透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
山海経高級中学校にある幼稚園に相当する組織(部活)。
山海経に属する小学生未満の幼児(園児)と、園児たちの世話をしつつ教育をほどこす教官が属している。
山海経は「子供は宝」をモットーにこういった幼児の教育へ力を入れており、現在は「健やかに在るべき中立地帯」として、同校の生徒会である玄龍門を筆頭に多くの派閥から庇護されている。
そのため、ここを悪事や抗争に巻き込む事はタブーとする暗黙の了解が存在し、もし破れば恥知らずとして、山海経でかなりの悪評とペナルティを被ることになる。
そこの教官の1人である春原ココナが子供たちのテストの採点をしていた。
「72点、53点、81点、48点…・・」
「ふう、今日の分の採点はおしまいっ! ふわぁ〜っ…」ココナは疲れた顔をして、伸びをする。
「ん〜… 子ども達は、どうして勉強が嫌いなんだろう?」
「そんなに難しい問題でもないのに、いつも補習が必要な子がいるし……」ココナはため息をつく。
「難しい問題が多いと、またシュン姉さんに怒られちゃうし……」ココナは頬を膨らませる。
その時、聞き慣れた声が響いた。「こんにちは、教官ちゃん。梅花園で会うのは久しぶりだね。」ルミが軽く微笑みながら現れる。
「あっ、ルミ会長、こんにちは!」ココナはすぐに立ち上がる。
「それより、教官ちゃんじゃないです!私には、ココナという名前がちゃんとあるんですよ!」
「ははっ、ごめんね。ココナちゃんが可愛くて、つい。元気だった?教官の仕事はどう?」ルミが楽しげに尋ねる。
「(ココナちゃんって呼ばれるのも、子ども扱いされてるような気がするけど……)」ココナは内心で少しむっとする。「(立派なレディーは、この程度、いちいち気にしたりしません!)」と自分を励ましながら、微笑む。
「元気ですよ!私は一人前の教官ですから!」と、ココナは胸を張って答える。
すると、神楽と新八が続けて現れた。
「よぉ、ココナ教官!最近はどうアルか?」神楽が大きく手を振る。
「神楽ちゃん……一応僕たち初対面なんだけど?」新八が慌てて神楽をたしなめる。
「何言ってるアルか!ルミちゃんの友達は私たちの友達ネ!初対面なんか関係ないアル。ねぇ、ココナ教官?」神楽は笑いながらココナに肩を叩く。
「え、ええ…」ココナは苦笑いを浮かべる。
その時、玄龍門のミナと玄武商会のレイジョが姿を現す。「久しぶりだな、ココナ教官。何か困ったりしてないか?」と、ミナが低い声で尋ねる。
「急に訪ねて、迷惑ではなかったですか、ココナ教官。」レイジョが静かに続ける。
「め、迷惑だなんて、とんでもありません!ようこそ、梅花園へ!」ココナは慌てて頭を下げる。
「ところで…玄龍門と玄武商会の方が一緒にいらっしゃるなんて、珍しいですね?」ココナは少し不思議そうに尋ねる。
「これには事情があってな…」ミナは眉をひそめた。
「不本意ではあるのだがな……いいか、ココナ教官。この悪いお姉さんたちと遊んじゃダメだぞ。伝統の何たるかも知らずに、いつもコソコソと何か企んでるようだ。」ミナが横目でレイジョを見ながら警告する。
「ふん!こっちこそ、お前たちみたいな古臭いヤツらとは、付き合わないほうがいいアルよ!殻に籠もって、現代の風を感じないまま朽ちていくアルか?」神楽が挑発するように口を挟む。
「神楽、そんな言い方しないでよ…」新八がため息をつきつつ、神楽を止めようとするが、効果はない。
「こんな意地悪な人たちと一緒にいては、良くありませんよ。新しい文化を取り入れないで、殻に籠もっているような人たちですから。」レイジョが肩をすくめ、軽く笑った。
「言ってくれるじゃないか。言葉には気をつけたほうがいいぞ?それとも、言われたまま黙っているように見えたか?」ミナが冷たい目で言い返す。
「そちらこそ、よく考えてから口にする事です。」レイジョが静かに返す。
「あ、あはは……」ココナはその場の緊張感をなんとか和らげようとするが、うまくいかない。
「2人とも、子どもたちの前よ!」お妙が手を叩き、場をまとめる。
「ちっ。」ミナが舌打ちする。
「ふん。」レイジョが肩をすくめる。
「ありがとう、お妙ちゃんがいてくれて助かったよ。」ココナはほっとした表情でお礼を言う。
「それで、ココナちゃん。あたし達がここに来た理由なんだけどさ……」お妙が話を切り出す。
「最近、中身の分からない荷物を預かったりしなかった?」レイジョが疑念を込めて質問する。
「中身の分からない荷物、ですか……? ええっと……」ココナは首をかしげ、考える。
「あ!そういえば……!」ココナが突然思い出す。
「心当たりがあるのだな?」ミナが鋭い目を向ける。
「はい!この間、玄武商会のダンボールに入った食材を、『山海経の外で待ってる人に渡してほしい』と頼まれました!」
「やはり玄武商会の仕業が……」ミナが低く唸る。
「そう結論づけるのは早計ですよ。」レイジョが冷静に反論する。「ココナ教官、頼んできた生徒の顔や服装は覚えてますか?」
「いえ……具合が悪かったのか、マスクをしていたので……」ココナは少し申し訳なさそうに答える。
「顔を隠していたのか。ますます玄武商会の疑いが強まったな。」ミナが言葉を投げる。
「何を根拠に、私たちだと決めつけるんですか?」レイジョが鋭く言い返す。
「玄武商会は、食材のためなら何でもする。違うのか?」ミナがジッとレイジョを見つめる。
「否定は、できませんが……」レイジョが唇を噛む。
「たとえ下部組織であっても、違法な手段に手を染めていたら、誰よりも先に私に連絡が入ってくるはず。」レイジョは自信を持って言い切る。
「ほう、ルミ会長じゃなくてか?」ミナが皮肉を込めて口を挟む。
「まあ……そっちの仕事は、レイジョに任せてるからね……」ルミが少しだけ間を置いて、静かに答えた。その表情はどこか複雑なものだった。
「レイジョの目は信用できるよ。あたしが保証する。」ルミはレイジョの信頼性を強調するが、その声にはどこか張り詰めた空気が漂っていた。
「あっ!それと……梅花園の園児にも、似たような『おつかい』が頼まれたんです。」ココナが突然何かを思い出したように言い出す。
「園児たちに!?」「子ども達に……ですか!?」その場にいた全員が驚きの声を上げた。幼い子どもたちが巻き込まれている事実が、彼らにとっては衝撃だった。
「…もう少し、詳しい話を聞けないか」ミナがさらに詳細を求めるように言った。その目は真剣さを増している。
「う~んと……その、梅花園の園児は、おつかいの練習で配達の依頼を受けたりしてるんです。いつもは近所の方からの依頼が多いんですが……ここ最近、いくつか山海経の外に荷物を届ける依頼が来ました。」ココナは一つ一つ丁寧に説明した。
「その依頼を受けたんですね?」ミナが冷静に確認する。
「え……?はい、受けました。危険な物ではないと言われましたし、何かあれば守ってくれるとの事だったので……」ココナは少し戸惑いながら答える。彼女の言葉には、少しの不安が滲んでいた。
「私も一度だけ付き添ったんですが、特に問題はありませんでした。」ココナは自分の行動に自信を持って説明するが、その声にはまだ少しの揺らぎがあった。
「そもそも、山海経の園児に手を出すような怖いもの知らずが、キヴォトスにいるんですか?」新八が静かに問いかける。彼の言葉は、状況の冷静な分析を促すようなものだった。
「…ビンゴだな。」ミナが静かに呟く。
「えっと、何がですか?」ココナが不思議そうに尋ねる。彼女には状況がまだ完全に理解できていない様子だった。
「いえ、何でもありませんよ、ココナ教官。私たちはそろそろ行かなくては。」レイジョが穏やかな笑みを浮かべながら、場を締めくくるように言った。
「えっ、はい?お疲れ様でした……?」ココナは戸惑いながらも、去っていくルミたちに頭を下げた。彼らの背中を見送りながら、ココナは何か釈然としないものを感じていた。
「良い判断だったよ、レイジョ。ココナちゃんの前で話すことじゃないから。」ルミは去り際、レイジョに静かに囁いた。
「…子ども達に気づかれてはいけない。そうでしょう、ミナ執行部長。」レイジョが小さく答える。
「何も知らない子どもの善意を利用するなんて……」ミナが低く呟く。その言葉には深い怒りと悲しみが込められていた。
「すぐにでも犯人を見つけて、とっ捕まえてやる!玄龍門の力を総動員してでもだ!」ミナが感情をあらわにする。
「落ち着いて、ミナさん。」新八が冷静に彼女をなだめる。
「アレを聞いて、君たち黙っていられるのか?」ミナは激しい口調で言い返すが、ルミの言葉に冷静さを取り戻しつつあった。
「慌てても仕方がない、って言いたいんじゃないかな。」ルミが冷静に補足する。彼女の落ち着いた態度が、場を再び和らげた。
ミナが少し不満そうにルミを見つめるが、言葉を返すことはしなかった。彼もまた、今ここで感情的に動くことが事態を悪化させるだけであることを理解している。しかし、ミナの心中には焦りが渦巻いているのが、そのわずかな動きからも読み取れた。
ルミはそんなミナの焦りを感じ取りながら、淡々と続けた。「キミに玄龍門を動かすだけの権限があるなら、話は別だけど。」彼女の口調は変わらず落ち着いており、冷静さを崩さない。その言葉は一見、柔らかく響くが、実際には玄龍門の権力の複雑さと、ミナ自身の影響力について暗に指摘している。
ミナの眉が一瞬、ぴくりと動いた。彼にとって「権限」という言葉は、触れられたくない話題であったのだろう。玄龍門は古くからの伝統と規律を重んじる組織であり、ミナがそこですべてを動かせるわけではないことは彼自身もよく理解している。
ルミはそんな彼の微妙な反応を見逃さず、さらに続けた。
「あたしの知る限り、キサキでも難しいはずだよ。」
彼女は淡々と事実を述べているが、その一言は明確なメッセージを含んでいた。
キサキは玄龍門の中でも絶大な影響力を持つ人物だが、彼女でさえすべてを思い通りに動かすのは容易ではないという現実を、ルミは指摘していたのだ。
ミナの表情はさらに硬くなった。その目には、ルミに対する不満とわずかな苛立ちが混じっている。
「…随分と知ったような口を聞くのだな。」ミナが低い声で返した。
彼女の言葉は冷たく響いたが、どこか反論の余地がないことを自覚しているようだった。
「玄武商会で扱った事件でも……下の者を切り捨て、言い逃れする者の姿を多く目にしてきました。」レイジョが静かに続けた。
「個人の裁量に委ねているから、そんなことが起きるのだろう?」ミナが厳しく言う。
「…それで、梅花園の子ども達に犯罪の片棒を担がせたというのか?」ミナが眉をひそめる。
「まだ玄武商会を疑ってるなんて、マヌケボイルド……本当に頭が固いアルな」神楽がため息をついた。
「何度も繰り返しますが、うちがやったという確たる証拠はありません。」レイジョが静かに言い返す。
「レイジョの言う通りだよ。だからこそ、あたし達は調査をしているんでしょう?」とルミが付け加えた。
ルミは、静かな怒りをこめた声で切り出した。「梅花園を巻き込むだなんて、あたしも怒ってるよ。」その声は抑えたものであったが、その中には明確な決意が込められていた。彼女の表情は普段の冷静さを保ちながらも、どこか硬く、怒りが滲んでいた。梅花園、つまり無垢な子どもたちが巻き込まれることに、ルミは決して許せない思いを抱いていた。
ミナはそんな彼女の様子をじっと見つめ、問いかける。「もし玄武商会の関与が明らかになった場合はどうするつもりなんだ?」その言葉には、玄武商会が裏で暗躍しているかもしれないという疑念が込められていた。ミナの冷静な声は、真相を追求する強い意志を表している。彼はルミに対して、あくまで厳格な答えを求めているように見えた。
ルミはその問いに答えるため、深く息を吸い、少しの間を置いてから口を開いた。「あたしが責任を取る。商会の活動停止でも、解散でも、好きにして。」その言葉は驚くほど静かで、しかしその重みは周囲の空気を一気に緊張させた。ルミの眼差しは強く、そして揺るぎない覚悟が込められている。玄武商会の長として、彼女はすべての責任を背負う覚悟を持っていることを明確にした。
「会長!」「ルミちゃん!」「ルミさん!」その場にいた仲間たちが、驚きと戸惑いを一斉に声に出す。彼らの反応は当然だ。ルミが一言で解散という重大な決断を口にしたことに、全員が信じられないという表情を浮かべていた。玄武商会は彼らにとって、単なる組織以上の存在であり、彼女の言葉がそれを一瞬で消し去る可能性を示唆している。
「それで新八君、何か作戦があるの?」ルミが尋ねる。
「"罠を張るのはどうですかね。"」と、新八が提案した。
「罠………?」ルミたちは目を瞬かせた。
「はい、僕たちが玄武商会の動きを追い詰めるには、彼らが何かしら動きを見せる瞬間を捉えるしかない。証拠がないなら、証拠を作らせるんだ。」新八は真剣な表情で話し続けた。
その後神楽たちは作戦の実行に移るにあたり、すぐに移動した。
そして新八はココナにある頼みをしに梅花園に行った。
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「あ、帰ってきたんだ。ココナちゃんにお願いしてきてくれて、ありがとう。」ルミはふっと微笑みながら、新八を迎えた。彼女の言葉は穏やかで、まるで些細なことを頼んだかのように軽やかだったが、その背後にはしっかりとした信頼が込められていた。彼女にとって、新八が任務を無事に遂行してくれたことは、確かな安心材料だったのだ。
新八は軽く頷き、表情はまだ少し緊張していた。彼の中には、今回の「罠」の計画が本当に正しいのか、そしてこれがすべての問題を解決するのかという疑念が渦巻いていた。しかし、それを口に出す前に、ルミがゆっくりと彼に問いかけた。
「新八君はさ、大義の前に犠牲はつき物だと思う?」ルミの声は、どこか沈んでいるようでもあり、慎重に問いかけるような響きを帯びていた。彼女の目は新八をじっと見つめ、その瞳には純粋な疑問と同時に、深い内省が感じられた。
新八はその問いかけに少し戸惑い、眉をひそめた。しばらく考えた後、彼は口を開いた。「大きな志を遂げるためには、犠牲があっても仕方ない……結果さえ得られればそれで良い、とか……」彼の言葉は迷いがちで、明確な答えを見つけられないまま続けられていた。新八自身も、この問いに対してどう答えるべきか、まだ自分の中で整理がついていないのが明らかだった。
彼は玄龍門やルミ、そしてミナたちが関わるこの状況を考えれば考えるほど、単純に「犠牲」を受け入れるべきなのか、その意味をどう捉えるべきか、結論が出せなかった。
ルミはそんな新八の様子をじっと見守りながら、少し黙っていた。そして、やがて再び口を開いた。「あたしは……正直、よく分からない。」彼女の言葉は静かだったが、その中には彼女自身の迷いや疑問が感じられた。ルミもまた、すべての答えを持っているわけではなかった。彼女も新八と同じく、犠牲の問題について深く考え、悩んでいたのだ。
「でも、玄龍門なら……たとえ犠牲を払ってでも、目的を達成するだろうね。」ルミは少し遠くを見るように視線を外しながら、低い声で続けた。その言葉には、玄龍門という組織が持つ強い意志と、そのために何かを犠牲にしてでも前に進む覚悟が暗示されていた。
新八はその言葉を聞き、黙って頷いた。
「みんなの提案で『罠』を仕掛けることになった時……」ルミは思い返すようにゆっくりと語り始めた。「ミナが積極的だったのも、そういう考えだからだと思うし。」彼女の口調は落ち着いていたが、その中にはミナの強い決意を感じ取っていたようだった。
ミナは常に先頭に立ち、目的のためなら多少の犠牲を厭わないという姿勢を持っていた。それが彼の強さであり、同時に彼を突き動かしている要因でもある。新八もまた、それを理解していた。ミナの行動には確かに信念があり、そのために手段を選ばないという覚悟があることを、新八は否応なしに感じていた。
「確かに、何かを成し遂げるために犠牲が出ることもあるかもしれない。でも、それが本当に正しいかどうかは、その時の判断次第だと思うんです。」新八は真剣な表情で続ける。「目的を達成するために何でもしていいわけじゃないし、みんなが幸せでなければ意味がない。僕はそう思います。」
「そっか……」ルミは静かに頷きながら、新八の言葉に何かを考え込む様子を見せた。彼女の表情は柔らかく、しかしその奥にある決意は強く揺るぎないものだった。
「さてと、そろそろココナちゃんのところに行く時間だね。」ルミが再び切り替えるように言った。
「よろしくお願いします、ルミさん。」新八は真剣な眼差しで彼女に託す。彼の言葉には信頼が込められていた。
「心配しないで。商会の名誉にかけて、ココナちゃんの安全は守るから。」ルミは微笑みを浮かべながら、新八に返事をした。その言葉には、彼女が責任を負う覚悟が感じられた。
「ま、ダンボールを1つ運んでもらって、何事もなければそれで終わりなんだけどね。」ルミが軽く言った。
「でも今は、それが鍵を握ってるんです。」新八は、ルミの言葉に真剣な表情で返す。彼にとって、その一つの動きがすべてを左右する重要な要素であることがわかっていた。
「うん……そうだね。じゃ、行ってくるよ。」ルミは少し微笑んで、その場を去っていった。
***
ルミたちが立ち去った後、不意に梅花園に現れたのは、どこか不思議な雰囲気を持つ玄龍門の生徒だった。
「玄龍門の人ですよね?ミナさんを探しているんですか?」その生徒は静かに尋ねた。
「他の者は?」生徒が警戒するように周囲を見回す。
「用があって、しばらく戻らないかも。伝言があるなら、僕が伝えておきますよ。」新八は冷静に答える。彼は不自然に感じつつも、相手の様子を伺いながら対応する。
「いや……誰もおらんのなら、むしろ好都合じゃ。」その生徒はふと微笑み、まるで変装を解くかのように姿勢を正す。
「ふう、お忍びで抜け出すのも一苦労よのう。」その瞬間、新八は玄龍門の構成員の格好をした生徒が玄龍門の門主であるキサキであることに気づいた。
「門主様!?そんな軽々しくお忍びで来ちゃダメでしょ!?」新八は驚愕の表情で叫んだ。
「何をそう驚くことがある。」キサキの穏やかな声が返ってくる。
「いやいやいや!門主がそんな忍者のように抜け出すなんて……これじゃ護衛も何もかも無視してるじゃないですか!」新八は焦って言うが、門主はただ笑みを浮かべていた。
「妾として、事の次第を見に来ただけじゃ。それに椅子に座っていては、見えぬものもあるじゃろうて。」キサキの言葉には、深い見識と自信が滲んでいた。
「人は皆、それぞれ異なる視点を持っておる。故に、様々な視点から事を見据えねば、時に判断を過つもの。」キサキの言葉は深く、新八はその言葉に真剣に耳を傾けた。
「して……どうなっておる?其方が見て、感じたものを聞きたい。」門主は新八に向けて、静かに問いかけた。その声には威圧感はなかったが、彼女の問いには重大な重みがあった。
新八は深呼吸をして、これまでの状況をキサキに伝えた。
「そうじゃったか……あい、分かった。」キサキは話を聞き終わると、静かに頷いた。
「妾の判断は正しかったようじゃな。」キサキは微笑んで言ったが、その瞳には何かを深く見据える鋭さがあった。「ミナは優秀じゃが、すぐに熱くなってしまうからのう。」
「つまり、ミナさんを山に送ったのは……」新八は疑問を口にする。
「ああ、そうじゃ。妾の指示に相違ない。衝突が起こる心配はしとらんかった。現に、問題はなかろう?」キサキは穏やかに笑みを浮かべた。
「ま、まぁ……確かにそうですね。」新八はその言葉に少し戸惑いつつも頷いた。(お妙の暴走)
「ミナの強さは本物じゃが、其方らはもちろん、あの2人を相手どれるほどではない。ルミが自ら手を出すとも思えん。じゃから、均衡は保たれると考えた。」キサキの声は穏やかだったが、そこには深い洞察力が見え隠れしていた。
「それに……其方らさえおれば、争いなど起きんと信じておったからのう。」キサキは静かに微笑んだ。
「妾の見立ては如何かな?」キサキの問いに、新八は戸惑いつつも、彼女の言葉の重みを感じていた。
「そこまで考えて……」新八は静かに答えた。「門主様は、ルミさんたちが無関係であると知っていたんですよね?」
「ルミは誰よりも商会のことを考えておる。自ら危険な取り引きに手を出すはずがない。」キサキは確信を持って言い切った。
「もし商会の者に繋がったとしても……せいぜい、金に目が眩んだ未端の仕業じゃろうな。」その言葉には、キサキが門主として見守り続けてきたからこそ抱く確信があった。
「この程度のこと、見通せねば門主足り得ぬよ。」キサキは、自らの決断と判断に揺るぎない自信を持って静かに言い放った。その言葉には重みがあり、彼女が長年玄龍門を率いてきた経験と見識の深さが滲み出ていた。彼女の目は鋭く、まるで先をすべて見通しているかのようだった。
そして、ふと微笑みを浮かべた。「あまり門主の座に拘りはないがのう……」彼女の声はどこか飄々としており、まるでその地位や権威に執着がないかのような口ぶりだった。
しかし、その言葉の裏には、逆説的に彼女の実力や立場に対する深い理解が見え隠れしている。彼女にとって門主の座は、自分を誇示するためではなく、あくまで責任を全うするためのものであった。
少しの間を置いて、キサキは続けた。「いや、これは失言じゃったな。忘れてくれ。」軽く手を振って、無邪気な笑みを浮かべたが、その裏に含まれる意図を見逃す者は少ないだろう。彼女が「失言」と称したその一言には、むしろ彼女の本心が垣間見えたのだ。
新八はその言葉を聞きながら、キサキの人物像がますます掴めなくなっていくのを感じた。彼女の態度や言葉は時に軽く、時に深淵を覗かせる。新八は少し口を開き、質問を投げかけることにした。
「協力することになったのも、門主様の予想通りですか?」新八は、自分たちが罠を仕掛けるという提案に対して、キサキがあらかじめ予想していたかどうかを尋ねた。
キサキはその質問に微笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。「そうじゃ。」彼女の返答はあっさりとしたものだったが、その一言が持つ重みは計り知れない。すべてを見通し、計算済みで動いていたのだという確信がそこにあった。
「ミナは正直な奴ではあるが、向こう見ずな部分が玉に瑕でな。」キサキはふと視線を遠くに向け、懐かしむようにミナのことを語り始めた。その声には、ミナに対する愛情と、同時に彼の欠点をよく理解している様子が感じられる。ミナの真っ直ぐさが時に物事を見誤ることがあるという、その忠告めいた言葉には、彼女を導こうとする思いが込められていた。
「己で体感せねば、理解できぬものもある。」キサキの目は再び新八に戻り、その目は鋭くも優しげだった。まるで、ミナが自分自身で学び、成長することを望んでいるかのような口ぶりだ。キサキは過度に介入せず、彼女の成長を見守りながらも、いざという時には彼女を正すことを心得ているようだった。
「もう少し視野が広がれば、一層柔軟な見方も身につくじゃろうて。」門主は微笑みながら、ミナの未来を見据えるように言葉を続けた。彼がどのように成長し、変わっていくのかを期待しているのがわかる。新八は、門主の視点の広さと深さに感心しながら、その言葉に頷いた。
「其方も分かってくれておったのか?やはり、人を見る目があるのじゃな。」門主は新八に軽く微笑みかけた。その言葉には、新八自身の洞察力を評価しているような意味合いが含まれていた。
新八は少し照れくさそうに微笑んだ。「いや、これは多分銀さんと万事屋をしていて、たくさんの人と関わってきたからだと思いますけど。」彼の言葉には謙虚さが感じられた。彼が持つ人を見る目は、長年銀時とともに働き、多くの人々と触れ合ってきたからこそ培われたものだった。
「銀さん?誰のことじゃ?」キサキは不思議そうに眉をひそめた。その問いかけに、新八は銀時について簡単に説明を始めた。彼の説明には、銀時に対する尊敬と親しみが込められていた。
門主は新八の話を静かに聞き、しばらく黙っていたが、やがて深く頷いた。「なるほどな……。其方らのような素晴らしい何でも屋には相応しい主がいたと……分かった。」その言葉には、銀時という人物に対する興味が垣間見えた。
「わしもその坂田銀時とやらに会いとうなった。この件が済んだら、わしら玄龍門も探すことを約束しよう。」キサキの声には本気の気持ちが込められていた。彼女は新八たちが話す銀時という人物に興味を持ち、その人物を探し出そうと本気で考えているようだった。
「本当ですか!?」新八は驚きと喜びを隠せなかった。銀時の行方を探すという彼女の提案が、あまりに突然でありながらも信頼できるものだったからだ。
「妾は嘘は言わんよ。そして、その銀時を見つけた後も、一緒に山海経に残らぬか?その気があるのなら、妾が取り計らおうぞ。」キサキは新八に真剣な提案をした。その言葉には、新八や銀時に対する信頼が含まれているようだった。
しかし、新八は軽く笑って答えた。「それは銀さんがいないとお答えできませんので、お気持ちだけ受け取っておきます。」彼は丁寧に断りつつも、キサキの厚意をありがたく受け取った。
「くふふ、そうか。残念よのう……」キサキは少し寂しそうに笑みを浮かべたが、すぐに軽やかな表情に戻った。「……なら、ひとまず坂田銀時が見つかるまではここにいられるようにしておこう。」彼女の提案には、新八に対する優しさが溢れていた。
「ありがとうございます。」新八は深く頭を下げた。
「ルミも其方らも……相変わらず、妾の思い通りにいかんのう。」キサキはふとため息をつき、少し笑いながら呟いた。彼女の声にはどこか諦めにも似た感情がこもっていた。
「……いや、気になりはせんよ。ふふ、今さら妾の言うことを素直に聞かれても、逆に驚くわい。」キサキは苦笑いを浮かべながら、再び軽やかに言葉を紡いだ。その言葉の裏には、彼女が過去に多くの経験を積んできたことが感じられた。
新八はふと口を開いた。「ルミさんとは、昔からの知り合いなんですよね?」その質問には、ルミとの関係に対する興味が込められていた。
キサキは一瞬、表情を曇らせたが、すぐにまた微笑みを浮かべた。「ただの腐れ縁じゃ。ルミと一緒にやっていく未来もあったはずじゃが……」その言葉には深い過去を感じさせるものがあり、新八は何か大きな出来事があったのだろうと直感した。
「……いや、何でもない。聞かなかったことにしてくれるかの。」キサキは急に言葉を切り、話題を逸らそうとした。
新八はキサキの言葉に食い下がるように言った。「“腐れ縁”って、どこか深いものがあるんじゃないですか?もしかして、何かあったんですか?その……言いづらいなら無理には聞きませんけど、でも、ここまで話が出たなら、ちょっとくらい教えてくれてもいいんじゃないですか?ルミさんもどこか近づきにくい雰囲気がありましたし、教えてください。」
キサキは新八の真剣な目をじっと見つめた。その視線には、まるで過去の出来事が脳裏をよぎっているかのような複雑な感情が浮かんでいた。しばらくの沈黙の後、キサキは溜息をついて、口を開いた。
「そうさな……其方の言う通り、ルミのためにはなるかもしれぬ。」彼女の声は低く、まるで遠い昔の記憶を引きずり出すかのようだった。「妾は初めから、玄龍門は事件の真相になど興味はない。」その言葉が新八の耳に入ると、彼は驚きで目を見開いた。
「えぇ!?」思わず声を上げた新八。事件の真相を追うために動いていると思っていた門主が、そのことに興味がないと言い切るとは、新八にとって到底理解しがたい発言だった。
門主は新八の反応を楽しむかのように、肩をすくめて笑みを浮かべた。「そう驚くことでもないじゃろうて。今回に限らず、往々にしてそういうものじゃ。」彼女の言葉には、長年の経験から来る冷徹な現実感があった。
「いやいやいや!門主としてそれはどうなんですか!?事件の真相に興味ないって、普通そこが一番気になるところでしょ!?それじゃただの見物人じゃないですか!」新八は驚きと戸惑いを隠せないまま、強い口調で反論した。
キサキはその言葉に対して特に動じることなく、ただ静かに微笑んだ。「もし、玄武商会が『萬年参』の密輸に関わっておったら、単純な話じゃ。彼奴らの規模や影響力を抑えられる。解散することもできるしの。」その言葉には、淡々とした冷酷さすら感じられた。彼女にとって、組織の運命は駆け引きの一部であり、必要であればその解散すら厭わないという覚悟が見え隠れしていた。
「じゃが、玄武商会が関与しておらぬとしても、それはそれで一向に構わぬ。玄龍門は、いつでも見張っておる、という牽制にはなっておるからの。」キサキの声は静かで、しかしその中に潜む計算高い思惑が新八に伝わってきた。たとえ真相がどうであれ、玄龍門が常に見張っているというだけで、相手にとっては十分なプレッシャーとなる。それがキサキの狙いなのだと新八は理解し始めた。
「いずれにせよ……『玄龍門』にとって悪くない話じゃ。そうであろう?」キサキは新八に穏やかな笑みを浮かべ、彼の反応を待つかのように問いかけた。
新八はその言葉にしばらく考え込んだ。確かに、玄龍門にとっては、どちらに転んでも損はないように思えた。しかし、彼は何かしらの疑念が心に残った。門主の本当の意図は、これほど簡単なものではないと感じていた。
「でも、門主様の考えは違いますよね?」新八は慎重に言葉を選びながら、キサキに問いかけた。
キサキは再び微笑んだ。「して、その根拠は?」彼女は新八の観察力を試すかのように、じっと彼を見つめている。
新八は少し考え込んだ後、答えた。「わざわざ忍者のように変装して、ここまで来てるくらいですから……」その言葉に、キサキはクスリと笑った。新八の指摘は正しかった。もし本当に興味がなかったのであれば、キサキがここまでして密かに動く必要はないはずだ。
「ふふ……其方は本当に、良い目を持っておるの。」キサキの声には少しの驚きと、同時に新八への称賛が込められていた。彼がこの場にいることを見越して、キサキはその一言に誇らしさすら感じていたのだろう。
「玄龍門は……『玄龍門』のものじゃ。」門主の声は少しだけ低くなり、その言葉には強い決意が感じられた。彼女は自分の立場を決して揺るがすことなく、玄龍門という組織の存在とその意義を深く理解しているのだ。
「たとえ門主といえど、玄龍門としての在り方に反することはできぬ。」門主の言葉には、玄龍門という巨大な組織が抱える伝統や責任を背負っていることが感じられた。彼女はただ個人的な感情や好みで動いているわけではない。すべては玄龍門のため、そしてその存続のために動いているのだ。
「一つ依頼をしても良いかな?万事屋よ。」キサキは真剣な目で新八を見つめた。
「ルミのことを守ってやってくれ。そばにおるレイジョという子もじゃ。……ついでと言ってはなんじゃが、ミナのことも任せてよいかのう。」その言葉には、キサキの深い信頼と期待が込められていた。
「もし玄武商会が関与しておったら……その時は、妾が自ら手を下そう。じゃが、ルミたちが謂れのない罪を問われるのは、妾としても不本意でな。」キサキの声には、商会とルミに対する深い信頼が感じられた。
「まこと手のかかる奴らよのう。こうして、門主が自ら動かねばならんとは。」
「門主様は、ルミを……玄武商会をどう思っているんですか?」新八は、キサキの言葉に対してさらに踏み込んだ質問をした。彼にとって、ルミと玄武商会の関係がどのようなものなのか、深く知りたいという気持ちがあった。
「うむ……」キサキは一瞬考え込み、目を閉じた。彼女の表情は穏やかでありながらも、その奥には複雑な感情が渦巻いているように見えた。やがて、ゆっくりと目を開き、新八の方へ視線を戻した。
「玄武商会もまた、山海経の一部じゃ。玄龍門と同じようにな。」門主の声には確固たる信念があった。
「妾の口から言えるのは、それだけじゃ。」彼女はそれ以上の詳細には触れないが、その言葉には十分な意味が含まれていると感じさせるものがあった。
新八はその答えを聞き、少しの沈黙の後、口を開いた。
「そうですか。なら僕はこれで」
「頼んだぞ」
物語の幕はまだ閉じられないまま、全員がそれぞれの思惑と信念を抱え、次の一手を考えていた。それが、事件の真相にどのような影響を与えるのかは、まだ誰にも分からない。
ただ一つ確かなことは、彼らの行動が未来を大きく変える鍵となるということだ。
次回 龍魂同舟 最終話 「照らされる光あれば影もある」
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
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