透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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ヅラの登場まぁ暴れまわります。
ストーリーが進むにつれて銀魂のキャラも登場していきます。
誰が登場して欲しいかコメント欄でお知らせ下さい。
では、


第五訓ジジイになっても名前で呼び合える友達を作れ

砂塵の舞うアビドス高等学校、正門前。

そこには場違いなほど重厚な、一台の現金輸送車が鎮座していた。

エンジンのアイドリング音が、静まり返った校舎に低く響く。全身を無機質な機械で覆った義体のドライバーが、事務的な手つきで端末を操作し、冷徹な声で告げた。

「……お待たせしました。変動金利等を諸々適用し、今月の利息は788万3250円です。すべて現金での受領を確認。……以上となります」

その声には、相手の窮状を憐れむ色など微塵もない。

「カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします」

慇懃無礼な挨拶を残し、輸送車は砂煙を上げて去っていった。その排気ガスが消えるのを待って、少女たちの重い溜息が漏れる。

「はぁ……今月も、なんとか乗り切った……」

砂狼シロコが、去りゆく車の轍を見つめながら呟いた。その隣で、黒見セリカが焦燥感を隠せない様子で問いかける。

「ねえ、完済まであとどれくらいなの?」

「……309年返済だよ、セリカちゃん」

「アヤネちゃん、よくそんな数字パッと出るね……」

奥空アヤネが即答した絶望的な数字に、一同の間にどんよりとした沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは、アビドス対策委員会に「先生」として居座ることになった男、坂田銀時だった。

「つーかよ、なんでカイザーローンは現金オンリー? 今時電子マネーだろ普通。わざわざ輸送車まで仕立てやがって、非効率の極みじゃねーか」

銀時は、ほじっていた耳の穴から指を離すと、不意に視線を感じて顔を上げた。

隣に立つシロコの瞳が、獲物を狙う狼のように鋭く、ギラリと光っている。

「…………銀ちゃん。あれ、追いつける?」

「何その物騒な相談!? 銀さんに銀行強盗の片棒担がせようとしてんの? 絶対やらないよ! 俺ァこれ以上前科(厄介ごと)増やしたくないからね!!」

『だめ……?』

上目遣いで、小首をかしげるシロコ。そのあざとすぎる「おねだり」に、銀時の顔が引きつる。

「あざとくしてもダメなもんダメ何だよ。そんなにやりてぇならよその子にでもなっちゃいなさい!」

むぅ、と頬を膨らませるシロコ。不満げな彼女をなだめつつ、一行はとりあえずの作戦会議のため、冷房の効きの悪い教室へと引き返した。

教室の黒板には、現在の勢力図が書き殴られていた。

「では、報告を始めます。一つ目は昨晩の襲撃者、便利屋68についてです」

アヤネが資料をまとめ直す。銀時はパイプ椅子に踏んぞり返り、適当な相槌を打つ。

「何? 緊急メンテで全ユーザーから許されない社長の話?」

「メタいからやめてください」

アヤネは咳払いを一つ。

「リーダーの陸八魔アルさんが部長を務める部活で、所属はキヴォトスでも最高峰のマンモス校、ゲヘナ学園です」

「……ゲヘナ学園?」

「銀ちゃん……もしかしてゲヘナもトリニティも知らないの?」

ホシノが呆れたように片目を開ける。

銀時の目が泳ぎ始めた。泳ぎすぎてクロールができそうな勢いだ。

「そ、そんなわけねーじゃん!? この銀さんが、先生という聖職にありながら学校について調べてないなんて万に一つも……、念のためだよ? 念のために確認として聞いておこうかなーって」

あまりに白々しい言い訳に、アヤネは諦めたように説明を続けた。

「キヴォトスには数多の学園がありますが、双璧をなすのがゲヘナとトリニティです。ゲヘナは『自由と混沌』。まあ、端的に言えば治安は最悪ですね」

「逆にトリニティは規律を重んじるお嬢様学校。表向きの治安はマシですけど……裏じゃ陰湿ないじめがあるなんて噂も絶えません」

十六夜ノノミが、おっとりとした口調で付け加える。

「この二校、昔から仲が悪いんですよねー。『トリニティの連中は鼻持ちならない』とか、『あんな野蛮な連中は見るのも汚らわしい』とか」

対照的な二つの巨大学園。その構図を聞いた銀時は、鼻を鳴らして吐き捨てた。

『……どっちも腹黒そうだな。特にトリニク学園の方が』

「トリニティーですよ……。まあ、あながち間違ってないのが困りものですけど」

アヤネは話を戻した。

「アルさんたちはそのゲヘナの指名手配犯です。依頼があれば何でもこなすアウトロー集団『便利屋68』。かなり厄介な相手です」

次にアヤネが机に並べたのは、焦げ付いた機械の破片だった。

「そして次の報告。セリカちゃん襲撃の黒幕、カタカタヘルメット団が使用していた違法部品についてです。これらは既に流通が止まっている型番で、入手ルートは一つしかありません。――ブラックマーケットです」

「ブラックマーケット?」

銀時が聞き慣れない単語に眉を寄せる。

「いわば、キヴォトスの掃き溜めだよー」

ホシノが気だるげに説明を継ぐ。「ドロップアウトした連中や、連邦生徒会の目が届かない非認可組織が集まるブラックボックス。あそこに行けば、手に入らないものはないんじゃないかな」

「……じゃあ、そこにはジャンプもあるってことか?」

「普通に本屋で買ってください」

アヤネがぴしゃりと突き放す。

「そのマーケットで便利屋68が騒ぎを起こしているという情報があります。この共通点を探れば、黒幕に辿り着けるはずです。……どうでしょうか、ホシノ先輩」

ホシノは「うへ~」と伸びをすると、眠たげな目を細めて笑った。

「いいんじゃなーい? んじゃ、早速行ってみようか」

「買い物袋、用意したほうがいいですか?」

「ノノミちゃん、ショッピングに行くんじゃないからね……?」

アビドスの乾いた風が、窓から入り込み、並べられた資料をパサリと揺らした。

欲望と硝煙が渦巻く闇市場。万事屋(自称先生)と対策委員会の、泥臭い調査が始まろうとしていた。

 

――――――――――――――――

 

 一方その頃。

そこはキヴォトスの光が届かぬ奈落、ブラックマーケット。

そびえ立つ雑居ビルは継ぎ接ぎだらけの廃墟のようで、路地裏には出所不明の薬品や兵器の臭いが淀んでいる。学園という枠組みを捨て、あるいは追われた「ならず者」たちが、欲望のままに闊歩する悪党の楽園――。

そんな殺伐とした街の雑踏を、あまりにも場違いな二人組(?)が歩いていた。

艶やかな黒髪をなびかせた、着物姿の侍。そして、その隣には、無表情な白い袋状のナニカ。

「どうだエリザベス。最近新調したホワイトボード版プラカードの使い心地は。以前のようにゴミを増やすこともなかろう?」

桂小太郎が満足げに問いかけると、隣の白い怪鳥(?)がキュッキュッキュと小気味よい音を立ててペンを走らせた。

【捨てて邪魔になる事は無くなりました。】

【しかし】

【いちいち消すのがめんどくせぇ】

「そうか。やはりデジタル化の波に乗るべきだったか……。それにしてもエリザベスよ、ここはどこなのだろうか。江戸の地下街にしては少々、銃火器の流通が過剰な気がするのだが」

桂が顎に手を当てて思案に暮れていると、乾いた銃声が街に鳴り響いた。

「ダダダダダダダ!!」

ここでは日常茶飯事なのか、道行く荒くれ者たちは一瞥もくれずに素通りしていく。だが、その喧騒の奥から一人の少女が、必死の形相でこちらへ走ってくるのが見えた。

「こ、ここ、来ないでくださーい! わわわ、まずいです……内緒でここに来たので、あまり騒ぎを起こしたくないのにーっ!」

少女の後ろには、武器を手にした不良少女たちの集団が、飢えた狼のように迫っている。

「む、あれは!? ……ゆくぞエリザベス!」

【おー!】

「うう……全然引き剥がせない……――アイタッ!」

少女が不運にも瓦礫に足を引っかけ、たたらを踏む。地面に叩きつけられる寸前、その身体を力強い腕が受け止めた。

「大丈夫か?」

「あ……ありがとうございます。……いえ、ごめんなさい! 私はヒフミ、今追われてま……」

ヒフミが顔を上げ、救い主の姿を認めた瞬間――彼女の時が止まった。

「どうした、ヒフミ殿? 何かあるなら申して……」

「ペ、ペロロ様ぁぁぁぁぁ!!」

「なにぃーーー!!」

桂の叫びと同時に、エリザベスがプラカードを掲げる。

【お、俺? ペロロ様って誰】

「今まで何度もここに来ましたが、まさか本物のペロロ様に会えるなんて……感激ですぅ!」

ヒフミは恐怖も追手も忘れ、トランス状態でエリザベスの胴体に顔を埋め、力一杯抱きしめた。そのあまりの熱量に、さすがのエリザベスも「……?」と困惑の表情(無表情)を浮かべる。

そこに、いつもの「様式美」が炸裂した。

「ペロロじゃない! エリザベスだ!!」

そんなやり取りをしている間に、周囲は完全にチンピラ集団に包囲されていた。

「なんだぁ? テメェら。どけよ! あたしたちはそのトリニティの生徒に用があんだよ!」

「わ、私の方には用は無いんですけど……」

ヒフミがエリザベスを抱きしめたまま抗議するが、リーダー格の不良は下卑た笑いを浮かべる。

「だろうなぁ! あたしたちはお前を拉致って、トリニティから身代金をたーんまり貰ってやろうと思ってるだけだしな? 良い財テクだろ?」

銃口を向けて勝ち誇る不良たち。だが、一人がエリザベスの姿をじっと見つめ、不意に鼻で笑った。

「っていうか、なんなんだよその横の白い奴。……キモッ!?」

その一言が、静かな、しかし決定的な逆鱗に触れた。

「そいつじゃない! エリザベスだ!!」

「ペロロ様は……キモくなぁい!!」

「え? ……え?」

あまりの豹変ぶりに、チンピラたちが思わずたじろぐ。

先ほどまで逃げ回っていたはずのおっとりした少女が、烈火の如き憤怒を瞳に宿し、侍と共にゆっくりと歩み寄ってくるのだ。

「わが友・エリザベスを愚弄するとは……たとえ天が許しても、この桂小太郎が許さん」

「普段なら戦いませんが、ペロロ様をバカにされたなら話は別です!!」

「ひ、ひぃ!?」

「ゆくぞ、ヒフミ殿!」

「はい、桂さん!」

「ペロロ様の力、その身を以て知ってください!!」

ヒフミが叫びながら、眩い光を放つペロロのホログラムデコイを敵陣の真っ只中に投げ込む。

「はいぃぃ!!」

「それだけではない! 悪党どもに天誅!」

桂の手からも、無数の球状爆弾が雨あられと投げ込まれた。

『しません! しません! もうしませんからぁ!!』

悲鳴のような謝罪が響くが、一度火のついた「狂乱の貴公子」と「ペロロ愛好家」に止まる気配はない。

「もう遅い」

ドカァァァァァァァァン!!

凄まじい爆発音と共に、ブラックマーケットの一角に巨大な火柱が上がった。

チンピラたちは為す術もなく吹き飛ばされ、路地裏のゴミの山へと沈んでいく。

騒ぎが収まり、安全な場所まで移動した一行。

ヒフミは衣服の埃を払うと、深々と頭を下げた。

「さっきは、本当にありがとうございました」

「いやいや、こちらもエリザベスのために共に戦ってくれたヒフミ殿には感謝せねばな」

桂とヒフミは互いに微笑み合い、そして同時に、ずっと喉元まで出かかっていた疑問を口にした。

「「あの、ところで――『エリザベス《ペロロ様》』って何ですか?」」

沈黙。

 

「えっと……つまり桂さんの隣でプラカードを持っているのは、ペロロ様ではなく『エリザベス』さん……だと?」

ヒフミは困惑した表情で、改めてその白い物体を見上げた。どこからどう見ても、彼女の愛してやまない「ペロロ様」の造形をさらにシュールにし、おっさんのようなスネ毛を足した(気がする)フォルム。

「いかにも。わが友にして、攘夷志士の要。それがエリザベスだ」

桂が胸を張って断言する。

「では、ヒフミ殿の言うペロロ様とは一体何なのだ?」

「これのことです!」

ヒフミが鞄から取り出したのは、一見すると不気味にも見える、虚無の瞳をしたニワトリ(?)のぬいぐるみだった。はっきり言おう。初見の人間が「可愛い」と判断するには、相当な訓練か、あるいは特殊な感性が必要な代物である。

だが、それを見つめる桂の瞳が、不意にキラリと輝いた。

「……ほう。結構かわいいではないか」

桂小太郎、ストライク。

彼の独特すぎる感性の中心に、ペロロ様が真っ直ぐに突き刺さった瞬間だった。

「ですよね!! 私は今日、このペロロ様の数量限定品を買いにここへ来たんですが、先ほどのチンピラさんたちに襲われてしまって……」

「ならば共に行こう! ヒフミ殿!」

桂は力強く頷いた。

「俺もそのペロロ様とやらが欲しくなった。それに、お恥ずかしながらここへ来たのは初めてで道を知らぬ。案内をお願いできるだろうか?」

「もちろんです! ペロロ様を愛する人に悪い人はいませんから!」

意気投合する侍と少女。

その異様な二人組(と一匹)の歩みは、ブラックマーケットの喧騒さえも塗り替えていく。道中、獲物を狙うハイエナのような不良少女たちが何度も絡んできたが、もはや今の二人の敵ではない。

「そこをどけぇぇぇ!!」

桂が叫び、導火線に火のついた爆弾を景気よくバラ撒く。

「ペロロ様……じゃなくて、エリザベス様のお通りです!!」

ヒフミもまた、普段の温厚さをどこへやら、ペロロのホログラムを戦場に展開して敵の注意を攪乱する。爆風と、虚無の瞳のホログラムが交差する地獄絵図の中を、三人は一点の曇りもない笑顔で突き進んだ。

そして。

「着きました! ここが『モモフレンズ・ブラックマーケット店』です!」

辿り着いたその場所は、血生臭い路地裏には似つかわしくない、パステルカラーの看板が掲げられた「聖域」だった。

「さっそく中に入ろう」

「はい!」

店内は、壁一面がペロロ様をはじめとするモモフレンズのグッズで埋め尽くされている。桂はその光景に圧倒されつつも、どこか懐かしい「友」に近い温もりを感じていた。

「店員さん! 今回のペロロ様限定グッズをください!」

「俺も、そのヒフミ殿と同じものを頼む」

数分後。

店を出た二人の手には、重厚なショッピングバッグが握られていた。

「どうもありがとうございました! いやぁ、無事に買えて良かったですね、桂さん」

「うむ。この人形、一生の宝として大事にせねばな。」

満足げに限定ぬいぐるみを抱える桂。その傍らでは、ヒフミが今もしっかりとエリザベスの腕を抱きしめていた。

【俺いつまで抱きつかれるの?】

虚無な瞳のエリザベスが掲げたプラカードには、少しばかりの困惑と、ほんの少しの諦めが滲んでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 銀時たちがブラックマーケットの深部へと足を踏み入れたとき、そこには異様な光景が広がっていた。

立ち並ぶビルの壁面は爆発で焼け焦げ、路地にはひっくり返ったドラム缶と、白目を剥いて倒伏する不良少女たちが山をなしている。

「……おいおい、無法地帯ってのは聞いてたが、これじゃまるで爆撃の跡地じゃねーか」

銀時が顔を引きつらせ、瓦礫の山を飛び越える。

「いや……いくらなんでも、普段はここまでは酷くないと思うんだけど」

セリカが頬を引きつらせて周囲を見渡す。アビドスの借金取りであるカイザーローンですら、ここまで派手な破壊は好まないはずだ。

「何があるか分かりません。慎重に進みましょう」

アヤネが警戒を強め、銃のグリップを握り直す。

砂煙の舞う路地の先、人影が二つ……いや、二つと一匹。

視線が交差した瞬間、銀時の喉から奇妙な声が漏れた。

「「あ、」」

先に沈黙を破ったのは銀時だった。指をさし、驚愕を顔面全体で表現する。

「おまっ……ヅラだろ! どうしてこんな、女子校の吹き溜まりみたいな場所にーー!」

「ヅラじゃない桂だァァ!!」

ドゴッ!!

「ぶふォ!!」

空気を切り裂くような鋭いアッパーカットが、銀時の顎を真下から撃ち抜いた。銀時の身体が錐揉み状に宙を舞い、地面に叩きつけられる。

「えぇ〜……」

ホシノたちは、再会したばかりの友人を容赦なく殴り飛ばした侍の狂気(?)に、一歩引いた。

「てっ……てめっ……久しぶりに会ったのにアッパーカットはねーだろ! それに初回以外やってなかったじゃねーかよ!?」

「そのニックネームで呼ぶなと何度も言ったはずだ!! それに銀時、俺は当時、BPOでの俺の評判に傷がつかないよう自重していただけだ。今は小説の中、少々のバイオレンスは表現技法として許容される!」

「何お前こんな時だけ現実的なメタ問題をぶっ込んでんだよ! 小説の世界観が台無しだろうがァァ!!」

二人がギャーギャーと罵り合っている間、対策委員会のメンバーは、桂の隣にいる「おっとりした少女」に視線を向けた。

「あのさぁ……ちょっと気になるんだけど、横の誰? それと、その下の白いのは何?」

ツッコミどころが多すぎる状況に、セリカは一番無難な質問を選んだ。

「あ、えっと! この方はエリザベス様です! ……正直、それ以外何も存じ上げないのですが、とにかくペロロ様にそっくりなんです!」

ヒフミは興奮気味に、先ほど購入したばかりの「ペロロ様ぬいぐるみ」を掲げて見せた。

「あーっ! 知ってますよ♪ モモフレンズ! ペロロちゃん可愛いですよねぇ! 私、ミスター・ニコライが好きなんです!」

ノノミが花が咲いたような笑顔で反応する。

「そう! そうなんです! ノノミさん、分かってくれますか!? 私、最近出たニコライさんの本、『善悪の彼方』を初版で買えたんですよー!」

「テンションたっか……」

そこからはもう、周囲を置き去りにしたマシンガントークが炸裂した。

「あはは……。まあ、そんな感じでグッズを集めに来たんです。先ほどまでチンピラに絡まれてたんですけど、桂さんとエリザベス様が助けてくれて……」

「桂さんって、今銀ちゃんと喧嘩してる、あのロン毛の人?」

「はい! モモフレンズのお店に行くまで、行く手を阻むチンピラさんたちを皆でおっ払いながら……」

「えっと、ちょっと待って。じゃあ、ここら一帯が爆撃されたみたいにボロボロなのって……」

「はい。桂さんと一緒にやりました(笑顔)」

あまりに衝撃的、かつ爽やかな回答に、ホシノたちは唖然として言葉を失った。このおっとりした少女もまた、キヴォトスの住人――火力の申し子だったのだ。

「あっ、忘れてた。私たち、ブラックマーケットに探し物をしに来たんだけど、この辺のことに詳しくなくて……。良かったら教えてくれないかな?」

ホシノが尋ねると、ヒフミは真面目な顔で頷いた。

「いいですよ。まず、ブラックマーケットの生徒は大きな群れを形成します。そうしないと身を守れませんから。ですので、先ほどの増援は氷山の一角に過ぎません。騒ぎが大きくなれば、マーケット独自の治安機関『マーケットガード』がやってきます」

「マーケットガード?」

「はい。彼らは違法武装で身を固めたプロ集団です。普通は勝てませんし、捕まったら最後……という感じですかね。質問の答えになりましたか?」

「ん……参考になった。ヒフミちゃんはこの場所を、随分危険な場所と認識してるんだね」

「へ? それは、まあ。連邦生徒会も手出しできない自治区ですし。学園数個分の規模と、独自の金融システムまで備えたブラックボックスですから。危険性は無視できません」

専門家顔負けの解説を終えたヒフミ。その瞬間、ホシノの手が素早く伸びて、彼女の手首をがっしりと掴んだ。

「……へ?」

「ヒフミちゃん。案内、よろしくね〜」

「えええっ!? い、今からですか!?」

「銀ちゃーん! 桂さーん! 行きますよー!」

ノノミが喧嘩中の二人を強引に引き剥がし、ブラックマーケットの奥へと呼び寄せる。

「ケッ! 今のところはこれで勘弁しといてやるよ、ヅラ」

「ふんっ! 武士を愚弄した罪、後で償わせてくれる、行くぞ、エリザベス!!」

「じゃあ、しゅっぱーつ♪」

「ええぇぇぇぇ!!?」

ヒフミの悲鳴(?)を置き去りに、一行はブラックマーケットの迷宮へと消えていった。

銀髪の万事屋、狂乱の貴公子、白い謎の生物、そして武装した女子高生たち。

この混沌としたパーティが、闇の街にさらなる嵐を巻き起こすのは、もはや火を見るより明らかだった。

――――――――――――――――

 

 

 ブラックマーケットの迷宮を歩き続けること数時間。

空を覆う鈍色の雲さえも、この街の澱んだ空気に染まっているかのようだ。

「はぁ……しんど。キヴォトスの闇、深すぎだろ……」

銀時が肩を落とし、気だるげに周囲を見渡す。

「おかしいですね……ここまで歩いて、何一つ有力な情報が出ないなんて」

アヤネが端末の画面を見つめ、眉をひそめる。

「そんなにおかしいの? ヒフミちゃん」

ホシノの問いに、ヒフミは真剣な表情で頷き、そびえ立つ一棟のビルを指差した。

「はい。本来、ここに店を構える企業は、自分たちの悪行を隠したりしません。例えばあのビル……あそこは闇銀行です。キヴォトスで発生する盗品の約15%があそこに流れ込み、それを元手に武器を仕入れ、さらなる強盗や誘拐を支援する。ここはまさに、犯罪の供給源なんです」

「ひえー……世も末だねぇ。昔の吉原よりも真っ青なスラムじゃねーか」

銀時が鼻をほじりながら吐き捨てる。

「銀行が犯罪を煽っている……。アビドスの外では、こんなことが当たり前に行われていたんですね」

ノノミが唇を噛む。アビドスの閉ざされた砂漠の中では知り得なかった、この街の残酷な仕組み。

「隠れて!!」

シロコの鋭い声が響いた。一同は反射的に瓦礫の影に身を潜める。

重厚な駆動音と共に現れたのは、過剰なまでの装甲と火器を纏った巨大なオートマタ「ゴリアテ」。それが護送していたのは、見覚えのある一台の現金輸送車だった。

「……あの車って」

「闇銀行に入っていったね……」

「ドライバーも朝のあいつだ」

対策委員会のメンバーに戦慄が走る。

「つまり……私たちが必死に集めて返済した利息は、そのまま犯罪組織の資金源になっていた、と?」

アヤネの震える声に、ヒフミが慌ててフォローを入れる。

「ま、まだそうハッキリ決まったわけでは……! 証拠もありませんし、あの輸送車の動きを完全に把握するまでは……」

皆が沈黙に沈む中、シロコの瞳に冷徹な光が宿った。

「……ん。良い方法がある」

「え?」

「あの銀行を襲おう」

『ええぇぇぇぇ!!?』

ヒフミの絶叫が路地裏に木霊する。キヴォトスの「普通」から逸脱した提案に、全員が凍りついた。だが、ホシノだけは小さく笑みを浮かべ、その意図を汲み取る。

「……! なるほどなるほど。よーし! ねぇ、ヒフミちゃん。ああいう場所から証拠を掴むには、どうすればいいかな?」

「え!? えーっと……闇銀行なら、集金確認の書類を中で作成しているはずです。それを確保できれば動かぬ証拠になりますが……」

「ふーん、なるほどねー。シロコちゃん、その証拠を盗み出す(ぶんどる)ってことだよね?」

「ん。その通り」

「ほんとにやるの!? 」

セリカが叫ぶが、シロコは迷うことなく鞄から「それ」を取り出した。

銀時は、シロコのただならぬ気配に背筋を凍らせながら、隣の桂を振り返る。

「おいヅラ! お前よく変装してるだろ。変装道具を貸してくれ! 悪目立ちしたくねーんだよ!」

「あるにはあるが、今あるのは……」

「何でもいいから早くしろ!」

「……言ったな、銀時。」

数分後。

「よーしみんなー! 準備できたかなー?」

ホシノの声に応えて、次々と影から姿を現す面々。

「ん、準備完了」

シロコは頭に2と書かれた覆面を被っている。

「わ、私も被りました……!」

アヤネも同じく、慣れない覆面姿で顔を赤らめる。

「いつでもOKよ! ……所で、銀ちゃんたちは?」

セリカが周囲を見渡すと、路地裏からおぞましい――もとい、異様なオーラを放つ二人が現れた。

そこには、極彩色の女性用着物を身に纏い、無理やり結い上げた髪に、どぎつい紅を引いた二人の「淑女」が立っていた。

「……ヅラ子と」

「パ、パー子です」

地獄の底から這い出してきたようなオカマ姿。

銀時と桂のあまりに「本気」すぎる変装(?)に、場は一瞬にして静まり返った。

「……あは、アッハッハッハ! 何よそれ! アッハッハッハ!!」

セリカが腹を抱えて爆笑し、シロコも「ん……ごめん……我慢できない」と肩を震わせる。

「おじさんも我慢できないよ。あはははは!」

「ふふ……ふふふ、すみません……ふふ……」

対策委員会の爆笑の渦。一方で、ヒフミは顔を真っ青にして震えていた。

「あの! ほんとに、本当にやるんですか……!?」

「ヒフミちゃんにはこれ」

シロコが手渡したのは、即席の覆面。

「これって……」

「ん、即席の覆面」

「うう……連邦生徒会の人たちに合わせる顔がありません……」

絶望に項垂れるヒフミ。その肩を、無表情なエリザベスが叩き、プラカードを掲げた。

【やってやろうペロ!】

「! ……やってやりましょう。エリザベス様のために!」

ヒフミはエリザベスの(勘違いの)勢いに呑まれ、覚悟を決めて覆面を被った。

「ん、銀ちゃん、号令を」

シロコに促され、

「え、銀さんが号令かけんの?いや、そういうのはさ〜」

「今からあの銀行に天誅を下さん! 出撃!!」

『出撃!!』

「しゅ、出撃……!」

【出撃ペロ〜!】

「話を聞けェェェ!!」

元気よく拳を突き上げる対策委員会と、やけくそ気味に手を挙げるヒフミ。

これから銀行強盗に向かうとは思えない、あまりにもカオスで、それでいて奇妙な熱気に満ちた号令が、闇の街に響き渡った。

「(……絶対、強盗の雰囲気じゃないですよねこれ!?)」

ヒフミの心の中の叫びは、覆面と爆笑の中に消えていった。




次回予告
銀時「いつまでこの格好を続けりゃいいんだ?」
ホシノ「ずっとそのままでもいいんじゃない。」
銀時「いいわけねぇーだろ!」
ヅラ「銀時敵が来るぞ!服装のことは脱げばいい話だろ」
銀時「お前があれしか持ってねぇからこんな格好になってんだろうが!責任とれやゴラァ!」
エリ【次回人間五十年下天のうちをくらぶれば】

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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