透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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第四十九訓 カラクリの魂と人の魂

「此処が……」

「要塞都市――エリドゥ」

「厳密に云えば、その搬入口に過ぎないけれどね」

「ともあれ、漸く到着です!」

 

停車した物流輸送用の無人列車、そのコンテナの中からゲーム開発部とエンジニア部の面々が顔を覗かせた。暗闇の中、彼女たちは無人列車を利用し、秘密裏にエリドゥ地下へと侵入することに成功した。

 

しかし、目の前に広がる光景は、予想を遥かに超える規模だった。搬入口とされるステーションは巨大な機械音に包まれ、クレーンやドローンが絶え間なく稼働している。列車が次々と到着しては積み荷を降ろし、また走り去る光景に、全員が言葉を失った。

 

「……これ、凄い規模だね」

「う、うん……これだけ広いと、正直何処から手をつければいいのか」

「資材の運搬だけでこの規模……となると、地上はもっと大掛かりでしょうね」

 

エンジニア部のウタハが冷静に分析を続ける一方、ゲーム開発部のモモイたちは周囲を物珍しそうに眺めながら足を進めていた。

 

「でも、大丈夫かな……ここ、バレたら一瞬で終わりじゃない?」

「ヴェリタスの皆がバックアップしてくれているから安心して!」

 

エンジニア部が通信を開き、ハレたちヴェリタスと連絡を取る。

 

『こっちも順調だよ。警報システムは全部黙らせてあるから、心配しないで』

「ありがとう、ヴェリタス!」

 

ホログラム越しにハレの姿が映り込む。その表情には確かな自信が滲んでいた。無人列車や搬入口に仕掛けられている防衛システムを抑えるという重要な任務を担うヴェリタスは、今回の隠密行動の成否を左右する存在だった。

 

 

「さて、この先に進めば都市の内部だ。エリドゥ本体のセキュリティはここからが本番だよ」

ウタハが全員を見回しながら、端末を操作して地図を確認する。

 

「そうなると、少しでも足音を立てずに進まないといけませんね……」

「って、静かに――って言ってるそばから、何か来たよ!」

 

突然、薄暗い通路の奥から駆動音が響き渡った。

 

『――待って!』

 

ハレの緊張した声が通信越しに響き、全員が息を呑む。

 

『地下センサーに反応あり。三機、君たちの方に向かってる!』

 

「ま、まさかもうバレたの!?」

ミドリが狼狽える中、通路の先から姿を現したのは、リオ会長の無人ドローン――AMASだ。

 

「ど、どうするの!? 作戦開始前なのに、ゲームオーバーなんて嫌だよ!」

 

その声を遮るように、金時が前に進み出た。

 

「なーに、こんな雑魚ドローン心配する必要なんてねぇだろ」

 

「えっ?」

 

「俺がいるんだから安心しろよ」

 

そう言うや否や、金時は悠然と一歩踏み出す。AMAS三機が一斉に銃口を向けるが、次の瞬間、金時はドローンに手を置いてそこから放たれた波動が全てを包み込んだ。

 

「……無量空処、発動っと!」

 

金時が淡々と呟いた直後、ドローンたちはまるで時間を奪われたかのようにピタリと動きを止める。その光景に、全員が目を見張った。

 

「え、えぇっ!? これで終わり?」

「さすが金さん! 何これ、本当に凄い!」

 

「ふふん、俺にかかればこんなもんだ。ま、これくらいで驚いてちゃ、この先もっと面白いもん見せてやれねぇけどな」

 

金時は余裕たっぷりに肩をすくめ、停止したドローンを一瞥する。

 

「でもなぁ……これが『ビッグシスター』の全力だとしたら、ちょっと拍子抜けだよ?」

 

その軽口にも似た言葉の裏には、警戒心と洞察力が垣間見える。敵の動きを止めたとはいえ、ここが要塞都市――エリドゥの一部でしかないことを金時も理解していた。

 

 

「とりあえず、この三機は無害化したよ。さっさと進もうぜ」

 

金時がそう促し、全員が再び進行を開始する。だが、彼の後ろを歩いていたミドリが心配そうに声をかけた。

 

「でも、さっきみたいなのがもっと来たら、どうするの?」

 

「心配いらねぇよ」

 

金時は振り返りもせず、軽く指を鳴らす。

 

「こういうのはな、数が来ようが質が上がろうが、俺が全部止めてやる。それが俺の仕事だからな」

 

その言葉は、どこまでも信頼感に満ちていた。

 

「じゃあ、本当に金時さんが全部……?」

ユズが尋ねると、金時は再びニヤリと笑う。

 

「当たり前だろ。俺は金さんだぜ? ただ――」

 

彼は立ち止まり、全員の方を向いた。

 

「お前ら、俺の後ろで気を抜くなよ。守られるだけじゃなくて、ちゃんとやるべきことやれよな」

 

その言葉には、単なる自信だけでなく、全員を信じているという気持ちも込められていた。

 

 

搬入口を抜け、さらに進む一行。道中、金時の存在により予想外のトラブルも回避され、順調にエリドゥの地上部分への通路に辿り着いた。

 

「此処から先が本番だね……」

 

ウタハが静かに呟く。地上に出れば、そこはリオ会長の本拠地――要塞都市エリドゥの真髄が待ち構えている。

 

「ふぅ、何だかドキドキするね。でも、アリスを助けるためだもん、絶対に負けられないよ!」

モモイが拳を握りしめる。

 

「大丈夫だって、俺たちが付いてるんだ。行くぞ」

金時の声が響き、一行は更なる緊張感を纏いながら、都市内部へと足を踏み入れた――。

 

「あっははッ! いっくよぉ~っ!」

 

エリドゥ第三区画――中央街道

「あっははッ! いっくよぉ~っ!」

 

 夕陽に染まるエリドゥの中央街道。硝子張りのビル群は茜色に輝き、連鎖する爆発の炎でさらにその色を濃くしていた。無数の銃声が鳴り響き、爆煙と炎が街道に漂う中、メイド服を身に纏った三人――アスナ、カリン、アカネが背を預け合い、迫り来るドローン群を次々と撃ち抜いていく。

 

「アスナ先輩、後方――!」

 

 アカネがケースを片手に叫ぶより早く、アスナは笑顔を浮かべたまま鋭く声を返す。

 

「大丈夫! 視えているからっ!」

 

 飛来する弾丸を超人的な反射神経で感じ取り、アスナは身体を大きく反らせた。そのまま片足で地面を蹴り、空中で身を翻すと愛銃を引き絞る。彼女の狙いは確実だった――ドローンの外装を一発で撃ち抜き、火花を散らしながら機体は地面へと墜落、爆発する。

 

「四十六体目っ!」

 

 アスナが破顔しながら叫ぶと、すかさずアカネが笑みを浮かべながら指摘する。

 

「いいえ、これで丁度五十です」

 

 カチッ、とアカネがケースの中から爆弾の起爆装置を鳴らす。同時に、ドローンの群れが足元から爆発し、炎と爆風が吹き荒れた。

 

「わっ!」

 

 アスナが驚きの声を上げ、カリンも咄嗟に顔を腕で覆う。炎の熱波と爆風が彼女たちの髪を煽り、舞い上がった硝子片がきらめくように宙を舞う――幻想的な光景だが、状況はそれどころではない。

 

 爆風が収まる頃、三人は髪を払いながら立ち上がった。

 

「すっごい爆発だったね! 正にスクラップの山って感じ! ん~、想像してたより数が多いかも!」

 

 アスナが軽い調子で言えば、カリンが冷静に応じる。

 

「確かに終わりが見えないな。一体どれだけ配備されているんだ?」

 

 アカネはケースを下ろし、手元のサイレントソリューションの弾倉を確認する。

 

「さぁ? 幸い派手に暴れて騒ぎを起こし、目を引きつけるという目標は、これ以上ないほど達成できていますが――」

 

 彼女の言葉に反応するように、街道には散乱したドローンの残骸が黒煙を吹き上げる。だが、彼女たちの表情は余裕とは程遠かった。弾薬も爆弾も無限ではない。アカネの予想では、あと一時間半が限度だ――その後のことを考える余裕はない。

 

 しかし、そんな彼女の思考を遮るように――音もなく、空間を裂く影が一つ。

 

 最初に異変に気づいたのは狙撃手のカリンだった。彼女は頭上を見上げ、叫ぶ。

 

「――アカネッ!」

 

「……っ!」

 

 カリンの叫びに反応し、アカネはケースを手にしながら即座に身を投げる。直後、鋭い銃声が響き、弾丸がアカネのいた場所を突き抜けた。それは地面に突き刺さり、周囲に瓦礫と硝子の破片を飛び散らせる。

 

「そこッ――!」

 

 カリンは即座に反撃の銃弾を放つ。放たれた弾丸は影を捉える――そう確信した瞬間、相手は見事に身を翻し、夕焼けを背に虚空へと跳躍した。

 

 カリンの弾丸は虚しくビルの外壁に突き刺さり、壁面を抉る。

 

「外したッ……!?」

 

 驚愕の声を漏らすカリン。弾丸が外れるほどの敵など、彼女の経験には数えるほどしかいない。そんなカリンの視線の先、静かに舞い降りる影があった。

 

 薄暗く茜色に染まる空間に、ふわりと靡くロングスカート。その影――いや、人物は音もなく着地すると、青い瞳を煌めかせ、優雅にスカートの裾を摘んで一礼する。

 

「お初にお目にかかります先輩方。C&C所属、コールサイン・ゼロフォー――飛鳥馬トキ、御挨拶申し上げます」

 

 淡々としたその口調には、自信と確信が滲んでいた。

 

「……成程、お出ましか」

 

 カリンが息を呑みながら呟く。

 

 C&Cが今回の作戦を実行するにあたり、最も脅威となる存在――特記戦力が目の前に立ちはだかった。

 

 トキは視線を鋭くさせ、背中に背負った愛銃――シークレットタイムへと手を伸ばす。そして冷静な声で言い放つ。

 

「C&Cの判断も、動きも、そして勿論――皆さんの狙いも、全て」

 

「……陽動も全部、気づいた上でここに来たか」

 

 アカネが目を細めながら口を開く。

 

「はい、その上で僭越ながら申し上げます」

 

 トキは周囲を静かに見渡しながら、その言葉を続ける。

 

「――これ以上の抵抗は無意味です。大人しく降伏をお願い致します」

 

 その静かな宣告は、事実上の勝利宣言に等しかった。

 

「ほう、降伏勧告か」

 

 アカネが冷たい笑みを浮かべる。カリンとアスナも不敵な表情を見せ、自然と三人の間に緊張が走る。

 

「……へぇ~」

 

「あらあら」

 

 降伏勧告――その言葉自体が、彼女たちにとっては新鮮なものだった。C&Cが敵に降伏を勧告されるなど、これまで考えたこともなかった。

 

 アカネは眼鏡のレンズを指先で押し上げ、わずかに笑みを深めながら問いかける。

 

「その提案を断る、と云えば?」

 

「――勿論、実力で制圧するまでの事です」

 

 トキは臆することなく一歩足を進める。瞳には一切の揺らぎがない。それは、自らの力を確信し、この三人を倒せると本気で信じている目だった。

 

「……全く」

 

 アカネが何事かを呟き、肩を竦めた。

 

「――?」

 

 トキが不審に思ったその瞬間、周囲に緊張が走る。

 

「……ッ!」

 

 カツン――と音がした。

 

 それはトキの足元から聞こえた音。思わず足元を見下ろすと、そこには転がる円形のグレネード。

 

「……っ!」

 

 気づくや否や、トキは全力で後方へと跳躍した。

 

 直後、爆発音が街道に轟く。爆炎が吹き上がり、火の粉と煙が周囲を覆う。爆風の熱が肌を舐める中、悠々と現れたアカネが、サイレントソリューションを手に微笑んでいた。

 

「あぁ、やはりこの程度では奇襲にもなりませんか」

 

「……室笠アカネ先輩」

 

 鋭い視線を送りながら、トキは彼女の名を呼ぶ。

 

トキは素早く体勢を立て直しながら、アカネを見据えた。

 

「戦闘に於いては爆発物を好んで使用し、広域制圧を得意とする。対多数を相手取る戦闘において優秀なエージェント――そう伺っております」

 

 彼女の言葉には迷いがなく、的確にアカネの戦闘スタイルを言い当てていた。それも当然だ。事前にリオからC&Cの情報は詳細に伝えられている――そう、彼女はすでに彼らの全てを知っている。

 

「ふふっ、初対面の後輩に面と向かって評価を口にされるなんて、何とも面映ゆいですね」

 

 アカネは余裕の笑みを浮かべながらスカートについた煤を払い除ける。その仕草は落ち着き払っており、トキの分析すらも挑発と受け取っているようだった。

 

「私達の戦闘スタイルや装備に関して、既に情報は持っているのだろう。何せリオ会長がそちら側にいるのだからな」

 

 今度はカリンが冷静に言葉を重ねる。手にしたホークアイが僅かに揺れ、彼女の余裕と狙撃の準備が感じ取れた。

 

「えぇ、勿論そうでしょう。個人的には可愛い後輩との初対面がこのような形となってしまったのは、大変残念に思いますが……ともあれ、私達も改めてご挨拶といたしましょう」

 

 そう言うと、アカネは優雅にケースを地面に置き、サイレントソリューションを腰裏に収める。そして、ふわりとスカートを摘んで一礼して見せた。

 

「初めまして後輩さん、お名前は飛鳥馬トキ……と仰いましたね」

 

 その動作には嘲りや皮肉が滲んでおり、トキの目がわずかに細められる。

 

「………」

 

「先日は部長が大変お世話になったそうで、それにタマさんに関しても――」

 

 アカネの声色が次第に低く冷たくなる。目元に浮かぶ笑みとは裏腹に、その瞳の奥には別の感情が渦巻いていた。冷たい光が、トキを射貫くように向けられる。

 

「加えてこのような降伏勧告まで、ご丁寧に頂けるなんて……ふふっ」

 

「あ、アカネ……?」

 

 不穏な気配に気づいたカリンが僅かに眉をひそめ、肩越しに声をかける。しかしアカネは構わず手元に添えたサイレントソリューションに力を込める。

 

「貴女がリオ会長のボディーガードだという事は事前に知らされておりましたが、あぁ、全く――」

 

 その言葉の最後を待たず、トキの全身に緊張が走る。

 

 ――気づけば、目の前に突き出されたサイレントソリューションの銃口。

 

 音もなく唐突に突きつけられたそれに、トキは即座に反応し、身を後方へと引いた。その瞬間、微かな発砲音が轟く。

 

「私達C&Cも、随分と安く見られたものです」

 

 鋭い言葉と共に放たれた弾丸が、トキの髪を掠める。彼女の前髪が数本、宙を舞うのが見えた。同時に――耳元を風が切る音がする。

 

 上空――?

 

 トキが反射的に見上げると、ビルの外壁を蹴り、アスナが空中から襲い掛かるのが視界に入った。

 

「コールサイン・ゼロワン、アスナ先輩……!」

 

「あははっ、イッツ・ショウタイム!」

 

 満面の笑みを浮かべたアスナが銃口をトキへ向け、引き金を絞る。連続する銃声が響き、弾丸の雨が降り注ぐ。

 

「――演算、加速!」

 

 トキは足元のアスファルトを蹴り、一瞬で残像を残しながらその場から姿を消した。彼女の後方に着弾した弾丸が地面を抉り、破片を撒き散らす。

 

「すっご~い、これも避けちゃうんだ!」

 

 アスナは驚きと興奮を滲ませながら着地し、再びトキを見据える。

 

「今度は此方の番です――砲塔起動、制圧射撃開始!」

 

 トキが叫ぶと同時に、周囲に仕掛けられた防衛タレットが一斉に姿を現す。ビルの屋上、壁面、地下の遮蔽物――あらゆる場所から重機関銃の砲塔が展開し、トキの指示と共に銃口をアスナへと向ける。

 

 ――バババババッ!

 

 タレットが火を噴き、周囲に弾丸の嵐が撒き散らされる。地面は抉れ、ビルの外壁は砕け散り、街道全体が火花と爆炎に包まれる。

 

「全然当たらないよ!」

 

 アスナは笑いながら砲撃を軽々と回避し、縦横無尽に駆け回る。飛び交う弾丸を鼻先でかわし、跳び、走り、舞うように移動するその姿は、まるで常識外れの異能者のようだった。

 

「どう、いう……!?」

 

 トキが息を呑む間もなく、今度は別方向から銃声が轟く。

 

「――アスナ先輩ばかり気にして良いのか?」

 

 背後からカリンがホークアイを構え、砲塔タレット群へと青白い閃光を撃ち込む。

 

 ズガァァンッ!

 

 一発一発が確実にタレットを破壊し、ほぼ同時に全ての砲塔が爆発する。煙と炎が広がる中、カリンはコッキングレバーを操作し、軽やかな音を響かせる。

 

「私の火力支援を甘く見ない方が良い。直撃すれば一発で意識を吹き飛ばす、それだけの威力はあると自負しているからな」

 

「……コールサイン・ゼロツー、カリン先輩」

 

 トキは息を整えながら、目の前の三人――C&Cの戦術力に改めて圧倒される。

 

「目には目を、歯には歯を――銃弾を贈られたのであれば、銃弾を贈り返す。本日はそのために来ておりますから」

 

 引き金に指を添えながら、トキは再び戦闘態勢を取る。その周囲には沈黙した砲塔の残骸が転がり、黒煙が空へと昇っていた。

 

「――しかし、これも想定の範囲内。それに……ネル先輩や先生らの姿が見えないということは、私との正面対決を避けたのでしょう?」

 

 挑発するように言葉を放つトキ。

 

「あら……」

 

 アカネが僅かに驚きを滲ませる。

 

 その瞬間――トキの言葉を遮るように、低く響く声が街道に轟いた。

 

 

「合理的な判断です、部隊を二つに分けミレニアム最強と名高いネル先輩をフリーにする、皆さんの役割は時間稼ぎ、そうでしょう? しかし、その様な策を講じたとしても――」

 

「――あぁ? 誰がてめぇを避けたって、なぁ銀時?」

 

 その声が響いた瞬間、トキの動きが一瞬止まる。街道の張り詰めた空気が、別の方向から差し込んだ異質な力に揺らぎ始めた。

 

ドォン――ッ!

 

 一拍遅れて、街道脇に建つビルの一階部分が爆発音と共に吹き飛ぶ。煙と瓦礫が勢いよく弾け飛び、辺りを黒煙が覆い尽くした。

 

「な――っ!?」

 

 トキが驚きの表情を浮かべ、咄嗟に後退しながら視線を爆発の中心へ向ける。その爆風と舞い上がる瓦礫の中から、姿を現す影が二つ。

 

「――全くだぜ。俺たちはテメェらのくだらねぇ。世界を救う作戦に……」

 

ズシャァッ――!

 

 瓦礫の破片を弾き飛ばしながら悠然と歩み出てくる人影。その中に立つのはネル――そして彼女の傍らにいる、銀色の髪と無気力な表情が特徴の坂田銀時。両者ともにまるで散歩でもしてきたかのような態度で、現場の中央へと歩み出てきた。

 

「鼻糞つけに来たってのによ~」

 

 銀時が気だるげに頭を掻きながら、足元に転がる瓦礫を蹴飛ばした。その一言が、空気を一気に変えた。

 爆風に煽られながらも、トキは即座に身を低くして防御姿勢を取った。砂煙と炎が立ち込める中、緋色の炎を背に、二つの人影がゆっくりと現れる。

 

ガチャッ――

 

耳に届く鎖の音。そして次の瞬間、その二つの影――ネルと銀時――が何かを放り投げる。転がるのは、無残に変形し、穴だらけとなったAMASの残骸。トキの足元にそれが転がる様を見て、彼女の目が驚愕に見開かれる。

 

「あははっ! 部長に銀ちゃん、遅かったじゃん!」

 

アスナが嬉しそうに声を上げる。瓦礫の上を踏みしめ、炎を背にして立つネルと銀時。その姿は堂々たるものであり、所々煤けてはいるものの、まるでダメージを感じさせない。

 

「全く派手なご登場ですね」

 

アカネが淡々と感想を述べつつ、少し呆れたようにネルと銀時の姿を見つめる。背後でカリンも小さく息を吐いた。

 

「まぁ、部長や銀さんらしいと云えばらしいが」

 

ジャラリ――

 

鎖の音が再び響く。ネルが愛銃の肩を軽く叩く度、繋がれた鎖が重い音を立てる。そして彼女は軽く笑みを浮かべて言い放った。

 

「我楽多ガラクタ共が存外多くてよ、取り敢えず周辺の連中は粗方片付けてやったぞ」

 

「……作戦通りではありますが、どれ程相手取って来たのですか?」

 

若干の呆れを込めて尋ねるアカネに対し、ネルは面倒くさそうに肩を竦め、隣の銀時に目配せを送る。

 

「んなモン、一々数えていられるかよ、銀時テメェは覚えてるか?」

 

銀時はだるそうに頭を掻きながら、何度か指折り数える仕草をする。

 

「えぇっと百体……二百体……」

 

しばらく数えるフリをしてから、銀時は盛大なため息をつき、投げやりに答えた。

 

「やめだやめだ。鼻糞つける前に眠ちっまう」

 

「だよなぁ~」

 

ネルが同調し、ふっと息を吐く。あまりにも気だるげな二人の態度に、アカネはため息交じりに眉をひそめるが、その口元は僅かに微笑んでいた。

 

「銀時……あたしは、タマとアリスの仇を取る。だからまずはあたしにアイツの相手をやらせてくれねぇか?」

 

その言葉に、銀時は僅かに表情を和らげる。口元に笑みを浮かべつつ、彼は軽く振り返る。

 

「良いぜ。だが、無茶はすんなよ。今時仇討ちなんて流行らねぇんだからな」

 

ネルはフンッと鼻を鳴らし、手元の鎖を軽く巻き直す。そして、目の前に立つトキを真っ直ぐに睨みつけた。

 

「知ったこちゃねぇよ!!」

 

その瞬間、燃え盛るビルからアラートが鳴り響く。自動消火装置が作動し、白い消火剤が噴き出す。その白を背に、ネルは自信に満ちた足取りでトキへと歩み寄る。緋色の炎と白煙が混ざり合い、彼女の血のように赤い瞳がギラリと光る。

 

「よぉ――リベンジマッチに来たぜ、後輩?」

 

「……ネル、先輩」

 

トキの声は震えを含んでいた。相手の圧倒的な存在感、そしてその背後に控えるC&Cの仲間たち。ネルは好戦的な笑みを浮かべ、楽しそうに言葉を続ける。

 

「あたしらが別行動していたら、てめぇは絶対に止めに来るだろう? 一々段取り考えるのも面倒だしよぉ、こっちから会いに来てやったんだ」

 

「………」

 

トキが無言で息を飲む。ネルの挑発的な態度には、一切の迷いが感じられない。そして――。

 

「この前は随分と好き勝手やってくれたなぁ? しかも、アイツらを護ろうと身を挺して庇ったカラクリメイドの魂まで汚しやがって……」

 

鎖が再びジャラリと鳴る。ネルの言葉は静かな怒りを含み、だがその瞳は炎のように燃え上がっている。

 

「先輩に楯突いたらどうなんのか、その辺りをじ~っくりと教えてやるよ」

 

 

トキは瞬時に判断を下し、視界に浮かぶコマンドを見据えながら、一部の装備をパージする。

 

――カシャンッ!

 

重みを感じさせる機械音とともに、彼女の装着していたロングスカートの一部が静かに床へと落ちる。白く光るレッグギアが露わになると、その瞬間、空気が一変した。

 

茜色の光に照らされる中、彼女を取り巻く空間には張り詰めた緊張感が漂い、わずかに焼けた臭いが鼻をつく。

 

トキは静かに息を吸い込み、敵――C&Cを見据えた。

彼女の対面には、完全に陣形を組み直したC&Cの面々。

 

ネルは最前線でトキと対峙し、彼女の背後にはアスナ、カリン、そしてアカネが自然と持ち場についていた。それは全くの無言で、しかし見事なまでに整った隊列だった。

 

前衛、ネル。

中距離支援、アスナとアカネ。

後方狙撃、カリン。

 

――それが彼女たちC&Cの真骨頂。全員が自分の役割を理解し、その役目を完璧にこなすための配置。

 

「銀ちゃん……本当にリーダーだけにしてよかったの?」

 

ふと、アスナが軽く振り返りながら銀時に尋ねる。

アスナの手元では、銃口がトキを完全に捕捉しつつも、彼女の瞳にはどこか不安の色が見えた。

 

銀時は木刀を肩に担ぎ、相変わらずどこか飄々とした様子で応じる。

 

「良いんだよ。アイツはやりてぇようにさせたほうが力が出るような奴だから」

 

銀時の言葉は軽く聞こえたが、その瞳は真っ直ぐに戦場を見つめていた。

彼の隣でアカネが小さく唇を引き結び、疑念を滲ませる。

 

「しかし……」

 

銀時はアカネに目を向けることなく、淡々と続ける。

 

「いいか……俺たちの戦いはあそこにいる玉(ぎょく)――アリスを連れ返すのが目的だ。ここからはテメェらの眼前の敵だけに目を向けて戦え。」

 

その言葉に、アカネとアスナ、そしてカリンが一斉に頷いた。

 

「わ、分かりました。」

 

張り詰めた空気の中、再び戦場に緊迫感が戻る。

 

「――戦闘、開始します!」

 

トキが叫び、彼女のレッグギアが淡い光を放つ。

それはまるで彼女の決意と覚悟を示すかのように、冷たい輝きを放っていた。

 

「はッ! 良いぜ、あの時の続きと行こうじゃねぇか!」

 

ネルが言い放ち、足元の地面を踏み砕く勢いで飛び出す。

ドォンッ――!

圧倒的な力と速度を伴ったその飛び蹴りがトキに迫り、空気が一気に引き締まった。

 

トキはすぐに反応し、アームギアを構える。

ネルの蹴りとトキのガードがぶつかり合い――。

 

ガキィィィン――ッ!

 

衝撃音が周囲に轟き、激しい火花が散る。

 

「……ッ!」

 

トキの腕に衝撃が走り、微かな軋み音がアームギアから漏れる。しかし、ネルは余裕の表情で、至近距離からトキを睨みつけていた。

 

鎖の音が小さく響き、ネルの両腕に構えられた愛銃がトキの胸元に突きつけられる。

 

その瞬間――。

 

「玉取り合戦開始だァァァァ!!」

 

銀時の叫び声が場を裂いた。

 

「「「「いやそれもっと良い掛け声あったでしょォォォォ!!」」」」

 

ネル、アスナ、カリン、そしてアカネが一斉にツッコミを入れる。

その声が見事に揃い、緊迫した戦場に一瞬だけ妙な一体感が生まれる。

 

ネルがチラリと銀時を振り返り、呆れたように口を開く。

 

「てめぇ……真面目にやれよ」

 

しかし、銀時は木刀を担いだまま肩を竦め、飄々と笑う。

 

「お前ら、こういうのは勢いだろ勢い!」

 

その言葉に、ネルはため息をつきつつも、微かに笑みを浮かべる。そして再び、トキに向き直った。

 

「――さぁ、もう一回戦おうぜ。今度はてめぇをぶっ倒す!!」

 

ネルの足元が再び砕け、戦いの火蓋が切って落とされた――。

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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