透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

30 / 155
第二十六訓 秘密兵器は隠しとけ!

 

 

【ミレニアムサイエンススクール・ヴェリタス部室】

 無数のモニターが青白い光を放ち、サーバーの排気音が低く唸るその空間は、まさに電脳世界の最前線――ミレニアム最強のハッカー集団『ヴェリタス』の聖域であった。

 乱雑に張り巡らされたケーブルとエナジードリンクの空き缶の山に囲まれ、銀時たちゲーム開発部一行は、固唾を呑んで「G.Bibleのパスワード解析」の報告を待っていた。

 部屋全体が、独特のヒリヒリとした緊張感に包まれている。

 そんな中、ヴェリタス所属のハレが、なぜか少し戸惑ったように視線を泳がせながら、ゆっくりと口を開いた。

「依頼されたデータの解析について……結果が出たよ」

 モモイは、待ちきれないといった様子で身を乗り出し、バンッ!と机に両手をついた。

「い、いよいよ……!」

 その瞳には、神ゲーへの渇望と希望の光が爛々と輝いている。

 ハレは、コホンと小さく咳払いをしてから、神妙な面持ちで語り始めた。

「知っての通り、私たちヴェリタスはキヴォトス最高のハッカー集団だと自負してる。今までも、絶望的だと思われるようなシステムやデータの復旧を、数えきれないほどに解決してきたわ」

 ゴクリ、と。

 銀時たちはおろか、アリスまでもが息を呑み、ハレの次の言葉を待った。

「その上で、単刀直入に言うね」

 一瞬の、永遠にも等しい間。

「モモイ。……貴方のゲームのセーブデータを復活させるのは、無理」

 ――ピシリ。

 モモイの顔色から、一瞬にしてすべての血の気が引いた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!! 私の息子たち(育成キャラ)がぁぁぁ!! もう駄目だぁぁぁぁ────!!」

 まるでこの世の終わりが訪れたかのように、モモイはその場にへたり込み、床をバンバンと叩きながら大声で泣き喚き始めた。

 そのあまりの絶望感に、サイバーパンクな部室が、一瞬で葬式のようなしんみりとした空気に包まれる。

「じゃねェェェェェェェェェだろォォォォォ!!!」

 ドガァァァァァァァァン!!!

 銀時の魂のツッコミと共に、容赦のない両足蹴り(ドロップキック)がモモイとハレの二人に炸裂した。

 鈍い衝撃音が響き、ゲーマーとハッカーが仲良く機材の山へと吹き飛ばされる。

「何G.Bibleのパスワード解除より、てめェの個人的なセーブデータの復元を優先させてんだ! 俺たちが昨日、何のためにあんな薄気味悪りィ廃墟の奥底まで死ぬ思いしてついて行ったと思ってんだゴラァァァ!!」

 青筋を立てて怒鳴り散らす銀時。

 その怒りの勢いに引きずられるように、ミドリも立ち上がり、両手を腰に当てて涙目の姉に詰め寄った。

「銀さんの言う通りだよお姉ちゃん! そっちじゃないでしょ!? G.Bibleのパスワードの解除はどうなったのさ!?」

 ミドリの鋭い追及に、モモイは痛む頭をさすりながら、しゅんとした顔で小さく答えた。

「そ、それなら……今、マキが奥で作業中だよ……」

 その声に反応したのは、ヘッドホンを首にかけたヴェリタスの少女――コタマだった。彼女はキャスター付きの椅子をくるりと回し、こちらを振り向いて口を開く。

「マキちゃんが……出たみたい」

 その瞬間、奥の隔離された作業スペースの重いドアが、プシュゥゥという圧縮空気の音と共に開いた。

 中から姿を現したのは、燃えるような赤髪に、ペンキで汚れたパーカーを羽織った少女――マキであった。

「おはようミド! 来てくれたんだね、ありがとー!」

 彼女の屈託のない笑顔に、ミドリの強張っていた顔がパッとほころぶ。

 しかしマキは、すぐに機材の山に埋もれてスンスンと泣いているモモイに気づき、不思議そうに首を傾げた。

「全然いいよ〜……って、モモ……? モモはどうしたの、それ」

「私の……私の息子達(セーブデータ)が……電子の海に消えたの……」

「息子!?」

 マキがギョッとして目を丸くする。

 だが、その混沌とした状況を整理する間もなく、銀時が再び木刀を構えてツッコミの構えに入った。

「だから! そっちの茶番はもういいんだよ! 本命のG.Bibleの話だろ!!」

 銀時のドスの効いた声が部室に響き渡り、空気が一気に引き締まる。

「おっと、ごめんごめん」

 マキは苦笑いしながら頭を掻き、すぐに真剣なハッカーの顔つきへと戻った。

「あー、それ? ちゃんと中身のメタデータまで解析できたよ。結論から言うと……あれは間違いなく、あの伝説のゲーム開発者が作った『神ゲーマニュアル』……本物のG.Bibleだね」

「や、やっぱりそうなんだ!」

 ミドリとモモイが、一斉に立ち上がって歓喜の声を上げた。銀時も「おぉっ!」と身を乗り出し、拳を強く握りしめる。

 マキは手元のタブレットを操作し、メインモニターに複雑なデータ列を表示させながら詳細な説明を続けた。

「ファイルの作成日や、最後に転送された日時、ファイル形式の構造から考えても確実。作業者のログについても、噂に名高い『伝説のゲーム開発者』の固有IPと完全に一致していたわ。それと……あのデータは、これまでに【たった1回】しか転送された形跡がないの」

 部屋全体に、驚きと期待が入り混じった熱い空気が流れる。

「ということは、つまり────」

 銀時が促すと、マキは自信に満ちた笑みで力強く頷いた。

「うん。コピーされた複製(レプリカ)じゃない。完全なオリジナル……『原典』のG.Bibleだろうね」

「す、凄い! それじゃあ早く中身を─!」

 興奮気味にモモイがモニターに飛びつこうとした瞬間。

 マキは、ふっと口元を引き締め、冷や水をぶっかけるような一言を放った。

「でも」

 ピタリ、とモモイの動きが止まる。

 空気が一気に張り詰める中、マキは申し訳なさそうに眉を下げて続けた。

「ファイルの『パスワード』については……まだ解析できていないの」

「えぇッ!? それじゃ結局中身見れないじゃん!? がっかりだよ!」

 ミドリの悲鳴のような抗議が響き、モモイは「うそぉ……」と頭を抱え込んで再び床に崩れ落ちた。期待が天まで膨れ上がったところで、一気にどん底まで突き落とされたような気分だった。

「うッ……だ、だって私はあくまでシステムを壊す『クラッカー』であって、鍵を開ける『ホワイトハッカー』じゃないし……あのパスワード、ミレニアムの最高峰の暗号化技術でガチガチに固められてて……」

 マキが視線を泳がせ、言い訳がましく指を合わせる。

 ミドリが苛立ちを抑えきれずに詰め寄ろうとした、その時だった。

「しかし、オリジナルかどうかわかっただけでも大いなる一歩ではないか! 感謝するぞ、マキマ殿!」

 突然、背後から時代がかった大仰な声が響いた。

 腕を組み、堂々と頷いていたのは桂である。

「おいヅラ! 名前間違えてんぞ! それじゃあジャンプ漫画違いの『支配の悪魔』になっちまうだろうが! お前が犬にされちまうぞ!」

 銀時が即座にメガホンでツッコミを入れる。

「おっと、それはすまないことをした。ワン」

 桂は素直に謝罪(?)し、マキは気を取り直すように小さく咳払いをした。

「と、兎に角!」

 マキは自信を取り戻すように、ポンと胸を叩いた。

「パスワードの解析ができないからって、諦めるのは早いよ。それ以外に方法がないわけじゃないんだから」

「そうなの?」

 モモイが、すがるような目で顔を上げる。

「あのファイルのパスワードを直接『解除(アンロック)』するのは、多分いまの設備じゃほぼ不可能。でも、セキュリティファイルそのものを『取り除いて』、中身のデータだけを丸ごとコピーするっていう裏技的な手段ならいけるんじゃないかな。……で、そのためには『Optimus Mirror System』……通称【鏡】って呼ばれる特殊なハッキングツールが必要なの」

「ぜ、全然話についていけない……。オプティマス……?」

 モモイのゲーマー脳が、専門用語の羅列にショートしかけて顔をしかめる。

 見かねた銀時が、やれやれとため息をついて口を開いた。

「あの〜、すんませんハッカーさん。こちとらファミコン世代の頭なんで、横文字の難しい言葉使われても1ミリも理解できないんで〜。……おいミドリ! お前、お子様にもわかりやすいように、今の状況を【30文字以内】でまとめろ」

 無茶振りをされたミドリは、うっと少し考え込み、指を折りながらなんとか言葉をまとめようと試みた。

「うーん……つまり、今のままじゃパスワードがかかっててG.Bibleは見れないから、『鏡』っていうプ……」

「はいブッブー! 30文字オーバー! 難しすぎて理解できませんでした〜!」

 銀時が即座に両手でバツ印を作って遮る。

 ミドリはピキッと青筋を立て、銀時のスネを軽く蹴り飛ばしてから、極限まで短く話をまとめ直した。

「つまり! データを見るためのツール『鏡』がいるってこと!!」

 銀時とモモイは、「おぉ〜」とポンと手を打ち、深く納得したように頷いた。

「なるほど、そういうことか。分かりやすい。じゃあ、その『鏡』って便利アイテムはどこに行けば手に入るんだ?」

 銀時が尋ねると、マキは途端に言いにくそうにモジモジし始め、視線を床へと落とした。

「……あたしたち、ヴェリタスが……持ってた」

 その言葉のニュアンスに、銀時の顔が一瞬にして険しくなる。

「何だ、持ってたなら話が早ェ。それなら今すぐ使って……って、え、待って!? 今【持ってた(過去形)】って言った!?」

「そう。今は持ってないの」

 マキに代わり、奥で端末を叩いていたコタマが、悔しそうに眉をひそめて告げた。

「その『鏡』……ミレニアム生徒会(セミナー)のユウカ先輩に見つかって、押収されちゃったのよ。もうっ!」

 ――セミナーに押収された。

 それはつまり、あの「冷酷な算術使い」であり、昨日ゲーム開発部に廃部の通告を突きつけてきた【早瀬ユウカ】の手元に、唯一の希望であるツールがあるということだ。

 絶望の第二波が、部室の面々を容赦なく襲うのだった。

 

【ミレニアムサイエンススクール・ヴェリタス部室】

「セミナー……。ユウカ先輩や、あのノア先輩がいるところか……」

 ミドリが、重々しい事実を噛み砕くように呟いた。

 ミレニアムにおける絶対的な権力機関。そこに目をつけられたという事実だけで、一般生徒なら震え上がる案件だ。だが、当の被害者であるマキは苛立ちを隠しきれず、ペンキのついた手でバンバンと机を叩きながら早口でまくし立てた。

「そう! 急に部室に押しかけてきてさー!? 『不法な用途の機器の所持は校則で禁止されています』って、それだけ言ってあたしたちのプログラムと機材を根こそぎ回収していったんだよ! もう本当にやだ、あの算術使い!」

「……わたしの仕掛けた『盗聴器』も、その時にまとめて持っていかれましたね」

 コタマが、モニターから目を離さずに、今日の天気でも語るようなサラリとした口調で爆弾発言を投下した。

「…………は?」

 銀時は、小指で耳をほじっていた手をピタリと止め、死んだ魚の目を限界まで見開いた。

「おい……なんか今、JKの口からサラッととんでもないワードが飛び出してきたんだけど。犯罪の匂いがプンプンする単語が、女子会のノワールなノリで聞こえてきたんだけど! お巡りさんこの部活です!」

「気のせいですよ。気のせい」

 コタマは一切悪びれる様子もなく、淡々とキーボードを叩き続ける。銀時は「この学園の倫理観どうなってんだ」と、深く深いため息をついて額を押さえた。

「で、その『鏡』ってやつは、盗聴器と一緒に没収されるくらいヤバくて危険な代物なのか?」

 銀時の問いに、ハレが「いや、そういうわけでもなくて……」と言葉を濁しつつ、静かに説明を始めた。

「暗号化されたシステムをこじ開けるのに特化した、最適化ツールってだけ。ただ……」

 ハレの瞳に、深い尊敬の念が宿る。

「……世界に、たった一つしかないの。私たちの部長である、ヒマリ先輩が直々に製作した天才的なハッキングツールだから」

「ヒマリ……?」

 聞き慣れない名前に銀時が首を傾げると、マキが誇らしげに頷いて言葉を継いだ。

「ヒマリ先輩は、私たちヴェリタスの部長さん。ちょっと身体が不自由で車椅子に乗っているから、見かけたらすぐにわかると思う。……でもね、本当にすごい人なんだ。身体のことはあるけど、それであの人に同情したり軽視したりするようなバカは、このミレニアムには一人もいない。……正真正銘の『天才』っていうのかな。ミレニアムの歴史上、まだたった3人しかもらえてない【全知】っていう最高の学位を持ってる人なの」

 その神聖な響きに、部室が静寂に包まれる。

 ――しかし、その空気を読まない男が約一名。

「なるほど。……つまり、昔の俺のような『神童』というわけか。わかるぞ、天才の孤独が」

 桂が、さも自分と同類であるかのように深く静かに頷き、腕を組んで後光を背負った(ように見せかけた)。

「…………」

 その瞬間、桂の奇行を昨日から嫌というほど見せつけられているミレニアムの生徒たちは、一斉に彼の方へ「虚無の視線」を向けた。そして、誰も一言もツッコミを入れず、見事なスルーパスを決めた。

「……か、簡単にまとめれば……まぁ、そうだね」

 マキが引きつった笑いで無理やり同意し、話を本筋に戻す。

 銀時は、次元の低い相棒のことは記憶から抹消し、現状を整理するように口を開いた。

「ま、つまりだ。その『鏡』って便利アイテムを取り返さないと、G.Bibleの中身は一生拝めないってわけだな?」

「うん……。でも、そのためにはセミナーに乗り込まないといけないんだよね……」

 コタマが不安そうに呟き、ヘッドホンを握りしめる。

「『鏡』は生徒会の差押品保管所に厳重に保管されているんだけど……厄介なのは、其処を守っている連中なの。実は……『メイド部』なんだよね」

「……え? メイド部、って……もしかして……」

 ミドリの顔から、スッと血の気が引いた。

「なんだそれ。メイドと戦うって……俺らが勝っても負けても、世間体とか道徳的に色々と終わってんじゃねぇか。それに、メイドさんってのはなァ、戦うもんじゃなくて、フリフリのスカート揺らしてご主人様を癒すための神聖な存在だろうが!」

 銀時が、オタク特有の早口でメイドの尊厳について熱弁を振るう。

「銀さん。セミナー直属のメイドは……普通のメイドじゃないんです」

 コタマが、カタカタとキーボードを叩き、メインモニターに一つのエンブレムを大写しにした。

【 C & C(Cleaning & Clearing)】

ミレニアムサイエンススクールで秘密裏に活動するエージェント組織。

通称「メイド部」。その戦闘力は同校はおろか、キヴォトス全土でもトップクラス。

制服はメイド服。エンブレムは『M16アサルトライフルを携えたメイドの横顔』。

流麗な所作で、優雅に、そして無慈悲に、敵と障害を文字通り【清掃(物理排除)】する。

 画面に映し出された物騒極まりない設定資料を見て、銀時の顔が引きつった。

「おいおい……なんだよその血生臭ェメイド部ってのは。掃除するのは部屋のホコリだけにしといてくれよ。俺が求めてんのは、ティーセット持って『ご主人様、美味しくな〜れ、モエモエキュン♡』って感じの癒し系だっつーの! M16担いだメイドなんて、ただの戦場の死神だろ……」

 理想と現実のあまりの落差に、銀時は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 一方で、桂は真剣な顔で腕を組み、力強く宣言した。

「なるほど、つまり彼女たちは『優雅さ』と『戦闘力』を兼ね備えた真のプロフェッショナルということか。……素晴らしいぞ、銀時! ならば、ここで我々も対抗して『侍部』を結成し、流麗な刀捌きで敵を『清掃』するのだ! もちろん、エンブレムは『木刀と白衣を携えた侍の横顔』に決まりだ!」

「お前、ぜってェ何もわかってねぇだろ……」

 銀時がボソッと、疲労感たっぷりのツッコミを入れる。

「じゃあ……あのC&Cが、鏡の保管庫を警備してるの?」

 ミドリが絶望的な声で確認する。

「そうそう! まあ、ちょっとした些細な問題なんだけどさ〜」

 マキがわざと明るく振る舞うが、その「些細」という言葉は、誰の耳にも響かなかった。

 ――沈黙。

 ミレニアム最強の武闘派集団との対峙。その絶望的な戦力差を前に、部室の空気が重く沈み込んだ。

 誰もが打開策を見出せず俯く中、不意にモモイがポンッと手を打ち、極めて明るい声で突拍子もない提案を口にした。

「そっか〜! そうだねー、うーんなるほど〜……よし、諦めよう!!」

「「「え?」」」

「みんな聞いて! ゲーム開発部、回れ右! 前進ッ!!」

 モモイは急にバンッと立ち上がると、右手の人差し指で出口のドアをビシッと指し示し、一切の未練を捨てた清々しい顔で、そのまま脱兎のごとく逃げ出そうとした。

「諦めちゃダメだよモモ!!」

 ガシィッ!

 背中を見せたモモイに、マキが素早いタックルを見舞い、プロレス技のような羽交い絞めにして強引に引き留める。

「離してマキちゃん! 命あっての物種だよ!」

 

「そりゃ欲しいよ!! でも、だからってあのC&Cと戦うなんて冗談じゃない! そんなの、猛スピードで走ってる列車に生身で乗り込めとか、燃え盛る火山口にパンツ一丁で飛び込めって言われた方がまだ生存確率高いよ!!」

 モモイはマキにホールドされたまま、手足をジタバタとさせて必死に抗議する。

「で、でもこのままじゃ、あたしが部長に怒られ……じゃなくて! ゲーム開発部も終わりだよ! 今月末までに成果出さないと、廃部になっちゃうんでしょ!?」

 コタマが、自分の保身を隠しつつ必死に説得する。

 モモイは涙目になりながら、苦々しく首を振った。

「うぐっ……も、勿論廃部は嫌だよ! でもこれは、話の次元が違うの! C&Cの『ご奉仕』で完膚なきまでに壊滅させられた過激団体や武装サークル、数えきれないんだから!」

「……最後には痕跡すら残さず、綺麗に『掃除』される。ミレニアムじゃ有名な都市伝説……いや、事実だね」

 ハレも、青ざめた顔で真剣に頷いた。

「それに!」

 モモイが焦燥感を隠しきれずに叫ぶ。

「いくらアリスちゃんがとんでもなく強くても、流石にC&C相手じゃ限界があるよ! 私たちなんて完全に足手纏いだし……もっと圧倒的に強い戦力、ゲームで言うとバランス崩壊レベルの【チートキャラ】! そんな存在がいないと、絶対無理だよぉぉぉ!!」

 モモイの悲痛な叫びがヴェリタスの部室に響き渡る。

 ……しかし。

 その言葉を聞いた瞬間、ミドリの頭の中で「ピコーン!」と何かが繋がった。

「あれ……? お姉ちゃん」

 ミドリが、羽交い締めになっているモモイを見つめて、ポツリと口を開いた。

「その『差押品保管所』に行くのは……誰?」

「グスッ……え? だから、私たちゲーム開発部と、ヴェリタスのみんなで……それから………――あっ!!」

 モモイの泣き顔が、一瞬にしてパァァァッと太陽のように明るく輝いた。

 彼女の視線の先には、小指で耳をほじっている銀髪の男と、無駄にキリッとしているアフロの男がいる。

 つい先ほど、エンジニア部でマッハ6のレールガンの直撃を、パクリの術式で無傷で弾き返した『規格外のバグキャラ』が。

「な、なに? そんなにすごい助っ人がいるの?」

 マキが不思議そうに首を傾げる。

 モモイとミドリが顔を見合わせる中、アリスが瞳を星のように輝かせて、特大のボリュームで叫んだ。

「わ、忘れていました……そう! そうです! 私たちには――銀さんたちがいます!!」

「「「えっ?」」」

 ヴェリタスのメンバーが、一斉に銀時たちへと目を剥く。

 

すると、モモイを含むゲーム開発部の面々が一斉に銀時と桂の腕を掴んだ。

 

モモイの顔に、悪魔的とも言える希望の光が宿った瞬間だった。

「捕獲(ターゲット・ロックオン)!!」

 モモイの号令と共に、ゲーム開発部の面々(主にモモイとミドリ、そして便乗したアリス)が一斉に飛びかかり、銀時と桂の両腕をまるでコアラのようにガッチリとホールドした。

「……おいおい」

 銀時は、自分の両腕にぶら下がる少女たちを見下ろし、死んだ魚の目をさらに濁らせて呆れ顔で尋ねた。

「何勝手に銀さんの手を掴んでるわけ? まさかとは思うけど、ハナからあの凶悪メイド部隊の討伐を俺頼みにする気なわけ?」

「そうだよ!!」

 モモイは一切の悪びれる様子もなく、むしろ満面の笑みで勢いよく首を縦に振った。

「私たちには、どんな理不尽もパクリで解決するバグレベルの助っ人、銀さんたちがいるじゃん! わーいわーい!! これで勝つる! 勝ち確だぁぁ!!」

「アリスも賛成です! 勇者パーティーに、伝説の侍が再加入しました! ピロリン!」

 部室でピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶモモイとアリス。

「待って待って待って!? 何勝手に決定事項にしてんの!?」

 銀時は焦ったように腕を振り払おうと抗議するが、神ゲー制作と廃部回避という絶対目標に燃えるゲーム開発部の熱意(と物理的な握力)に完全に気圧されていた。

「ちょっと待って、モモイ」

 そのどんちゃん騒ぎに、冷や水を浴びせるように声をかけたのはヴェリタスのハレだった。

 彼女は、モニターの光に照らされた銀時たちの頭上をジッと見つめ、少し驚きと戸惑いが入り交じった声で言葉を紡ぐ。

「……銀さんたちって、キヴォトスの生徒の証である『ヘイロー』を持ってないよね? 弾丸を浴びても平気な私たちと違って、普通の人間なんでしょ? そんな人を、あのC&C……躊躇なく実弾をぶっ放す殺戮メイドたちと戦わせる気?」

 ハレの至極真っ当な指摘。

 この世界において、ヘイローを持たない者が銃火器の飛び交う戦場に出ることは、文字通りの『死』を意味する。

 その恐ろしい現実に直面し、モモイの「わーい」と上がっていた両手がピタリと止まった。

「あ……」

 モモイは少し冷静になりかけ、ハッとした表情で銀時を見た。

 (確かに……いくら銀さんでも、普通の人間なら蜂の巣にされたら死んじゃう……)

 常識的な罪悪感がモモイの胸をよぎった。

 しかし。

 彼女はすぐに思い出したのだ。ほんの数十分前、エンジニア部で起きた【あの光景】を。

 マッハ6で迫る140kgのレールガンのエネルギー波を、怪しげな指のポーズ一つで(しかもパクリ技で)無傷で相殺し、エンジニア部の壁を丸ごと吹き飛ばした男の姿を。

「……いや! 大丈夫だ!!」

 モモイは再び勢いよく顔を上げ、先ほどよりもさらに強い確信を持って吠えた。

「ヘイローが無くたって問題ないよ! だってこの人たち、さっきマッハ6のレールガン素手で弾き返したもん! 物理法則とかキヴォトスの常識を完全にガン無視してる、ギャグ時空の生命体だもん!!」

「お前、大人の命をなんだと思ってんのォォ!?」

 銀時が半狂乱になって叫ぶ。

「ギャグ補正だって無限じゃねェんだよ! シリアス長編に入ったら普通に血まみれになるし、骨も折れるんだよ! あんなのたまたまタブレット(シッテムの箱)の力借りて上手くいっただけで、一歩間違えれば俺は今頃、骨の髄までチリになって風に吹かれてたんだからね!?」

 

「案ずるな銀時よ!」

 必死に逃げ口上を並べる銀時の肩を、バシンッ!と力強く叩く者がいた。

 マリオの帽子を被り、腕を組んで自信満々に頷く桂である。

「我々はかつて、攘夷戦争という地獄の戦場を駆け抜けた仲ではないか。天人のレーザー砲の雨を掻いくぐってきた我々にとって、メイドの撃つアサルトライフルなど豆鉄砲に等しい! 今こそ『白夜叉』と『狂乱の貴公子』の力を、この異世界に知らしめる時!」

「オメェは土管に入りたいだけだろうが!!」

 銀時が桂の胸ぐらを掴んでガクガクと揺さぶる。

 しかし、その「攘夷戦争」「白夜叉」といった中二病心をくすぐるパワーワードに、アリスの目がさらに星のようにキラキラと輝き始めた。

「ピロリン! 隠しステータス『伝説の侍』を確認しました! やはり銀さんたちは、終盤で仲間になる最強のお助けキャラだったのです! アリス、とっても心強いです!」

 140kgのレールガンを抱えた純真無垢な少女に、全幅の信頼を寄せられた瞳で見つめられる。

 モモイ、ミドリ、ユズも、「お願い、銀さん……!」と祈るように両手を組み合わせている。

 そしてヴェリタスの面々すら、「なんかよくわかんないけど、この人たちならワンチャンあるかも……」という期待の眼差しを向けていた。

「あー……もうっ。わかったよ、わかった! 行きゃいいんだろ行きゃあ!メイドカフェの裏稼業部隊だか何だか知らねェが、そのC&Cって連中のドタマに、俺の木刀ぶち込んでくりゃいいんだろ!」

 完全に退路を断たれた銀時は、ボサボサの頭をガシガシと乱暴に掻きむしり、特大のため息と共に白旗を揚げた。

 

「やったぁぁぁぁぁ!!」

「さっすが銀さん! いよっ、ミレニアムの救世主!」

 

「ただし! 俺はあくまでサポート!弾除けとか囮とか、そういう命に関わる役回りはあのヅラマリオに任せるからな!」

「任された! メイドカフェのスタンプカードなら既に満杯だ!」

「そういうメイドじゃねぇっつってんだろ!!」

 こうして、G.Bibleの暗号を解くための鍵『鏡』を奪還すべく、ゲーム開発部&ヴェリタス、そして不本意ながら最前線に立たされることになった万事屋一行は、ミレニアム最強のメイド部「C&C」が待ち受ける、生徒会の差押品保管所へと向かうことになったのだった。




次回予告
ユウカ「そのまさかよ」
???「あらあらゲーム部の可愛い子たちも隅に置けませんね〜」
???「なら私たちも部長がいない分全力でやらないとですね」

次回 作戦は早めに立てておけ!

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。