透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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第二十七訓 作戦は早めに立てておけ!

【ミレニアムサイエンススクール・生徒会(セミナー)執務室】

「……その、まさかよ」

 分厚い防音扉を背にして、ミレニアム生徒会『セミナー』の会計・早瀬ユウカは、重苦しい声で告げた。

 その顔は、普段の理知的で冷静な彼女からは想像もつかないほど険しく、どこか疲労の色が濃く滲んでいた。無理もない。何しろ彼女はたった今、「あの弱小のゲーム開発部が、セミナーの差押品保管所を襲撃しようとしている」という、耳を疑うような衝撃的な事実を知らされたのだから。

 ユウカの前に静かに立つのは、クラシカルなメイド服を完璧に着こなした少女――ミレニアム最強の秘密エージェント『C&C(メイド部)』の室笠アカネであった。

 アカネは、紅茶のカップをソーサーに置くような優雅な所作のまま、少しばかり驚きを隠せない様子でコテンと首を傾げた。

「なるほど。俄かには信じ難いお話ですね。あんなに可愛らしいゲーム開発部の皆様が……強固なセキュリティを誇るセミナーの施設を襲撃しようだなんて。人は見かけによらないものですね?」

 アカネの声は、凪いだ水面のように静かで落ち着いていた。

 だが、その丁寧な口調の裏には、「あの無害で無邪気な少女たちに、果たしてそんな大胆な真似ができるのだろうか?」という、冷静な分析に基づいた疑念がわずかに漂っていた。

 ユウカは、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえ、深く、深くため息をついた。

「純粋な子たちよ。そこだけは間違いないわ。でも……いえ、純粋だからこそ、大好きなゲームのためなら周りが見えなくなって、時にはとんでもない悪戯(テロ行為)を平気でやらかしたりもするの。それに、今回はあの『ヴェリタス』も裏で糸を引いて絡んでるのよ」

「ヴェリタスも、ですか……。それはまた、少々珍しい組み合わせですね」

「そうでもないわ。自分たちの大事な物の為なら、手段を一切選ばないっていう点においては、ヴェリタスとゲーム開発部は根本的にとてもよく似ているもの。……はぁ……。なんで、よりにもよって『あの人たち』がいる状態でこんなバカなことを……もーーう……っ」

 ユウカは、ついに耐えきれなくなったようにその場にしゃがみ込み、両手で頭を抱えた。

 困惑、苛立ち、そして底知れぬ不安。様々な感情が交錯した彼女の様子は、ただならぬ事態の深刻さを物語っていた。常に合理的な計算で動く算術使いのユウカが、ここまで取り乱すのは珍しい。

 アカネは、そんなユウカの様子に丸メガネの奥の目をスッと細め、一歩前に踏み出した。

「あの人たち……ですか?」

「……ええ。ヴェリタスの他に、もっと厄介な『協力者』がいるのよ……」

 ユウカはしゃがみ込んだまま、重圧に耐えかねるようにポツリとこぼした。

 ゲーム開発部とヴェリタスの共同戦線。それだけでもミレニアムのセキュリティを脅かす重大なインシデントだが、彼女が今一番恐れ、頭を悩ませているのは、彼女たちの背後に立つ「イレギュラーな存在」だった。

「……連邦捜査部『シャーレ』の先生、坂田銀時。そしてその連れの、桂小太郎と謎の白い生物(エリザベス)。……あの大人たちが、今回の襲撃にメイン戦力として参加するのよ」

 ユウカの言葉に、常に泰然自若としているアカネの目が、一瞬だけわずかに見開かれた。

 しかし、彼女はすぐにプロのエージェントとしての冷静さを取り戻し、考え込むようにスッと眉をひそめた。

「……シャーレの先生が、ですか? いや、しかしそれは論理的にありえないのでは? 先生はキヴォトス全土の超法規的機関に属する、いわば絶対的な中立の大人です。そんな立場にある方が、一介の部活動の私怨のために、自らの立場を危うくするような不法行為(襲撃)に加担するとは思えないのですが」

 アカネは、極めて論理的で常識的な推論を展開した。

 大の大人が、しかもキヴォトスの未来を担う「先生」が、わざわざ生徒会の施設に泥棒に入るわけがない。それは大人の社会の常識だ。

 だが、ユウカは、その真っ当すぎる反論を予想していたかのように、顔を上げて疲れたような……それでいて、どこか呆れと諦めが混じったような笑みを浮かべた。

「ん〜……。わかってない。全然わかってないわね、アカネ」

「…………」

 まるで子供を諭すようなそのユウカの物言いに、アカネは胸の奥でチリッとした不快感を覚えた。

(何故でしょう。……すごく、イラッとしますね。今度こっそりユウカ先輩のコーヒーにタバスコでも混ぜておきましょうか)

 メイドの笑顔の裏で密かに恐ろしい報復計画が練られる中、ユウカは立ち上がり、真剣な眼差しで語り始めた。

「……銀さんたちはね、自分の立場とか、権力とか、大人の常識とか、そういうのに全くもって関心を見せないの。自分の立場がどれだけ危うくなろうが、社会的信用がゼロになろうが……目の前で泣いている子がいるなら、損得抜きで助けに行く。……それが、銀さんたちの言う『侍』の生き方らしいわ」

 呆れたような口調だったが、その言葉の端々には、そんな破天荒な大人たちに対する、彼女なりの複雑な感情……ほんのわずかな信頼のようなものが滲んでいた。

「成程。合理的ではありませんが、かなりのお人好し……というわけですね。しかし、ご安心を」

 アカネは背筋を伸ばし、メイド服の裾を優雅につまんで微笑んだ。

「いくらシャーレの先生が指揮を執るとはいえ、そして相手の兵力がこちらよりも多かろうと、我々C&Cが防衛戦において敗北することはありえません。チリ一つ残さず、完璧に『お掃除』してみせます」

 絶対の自信に裏打ちされた、メイドのプロフェッショナルとしての誇り。

 だが、その心強い言葉を聞いても、ユウカの眉間に刻まれた深いシワは消えることはなかった。

「私も、普段のC&Cならそう思うわ。でも……今回は、何かひどく嫌な予感がするのよ……」

「……はい? 嫌な予感、ですか」

「ええ。銀さんたちはいつも死んだ魚のような目をしてふざけてるけど……よく言うじゃない? 『能ある鷹は爪を隠す』って」

「……ユウカ先輩。先生たちはヘイローを持たない、ただの脆い『普通の人間』です。我々の火器の前では無力に等しい。そこまで過剰な心配はいらないのでは?」

 アカネは首を傾げ、論理的な事実を突きつける。

 しかし、ユウカは「エンジニア部でマッハ6のレールガンを謎の術式で弾き返した」という、銀時の規格外のバグ能力の報告を思い出し、頭痛を堪えるように無言で頷いた。

「…………まぁ、一応ね。油断は禁物よ」

 その言葉に、二人の間に一瞬、何とも言えない微妙な静寂が訪れる。

「……とりあえず、ネル先輩に連絡できない? 正直、相手が理不尽なバグキャラなら、こっちもミレニアム最強の理不尽……ネル先輩と銀さんを直接ぶつけた方が、一番安心出来るのだけど……」

 ユウカが、C&Cの絶対的エースであり、破壊の化身であるコールサイン・ダブルオー『美甘ネル』の出動を要請した。

「……ネル先輩は、現在不在です」

「……え?」

 ユウカの口元がかすかに震え、驚きの声が静かに漏れた。

「あー、そうなの? なら早く呼び戻し……え、不在?」

「はい。ミレニアムの外郭に、少々個人的な用事があるそうでして。本日は連絡がつきません」

 ミレニアム最強の矛が、この緊急事態に限って不在。

 ユウカの顔がさらに青ざめるが、アカネはふふっと涼しげに微笑んだ。

「ですが、ご安心を。……リーダーが居る時のC&Cが一番強いのは紛れもない事実ですが、今回はあくまで施設の『防衛戦』です。防戦であるのならば、むしろ私達(残りのメンバー)だけの方が都合が良いかもしれません。リーダーは、防衛よりも『施設ごとぶっ壊す事』に特化したお方ですから……」

 保管庫を守るはずが、ネルが暴れたせいで保管庫ごと更地になってしまっては本末転倒である。

「では、改めまして。セミナーからの防衛依頼、我々C&Cがお受けいたします」

 アカネの優雅な一礼に、ユウカは胸の奥につかえていた不安の塊が、ほんの少しだけ和らいだような気がした。

「そう言ってくれて、本当にありがたいわ……。頼んだわよ、アカネ」

「はい。お任せください」

 その場に、嵐の前の静けさのような短い沈黙が降りる。

 アカネは微笑みを絶やさないまま、心の中ですでに保管所の図面を広げ、アスナやカリンといった仲間たちへの的確な配置指示と、侵入者を迎え撃つトラップの構築を冷徹に計算し始めていた。彼女の眼差しには、獲物を待ち構える蜘蛛のような、確固たる防衛の意志が宿っていた。

「ところで、ユウカ先輩」

 ふと、アカネが思い出したように尋ねた。

「ゲーム開発部とヴェリタスの極秘の襲撃計画……。一体どこから、その正確な情報を手に入れたのですか? ヴェリタスと言えば、情報の隠蔽においてはミレニアム随一のハッカー集団。そう簡単に情報が漏れるとは思えませんが」

「そうよ。……でもね、私は他でもない、その『ヴェリタス』から直接情報を得たのよ」

「……?」

 アカネが、理解できないというように怪訝な目を向ける。

 その目に映るのは、先ほどの疲労困憊した顔から一転、不敵で謎めいた笑みを浮かべる「冷酷な算術使い」の顔だった。

「だって私は――ヴェリタスの【ヒマリ部長】本人から、直接この襲撃のタレコミを受けたんだから」

 天才ハッカー集団のトップからの、自らの部員への裏切り(リーク)。

 ミレニアムの誇る『全知』の少女が、一体何を企んでセミナーに情報を流したのか。

 予測不能の事態と思惑が交差する中、G.Bibleの鍵『鏡』を巡る、ゲーム開発部(+万事屋)vs メイド部(C&C)の、前代未聞の潜入攻防戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 

一方【その頃――ミレニアムサイエンススクール・エンジニア部 部室】

 一方、ヴェリタスの部室から作戦の命運を託されたゲーム開発部と万事屋一行は、再びあの鉄と油の匂いが充満する魔窟へと足を運んでいた。

 あちこちに無造作に積み上げられた機械部品の山と、絶え間なく響く冷却ファンの重低音。ミレニアムの誇る技術の結晶たるその部屋は、エンジニア達の常軌を逸した多忙さと情熱を如実に物語っている。

「なるほど、それは確かに的確な判断だ。君達の言う通り、その正面突破の作戦(やりかた)なら、私達のバックアップがないと難しいだろうね」

 ウタハは、油で少し汚れた前髪を無造作に手でかき上げながら、険しい表情で答えた。

 彼女の背後には、図面を抱えたコトリと、レンチを握ったヒビキが控えている。ゲーム開発部の持ち込んだ「セミナーの差押品保管所への襲撃」という前代未聞の計画を前に、部屋全体がまるで巨大な爆発物を前にしたかのような、ヒリヒリとした緊張感に包まれていた。

「ほ、本当にいいんですか……?」

 ミドリが、胸の前で両手をギュッと握りしめ、躊躇いがちに口を開いた。

「エンジニア部はミレニアムでもトップクラスの実績がありますし、私たちなんかのために、生徒会を敵に回すような……こんな危ない橋を渡る必要は……」

 その声には、自分たちの自業自得なトラブルに、関係のない優秀な先輩たちを巻き込んでしまうことへの強い不安と罪悪感が滲んでいた。

 しかし、ウタハは動じることなく、静かにその言葉を受け止めた。

「そうだね、一般生徒の常識的な視点で言えば、そうかもしれない」

 一瞬の、重い静寂。

 その空気を破ったのは、部室の奥でジャンクパーツをいじっていた江戸のからくり技師――平賀源外だった。

「それなのに、どうしてミレニアム最強の『メイド部』とドンパチやるなんて危険な計画に乗ってくれるんですか?」

 ミドリが、すがるような、それでいて疑問をぶつけるような瞳で問いかける。

 彼らの間に漂うのは、期待と不安が複雑に入り混じった泥沼のような空気だ。

 源外は、手に持っていた重いスパナを「ガァンッ」と鉄の机に投げ置き、油まみれの口元を微かにほころばせた。そして、冷めた、しかし獲物を狙う鷹のように鋭い目で少女たちを見回す。

「ったく、こっちが好き好んでテロリストの真似事やってると思うか? 面倒くせェが、誰かがやらなきゃならねェからだよ」

 源外は肩をすくめ、ニヤリと皮肉っぽく笑って本音をこぼした。

 

「……それに、たまには理屈抜きでド派手に暴れてみたくなるんだよなァ。いくら機械いじりが好きでも、ジジイだって血の気が余ってんだよ」

 

「えっ!?」

「そ、それだけの理由で生徒会に喧嘩売るんですか!?」

 そのあまりにも破天荒すぎる理由に、モモイやミドリたちは一斉に驚き、目を見開いた。

 戸惑いの声が上がるが、源外は全く悪びれることなく、むしろ若者たちの青臭い反応を心の底から楽しんでいるかのようだった。

「それに」

 源外の言葉に被せるように、ウタハがゆっくりと目を細め、再び口を開いた。

「君たち『侍』の、キヴォトスの近代兵器をもろともしない規格外の戦闘を、文字通り特等席(間近)で見れるかもしれないんだろう? ……そんな貴重なデータ収集の機会、技術者(エンジニア)として行くしかないだろう」

 ウタハの瞳の奥には、純粋な技術者としての飽くなき好奇心と、未知の戦闘データに対する狂気じみた期待の光がギラギラと宿っていた。

 ミレニアムの生徒会への反逆というリスクすら、彼女にとっては「極上の実験のスパイス」でしかないのだ。

 ゲーム開発部の面々は、そのマッドサイエンティスト特有の圧倒的なオーラに気圧され、思わず息を呑んだ。

 すると、彼らの後ろから、静かな駆動音を立てて一歩前に出た者がいた。

「私(わたくし)も、連れて行ってくださいね」

 箒を持ったからくり家政婦――タマである。

 その唐突な発言に、その場の全員が驚いたように目を丸くした。機械いじりの対象として彼女を見ていたウタハもまた、意外そうに片方の眉を上げる。

 だが、源外だけはタマの意図を察したのか、ニッと口角を上げて笑った。

「え?」

 モモイが間の抜けた声を漏らす。

 静まり返った部屋の中で、全員がこの無機質なメイドロボットの意図を図りかねていた。

 その奇妙な沈黙を破ったのは、木刀を肩に担いだ銀時だった。

「おいおい、たま。お前、基本戦闘用じゃなくてお世話用ロボットだろうが。危ねェぞ」

 たまは、サファイアのような無機質な瞳で一瞬銀時をじっと見つめ返した後、極めて冷静な、しかしどこか絶対的な誇りを滲ませた声で答えた。

『……お聞きした限りでは、今回の敵対対象は「メイド」というお話ですよね?』

 たまは、自らのクラシカルなメイド服の裾を、両手で優雅につまんで一礼した。

『ですから。同じメイドとして、どちらのメイドによる「ご奉仕(清掃)」が優れているのか……きっちりと、白黒つけたいのです』

 その言葉に、生徒たちは再び「どっ」とざわめいた。

 からくりでありながら、誰よりもメイドとしての矜持を持つ彼女。たまの瞳の奥には、確固たる決意と、同業者に対するかすかな「好戦的な光」が静かに燃え上がっていた。

 ミレニアムの誇る『最強の戦闘メイド(C&C)』VS 江戸の誇る『最強のからくりメイド』。

 ウタハとコトリは、そんな彼女の凛とした姿に「これは良いデータが取れそうだ」と興味深げに目を細めた。

「……そうか。分かったよ」

 銀時は、たまの瞳に宿る決して譲れない誇りを見て取り、ふっと息を吐いて笑みを浮かべた。

「じゃあ……頼りにしてるぜ、ウチのメイド長」

「……はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします……!」

 たまは、銀時の言葉に深く、そして美しく頭を下げた。

 その迷いのない完璧な所作に、ゲーム開発部の面々もようやく納得したように強くうなずいた。彼らの間にあった不安や緊張感が、確かな「信頼」へと変わり、来るべき防衛システムとメイド部との戦いに向けての意気込みが、静かに、しかし熱く高まっていくのを感じていた。

 いざ、ミレニアム最強の矛が待ち受ける、差押品保管所へ――。




次回予告

銀時「おいテメェら準備はいいか?」
桂「心配無用だ銀とー」
銀時「お前には聞いてない」
タマ「銀時様心配せずとも覚悟は出来ていますよ」
グッとサインをみんながつくる。
「ミラー大作戦開始だァァァア!」

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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