「クックック全く面白い奴いや先生だ。だが残念!その要求は却下させてもらおう!」
堂々たる拒絶。
ヒナが「怒ってるだろうな……」と恐る恐る銀時の顔を覗き込むと、表情はいつもの死んだようなものだったがその目は違い鬼の目をしていた。
「それはだな! 仕事をアイツらに流し込むことで、私たちには余裕が生まれ、ヒナたちには余裕が無くなる! それにより、私たちが優位な立場であることの証明になるのだ!!」
マコトは自慢気に語りながら、行儀悪く鼻くそをほじってみせた。
そのあまりに幼稚な理屈に、銀時の目がすっと細められた。
「……いいか? 耳の穴かっぽじってよぉく聞け、クソガキ」
その瞬間、銀時の纏う空気が一変した。
先程までの、パチンコに行けないダメ親父の気配は微塵もない。そこに在るのは、幾多の修羅場を潜り抜けてきた剣客の、鋭利な眼差し。
肌を刺すような迫力に、マコトの指がピタリと止まり、ヒナも息を呑む。
「お前、ヒナに勝ちたいんだよな? なら、今のお前じゃ……逆立ちしてキヴォトス一周しても絶対勝てねぇよ」
「な、何だとォ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るマコトを無視し、銀時は静かに、しかし腹の底に響く重い声で言葉を紡ぐ。
「第一、ヒナは自分の事より、ゲヘナのためにと……こんな小さな体で、このバカでかい学園を一人で支えてきた。倒れるまで働いて、誰にも弱音を吐かずにな」
銀時はマコトに一歩、歩み寄る。
「それに対してお前はどうだ? 『自分が上だ』『自分が優位だ』……そんなくだらねぇ見栄のために、部下に仕事を丸投げしてふんぞり返ってるだけじゃねーか」
「き、貴様……!」
「それに、はなから人に頼って生きてる奴が、どこにいったってうまくやっていけるとは思えねぇ。上に立つってのはな、人の頭を踏んづけて景色を眺めることじゃねぇ。人の前に立って、泥だらけになって道を作ってやることだ」
銀時はマコトの鼻先数センチまで顔を近づけ、言い放った。
「……今のテメェは、ただの神輿に乗った猿だ。飾られただけの張りぼてだよ」
図星を突かれたのか、あるいは単にバカにされたことに腹を立てたのか。マコトは顔を歪め、親衛隊に叫んだ。
「えぇい、うるさい! その男……銀髪の男を捕らえろ! 気絶させろ!」
マコトの命令で、周囲に控えていた親衛隊たちが銃を構える。
だが。
ドカッ! バキッ! ドゴォォォン!!
瞬きする暇もなかった。
銀時は木刀を振るうことすらせず、素手による拳と蹴りだけで、一瞬のうちに親衛隊全員を床に沈めた。
「なっ……!?」
マコトが絶句する中、銀時はゆっくりと彼女の目の前まで歩み寄り、机にドンッと手を突いた。
至近距離で睨みつける、修羅の瞳。
「これ以上好き勝手するなら……次は地獄の指導コース行きだ。三途の川でバタフライの練習させてやるから覚悟しとけ」
ドスの効いた低い声。
マコトは恐怖に震え――るかと思いきや。
カァァァッ……と頬を赤らめ、目を輝かせた。
「……なんて男だ」
「あ?」
「シャーレの先生とは……ここまでとは! 惚れたぞ! あんなに強気で、このマコト様と対等に対話出来るとは素晴らしい! 暴力的なまでのカリスマ……まさに私に相応しい!」
マコトは立ち上がり、高らかに宣言した。
「よかろう! 今回はその要求をのむとしよう! その代わり、また顔を見せに来い!」
どうやら、マコトの特殊な性癖(強者への憧れとマゾヒズム)にスイッチが入ってしまったらしい。
銀時は「うわぁ……」とドン引きし、ヒナの手を引いて早足で部屋を出て行った。
†
万魔殿を出て、廊下を歩く二人。
「……銀ちゃん」
「うん? なんだ、まだ文句があんのか?」
「ううん。……ありがとね。私たちのために、マコトを叱ってくれて」
ヒナが少し恥ずかしそうに、けれど真っ直ぐに礼を言う。
銀時は頭の後ろで手を組み、そっぽを向いた。
「別に。あぁいう奴は、目標を定めるだけ定めて道を間違っちまう典型的なバカだ。俺はそいつを元のレールに戻す手伝いをしただけさ。……それに、お前が過労で倒れたら、俺のゲヘナ観光ガイドがいなくなっちまうからな」
素直に礼を受け取ろうとしないその横顔を見て、ヒナは小さく微笑んだ。
(本当に銀ちゃんは……見返りなんて求めないんだ。……変な人)
その「変な人」という評価は、ヒナの中では最上級の褒め言葉だった。
†
【ゲヘナ学園 給食部 食堂】
二人が訪れたのは、学園内の食堂。
給食部。活動自体は至って真っ当で、エンブレムはお茶碗と箸という可愛らしいものだ。
「ここか」
銀時は最初、「ゲヘナの食堂」と聞いて、『北斗の拳』に出てくるようなモヒカンが肉を奪い合う場所を想像していた。
だが、目の前に広がる光景は真逆だった。
「綺麗な場所だなぁ……本当にここ、あの世紀末学園ゲヘナか?」
「給食を食べるところぐらい、ちゃんとしてないと休めないでしょ」
磨き上げられた床、整然と並ぶ机と椅子、暖かな照明。外の混沌が嘘のような、清潔で平和な空間。
その時。
『だ、誰!? ま、また美食研究会なの!? 今日の給食車は渡しませんよ!?』
厨房の奥から、お玉を構えた少女が飛び出してきた。
赤い瞳に黒髪ツインテール、特徴的な角。エプロン姿がよく似合う、給食部部長の愛清フウカである。
彼女は完全にトラウマスイッチが入っており、怯えた小動物のように震えていた。
「美食研究会?」
銀時が首を傾げる。
『連れて行こうたって無駄よ! 今日こそは絶対に……ん? よく見たら……違う。ヘイローもない……それに隣には……ヒナ委員長!?』
フウカはヒナの姿を認めると、ホッと胸を撫で下ろして武器(お玉)を下ろした。
「フウカ、安心して。この人は美食研究会じゃないわ。シャーレの先生の、銀ちゃんだから」
「そうなのね……良かったぁ」
銀時は状況が飲み込めず、「誰?」とヒナに耳打ちする。
「紹介するわ。この人は給食部部長の愛清フウカ。いつも美味しい給食を作ってくれてるの」
「あ、初めましてフウカです。よろしくお願いしますね、先生」
フウカは人当たりの良い笑顔でぺこりと頭を下げた。ゲヘナにおける数少ない良心である。
「おう。俺は坂田銀時。銀ちゃんでも銀さんでも好きに呼びな」
「あの、ヒナ委員長。今日はどうしてこちらに? 何かトラブルですか?」
「ううん。今日は息抜きとして、銀ちゃんをゲヘナの中を案内してたの。お腹が空いたっていうから」
「そうだったんですね! ちょうど今なら空いてますし、好きなもの言ってください。すぐに準備しますから!」
フウカの笑顔に、銀時は腹の虫を鳴らしながら答えた。
「そ、そうだなぁ……。疲れた頭には糖分ってのが相場だ。甘いスイーツがいいな。そう、パンケーキとか」
「分かりました! すぐに用意を――」
「パンケーキならここにありますよ!」
元気な声と共に、厨房の奥からもう一人の部員が姿を現した。
給食部一年生、牛牧ジュリ。
彼女の手には、湯気を立てる皿が乗せられていた。
「お待たせしました! 特製パンケーキです!」
ドンッ、とテーブルに置かれたそれを見て。
銀時の時が止まった。
皿の上にある物体。
それは、紫色に脈打ち、時折「ギギギ……」と呻き声を上げ、表面には無数の目玉のような気泡が浮かんでは消えている。
そして、パンケーキ(?)からは、あろうことか触手のようなものが伸びていた。
「……」
銀時はゆっくりとヒナを見た。
ヒナは静かに目を逸らした。
「……おい、シロモップ。これ、俺の知ってるパンケーキと生物学上の分類が違う気がするんだけど。魔界の植物か何か? これ食ったら俺、人間やめなきゃいけない感じ? バイオハザード?」
「ギシャァァァァァ!」
「パンケーキが鳴いたァァァァ!!?」
「これはジュリが作ったパンちゃんという生き物で食べ物じゃないです!」
「そうなのよ銀ちゃん。ジュリは真面目何だけど神秘の影響で作った物が命を宿してしまうだけだから!いつもはフウカがつくる物しか食べてないから!」
と必死に弁明し何とか誤解が解けて無事フウカが作ったパンケーキを2人で食べた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、二人は校内を散歩しながら、戦場のようなゲヘナには似つかわしくない、ゆったりとした時間を過ごした。
夕暮れのオレンジ色が、荒廃した校舎を少しだけ優しく染めている。
「おい、シロモップ」
「……どうしたの、銀ちゃん?」
「ちゃんと休めたか?」
「うん……。銀ちゃんのおかげで、久しぶりに頭を空っぽにして休むことが出来た。ありがとう」
ヒナは素直に感謝を口にする。その表情は、いつもの鉄面皮な委員長のものではなく、年相応の少女のあどけなさを残していた。
銀時は頭の後ろで手を組み、空を見上げながらぽつりとこぼす。
「お前はよぉ、よくギリギリまで一人で抱え込んじまう奴見てぇだからな。疲れた時にはあのヨコチチ(アコ)でも誰でもいいから頼れよ。もちろん、銀さんでもいいけど……」
「……うん」
「あっ、もちろん休日の呼び出しとかはナシだからな? 俺、休日はパチンコ打ったり競馬新聞読んだりして忙しいから。平日限定で頼むよぉ~」
照れ隠しのように付け加えられた減らず口。
けれど、その背中はヒナにとって、どんな盾よりも大きく、頼もしく見えた。
(本当に……不思議な人)
ヒナが小さく微笑み、もう少しこの時間を楽しもうとした――その時だった。
ゲヘナの日常(トラブル)は、いつだって空気を読まない。
《shake:2》ドカァァァァァアン‼︎《/shake》
「っ!」
突如として響き渡る爆発音。
平穏な空気は一瞬にして霧散し、硝煙の臭いが鼻をつく。
「ゲヘナなら日常茶飯事……って言いたいけど、今回はちょっと特殊ね」
ヒナの瞳が瞬時に「風紀委員長」の色へと変わる。
前方から現れたのは、一つの大部隊。全員がフルフェイスのヘルメットを被り、重火器で武装している。
赤、黒、緑――色は様々だが、その統一性のない集団は、ゲヘナに点在する「ヘルメット団」が手を組んだ連合軍のようだった。
「ゲヘナ風紀委員長!! 今日でお前も終わりだ!」
「今まで散々やりやがって! 俺たちの自由を邪魔しやがって!」
「ついでにそこにいる変な奴も、一緒にぶっ飛ばしてやる! 覚悟しやがれ!」
殺気と敵意をむき出しにして迫るヘルメット団たち。
ヒナはイライラと眉根を寄せ、愛用の巨大な機関銃『終幕:デストロイヤー』を虚空から召喚し、構えた。
「……最悪。せっかくいい気分だったのに……」
ヒナの周囲に冷たい怒気のオーラが立ち昇る。
「ごめんなさい銀ちゃん。少し下がっていて。すぐに片付けるから」
「いや、俺もやるさ」
銀時は木刀を抜き放ち、獰猛な笑みを浮かべて前に出た。
「せっかくのパチンコ打てなかった憂さ晴らしがしたかったんだ……。ヘルメット団が集まってるなら、ちょうどいいサンドバッグじゃねぇか。ここらで一発、ガツンとやってやろうぜ」
最強の風紀委員長と、最強の侍。
二人が並び立ち、戦闘態勢に入った――その瞬間。
ダダダダダダダダダダッ!!!
けたたましい銃声と共に、ヘルメット団の先頭車両――戦車が、まるで豆腐のように真っ二つに裂けた。
ズシャァァァン!!
「なっ!?」
ヘルメット団が動揺する中、砂煙の向こうから現れたのは、白一色の制服に身を包んだ集団。
その先頭には、長い刀を手にした無表情の少女と、モノクルを光らせた男が立っていた。
「いけませんねぇ……。乙女の大事な場面をぶち壊すような悪ガキは……エリートとして教育的指導が必要です」
見廻組局長、佐々木異三郎。
そして副長、今井信女。
「ゲッ」
その顔を見た瞬間、銀時はこの世の終わりのような顔をした。
ヒナはそんな銀時の様子に気づき、心配そうに声をかける。
「大丈夫? 銀ちゃん、知り合い?」
「……腐れ縁だよ。一番会いたくねぇ奴らが来やがった」
佐々木は優雅にコートを翻し、銀時たちの方へと歩み寄ってくる。周囲のヘルメット団など、眼中にないと言わんばかりだ。
「これはすいませんね。白夜叉殿、と……そちらのお嬢さん」
佐々木は慇懃無礼な態度でぺこりと頭を下げた。
「実はかなり早めに見つけていたので、話しかけようとも思ったのですが……お二人とも、それはそれは楽しそうに『デート』を過ごしていたため、エリートとして邪魔をするわけにはいかないと思い、ストーカーのように隠れていたのですよ」
「言い方ァ!」
「まさか無粋な邪魔者が湧くとは思わず……結果として、私が邪魔することになってしまいました」
「何でお前らがこっちいるんだよ! しかも生きてんのかよ!」
銀時が喚くと、佐々木は「ふむ」と顎に手を当てた。
「何でって、私にも分かりませんよ。第一、私は死んだはずなのですから」
「……」
「なのに何故か生き返っている。不思議ですねぇ。それに、エリートとしてここがどこなのか調べるために動いていたところで、あなた方2人を発見したのですから。これも運命でしょう」
死んだはずの男が、異世界で平然と生きている。
銀時は何か言いたげな顔をしたが、今は深く追求するのをやめ、大きなため息をついた。
「……たくっ、変な奴らが増えやがった」
ヒナと銀時は、仕方なく見廻組に現状のキヴォトスの情勢を説明した。
とりあえず、彼らのような武力集団を野放しにするわけにもいかないため、後で連邦生徒会(シャーレ)に連れていき、身の振り方を考えることになった。
「いやぁ〜、お二人にはデートの邪魔をしてしまい、申し訳ございません。お詫びと言ってはなんですが……」
佐々木は懐から、高級そうな箱を取り出した。
「メル友(銀時)にはこの特製ケーキを……」
「誰がメル友だ。……まぁ、貰ってやるけど……」
銀時が箱を受け取る横で、佐々木はスッとヒナに近づいた。
「そして、そちらのお嬢さんには……」
佐々木はヒナの耳元に口を寄せ、悪魔の如く囁いた。
(……私、昔いた世界で銀時君とはマブダチでしてね。彼の過去の恥ずかしい話や、女性の好み、弱点など……ありとあらゆる情報を握っています)
「っ!」
ヒナの耳がピクリと動く。
(もし私とメル友になっていただければ……いつでも、どんな情報でも教えますよ? ……いかがです?)
それは、空崎ヒナにとって、悪魔の契約よりも魅力的な提案だった。
ヒナは一瞬たりとも躊躇わなかった。
「なるわメル友に」
「交渉成立ですね」
ヒナは躊躇わずに伊三郎とメル友になった。
次回予告
銀時「おいおいエリートだけじゃなくて不良警察までお出ましとはどんだけ干渉してきてんだ江戸の街は?」
沖田「まさか旦那が先生やってるとはこの世界の終わりも近そうでさぁ」
佐々木「静かに防衛室長とその指導役の2人が来ますよ」
???「やっぱりお前らかぁ〜これは血生臭くなりそうだよぉ〜」
???「そなたらか新たな訪問者とは」
銀時「しょ、しょ、将軍かよォォォ!」
次回後編
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
-
銀時
-
新八
-
神楽
-
沖田
-
土方
-
山崎
-
高杉
-
桂
-
定春
-
エリザベス
-
ホシノ
-
シロコ
-
ヒナ
-
アコ
-
ミカ
-
ナギサ
-
セイア
-
ユウカ
-
ノア
-
近藤