透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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第二十三訓 必殺技って派手じゃないとやる気出ないよね?

【ミレニアムサイエンススクール・ゲーム開発部 部室】

 ジャンプとレトロゲームという極端な英才教育のせいで、アリスの思考回路が絶賛バグり散らかしている朝。

 モモイは気を取り直すようにコホンと咳払いをし、一枚のプラスチックカードを天高く掲げた。

「と、とりあえず……アリスにはこれを渡さないとね。はい!」

 モモイは、まるでレアアイテムを授与するかのように、恭しくそのカードをアリスの小さな手へと握らせた。

「学生証……?」

 アリスが、不思議そうにカードの表面に印字された自分の顔写真と『才羽アリス』という名前を見つめる。

「そう! この学生証は、私たちの学校の正真正銘の生徒だっていう証明書。生徒名簿にも、超天才ハッカー集団のヴェリタスがハッキ……いや、ゴホン! 登録してくれたから、もうアリスも正式に私たちの仲間だよ!」

 モモイが、明らかにコンプライアンス的にアウトな単語をギリギリで飲み込み、誤魔化すようにウインクを決めた。

 しかし、ソファーでジャンプを読んでいた銀時の鋭い聴覚は誤魔化せなかった。

「……お前、今思いっきり『ハッキング』って言おうとしたよね?」

 銀時がジト目でモモイを睨みつける。

「き、気のせい気のせい! アハハハ!」

 冷や汗を流しながら明後日の方向を向くモモイに、銀時は容赦なく詰め寄った。

「いや絶対言おうとしたよね!? さっきの流れ的にハッキング以外考えられないからね! ヴェリタスって何タス?怖えぇよ!」

 大人(の保身)全開で震え上がる銀時をよそに、アリスは手元の学生証を大切そうに胸に抱きしめた。

 サファイアブルーの瞳が、嬉しそうに細められる。

「仲間……なるほど、理解しました」

 アリスは、頭の中でファンファーレを鳴らすように、弾んだ声で高らかに宣言した。

「バァァアアン! アリスが仲間として合流しました!」

 そのひだまりのような笑顔に、先ほどの裏工作の黒い空気も一瞬で浄化される。

 モモイはホッと胸を撫で下ろし、満足げに頷いた。

「話し方はもう大丈夫そうだね! ……あとは、武器かな」

「武器?」

 アリスが首をコテンと傾げる。

 平和な日本(?)で生きてきた感覚からすれば物騒な響きだが、ここはキヴォトスだ。

「よし。アリス、せっかくだから案内するよ」

 ミドリが優しく微笑み、アリスの手を引いて立ち上がらせた。

「案内……?」

「そう! 私たちの学校、ミレニアムを!」

 双子が息を合わせて宣言する。

 キヴォトスの生徒にとって、自分専用の銃器(武器)を持たずに外を歩くのは、丸腰どころか全裸で歩くのに等しい(物理的にも社会的にも)。アリスを正式なミレニアムの生徒として迎えるためにも、まずは彼女専用の装備を整える必要があった。

「調達する方法は色々あるけど、手っ取り早く手に入れて、しかもアリスちゃんにぴったりのカスタマイズをしてもらうなら……やっぱり『エンジニア部』かな」

 ミレニアムが誇る、変態的……もとい、天才的な発明家集団。彼女たちなら、得体の知れないアリスにも合う武器を見繕ってくれるはずだ。

「ねぇアリスちゃんは、どんな武器が欲しい?」

 部室を出る準備をしながら、モモイが何気なく尋ねた。

 アリスは目をキラキラと輝かせ、待ってましたとばかりに両手をギュッと握りしめた。

「アリス、かめはめ波とか、虚式『紫』とか、螺旋丸とか、極太のビームみたいな必殺技が撃てるようになれる武器が欲しいです!」

「…………え?」

 モモイとミドリの動きが、ピタリと停止した。

 飛び出した単語のスケールが、銃火器のそれではない。完全に星を砕いたり、空間をえぐり取ったりするレベルの超常現象である。

 

「アリス、銀さんからもらった『ジャンプ』で、敵を一撃で倒す派手な必殺技に憧れています。まずはチャクラを練る修行から始めたいと思います!」

 アリスは真剣な顔で印を結ぶポーズをとっている。

 完全に、完全にジャンプの毒(英才教育)が全身に回りきっていた。アリスの頭の中では、銃弾を撃ち合うキヴォトスの常識すら、氣や呪力で戦う異能バトルの前座に過ぎないらしい。

「そ、そうなんだ……あ、あるといいね、そういうの……」

 ミドリとモモイは、引きつった笑みを浮かべ、必死に言葉を選んだ。

 (ないよ。絶対ないよ。あったらキヴォトス滅んじゃうよ……)

 二人は心の中で、生まれたての純粋なAIにジャンプという劇薬を投与した銀髪の男を、親の仇のように恨んだ。

エンジニア部がどんなに変態技術の持ち主でも、流石に呪力やチャクラまでは再現できないだろうと、心の中でツッコミを入れながら。

「……ふぅ。カッツーラさんがいたら『よし、俺が修行をつけてやろう!』とか言い出しそうだけど……」

 ミドリが疲れたようにため息をつき、ふと部室を見渡した。

『そういえば、桂さんはどこに行ったの?』

 昨日からあれだけ騒がしかったアフロの男の姿が、今朝から見当たらない。

 ミドリの疑問に、銀時はジャンプのページをめくりながら気怠げに答えた。

「ヅラなら、一旦帰って『俺の持っているレトロゲームのカセット全て持ってくる』って言って、早朝に出てったよ」

「…………そ、そう」

 相変わらずのブレない狂人っぷりに、双子からはもはや、乾いた相槌しか出てこなかった。

          †

 カオスな部室を後にし、銀時とゲーム開発部の面々は、アリスの武器を求めてミレニアムの巨大な校舎へと足を踏み出した。

 輝く未来の技術都市と、ジャンプ脳に染まった少女、そしてやる気のない侍。

 彼らの向かう先にある「エンジニア部」で、果たしてアリスの『必殺技』の夢は叶うのだろうか――。

 

【ミレニアムサイエンススクール・エンジニア部 部室】

「……相変わらず、とんでもなく広いね」

 モモイの言葉通り、そこは「部室」というよりも、大企業の兵器工場か地下格納庫と呼ぶべき威容を誇っていた。

 ずらりと並ぶ見たこともない巨大な工作機械、壁際にうずたかく積まれた金属パーツの山。そして、所狭しと並べられた、明らかに女子高生の部活レベルを逸脱した殺傷能力の高そうな発明品(兵器)の数々。ミレニアムの技術の結晶が、ここに集約されていると言っても過言ではない。

 だが、その圧倒的なスケール感以上に、銀時の目を釘付けにした「異常な光景」があった。

「……おいおい。なんで天井も壁も、爆撃でも受けたみたいにボロボロなんだよ? まさかお前ら、ジャンプの原稿の締め切りブッチして、担当編集にバズーカでドカンとやられたんじゃねぇだろうな?」

 銀時が死んだ魚の目を限界まで見開き、黒焦げになった壁面を指差して戦慄する。

 すると、横にいたアリスがサファイアブルーの瞳をキラキラと輝かせ、両手をグッと握りしめて前に出た。

「アリス、わかりました! これは激しい戦闘の痕跡ですね!! 強敵の気配……オラ、ワクワクすっぞ! です!」

「アリスちゃん! ワクワクしちゃだめだよ! それ絶対に地球の命運賭けて戦うサイヤ人のやつだから!」

 ミドリが慌ててアリスの口を塞ぎ、これ以上ジャンプの毒(英才教育)が回らないよう必死にストップをかける。

 そんな賑やかな(カオスな)一行の来訪に気づいたのか、工房の奥から三人分の足音が近づいてきた。

「おや、君達はゲーム開発部の二人……それに」

 エンジニア部部長・白石ウタハが片手を上げて出迎えようとした、その時だった。

 彼女の背後から、油まみれの作業着を着た小柄な老人が、ひょっこりと顔を出した。

「おおっ! てめェは『銀の字』じゃねぇか!」

 ミレニアムのハイテク空間に、全く似つかわしくない江戸っ子口調。

 自称・江戸一のカラクリ技師、平賀源外である。

 

「銀時様。なぜこのような神聖な学舎に? 世界を汚染しにでもいらしたのですか? すぐに粗大ゴミとして処分しましょうか」

 

 さらにその後ろから、無機質で透き通るような声が続く。

 緑色の着物風メイド服に身を包んだ、からくり家政婦の『たま』が、箒を片手に完璧な礼をしながら、銀時の尊厳を容赦なく抉り取った。

「そ、それはこっちのセリフだ!! なんで、たまと源外のじーさんが、こんな別次元の女子高生の園にナチュラルに混ざってんだよ!!」

 突如として現れた見慣れた腐れ縁たちに、銀時が目玉を飛び出さんばかりにして絶叫する。

「知り合いかい、源外師匠?」

「……銀さん、この人たち知り合い?」

 完全に置いてけぼりを食らったウタハとミドリが、それぞれに説明を求める。

 源外はニカッと歯の欠けた笑顔を見せ、親指で銀時を指差した。

「あァ。こいつは以前話した、何でも屋をやってる万事屋のバカ侍だ」

「知り合いも何も! こいつの作るガラクタのせいで、俺がどれだけ命の危機と厄介ごとに巻き込まれたと思ってんだ! 歩く損害賠償ジジイ!」

 お互いに憎まれ口を叩き合う二人。

 しかし、すぐに源外はニヤリとした笑みを引っ込め、職人の鋭い目つきに変わった。

 

「ま、とりあえず再会を喜ぶのは後にして……まずは銀の字。お前さんがなぜこんな異世界にいるのか、説明してもらおうか?」

 源外が腕を組み、真剣な顔つきで説明を求めてきた。

 銀時はチッと舌打ちをし、周囲の少女たちをチラリと見た。朧のこと、そしてキヴォトスを取り巻く得体の知れない陰謀のこと。子供たちに聞かせるには、あまりにも生々しく、重すぎる話だ。

「ったく、しゃーねーな……。そんな大声でペラペラ話せるような安い内容じゃねぇんだよ。ちょっと端でいいか?」

 銀時は源外の首根っこを掴み、部室の隅の薄暗いスペースへと強引に連れ込んだ。

 ――数分後。

「……なるほどな。確かに、ガキ共の耳に入れちゃいいような話じゃねぇな」

 銀時から事の顛末(虚の介入など)を聞かされた源外は、いつもの飄々とした態度を引っ込め、職人としての鋭い目つきで深く頷いた。事の重大さを、彼なりに理解したのだ。

「俺は全部吐いたぞ。次はあんたの番だぜ、源外のジイさん。どういうからくりで、あんたらまでキヴォトスに不法入国してんだ?」

 銀時が腕を組み、壁に寄りかかりながら睨みつける。

 源外は「あぁ、それなんだがな」と咳払いを一つし、堂々と説明を始めた。

 

「俺はここに来る前、からくり堂でたまたま来ていた『たま』と、たまたま『タマゴかけご飯製造機』の改良をしていてだな。そしたらたまたま機械が不調を起こして、謎の光に包まれたんだ。で、気づいたらたまたまこのエンジニア部の部室で寝ていて、たまたま顧問がいねぇってんで、俺が臨時顧問になったんだ」

「『たまたま』うるせェェェ!!!」

ゴフゥッ!!

 銀時の完璧なフォームから放たれた強烈なアッパーカットが、源外の顎を見事にカチ上げた。

 老体は綺麗な放物線を描いて、スクラップの山へと突っ込む。

「どんだけ一文に『たまたま』詰め込めば気が済むんだよ! 下ネタは俺の役割であって、ジジイの役割じゃねぇんだよ!つーか 絵面が汚ぇよ!」

 銀時は青筋を立てて怒鳴り散らす。

「それに! ここに来た理由が『タマゴかけご飯製造機』って……お前、前回の『魂入れ替わり事件』から何も学んでねぇのか!? 」

「痛ぇな……。仕方ねェだろ、卵かけご飯はいつだって世界を救うんだよ」

 源外は顎をさすりながら、スクラップの山から飄々と立ち上がった。

「開き直ってんじゃねェェェ ジジイ! あんたの失敗は、毎回毎回、俺たちに超ド級の厄介ごとを運んでくる『大災害』しか生み出してねェんだよ!!」

 ミレニアムの工房で、江戸のバカ騒ぎが完全に再現実されようとした、その瞬間だった。

「――お二人とも、いい加減にしてください」

 静寂を切り裂く、たまの冷徹な声。

 彼女が手にしていた木製の箒の先端が、ガシャン!という機械音と共に変形し、物騒な銃口が顔を出した。

ボォォォォォオオオオオッ!!!

「「ギャァァァァァァァァ!?」」

 火柱は容赦なく銀時と源外を包み込み、部室の壁をさらに真っ黒に焦がしていく。

「あ、アリスわかりました……! これが、汚物は消毒だ〜! ですね!」

「アリスちゃん! 覚えなくていいから! 目を逸らして!」

 黒焦げになって倒れる二人の大人と、キラキラと目を輝かせる勇者(アリス)、そして頭を抱えるミドリ。

 エンジニア部の天井がボロボロだった理由は、他でもない、この江戸から来た狂人たちによる日常的なコント(という名の破壊行為)の産物であった。【ミレニアムサイエンススクール・エンジニア部 部室】

 消火器の白い煙と、焦げたアフロの匂いが漂う中。

 気を取り直したウタハが、咳払いを一つしてミドリたちに向き直った。

「……なるほど、大体事情は把握したよ。要するに、その新しい仲間に『より良い武器』をプレゼントしたい、と」

「そうなんです」

 ミドリが頷くと、ウタハは口元に自信に満ちた笑みを浮かべた。

「そういうことであれば、我々エンジニア部を頼ったのは素晴らしい選択だね。ミレニアムにおける勝敗というのは、優れた技術者の有無に大きく左右されてしまうものだ。……それに今は、凄腕のからくり技師である源外師匠もいるしね」

 ウタハは部室の奥、ガラクタと見紛うような試作品が山のように積まれた一角を指差した。

「そっちの棚やコンテナに、私達がこれまで作って来た試作品が色々と置いてある。そこにあるものであれば、どれを持って行っても構わないよ」

「ありがとうございます!」

「やった! ありがとうウタハ先輩!」

 双子が歓喜の声を上げる中、メイドロボの『たま』が、静かにアリスの傍らに歩み寄った。

「……アリス様、お気に召す武器は見つかりましたか?」

「はい! アリスは、あれがいいです!」

 アリスが迷いなく指差した先。

 そこに鎮座していたのは、少女が両手で抱えるような代物ではなかった。鈍い光沢を放つその巨大な砲身は、どう見ても人が携帯するものではなく、戦艦や大型ヘリコプターの砲塔にマウントするサイズの『超大型重火器』だった。

「でっか……」

 銀時が思わず素の声を漏らす。

「お目が高いですね!」

 丸メガネの少女――コトリが、嬉々として解説に飛び込んできた。

「エンジニア部は今、ヘリコプターや汎用作業ロボットに続いて『宇宙戦艦』の開発を目標としているのです! アリスさんが選んだこのレールガンは、その最初の一歩であり、大気圏外での戦闘を目的として開発された超電磁実弾兵器! ミレニアム史上、明らかに類を見ない壮大な試みです!」

「かっこいい……! 宇宙戦艦の主砲だなんて、聞いただけでワクワクしてくる!」

 モモイが目を輝かせる。

「流石はミレニアムのエンジニア部! 今回のプロジェクトは上手く行ってるんだね!?」

「ふっふっふっ、勿論です! …………と言いたい所なんですが、今は開発を中断してまして」

 コトリがスッと目を逸らす。

「えええっ!? なんで! 期待したのに!」

「いつの世も、技術者達の足を引っ張るのは『想像力』や『情熱』の欠如では無く、『予算』なんです……。このレールガンの試作機を一つ作るだけで、下半期の予算の70%も飛んでいってしまいました。宇宙戦艦そのものを作るには、果たしてこの何千倍の予算が掛かる事やら……」

「そんなの計画段階で分かる事じゃん! なんでこのレールガンの完成までフルスロットルで持って行っちゃったのさ!?」

 モモイの的確なツッコミに対し、ウタハがふっと遠い目をしながら答えた。

「愚問だな、バカ娘。……ビーム砲は『ロマン』だからだ」

「その通りです! ビーム砲の魅力が分からないなんて、全くこれだからモモイは!」

「バカだ! ここに頭の良いバカの集団がいる!!」

 モモイが頭を抱えるが、エンジニア部の面々には全く響いていない。ウタハは愛おしそうに巨大レールガンの砲身を撫でた。

「そして、エンジニア部の情熱が全て注ぎ込まれたこの武器の正式名称は……『光の剣:スーパーノヴァ』!!」

「おー!」

「ひ、光の剣!?」

「あ、アリスの目がめっちゃ輝いてる!?」

 アリスのサファイアブルーの瞳に、星のような煌めきが宿っていた。

「わぁ……うわぁ〜〜!✨✨ ……これ、欲しいです」

「……え?」

「源外のジジイ、こいつ無料でくれねぇかな、です!」

「……スットコドッコイ、おめぇまた変なことアリスに吹き込んだろ?」

 ミドリがジト目で銀時を睨みつける。

「さァな。昨日の夜、銀魂の単行本読ませたらあの通りに図々しくなっちまったんだよ。文句ならあのゴリラ原作者に言いな」

 銀時は小指で耳をほじりながら、一切の責任を放棄した。

「申し訳無いのですが、それはちょっと出来ないご相談です!」

 コトリが両手でバツ印を作って断る。

「何で!? この部屋にある物なら何でも持って行って良いって言ったじゃん!」

 モモイが抗議の声を上げる。ミドリも心配そうに尋ねた。

「やっぱり、丹精込めて作った物だから人に渡すのは嫌……とか?」

「いやぁ、そうでは無くて……」

 犬耳の少女――ヒビキが、言いにくそうに俯いた。

 ウタハが代わりに溜息をついて答える。

「お金や愛着の問題では無くて、もっと物理的で単純な理由さ」

「お金より単純……?」

「この武器は、個人の火器として使うには大きすぎて、そして重過ぎるのさ」

「なんと、基本重量だけでも140kg以上! さらに光学照準器とバッテリーを足した上で砲撃を行うと、瞬間的な反動は200kgを超えます!」

 コトリがオタク特有の早口でスペックを並べ立てる。

「どんだけ使い道のねぇ盆栽武器作ってんだ!!」

ドゴォッ!!

 銀時の理不尽なアッパーが、なぜかまたしても顧問の源外の顎を捉えた。

「ガハッ!?」

 本日二度目の空中遊泳を果たす源外。

「年寄りに二発も殴り入れるとは、少しは労われ! それにこいつはなァ、あいつらが俺の『醤油が出る機能をつけろ』っていう素晴らしいアイデアを無視して、ただのロマンだけを詰め込んだ結果こうなったんだ! 俺のせいじゃねぇ!」

「どっちにしろ、いらねえ機能がたくさん詰まったせいで重くなったことだけはよくわかったわ……」

 醤油が出る宇宙戦艦の主砲。もはやツッコミが追いつかず、銀時は深い徒労感と共に肩を落とした。

 ――武器自体が、人が持つように作られていない。

 いくらキヴォトス人が頑強であろうと、140kgの鉄塊を軽々と持ち上げて戦うことなど不可能……のはずだった。

「はい! アリスは『光の剣』を装備します!」

「ヒョイッ」

 アリスが細い腕を伸ばし、巨大なレールガンの持ち手を握ると――まるで発泡スチロールの模型でも持ち上げるかのような手軽さで、それを軽々と担ぎ上げてしまったのだ。

「も、持てました!!」

「「「ええええええええええ!!?」」」

 部室にいた全員の眼球が飛び出さんばかりに見開かれた。

「140kgを持ち上げられる存在が……この場にいるだなんて……」

 ウタハが信じられないものを見る目でアリスを見つめる。

 光の剣を抱え、ルンルン気分でステップを踏むアリス。

「……アリス様。一度点検を行い、安全装置(リミッター)を取り付けますので、こちらに渡していただけますか?」

 たまが冷静に武器を回収しようと手を伸ばした。

 だが、スーパーノヴァのロマンに完全に心を奪われていたアリスは、その声を聞いていなかった。

「えーと……この、光るボタンを押せば……?」

「待って、危ない!」

 エンジニア部の全員が血相を変えて制止しようとしたが、遅かった。

「トリガー、オン!!」

 カチッ。

 無邪気な指先が、発射ボタンを押し込んだ。

ギュゥゥゥゥゥゥン……ッ!!

 スーパーノヴァの砲身を覆うコイルが、青白いプラズマの光を放ちながら激しく回転を始める。莫大なエネルギーが先端へと収束していく……が、発射されない。ただひたすらに、限界を超えてエネルギーを溜め込み続けているのだ。

「あれ、あれ? チャージしたまま、と、止まりません!!」

「やっぱりまだ最終点検が必要だったんだ! この前組み上げたばかりなんだよそれは!」

「安全弁が焼き切れています!」

 ウタハとコトリが叫ぶ。

「どどどどどうしよう!? なんかもう光の球がどんどん大きくなっていくよ!?」

 モモイが頭を抱えてパニックに陥る。

 不完全な回路のせいで、レールガンのエネルギーは行き場を失い、今にも部室ごと吹き飛ばす大爆発を起こそうとしていた。

「ウタハ先輩! どうしましょうこれぇぇ!!」

「アリス様、落ち着いてください。そのまま手放さずに……」

「せめて、上に向けて撃たせればなんとかなるはず……!」

 全員が絶望的な顔で対処法を探る中。

「……源外のジジイ、こいつは貸しだからな」

 銀時が、木刀を肩に担いだまま、光り輝く暴走兵器とアリスの前にスッと進み出た。

「!?」

「なんとかするって……どうするつもりなんだい!?」

 ウタハが叫ぶ。

「まぁ見てな」

 銀時は懐から、アロナが宿るシッテムの箱(タブレット)を静かに取り出した。

「アロナ、頼むぜ!」

 スッ、とタブレットの画面が輝く。

 そして銀時は、木刀を捨て、右手の親指と人差し指を交差させ……某最強の呪術師のような、やけにスタイリッシュなポーズを構えた。

「そ、それは……!」

「ご、五条さんの……!? 銀さん撃てないでしょ! いくらなんでもパクリでアレを止められるわけないよォォ!!」

 モモイが半狂乱でツッコミを入れる。

「それでどうする気なんですか……!?」

 銀時はニヤリと不敵に笑い、虚空に向かって呟いた。

「金時……お前の中の人(CV)の力、ちょっと借りるぜ……」

((メタい!! メタすぎる!!!))

 双子の心の声がハモる中、銀時はアリスに向かってウインクを飛ばした。

「アリス、俺を信じて撃ってこい」

「で、でも……!」

「大丈夫――俺、最強だから」

「! ……わかり、ました!」

 アリスは覚悟を決め、限界まで膨れ上がったスーパーノヴァの銃口を、真っ直ぐに銀時へと向けた。

「ひ――光よぉ!!」

チュドォォォォォォォォォォン!!!

『銀さァァァァん!!』

 解放されたエネルギー弾が、音速の壁を容易く超え、空間を歪ませながら銀時へと殺到する。

 秒速2km(マッハ6)で迫り来る、戦艦を沈める一撃。

 普通なら、人間の肉体はおろか、キヴォトスの生徒ですら跡形もなく消し飛ぶであろう破壊の奔流。

 だが、銀時は印を結んだまま、シッテムの箱から供給される青いエネルギーを指先に収束させ、高らかに詠唱した。

「パクリ術式・魂式(たましき)――『(しろがね)』!!」

ドゴォォォォォォォォォォォォン!!!

 銀時の指先から、スーパーノヴァのプラズマ弾を凌駕するほどの、極太の銀色のエネルギー波が放たれた。

『ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!?』

「ぎ、銀さん凄いです!!」

 二つの莫大なエネルギーが空中で激突し、エンジニア部の分厚い壁を吹き飛ばして、ミレニアムの空に巨大な爆発の華を咲かせた。

 もうもうと立ち込める粉塵と煙。

 ふぅぅぅ……と、指先から煙を上げながら、無傷の銀時がアリスの元へと歩み寄る。

「大丈夫か?」

「はい! 銀さん凄いです! 強キャラどころかチートキャラ……いや、運営も想定外のバグキャラです!!」

「そうだよ。銀さんはな、大人の事情もあらゆる制裁(コンプライアンス)も恐れずに、他作品の技を平然とパクれるんだからな」

 堂々と胸を張るクズな最強キャラ

 呆然としているウタハたちの元へ、銀時はアリスを連れて戻った。

「いや……銀の字。一つだけ教えてくれ。どうやってアレを撃ったんだ?」

「音速の6倍を超えるって私が言ったよね!? 生身で相殺できる熱量じゃないよ!?」

「それをどうやって……?」

「ギャグ漫画の主人公なんて、大体そんなもんだろ?」

「…………」

「……銀の字」

 源外だけは、銀時の懐に隠されたタブレット(シッテムの箱)から未知のエネルギーが放たれていたことに気づいていたが、野暮なことは言わず、ニヤリと笑って黙秘を貫いた。

「アリス、この『スーパーノヴァ』、本当に凄いです!」

 アリスが興奮冷めやらぬ様子で、焦げた砲身を抱きしめる。

「……ふふっ。そこまで気に入ってそう言ってもらえると、作った私達も技術者冥利に尽きるよ」

 ウタハが苦笑しながら歩み寄る。

「ありがとう……。それで、どうするの? あの武器……渡しちゃう?」

 モモイが上目遣いで尋ねると、ウタハは少しだけ考え込み、頷いた。

「………いや、一度点検を済ませてからだ。暴発を防ぐ安全装置を取り付け、色々と使いやすくカスタマイズを変えないといけねぇがな」

「そ、それって……!」

「それ、あなたにあげますよ。――正しい、いいことに使ってくださいね」

 たまが、優しく微笑んでアリスに語りかけた。

『や……やったぁぁぁぁ!!!』

「デデデッデデッデ! デッデッデデデデッデデッデデデ! デレレレッ・テテテ・デデデ・レレッ・テテテッテテッデー!」

 アリスが、口で完璧なマリオのクリアBGMを熱唱しながら、その場でピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶ。

「アリスは『光の剣:スーパーノヴァ』を手に入れた!!」

『いぇぇぇーい!!』

 アリス、モモイ、ミドリが歓声を上げ、パァン!と気持ちのいい音を立ててハイタッチを交わす。

 ぶっ飛んだ性能の巨大兵器と、それを軽々と扱うバグのような勇者。

 アリスが『光の剣』を手にしたことで、ゲーム開発部パーティーの戦力(と物理的な破壊力)は、一気にカンスト近くまで跳ね上がったのであった。

 




次回予告

ユウカ「モモイ!ちゃんと制作続いてる…の?」
アリス「?」
ユウカ「誰かしらこんな可愛い子」
アリス「ふ、フリーザ!ミレニアムのフリーザが出ました!」
ユウカ「誰がフリーザーですって〜‼︎」
ヒィィィイイ
銀時「俺たちの出番は?」
次回 面接官には丁寧に対応しないと

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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