透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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キサキちゃんがほしいけど……石がねぇ‼︎
この前の復刻水着キャラで天井まで引いてしまったからだぁぁぁあ!
仕事しろよアロナァァァァ
すいません取り乱しました。
ではどうぞ


第二十九訓 スナイパーにはなんか分からないけど憧れる

【ミレニアムタワー・最上階へ続く非常階段】

 非常口の薄暗い非常階段を、一段一段、息を切らしながら登る足音が重く響く。

 エレベーターホールでの強行突破を終えた一行は、万が一のシステム復旧や増援を警戒し、あえて足を使うルートを選択していた。

「……そういえば」

 モモイが、コンクリートの冷たい壁に手を当てて息を整えながら、ふと疑問を口にした。

「アカネ先輩は、マキちゃんたちの囮作戦で見事に分断して隔壁に閉じ込められたけど……。C&Cの他の先輩達は、今頃何処にいるんだろう」

 その言葉に、ミドリがビクッと肩を震わせ、不安げに暗い階段の上を見上げた。

「……わからない。……けど、できればこのまま誰にも会いたくないな〜。とくにあの、金髪で胸の大きい犬みたいな先輩(アスナ)とか……」

 想像しただけで胃が痛くなるのか、ミドリは声を潜めて身をすくませた。

 そんな双子の怯えを、前を歩く広い背中がドシッと受け止めた。

「ここまで来たんだ、今更『怖い』だの『会いたくない』だのガタガタ言ってもしかたねーだろ? 敵がいようがいまいが、俺たちはこのまま進むぞ」

 銀時は一度も立ち止まることなく、迷わず足を前に進め、決意を固めたように低く言い放った。その背中には、どんな理不尽な障害(バグ)も力業でねじ伏せてみせるという、侍としての揺るぎない覚悟が漂っていた。

「うん……!」

「『了解!』」

 モモイとミドリが力強く頷き、エリザベスがプラカードを掲げて、銀時の後に続いた。

          †

 えっほ、えっほと重い足取りで非常階段を登っていく銀時たちの背中。

 ――その無防備な姿を、遥か遠方の影から、一人の少女がじっと見つめていた。

『……あの人が、シャーレの先生……?』

 ミレニアムタワーに隣接する別棟の屋上。吹き荒れる夜風の中で、漆黒のメイド服に身を包んだ褐色肌の少女――C&Cコールサイン・ゼロツー、角楯カリンは、スコープ越しにターゲットを冷ややかに観察していた。

『……本当に、あの死んだ魚の目をした、やる気の欠片も見えない天然パーマの男が……マッハの弾丸を木刀で受け止めたり、あの数を一人で制圧したというのか? 報告が信じられないな』

 カリンは、愛用する巨大な対物狙撃銃『ホークアイ』のストックに頬を寄せ、スコープの十字(クロスヘア)のど真ん中に、銀時の頭部をピタリと重ね合わせた。

 冷徹なスナイパーとしての計算式と、武人としての血が静かに沸き立つ。

『……もしその報告が真実だとしたら。……少し、試してみたいな。私のこの【絶対の狙撃】を、どう凌ぐのかを』

 カリンは細く長い指をトリガーに掛け、呼吸を完全に止めた。

          †

【ミレニアムタワー・最上階 差押品保管所前】

「えっと……あった。お姉ちゃん、ここのシャッターをお願い」

 非常階段を抜け、ついに最上階の目的のセクションへと辿り着いたミドリが、壁に設置された無骨な機械のパネルを指さして頼んだ。

「まっかせて♪」

 モモイは軽快な調子で答え、ヴェリタスが偽装した指紋データを登録した指を、パネルのセンサーへと押し当てた。

 ピーッという電子音と共に、ガコン、ガコンと重々しい音を立てて、強固な防爆シャッターがゆっくりと開き始める。

 ついに、目的の『鏡』が眠る保管所への道が開かれたのだ。モモイは満足そうにパァッと笑みを浮かべた。

 ――しかし。

 その瞬間、銀時の全身の毛穴がブワッと開き、空気が極限まで張り詰めた。

(……殺気ッ!?)

 常人には決して感知できない、遥か遠方からの死の視線。

 それが自分の頭部ではなく、目の前の無防備な少女たちに向けられていると直感した銀時は、思考よりも早く身体を動かした。

「!」

ガシッ!!

「ムギャッ!?」

「うわっ!?」

 銀時は、歓喜に沸くモモイとミドリの後頭部を両手で鷲掴みにし、有無を言わさず床に伏せさせるように力任せに頭を押し下げた。

 突如として乱暴に床に這わされ、モモイが抗議の声を上げる間もなく。

 何かが、二人の頭上――ついコンマ一秒前までモモイの頭があった空間を、空気を引き裂く恐ろしい悲鳴と共に、超音速でかすめていった。

ドガァァァァァァァァンッ!!!!

 耳を劈くような凄まじい爆発音。

 モモイの頭上、分厚い防弾仕様の窓ガラスが、たった一発の弾丸によって粉々に砕け散った。

 鋭いガラスの破片が四方に雨のように飛び散り、空気を切り裂いた弾丸は、反対側のコンクリートの壁にメリメリと深く、巨大なクレーターを作って突き刺さっていた。

 それは、生徒たちが使うような可愛い対人用の銃弾ではない。戦車や装甲車を撃ち抜くための【対物狙撃用】の巨大な徹甲弾だ。その威力は常軌を逸しており、ミレニアムの強固な防弾ガラスを飴細工のように粉砕していた。

「な、なに!? なにいまの!?」

 頭上を通り抜けた死の暴風に、モモイが床に這いつくばったまま、驚愕で声を震わせて叫んだ。もし銀時が押さえつけていなければ、ヘイローを持つ彼女でも無事では済まなかっただろう。

「危なかったなお前ら、銀さんがいなけりゃあのままあの世行きだったろうよ。ところで……」

 銀時は、散乱するガラスの破片を払い除けながら、平然とした態度を保ち、どこか面白がるように目を細めた。

 

「スナイパーの弾丸って、あそこまでエグい威力あったっけ? なんか壁ごと俺の命日削り取ろうとしてるレベルの破壊力なんだけど」

 

「それは対人じゃなくて、戦車を撃ち抜く【対物用】の弾丸だよ!!」

 ミドリが、顔面を蒼白にしながら少し焦った様子で説明する。

「対物……どれぐらいヤバいやつなのソレ?」

 銀時は、壁に突き刺さった巨大な弾丸の残骸を見て、眉をひそめながら尋ねた。

「えっと……確か……。ヘイローを持っていない普通の人がまともに食らってしまえば……骨が砕け、肉がはち切れて、一瞬で【ミンチ】になるって聞いたことがあります……!」

 ミドリの生々しい言葉に、その一撃の恐ろしさが一層明確に輪郭を帯びる。

「マジでか」

 銀時は、自分が一歩間違えれば「万事屋銀ちゃん」から「万事屋ミンチちゃん」に改名させられていた事実に、信じられないような、この世の全ての理不尽を呪うような表情を浮かべた。

「そ、それヤバいじゃん! ――あ、で、でも銀さんって、エンジニア部であの巨大な弾丸とか魔法みたいに弾けたりしたよね!? なら、あのチート能力で安―」

 モモイが、安心材料を見つけて顔を上げた、その時。

ドガァァァァァァァァンッ!!!!!

 再び、先ほどと全く同じ軌道で、強烈な炸裂音が響き渡った。

 二発目の徹甲弾が、容赦なく壁に突き刺さる。モモイはビクッと体を震わせた。

「ヒィィッ!?」

 彼女は恐怖に顔を歪め、悲鳴をあげて頭を抱える。

「よく考えてお姉ちゃん! アリスちゃんたちがぶっ放してたロボット兵の銃弾は、全部ただの『対人用』だよ!? それに、あの時の弾は真っ直ぐ向かってきたから弾けただけ! 今回のこれは、どこから撃ってきてるかも分からないし……威力も速度も違いすぎる!!」

 ミドリが鋭い指摘を投げかけ、今の状況が圧倒的に不利で危険であることを冷静に分析する。

 姿の見えないスナイパー。一撃必殺の威力。そして、ヘイローを持たないただの人間の銀時。

 このままでは、ジリ貧で全滅するのは時間の問題だった。

「何してるの銀さん!? あっ、立っちゃダメだってば!!」

 ミドリが慌てて止めようとするが、銀時はその制止を無視し、ゆっくりと立ち上がった。

 彼は木刀を肩に担ぎ、粉々になった窓ガラスの向こう――漆黒の夜の闇に向かって、忌々しげに、しかし不敵に目を細めた。

 

【ミレニアムタワー・最上階 西側連絡通路】

「二人はその瓦礫の陰に隠れてろ。……狙いを、俺にだけに絞らせる」

 銀時は、怯えるモモイとミドリの肩を掴んで物陰へと押し込み、自らが強引に囮となることを決意した。

 無謀の極みだった。ヘイローを持たない、ただの脆い人間の肉体。対物狙撃用の大口径弾丸が直撃すれば、骨は粉々に砕かれ、血肉は四方に飛び散り、一瞬にして形のない赤い「ミンチ」と化す。それがこのキヴォトスの物理法則における、絶対的な死の宣告である。

 ――しかし。

(………まさか、真正面からその身を晒して受けるつもりか? 先ほどのは、これ以上進めば撃つという『警告』としてわざと外したのだが……)

 遥か彼方のタワー屋上。

 少女――C&Cの狙撃手、角楯カリンは、スコープ越しに見る銀時の行動に困惑を隠せずにいた。ヘイローを持たない一般人が、なぜ対物狙撃銃の銃口から逃げずに、自ら的になるように立ちふさがるのか。彼の無謀な行動が理解しきれず、整った細い眉をひそめる。

「……いいだろう。本当にアカネの報告通り、人間離れした力を持っているのか……少し、試してみるか」

 カリンは自分の中の迷いを断ち切り、冷たい金属の引き金にそっと指を掛けた。

 アカネから通信で聞いた『マッハ6のレールガンを謎の術式で弾き返した』という話。カリンの常識的な頭脳では、その全てが悪い冗談か、何かの見間違いのようにしか思えなかった。だからこそ、自分のこの目で、自分の放つ弾丸で、実際に試してみようと決意したのだ。

「……まずは手始めだ。狙うは、足」

 カリンは銀時の右足元に十字の照準(クロスヘア)をピタリと定め、呼吸を極限まで薄くする。そして、静かに冷酷なカウントダウンを心の中で刻み始めた。

(……3・2・1!)

ダァァァンッ!!

 火薬が爆発し、空気を引き裂く轟音と共に、巨大な弾丸が銃口から放たれた。

 弾丸は音速を容易く超え、不可視の凶器となって銀時の足へと一直線に飛んでいく。

 引き金を引いた瞬間、カリンの心臓はわずかに鼓動を高め、一抹の緊張感が全身を駆け巡った。

 もし彼が本当にただの一般人で、避けられなかったら? 自分のこの一撃で、他でもない『シャーレの先生』の足を、骨ごと無惨に吹き飛ばしてしまうのではないか。そんな後悔にも似た恐れが、一瞬だけ脳裏をよぎった。

(やはり、やりすぎたか……―――――ん?)

 スコープ越しに着弾の瞬間を見ていたカリンは、我が目を疑い、信じられない光景に大きく目を見開いた。

 

 グッ、と。

 銀時は、音よりも速く飛来するはずの弾丸の軌道を、まるでスローモーションのボールでも見るかのように『察知』し、膝に軽く力を込めてタイミングを計った。

「……フッ!」

 そして、驚異的な、人間の反射速度の限界を遥かに超越した動きでフワリと跳躍し、放たれた必殺の弾丸を、紙一重の差で見事に【避けた】のだ。

ビュォォンッ!!

 銀時の足元を凄まじい風圧が通り過ぎ、背後の壁に大穴を穿つ。

(……!? なんだ、今のデタラメな反応速度は……! ありえない!)

 常に冷静沈着なカリンの心が、激しく動揺していた。

 対物スナイパーライフルの弾速は、秒速800から1000メートル。それを、発射音よりも早く軌道を読み切り、至近距離で避けるなど、物理的にも生物学的にも絶対に不可能なはずである。

 スコープを通して、土煙の上がる向こうの銀時をもう一度確認する。

 そこには。

「ふぁぁぁあ……。なんだ、お前一発撃つだけで終わりなのか? こんぐらいじゃ、俺の朝の眠気は飛ばねェぞ」

 大きなあくびをしながら、木刀を肩に担いで平然と立っている銀時の姿があった。

「そもそも、一発でも見切って避けきれる時点で頭がおかしいだろう!!」

 カリンは、スナイパーとしてのプライドを粉々に打ち砕かれ、心の中で叫んだ。

「……飛んできた方向は、あっちか」

 一方の銀時は、あくびの涙を拭いながら、弾丸の軌道から狙撃手(カリン)の正確な位置と距離を一瞬で見定め、木刀の柄をギシリと強く握り直した。

(このまま弾ぁ避けて進んだほうが早ェが……あのバカでかい弾丸だ。避け続けて壁に穴を開けさせまくってりゃ、いつかモモイたちに流れ弾の被害が出ちまう……。だったらーー!)

 銀時はふっと息を吐き、ある決断を下した。

 そんな銀時をスコープで観察しながら、カリンはギリッと奥歯を噛み締め、次の一手、いや、次の『弾幕』を準備した。

(こうなれば、私の目が錯覚だったのか、とことん試してやろう……! 今度は胸だ!)

ダァンッ!

ガキィィンッ!!

(腹!)

ダァンッ!

ガキィィンッ!!

(顔!)

ダァンッ!

ガキィィンッ!!

(太もも!)

ダァンッ!

ガキィィンッ!!

 カリンは、ボルトアクションの限界速度を超えた神業的な連射で、銀時の急所を次々と狙い定めて対物弾丸を放った。

 しかし。

 その必殺の弾丸は、全て銀時が振るう『木刀(ただの木)』によって、まるで卓球のピンポン玉のように、いともたやすく空中に弾き返されてしまったのだ。

「ウソだ……!」

 驚愕するカリンの心は、次第に濃密な『焦り』と『恐怖』に変わっていく。

 彼女の狙撃は完璧だった。一点の曇りもない最高の射撃だった。しかし、その全てが、ただの素浪人の振るう木刀一本によって無力化されてしまう。

(ダメだ……! 私の狙撃では、先生にダメージすら与えられない!)

 カリンの引き金を引く手が、小刻みに震え始める。

 銀時を狙い続けることに意味はない。そう本能で悟った彼女は、極めて冷酷な、しかし合理的な判断を下した。

 狙いを、隠れているはずの双子――ミドリとモモイという『弱い部分』に変えるべきだ、と。

 カリンがスコープの照準を双子の隠れる瓦礫へとズラそうとした、まさにその瞬間だった。

ドォォォォンッ!!

「――っ!?」

 スコープの視界が、突如として銀色の閃光と砂埃で完全に埋め尽くされた。

 次の瞬間、カリンの『目の前』――タワーの屋上という、数百メートルは離れていたはずの絶対的な死角に。

 まるで空間を跳躍(瞬間移動)してきたかのように、銀時の姿が音もなく現れたのだ。

「よォ! はじめましてだな、色黒のメイドさん。随分と熱烈な歓迎(アプローチ)じゃねェか」

 銀時の気怠げな、しかし凄みのある声が、カリンのすぐ耳元で響いた。

(何で!? いつ、どうやってこの距離を詰めて、私の背後に……!?)

 カリンは、背筋が凍りつくような驚愕に目を見開き、咄嗟にライフルの銃身で防御の姿勢を取ろうとした。

 だが、銀時の動きはそれを遥かに凌駕していた。

「会って早々悪りィが……俺の教え子に銃口向けるなら、下でメイドの世話にでもなってーー」

 

「頭冷やしてな!」

ゴオォォォォッ!!!

 銀時は、両手で持った木刀を、カリンの足元のコンクリートに向けて、容赦なく勢いよく叩きつけた。

「しまっ――!」

 カリンは反射的に身を引いたが、木刀の激突した衝撃で屋上の足場が爆発したように崩壊し、彼女の身体は無重力の中に投げ出された。

「きゃあぁぁぁっ!?」

 瓦礫と共に下の階へと落ちていく、ミレニアム最強の狙撃手。

 銀時は、その黒髪のメイドが視界から消えるのを見届けると、ふぅ、と小さく息を吐き、木刀を再び肩に担ぎ直した。

 不可視の死神による狙撃の脅威は、白夜叉の圧倒的な身体能力(チート)によって、いとも容易く排除されたのであった。

 

 

「っ!!」

 崩落する瓦礫と共に、カリンの身体は重力に引かれて真っ逆さまに落下していく。

 だが、C&Cの誇るエージェントがただ無策で墜落を待つはずもない。彼女は空中で素早く身を捻り、体勢を立て直して着地の衝撃を殺そうと猫のように身構えた。

 ――しかし、彼女が床にブーツを叩きつけるよりも一瞬早く。

 カリンは空中でビクッと身を強張らせた。完璧に着地を決めた。

「……どうやら、事前に耳にしていた俄かには信じ難い噂は『本当』だったようだ」

「……すまない、アカネ。流石にあれ(銀時)を相手にするのは無理だ。……そもそも、どういう物理法則が働けば、ただの木刀であんな規格外の破壊力を生み出せるんだ」

「それが『侍』という、極めて非論理的で面白い存在らしいよ」

 

「!?」

 背後から不意に投げかけられた声

 暗がりからゆっくりと姿を現したのは、一丁の銃を手にした白衣の女性――エンジニア部の部長、白石ウタハだった。

 彼女は、額の防塵ゴーグルを押し上げながら、敗北して落ちてきたカリンを冷ややかに、しかしどこか研究者のような熱を帯びた目で見下ろしていた。その口元には、自信に満ちた不敵な笑みが浮かんでいる。

「こんばんは、C&Cの優秀な狙撃手。……とてもいい戦闘データが取れたよ。感謝する」

 ウタハは親しげに声をかけるが、その手に握られた銃の銃口は、ピタリとカリンの急所を捉えたまま決して緩むことはなかった。

「エンジニア部の部長……。さては貴様、この戦闘が終わるまでずっと息を潜めて待っていたな?」

 カリンは、ギリッと奥歯を噛み鳴らし、黄金色の瞳に深い悔しさを滲ませながら問い詰めた。

 真正面から挑むのではなく、自分が銀時との規格外の戦闘で精神的・物理的に消耗し、落下してくるこのタイミングを完璧に計算して待ち構えていたのだ。

「正解だ。ありがとう……銀さんの限界値を知るための戦闘データが取れて、技術者として大満足だよ」

 ウタハは満面の笑みを浮かべ、悪びれる様子もなく答えた。

 その徹底した合理主義の態度はカリンの神経をさらに苛立たせたが、同時に、射線を完全に押さえられ、即座に反撃できない自分の現状に強い無力感を覚えた。

「………何故か無性に腹立たしく、悔しいな。……だが」

 カリンは血が滲むほど強く唇を噛みしめ、巨大な対物狙撃銃を握る拳に再び力を込めた。メイドとしての、そしてエージェントとしての誇りが、このまま引き下がることを許さない。

「まだ終わってない! ターゲット本命は逃したが……少なくとも、その協力者である貴様らは、ここで私が止めてみせる!」

「そうかい……。なら、実験の続きと行こうか。雷(らい)ちゃん、出番だ」

 ウタハがパチンと指を鳴らす。

 その瞬間、ガシャァァァン!という重厚な機械音と共に、ウタハの傍らに控えていた多脚型の自動砲塔マシン『雷ちゃん』が、冷酷な銃口をカリンに向けてせり出してきた。

 火花散る薄暗いフロアで、ミレニアム最高の頭脳(エンジニア部長)と、最強の眼(メイド部スナイパー)による、一歩も譲らぬ一騎打ちの火蓋が切って落とされた。

【ミレニアムタワー・最上階 連絡通路】

「……カリン先輩と、ウタハ先輩が交戦開始……!」

 一方、一つ上の階層では。

 銀時たちは、インカムから漏れ聞こえてくる銃声と通信のやり取りを静かに聞いていた。

 ミドリが、強張っていた肩の力を抜き、通信機越しにほっとしたような、深い安堵の息を吐き出す。

「やっぱり……さっきの理不尽な遠距離攻撃はカリン先輩だったんだ……。でも、もう銀さんがいれば、どんなに強い人が来ても絶対に負けないんじゃないかって……そう思えてきたよ」

 ミドリの声には、先ほどの恐怖を完全に上書きするほどの、明確な「信頼」が宿っていた。

 マッハを超える狙撃を木刀で防ぎ、一瞬で距離を詰めて屋上ごと粉砕する。もはやゲームのチートキャラすら凌駕する頼もしさに、少女たちは完全に心を預けていた。

「ひとまず、一番厄介なカリン先輩はウタハ先輩が下で食い止めてくれてる! これで後顧の憂いは絶たれたね! さぁ、安心していざ先に行こう。銀さん! この先の雑魚戦とボス戦も、またキャリー(引率)お願いね!」

 モモイはにこやかに笑い、まるで高レベルプレイヤーに引率される初心者のような軽快な調子で、銀時の背中をパンパンと叩いた。

「えぇ……。お前ら、道中ずっと俺の背中に隠れてるだけじゃねェか。少しは自分たちも戦闘に参加しろよな……。俺は引率の先生じゃなくて、ただの糖分不足のフリーターなんだけど……」

 銀時は、完全に「便利なメイン盾兼アタッカー」として扱われている現状に、ひどく面倒くさそうに肩をすくめてぼやいた。

 しかし、文句を言いながらも、彼が歩みを止めることはない。

 三人は再び互いの目を見て頷き合い、次なる目的地――鏡が眠る最終保管庫へと、連携を取りながら歩みを進めていく。

 非常灯が点滅する無機質な階段を、えっほえっほと登りながら。

 銀時は「次に待ち受けているメイドは、どんな理不尽な兵器を持ったヤバい奴か」とぼんやりと考えつつ、右手に下げた木刀『洞爺湖』の柄を、静かに、だが決して離さない強さで握りしめ直していた。

 




次回予告

銀時「何?また新しい刺客がくんの?それに勘が鋭くて動きが読まれるって!?もういいって!いつまでこのくだりいつまでつづけるんだよぉぉ!」

???「えぇ〜私まだ登場してもないしユウカちゃんのお気に入りの銀さんに会ってないから嬉しいんだよね」

銀時「俺はもう働きたくねぇよお前ら延滞料金はきっちりと貰うからな!」

ミドリ「銀さん一応先生なんだよ?」

次回 勘の娘は嫌いだよ

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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