透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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銀時「はぁーい今日はあのニセ五条の秘密を知るために性能説明ビデオを見まーす」

銀時「えっと注意事項?難しい話になるから、本編が読みたい人は見なくてもいいって……相変わらずメタいな」

ポチTVの付く音



金時 「へぇ~、爺さん。呪術廻◯とかでお馴染みの『赫』とか『蒼』とか、ああいうのを電磁気で再現できるなんて話、俺にはちょっと信じられねぇんだけど?」

源外: 「ふん、金の字、聞くだけタダだ。まあ、実際の呪術と比べりゃこっちは理屈の話だがな。いいか、ざっくり説明してやるよ。」

1. 術式反転「赫」
源外: 「『赫』ってのは、簡単に言やぁ正と負の力をぶつけて対象を吹っ飛ばすってやつだ。これを電磁気で再現する場合だが……たとえば、磁石の同じ極同士が反発し合う現象、あれを利用すりゃ近いもんができる。」

金時: 「ほう、磁石ねぇ。でも、ただの磁石でどうやって物を吹き飛ばすんだ?」

源外: 「そこが肝だ。まず対象物に磁性を持たせる。例えば、鉄の粉をまとわせたり、何らかの手段で電磁波を浴びせて磁性を付与するんだ。その上で強力な電磁石を使い、対象に反発する磁場を一気に作り出す。これで対象は弾け飛ぶって寸法だ。」

金時: 「なるほどな。でも、そんなに強い力を出すって、エネルギーとかヤバいんじゃねぇか?」

源外: 「その通り。強力な磁場を一瞬で作り出すにはバカみてぇな電力が必要だ。だから実用化するとなりゃ、莫大なエネルギー源がいる。しかも対象が磁性を持ってないと反応しねぇ。そこが術式とは違う難点だな。」

2. 術式順転「蒼」
源外: 「次は『蒼』だな。これは引き寄せる力だ。磁石なら逆の極が引き寄せ合うだろ? それを応用する。」

金時: 「引き寄せるって言っても、人とか物とか自由自在にやれるのかよ?」

源外: 「対象に磁性を付与できればな。『赫』と同じように、まず対象を磁性体に変える。その上で、対象を引き寄せる方向に磁場を操作すればいい。」

金時: 「磁場を操作って、そんな簡単にできるもんか?」

源外: 「簡単じゃねぇよ。だけど理論上は、可変磁場を使えば超強力な吸引力を生み出せる。特に電磁石なら磁場の方向も自由自在だ。ただし、これも周囲の環境に問題が出る。」

金時: 「環境?」

源外: 「周りにある金属製品や他の磁性体が全部影響を受けちまうんだ。制御が難しくてよ、下手すりゃ周囲がめちゃくちゃになる。」

3. 虚式「紫」
金時: 「んで、問題の『紫』はどうする? 赫と蒼を混ぜたら全部破壊できるとか言ってたよな?」

源外: 「おう、『紫』は『赫』と『蒼』を組み合わせた破壊の極致ってわけだ。これを電磁気で再現しようとするなら、引き寄せる力と吹き飛ばす力を同時に使う。」

金時: 「同時に? どうやって?」

源外: 「対象を中心に引き寄せる磁場を作りながら、その周囲には反発する磁場を展開する。つまり、中心にエネルギーを圧縮し、外側に向かってそれを解放するんだ。」

金時: 「それで『全部ぶっ壊す』って感じか……でも、そんなの現実でできんのかよ?」

金時: 「おい爺さん、さっき言ってた『赫』とか『蒼』とか、結局全部できねぇんだろ? 現実じゃ無理があるとか何とか言ってたくせに、何でアンタは再現出来てんだよ。」

源外: 「ふん、お前が呆れるのも無理はねぇが、今回は違うぞ。俺が作ったんだ――高周波電磁波を使った磁性付与システムをな。」

金時: 「高周波電磁波? それ何だよ。なんかカッコつけた名前だな。」

源外: 「簡単に言えば、物体に一時的に磁性を持たせる技術だ。これを使えば、『赫』も『蒼』も再現できる。」

金時: 「へぇ~、そりゃ面白そうだな。でも一時的ってことは、またすぐ効果が切れるんじゃねぇの?」

源外: 「そこがミソだ。高周波電磁波を物体に照射すると、内部の電荷が偏って磁極ができる。その状態を利用して、必要な時だけ磁性を発生させる。効果が消えれば元通りだ、影響も少ない。これなら、お前が言ってた周りの環境に問題が出るってのも最小限で済む。」

金時: 「なるほどねぇ……でも、磁性を付けるだけじゃ『赫』や『蒼』は無理だろ? その後どうやって操作するんだよ?」

源外: 「そこから先はお前の出番だよ、金の字。俺がシステムを組み上げて、エネルギー制御や磁気操作を任せるって寸法だ。」

金時: 「……まぁ、いいさ。それくらい、僕なら簡単にできるだろうな〜。」

源外: 「だろうな。例えば『赫』なら、反発力を利用して吹き飛ばす。『蒼』なら、引き寄せる。俺のシステムが対象物に磁性を付与する、それを操るのはお前だ。」

金時: 「ふーん……そんなもん、俺に任せときゃ余裕だって。」

源外: 「そうか、なら次に試すのは『紫』だな。吸引力と反発力を同時に使う、エネルギーの圧縮と解放――こいつが一番難しい。電磁気以外に、超伝導技術やら核融合技術を同時に使用しなければならねぇ。下手をすれば制御不能で暴発する危険性もあるが……」

金時: 「大丈夫だって、爺さん。俺ならできるよ。だって――」

金時: 「僕、最強だから!」

ブチッTVを消す音

銀時「やっぱ、……やっぱ」

銀時「あいつうぜェェェェェェ!!」

ーーーーーーーーー
作者「難しい話になりましたが、これが一応金さんの説明です。」

作者「後は今回は一度消えたので変になってるかもしれません。そして、銀さんと金さんが助けに入るはとこまで進めたかったですが、長くなりそうだったので、途中までですが、お楽しみください」




第四十六訓 絆というは、鎖よりも硬い何かです

そして結局、あの事件は『事故』として処理されることになった。アリスも普段通りの一般生徒として自由の身となったが、それには一つ条件があった――エンジニア部のタマによる監視付きで、という形で。

 

シャーレの一室では、ゲーム開発部のいつもの光景が繰り広げられていた。

 

「あぁ!!また負けたァァァァ!!」

モモイの声が響く。

 

その叫び声に、ミドリが眉をひそめながら振り返る。

 

「お姉ちゃん!ゲームに負けて癇癪起こすのやめてって言ってるでしょ」

 

「無理無理ィィィィ!!」

モモイはそのままスティックを机に叩きつける勢いで手を振る。

 

そんなやり取りを見守るタマが、眉間にシワを寄せながら静かに呟いた。

 

「モモイ様……落ち着いてください。それではアリス様の監視ではなく、モモイ様の監視をしているみたいになってしまいます。」

 

ミドリは肩をすくめながら、小さくため息をついた。

 

「実際にはお姉ちゃんの方が日常での危険度は何倍も高いから、それでもいいかもって思うんだけどね……」

 

そのやり取りを耳にしても、アリスは何も言わず、ただ静かにゲーム画面を見つめていた。表情にはどこか影が差し込んでいるようにも見える。

 

ユズがそっと彼女に歩み寄り、声を掛けた。

 

「……アリスちゃん、大丈夫?」

 

しかし、その問いに答える前に、モモイが大きな声をあげる。

 

「アリスちゃん大丈夫だよォ!私たちなんて、ありとあらゆる研究会を襲ったり、不法侵入して通報されたりして来てんだから!!」

 

その言葉に、ミドリがツッコミを入れる。

 

「あのさ〜お姉ちゃん。私たちって言ってるけど、それほとんどお姉ちゃん単体で引き起こした事件だからね。ユズと私が関与したみたいに言わないでくれる?」

 

「うんうん」

ユズもその発言に、しっかりと頷いた。

 

モモイは一瞬バツの悪そうな顔を浮かべたが、すぐに何事もなかったかのように話題を変えた。

 

「さ、さあ〜て、そういえば銀さんたちどこへ行ったのかな〜?」

 

ミドリはその言葉に気づき、鋭く指を差した。

 

「あっ、話逸らした!」

 

その時、タマが静かに言葉を挟む。

 

「銀時様と……あの呪術かぶれの方、そして源外様は……」

 

「今、昨日の出来事について事情聴取を受けています。」

 

その言葉に、一瞬だけ部屋の空気が静かになる。

セミナー室――

銀時と金時、そして源外が向かい合って座っている。向かいにはユウカ、ノア、そしてミレニアムのセミナーの生徒たちがずらりと並んでいた。室内の空気は厳格で、事情をしっかりと聞き出そうという雰囲気に包まれている。

 

しかし、そんな空気をぶち壊す銀時たちのやりとりが続く――。

 

「だ〜か〜ら〜……さっきから言ってるだろ?」

 

「あれは……伝説のスーパーロリヤ人になって暴走したアリスが口からエネルギー砲を放ったことが原因なんだって」

 

「そんなわけないでしょ!!何よ伝説のスーパーロリヤ人って!?ドラゴ◯ボールじゃないのよ、この世界!!」

 

「それに……」

 

ユウカは視線を隣に座る金時に向ける。

 

「この銀さんとも五条さんともいえない異質な人物は誰!?」

 

「僕は……そこにいるアホな銀時の欠点を無くし、さらに磨きをかけた完璧な存在……坂田金時、いや、ごじょ。」

 

「うぜェェェェェェ!!」

 

銀時は勢いよく椅子から立ち上がると、金時に詰め寄る。

 

 

「おいテメェ、さっきから何なんだよ!その五条悟モードはやめろ!」

 

「いやいや、銀さん。それくらい完璧でなきゃ、俺みたいな存在にはなれないだろ?」

 

「お前が完璧とか言うな!主人公の俺が傷つく!」

 

金時は片手で銀時を軽く押しのけ、ユウカに向き直る。

 

「話を戻そうか。お嬢さん、僕が誰なのかって?僕は銀さんの欠点を全て補って、まさに完成した存在さ――」

 

「やめろって言ってんだろ!!お前はただの改造人間だろ!五条の真似すんな!」

 

「分かったよ、兄弟。そんなに気になるなら、普通の喋り方にしてやるよ……で?、アンタは俺たちに何を聞きたいんだい?」

 

「(はぁ……面倒な人たちね……)とにかく、今回の騒動について経緯を教えてほしいんです。」

 

「経緯も何も、あれはアリスがスーパーロリヤ人になって――」

 

「その話はもういいです!真面目に説明してください!」

 

 

それまで黙っていた源外が、ゆっくりと口を開く。

 

「……今回の騒動についてはな、俺たちも予想外だったんだ。」

 

「予想外?」

 

「あぁそうだ。あの暴走が起きるまでな、アリスの野郎があそこまで異常な力を持っているなんて、俺も思っちゃいなかった。」

 

「異常な力、ですか……?」

 

「ああ。だが予兆っていうか、全く予測できなかったわけでもなく、不審なとこもあった。たとえばだ――まず、アリスの小柄な体で、140kgもあるスーパーノヴァを軽々と振り回してたろ?あの反動を受け止めるどころか、まるで木の棒でも扱うようにな。」

 

「確かに……あれは普通ではありませんね。でも、それがどうして……」

 

「まだあるぜ。今回暴走を引き起こした5体のロボ、あれを完全に操ってたのもアリスだ。」

 

「……たしかに、あの状況で複数のロボットを操れるなんて尋常じゃないですね。」

 

銀時がそこで手を挙げ、面倒くさそうに補足する。

 

「あとよォ、こいつは秘密にしてたんだが、そもそもアリスって、最初は立ち入り禁止区域で俺たちが見つけたんだよ?実際のところ普通の生徒がそんなとこで何やってたって話になるから言わなかったんだがな。」

 

「え……立ち入り禁止区域ですか?」

 

「そういうことだ。この点を全部繋げて考えると、アリスってのは――カラクリなんじゃねぇかって結論になるわけだ。」

 

「……!!」

 

ユウカはその言葉に驚愕し、椅子から身を乗り出した。

 

「そんな……アリスがカラクリ……?」

 

ユウカはしばらくの間、言葉を失った後、静かに問いかける。

 

「……でも、もしアリスが本当にカラクリだったとして、それが何か問題を引き起こす可能性があるんですか?」

 

「問題になるかどうかは分からねぇよ。ただ、今回の件みたいに制御が効かなくなったら――そりゃ大問題だな。」

 

「だからってアリスをどうにかしようとか、そんなしょうもねぇこと言い出すんじゃねぇよ?」

 

「そんなつもりはありません。ただ、今後のために知っておきたいだけです。」

 

ユウカは真剣な眼差しで答える。

 

銀時はふと、どこか遠くを見つめるように呟いた。

 

「……にしても、まだアリスは元気を取り戻せてねぇみたいだな。」

 

「まぁ無理もねぇさ。あんな大暴れした後だ、疲れも心の傷もでけぇだろう。カラクリにも人と同じように心があるからな。……強い鋼の心を持つカラクリもあればちょっとした事で壊れそうになっちまう繊細な心を持つカラクリもな」

 

「心配かい?兄弟。」

 

「当たり前だろ。あいつ、俺らの仲間なんだからよ。」

 

「そうですね……まずはアリスの心のケアが優先です。」

 

セミナー室には、一瞬だけ静寂が訪れた。

ミドリは座り込むアリスの肩にそっと手を置き、優しい声をかけた。

「ねぇ、アリスちゃん……元気だそうよ。」

 

続けて、モモイが明るく声を張り上げる。

「そ、そうだよ〜! 来週には、この前の対戦で全敗させられた沖田くんにリベンジするんでしょ!」

 

その言葉にユズも控えめに頷き、声を添える。

「……そ、それにC&Cのネル先輩も、今度は一緒に参加するって言ってた。」

 

そんな彼女たちを制するように、タマが一歩進み出て低い声で告げた。

「……ミドリ様、モモイ様、ユズ様。お気持ちはわかりますが、アリス様には少し、一人になる時間も必要かと思います。」

 

しかし、そのタマの言葉を遮るように、アリスが顔を伏せたまま絞り出すような声を上げた。

「ご、ごめんなさい、皆さん……」

 

その声は酷く擦れていた。アリスは俯き、唇を強く噛みしめていた。その瞳には涙が浮かんでいるが、それを零さないように必死に堪えている。両手は自分の衣服をきつく握り締め、震えていた。

 

「アリス……アリスのせいで……」

 

言葉は途切れ、しかしその意味は誰の心にも届いていた。アリスは自分が引き起こした一連の騒動を理解していた。気が付いた時には全てが終わっていて、部屋は破壊された機械や機材で散乱していた。

 

ふと視線を上げたアリスの目が、モモイの頬に貼られたガーゼを捉える。

 

「モモイも、一杯傷付きました。怖い思いも、沢山……ユズも、ミドリも、他の皆だって……一杯、一杯傷付きました……」

 

その声は次第に小さくなり、最後には呟きに変わった。

「――全部、アリスがやった事です。」

 

そう言いながら、アリスは再び自分の膝に顔を埋めた。小刻みに震える肩は、自責の念に押しつぶされそうな彼女の心を表している。

 

アリスの視線がモモイに、ミドリに、ユズに、仲間達に向けられる。

握り締めた両手が、衣服越しに彼女の皮膚に爪を立てる。アリスがこうして誰とも接触せず、一人で閉じ籠っていた理由――それは恐怖だった。

 

またいつ、自分が気付かぬ内に誰かを傷付けてしまうのではないか。勝手に動き出した身体が、今度こそ取り返しのつかない過ちを犯してしまうのではないか。

 

アリスはただそれが――それだけが、恐ろしくて仕方なかった。

 

「だから、だからっ、アリスは――……ッ!」

 

震える声にタマがそっと前に進み、柔らかい声で話し始める。

「アリス様……」

 

アリスの瞳がタマに向けられる。

 

「タマ……さん……」

 

タマは静かに首を横に振り、続ける。

「確かにあなたは、何かの手によるものとはいえ、あらゆるものを傷つけたかもしれない。一人で抱えきれないほどの罪を背負ってしまったかもしれない。」

 

アリスは唇を噛みしめ、沈黙する。

 

タマはさらに声を重ねた。

「ですが……それを理由にして立ち止まる事を、ここにいるあなたの仲間たちは誰も望んではいませんよ。」

 

その言葉に、モモイが一歩前に出て大きな声で叫ぶ。

「そ、そうだよ!! 一度の失敗がなんだ、傷つけたからなんだ! 私たちの絆はそんなものじゃ壊れないよ!」

 

続いてユズも勇気を出して言葉を紡ぐ。

「………私も、アリスが閉じこもるなんて……そんなの望んでない。」

 

ミドリはアリスの前に立ち、優しく微笑んだ。

「だから……戻ろう。ゲームして遊んだ日常に、たまにバカ騒ぎして笑った日常に――戻ろう?」

 

涙を堪えていたアリスの瞳に、一筋の涙が零れる。

「モモイ……ユズ……ミドリ……」

 

その時、不意に低い声が響いた。

 

「残念だけど、貴方たちのいう『普通』はもうすぐ終わる。」

 

重々しい声にアリスを囲む全員が肩を震わせ、声の主を振り返る。

 

「その子を含めた普通の日常はね……」

 

差し込む光の中、廊下に立つ影がゆっくりと現れる。

黒い制服を纏い、タブレットを片手に冷たい目でこちらを見下ろす人物。

 

タマが真っ先に箒を構えて前に立ち、低い声で相手に向かう。

「何ですか貴方は……厨二病患者ですか? それもかなり重症な……」

 

箒をぐるぐると回しながら、立ち塞がる人物をじっと見据える。

 

「今すぐお手入れいたします。」

 

慌ててミドリがタマを止める。

「待ってタマさん! ストップ、ストップ!!」

 

「何故止めるんですか?」と不思議そうに問いかけるタマに、ミドリは焦りながら答えた。

「これ以上話すと話がややこしくなりそうだから黙ってて!」

 

「……承知しました。」

 

モモイが前に出て、不安げに声を上げる。

「此処はゲーム開発部の部室だよっ!? 関係者以外立ち入り――」

 

冷たい声が、モモイの言葉を遮った。

「基本原則として、セミナー生徒会役員は事前告知なしでの各部活動立ち入りが許されているわ。勧告を行うのならば――尚更ね。」

 

その言葉に、一同は息を飲む。彼女の制服にある校章とプレートが目に入る。

記された校章はミレニアム、そして所属は――。

 

「あ、あなたは……」

「セミナーの……?」

「生徒、会長……!?」

 

差し込む光の中、冷然とした態度で立つその人物――ミレニアムサイエンススクールのセミナーの長、調月リオ。

 

リオはじっとアリスを見据え、その瞳には何かを見透かすような鋭い光が宿っていた。

「あぁ、やはり――危惧していた通りになってしまった様ね。」

 

 

 

そこに立っていたのは、ミレニアムサイエンススクールのセミナーの長――調月リオ。その赤い瞳が、アリスを含めたゲーム開発部の面々を鋭く見据えていた。

彼女達の目の前に立つ人物、それはミレニアムサイエンススクールに於いてトップに立つ、セミナーの長――調月リオ。

 彼女は暗闇の中でも視認出来る、赤い瞳で以てゲーム開発部の面々を観察していた。

 唐突な学園トップの訪問、それに目に見えて浮足立つ三人。ユズとミドリはリオの表情を凝視しながら、戸惑った声を漏らす。

 

「せ、生徒会長が、ど、どど、どうして、こんな所に……」

 

「ふ、普段は全く姿を見せないって聞いていたのに……!?」

 

 そんな彼女達の慌てふためく様を見つめながら、しかしリオは努めて淡々とした口調で以て口を開いた。

 

「……今日は貴女達に真実を教えに来たのよ」

 

「し、真実……?」

 

 真実とは、一体。

 ユズが困惑の声で問い返せば、リオは背筋を正したまま何の感慨も見せる事無く言葉を続ける。

 

「えぇ、貴女達は前日の事件で一つの考えに到達したのではなくて?」

 

「え、っと……?」

 

「な、何、突然……」

 

「今まで友人だと思っていた彼女が見せた異なる姿、そして同時に生じた破壊と混乱――そこから一つ、疑問が生じた筈でしょう」

 

 疑念と不安に塗れる彼女達の前で、リオは指先を一本立てる。そしてその先端を、緩慢な動作でアリスへと向けた。先の騒動で生じた破壊と混乱、そこから生まれる疑念――それは即ち。

 

「今まで友人だと思っていたものは、そうではないの私達とは異なる存在かもしれない――と」

 

「ッ……!」

 

 その言葉には多分な悪意が含まれている様に思えた。少なくとも、ゲーム開発部の皆からすればそう聞こえたのだ。瞬間、モモイがカッと毛を逆立て、目の前のリオを睥睨し叫ぶ。

 

「な、何それ……ッ! どういう意味!?」

 

「どういう意味も何も、そのままの意味だけれど」

 

「アリスが、私達とは違う存在とでも云いたいの!?」

 

「あ、アリスちゃんは、私達と同じ、ゲーム開発部の仲間で……!」

 

「分かったわ……そうね、貴女達にも分かり易い様、単刀直入に云えば――」

 

 激昂するモモイとミドリに対し、どうやら説明不足だったと思考を巡らせるリオ。彼女は二人に掌を見せながら、冷静な面持ちで語りかける。

 

「貴女達の後ろにいる生徒――少女の外見を備えた【ソレ】は、普通の生徒ではない」

 

 機械的に、淡々と、何の色も感じさせず――彼女の言葉は無機質であり、聞いている者にまるで説明書を朗読している様な煩雑さを覚えさせた。

 

「貴女達がアリスと名付けたソレは、未知から侵略して来る『不可解な軍隊』Divi:Sionの指揮官であり、名も無き神を信仰する無名の司祭が崇拝した『オーパーツ』であり、古の民が残した遺産……」

 

 その名も――【名もなき神々の王女AL-1S】。

 

 リオの告げたそれが全員の耳に届く。AL-1S――それは確か、アリスを見つけた場所で発見した、何らかの記号、或いはアリスを表していた筈の型版。それをもじり、モモイは彼女に『アリス』という名を与えた。

 その事を、憶えている。

 ユズは数歩後退り、愕然とした表情で呟く。

 

「お、おう、じょ……?」

 

「えぇ、そうよ――ソレは、貴女達の考えている様な、生易しい存在ではないの」

 

「な、なに云っているん、ですか……!?」

 

 アリスが、声を上げた。

 ハッとした表情でモモイが振り向けば、アリスが今にも泣き出しそうな表情で胸元を握り締め、身体全体で精一杯否定を叫んでいた。

 

「あ、アリスには……アリスには、理解、出来ません……!」

 

「ッ、そ、そうだよ! 何突然意味わかんない事云い出すの!? 脳内設定ならひとりでやってよ! アリスに変な属性付け足さないで!」

 

「も、モモイ……」

 

「王女だか遺産だか、神様だか知らないけれどっ! そんな突然意味不明な話をされたって、訳が分からないよッ!」

 

 アリスの傍に駆け出し、彼女の手を握り締めながら全力で叫ぶモモイ。其処には目の前のリオに対する敵意が見え隠れしていた。息を呑むユズとミドリ、しかし彼女達も即座に唇を硬く結び、アリスを庇う様に駆け寄る。対峙するリオとゲーム開発部、そんな光景を視界に収めたリオは暫し言葉を噤み、徐に謝罪を口にした。

 

「――ごめんなさい、私の配慮が足りなかったわね」

 

「うぇっ!?」

 

「突然こんな事を云われても混乱するのは当然、ましてや外見は私達に酷似しているもの、その様な感情に襲われるのも仕方ないわ……或いは、元より『群衆に溶け込む』様に創られている可能性もある訳だし――」

 

 何やら唇に指を添え、何事かを呟くリオ。暫し無言を貫き思考を巡らせた彼女は、強張った表情で自分と対峙する四人を眺めながら小さく頷きを零す。

 

「そうね、もっと分かり易く噛み砕いて――えぇ、貴女達の好きなゲームに例えましょう、比喩表現は時折本質より逸れる場合があるけれど、理解を第一に考えるのであれば悪い選択ではないもの」

 

「げ、ゲーム……?」

 

「そう、確か貴女達が以前受賞したミレニアム・プライスの作品――RPGロールプレイングゲームだったかしら? その手のものは余り触れないのだけれど、シンポジウムで最新のテーマは耳にした事があるし、此処の活動実績は把握しているわ」

 

「て、テイルズ・サガ・クロニクル2の事……?」

 

「あぁ、確かそんなタイトルだったわね」

 

 恐る恐る呟いたユズの言葉に頷きを返し、リオは端末を片手にアリスへと視線を向ける。余り多くを理解させる事は難しい、そう判断した彼女は簡潔に、かつ彼女達の身近なものに例えて云い聞かせる事にした。

 

「そうね、短く簡潔に纏めましょう、つまりアリス、RPGに於いて貴女は――この世界を滅ぼす為に生まれた【ラスボス】なのよ」

アリスの瞳が微かに揺れた。モモイ、ユズ、ミドリ、タマ――仲間達の顔が、まるで別の世界の存在のように遠く感じられる。

 

「わ、私が……ラスボス……?」

 

その言葉は、アリスにとってあまりにも現実感を欠いた響きだった。リオの言葉は冷たく、無機質で、まるで定められたシナリオをなぞるナレーションのようだった。

 

リオはそんなアリスをじっと見つめながら、さらに語りかける。

「そう、貴女はラスボス。すべての戦いを経た後、主人公たちを待ち受ける存在。それが貴女――AL-1S――つまりアリスなの。」

 

「なッ!?」

 

モモイが再び声を荒げる。モモイはその場で感情を爆発させるように叫んだ。

 

「ラ、ラスボス!? アリスが世界を滅ぼすって……い、意味が分かんないよ!」

 

 その勢いに乗るように、ミドリも声を張り上げる。

 

「そうです! お姉ちゃんの云う通りです! どうしてそんな酷い事を云うんですか!」

 

 ユズは言葉を飲み込んだまま、リオを見つめる。その視線は戸惑いと不安に揺れている。

 

 一方でリオは感情の波を受けることなく、冷静に彼女たちを見回した。

 

「……今の表現で、納得できないかしら?」

 

「っ、出来る訳ないよ!」モモイはリオの問いに即座に反応した。「アリスがラスボスとか、それもどうせ勝手に妄想した設定なんでしょ……!?」

 

 リオは淡々とした声で続ける。

 

「そう。あくまで否定を口にするのね――では逆に聞きたいのだけれど、貴女達は直接見たのではなくて? 不可解な軍隊、あの機械群とアリスが接触した事で何が起きたのか。」

 

 その問いに、ユズが恐る恐る口を開く。

 

「不可解な軍隊って……あ、あの奇妙なロボットのこと……?」

 

 リオは小さく頷き、答えた。

 

「えぇ、本来はあんな事態にならずに済む予定だったのだけれど……完全に此方のミスよ。C&CとAMASを通じて全て追跡したと思っていたのに――まさか監視網を掻い潜った個体が居たなんて。」

 

 彼女の口調には、責任を負う者としての厳しさが滲んでいた。

 

 モモイは眉を吊り上げ、口を挟む。

 

「監視網とか……なんでそんな危険なものが最初からミレニアムにあったわけ?」

 

 リオは視線を外さずに答えた。

 

「その件については、完全に私の責任よ。ミレニアムの防衛に関しては、セミナー――延いては私に課せられた義務だから。」

 

 彼女は深く頭を下げ、全員に謝罪の意を示した。しかしその次に発せられた言葉が、再び部室内を凍りつかせる。

 

「……けれど、この一件によって私の仮説は証明された。」

 

 ユズは驚愕に目を見開く。

 

「か、仮説……?」

 

 リオは再び、アリスへと視線を向ける。

 

「貴女達が接触し、連れ帰ったソレは廃墟から溢れ出した災禍、ミレニアムに……延いてはキヴォトス全土に終焉を齎す悪夢そのものよ。アリスの存在が廃墟から奴らを呼び寄せているという私の仮説は正しかった。」

 

 その言葉に全員が息を飲む。

 

「今回は運良く少数の個体と接触するに留まったけれど、次はきっとこの程度の被害では済まない。」

 

 リオは、鋭い視線でアリスを見つめながら続けた。

 

「アレは尖兵に過ぎないわ。王女を守り、敵対者を排除する矛であり盾。アレが群体として動き出し、王女が玉座に収まった時、ミレニアムに、いいえ、キヴォトス全土に本格的な破滅が訪れてしまう。」

 

 その冷酷な言葉に、モモイが激昂する。

 

「そんなの! そんなのアリスが望んだことじゃない! アリスがそんなことするはずないよ!」

 

 ミドリも負けじと声を張り上げる。

 

「そうです! アリスちゃんはただ私たちと一緒にゲームをして、楽しく過ごしたいだけなんです!」

 

 だがリオは、二人の訴えを否定するかのように静かに首を振った。

 

「そうなれば次は誰かが死ぬかも知れない。ヘイローが破壊されるかもしれない――アリス、貴女の傍にいる誰か、或いは全く関係のない第三者が。」

 

 その言葉に、アリスは苦しげに俯いた。

 

「……これを解決する方法は、たった一つ。」

 

 リオの声が響く。その表情に一片の迷いもない。

 

「アリス、貴女が消えれば良い。」

 

 その一言に、部室は静寂に包まれる。

 

 「なッ……!?」

 

 その言葉に、全員が絶句した。

 

 冗談なのか?――否。リオの瞳には、僅かな揺らぎすらない。本気で、心の底からそう信じているという確信だけが宿っていた。

 

 アリスが消えれば全ては解決する――それが、リオの結論だった。

 

 リオは一歩踏み込み、アリスの瞳を射抜くように見据える。そして感情の一切を排した声で畳みかけるように続けた。

 

 「アリス、貴女はこの世界に存在してはいけない存在なのよ」

 

 アリスの肩がビクリと震える。

 

 「存在、しては……いけない?」

 

 「えぇ、貴女が存在するだけで、周囲は不幸になり、傷付いてしまう。そんな存在は早急に排除すべきでしょう? 貴女が消えれば全てが解決する。もう誰も傷付かずに済む」

 

 「そ、んな――……」

 

 アリスの視線が、自身の両手に落ちた。

 

 ぽたぽたと、何かが落ちていく。それは、彼女の頬を伝い零れる涙だった。

 

 ――泣いてはいけない。

 

 ずっとそう自分に言い聞かせてきた。あの日、皆を傷つけた自分に、泣く資格などないと。

 

 ぎゅっと、胸が締めつけられるような感覚。

 

 初めてゲームを遊んだとき、冒険の楽しさに触れ、感動を覚えた。物語の終わりに感じた切なさや寂しさ――それとも違う。

 

 もっと深いところから、湧き上がる感情。

 

 もし自分が消えれば――もう誰も傷つかずに済む。

 

 それは、素晴らしいことだ。

 

 アリス自身、そう思っていた。けれど――その代償に失われるものは。

 

 「あ、アリスは、ただ……みんなと、……」

 

 震える唇が、かすれた声を紡ぐ。

 

 言葉が、続かない。

 

 視界が滲み、偽物の心臓が早鐘を打つように暴れ出す。全身を巡る血が凍りつく。

 

 喉が引き攣り、涙が止まらない。

 

 ――何も見えない。

 

 自分は、誰かを傷つけたい訳じゃない。

 

 自分は――アリスは。

 

 「た、ただ、皆と一緒に、楽しい日常を過ごしたくて――……」

 

 あぁ、そうだ。

 

 何てことのない日常を、何処にでもあるような、ありふれた幸福を。

 

 一緒にゲームをして、冒険をして、笑い合って。

 

 時には喧嘩して、でも最後には笑顔で仲直りして。

 

 新しい世界を冒険して、仲間たちと一緒に色々な物語を作っていく――。

 

 そんな日々を、ずっと続けていきたくて。

 

 「いっ、一緒に……遊び、たくて――ッ!」

 

 しゃくり上げながら、大粒の涙を零し叫ぶアリス。その声は、今にも消えてしまいそうに淡く脆い。

 

 しかしリオはその希望の声を、容赦なく切り捨てた。

 

 ――天童アリスは排斥されなければならない。

 

 ミレニアムのために。

 

 否――キヴォトス全土に生きるすべての生徒のために。

 

 「アリス、貴女は主人公ではないわ」

 

 「え……?」

 

 「主人公は、大切な人に剣を向け、傷付け、悲しませる存在なのかしら?」

 

 「ぅ……ぁ――」

 

 「いいえ――それは、世界を滅ぼすラスボスの役割よ」

 

 「アリスちゃんッ!」

 

 振り絞るようにして、叫ぶ声が響く。

 

 ミドリがアリスに飛びつき、その頭を抱きかかえた。震える彼女の耳を両手で覆い、毒のようなリオの言葉から守るように。

 

 「もういいです! アリスちゃんに、これ以上酷いことを言わないでください!」

 

 モモイも、震えながらも前に進み出てリオを睨みつけた。

 

 「そうだよッ! アリスは私たちの仲間だ! それ以上でも、それ以下でもない! そんな酷いこと言うなんて、鬼! 悪魔! 人でなし!」

 

 「……虐めているつもりはないけれど」

 

 リオは肩を竦め、冷静な表情のまま吐き捨てた。

モモイの言葉に肩をすくめるリオ――彼女はあくまで事実を述べているに過ぎない。少なくとも、自身ではそう信じている。予想や憶測を孕んでいたとしても、そこにはきちんとした背景が存在している。

 

 収集したデータ、文献、実際に足を運び確認した事実。そうした断片を繋ぎ合わせ、演算によって導き出した彼女の結論。そこに感情や私怨といった変数は存在しない――それだけは断言できる。

 

 「それに、真実から目を背けるのは思いやりではないわ。それは単なる現実逃避に過ぎない――負うべき責任の放棄は極めて非合理的な行動よ」

 

 「合理的だとか、非合理的だとか、そんなの関係ないよ! アリスは魔王なんかじゃない、私たちの仲間なんだからッ!」

 

 「はぁ……アリスの本質を目にして、傷つけられてなお、あなたたちはそう口にするのね」

 

 「そうだよッ、傷付けられたよ! 痛かったし、怖かったし、涙だってたくさん出た……ッ!」

 

 モモイは両手を握り締め、精一杯叫ぶ。その声には、揺るぎない決意と怒りが込められていた。

 

 今思い返しても、痛みと気怠さに目を覚ました時の衝撃が蘇る。自分を抱きしめる大切な仲間たち――涙が止まらず、妹に縋りついた情けない自分を思い出すたび、込み上げるものがあった。

 

 それでも、モモイは叫び続けた。

 

 「でもッ!」

 

 涙を浮かべながらも、足を強く踏み鳴らして叫ぶ。

 

 その心がボロボロでも――背中には、共に支え合う仲間たちがいる。友達がいる。それはモモイにとって、何物にも代えがたい宝物だった。

 

 だから彼女は両手を広げ、その背中にゲーム開発部の仲間たちを庇うようにして立ちはだかる。

 

 「アリスがそんなこと、望んでするはずないって、私たちは信じているもんッ!」

 

 「お姉ちゃん……!」

 

 「も、モモイ……ッ!」

 

 ユズが、ミドリが、彼女の啖呵に笑顔を浮かべる。

 

 ――想いは同じだった。

 

 ゲーム開発部の誰もが、アリスの味方だと信じている。アリスがキヴォトスに悪意をもたらすはずがない。彼女はいつだって――仲間たちにとってのヒーローだった。

 

 「……みんな」

 

 自身を抱きしめ、守り、立ちはだかる仲間たち――ゲーム開発部。

 

 その背中を見つめながら、アリスの胸は締め付けられるようだった。それは尊く、愛おしい光景だった。嬉しさと切なさが混じり合い、涙を誘うほどに。

 

 だからこそ、アリスは思う。

 

 そんな優しく、大切で、かけがえのない存在を――もう、傷付けたくないと。

 

 彼女たちが大事だから、仲間だから――アリスは再び自我を失うことを恐れていた。

 

 「アリスは……」

 

 「――?」

 

 「アリスは……アリスは、一体どうすれば良いんですか……?」

 

 震える声で、アリスは目の前のリオに問いかけた。

 

 力なく呟かれるその声に、リオは一瞬だけ視線を揺らす。しかしすぐに冷静さを取り戻し、淡々と答えた。

 

 「……さっきも言ったけれど、全てはアリス――あなたがここに存在しているから起きているの」

 

 リオの言葉に、ゲーム開発部の全員が彼女を責めるような視線を向ける。アリスを隔離するつもりか。それとも、ミレニアムから追放し、どこかに閉じ込めるつもりなのか。

 

 だがリオの次の言葉は、彼らの予想を遥かに超えていた。

 

 「それなら話は簡単よ。存在するから傷付ける――なら爆弾は安全な場所で解体すれば良いだけ」

 

 「ばく、だん……?」

 

 「……少し分かりにくかったかしら」

 

 迂遠な物言いを自覚したのか、リオは一拍置いてから言葉を紡ぎ直す。そして、その指先が、アリスのヘイローを指し示した。

 

 「つまり、アリス――あなたのヘイローを破壊すれば全て解決するのよ」

 

 その瞬間、部屋に沈黙が落ちた。

 

 「……ざけないでよ」

 

 震えたモモイの両手が、強く握り締められる。同時に、俯いていたモモイの顔が上がった。

 

 「ふざけないでよッ!?」

 

 モモイはリオの襟元を掴み、全力で引き寄せながら怒鳴りつける。その目には、怒りと悲しみが滲んでいた。

 

 「ヘイローを壊すって……それ、本気で言ってるの!? そんなの、受け入れられるわけないじゃんッ!」

 

 「……私の言動が不愉快なら謝罪するわ」

 

 リオの冷徹な言葉に、モモイの声が震えた。

 

 「好きとか嫌いとか……そんな話じゃないッ! アリスちゃんは私たちの仲間なのにッ!」

 

 その声に続くように、タマが静かに口を開いた。

 

 「リオ様、アリス様に関するメモリーを確認しましたが、その全てが彼女の非常に穏やかな性格で構成されています。外部要因による異変が明確です」

 

 「タマさん……」

 

 「私が命じられるのは『守ること』です。その命令を無視するなら――敵とみなします」

 

 冷たい箒の先が、リオを真っ直ぐに向いた。

 

リオの言葉に反発するゲーム開発部とタマ、ユズはアリスに寄り添い、ミドリは力一杯彼女を抱き締める。自身の胸元を握り締めながら啖呵を切るモモイを見据えながらリオは小さく息を吐き出す。説得は失敗した、彼女はそう判断を下した。

 

「――そう、そうね、こうなる事も想定していた、だかこそ準備は万全に整えているわ」

 

 ゲーム開発部が、或いは第三者が彼女の確保を阻止する可能性は十分に考えていた。故に彼女は用意を済ませている。軽く手を払ったリオはモモイの腕を弾き、モモイは小さく呻きながら数歩後退する。

 微かに乱れた衣服を澄まし顔で整えながら、リオは自身の背後に向けて合図を送った。

 

「さぁ、貴女の出番よ――」

 

コツリと、靴音がした。

 誰かがゲーム開発部へと足を踏み入れる。

 明かりに照らされ伸びた影、それがゲーム開発部を覆い隠す。全員の視線が、現れた人影に集中した。

 

「ッ……!」

「なっ……!」

「ネル、先輩……!?」

 

 現れたのは見慣れた矮躯、胸元の大きく開いたメイド服に特徴的なスカジャン、鎖で繋いだSMGを両手に垂らしたC&Cリーダー――美甘ネル、その人。

 彼女は相変わらずしかめっ面を浮かべながらリオと、そしてゲーム開発部を一瞥し舌打ちを零す。其処には彼女らしくない、苦々しい感情が滲んでいる様にも見えた。

 

「余り悪く思わないで頂戴、元々C&Cはセミナー――正確には私直属のエージェントなの、そこに私的な感情は存在しないわ、私の命令に粛々と従うだけ」

「っ……!」

「C&Cのリーダー、ネル相手ではゲーム開発部だけで抵抗は出来ないでしょう? あぁ、外部に連絡を取ろうとしても無駄よ、この周囲は既にAMASで掌握済み、この棟全体と周辺一帯から救援が間に合う事はない」

 

 他者への連絡を絶ち、ゲーム開発部を完全に孤立させた上での包囲網。部活棟周辺はリオの製造したAMASの無人戦闘機によって包囲、防衛されている。リオは手元のタブレットに表示されるマップ情報を見つめながら、計画の万全さを再確認する。

 用意周到――調月リオという存在がこの部室に足を踏み入れた時点で、彼女の策は既に為っている。説得は云わば、平和的手段で解決できるならばそれに越したことがないという試みの一つに過ぎない。それが失敗すれば、力によって解決するのは自然な事。

 すべてはアリス――『AL-1S』を確実に確保、排斥する為に。

 その為であれば、どの様な手段であろうとも彼女は辞さない。

 

「さぁ、仕事の時間よ、ネル――アリスを回収しなさい」

「ぅ――ッ!」

 

 リオがそう指示を口にすれば、ネルの赤い瞳がゲーム開発部を射貫く。その威圧感、あのネルが敵に回ったという事実に気圧されるモモイ、ミドリ、ユズの三名。それでも逃げたり、弱音を吐かなかったのは背後にアリスが居るからだ。自分達が此処で退けば彼女は連れ去られてしまう――ヘイローを破壊されてしまう。

 

「ッ――……!」

 

 それは、それだけは阻止しなければならない。その一心でモモイも、ミドリも、小心者のユズでさえ歯を食い縛り、震えそうになる膝を叱咤し、彼女と対峙していた。

 そんな、なけなしの勇気を振り絞るゲーム開発部を前に、ネルは不意に口を開く。

 

 「……リオ」

 ネルがようやく口を開いた。その声は低く、押し殺したような響きを帯びていた。

 

 「何かしら?」

 リオは一切の動揺を見せないまま、ネルの言葉を促す。その声色には冷徹さすら滲んでいる。

 

 ネルはゆっくりと銃を構え直し、リオとゲーム開発部の間に目を走らせた。そしてその視線を目の前のアリスへと向ける。震える肩を抱え込むようにして蹲る彼女。その周囲を、モモイ、ミドリ、ユズが必死に守るように立ちはだかっている。

 

 「……目の前にいるこのチビが、アンタの言う『排除すべき危険因子』ってヤツかよ」

 

 リオは微かに肩をすくめるような仕草を見せ、即座に答えた。

 「そうよ。彼女の存在そのものが、このミレニアムにとって潜在的な脅威――放置する訳にはいかないわ」

 

 ネルはリオの言葉を聞き流すように再び視線を落とす。銃を持つ手に力がこもり、僅かに鎖が音を立てた。

 

 「……私にはどう見ても、泣きそうなチビがひとり、怯えてるようにしか見えねぇんだけどな」

 

 「それは『そう在るように作られている』からに過ぎないわ」

 リオの声は無感情だった。

 「それが見せているのは偽りの姿、本質は異なる。『AL-1S』はただの生徒などではなく、未曾有の危険因子であり――排除すべき存在よ」

 

 ネルはその言葉を聞きながら、ゆっくりと銃を構え直す。しかし、リオへと向ける鋭い視線は消えない。

 

 「……本質、ねぇ」

 

 ネルの言葉は、どこか苛立ちを含んでいた。その態度に気づいたのか、リオはわずかに眉をひそめる。

 

 「貴女はブリーフィングを受けているはずよ。『潜在的危機の排除』――それ以上に知るべきことなどあるかしら?」

 

 その言葉にネルは銃口を少し下げ、リオを見据える。その瞳には冷たい光が宿っていた。

 

 「……引き金を引くのに、それ以上の情報は必要ないってか?」

 

 リオは平然と答えた。

 「必要ないわ。貴女の役目は、ただ目の前の危機を排除すること――それだけよ」

 

 ネルは長い沈黙の末、小さく舌打ちをした。鎖が揺れ、愛銃を再び持ち直す。そして、鋭い動きで銃口をゲーム開発部へと向けた。

 

 「ネル、先輩……!」

 ユズが震える声を漏らす。ミドリは力いっぱいアリスを抱きしめ、必死にその小さな身体を守ろうとする。モモイは歯を食いしばりながらネルを睨みつけた。

リオの冷徹な命令が響き渡る中、ネルは銃を持つ手にさらに力を込めた。重々しい鎖の擦れる音が部室の静寂を切り裂き、その冷たい金属音が空気をさらに張り詰めさせる。銃口はまっすぐゲーム開発部の仲間たち――モモイ、ミドリ、ユズ、そして震えるアリスへと向けられていた。

 

 「銃を降ろしてください、ネル様……」

 タマが一歩前に進み出て、毅然と箒を構える。その姿勢には微塵も怯えが感じられない。

 

 しかし、ネルは彼女の言葉を受けても表情を変えなかった。瞳の奥にわずかな迷いのような光が揺れるも、すぐにそれはかき消えた。そして、淡々と低く呟く。

 「……タマ、アンタも分かってるだろ。私はこういう役目なんだよ」

 

 タマの赤い瞳がネルを射抜くように見据え、即座に答える。

 「あなたが今すべきことは、この方たちに銃を向けることでも、リオ様の言うことを聞くことでもありません。」

 

 ネルの表情が一瞬揺れる。だが、すぐにいつもの険しい顔に戻り、何も言わずにタマを見つめ続けた。

 

 タマは箒を構え直し、冷静な口調で言葉を紡ぐ。

 「ネル様がすべきこと――それは……その小さな体でも愛してくれる素敵な男性を探す旅に出ること。すなわち、ロリコン男子をナンパしてランデブーすることです。」

 

 一瞬の沈黙の後、ネルの顔に怒気が宿る。

 「いい加減にしろよ、このクソカラクリメイド!!」

 

 怒声が部室内に響き渡る。ネルは銃を一旦下ろし、タマを指差しながら叫び続けた。

 「お前が言ったこと自体が、今すべきことから一番離れてんだろうが!!それに私はナンパなんてしねぇし、ロリじゃねぇ!!」

 

 タマはどこ吹く風といった表情で、首を軽く傾げる。

 「では、あなたのすべきことはロリコン男子をナンパせずに……ランデブーだけを楽しむことでしょうか?」

 

 「そんなこと誰が言った!?」ネルは完全に声を荒げ、拳を握りしめる。「第一、一体どの話のネタを引っ張り出してきた!?どこでそんな設定が出てきたんだよ!」

 

 そのやり取りを横で見ていたユズが、困惑した表情で口を開く。

 「あ、確か……第35話の780行目だったはず……」

 

 「ユズちゃん!」ミドリが慌てて彼女の肩を揺らし、声をひそめる。「そこ、律儀に答えなくていいの!これ、完全にメタ発言だから!」

 

 ユズは「あ、そっか……」と俯くものの、場の緊張は和らぐことなく膠着状態のままだった。

 

 その一連の茶番を見守っていたリオが、ため息交じりに冷ややかな声を放つ。

 「茶番はもう終わったかしら?」

 

 部室に再び緊張が走る。リオの鋭い視線が、ネルを捉えた。

 

 「ネル、貴女の迷いは不要よ。指示に従って行動しなさい。」

 

 ネルの表情が固くなる。銃を再び握り直すその手には、先ほどよりも明確な力が込められていた。リオの言葉を否定することができない中、彼女は小さく息を吐きながら前を向く。その銃口が、ゆっくりとモモイたちを捉えた。

リオの冷徹な指示が響く中、ネルは銃を握りしめたまま、その表情を微妙に歪ませていた。何かを思い詰めるようなその瞳が、リオに向けられている。そして、静寂を切り裂くようにネルが低く口を開いた。

 

 「おい、リオ。」

 

 「……今度は何かしら、ネ――ッ!?」

 

 リオが返答しようとした瞬間、ネルの足元が一気に跳ね上がる。見開かれたリオの瞳に映るのは、跳躍し体を大きく反らすネルの姿だった。空中で重心をコントロールし、振り上げた足がリオの方に鋭い弧を描く。

 

 「――ッ!」

 

 咄嗟に展開される電磁防壁。青白い光がリオを包み込み、ユウカの装置を彷彿とさせるそのバリアが、ネルの蹴撃を真正面から受け止める。凄まじい閃光と衝撃音が部屋中に轟き、リオの体は衝撃に耐えきれず、ゲーム開発部の扉を突き破って廊下へと吹き飛んだ。

 

 廊下に響き渡る破砕音。ドアの留め具が飛び散り、廊下の床に転がる。粉々になった曇りガラスの破片が散らばり、ネルの足元で踏み砕かれる音が響いた。

 

 「うぇッ……!?」

 「ね、ネル先輩……?」

 

 唐突な出来事に声を失うゲーム開発部の面々。その背を向けたネルは一言も発せず、ゆっくりと廊下へと足を踏み出す。振り返ることもなく、背中越しに彼女の沈黙が部屋を支配していた。

 

 「……ネル、一応聞いておくわ。」

 「……あぁ。」

 

 地面に伏していたリオが静かに上体を起こし、淡々と問いかける。その姿勢には乱れがなく、膝をつきながらも、彼女の視線は冷ややかにネルを見据えている。

 

 「――一体、何のつもりかしら?」

 

 「その優秀な頭を捏ねくり回して、ちったぁ考えてみたらどうだ――なぁ、リオ?」

 

 ネルの低く響く声がリオの耳に届く。彼女はその声に応じることなく、膝についた埃を払いつつゆっくりと立ち上がった。その間にもネルはリオに対し視線を外すことなく歩み寄る。鎖を引きずる音が廊下に響き渡る中、ネルは鼻先を指で弾いて嘲るように口を開く。

 

 「今まで依頼内容を気に入った事なんざそう無かった。ヤレどこの武装組織を壊滅させて来いだ、不法占拠した不良共を掃除して来いだ……まぁ、その手のモンだったら、悪態吐きながら片付けてやったよ。暴れるのは嫌いじゃねぇしな。」

 

 「えぇ、そうね。任務に臨む態度は兎も角、貴女は常に結果を出していたわ。」

 

 「なら、分かるだろう?」

 

 ネルが言葉に詰まることなく続ける。口調は軽いが、その瞳には深い怒りの炎が宿っている。リオは彼女の意図を測りかねるように無言を貫きながら耳を傾ける。

 

 「今回の命令は一等悪趣味で付き合ってられねぇ。それだけの話だ。」

 「けれど必要な事よ。」

 

 「同じ学園の生徒を、それも何も分かっちゃいねぇ奴を誘拐する事が必要ってか? ……ざけんな。ンな依頼、やってられっか。」

 

 ネルが睨みつけながら吐き捨てる。だが、リオの冷静さは揺らがない。彼女は感情を押し殺した声で反論を始める。

 

 「何度も同じ事を繰り返し口にするのは非効率的なのだけれど、云った筈よネル。そもそも【ソレ】は私達と異なる――」

 

 「まず呼び方が違ぇ。」

 

 「……?」

 

 リオが言葉を止める。ネルは無言で顎をしゃくり、部室内で怯えるように身を竦ませているアリスを指し示した。その仕草の意味を理解しきれないリオに向かって、ネルは毅然と言い放つ。

 

 「チビをモノみてぇに呼ぶな。コイツにはコイツの名前がある。ソレでもアレでもねぇ――コイツは、アリス。ミレニアムの生徒だ。」

 

 「……貴女も、随分な呼び方をしている様だけれど。」

 

 「あたしは良いんだよ。少なくとも、アリスをモノ扱いする気もねぇし、あたしなりにコイツ等を気に入っているんだ。」

 

 ネルが破顔し、軽くツイン・ドラゴンを回す。鎖が撓り、地面を軽く打つ音が響いた。その笑顔には確かな親愛が宿っている。リオの冷たさとは対照的に、ネルの態度には熱い信念が込められているようだった。

 

 「それにリオ――てめぇの案に絶対賛成しないだろうバカなやつらを、あたしは知っている。」

 「………」

 「もう面倒だし、そうだな……この際ハッキリ言ってやるよ。」

 

 ネルは銃口を一気にリオへと向けた。その視線には揺るぎない決意が滲み、ツイン・ドラゴンの先端がリオを捉える。廊下に再び緊張が走り、リオがその動きをじっと見据える。

 

 「――もう、てめぇに付き合う義理はねぇんだよ、リオ。」

 

 

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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