透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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第二十四訓 面接官には丁寧に対応しないと

エンジニア部という魔窟から、宇宙戦艦の主砲(スーパーノヴァ)という規格外の戦利品と共に帰還した一行。

 だが、安堵の息を吐く暇もなく、ゲーム開発部には次なる死線が迫っていた。

「銀さん、気を抜かないで。今日の午後に、生徒会(セミナー)からアリスちゃんの『資格審査』に来るってさ」

 巨大な砲身を部室の隅に立てかけ、額の汗を拭いながら、ミドリが一仕事終えた気でいる銀時に釘を刺した。

「資格審査ァ?」

 ソファで『週刊少年ジャンプ』を顔に乗せて昼寝を決め込もうとしていた銀時が、心底めんどくさそうな顔で振り返る。

「うーん、私もその審査が具体的に何をするのかよく分かんないけど、大丈夫でしょ! アリスちゃんの準備については、もう私が完璧にレクチャー済なんだし!」

 モモイは胸を張り、根拠のない自信に満ちた笑顔を浮かべる。

 だが。

「………」

 銀時の額に、嫌な汗がツーッと伝った。

 このピンク髪のポンコツが「完璧」と言った時ほど、ろくな結果になった試しがないからだ。

「アリス、自己紹介を!」

モモイがビシッと指を突き出して号令をかける。アリスはスッと立ち上がり、姿勢を正してサファイアブルーの瞳を真っ直ぐに向けた。

「私の名前はアリス。界境防衛機関『ボーダー』の一員で、S級隊員です。出身地は……」

「いや、何で急に『ワールドトリガー』の設定が入ってるの!! 空想のプロフィールじゃなくて、アリス自身のリアルな設定を言って!」

モモイがすかさずツッコミを入れ、アリスにやり直しを命じた。

その時である。彼女たちの背後から、ジャラ……ジャラ……と、重々しい数珠を擦り合わせる音が響いてきた。

「南無阿弥陀仏……」

振り返ると、そこには白目を剥き、両手を合わせながらお経を唱える銀髪の男が立っていた。

「俺は悲鳴嶼行冥、鬼滅の刃、鬼殺隊の柱の1人で、今は極秘でスパイをやっている。俺の任務は、他の柱の台本の上にう〇こを……」

「銀さんもふざけないの! てかそれ、中の人(CV)繋がりでかなり前に披露した銀魂後の祭りのネタだよね!?」

「まだ実行できていない……機を待つべし……南無阿弥陀仏……」

注意されてもなお、白目のまま微動だにせずふざけ倒す銀時。

ついにミドリとモモイの堪忍袋の緒が切れた。

「いつまで引っ張るのよォォォォ‼︎」

双子は、銀時がどこからともなく取り出していたトゲトゲの巨大な鉄球(日輪刀)を強引に奪い取ると、勢いよく鎖を振り回し、銀時の天然パーマの頭頂部に向かってフルスイングで叩き落とした。

ゴシャァァァァァッ!!

「岩柱ッ!!?」

自前の武器で見事にスマッシュされた銀時は、断末魔と共に部室の壁際へと勢いよく吹き飛ばされ、そのまま沈黙した。

気を取り直して。

「あ、間違えました。データを修正します」

アリスは倒れた銀時を全く気に留める様子もなく、瞬き一つしてシームレスに表情を切り替えた。

「……私の名前はアリス。ミレニアムサイエンススクールの1年生です。最近転校してきたばかりで、受講申請のタイミングを逃してしまったため、まだ授業の登録ができていない状態なのですが、来月から正式に授業へ参加する予定です」

「おお! すごいそれっぽい!」

「た、たしかにこれなら大丈夫そうだけど……」

淀みなく紡がれた、極めて現実的で地に足のついた完璧な設定。

モモイは得意げに胸を張った。

「完璧じゃん! これなら、あの『冷酷な算術使い』相手にも絶対に誤魔化しきれるって!」

ミドリが引きつった笑いで答える。

「……噂をすれば、やってきたね」

          †

コツッ……コツッ……コツッ……。

部室の外の静まり返った廊下から、冷たく、規則正しく、そして絶対的な威圧感を伴う足音が響き渡ってきた。

銀時たちは、本能的に「ユウカが来た」という事実を察知し、部室内の空気がピンと張り詰める。

ガチャリ、と重い扉が開かれた。

「……あり得ないわ。ゲーム開発部に新入部員が入ったなんて、そんなデータ、どこを探してもあり得ない……」

タブレットに目を落としたまま、ブツブツと呟きながら入室してきたのは、ミレニアム生徒会『セミナー』の会計・早瀬ユウカだった。その瞳には、完全なる疑念が渦巻いている。

「ふっふっふ! 残念だけど、厳然たる事実だよユウカ先輩!」

モモイが強気に言い返す。

そして、壁際の瓦礫(鉄球の被害痕)の中から、フラフラと銀時が立ち上がってきた。

「あ、なんだ、イシヘンジンじゃねぇか。おはようさん……」

ドカァァァァァァッ!!!

挨拶の途中で、ユウカの美しくも重い(物理)ストレートアッパーが、銀時の顎を完璧な軌道で打ち抜いた。

「親方ァ! 空から侍が!」というセリフを残す暇もなく、銀時は再び部室の天井付近まで軽やかに吹き飛ばされていった。

ユウカは、宙を舞う銀髪の男を一瞥もせず、まるでゴミを払うように手をパンパンと叩くと、静かにアリスの前へと近づいた。

「……あなたが、噂のアリスちゃんね。このゲーム開発部に入ったという、4人目のメンバー」

「……」

アリスは無言のまま、ユウカをじっと見つめ返していた。

(システム検索……『冷酷な算術使い』。ヒットしました。属性:魔王軍幹部、あるいは冷酷無比なダンジョンボスと推測――)

アリスの脳内では、ユウカが完全にRPGの敵キャラとしてカテゴライズされている。

「……ふーん」

ユウカはアリスの頭の先からつま先まで、鋭い観察眼で値踏みするように見つめ、小さくため息をついた。

「ミレニアムの生徒なら、その顔も名前も、ほぼ全員把握してると思ってたんだけど……私のデータにない生徒がいるなんてね」

「全員把握……流石は冷酷な算術使いってところか」

ドサッ、と床に落ちてきた銀時が、顎をさすりながら這い寄ってきて、口を挟んだ。

「その計算能力と記憶力、お堅いだけあって大したモンだぜ。だがな、世の中には計算じゃ測れねェバグってもんが存在すんだよ」

銀時がドヤ顔で言い放つ。

しかし、ユウカは氷のような、絶対零度の笑みを浮かべて銀時を見下ろした。

「ええ、そうね。私が把握しているのは生徒のデータだけじゃないわ」

「……あ?」

ユウカは手元のタブレットを操作し、画面を銀時へ向けて突きつけた。

「最近、銀さんが夜の繁華街やパチンコ屋で浪費した、シャーレの特別経費の『正確な金額』と『使用用途の詳細』も、一円単位の狂いなく完璧に把握しているわよ? ……後でたっぷり、精算(おはなし)させてもらうから覚悟してくださいね」

「……ヒッ!?」

魔王軍幹部などという生易しいものではない。

それは、ダメな大人を最も恐怖のどん底に陥れる「税務署(あるいはオカン)」の姿そのものであった。

 

 

 

【ミレニアムサイエンススクール・ゲーム開発部 部室】

 氷のように冷たい、無慈悲な査定者の目をしていたユウカだったが……至近距離で緑のパーカーを着た少女――アリスの顔をじっと見つめているうちに、その険しい表情が微かに、しかし確実に緩んでいった。

 透き通るような白い肌に、宝石のように澄んだサファイアブルーの瞳。まるで精巧なビスクドールのような、規格外の愛らしさである。

「……私がこんなに可愛い子のことを知らなかったなんて、ちょっと信じられないわね」

 ポツリと、冷酷な算術使いの口から素の感想が漏れた。

 可愛いものには意外と弱いという、彼女の隠れた弱点が垣間見えた瞬間である。

「ユウカ先輩、なんか判定基準がおかしくない……?」

 ミドリがジト目でツッコミを入れる。ミレニアムの生徒手帳に「可愛い子リスト」でも作っているのだろうか、この会計は。

「……??? ……ふ」

 一方、じっと見つめられていたアリスは、小首を傾げて瞬きを繰り返した。

 彼女の脳内(システム)では、目の前に立つ威圧感たっぷりの少女のデータを、昨晩インストールしたばかりの『週刊少年ジャンプ』の知識と猛烈な勢いで照合していた。

 圧倒的なオーラ。絶対的な権力者。そして、自分たちを追い詰める存在。

 導き出された最適解は――。

「ふ?」

 ユウカが怪訝そうに眉を寄せる。

 アリスは、無垢な瞳をキラキラと輝かせ、ピンと人差し指をユウカに突きつけて高らかに宣言した。

「戦闘力53万……! フリーザが出現しました……!」

 ピシリ、と。

 部室の空気に、目に見えない亀裂が走った。

「フ、フリーザ!? い……今この子、私のことを宇宙の帝王(フリーザ)って言ったわよね!?」

 ユウカのこめかみに、今日一番の巨大な青筋が浮かび上がる。冷酷な算術使いが、デスビームを撃つ寸前の第1形態へと変貌しかけていた。

「か、勘違いだよユウカ先輩! 『フリーズ』って言ったのを聞き間違えたんでしょ! ほら、ゲームが固まるフリーズ! もう、アリスは人見知りだから、緊張して頭がフリーズしちゃったって意味だよぉ!」

 モモイが滝のような冷や汗を流しながら、苦しいゲーマー用語の言い訳で必死にカバーに入る。

「くっ……セミナーの会計として、生徒から悪役(ヒール)扱いされるのには慣れてるとはいえ……。まさか初対面の子に、いきなり宇宙の帝王扱いされるだなんて。……良い度胸してるじゃない」

 ユウカは青筋を立てながらも、なんとか努めて冷静な(しかしドスの効いた)笑みを浮かべた。

 その殺気に満ちたオーラに危機感を覚えたのか、モモイとミドリは慌ててアリスを庇うように、サッと彼女の周囲を円陣で囲み込んだ。

「まあまあ落ち着いてユウカ先輩! 誰でも間違うことはあるよ! ね!?」

「そう言いながら警戒度マックスで周りを囲まないで頂戴! 私が、見境なしに暴力を振るう野蛮な女に見えるっていうの!?」

 心外だと言わんばかりに抗議するユウカ。

 だが、その言葉が部室に響き渡った直後。

 モモイとミドリの視線は、極めて自然な動作で「ある一点」へと誘導された。

 ――視線の先。そこには、先ほどユウカの美しき右アッパーを顎にモロに食らい、壁際の瓦礫の山に頭から突き刺さって白目を剥いている銀髪の侍(銀時)の姿があった。ピクピクと右足だけが虚しく痙攣している。

「…………ンンッ!」

 痛いほどの沈黙の後、ユウカは顔を真っ赤にして、わざとらしく大きな咳払いをした。暴力の決定的な証拠(物理)から強引に話題を逸らす構えだ。

「と、とにかく! 今のは銀さんがふざけたから正当防衛よ!」

(正当防衛のライン超えてる物理ダメージだったけど!?)と心の中でツッコミつつ、モモイはここぞとばかりに本題を切り出した。

「とにかく! アリスが加わって、これで部の規定人数(4人)は満たしたよ! これでゲーム開発部は廃部を免れて存続ってことでOKだよね!?」

 モモイがドヤ顔で勝利宣言をする。

 だが、冷酷な算術使いはそう甘くはなかった。

「存続……。確かに、人数の規定は満たしたようね。……この子が本当に、自分の意志でここに来た『正規の部員』だったら! ……の話だけど」

『ギクっ』

 双子の肩が、不自然なほど大きく跳ねた。

「本来は、新入部員の加入を申告してくれれば、書類上はそれだけでよかったのだけれど……。昨日あんなに絶望していたあなたたちが、たった一晩で都合よく新入部員を見つけてくるなんて、タイミングが良すぎるわ」

 ユウカは探偵のように目を細め、モモイたちを一歩ジリッと追い詰めた。

「廃部を逃れるために、そこら辺を歩いていた関係ない生徒を脅して、無理やり名前を貸させて加入させていると言う可能性もあるわよね?」

「ひ、人聞き悪いよ! 私達はそんな極悪非道なことしてないもん!」

「そーだそーだ! アリスちゃんは立派な私たちの仲間だもん!」

 図星(脅してはいないが、廃墟から拾ってきた身元不明の少女であること)を突かれたモモイとミドリが、ムキになって抗議の声を上げる。

「だまらっしゃい! ……とりあえず、アリスちゃんには簡単な取り調べ……あら、思ってもない物騒な言葉が……コホン。じゃあ、いくつか簡単な質問(面接)をするわね。そんなに時間はかからないわ」

「………せ、選択肢によっては、ゲームオーバーになりますか?」

 アリスが無表情のまま尋ねる。

「ゲームオーバー……まぁ、そういうこともあるかもね。それじゃあ……アリスちゃん……――質問を、始めるわ」

 辺りにビリビリとした緊張が走る。

 アリスの背後では、瓦礫から復活した銀時とモモイたちが、大慌てでスケッチブックを取り出し『カンペ』の準備を始めていた。

「アリスちゃん、あなたがゲーム開発部に来たきっかけは何?」

「気が付けば、すでにここに…………あっ」

 正直すぎるアリスの回答に、銀時たちが背後で激しくバツ印を作る。

「気付いたら?」

「え、えーと……」チラッ。

 アリスはユウカの背後にいる銀時たちのカンペを読もうとしたが、文字を書くのが間に合っておらず、スケッチブックは真っ白だった。

「どうしたの? 答えられないの?」

 ユウカの目が細められる。

 絶体絶命のピンチ――その時、どこからともなく、達筆な筆文字で書かれたプラカードがスッとアリスの視界に差し出された。

 それを読み上げるアリス。

「えっと…マリオに以前から興味があって、一緒に遊ぶ友達を増やすためにこの部活に入りました」

「…友達が、いなかったの?」

「はい」

(((助かったぁぁ……!)))

 銀時たちは胸を撫で下ろした。

 背後を振り返ると、そこには赤と青のオーバーオールに身を包んだマリオ姿の男(桂)と、なぜか緑のオーバーオールを着た謎の白い生物(エリザベス)が立っていた。

「全く、貴様らじゃカンペ職人の『ルリージ』のあとは継がせられんな」

「その声は!」

「ヅラか!」

「ヅラじゃない……カツオだ!」

 そして、ルイージの格好をしたエリザベスが、見事なカンペ捌きで気配を殺しながらペンを走らせ、ユウカの質問に対する模範解答を次々と提示していく。

「でもここはレトロゲーム部じゃない、あくまでもゲーム開発部。……つまり、あなたもゲーム作りに参加するということよね? 何を担当するの?」

「S級隊員で、好物は、んめぇ棒……じゃなくて! マリオです!」

「え?」

 キュッキュッキュッ。

(え…プログラマーです)エリザベスがプラカードを掲げる。

「すいません、緊張して間違ってしまいました。えへへ」

「そう……」

 ユウカの視線が鋭くなる。エリザベスが一瞬質問を聞き間違えたせいで危うくバレそうになったが、アリスの可愛らしい笑顔でなんとか誤魔化せた。

「ふーん、プログラマーねぇ……すごく専門的で、難しい役割だと聞くけれど」

「はい、そ、そうです。プログラマーは大変です。過労で意識を失ったりもします」(カンペ読み)

「な、なんですって!?」

「それでも大丈夫です!」(カンペ読み)

「いや、大丈夫じゃないでしょ……ちゃんと休みなさいよ」

「次のコマになれば、都合合わせのために全て元通りになりますから」(カンペ読み)

(やべっ、それジャンプの設定!)

 銀時が頭を抱える。

「そ、そんなわけないでしょ!?」

「……あー」

「そんなわけないのですか? 常識のはずですが……もしかして、この世界の常識をご存じないのですか?」

(アリス、これ読め、これ!)

 エリザベスが必死にプラカードを振る。

「マリオもいいですが、世界の常識を知るには『ジャンプ』が良くて〜✨✨」(カンペ無視)

(まずい、カンペが目に入ってない!)

 アリスの瞳に、昨夜インストールされたオタク特有の熱いスイッチが入ってしまった。

 それからなんと一時間近く、アリスはユウカを前に、マリオのBダッシュの爽快感と、ジャンプにおける友情・努力・勝利の美学について、怒涛の勢いで喋りまくった。エリザベスのカンペはもはや完全に無視され、アリスは自分の得た知識を瞳をキラキラさせながら語り続けた。

 その時のアリスは、とても楽しそうで、クリエイターとしての熱意にあふれていた。

「おいィィィイ! アイツ何喋ってんの!? ゲーム開発部関係ないこともペラペラ喋ってんじゃねぇか!」

「まずいよ、このままじゃ怪しまれて廃部に……」

 諦めかけた銀時と双子だったが、桂(カツオ)だけは腕を組んで深く頷いていた。

「案ずるな。もしやこの情熱、そのまま押し切れるかもしれんぞ」

 一方のカンペ職人・エリザベスは、そっとプラカードを置き、『もういいや』という顔(元からだが)をしていた。

「アリスちゃん、もういいわ」

「ダメです! まだ、全てについて語っていません! あのジャンプとマリオの深い歴史を語るには、もっと時間が必要なのです!」

「……いえ、十分伝わったから。頭痛くなってきたわ……」

 ユウカがこめかみを押さえる。

「そうですか……?」

「アリスちゃん、あなたのことについては概ね理解できたわ……」

(もうダメだぁっ!?)

(どうしよう……!?)

 銀時たちが絶望の淵に立たされた、その時。

「ちょっと怪しいところはあるけれど……レトロゲームと……ジャンプが好きだってことは、その熱意から十分すぎるほど伝わったわ」

「ということは?」

「……そうね、認めるわ。この『ゲームジャンプ漫画開発部』の4人目のメンバーとして」

「え……?」

「っていうことは……!」

「規定人数を満たしているので、ゲームジャンプ漫画開発部を、正式な部活として認定するわ……」

「やったぁ!」

「良かったぁっ! って、ジャンプ漫画は作ってないからね!?」

「で、でも、これで部費も貰えるし、このまま部室を使ってもいいんだよね!? ならジャンプでも何でもいいじゃん!」

 モモイが歓喜の声を上げる。

 だが、ユウカは冷たく言い放った。

「……そうね、今学期(今月末)まではね」

「……え?」

「な、な、なんで!?」

「それと、部費なんて出る訳ないじゃない」

「……おい、今月末までって言うのはどういうことだ?」

 銀時が顔つきを変えてユウカに尋ねた。

「あら、知らなかったの? 部活の存続は、規定人数を満たすだけじゃなく、同時に『部としての成果』を証明しないといけないのよ。その証明期間の期限は、今月末まで! 結果を出せない部活は、たとえ4人いても400人いても、例外なく廃部になるのよ」

「嘘だ、あり得ない!」

「あり得るの! この間、全体の部長会議でちゃんと説明した内容なんだから!」

「ってことは、部長さんが聞いてるんじゃねぇの?」

 銀時がロッカーの方を見るが、ユウカは首を横に振った。

「……いいえ、ゲーム開発部部長のユズは、その会議に参加してなかったわ」

「え!? ……あっ」

「そうだよ……こういう場合って、お姉ちゃんが代わりに参加するって事にしてたんじゃないの!?」

 全員の冷たい視線が、モモイへ一点集中する。

「誰が悪っていうの!?」

 逆ギレするモモイ。

「…その日はちょうど……限定イベントの周回があって、やらないといけないことが多かっー」

ドカァッ!

「お前だよ」

 呆れ果てた銀時が、無慈悲なゲンコツをモモイの頭にお見舞いする。

「お姉ちゃんの馬鹿!!」

 ここまでの話をまとめると、ユウカの話によれば、現在は「部の存続の条件」として、今月末までに確かな成果の証明をしなければいけなくなったらしい。

 では何故それをゲーム開発部が知らなかったかというと、モモイがゲームのイベントを優先して部長会議をサボり、その重要な決定を聞いていなかったからだ。自業自得極まりない。

「……正直なところ、アリスちゃんの正体も怪しいし、本当ならすぐに退去を要請しようかとも思っていたのだけれど……。正体はさておき、ゲームとジャンプが好きだっていう熱意だけは本物だと分かったわ。今回、特別に猶予を与えたのは、その気持ちに免じてよ。――モモイ、あなた言ったわよね? ミレニアムプライスで、びっくりするぐらいの結果を出して見せるって」

「そ、それはそうだけど……」

「新しいメンバーも増えたことだし、前よりも『ちゃんと面白いゲーム』が作れるんでしょうね?」

「つ、作れる……はず……です」

「それじゃあ、楽しみにしてるわよ」

 ユウカはそう言って、部屋から出て行こうとドアノブに手をかける。

 すると、出ていく寸前でピタリと足を止め、振り返って銀時たちに静かに告げた。

「銀さん。……ゲーム開発部は今まで成果を出さず、ゲーム開発部なのにゲーム作らず、部屋に籠ってゲームして遊んでいるだけだったんです」

「………」

「その怠惰な日々の行いが招いた結果が、今のこの状況です。……今一度、銀さんたちが――いえ……シャーレが、このゲーム開発部を手助けする必要が本当にあるのかどうか、よく考えておいてください」

『!』

「…それでは」

 

 ユウカの冷たく規則正しい足音が廊下の奥へと完全に消え去った後も、部室には重く、息の詰まるような沈黙が垂れ込めていた。

 先ほどまでの賑やかな喧騒が嘘のように、空気は鉛のように重い。

「結果的に……まだゲーム開発部は、存続の危機って事だよね」

 ミドリがぽつりとこぼした言葉が、冷たい床に落ちて砕けるように響いた。

「ごめん……。私が、ちゃんと部長会議に参加出来なかったせいで………」

 いつもは能天気で自信満々なモモイが、今はすっかり肩を落とし、膝を抱えて床に座り込んでいた。その顔は深く伏せられ、ピンク色の前髪の隙間から、悔しさで滲んだ瞳が見え隠れしている。

「ユズちゃんは悪くないよ! 色々訳ありで人前に出られないんだし……。そもそも、お姉ちゃん一人に任せっきりにしてた私も私だし……」

「本当に……ごめん」

 ロッカーの陰から顔を出したユズも、消え入りそうな声で謝罪した。

 自らの怠惰と不注意が招いた、取り返しのつかない事態。モモイは深い自責の念に囚われ、他のメンバーも同じように暗い顔をして俯いている。

 生まれたての純粋なAIであるアリスでさえ、大好きな「パーティー(ゲーム開発部)」が消滅してしまうかもしれないという絶望的な状況をデータとして処理し、その大きなサファイアブルーの瞳に涙をいっぱいに溜めていた。

「銀さん、桂さん……そしてルリージラスさん。今日まで手伝ってくれて、本当にありがとうございました」

 ミドリが、震える声で大人たちに向かって深く頭を下げた。

「……」

「ここからは……私達が責任を持ってやります。……私たちがやらかした事なので! だから、その……銀さんたちは、これで――」

『厄介事は切り上げて、元の生活に戻ってください』。

 ミドリがその辛い言葉を言い切ろうとした、その瞬間だった。

「――まだ早ぇよ」

 低く、しかし確かな熱を帯びた声が、ミドリの言葉を遮った。

 銀時、桂、そしてエリザベス(ルリージラス)。

 三人は、それぞれの手にレトロゲームのカセットと『週刊少年ジャンプ』をしっかりと握りしめ、顔を上げた少女たちを静かに見下ろしていた。

「俺はなァ、この部を助けてくれって依頼を受けてノコノコやって来たんだ。なのに、何も解決しねぇまま尻尾巻いて帰るなんて、ごめんだね」

「け、けど、これは私たちの責任で……!」

「確かにユウカ殿の話を聞いて、俺も正直『自業自得では?』とは思ったぞ」

「うぐっ……」

 桂の容赦ない正論の追撃に、モモイが呻き声を上げる。

 だが、三人は示し合わせたように顔を見合わせると、同時に力強い声で言い放った。

『だが、先生として……いや、侍として』

「やると決めたことには、最後まで付き合わねぇとな!!」

 三人の声が、ピタリと重なって部室に響き渡った(エリザベスはプラカードで高らかに掲げていた)。

「…どうして……そこまでやってくれるんですか?」

 ミドリが、信じられないものを見る目で問いかける。

 何の義理もない、ただの素行不良のゲーム部。しかも原因は自分たちの自業自得だ。見捨てられて当然の状況で、なぜこの大人たちは手を差し伸べ続けるのか。

 そんなミドリの疑問に対し、銀時は木刀を肩に担ぎ直し、ふと尋ね返した。

「お前ら、『侍』ってのはなんだと思う?」

「え? 侍……? 袴を着て、腰に刀を挿してる昔の人……とか?」

「悪人を、刀でスパッと退治する正義の味方……?」

 モモイとミドリ、そしてユズも首を傾げながら一般的なイメージを答える。

 だが、アリスだけは違った。彼女はピンと手を挙げ、自信満々に答えた。

「アリス、昨晩『銀魂』を全巻読破して知りました。侍とは……【自分の信念を貫く人】です!」

 他のメンバーが「?」と意味が分からずに首を捻る中。

「……アリス、テメェの言う通りさ」

 銀時はニヤリと笑い、死んだ魚のような目に、鋭い太刀筋のような光を宿した。

「侍ってのはな、格好つけるために腰に鉄の棒をぶら下げて振り回す奴らのことじゃねェ。自分の信じるモンのために、どんな逆境だろうが、どんな泥沼だろうが……真っ直ぐに自分を貫き通せる奴。それが『侍』だ」

「銀時の言う通りだ」

 桂も静かに目を閉じ、腕を組んで語り継いだ。

「どんなに時代が移り変わろうとも、自らの正義を見失わず、最後まで戦い続ける者こそ侍である。たとえそれが誰に報われなくとも、泥にまみれようとも、信じた道を歩むことにこそ、侍の魂は宿るのだ」

「……侍……凄いね……」

 少女たちが、圧倒的な言葉の重みに息を呑む。

 アリスは目を輝かせ、深く頷いた。

「はい!! いつもグータラで、パチンコに行ってすってんてんになるマダオ(まるでダメなおっさん)なのに、中身はこんなにかっこいいです!」

「アリスちゃん? それは褒めてるのか貶してるのか微妙だからやめとこっか!?」

 ミドリが慌ててフォローを入れるが、銀時はそのいじりすらも鼻で笑い飛ばした。

 彼は真っ直ぐに、沈み込んでいたモモイたちの目を見据え、言い放った。

「そしてな、今の俺たちが一番大事にしてんのは……お前らみたいな教え子(ガキ)の瞳から、悲しみの涙を一つたりとも流させねェことだ。……それが、今の俺たちにとっての『侍』の戦い方だ」

 その言葉は、どんな魔法の呪文よりも力強く、少女たちの心に深く、熱く突き刺さった。

「銀さん……っ」

 モモイの瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

 だが、それは先ほどまでの絶望の涙ではない。彼女は乱暴に袖で涙を拭うと、バンッ!と勢いよく立ち上がった。

「私、頑張る! 諦めずに、最後までもっと足掻いて、争ってみる! 銀さんたちと一緒に、絶対に神ゲーを作ってみせる!」

「……私も! お姉ちゃんたちと一緒に、限界までやる!」

「アリスも賛成です! 勇者パーティー、大魔王(ユウカ)討伐に向けてクエスト再開です!」

「わ、私も……頑張る……!」

 廃部という絶望の淵に立たされていたゲーム開発部に、再び熱い炎が灯った。

 クズで、ダメな大人だけど、誰よりも頼りになる「先生」たちと共に。

          †

(―――もう……本当に、お人好しなんだから)

 少しだけ開いた部室の扉のすぐ外。

 ユウカは、壁に背を預けたまま、その中から漏れ聞こえてくる熱い会話をこっそりと聞いていた。

 彼女の口元には、先ほどの「冷酷な算術使い」としての厳しい表情は微塵もない。

 呆れたような、それでいてどこか安心したような、柔らかく優しい微笑みが浮かんでいた。

 ユウカはフッと短く笑うと、背筋を伸ばし、踵を返した。

 ゲーム開発部のバカ騒ぎが再び始まったのを背中で感じながら、彼女は自らの生徒会の仕事へと、軽い足取りで戻っていくのだった。

 




次回予告
銀時「まず何をやるだ?」
モモイ「やっぱりあの廃墟に行ってG.Bibleを探さないと」
ミドリ「探して前回なにもなかったじゃん!」
桂「いや灯台下暗しで以外と近くにあるかもしれんぞ」
モモイ「とにかく探しに行くよみんな!」
アリス「s級の力見せてあげます!」
次回 探し物には秘密あり

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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