透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
高層オフィスビル、その最上階。
夜の帳に沈む都市を背に、暗い部屋の奥で一人の巨躯が低く呟いた。
「……やはり、ヘルメット団如きではあの程度が限界か。主力戦車まで貸し出したというのに……」
鋼で補強された義体の輪郭が、薄暗い蛍光灯の光を掠めて鈍く光る。社会的にも軍事的にも強大な地位を持つその人物は、苛立ちを隠しきれぬ声音で言葉を吐き出した。
「……目には目を。生徒には生徒を……か。専門家に依頼するしかあるまい。貸したものの取り立ても、ついでに頼むとしよう」
通信端末を操作する。数秒の沈黙の後、スピーカーから軽薄とも頼もしさともつかぬ声が響いた。
『はい、どんなことでも解決します。便利屋68です』
「……仕事を頼みたい。便利屋」
簡潔に要件を告げ、通話を切る。しばしの静寂。彼は大きく息を吐き出した。
「……まったく。何が『一人の人間に木刀で戦車を一刀両断にされた!』『あいつは鬼だ! もう二度と会いたくない』だ……そんな馬鹿げた話があるものか」
苦笑に似た吐息。だが次の瞬間、その瞳にわずかな怯えが宿る。
「ゲヘナ風紀委員長でさえ傷一つ付けられなかったというのに……」
誰にともなく呟くその声は、暗闇に吸い込まれていった。
―――――――――――――――――――
一方その頃。アビドス。
潜伏していたカタカタヘルメット団の残党たちは、今日をもって全滅を迎えようとしていた。
初戦――拠点を銀時たちに壊滅され撤退。
二戦目――最後の切り札を賭けてセリカを攫うも、失敗しリーダーは逃亡。
そして今や、残る兵力は砂粒ほど。
「うわあああっ!?」
銃声。悲鳴。崩れ落ちる最後の一人。
『あーあー、こっちは終わったよー』
通信に乗る軽快な声。小柄な少女が、マシンガンMG5を肩に担いで呟いた。
『こっちも制圧完了。以上、ボス』
白と黒、真っ二つに分かれた髪色の少女は、サイレンサー付きP30Lをくるりと回してホルスターに収める。
『お、おわりましたぁ……アル様……』
帽子を目深にかぶった少女が、まだ震える手でショットガンを抱えながら報告する。
「ふふ……弱すぎるわね。クビにされたのも頷ける」
ファーの付いたコートを優雅に翻し、三日月のように反り返る角を持つ少女が、狙撃銃H&K PSG1の銃口を下げる。
四人の少女たち――便利屋68。
その中心に立つ「社長」と呼ばれる存在が、勝ち誇ったように言葉を放つ。
「この仕事は、私たち便利屋68がいただいたわ」
その刹那。倒れていた敵兵の一人が、血に濡れた唇を震わせた。
「……お……お前たちも……どうせ……“あいつ”に……」
「“あいつ”?」
社長は一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに嘲るように肩をすくめた。
「まあいいわ。たかだか数人の兵力なんて、敵じゃないもの」
自信に満ちた笑み。しかし彼女は知らない。
彼らが口にした“あいつ”――それが、一騎当千の化け物に他ならぬという事実を。
―――――――――――――――――――
アビドス対策委員会の教室。
大きな長机を囲むようにパイプ椅子が並べられ、その周囲にはアヤネ以外の委員会メンバー、そして坂田銀時が腰掛けていた。視線はすべて、ホワイトボードの前に立つアヤネへと集まっている。
「――セリカちゃんが無事だったところで、早速会議を始めましょう!」
アヤネのきびきびとした号令。しかし、会議は開始早々からすでに空気が崩壊していた。
ノノミはセリカの背後に立ち、彼女の頭を子犬を撫でるように撫で続けている。抵抗を諦めたセリカは、頬杖をついて拗ねたように椅子に沈み込んでいた。
一方、ホシノとシロコ、そして銀時は机の端で人生ゲームに夢中だ。
「うへぇ〜。おじさん、人気女優で年収二千万突破〜。ターンごとに二千万チャリンだよ? これは勝ち確だねぇ」
「ん。ホシノ先輩、まだ勝負は終わってない」
「そうそう。いくらボードの上で金持ちになっても、現実のボードじゃ寝てばっかのおじさんだろ、コノヤロー」
「そんなぁ……夢くらい見させてくれてもいいじゃん。ねぇ?」
「ホシノ先輩はいつも夢見てるからダメ」
銀時がサイコロを握りしめ、にやりと笑う。
「んじゃあ、この流れ変えて銀さんが勝者に――」
――ドカァァン!
「ぎゃあああ!? なにすんだメガネ!! せっかく銀さんが勝利の女神に愛されようとしてたってのに!」
机を拳で叩きつけたのは、怒りに震えるアヤネだった。
「何すんだはこっちのセリフです! これから借金返済会議を始めるっていうのに、なに人生ゲームで遊んでるんですか! それに私はメガネじゃありません、アヤネです!」
剣幕に押されたシロコとホシノは、素直に「「すいません」」と謝る。だが銀時だけは引かない。
「いや、だから金の流れを学ぶために人生ゲームやったんだろーが! 教育だよ教育!」
「……そうですか。なら続ければいいでしょう」
アヤネが細めた瞳で銀時を射抜く。声は静かだが、氷のように冷たい。
「ただし、続けるなら――冷蔵庫に入ってるいちご牛乳はすべて返品。さらに、先生の口座は私たちが管理させていただきます」
「……す、すいませんでした」
いちご牛乳の一言で、銀時はあっけなく降参した。
「もう……。はい、それでは議題に入ります。本日は私たちにとって重大な問題――『学校の負債をどう返済するか』についてです」
アヤネが姿勢を正すと、すかさずセリカが元気よく手を挙げる。ノノミの手から逃れて、机の前に身を乗り出した。
「はい! はい!」
「はい、黒見さん。お願いします」
「……あのさ、アヤネちゃん。まず“名字呼び”やめない?」
「えっ……その、会議っぽいかなと思って……」
「カッコつけたい年頃なんだろ。いいと思うよ。そういう壁を乗り越えて大人になってくんだよ」
「先生」
ドスの利いた声。銀時は一瞬で青ざめて頭を下げた。
「すいませんでしたぁ!」
(アヤネちゃん……そんな声出すんだ……ちょっと怖い)
ざわめく中、セリカが仕切り直すように机をバンッと叩いた。
「とにかく! 会計担当の私から言わせてもらうけど、この学校の財政は破産寸前よ! このままじゃ廃校!」
「まあ……そうだね」
「利息だけで月に七百八十八万。正直、今のやり方じゃ返済どころか利息の支払いすら危ういわ。指名手配犯の捕縛や苦情処理、ボランティアだけじゃ限界があるのよ! ドカンと一発、大きなことをやらないと!」
「例えば?」
ホワイトボードにチラシを貼り付ける。そこには大きくこう書かれていた。
『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットで、あなたも一攫千金!』
「これよ! これで一発逆転!」
室内に沈黙が走る。
アビドスの生徒たちは揃って「あー……」と声を漏らした。どう見ても怪しい。どう言葉を選ぶかと考えた矢先――
「いや、これお前……騙されてんじゃねぇか」
「え!?」
銀時の一言が、雷のように落ちる。
「見りゃわかんだろ。詐欺だっての。ほら、なんつったっけ……まる……まる……ちびま〇子ちゃん商法?」
「銀さん、マルチ商法です」
「そう、それそれ。マルゲリータ商法。要はそうやって騙して買わせるんだ」
「マルチ商法ですってば……」
セリカの顔から血の気が引いていく。
「う、嘘よね……? 先生が冗談言ってるだけでしょ……?」
縋るように仲間を見たが、返ってきたのは同情と哀れみのまなざしだった。
「う、嘘……!? 運気が上がるって言われて、説明会にまで行って……二つも買っちゃったのに……!?」
床に手をつき、うなだれるセリカ。その背に銀時の追い打ちが落ちる。
「だいたいなぁ、それで一攫千金できるなら誰も苦労しねぇだろ。もし本当にそんな方法があるなら、この学校の借金だってとっくに返済してるっての」
痛烈な正論に、教室の空気が凍りついた。
「……たしかに」
誰も反論できなかった。セリカの買った“幸運のブレスレット”が、ただの高額な石ころにすぎないことを、誰もが理解していたからだ。
「騙されちゃったんですねぇ、黒見ちゃん。可愛いです☆」
ノノミは口元に柔らかな笑みを浮かべつつも、その指先は器用にスマホを操作していた。画面に映るものは、きっと黒見の今後を揺さぶる何かに違いない。笑顔の奥に、したたかな意図を感じさせるその仕草は、火種を弄ぶ小悪魔のようでもあった。
「わ、悪かったわね!」
思わず声を荒げるセリカ。頬が朱に染まるその様子は、必死に強がりながらも図星を突かれた子供のようだ。
「おいおい、さりげなくノノミが追い打ちかけてるよ。心の傷をえぐりに行ってるよ」
銀時は片手で団子を弄びながらぼやく。半分眠そうな瞼の奥で、妙に鋭い観察眼が光っていた。
「うん、今後は誰かに相談するのも手だよね~。でないと悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうよー?」
ホシノはのんびりとした口調で追撃する。まるで猫が尻尾でじゃれるように、何気ない言葉でセリカを翻弄していく。
「昼ごはんまで抜いて頑張って貯めたのに……!」
小さく呟いたセリカの声には、悔しさと切なさが滲んでいた。
「大丈夫ですよ、セリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう? 私がご馳走しますから」
ノノミは今度は甘やかな笑顔で手を差し伸べる。
「ノノミせんぱぁい……!」
潤んだ瞳で見上げるセリカ。その表情は一瞬で救われた子供のようで、先ほどまでの怒りが嘘のように溶けていく。
「おいおい、やべぇよ。ノノミがさりげなく飴と鞭を使い分けてるよ。今の発言で前の鞭がなかったことになってるよ。あ、ちなみに銀さんもその昼飯ゴチになりまぁす。」
「さりげなく生徒に奢らせようとしてるよ、この人ォォォォォ!?」
「はい、もちろん☆ 皆で行きましょう!」
ノノミはまるで聖母のように笑顔を浮かべ、銀時の言葉すら軽やかに受け止めてしまう。
「そして、ノノミ先輩は了承しちゃってるし!? ダメだからね!? 銀さんに奢ったら、今後ちょくちょく頼むからね! 絶対!」
セリカは必死に抗議するが、その頭をシロコが静かに撫でていた。
「……撫で心地がいい」
淡々としたシロコの声。その言葉と仕草は、セリカの怒りの熱をすっと冷ますような、静かな優しさを帯びていた。撫でる手は、しばらくの間、離れなかった。
少なくとも——教師が生徒に奢ってもらうなど、許されてはならないのだが。
「えっと……とりあえず、その話はまた今度ということで……。次の方」
アヤネが苦笑いを浮かべつつ場を切り替えようとすると、待ちきれない声が飛ぶ。
「はい! はいはい!」
「はい、三年の小鳥遊さん、どうぞ。少し嫌な予感がしますが……」
案の定、ホシノが勢いよく挙手していた。胸を張り、堂々と発言を始める。
「うむうむ! えっへん! 我が校の一番の問題は、全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよねー」
「生徒の数イコール学校の力なんだよ。トリニティやゲヘナみたいに生徒数を桁違いに増やせれば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはずー」
「そ、そうなんですか……?」
アヤネが目を丸くする。
「そういうことー! だからまずは生徒の数を増やさないとねー。まずはそこからかなー。そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるしね」
「最もな話だけどよ、一年はアヤネとセリカだけなんだろ? そこからどうやって生徒増やすわけ?」
銀時が腕を組んで突っ込む。
「銀さんの言う通りです。どうやって増やすんですか?」
銀時の言葉に頷き、アヤネもホシノへと視線を向ける。 すると、待ってましたと言わんばかりに、ないむn「ん?」慎ましやかな胸を張りながら答える。
「ホシノ先輩、一瞬怖くなったんですが……どうかしました?」
アヤネが恐る恐る問いかける。
「ん~? いやいや、なんか失礼なこと言われてるような気がしてね~。それよりもさ――」
ホシノはにやりと笑い、人差し指をひょいと掲げる。
「他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」
会議室の空気が、凍った。
「……」
「……」
沈黙を破ったのは、ホシノ自身の追撃だった。
「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするのー。うへー、これで生徒数がグンと増えること間違いなーし!」
「敵が増えることも間違いねぇよ」
ごつん、と乾いた音が響く。流石の銀時も、それは看過できなかった。ホシノの頭に拳骨を落とし、「ダメだろそれは!」と全身で突っ込む。
「いたっ!? 痛いよ、銀ちゃ~ん!」
頭を押さえて涙目で抗議するホシノ。だが、その頬にはどこか「効いた効いた」という顔も浮かんでいた。
「ん、ホシノ先輩の提案は興味深い」
静かに挙手したシロコの声に、全員の背筋がぞわりと震えた。
「ターゲットはどうする? ゲヘナ? トリニティ? それともミレニアム? 大丈夫。私たちには銀ちゃんがついてるから、百人力」
「さり気なく人を計画に混ぜてんじゃねぇよ。キヴォトス全面戦争でもなんでも勝手にやってろ、バカヤロー!」
銀時が即座に拒否すると、シロコは小首をかしげて付け加える。
「ん、大丈夫。銀ちゃんがもしシャーレをやめることになっても、アビドス高校で受け入れる」
「あのーシロコちゃん、勝手に銀さん巻き込むのやめてくんない?取り込もうとするのやめてくんない?」
「銀さんの言う通り、そんなことしたら他校の風紀委員が黙っていません! ダメに決まってます!」
アヤネが必死に声を張り上げる。
「うへ~、やっぱりそうだよね~」
「やっぱりそうだよねー、じゃありませんよ! もっとまじめに会議に臨んでください!」
アヤネが眉間にしわを寄せたその瞬間――。
「いい考えがある」
低い声が響いた。シロコである。
「却下して良いですかメガネ氏、シロコの『いい考え』は最早嫌な予感しかしないんで、パスだパス。分かったかメガネ、パスで進めろ。」
「だから私はメガネじゃありませんアヤネです。いい加減覚えてくれません?」
「ん、銀ちゃん失礼」
「でも……一応、案があるとは言っていますし。二年生の砂狼シロコさん、どうぞ……」
アヤネが渋々促すと、シロコは無機質な瞳で答えを告げた。
「銀行を襲うの」
「オイィィィィィィィィ! やっぱまともな案じゃなかったよ! つうかバスジャックの時点から最早犯罪だろがァァァ!」
銀時の絶叫が会議室に反響する。
だがシロコは至って真剣な顔のまま、机の上に地図を広げていった。
「確実かつ簡単な方法。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいた」
「さっきから一生懸命スマホで見てたのは、それですか!?」
アヤネの悲鳴が飛ぶ。
「5分で1億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」
机の上に並べられたのは、色とりどりの覆面。額にはそれぞれ、1から5までの数字が大きく刻まれている。
シロコは迷わず「2」と書かれた青い覆面を手に取り、すっと顔に装着した。
— 「うわー、これシロコちゃんの手作り?」
ホシノが手に取ったのは、額に「1」と刻まれたピンク色の覆面。よく見ると頭頂部には彼女のトレードマーク――アホ毛が飛び出すための小さな穴まで開いていた。
「芸が細かいねぇ~」と笑いながらかぶってみせる姿は、妙に楽しげだった。
「わぁ! 見てください! レスラーみたいじゃないですか!?」
続いてノノミが「3」と記された緑の覆面を装着する。両サイドには髪を束ねて出せる穴まで用意されており、本人は大興奮。まるで子供が仮装遊びを見つけた時のように、くるくると鏡代わりの窓ガラスに向かって回っていた。
「……形でなんとなく私のだってわかるけど、なんで穴開けられてないのよ」
セリカが手にしているのは「4」と書かれた赤の覆面。耳の部分がとんがっており、獣耳を収めるための造形がなされていた。しかし当の本人は不満げに眉を寄せ、頬を膨らませる。
「……私のもあるんですね」
アヤネは「0」と書かれた黄色の覆面を手にとる。こちらも彼女の尖った耳を通すための切り込みが入っており、几帳面な仕立てに思わず感心したように呟いた。
一方――。
「ん……ごめんなさい銀ちゃん。銀ちゃんの分はなくて」
シロコが申し訳なさそうに言葉を添えると、銀時は即座に机を叩いて立ち上がった。
「なんでそこで謝るんだよ! 作らなくていいから! お前らはいちいち俺を巻き込まなきゃ気が済まないわけ!?」
「ん。銀ちゃんがいれば、もっと確実……いや、絶対に成功する」
「やらねないからね! 期待の眼差し向けられても、絶対やらないから俺のキャリアに傷つくから!」
「でも、いいねぇ。人生一発キメないと。ねぇ、セリカちゃん?」
「そんなわけあるか! 銀さんだって、ダメだって言ってんのよ! あの適当な銀さんでも! 却下よ、却下!」
「ちょっと、さり気なくディスるのやめてくんない?」
「そ、そうです! 先生である銀さんがダメだと言っているんです! それ以前に犯罪はいけません!」
一年組と銀時の否定を受け、シロコはふてくされたように頬を膨らませ、ゆっくりと覆面を外した。
「そんなふくれっ面をしてもダメなものはダメです!」
「ん。銀ちゃんが来てくれたから、更にこの計画は確実性が増したのに」
「だぁから! 俺を巻き込むなって言ってんだろがァァァ!」
銀時は額に青筋を浮かべながら怒鳴る。まるで悪ガキの集団に目をつけられた保護者の心境だった。
アヤネは深いため息を吐き、机の上で両手を組んで言葉を絞り出す。
「はぁ……皆さん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」
「はーい! 次は私から!」
元気よく挙手したのはノノミだ。アヤネは苦々しい表情を浮かべながらも「2年の十六夜ノノミさん、犯罪と詐欺は抜きでお願いします」と条件を付けた。
「はい! 犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります! アイドルです! スクールアイドル!」
「ラブ〇イブでも始まろうとしてんの?プロデューサー彼女たちの面倒見てくださぁい。お願い300円あげるから」
銀時のぼやきに、ノノミは胸を張って力強く頷く。
「そうです! そのアニメを見て閃いたんです! 学校を復興する定番の方法はアイドルです! 私たち全員がアイドルデビューすれば……」
「却下」
あまりにも即答すぎる声に、全員が思わず振り返る。声の主は――ホシノだった。
「えっ、ホシノ先輩が……? なんで?」
ノノミが目を瞬かせる。
「なんでって……こんな貧弱な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間として終わってるっしょ~。ないわー、ないない」
「貧弱っつうか、貧相の間違いじゃねぇの――」
銀時の口からそんな言葉が漏れかけた瞬間、背後からぴしりとした気配が走った。ホシノの笑顔が、妙に冷たい。
「ん~? 銀ちゃん、何か言ったかな~?」
「すんませんしたァァァァァ!」
即座に土下座並みの勢いで謝罪する銀時。
その姿は、どこか某眼鏡姉を彷彿とさせる恐怖のオーラに屈したかのようで――。
一方でノノミは残念そうに肩を落とし、アイドル案の夢が儚く消えていくのを見届けるしかなかった。
「決めポーズも考えておいたのに……」
ノノミは唇を尖らせると、待ってましたとばかりに腰をひねり、唐突にポーズをとった。
ひときわ明るい声が会議室に響く。
「水着少女団のクリスティーナで~す♧」
「どういうことよ……それに何が『で~す♧』よ!」
「っていうか、なんで『水着少女団』!? どこから、その名前来たのよ!?」
「だっさい!」
三者三様のツッコミが飛ぶたび、ノノミの肩はガックリと沈んでいく。
「えー…黒見ちゃんひどい……。徹夜で考えたのに……それに、あわよくば銀ちゃんにも出てもらおうと――」
「絶対にダメ!」
アヤネの一喝が空気を引き締めたが、その効果は数秒で消し飛ぶ。
「いいんじゃね。俺も以前アイドルプロデュースしたことあっからよぉ~。ユニット名は……ダイヤモンドバキュームなんてどうだ?」
銀時は、どこか誇らしげに鼻を鳴らしながら肩をそびやかせる。
「何ちゃっかり考えてんのよ!」
「ん……ダイヤモンドバキューム?」
シロコが小首を傾げると、銀時は懐かしむように片手をひらひら振った。
「俺、何でも屋やってた時に交流があった女たちが勝手に作ったユニット名だ。まあ、その……キラキラしてるようで、実態はダイ◯ンの掃除機並みの勢いで全てが吸い取られるってオチだ」
「……全然議題が進まないんですけど。結論を……」
アヤネの冷静な声が、空気を現実へと引き戻す。
「じゃあ銀さんは何か考えがあるの?」
全員の視線が銀時に集まった瞬間、彼は珍しく真顔になり、腕を組んだ。ほんの数秒の沈黙の後、ピンと閃いたように手を打つ。
「よし! 道場を開こう」
その答えに、委員会の面々の頭には、漫画の吹き出しのように同じ「?」が浮かんだ。
「バカじゃないの? こんな場所に道場開いたって、人なんて来るわけないじゃない!」
「あぁ、誰がバカだ?マルチ商法に騙されるツンデレ娘が!」
「うっ……うう」
ノノミは不覚にもぐさりと胸を突かれ、肩を落とす。
「剣術道場でも開くですか?」と、ノノミが呟く。
銀時は鼻を鳴らした。
「いや、剣術なんて銃が基本のキヴォトスじゃ流行るわけねぇだろ」
「じゃあ……何の道場を開くんですか?」
「ジャンプ勢ならみんな知ってる。ある流派修行をする道場だ」
その言い方はわざと含みを持たせた調子で、まるで子供に宝箱の場所を匂わせるようだ。銀時は口角を上げて、わざとったらしく続ける。
「まあ、明日来てからのお楽しみってやつだよ。今からネットで募集してみるから、明日の朝体育館に来い。来たい奴だけな」
その言葉に、委員会の面々は顔を見合わせる。呆れと興味が入り交じる沈黙の中、銀時だけがすでに次の展開を見据えていた。
次の日。
朝の光が差し込む校舎の廊下を、アヤネとセリカは並んで歩いていた。いつもと変わらぬ登校風景――のはずだった。
だが、耳をつんざくような叫び声が体育館の方から響いてきたのだ。
「……今の声、体育館からですよね?」
「ええ。なんか、すごく嫌な予感がします」
2人は顔を見合わせると、急ぎ足で体育館へと向かう。
扉を開けた瞬間、彼女たちの目に飛び込んできたのは、驚くべき光景だった。
銀時を中心に、まるで軍隊のように列を揃えた大勢の生徒たち。その中には、なぜかノノミやシロコの姿まで混じっている。
「すごい! こんなに人が来るなんて……一体なんの道場なのかな?」
セリカが目を丸くし、アヤネもただただ唖然とする。そんな彼女たちの疑問をよそに――修行は、すでに始まっていた。
「さぁお前ら構えろぉ〜」
銀時はいつものように気怠げな声で言い放ち、だらしなく腕を振り上げる。そして大仰なポーズをとると、
「か〜め〜は〜め〜波〜‼️」
轟く声が体育館に反響した。
なんと――彼が開いていたのは、よりにもよって「亀仙流かめはめ波修行道場」だったのだ。
そのふざけ切った内容に、アヤネの眉間がぴくりと引きつり、頬がぷるぷると震え出す。
だが、そんな彼女の怒りなど露知らず、シロコは至って真剣な顔で両手を前に突き出していた。
「ん、銀ちゃん塾長……なんか出た気がする」
「おー出てる出てる。じゃあ君、次の技――界王拳に移っていいよ」
能天気なやりとりに、アヤネの堪忍袋は限界を迎えた。
「いいわけないじゃないですかぁ!!」
彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。その怒声は体育館の隅々まで響き渡り、訓練に参加していた一般生徒たちの背筋まで凍らせた。
「いっぺん死んで界王星に行ってみてください!!」
怒りに任せて言葉を放つアヤネ。その姿に生徒たちは目を白黒させたが、銀時は悪びれるどころか平然とした顔で肩をすくめる。
「どうしたよ突然怒って。よく見てみろよ、人集まってるだろ? これで授業料もらえるから借金返済が楽になっただろ?」
妙に現実的な弁解に、アヤネの怒りはさらに燃え上がる。
「初めは良くても、後々撃てないってわかって人が離れちゃうでしょ‼︎」
彼女の声は鋭く響き、体育館中の空気が張り詰める。銀時の軽口も、今度ばかりは押し黙らざるを得なかった。
そして――このあと、銀時はめちゃくちゃ説教されたのだった。
「いやー、悪かったってば。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ね?」
銀時が片手をひらひらさせながら、いかにも気まずそうにアヤネの機嫌を伺う。
「怒ってません……」
口いっぱいに麺を啜ったまま、アヤネは頬を膨らませてモゴモゴ言った。ラーメンの湯気が彼女の眼鏡を白く曇らせ、その曇りが彼女の心情そのものを映し出しているかのようだった。
「悪かったって。でもな、事情を話したら通ってくれるって言ってくれたから、道場続けても良いよな?」
箸を弄びながら、銀時はどこか居直ったように言う。その言葉に、アヤネは短く息を吐き、諦め半分の声で返した。
「別にいいですけど……」
その空気を和ませようと、セリカが口を開く。
「……なんでもいいんだけどさ。なんでまた柴関なの」
「おいしいんだもん」
「安いんだもん」
「ん……食べやすいんだもん」
「ツンデレ見れるもーん」
「そこ合わせないで! なに!? 打ち合わせでもしたの!?」
掛け合い漫才のようなやり取りに、ラーメン屋の空気は一気に和やかになった。箸がぶつかる音や麺をすする音に混じって、ワハハハハ〜と笑い声が弾け、店内の雰囲気は自然と明るくなる。
――と、その時。
ガラリ、と引き戸が開き、外の冷気がすっと入り込む。その隙間から姿を現したのは、ショットガンを抱えた小柄な少女だった。彼女は戸口で立ち尽くし、小動物のようにおどおどと声を発した。
「……あ、あのぅ……」
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
接客の声が弾む。少女はぎこちなく答える。
「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」
「一番安いのは……580円の紫関ラーメンです! 看板メニューなんで、おいしいですよ!」
「あ、ありがとうございます!」
少女はほっとしたように深く頭を下げると、そのまま店を出ていった。セリカが「え?」と首を傾げる間もなく、再び扉が開く。今度は、先ほどの少女を含めた四人組がぞろぞろと入ってきた。
「えへへ、やっと見つかった。600円以下のメニュー!」
「ふふふ、ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」
「そ、そうでしたか。流石社長、何でもご存知ですね」
「はぁ……」
社長と呼ばれた少女の自信満々な態度と、黒髪混じりの白髪の少女の深いため息。そのコントラストは、まるで舞台劇の一幕のようだった。銀時たちも思わず箸を止め、視線をそちらへ向ける。
「四名様ですか? お席にご案内しますね」
「んーん。どうせ、一杯しか頼まないから大丈夫」
「一杯だけ……? でも……どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いている席も多いですし」
「おー、親切な店員さんだね! ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、我儘ついでに箸は四膳でよろしく」
「え? 四膳ですか? ま、まさか一杯を四人で分け合うつもり?」
セリカの驚愕の声に、ショットガンを持った少女は慌てて頭を下げ、何度も謝罪を繰り返した。
「ご、ご、ごめんなさい! 貧乏ですみません! お金がなくてすみません!」
「あ、い、いや……! その、別にそう謝らなくても……」
「いいえ! お金がないのは首がないのも同じ! 生きる資格なんてないんです! 虫けらにも劣る存在なのです! 虫けら以下ですみません……!」
「はぁ、ハルカ。声が大きいよ。周りに迷惑……」
仲間にたしなめられてもなお、彼女の自虐は止まらない。だがその言葉に、思いがけない人物が共感の声を上げた。
「そんな! お金がないのは罪じゃないよ! 胸を張って!」
「なんか、ツンデレが共感し始めてんだけど」
銀時が小声で呟き、周囲がクスリと笑う。
アビドスの借金地獄を考えれば、確かにセリカの反応も頷けるところではある。もっとも、彼女の場合は詐欺に引っかかりやすいだけかもしれないが。
「は、はい……!?」
「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生なんだし! それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ? そういうのが大事なんだよ! もう少し待っててね。すぐ持ってくるから」
セリカは優しく笑みを浮かべ、彼女たちを席に案内した。そして、すぐに柴大将の元へ駆け寄り、オーダーを通す。その背中には、どこか誇らしげな気配が漂っていた。
「なんか勘違いされてるみたいだけど……?」
「まぁ、私たちもいつもはそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。しいて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」
肩をすくめ、どこか呆れ混じりに交わされる言葉。四人は案内された席へ腰を下ろし、椅子の軋む音とともに賑やかなやりとりを再開する。
「お待たせしましたぁ! 熱いので気を付けてください!」
威勢の良い声が響き、思わず視線が厨房から伸びる影へと向けられる。そこには先ほどの給仕――セリカが、両腕に抱えるように大きな丼を運んでいた。次の瞬間、テーブルの上に置かれたそれを見て、四人の少女だけでなく、隣席の銀時までもが目を剥いた。
――あまりに、規格外。
丼というより、もはや鍋。山のように盛られた麺と野菜、その上に鎮座する肉塊は圧巻で、「次郎系」など霞むほどの迫力だ。
「ひぇっ!? 何これ!? ラーメン超大盛じゃん!」
「ざっと、十人前はあるね……」
引きつった笑みを浮かべるカヨコとムツキ。その横で、ハルカは慌てて声を上げた。
「こ、これはオーダーミスなのでは? こんなの食べるお金、ありませんよぅ……」
だが、セリカは屈託のない笑みで首を横に振る。
「いやいや、これで合ってますって。580円の紫関ラーメン並! ですよね、大将?」
「あぁ。ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」
柴大将の低くも温かい声が返る。冗談のような理由だが、その裏にある気遣いは容易に想像できた。――お腹を空かせた少女たちへの、無言の厚意。
「大将もああいってるんだから、遠慮しないで! それじゃ、ごゆっくりどうぞー!」
セリカは軽快に去っていき、残されたのは天を衝く山の如きラーメン。いくら食べ盛りとはいえ、この量を高校生だけで食べきれるのか。銀時でさえも内心「無理だろ」と舌打ちしたくなるほどであった。
「う、うわぁ……」
「よくわかんないけど、ラッキー! いっただきまーす!」
「……ふふふ、流石にこれは想定外だったけど、厚意に応えて、ありがたく頂かないとね」
「食べよう!」
言葉と共に、箸が一斉に動き出す。麺を啜った瞬間――。
「……っ!」
驚愕と感嘆が同時に弾け、四人の目が大きく見開かれた。
「なかなかイケるじゃん? こんな辺鄙な場所なのに、このクオリティなんて」
「でしょう? おいしいでしょう?」
ふと気付けば、隣席からノノミが笑顔で話しかけていた。いつの間にか、シロコやホシノたちも席を立ち、興味津々と近寄ってきている。
「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ」
「えぇ、わかるわ。色んなところで色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの」
「えへへ……私たち、ここの常連なんです。他の学校の皆さんに食べていただけるなんて、なんか嬉しいです」
「その制服、ゲヘナ? 遠くから来たんだね」
「私、こういう光景を見たことがあります。一杯のラーメン、でしたっけ」
「うへ~、それは一杯のかけそばじゃなかったっけ?」
「……(連中の制服……)」
賑やかな笑い声。だがその中で、カヨコの視線が制服へと注がれる。瞬きの間に、彼女の思考が鋭く結びつく。
(アレ? ……ホントだ)
隣のムツキと目を合わせるだけで、互いに理解した。彼女たちは――アビドスの生徒。
「うふふふっ! いいわ。こんなところで気の合う人たちに会えるなんて。これは想定外だけど、こういう予測できない出来事こそ人生の醍醐味じゃないかしら!」
「アルちゃんは気づいてないみたいだけど?」
「……言うべき?」
「……面白いから放っておこ」
「……はぁ」
アルの天真爛漫な笑顔を前に、カヨコは呆れと安堵が混じるため息を吐く。
だが――視線の端に、妙な存在感を放つ影が映った。
爪楊枝で歯をいじり、気怠げに椅子へ凭れる銀髪の男。
「大人の男」というだけでも目を引くが、その姿には、どこかで聞いた伝説めいた噂が重なる。
(アレ……? もしかして、あの人って――木刀一本で鬼の様に暴れまわったっていう噂の、シャーレの先生じゃ……?)
背筋に冷や汗がつっと伝う。
今回の依頼――アビドス襲撃。
成功するか否か、ではなく。
「大変なことになる」のは、向こうではなく――自分たちの方だ、と。
「じゃあね!」
手を振る声が路地裏に弾んだ。
アルたちはラーメン屋を後にし、通りへと歩みを進める。振り返れば、ノノミが笑顔いっぱいに両手を振って見送っていた。その姿に応えるようにアルは頬を緩め、胸いっぱいに満足感を詰め込む。
「ふぅ……。良い人たちだったわね」
彼女の口から零れたひと言に、すぐさまカヨコの深い溜息が重なる。
横を歩くムツキは肩を震わせ、笑いを堪えるのに必死だ。
「社長……あの子たちの制服、気付いた?」
「え? 制服? 何が?」
「アビドスだよ、アイツ等」
その一言に、アルの思考が完全に停止する。足が止まり、目を瞬かせ、やがて理解が追いついた瞬間――。
「なななな、なっ、何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
大通りに響き渡る叫び声。通りすがりの犬まで驚いて飛び退くほどの大声だった。
「アハハハハ! その反応うけるー」
「はぁ……。本当に全然気づいてなかった……」
ムツキは腹を抱えて笑い、カヨコは諦め顔で天を仰ぐ。
一方のアルは慌てふためき、声を裏返らせた。
「え? そ、それって私たちのターゲットってことですよね? わ、私が始末してきましょうか!?」
慌てるハルカの提案を、ムツキが軽く手を振って制す。
「あははは、遅い遅い。どうせもうちょっとしたら、攻撃を仕掛けるんだし、その時暴れよっ。ハルカちゃん」
「う、嘘でしょ……あの子たちが? アビドスなんて……。う、うぅ……なんという運命のいたずら……」
膝を抱え込みそうな勢いで呻くアル。その様子にカヨコはまた一つ、重たい吐息を漏らす。
「何してんの、アルちゃん。仕事するよ」
「バイトの皆が、命令が下るのを待ってる」
「本当に……? 私たち、今からあの子たちと……!?」
目に涙を滲ませたままのアルを、ムツキが愉快そうに見やりながら肩を竦める。
「あはは、心優しいアルちゃんに、この状況はちょっとキツいねー。でも、『情け無用』『お金さえもらえれば何でもやります』がうちのモットーでしょ? 今更何を悩んでいるの?」
「そ、そうだけど……」
(これ、完全に参ってるね……)
カヨコは心中で呟く。だが次の瞬間、アルは両頬を叩き、瞳に力を宿らせた。
「こ、このままじゃダメよ、アル! 一企業の長として、このままじゃ! 行くわよ! バイトを集めて!」
気合を入れ直し、勢いよく一歩を踏み出す。
その背を見ながら、カヨコは言うべきか迷った末、口を開いた。
「社長、アビドスと一緒にいた大人の人いたでしょ?」
「え、えぇ。そういえば、いた気がするわね」
「そういえばいたね~。銀髪の天然パーマの人」
「その銀髪なんだけど……多分、最近噂になってるシャーレの先生だと思う」
「シャーレの先生……?」
――あ、これも知らないんだ。カヨコは確信する。
その時、ムツキが眉を跳ね上げた。
「もしかして……木刀一本で銃弾を斬ったり、弾いたり、銃を斬ったり、戦車を破壊したりして鬼の様に暴れまわったっていうあのシャーレの先生?」
「そう。銀髪天然パーマに死んだ魚の様な目、そして『洞爺湖』ってお土産の様な木刀がテーブルに立てかけられてた。SNSで上がってる特徴と一致してる。つまり、アビドスと戦う時は……不良から『白夜叉』って呼ばれて、恐れられてるそのシャーレの先生と戦うことにもなるってこと。さらにいうなら、外から来たっていう話だから、銃弾一発で死ぬ可能性もあるから、当たる場所を間違えたら……」
カヨコの冷静な説明に、アルの表情は瞬く間に蒼白に変わり――。
「な、なななな……何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
再び絶叫。街路に木霊するその声は、先ほどの驚きよりもさらに深刻で、彼女たちの前途の困難さをいやがおうにも予感させるものだった。
アルが息を吸い込み、顔を引き締めて胸を張ると――その声は道にこだまする鐘のように、周囲の空気を震わせた。
口先だけでもよい、気合いでもよい。だが彼女の中の何かは確かに変わり始めていた。
「まあでもとりあえずさ〜?『情け無用』『お金さえもらえればなんでもやります』がうちの、便利屋68の、アウトローのモットーでしょ?今更何を悩んでるの?」
ムツキの言葉が、乾いた笑いとともに集団に降り注ぐ。アルはその笑いに惑う素振りを見せず、震える拳を握りしめた。
「そ、そうだけど…。…ええそうよ、このままじゃダメ。一企業の長として、このままじゃダメなのよ!陸八魔アル!…たとえあの人がヤバい人でも!!」
全力で格好をつけたその一声は、滑稽さと覚悟を同時に含んでいた。アルの頬を紅潮が駆け抜ける。口元には小さな決意の笑みが残る。
「行くわよ!傭兵バイトを集めて!アビドスに!」
その号令は軽薄な冗談のようにも聞こえたが、実態は違った。アルは自分を奮い立たせるために戯れを装い、動き始めたのだ。
――傭兵。
名ばかりの響きの裏にある現実はもっと無骨で冷たい。ヘルメット団と並ぶ存在でありながら、能力の差は微妙。彼らは安全帽を被り、個性を抑え、盾となり、土を掘り、瓦礫の下で手を動かす。戦闘ではタンク役に甘んじるしかない。金に動く者たち。だが、金は時に勇気を買う。
「キャンセル!?な、なんで急に……え?あの人とやり合うのはごめん?その人って…あ、ちょっと!」
電話越しの声が割れて、焦燥が伝播する。現場の雰囲気は瞬時に変わった。
「これで何人目?返品早かったし……」
「んー雇った人数の半分くらいかな〜……60あったのが30!」
「ど、どどどうしてきゅうにやめたんでしょうか……」
アルが必死に取りまとめようとする中、雇っていたバイトの何人かが音もなく去っていく。理由は、単純で残酷だった。あの“白夜叉”と噂される男――木刀で戦車を斬り、銃弾を弾く男の存在。ある一人の傭兵が先ごろアビドスでの事件の一部始終を目撃し、その記録を仲間に流した。画面の中で木刀が光り、戦車が裂け、トラックが止められる様子は、嘘でなく本当に恐ろしく見えた。
画面を見た連中の声は、間違いなく萎えていた。勇気は札束ほどに重く、しかし脆い。金で買った雇用は、恐怖の前では簡単に解約される。そうして、予定の人員は一気に減った。
「それだけやばい人がいるって事だろうね〜……で?どうするのアルちゃん」
「……き……決まってるじゃない! 残ってる兵力だけでアビドスを襲撃しにいくのよ!」
アルの回答は、声だけは大きかった。震えが含まれているのを、聞く者はみな見逃さなかった。理性は揺らいでいる。だが彼女は自分に言い聞かせるように続けた。
「本当に大丈夫?電話越しの声がだいぶ震えてたみたいだったけど」
「大丈夫よ! 流石に集団で行けば、簡単よ!」
言葉と裏腹に、アルの手は小さく震えている。だが、その震えは決意の震えでもあった。残ったのは、女社長アル、鬼方カヨコ、浅黄ムツキ、伊草ハルカの三人と、数名の残留バイト。金は払われる。だから動く。そういう現実主義が、彼らの背中を押したのだ。
荒れた砂丘の向こう、あるいは廃ビルの影。アビドスの名が風に乗って届くたび、四人の影は少しずつ大きくなっていった。
行くのか、引くのか。倒すのか、逃げるのか。選択はいつだって金と恐怖の狭間で決まる――そして今、彼女たちは金を選んだのだ。
――――――――――――――――――――
食事を終えて間もなく、アヤネの張り詰めた声が教室に響き渡った。
「校舎より南十五キロ地点付近で兵力を確認!」
モニターに映し出されたのは、砂煙を巻き上げながら進軍する影の群れ。無骨な装甲に身を包み、手にする銃は冷たく光を反射している。
「ヘルメット団?」ホシノが気だるげに首を傾げる。
「い、いえ! ヘルメット団ではありません! この装備は……傭兵です! 日雇いの傭兵!」
アヤネの声がわずかに震える。
「へぇー、傭兵かあ。あれ結構高い筈なんだけどなぁ」
「ホシノ先輩も利用経験が?」とセリカが問いかける。
「うへぇ、まさかぁ。カタログ見たことあるだけだよー……アビドスにバイト代払えるようなお金ないしねー」
次第に緊張が高まる。アヤネは歯を食いしばり、拳を握り込んだ。
「これ以上接近されると危険です!耐久力に物を言わせて、無理矢理校舎まで押し入ってくる可能性があります!こちらから迎撃しましょう!」
そんな焦燥を他所に、銀時は木刀を背に預け、無造作に手をひらひらさせた。
「じゃあ今回はお前らで傭兵どもを相手しな」
「ん、銀ちゃんは戦わないの?」とシロコ。
「いい加減俺がいねぇ時にも倒せるようになった方がいいだろ。それに今回はただの傭兵。お前らが本当にこの学校を守りたいなら、ちったぁ自分たちで追っ払いな!」
その声音は軽いが、眼差しは真剣だ。
「そうですねー…いつまでも銀さんに守ってもらうのもいやですし」
「よーしおじさん達だけで……行ってみよー!」
「そうそう、行ってこい行ってこい。てな訳で銀さんはジャンプ読んどくから終わったらコールするように……いや、やっぱコールもなしで」
「銀さんジャンプ読みたいだけですよね!?」
アヤネが部屋に残ったまま銀時にツッコミを入れる中他の四人は外に駆け出した。
ノノミのミニガンが唸りを上げ、烈風のように火を噴いた。地響きのような轟音とともに、弾丸の雨が敵をなぎ払う。ホシノは前線に躍り出て、正確な射撃で迎撃。シロコとセリカは影のように駆け抜け、敵陣を翻弄した。
「ハイハイどいたどいたー!!」
「ん、やっぱり戦いやすい!」
「このまま押し切っちゃえ〜、あ、そこ攻撃しようとしてもダメだよ?」
戦況は圧倒的にアビドス側が優勢。銀時もその様子を眺めながら、口元に笑みを浮かべる。
「やるじゃねぇか、これだけ強けりゃ俺の助けはいらねぇな」
しかし、その油断を嘲笑うかのように、次の瞬間――
ドオオオオン‼︎
大地を揺るがす轟音が響き渡り、砂煙が視界を覆った。衝撃波が校舎を揺らし、アビドスのメンバーは一瞬で動きを止めた。爆風と飛来したカバン型爆弾が弾け、焼け焦げた風が頬をなでる。
砂煙を割って姿を現したのは――四つの影。
「あれって柴関ラーメンの時の……!」
ホシノが目を見開く。現れたのは、便利屋68の四人だった。
「ん。流石についさっき見たから忘れない。……なんでここに?」シロコが低く呟く。
「ラーメン無料で特盛にしてあげたのに! この恩知らず!」
「あはは! それについてはありがとね! バイトちゃん! でもそれはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさー」
「残念だけど公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はキッチリこなす。それが便利屋68のモットー……でしょ? 社長」
「うふふ……そうよ。それが私たちのモットー! よくわかってるじゃないカヨコ!」
アルの声に銀時は鼻を鳴らす。
「へぇ〜わざわざ恩を返しに傭兵まで雇ってくれるたぁ、なかなかしゃれたことするじゃねぇか」
セリカが冷静に言葉を差し挟む。
「いや別に銀ちゃんは彼女たちに何もしてないわよね?柴大将だけが吐けるセリフなんだけど?」
銀時は木刀を握り直し、一歩前へ。
「よし!選手交代だ!これからは銀さんのパートタイムってわけで出てこ〜い悪ガキども。」
その姿を見た瞬間、傭兵たちの顔から血の気が引いた。
「ヒェ!?」
「ほ、ほらぁやっぱりいるじゃん!!」
「どどどどうしよう! 私たち真っ二つにされちゃう!!」
わめき散らす傭兵を前に、カヨコが眉をひそめる。
「な、なんなの? そんなにやばいのあの人」
「ヘイローもないし……別に普通だと思うけどなー」
アルは一瞬逡巡し、そして策をひねり出す。
「全員、手榴弾は持ってるわよね!」
「え、待ってまさか」
「前衛! アビドス校舎へ向けて手榴弾を投げるのよ!」
「社長!? 何考えてるの!?」
「大丈夫よカヨコ、あの人はヘイローを持っていない……つまり! この手榴弾を受けたら怪我を負うのよ? だから怪我をしないために逃げるはず!」
「た、確かに!」
「そりゃそうだー!」
十数人の傭兵が一斉に手榴弾を振りかぶり、銀時めがけて投擲する。アルは勝利を確信し、不敵な笑みを浮かべた。
(フフッ、これであの人は退去……ついでに他のアビドス生もそれで動揺したところを追撃!完璧よ私……!)
――だが、次の瞬間。
「逆転さよならーー」
銀時の木刀が大気を裂いた。
「ホームラン!!!」
風を巻き込み、鋼鉄をも打ち返す一閃。飛来した手榴弾は見事に弾き返され、軌跡を描いて投げ主の陣地へと逆落としに突き刺さった。
ドォォォォォォォォォォォォン!!!
爆炎が夜を切り裂き、悲鳴が戦場に木霊する。
『キャァァァァッッ!!!?』
傭兵たちは一瞬で瓦礫と化し、残された者は口をあんぐりと開けるばかりだった。
「ほ――へ?」
「は?」
「ふ?」
「ほ?」
アルが呆然と投げつけた方を見ると、そこには傷一つない銀時が涼しい顔で立っていた。
「――あれ!?い、今何があったの?」
「ぼ、暴発ですかぁ!?」
「……違う、私見てた」カヨコが低く告げる。
「カヨコちゃんほんと!?」
「うん……さっき、手榴弾があの人に投げられた瞬間」
彼女は喉を鳴らし、乾いた唾を飲み込む。
「木刀を凄い勢いで横に振って、手榴弾を打ち返してた」
「なななな、なっ、何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
アルの絶叫が夜気を震わせる。便利屋の混乱を尻目に、ホシノたちは残った傭兵を一掃していた。轟く銃声、炸裂する閃光。砂煙の向こうで、敵影は次々と崩れ落ちていく。
「はわわわわ!」
「落ち着いて社長、敵は今のところ傭兵達に集中してる……この隙にあの人を無力化しないと」カヨコの低い声が響く。
「そうは言ってもカヨコ! 相手は木刀で起こした風で手榴弾を撃ち返す人なのよ!?」
「だ、だとしても……やるしかないでしょ? いくらあの人が強くても、弾丸を喰らえば少なからず動き止まる」
「アッハハ!カヨコちゃんの言う通り! ……やっちゃおう!」
「ごめんなさいごめんなさい死んでくださいごめんなさい!」
銃口が一斉に銀時を狙う。最初に仕掛けたのはムツキだった。
「ごめんね〜死んでる目の人!」
乾いた銃声が連続し、火花が夜を切り裂く。だが銀時は、銃弾より速く地を駆けた。
サッ、サッ、サッ、サッ――。
足音は風のように軽やかで、ムツキの弾丸はことごとく空を撃ち抜くだけだった。
「アッハハハハ!目は死んでるのに体の方は凄いね! ……あれ、なんで一つも銃弾受けてないの?」
「死んだ目のことはいいだろ! 撃ち方が単調なんだよ、元の世界での奴らの方がもっと渋とかったぜ」
「そうなんだ……けどごめんね?」
次の瞬間、地面が破裂した。
ドンドンドン!!
ムツキの鞄から零れ落ちていた地雷が次々と爆ぜ、爆炎が銀時を呑み込む。
「私って卑怯なんだー……けど、これ大丈夫なのかな。あの人ヘイローをもってないから、耐久力とかは普通の人だと思うし」
しかし――。
「捕まえた」
爆煙を裂いて伸びた銀時の手が、ムツキの腕をがっしりと掴んでいた。
「アハ――え!?」
「やるなぁ。銃撃をあえて単調にして避けたところに地雷を置くたぁ……でも残念。こんぐらいの火力じゃ俺は倒せねぇよ」
銀時はムツキのバッグをひょいと奪い上げると、木刀で思い切り打ち払った。凄まじい風圧が走り、バッグは空を裂いて遠くへ飛び――大爆発。
ムツキは普段の笑顔を引きつらせ、狼狽を隠せなかった。
「な、なんでピンピンしてるの? ヘイローとかもってないでしょ?」
「んなもん根性で何とかすんだよ、大人を見くびんのも大概にしろってんだバカヤロー」
本当はアロナの防御バリアを張っていたが、それは胸の奥に隠しておく。
(あ、危ねぇ……銀さん危なかったよ!顔に出てないよね?舐められてないよね!?)
「……あれ地雷だよ!?」
(大丈夫だァ、マジで良かったァ〜……じゃなくて! なんで地雷なんて危ねぇもん仕掛けてくんのあの子! 一応銀さん人間だからね!?お前らと違って普通の人間だからね!!)
今度は遠距離から狙撃とハンドガンの雨。だが銀時はそのすべてを紙一重でかわしていく。
「なんでスナイパーとこっちの弾を避けれるの? 完全に気配は消してたのに」
「戦いの中で目覚めた勘って奴だ」
(決まった!今の銀さんかっこいいよく決まった!)
銀時は敢えて攻撃を控えていた。便利屋の情報を引き出す必要があるからだ。避けるだけで充分。掠ったところで全身を撃ち抜かれない限り、致命傷にはならない。
――カチャリ。
「う――動かないで……くくください」
背後からの気配。ハルカが銀時の後頭部にショットガンを突きつけていた。
「ナイスよハルカ!」
「あ、アル様に褒められた……うへへ」
アルが密かに合図を送っていたのだ。勝利を確信し、ハルカの笑みが緩む――が。
シュバッ!
「――はれ?」
「確かに、筋は良かったが爪が甘かったな」
銀時の木刀が閃き、ショットガンは音もなく真っ二つに裂け落ちた。
「え!?」
「嘘でしょ?」
「……まさかあの話は本当だったの!?」
「ねぇ、あなたは一体何者なの!?」
銀時は木刀を肩に担ぎ、肩をすくめる。
「俺は坂田銀時、万事……いや、一応先生やってま〜す」
「先生……え? じゃあシャーレ……の、先生!?」
便利屋の顔色が変わった、その時――。
「銀ちゃ〜ん!こっちは終わっ……派手にやったみたいだね」ホシノたちが合流してきた。
「なに言ってんだ、これでも手を抜いた方だ」銀時は軽く笑う。
「ん、お疲れ様」シロコが短く労いをかける。
「お疲れ様です銀ちゃん!」セリカが敬礼するように声を張った。
「お前らもやれば出来ると思ってたぞ」
「ふ、ふん!あんな人数なんてことないわよ……それで?この人達はどうするの?」
銀時は顎に手を当てて考える素振りを見せ、やがてにやりと笑った。
「ひとまずこいつらの雇い主について取り調べするが……亀仙流の道場に入会させね?」
『なんで!?』
アビドスと便利屋、二つの声が見事に重なった。
瓦礫の上、まだ戦いの余韻が残るアビドスの校舎跡で。
便利屋一行とアビドスの仲間たちが向かい合う中、冷静な声が響いた。
「ん、銀ちゃん。聞いてほしい」
シロコが無表情に口を開く。
「こいつらマジで金持ってない。自分の昼食すら満足に出せない癖に、キヴォトス一番のアウトローになりたいとかほざいてる」
淡々とした言葉に、陸八魔アルの肩がガクッと落ちた。
「おいシロコ……なんかあいつらに恨みでもあんの?」
銀時があくび混じりに目を細める。
「止めたげてください!」
アヤネが両手を広げて飛び出す。
「言葉のナイフがすぎますよ、シロコ先輩! 陸八魔さん、今にも泣きそうになってんじゃないですか!!」
案の定、アルは今にも涙目で口をパクパクさせていた。
「よくも……アル様を馬鹿に――」
ハルカが顔を真っ赤にし、銃を構えそうな勢いで叫ぶ。
「死んでください死んでください死んでください!」
「ちょいちょい、なに殺意丸出しな視線を向けてんだよコラ」
銀時はため息を吐き、ポリポリと頭を掻いた。
「はぁ? 俺らがアルちゃんをいじめた……? ったく、ちょっと強く言ったくらいで凹むなんざ、これだからゆとり世代はよ。ビッグモーターに修理出した車ですか〜? どーせお前らみたいなのは、ツイッターのリプにマジレスして草枯らしに没頭してんだろ」
毒舌を浴びせられ、アルは更にうるうると目を潤ませる。
「ん、銀ちゃんは頼りにならない」
シロコは冷ややかな目で銀時を一瞥し、アルへと向き直る。
「そんなにアウトローになりたいなら、私が教えてあげる。真のアウトローへの道は長く険しいよ。心してかかることいいね」
「し、シロコ先輩……?」
アルの目が期待に輝き出す。
「それじゃあ、まず最初の一歩は――」
シロコの声に皆が固唾を呑む。
「これができなきゃアウトローになろうなんて夢のまた夢。たいした努力もしてないのに“アニメ好きだから声優目指す”って言うアホと同じ。準備はいい? 私の言う通りにすること」
「はい! アウトロー先輩!!」
アルが拳を握り、眩しい笑顔で答える。
「ちょっとちょっと! 銀さんが知らないところでとんでもないことになってんだけど!」
銀時が慌てて両手を振る。
「ルパンに“四世”が誕生しようとしてんだけど!?」
「よし、いい返事」
シロコが淡々と頷く。
「じゃあ今からここで――」
「シロコ先輩、ストップ!」
慌ててセリカが割って入った。
「ん、セリカ何? 今いいところ」
「いいところじゃない! どうせまた絡でもないこと言い出すんでしょ!!」
「ん、別に大したことじゃない」
シロコは無表情のまま首を傾げる。
「ただ、『お前ら笑うなっ! こいつは誰も知らないところで、毎日アウトローになるために過酷な【ピー】をする。会うときには既に【ピー】がトロトロになってる』――略して『アウトロー』って言おうとしただけ」
「何がアウトローだ!」
銀時が木刀を振り上げ、ツッコミを炸裂させる。
「ただのド下ネタの間違いだろうが!!」
「ちょ、ちょっと! シロコ先輩が真剣な顔で言うから……」
アヤネが半泣きで叫ぶ。
「陸八魔さん、信じかけちゃってますよもう!」
アルは「え……?」とまだ目を輝かせており、セリカが頭を抱えるのだった。
緊張の空気を切り裂いたのは、ホシノの気だるげな声だった。
「というかさ〜……この子たちと本当に仲良くできると思ってる?」
愛銃を肩にかけ、目を細めて便利屋たちを見回す。
「おじさんはさ、アウトローを極める人たちがそんなことするとは思えないんだよねー」
軽口のようでいて、胸を抉る鋭さ。
アルはぐっと唇を噛みしめた。
「ただの天然お人よしのおバカさんなら話は別だけど」
「ぐっ……」
見事に図星を突かれ、アルの肩がしおれていく。
「あちゃー、アルちゃん。これ完全にバレてるよ〜」
ムツキは頬に指を当て、困ったように笑った。
「どうするの?」
「はぁ……」
カヨコがため息をつき、肩を竦める。
「どうせまた、無理やりキャラを使って乗り切ろうとするんでしょ」
「そう! 私たちは便利屋68……そして真のアウトロー!」
アルは胸を張り、叫んだ。
「敵と仲良しこよしなんてするはず――」
「何が真のアウトローだコノヤロー!」
銀時の一喝が彼女の言葉を叩き潰す。
「お前たちみたいな甘ちゃんどもが真のアウトローなら、世の中の大人全員なれてるわ!」
木刀を肩に担ぎ、銀時は煙草でも咥えるような調子で続けた。
「それに、真のアウトローが友を持たねぇなんて誰が決めた? 無法者にルールがあるわけねぇだろ。……何故ルールがねぇのか。そいつは、ルールで縛れない“魂”を持ってるからだ。己の魂を曲げずに突き進む……俺は、そんな強ぇ奴こそ真のアウトローだと思うね」
その言葉は、アルの胸にストンと落ちた。
彼女は小さく息を呑み、銀時を見上げる。
「……確かに。私は勝手に“アウトローはこうあるべき”って決めつけて、自分を押し殺してた。ありがとう、先生……。あの……今からでも、仲直りできるの?」
「出来るだろ。お前らが本当にそうなりたいならな」
銀時がぼそりと返すと、アルは勇気を振り絞りホシノたちの方を向いた。
「この度は……恩を仇で返すような真似をしてごめんなさい!」
深々と頭を下げる。
「私たちに出来ることがあれば、何でもするから……仲良くしてもらえない?」
その謝罪に、アビドスの面々は一瞬きょとんとし――やがて笑みを浮かべた。
「うへぇ〜、びっくりだよ」
ホシノが肩を竦める。
「こんなに素直な子たちだったなんて。こちらこそよろしく」
「まぁ、校舎に傷も付いてないし……今回だけは見逃してあげるわ」
シロコが淡々と頷く。
「もちろんです♪ よろしくお願いします」
セリカがにっこり笑い、手を差し伸べる。
「いつもなら絶対許してないけど……銀ちゃんが許したし、いいよ」
アヤネも苦笑しつつ肩をすくめた。
こうして互いに手を取り合い、アビドスと便利屋の間に新たな友情が芽生えた――その瞬間。
ピリリリッ、と携帯の振動が場の空気を切り裂いた。
アルが慌てて取り出し、応答する。
「わ、私だ……は? 襲撃した便利屋達とアビドスの生徒どもが仲良く会話しているだと!? 馬鹿も休み休み言え!! 私は忙しいんだ!」
プツン、と乱暴に切られた通話音。
受話器の向こうでは、別の声が嘆息していた。
「……何を言っているんだ、うちの社員は。あのゲヘナ出身の便利屋、それもアウトローを目指す者たちがそんなことをするはずがないだろうに。……はぁ、疲れているんだな」
皮肉めいた独白だけが、冷たい空気の中に取り残されていた。
――――――――――――――――――
次回予告
銀時「ブラックマーケット?」
アヤネ「はい今まで攻めて来たからの武器は全てブラックマーケットで入手されていることが判明しました。」
シロコ「ん、じゃあここでそれらに関する情報が得られれば…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
???「わぁ〜、ブラックマーケットには何回も来たことはありますが、ペットのペロロ様を見るのは初めてです。」
???「ペロロじゃない!エリザベスだ‼︎」
次回「ジジイになってもあだ名で呼び合える友達をつくれ」
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
-
銀時
-
新八
-
神楽
-
沖田
-
土方
-
山崎
-
高杉
-
桂
-
定春
-
エリザベス
-
ホシノ
-
シロコ
-
ヒナ
-
アコ
-
ミカ
-
ナギサ
-
セイア
-
ユウカ
-
ノア
-
近藤