透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい) 作:時代に遅れている
第四十四訓 理想と逆理
ミレニアム自治区・郊外区画
とある武装組織が根城としていた、静寂に包まれたビルの一角。
薄暗い空間に響くのは、静音設計の車椅子が床を滑る音だけだった。
「……あら、超天才清楚系病弱美少女の来訪を、電気もつけずに迎えるなんて。来客をもてなす気がこれっぽっちもないという点――とても貴女らしいですね」
室内に一歩踏み込んだ少女が、淡々とした声で皮肉めいた言葉を投げかけた。
車椅子に座るその少女――ヒマリは、静かな笑みを浮かべつつ、闇に目を凝らしている。
暗闇の中で、ディスプレイの光だけが孤独に浮かび上がっていた。
その光に照らされていたのは、全身を黒で統一した装いの生徒――調月リオ。その白いタートルネックが、彼女の凛とした印象を際立たせている。
リオは、暗闇の中に足を踏み入れたヒマリを一瞥すると、ディスプレイの電源を落とした。
室内はさらに深い闇に包まれる。光源は非常灯と機材のランプのみとなり、ほとんどの輪郭がぼやける中、リオの靴音だけが近づいてきた。
「暗い部屋でモニターを見続けるなんて、目が悪くなりますよ――リオ」
ヒマリがわずかに眉を上げ、静かな声で指摘する。
リオは冷徹な声で返した。「万全を期しているだけよ。この会談が外部に漏れるわけにはいかない。そのためであれば、この程度問題ではないわ」
「全く……明かり一つ点けることすら徹底するなんて、相変わらずですね」
車椅子に座るヒマリがため息をつきながら、リオの姿を見上げた。
その視線を受けながらも、リオの表情には一切の揺らぎがない。
「どこに目があるかわからない以上、必要な措置よ。そして今回の訪問がデータベースに残ることはない。つまり、第三者がこの現場を目撃しない限り、記録上、私たちは会っていないことになるわ」
リオの冷静な説明に、ヒマリは口元を歪め、皮肉を込めた笑みを浮かべた。
「リオったら、本当に真面目なんですから……『貴女は私の姉なの?』くらいの軽口を返せないと、ユーモアとは程遠いですよ?」
リオが首を傾げる。「……貴女は私の姉ではないわ。急にそんな非合理的な話をするなんて、どうしたのヒマリ?」
「えぇ、えぇ、そうでしたね。貴女はそういう人でした」
ヒマリは肩をすくめ、心底呆れたように視線を逸らす。
「ユーモアを解さず『合理』だなんて……貴女の好きな表現でしたね、それ」
リオは淡々とした声で返す。「好悪の話ではないけれど、事実でしょう? この会合が秘匿されるべきものであることくらい、あなたも理解していると思っていたのだけれど……違うのかしら?」
その言葉に、ヒマリの目が僅かに鋭さを帯びた。
「それは挑発のつもりですか、リオ?」
「……そんなつもりはないのだけれど」
リオは相変わらず冷静そのものだったが、ヒマリはわざとらしく肩を落としながら呟く。
「はぁ――そもそも、人目を気にするのであれば、他の場所を選べばよかったのではありませんか? 例えば……」
車椅子の操作パネルに指を触れ、リオに意味深な視線を向ける。
「誰かさんがこっそり作っている、『要塞都市』とか。悪趣味ですよねぇ?」
鋭い指摘
その一言に、リオの眉が僅かに動いた。しかし、彼女はすぐに表情を元に戻し、淡々と答える。
「――本題に入りましょう、ヒマリ」
ヒマリは口元を手で覆い、小さく笑う。「あらあら、話を逸らすつもりですか? ふふっ……えぇ、構いませんけどね」
軽やかな笑い声とは裏腹に、その言葉にはどこか挑発的な色が含まれている。
ヒマリは目を細め、まるでリオの反応を楽しんでいるかのようだった。
リオは冷たい視線をヒマリに向け、静かに言葉を続けた。
「これから話す内容は、誰にも知られてはならない――全てはミレニアムのためよ。理解しているわね?」
ヒマリはわざとらしい仕草で頷きながら答える。
「もちろんですとも、リオ会長。それにしても……会長自らがわざわざ動くなんて、どんな秘密が隠されているのでしょう?」
その問いには答えず、リオはまっすぐにヒマリを見据えた。
「……必要な情報は全て共有するわ。だが、それをどう活かすかは貴女次第よ」
ヒマリは微笑みを浮かべ、まるで手のひらで転がすかのような表情を浮かべながら答えた。
「えぇ、えぇ……もちろんそのつもりですよ、リオ会長」
二人のやり取りが終わる頃、部屋には再び静寂が訪れる。
その先に待ち受けるのは、誰も予想できない未来――そしてキヴォトスの運命を左右する戦いだった。
薄暗い室内に、静かな声が響いた。
「まずは認識の擦り合わせを」
調月リオがそう切り出すと、車椅子に座るヒマリは微笑みを浮かべながら頷いた。
「その口ぶりからすると……前回の鏡を巡った一連の騒動について、ですね?」
リオは頷き、視線をヒマリに固定した。「えぇ、そうよ」
「私が鏡という手段を用意し、リオがC&Cという危機を提供する……珍しく、一つの目的のためにあなたと私が協力した出来事でしたねぇ」
「そうね。他ならぬ――AL-1Sアリスの正体を明かすために」
その一言に、短い沈黙が訪れる。互いの瞳が交差し、思考が静かに絡み合った。普段は疎み合う二人が、一つの目的に真剣に向き合う姿がそこにあった。
AL-1S アリス――その謎
AL-1S――ミレニアム中央区に持ち込まれた正体不明の人工身体。
だが、それを「人工身体」と呼ぶべきなのかすら疑問だった。その製造方法も、目的も、性能も、全てが謎。まるで人間のように考え、食べ、眠り、感情を持ち、共に生きる――そんな存在の前例など聞いたこともない。
何のために生まれたのか。誰が生み出したのか。
それを知るために、リオとヒマリは手を組んだ。
リオは、学園を守るためにアリスのリスクを測り、その脅威度を見極める必要があった。
ヒマリは、アリスの本質を解明したいという純粋な探究心から動いた。
二人が繰り広げたのは、アリスを追い詰めるための大掛かりな芝居だった。
適切な脅威を演出し、それに対するアリスの反応と行動を観察する。
仲間が危機に陥ったとき、アリスはどう行動するのか?
計画のために仲間を犠牲にできるのか?
他者に共感を示すことができるのか?
「あの一件で得られた情報は多岐に渡ったわね」とリオはタブレットを指で叩きながら呟く。
リオがヒマリに問いかける。「あれから随分と経つけれど、解釈の結論は出たかしら?」
ヒマリは車椅子の背もたれに体を預けながら、目を細めて答える。
「えぇ、勿論です」
「そう、良かった……なら結論を」
リオが息を整え、ヒマリと視線を交わす。二人の思考は一瞬のうちに重なり合い、同時に口を開いた。
「アリスの正体――それは」
リオの声が続く。
「無名の司祭が崇拝するオーパーツであり、遥か古代の記憶に存在する――」
ヒマリが冷静に付け加える。
「名も無き神々の王女」
その結論が重なった瞬間、室内に静寂が訪れる。
リオは一度肩から力を抜き、小さく息を吐いた。それは安堵であり、同時に確信でもあった。
「……そう、やはり同じ解釈になったようね」
ヒマリも軽く笑みを浮かべながら頷く。「えぇ、業腹ですが、そのようですね」
「ならばヒマリ、あの存在アリスの本質は理解しているでしょう?」
リオの問いに、ヒマリは片眉を上げながら楽しげに返す。
「勿論ですよ、リオ。既に結論は出ています」
「その言葉に少し安心したわ」
互いの解釈が一致した以上、導き出される結論もまた一つ――そのはずだった。
リオは静かに口を開く。「彼女、アリスは――」
ヒマリも微笑みながら続ける。「えぇ、あの子は――」
「世界を終焉に導く兵器。キヴォトスに於いて排除すべきリスクよ」
「私たちの可愛い後輩ですよね♪ 数多の生徒と同じ可能性を秘めた光」
互いの言葉を耳にした瞬間、二人の表情が一変した。
「………?」
「……あら?」
リオは眉間に皺を寄せ、ヒマリを凝視する。
ヒマリもまた、目を見開きながらリオを見返した。
「……リオ、今の発言、どういうつもりですか?」
「それはこちらの台詞よ。まさか、貴女がそんな解釈を持っているなんて」
互いの結論が正反対であることに気づき、困惑の色を濃くする二人。
不穏な気配と不気味な沈黙が室内に漂う。
互いの結論がまったく異なることに気づき、調月リオとヒマリは疑念の色を浮かべながら、鋭い視線を交わしていた。
「もしかして今口にした結論は、貴女の好きなユーモア冗談という奴なのかしら?」
リオが眉間に皺を寄せながら静かに問いかける。
ヒマリはわざとらしく笑みを浮かべて返した。
「あら、貴女にはそう聞こえたのですか、リオ?」
「えぇ、そうね。理解し難いけれど、もしそうなら――」
「そんな筈ないでしょう?」
ヒマリは淡々と言い放つと、肩をすくめながら皮肉たっぷりに続けた。
「全く、相変わらずドブの様な感性ですね」
リオは短い沈黙の後、大きくため息をついた。
薄々感じていた――こうなる予感はあったのだ。
「そう、それなら私達の同盟は此処で終わりということね」
リオの冷たい声が室内に響く。
ヒマリは余裕の笑みを浮かべながら肩を竦めた。
「えぇ、そうですね。ただの同盟ではなく休戦に過ぎませんでしたが」
リオの瞳に冷徹な光が宿り、その声はさらに冷たさを増す。
「――そういうことなら、容赦はしないわ」
彼女は手元のタブレットを操作し、室内の暗闇から赤いランプが次々と浮かび上がる。
「AMAS」
重々しい駆動音と共に現れたのは、リオの開発した自律ロボット群だった。
一輪駆動のボディに装甲を施し、既製品のSMGを備えたそれらは、ヒマリを包囲するように配置される。
室内の照明が突然点灯し、ヒマリは思わず目を細めた。明るさに慣れると、彼女を取り囲むAMASの姿が鮮明に浮かび上がる。
「これが噂の……最近貴女が作っている玩具ですね?」
ヒマリは嘲るように微笑みながら、一台一台を観察する。
「貴女がデザインしたにしては随分と無難な機体に見えますが……」
リオは冷静に言い返す。「玩具呼ばわりは心外ね。これでも実戦データは十分に収集してあるわ。そして、同盟を解除した以上、貴女をこのまま帰すわけにはいかない」
ヒマリはため息をつきながら肩をすくめる。
「結論が一致しなければ即座に武力対応……こんなか弱い病弱天才美少女相手に、よくもまぁ恥ずかしげもなく」
リオはヒマリの挑発に動じることなく、淡々と告げた。
「貴女の能力は私が一番よく理解している。だからこそ、計画の障害となり得る存在は事前に取り込んでおきたかった――けれど、それを拒まれたのなら」
「……まぁ、そうでしょうね。貴女ならば、そうすると思っていました」
リオが命令を下す。「AMAS、ヒマリを捕縛しなさい!」
『指示を確認、対応開始』
AMASが駆動音を響かせながら動き出す。その銃口がヒマリを捉えた瞬間、車椅子に内蔵されたコンソールから電子音が鳴り響いた。
「高嶺の花に、そう易々と触れられると思って?」
ヒマリが操作盤を叩いた瞬間、AMASの動きが徐々に鈍くなる。そして――。
『システムエラー、制御権喪失』
リオが驚愕の表情を浮かべる。
「ッ、ヒマリ、この一瞬で全個体の制御権を――」
ヒマリは余裕たっぷりに微笑みながら言い放つ。
「あら、流石にエンジニア部と同じ自爆機能はありませんか? それなら、これで十分ですね」
ヒマリが再び操作盤を叩くと、停止していたAMASが一斉にリオへと向き直った。
「――!?」
無数の銃口がリオを捉え、一斉に火を噴いた。
室内には凄まじい銃声とマズルフラッシュが響き渡り、雨のように弾丸が降り注ぐ。しかし、リオは素早くタブレットを操作し、足元から射出される防弾障壁を展開する。
降り注ぐ銃弾をすべて弾き返しながら、リオは耐え抜く。
軈て弾倉が尽きたのか、再び静寂が訪れる。
リオは防弾障壁の向こうから顔を覗かせた。
「……ヒマリは、もういないようね」
その頃、廊下を駆け抜ける車椅子の中で、ヒマリは余裕の笑みを浮かべていた。
「ふふっ、相変わらずですねリオ。まぁ、私を捕まえようなんて無理な話ですけど♪」
車椅子のコンソールには、リオのセーフハウス内の地形データが表示されている。
「さて、リオより先に接触を果たさないと……まず相談すべきは、先生かしら」
ヒマリの瞳に一瞬だけ憂いの色が宿るが、それはすぐに消えた。
ヒマリの車椅子が廊下を疾走する音だけが響く暗闇。
その背後、聞き慣れない足音が迫っていた。
「……?」
ヒマリは異質な気配に気づき、振り返る。背後の暗闇から近づいてくる硬質な音。それは機械的なものではなく、生身の者が床を駆ける足音だ。
「……誰ですか!?」
ヒマリが叫ぶが、返答はない。ただ影が、壁を蹴り、宙を舞い、彼女の車椅子の前方へと飛び出した。
暗闇の中でその姿が露わになる――
白いメイド服を模した制服に身を包み、片手にはミレニアム製の銃器を持つ少女。
その銃器にはミレニアムの紋章が刻まれ、彼女の冷たい青い瞳がヒマリを見据える。
「……まさか……五番目のC&C……!」
ヒマリの驚愕に、影は答えなかった。ただ、迷いのない動作で銃口を車椅子へと向ける。
「くっ……!」
ヒマリは急ぎ車椅子の操作盤を叩き、防御の準備を整える。しかし、敵の反応は早かった。
銃声が響き、放たれた弾丸が車椅子のコンソールと車輪を正確に撃ち抜く。
車椅子は制御を失い、ヒマリはバランスを崩して後方へ倒れ込む。
「きゃっ――!」
辛うじて手をついたものの、愛銃「高嶺の花」を抜く暇もないまま、影が一瞬で距離を詰め、ヒマリの首元を掴み押さえつけた。
「対象確保。このまま意識を奪います」
冷たい声が響く。影――五番目のC&Cは、首元にシリンダーを押し当てると、特殊な薬剤を投与した。
「っ……!」
ヒマリの体から力が抜け、視界がぼやけていく。抵抗しようとするも、既に筋力も判断力も奪われ、思考が揺らぎ始める。
「……エイ、ミ……先生……アリス……」
最後に呟いたその言葉を残し、ヒマリは完全に意識を失った。
C&Cはヒマリを担ぎ上げ、耳元の通信機に手を添えた。
「リオ様、対象の無力化、確保を完了しました」
『……良くやったわ。そのまま例の場所へと移送して、私も後から合流する』
「――イエス・マム」
通信を切り、冷静に室内を見渡す。暗闇の廊下で転がった車椅子を一瞥し、再び視線を前に向けた。
ヒマリを担いだまま、その小柄な体は音もなく廊下の闇に溶け込んでいく。
一方、セーフハウスの中でリオは復旧作業を進めていた。
停止したAMASの再起動を確認しつつ、無言でタブレットを操作する。
「……逃げ切れたつもりでいるのかしら?」
冷たい声を漏らし、ヒマリが破壊した車椅子のコンソールを見つめる。
「彼女が持つ知識と能力――本当に味方にしておきたかった」
リオの手が止まり、しばし思考に沈む。
「だけど……こうなった以上、もう迷う必要はない」
赤いランプが再び点灯し、復活したAMASたちが起動音を鳴らす。
「――ヒマリ。この戦い、最後に笑うのはどちらかしら」
彼女の瞳には、冷徹な決意が宿っていた。
暗闇の廊下を進む中、ヒマリは意識を取り戻しつつあった。
ぼんやりとした視界の中で、微かに聞こえるC&Cの足音。
「……まだ……負けないわ……」
彼女は決意を胸に、再び意識を覚醒させるべく力を振り絞る――。
次回
マキ「銀さん!聞いて世紀の大発見何あったの早く来て!!」
銀時「おいおいこれ俺たちが退治したガラクタじゃねぇか」
ミドリ「アリスずっと黙ってどうしたの?」
アリス?「……殲滅を開始します」
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源外「おい起きろ!このストーリーはお前さんがメインでもあるんだからな」
金時「ようやく俺の出番か」
〜透魂〜第一回キャラクター人気投票
-
銀時
-
新八
-
神楽
-
沖田
-
土方
-
山崎
-
高杉
-
桂
-
定春
-
エリザベス
-
ホシノ
-
シロコ
-
ヒナ
-
アコ
-
ミカ
-
ナギサ
-
セイア
-
ユウカ
-
ノア
-
近藤