透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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遅れましたすいません。活動報告に書きましたがスマホの故障によりかなり遅れてしまいました。
後テスト期間に入ると書けなくなるのでまた遅れます。


第二十八訓 鉄壁な防御にも隙はある

【臨時作戦指令室(ヴェリタス・ハッキング車両内)】

 無数のモニターが青白い光を放つ薄暗い空間の中で、作戦の最終確認が行われていた。

「よし! これでみんな、準備はバッチリだよね?」

 モモイが、ヘッドセットを装着しながら周囲を見渡す。

 複数のキーボードを同時に叩き、瞬く間に膨大なコードを画面に走らせていたハレが、ふっとタイピングの手を止め、淡々と、しかし絶対的な自信に満ちた口調で応じた。

「うん。こちらのジャミングも監視カメラの掌握も、全てセットアップ完了してる」

 その完璧な返答に、モモイは満足そうに口角を上げ、勢いよく画面に向かってグッとサムズアップを作った。

 だが、その余裕しゃくしゃくなハッカーとゲーマーのやり取りを背後でじっと見ていた銀時は、貧乏揺すりをしながらやや焦り気味に口を挟んだ。

「ハレさんやさっきから画面いじってばっかだけどよ、その肝心の『作戦』ってやつは一体いつ始まんだよ? 敵はあのミレニアム最強のメイド部なんだろ? 先手必勝、奇襲のタイミングが命じゃねェの?」

 銀時の急かすような問いかけに対し、ハレはキーボードから手を離し、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべて振り返った。

「いつ、って? ……もう、とっくに始まってるよ」

「……は?」

 銀時が間抜けな声を出した瞬間。

 メインモニターの一つに、差押品保管所の重厚な正門前の映像が映し出された。

 そこには、140kgの超大型レールガン『光の剣:スーパーノヴァ』を軽々と構え、瞳を爛々と輝かせている緑のパーカーの少女――アリスの姿があった。

『ゆくぞ! 準備はいいか若人よ!』

 モニターのスピーカーから、無駄に腹から声を出した桂の気合の入った号令が響く。

『はい! アリス、いつでもいけます! 準備完了です!』

 アリスがピシッと姿勢を正し、それに呼応するように、隣に立つ白い謎の生物(エリザベス)がバサッと『了解!』と書かれたプラカードを高々と掲げた。

 ――そして。

 桂たち【第1班・正面突破組】は、いざ敵の本拠地への苛烈な強襲を試みようとしていた。

 強固なチタン合金で守られた、要塞のようなセキュリティゲート。

 桂はそこへズンズンと歩み寄ると、まるで休日に近所の家へ回覧板でも届けに来たかのような、極めて自然な動作で――正門の横に設置されていた『インターホン』のボタンを、ポチッと押した。

『ピンポ〜ン♪』

 緊張感のかけらもない電子音が、ミレニアムの静寂な外郭に間の抜けた響きを落とす。

『たのもーーー!!』

 桂はインターホンのマイクに向かって、時代劇の道場破りのような大音量で礼儀正しく叫んだ。

『我らは、ミレニアムのメイド部に下剋上を仕掛けに参った【侍部】と申す者! どうか正々堂々たる決闘を所望する! さぁ、早く開けていただきたいのだが……! 』

 ……シーーーーン。

 当然ながら、敵の応答は一切ない。

 モニターの向こう側は、冷たい風が吹き抜けるだけで、呆れるほど静まり返っていた。

「…………」

 指令室でその中継映像を真顔で見つめていた銀時は。

 次の瞬間、両手で頭を抱え、モニターの画面を突き破らんばかりの勢いで絶叫した。

「オィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!」

 鼓膜を破壊するような銀時の魂のツッコミが、狭い車内に爆発した。

「何、敵の本拠地に『下剋上』とか称しておきながら、正面からご近所さんみたいにインターホン押してんの!? バカなの!? バカなんだろ!!」

「ぎ、銀さん落ち着いて!」

「鼓膜破れるぅぅ!」

 双子が耳を塞ぐ中、銀時はモニターに向かってツバを飛ばして吠え続ける。

「確かに作戦会議でアイツらの役目は『正面突破の囮』って決めたけどさぁ! 訪問販売みたいにピンポンして入るんじゃなくて、アリスちゃんの火力で一気に突っ込むって話だっただろォォォ! 何アポとってから入ろうとしてんの!」

 銀時は息継ぎもそこそこに、さらに血走った目で画面を指差す。

「それに【侍部】って何!? いつの間にアイツらそんな新興宗教みたいな部活立ち上げてんだアイツゥゥゥ!!」

 銀時の血管がブチ切れそうな叫び声が響き渡るが、モニターの向こうの桂は相変わらず落ち着き払った様子で、「むぅ、居留守を使うとはメイドたるもの感心せんな」などと腕を組んで納得していた。

 銀時の悲痛な叫び声が司令室に響き渡るが、モニターの向こうの桂たちは相変わらずの様子だった。

 むしろ桂は、「留守かな?」と首を傾げ、もう一度インターホンを連打し始めている。

「ピンポーン! ピンポーン! ピンポポンポポンポポーン!! おーい、ヤマト運輸でーす! 不在票入れますよー!」

「クロネコ騙んな!! 撃たれるぞ!! 早くそこから離れろバカヅラァ!!」

 隠密行動も、奇襲の優位性も、全てが台無しになった最低最悪のオープニング。

 

 その一方。

 無数の防犯カメラの映像が分割表示された大型モニターを前に、ユウカは深く、ひどく疲労の入り混じったため息をついていた。

 先ほどまで胃をキリキリと締め付けていた「未知の襲撃」への緊張感が、ドッと音を立てて崩れ去っていく。彼女は、画面の中でインターホンを連打しているアフロの男を見て、自分自身の過剰な警戒心に呆れ果てていた。

「……信じられない。どんな綿密なハッキングや奇襲を仕掛けてくるかと思えば、まさかこんな……玄関先からのご挨拶だなんて」

 嘲笑するかのように、あるいは拍子抜けしたように、ユウカはぼそっと呟いた。冷酷な算術使いの計算式に、「正面からインターホンを鳴らすテロリスト」という変数は存在しなかったのだ。

 対照的に、隣に控えるアカネの口元には、柔らかな、しかしどこか嗜虐的な微笑みが浮かんでいた。

「いえいえ、とても面白い方々ではありませんか? 桂さんというユーモアに溢れた(?)方に、アリスちゃんという規格外に可愛らしい少女、さらにはあのようなシュールなマスコットまで連れ立って来てくださるのですから」

 アカネの瞳は、まるで新しい玩具の性能を見定めるように画面の三人(と一匹)を捉えていた。警戒心よりも、彼らを手駒にすればどれほど有益かという、エージェント特有の好奇心が勝っている。

 再びモニターに目を戻すと、エントランスの状況が急展開を迎えていた。

 再三のインターホンに応答がないことに、ついに桂の忍耐が限界を超えたらしい。

『おのれ、武士の礼儀を愚弄するか! ここまでインターホンを連打しても答えんとは、ミレニアムのホスピタリティはどうなっているのだ!』

『準備完了しました! いつでもいけます!』

『よし、ならば少し強めのノックで開けてもらおう!』

 桂が決意に満ちた声で宣言した、次の瞬間。

 アリスが抱えた巨大なレールガン『スーパーノヴァ』の銃口が、眩いプラズマの光を放った。

ドカァァァァァァアアアンッ!!!

 防犯カメラの映像が一瞬真っ白に飛び、凄まじい衝撃音がスピーカーを揺らす。煙が晴れた後には、セミナーが誇る堅牢なセキュリティゲートが、まるで紙屑のようにひしゃげて吹き飛んでいた。

『いざ突入! ……むっ!? しまった、敵の不可視の罠か!』

 勢いよく踏み込んだ桂だったが、突如として何もない空中で苦しみ出し、胸を押さえた。

『くっ……やられて、しまいました……。HPが、ゼロです……』

『無念……』

 アリスが、棒読み全開のわざとらしい声でバタリと倒れ込む。エリザベスに至っては、ご丁寧に『無念』と書かれたプラカードを掲げてから、ゆっくりと仰向けに倒れた。

 三人は、誰からの攻撃も受けていないのに、自分たちで扉を吹き飛ばした直後に派手に全滅する(フリをする)という、あまりにも大根役者すぎる三流の茶番劇を繰り広げていた。

「…………」

 モニター越しに見せられたその惨状(演技)に、ユウカは言葉を失った。

 しかし、アカネはふふっと楽しげに笑い、一歩前に出る。

「やはり、極めて面白い方々ですね。あの扉を一撃で粉砕する攻撃の威力も申し分ありませんし……いっそ、我々C&Cの一員(メイド)に加えてもよろしいでしょうか?」

「それはダメ。絶対にダメ」

 冗談とも本気ともつかないアカネの提案を、ユウカは即座に、そして冷徹に却下した。

「今は生徒会(セミナー)の施設を破壊した立派なテロリストよ。……あのわざとらしい演技の意図は不明だけど、とりあえず身柄を拘束して、生徒会の『反省部屋』に閉じ込めておきなさい」

「承知いたしました」

 アカネが通信機で部下たちへ指示を出す中、ユウカは破壊されたゲートの惨状を見てため息をついた。

「それにしても……エレベーターの指紋認証が開かないからって、無理やり扉ごと大砲で撃ち破るだなんて、どれだけ野蛮なの……」

 ユウカの呟きに呼応するように、オペレーターから切羽詰まった報告が入る。

『ユウカ先輩! エレベーターのセキュリティーロックと隔壁が完全に融解しています! すぐに修理するのは不可能です。対処としては、システムと扉を丸ごと取り替えるしか……!』

「そう。じゃあ新しいのに交換……ううん、ちょっと待って」

 指示を出しかけたユウカの脳内で、冷酷な算術使いの直感が警鐘を鳴らした。

 アカネが不思議そうに「どうしたのですか?」と尋ねる。

 ユウカは、倒れているアリスの傍らに転がっている『巨大な大砲』をモニター越しに鋭く睨みつけた。

「……多分だけど、あのアリスちゃんの持っている意味の分からないくらい巨大な武器。あれ、エンジニア部で作られた試作兵器に間違いないわ。あの無駄なロマンの塊、ウタハ先輩の匂いがする」

 ユウカの頭の中で、点と点が線で繋がっていく。

「こういう設備の破損は、いつもエンジニア部に修理を依頼してたけど……もし、今回の襲撃にエンジニア部が一枚噛んでいるとしたら? 彼女たちが直した扉に、裏口(バックドア)という名の罠が仕掛けられる可能性も捨てきれないわ」

「なるほど……。トロイの木馬、というわけですね」

「ええ。だから……一番強力な外部のセキュリティ業者から代替品を購入して、急いで取り替えて。ただし、絶対に【エンジニア部製じゃないもの】でね」

 ユウカの的確で隙のない防衛策が、即座に手配されていく。

          †

【ヴェリタス部室・仮設司令室】

 一方、その一部始終をモニターで見ていたゲーム開発部サイドでは。

「ああっ! アリスちゃんたちがメイド部の人に引きずられてく! 捕まっちゃったよ!」

 画面の中で縛り上げられるアリスたちを見て、モモイが頭を抱えてパニックに陥っていた。

 そんな彼女の後頭部を、銀時が丸めたジャンプでスパーンと叩く。

「いってっ!?」

「お前、作戦会議で何聞いてたんだ。アリスたちは『内部に侵入するための囮』で、わざと捕まったんだろ? 後で中で合流する手筈になってるじゃねェか。あのヅラの大根役者っぷりには冷や汗かいたがな」

 銀時が呆れ顔で説明し、モモイはようやく「あ、そうだった」と胸を撫で下ろした。

「うん。とりあえず……扉を破壊して、内部にスパイを送り込むっていう【一つ目の仕掛け】は、予定通りうまくいった感じだね」

 ハレが、キーボードを叩きながら冷静に戦況を分析する。

 その時、通信機からノイズ混じりのダミ声が響いた。

『こちらエンジニア部だ。おう銀の字、作戦通り【拷問の木馬】を敵陣に侵入させることに成功した。さっさとカタぁつけてこい!』

「……何? 拷問の木馬って?」

 マキとコタマが、その物騒かつ卑猥な響きに不満げに首を傾げる。

「気にするな。あのジジイ、変な趣味(BDSM)の単語混ぜやがって……後で往復ビンタの説教だな」

 銀時が額に青筋を立てながら通信を軽く流す。

 だが、作戦は着実に、そして確実に進行していた。

「コトリちゃんたちの裏工作の準備が終わったなら……いよいよ、第二段階だね」

 ミドリが、緊張した面持ちで銀時を見上げる。

 銀時はフッと不敵な笑みを浮かべ、木刀を肩に担ぎ直して、ヴェリタスとゲーム開発部の面々を力強く見渡した。

「よし、いくぞテメェら! お待ちかねのメインイベントだ!」

 銀時は、画面に映る『差押品保管所』を指差して高らかに叫んだ。

「伝説のデータを奪還する、ミラー(鏡)作戦……開始だァァァァアアアア!!!!」

『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!』

 少女たちの気合に満ちた意気込みが、電脳の部屋に熱く響き渡る。

 知略と力、そして規格外のバグが入り乱れる、ミレニアム最大の潜入作戦が、今まさに本格的な火蓋を切ろうとしていた。

 

 

【ミレニアムサイエンススクール・生徒会(セミナー)執務室】

「監視カメラにて、対象の侵入を発見しました。一番ゲートを突破、ポイントA1にてターゲット確認」

 無機質なオペレーターの声が、冷え切った執務室の空気を震わせた。

 無数のモニターが並ぶ防衛システムのコンソール。その一つに、先ほど正面ゲートを物理的に吹き飛ばして侵入してきた、桂やアリスたちの姿が映し出されている。

「ターゲット、まもなくポイントA2に侵入します」

 その報告を聞いたC&Cの室笠アカネは、丸眼鏡の奥の瞳をスッと細め、極めて冷静に戦況を判断した。

「……ポイントA2。あそこまで入り込めば、もうセミナーの防衛網からの脱出は『ほぼ不可能』と見て良いのですよね?」

 アカネは、誰に問うでもなく呟くと、メイド服のスカートを優雅に翻し、扉の方へと歩みを進めようとした。

「……では、私が行きましょう」

 一切の気負いも、恐怖もない。ただ、日常の掃除業務に向かうかのような足取りだった。

 しかし、その背中にユウカが怪訝そうな声を投げかける。

「ちょっと待って。すでに防衛システムは稼働しているわ。わざわざアカネが、直接出向く必要があるの?」

 ユウカの言葉に、アカネはゆっくりと振り返った。

 そして、薄暗いモニターの光に照らされたその端正な顔に、プロフェッショナルとしての誇りと、ほんのわずかな好戦的な笑みを浮かべて一礼した。

「もちろんです。……お客様を直接お出迎えして、極上の『おもてなし』をすることこそ、メイドとしての基本ですから」

 その言葉を最後に、アカネは静かに執務室を後にした。

 ミレニアム最強のメイドが、侵入者たちを「清掃」すべく、迷いなき足取りでターゲットの元へと向かっていった。

          †

【――時を遡ること、2時間前】

 ヴェリタスとエンジニア部が占拠する仮設司令室。

 そこでは、銀時たち万事屋とゲーム開発部を交えた、セミナー襲撃のための綿密な(?)ブリーフィングが行われていた。

「じゃあ、私たちのターゲットである『鏡』が保管されている、生徒会の『差押品保管所』について説明しておくね」

 ハレが、メインモニターにミレニアムタワーの精巧な3Dマップを投影し、レーザーポインターで一点を指し示した。

「ミレニアムの生徒会『セミナー』は、基本的にミレニアムタワーの最上階を専用スペースとして使用しているんだ。そして、問題の差押品保管所は、その最上階の西側ブロックにある」

 銀時たちは腕を組み、真剣な顔つきで深くうなずいた。

「事前のハッキングで調べた感じだと、保管所までの道中には、約400台の監視カメラと50体近くの監視ロボット、それに、過去にブラック企業から押収してセミナーが私物化してる戦闘ロボット数十体が配置されてるよ」

 マキがタブレットを操作しながら、厄介極まりない敵の戦力を口にする。

 しかし、その大雑把な数字に対し、背後に控えていたからくりメイドの『たま』が、一切の感情を交えない声で即座に訂正を入れた。

「正確には、監視カメラは442台。警備ロボットは3つの階級に分類されており、合計で96体稼働していますよ、マキ様」

 たまの精密すぎるデータ提供に、場に静かな緊張感が漂う。

 油まみれの作業着姿の源外が、渋い顔で顎髭を撫でながら低い声で唸った。

「だがよ、そんなドンパチの数なんて物理的な問題よりも、さらに厄介な『システム』の問題がありやがる。それが……」

「保管所にたどり着くための『絶対防壁』……エレベーターだよ」

 源外の言葉を引き継ぐように、ハレがモニターの映像をエレベーターホールの図面に切り替えた。

「この最上階へ続く直通エレベーターには、生徒会の役員とか、事前に登録された限られた人間しか通れない『指紋認証システム』がついてるんだ。もし仮に、銀さんたちの力業でエレベーターを突破できたとしても、待ち構えている武装ロボットたちに一斉に囲まれることになる」

「まぁ、銀さんやアリスちゃんの規格外の火力なら、ロボットの群れ自体はそれほど問題じゃないかもしれないけどね」

 ハレが肩をすくめながら続ける。問題はそこから先だ。

「最上階は、各部屋ごとに細かいセクションで分かれている。そして、そのセクションごとにセキュリティシステムが完全に連動しているんだ。もし何かが起きた場合……例えば火事や、煙玉なんかによる煙が発生すれば、即座にその部屋の隔壁シャッターが降りて、他の部屋から完全に隔離される仕組みになっている」

「ほう。もしそのシャッターが落ちたら、どうなるんだ?」

 桂が、興味深そうに腕を組んで尋ねる。

「シャッターが下りたら最後、システムに登録された『生徒会メンバーの指紋』でしか解除できなくなる。その上……」

 ハレはゴクリと息を呑み、絶望的な防衛機構の全貌を語った。

「外部からの攻撃や、爆発などの『強い衝撃』を検知すると、さらに強固な二重目の防爆シャッターが降りる。そうなると今度は、指紋だけじゃなく【虹彩認証】まで必要になるのさ。そんで、エレベーターの扉を大砲なんかで無理やり突破しようとすれば、最上階全体のシャッターが一斉に降りて、完全な密室の棺桶が完成するってわけ」

「…………」

 あまりにもガチガチすぎる、ミレニアム最高峰のセキュリティ。

 武力による強行突破を完全に無力化するそのシステムを前に、銀時は困ったように頭を掻きむしり、腕を組んだ。

「……なるほどな。こんなアリの這い出る隙間もねェようなガチガチなセキュリティを突破するには、もはや『一つしか方法はない』な」

 銀時が、ふっと口角を上げ、名案を思いついた天才軍師のような自信満々の顔で言い放った。

 ゲーム開発部の少女たちが、「おぉっ!」と期待の眼差しを向ける。

「いいか、よく聞けよ。まず、たま。お前が俺たちの身代わりとして、単独でわざとセキュリティに引っかかって侵入する」

「……はい?」

 たまが小首を傾げる。

「で、テロリストとして暴れてるお前を、俺たちが『偶然通りかかった正義の味方』として捕まえて、ユウカたちのところに突き出すんだ。そうすれば『おぉ、よくぞ捕まえてくれた! さすがはシャーレの先生!』ってなって、セミナーの絶対的な信頼を勝ち取れる。そして、お茶を濁してる隙に、堂々と『鏡』をパクってズラかる。……どうだ? 誰も血を流さない、平和的かつ完璧な作戦だろ?」

 自分の腹心のロボットを囮(生贄)にして恩を売るという、最低最悪のクズ作戦。

 少女たちの期待の眼差しが、一瞬にしてゴミを見るような冷ややかなものへと変わった。

 しかし、誰かがツッコミを入れるよりも早く。

カチャッ。

 たまの持っていた掃除用の箒の先端が、銀時の顔面めがけて静かに向けられた。

「あ、ちょ、たまさん? なんで箒の先端からガスの匂いが……」

ボォォォォォォォォォォォォッ!!!!!

「ギャアァァァァァァァァァ!?」

 突然、箒の先端から地獄の業火のような超高熱の火炎放射が噴き出し、銀時の顔面を容赦なく包み込んだ。

 狭い司令室に、タンパク質(天然パーマ)が焦げる嫌な臭いが充満する。

「……フゥー」

 数秒後。

 火炎放射を止め、箒の先から上る煙をフッと吹き消したたまは、全身真っ黒の消し炭と化し、口から一筋の煙を吐き出している銀時を見下ろして、極めて事務的な声で告げた。

「黒焦げに焼き上がり、さらに完璧なフォルムになりましたよ、銀時様。これで闇夜に紛れやすくなりましたね」

「ぜんっぜん、完璧じゃねェ……。ゲホッ、むしろ俺の人生が丸焦げだわ……」

 床に崩れ落ちた黒焦げの侍が、虚ろな目で抗議の声を漏らす。

 

「ど、どうしよう……! ここまで来て、指をくわえて引き上げないといけないの!?」

 モモイが頭を抱え、泣きそうな声で叫ぶ。

 しかし、その重苦しい空気を切り裂くように、エンジニア部のヒビキが、犬耳をピンと立てて重々しい口調で口を開いた。

「……弱点なら、ある」

「それは本当か、ヒビキ殿?」

 桂が、真剣な顔つきで腕を組み直して問いかける。

 ヒビキはコクリと頷き、モニターの図面の一角――メインサーバーの電源回路を指差した。

「あの堅牢なシステムも、基本的には『外部電力の遮断』に弱い。もし物理的に電力を断てば、システムは再起動とフェイルセーフのために、一時的だが強制的に外部のネットワークに繋がる仕様になっている。……そこを狙えば、鉄壁のファイアウォールに一瞬の隙ができるはず」

「なるほど! その隙にヴェリタスがハッキングを仕掛けるってわけだね!」

 ハレが目を輝かせる。

 続けて、ヒビキは白衣のポケットから、手のひらに収まるサイズの銀色の円盤を取り出した。

「私たちが作ったこの『超小型EMP(電磁パルス発生装置)』を使えば、その隙をついて、保管所のあらゆる防衛システムを強制的に無効化できる。……ただし」

 ヒビキは言葉を区切り、極めてシリアスな声色で告げた。

「システムを完全に無効化できる時間は……約6秒間」

「ろ、6秒!?」

「そんな一瞬で、防爆扉を抜けて中に飛び込めっていうの!?」

 モモイとミドリが悲鳴を上げる。あまりにも短すぎるタイムリミットに、少女たちの顔に再び絶望の色が浮かんだ。

 だが。

「……なんだ。6秒もあんのか」

「あぁ。カップラーメンの蓋を開けるには短いが、仕掛けるには十分すぎる時間だな」

 顔を見合わせた二人の大人――銀時と桂の口元には、不敵で、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。

 数多の死線をくぐり抜け、コンマ一秒の太刀筋で命のやり取りをしてきた彼らにとって、6秒という時間は「永遠」にも等しい隙だった。

「十分だろ、なぁヅラ?」

「ヅラじゃない、桂だ」

 息をするように定番の返しを繰り出しながら、桂は少女たちに向けて力強く頷いた。

「もちろんだ。若き勇者たちよ、お前たちもこの6秒の試練を超えられなければ、この先に待つ未来(神ゲー)はないぞ! 腹をくくれ!」

 大人たちの決して揺るがない絶対的な自信。

 その背中に背中を押されるように、少女たちはゴクリと息を呑み、力強く頷いたのであった。

          †

【――そして、再び現在。ミレニアムタワー最上階・西側通路】

 静まり返った無機質な廊下に、二つの足音が響いていた。

 ピンク色と緑色のパーカーのフードを目深に被った二つのシルエット。監視カメラの死角を縫うように、モモイ(?)とミドリ(?)は慎重に歩みを進めていた。

「えーっと……この辺りのルートで合っているんだっけ?」

「だいぶ奥の方まで来た感じですが……事前のマップデータと照合する限り、恐らく間違っていないはずです」

 ヒソヒソと交わされる会話。

 しかし、その潜入劇は、ある人物の優雅な登場によって唐突に終わりを告げた。

「こんばんは。とても静かで、良い夜ですね。……お二人のここまでの慎重な行動、すべてモニター越しに見させていただきましたよ」

 通路の先。

 暗がりの中から、クラシカルなメイド服を身にまとったC&Cの室笠アカネが、穏やかな微笑みを浮かべながら静かに姿を現した。その手には、不穏な光を放つサブマシンガンが握られている。

「薄々お気づきかもしれませんが……あなたたちの計画は、もう失敗しています。これ以上痛い目を見たくないのなら、お早めに投降することをお勧めしますよ」

 逃げ道は完全に塞がれている。圧倒的な強者の余裕を漂わせながら、アカネは一歩、また一歩と距離を詰めた。

「改めまして。私はC&Cのコールサイン・ゼロスリー……本名は秘密ですので、そうですね、『謎の美女メイド』とでもお呼びください」

 少しおどけたように、メイドスカートの裾をつまんで可憐な一礼をするアカネ。

 しかし、追い詰められたはずのモモイ(?)とミドリ(?)は、怯えるどころか平然としていた。それどころか、ミドリ(?)の口から飛び出したのは、予想だにしない反撃だった。

「謎の美女メイドさん。……データによりますと、あなたは最近、お茶菓子の食べ過ぎで【体重が増加している】のではありませんか?」

 ピタリ。

 優雅に微笑んでいたアカネの顔面が、能面のように硬直した。

「なっ……!?」

 ミレニアム最強のメイドの鉄面皮が、物理攻撃ではなく「乙女の最大のシークレット」という精神攻撃によって、見事にひび割れたのだ。

「ま、待ってください! なぜその極秘データを……!? いえ、その情報漏洩は流石にコンプライアンス的に大問題がありますよね!?」

 かつてないほど動揺し、滝のような冷や汗を流すアカネ。

 彼女はチャキッ!とサブマシンガンを構え直し、顔を引きつらせたまま強引に詰め寄った。

「そ、その情報に関しては、永遠に、お墓の底まで黙っていていただきます……! さあ、小細工は終わりです! そろそろそのフードを取って、姿を見せていただきましょうか、モモイちゃん、ミドリちゃん!!」

 アカネが凄み、二人の少女がバサッとフードを脱ぎ捨てた。

 ――しかし。

 そこに立っていたのは、双子のゲーマーなどではなかった。

「あははっ! 全然気づいてなかったんだね? 計画が失敗してるのは、そっちのほうだよ〜!」

 ペロッと舌を出して笑ったのは、ペンキだらけのパーカーを着たヴェリタスのマキ。

「はーい、アカネ先輩! 寮に戻ろうとしてたんだけど、道に迷っちゃってさ〜。まさかこんな最上階まで来ちゃうなんて、参った参った!」

 そして隣で呑気に手を振っているのは、エンジニア部のコトリだった。

 二人は、双子から借りたパーカーを着て変装(?)していたのだ。

「あ、あなたたちは……ヴェリタスとエンジニア部!? なぜここに!?」

 想定外のイレギュラーな登場人物に、アカネの丸眼鏡の奥の瞳が驚愕に見開かれる。

 そんな彼女に対し、二人は一瞬の間をおいて、息をピッタリと合わせて謎のポーズを決めた。

「なんだかんだと聞かれたら!」(マキ)

「説明するのが世の情け!」(コトリ)

「どんな質問にも答えを提供!」(マキ)

「エンジニア部の説明の化身、豊見コトリ!」

「ヴェリタスのペイントハッカー、マキ!」

「……それ、どこかで聞いたことのあるロケットに乗った悪党の口上ですよね?」

 アカネがこめかみを押さえながら冷静にツッコミを入れるが、脳内の混乱は収まらない。

「でも、おかしいですね。ここに向かって歩いてきたのは、間違いなくミドリちゃんとモモイちゃんだったはず……!? 監視カメラの映像で、確かにこの目で確認したのですよ!」

「あははっ! 残念でしたね、謎の美女メイド(ややぽっちゃり)さん!」

「太ってません!!」

 マキがニヤニヤと笑いながら、手元のタブレットをくるくると回して見せた。

「監視カメラの映像をハッキングして、事前に録画した『双子が歩いている映像』をループして流し、先輩たちの目を撹乱していたんですよ。初歩的な映像(カモフラージュ)トリックです!」

 ゲーム開発部を追っていたはずが、いつの間にか別の部隊にすり替わっていた。

 監視カメラという「絶対の目」を逆手に取った、ハッカー集団ヴェリタスならではの鮮やかな囮作戦。

 その真実に気づいたアカネの背筋に、微かな悪寒が走る。

(囮……? では、本命のゲーム開発部と、あの『侍』たちは今どこに……!?)

 ミレニアムの電脳空間と物理空間が複雑に交差する中、銀時たちの「本命の作戦」が、今まさに裏で静かに、そして凶悪に牙を剥こうとしていた。

 

 

【ミレニアムタワー内部・差押品保管所直通エレベーター前】

 一方、囮作戦が華麗に展開されている最中。

 本命の潜入部隊である銀時、モモイ、ミドリの三人は、タワー内部の死角を縫って、目的の直通エレベーターの前へと辿り着いていた。

「そろそろ、監視カメラの録画映像(ループ)だってバレた頃かな」

 モモイが、インカムを押さえながらニシシと悪戯っぽく笑う。

 だが、その背後で周囲を警戒していた銀時が、ふと眉をひそめて通信先のハレに問いかけた。

「今さらな疑問なんだがよ。なんでハッキングで『誰もいない平和な映像』を流さずに、わざわざアイツら(双子)が歩いてる録画映像なんて手の込んだモンを使ったんだよ? 誰も映ってない方が安全じゃねーか」

 銀時のもっともな疑問に対し、インカムの向こうのハレは、キーボードを叩く音を響かせながら肩をすくめるように答えた。

『このタワーの最上階付近は、生徒会の役員や警備ロボットの出入りが頻繁だからね。完全に何も映っていない状態が続くと、逆に不自然に思われて、すぐにマニュアル警戒モードに移行されちゃうかもしれないからさ』

 ハッカーならではの、人間心理の裏を突いた細やかな配慮である。ハレはさらに言葉を続けた。

『それに、こうしてC&Cの先輩たちを特定の場所に誘導して、個別に分断して閉じ込めておけた方が、最終的にミッションの成功確率は跳ね上がるはずだよ』

 そんな種明かしを聞いている中。

「ポーン……♪」

 という無機質な電子音と共に、重厚なエレベーターの扉が静かに開いた。

「エレベーターが来たみたいだね。乗るよ!」

 ミドリが先導し、銀時たちが箱の中へと歩みを進める。

 扉が閉まり、最上階へと向けて静かに上昇を始めたその時、ミドリのインカムにヴェリタスからの歓喜の通信が飛び込んできた。

「銀さん! お姉ちゃん! ハレ先輩から連絡! 狙い通り、アカネ先輩を西側の隔離区画に閉じ込めるのに成功したって!」

「やったぁ!」

 嬉しそうに報告するミドリに、モモイがぴょんぴょんと飛び跳ねて頷く。

 マキとコトリの囮部隊が時間を稼ぎ、その隙にハッキングで区画のシャッターを強制的に下ろし、ミレニアム最強のメイドの一人を完全に「隔離」することに成功したのだ。

「よし、エレベーターの指紋認証システムも、こちらで書き換えたダミーデータで正常に作動したね」

 ハレの冷静な声が響く。

 最初、アリスと桂が正面エントランスのゲートを大砲でぶち破ったあの「三流の茶番劇」。あれはただの悪ふざけではない。彼らが派手にセキュリティの注意を惹きつけている隙に、ヴェリタスがシステムの中枢に侵入し、指紋認証システムをハッキングするための『巨大な囮』だったのだ。

「これで生徒会の役員達も、分断された区画で動けなくなった……。今、このタワーの最上階で自由に動けるのは、私たちたちだけだね!」

 モモイが、かつてない高揚感に胸を弾ませながら両手を握りしめる。

 その一方で、ハレが誇らしげな声で追加の報告を入れた。

『ユウカ先輩が急遽業者に発注して取り付けた最新型のセキュリティゲートも、上手く隔離機能が作動したみたいだね。……あのゲート、実はウチのエンジニア部がダミー会社を経由して納品したものなんだ』

「えっ!?」

『外見もプログラムの癖も、ほんの少しだけエンジニア部製に見えないように偽装しておいたからね。ユウカ先輩も、まさか自分が発注した外部のセキュリティが、エンジニア部のお手製(バックドア付き)だとは思わなかっただろうね。その辺の職人芸的な調整は、さすがウタハ先輩たちだよ』

 敵の「警戒」すらも利用し、手玉に取る。まさに天才たちの盤上遊戯だ。

 銀時は、ミレニアムの生徒たちの末恐ろしい知略に内心で冷や汗をかきつつも、不敵な笑みを浮かべた。

「よし――お膳立ては完璧だな。じゃあ、堂々と正面からお宝を頂戴しちまうか!」

 チンッ、と。

 エレベーターが最上階の到着を知らせるベルを鳴らし、扉がゆっくりと左右に開いた。

 ――しかし。

 銀時たちが自信満々に足を踏み出そうとした、その行く手を阻む者たちがいないわけではなかった。

『ピガッ……! 侵入者、確認。排除プロトコル、起動』

「「っ!?」」

 開いた扉の先、薄暗い廊下を埋め尽くしていたのは、赤く不気味な単眼を光らせる大量の防衛ロボットたちだった。

 空中を羽音を立てて浮遊する無数のドローン型ロボット。そして、床をカシャカシャと這い回る四足歩行型の重装甲機械。そのすべてが、一斉に銃口をエレベーターの中の三人へと向けたのだ。

「またロボット……! しかも、廃墟の時より全然多い!」

 一瞬、ミドリの顔に焦りの色が浮かぶ。

 だが、彼女が怯むよりも早く、銀色の天然パーマが風を切り、少女たちの前へとスッと躍り出た。

「テメェら、俺の後ろから離れんじゃねェぞ。俺が道を切り開くから、一気に突破する!」

 銀時が低く叫び、腰に差していた木刀『洞爺湖』をスチャッと構える。

 その背中に、かつての「白夜叉」と呼ばれた頃の、鋭く冷たい覇気が漂い始めた。

「うん!」

「お願い、銀さん!」

 仲間たちの力強い返事を背に受け、銀時は床を蹴り、弾丸のような速度でロボットの群れの中へと飛び込んでいった。

「どりゃァァァァァァッ!!」

ドガァァァァァァッ!!!

 銀時の豪快にして洗練された一振りが、空気を切り裂き、最前列に立ちはだかっていた重装甲の四足歩行ロボットの胴体を、まるで紙細工のように真っ二つに粉砕した。

 木刀とは思えない凄まじい破壊力。吹き飛んだロボットのパーツが、後続の機体に激突して連鎖的な爆発を引き起こす。

『――…ピピピッ!?』

 想定外の「近接物理攻撃」による壊滅的な被害に、機械のAIが驚き(エラー)の反応を見せる。

 しかし、システムが状況を再計算する暇など、銀時は与えなかった。

「おらァッ!」

 銀時は空中に跳躍すると、頭上からビームを放とうとしていたドローン型ロボットの一体を素手でガシッと鷲掴みにした。

 そして、空中で身体を捻り、そのまま砲丸投げの要領で、密集している別のロボットの群れに向かって全力で投げつけたのだ。

メシャァァァァァンッ!!

 激しい金属音と共に、ドローンが群れの中央で大爆発を起こす。

 ミレニアムの最新鋭の防衛ロボットたちなど、歴戦の侍である銀時の圧倒的な戦闘力の前では、まるで無力なカカシも同然だった。

「ふぅ……。これで、しめェだ!」

 最後の一体を木刀の柄で叩き潰し、銀時は肩で息をしながら、満足げに立ち上る硝煙を払った。

 彼らの進路は、文字通り「物理的」に完全に切り開かれていた。

 その圧倒的な無双劇を後ろから見ていた双子は、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。

「……銀さん」

「んあ?」

 ミドリが、信じられないものを見る目で呟く。

「銀さん……ちゃんと白兵戦でも、あんなに強かったんだね……」

「ああ? 今更何わかりきったこと言ってんの? 俺の肩書き主人公だよ? 伊達にジャンプの主人公何年も張ってねェっつーの」

 銀時が木刀を肩に担ぎ、だるそうに言い返す。

 しかし、ミドリはジト目を向け、忌憚のない素直な感想をぶつけた。

 

「だって、廃墟の時は桂さんを真っ先に囮にしたし……戦ったのはアリスちゃんがビームで無双したのしか見てなかったから……。てっきり、口だけのギャグ要員かと……」

「そーそー! 私たち、銀さんの強さってネットの『白夜叉』とかいう噂に頼ってた部分も多かったんだよ〜。なんかマダオ(まるでダメなおっさん)のイメージ強すぎたし!」

 モモイがケラケラと笑いながら追い打ちをかける。

「お前ら、助けてもらった大人に向かってその評価酷くねェ!? もうちょっと尊敬の眼差しとかあってもいいだろ!」

 

 銀時がツバを飛ばして必死に弁解する。

 緊迫した敵陣のど真ん中でありながら、相変わらずの締まらない空気を漂わせつつ、彼らはついに、G.Bibleの鍵『鏡』が眠る保管所の最深部へと足を踏み入れていくのであった。

【ミレニアムタワー・最上階 西側連絡通路】

「ったく、どいつもこいつも大人を舐め腐りやがって……。いいから、お喋りは終わりだ! このまま一気に『鏡』の保管庫まで進むぞ!」

 銀時が木刀の先端についた機械のオイルを軽く払い落とし、呆れたようにため息をつきながら前方にアゴをしゃくった。

「わかった!」

 モモイとミドリが元気よく返事をし、ハレがタブレットでルートの最終確認を行う。

 彼らの歩む先には、障害物(ロボット)の残骸が散らばるのみ。最強のセキュリティ網を強行突破し、生徒会の役員たちを物理的なシャッターで隔離した今、勝利は目前に迫っているように見えた。神ゲー開発の要たる『鏡』を手に入れるまで、あと数十メートル。

 ゲーム開発部と万事屋の連合パーティーは、勝利のファンファーレを確信しながら、全面ガラス張りの美しい空中回廊を足早に進んでいった。【ミレニアムタワー内・強制隔離セクション】

 一方その頃。

 分厚い隔壁シャッターによって完全に物理的封鎖を受けた無機質な空間で、C&Cの室笠アカネは、かつてないほどの苛立ちを募らせていた。

「……ッ」

 彼女は、耳に付けたインカムの通信ボタンを何度も指で弾き、手元のスマートフォン型の端末を睨みつけていた。

 どんな危機的状況でも「完璧なメイド」としての優雅な微笑みを崩さない彼女だが、今ばかりはその端正な顔に、明らかな焦燥と不満の色が浮かんでいる。

「もう……! なんでアスナ先輩は、毎回毎回、こういう肝心な時に限って電話の電源を落としているんですか……!」

 アカネのギリッと歯軋りするような声が、密室に虚しく響く。

 C&Cのコールサイン・ゼロワンにして、野生の勘だけであらゆる戦場をかき回す黄金のレトリバーこと、一之瀬アスナ。彼女の常軌を逸した直感と機動力があれば、この隔離された状況からでも強引に戦況をひっくり返せるはずだった。しかし、彼女はいつだって自由奔放すぎて、連絡がつくことの方が珍しいのだ。

 自らを囮にしてまで敵を分断し、システムを掌握したヴェリタスの手腕。そして、物理的な壁(ロボットの群れ)をたった一人で粉砕した銀時の力。

 アカネの脳内で、急速に「防衛失敗」のパーセンテージが跳ね上がっていく。

 だが、その時だった。

 沈黙していたアカネのインカムに、微かなノイズと共に、氷のように冷たく、そして絶対的な安心感を伴う『声』が届いた。

『――アスナ先輩の居場所は、私にも分からない。……でも、安心して、アカネ』

 その声の主は、慌てる気配など微塵も見せず、まるで凪いだ海のように静かに、淡々と告げた。

『ゲーム開発部とその協力者(ターゲット)は、今…………私の射程範囲(スコープ)の中にいる』

チャキッ……。

 通信の奥から聞こえたのは、重厚な金属のボルトが引き絞られ、巨大な銃弾が薬室に装填される、冷酷で美しい機械音だった。

 ――ミレニアムタワーのさらに上部、あるいは死角となる遠方の高所。

 そこに腹這いになり、巨大な対物狙撃銃『ホークアイ』のスコープ越しに、銀時たちの頭部を十字の照準(クロスヘア)のど真ん中に捉えている少女。

 C&Cのコールサイン・ゼロツーにして、ミレニアム最強の狙撃手(スナイパー)――角楯カリンであった。

「……ふふっ。さすがはカリン先輩です。頼もしいことこの上ありませんね」

 カリンの声を聞いた瞬間、アカネの顔から苛立ちが消え去り、再び「メイドとしての優雅な微笑み」が戻っていた。

 絶対的な死角から放たれる、一撃必殺の凶弾。

 ミレニアム最強の「目」に捉えられたゲーム開発部と万事屋は、果たしてこの不可視の死線をくぐり抜け、無事に『鏡』を奪還することができるのか。




次回予告

モモイ「銀さんなんか見られている気がするんだけど?」
銀時「モモイお前も気が付いたか。いいかものに俺に身を隠しながら進め」
ミドリ「それじゃ銀さんが…」
銀時「弾が飛んできた時は俺が弾いてやるさ」
???「私のスナイプは確実に当たる」
次回 スナイパーってなんか憧れるよな

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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