透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

64 / 154
ヒフミさんエリ、まだ後の登場になりそう

正月までに間に合うかなぁ


第五十一訓 学校の自己紹介で盛って滑るとチョー恥ずかしいから簡潔にしようね

「どわぁあッ!?」

 

頭上を薙ぎ払う凄まじい弾幕。アバンギャルド君と呼ばれるロボットのアサルトライフルから放たれる弾丸が、容赦なく周囲を撃ち抜いていく。その一撃一撃が対物ライフルをも凌ぐ威力を誇り、コンクリートの壁を粉砕し、複合電磁装甲であろうと貫通しかねない。モモイは身を伏せながら、直撃すれば即死もあり得る攻撃を回避するため、必死で地面に飛び込んだ。

 

「な、何なのアレ、強すぎでしょ!?」

「あんなふざけた見た目なのに……」

「これは、想像以上に状況が悪いね……!」

 

その場の全員が危険な状況を即座に悟った。アバンギャルド君の外見こそ奇抜で冗談めいているが、中身はまさに「悪夢」とも言える性能を秘めている。

 

戦場に立つウタハは、これまでの戦闘でその戦闘スタイルを冷静に観察していた。盾を構えてあらゆる攻撃を防ぎながら、残りの三本の腕で攻撃を繰り出す。突撃銃、ガトリング砲、ロケットランチャー――その全てが一体の機体に搭載されており、距離や状況を問わず対応する汎用性を持っていた。さらに、その機動力も並ではない。履帯で整地を時速70kmの速度で走行する巨体に、まともに追いつくのはほぼ不可能だった。

 

「このぉッ!」

「当たって……!」

 

モモイは腰だめで愛銃を構え、乱射する。後方からはユズが渾身の一撃としてグレネードランチャーを発射した。しかし、飛んできた弾丸と榴弾は、アバンギャルド君が手にした巨大な盾によって、まるで玩具のように弾き返される。

 

着弾、炸裂――それでもアバンギャルド君本体に損傷は見られない。盾の表面にかすかな焦げ跡が残るだけで、悠々とその巨体を前進させていた。その様子を見て、ユズは蒼白になりながら震え声で呟いた。

 

「だ、駄目、全然効いていない……!」

「あの盾、幾ら何でも硬すぎでしょう!? こっちが何発撃ったと思っているのさ!?」

「皆、下がるんだ! 足を止めてはいけない!」

 

ウタハの指示に従い、全員が即座に駆け出す。モモイの襟元を掴んだミドリが強引に引き寄せるようにして走り始め、ユズも負けじとその背中を追いかける。

 

しかし背後から迫る音――履帯が地面を轟かせ、再び距離を詰めてくるアバンギャルド君。その上部に搭載された連射砲、ガトリング砲が駆動音を高め、危機が目前に迫ることを告げる。

 

コトリはとっさに懐から球体型のガジェットを取り出し、周囲の仲間たちに次々と放り投げた。

 

「ウタハ先輩! ヒビキ!」

「助かる!」

「あ、ありがとう……っ!」

 

受け取った球体型の携帯電磁防壁発生装置を即座に起動させる。青白い光が広がり、全員を包み込むシールドが形成される。その直後、咆哮のようなガトリング砲の射撃音が響き渡り、路地一帯が激震に包まれる。

 

「皆、私達の近くにッ!」

「ひぇっ……!」

 

彼女たちは防壁の中に駆け込むが、それでも襲い来る弾幕の激しさに全員が怯んだ。地面が弾丸で抉られ、飛び散る瓦礫が頭上から降り注ぐ。ビルの外壁にはいくつもの穴が穿たれ、シールドを叩く衝撃で、全員の身体が揺さぶられる。

 

「あっ、危な……っ!?」

「これは、そう何度も受けて良い攻撃ではありません!」

「ど、どうしよう……!? こっちの攻撃は全然効かないのに、向こうの攻撃は凄いし……!」

「取り敢えず路地に逃げ込もう! あの巨体だ、細い道は追って来れない筈だ!」

 

ウタハの指示に全員が応じる。すぐ近くの路地に全員が滑り込むと、その場を抜け出すために細い通路を一列になって駆け抜けた。

 

「こんな強力な伏兵を隠し持っていたとは……リオ会長の切り札は、あのメイドの子一人ではなかったみたいだ」

「わ、私達がこっちに来るのを、予測していたのかな……?」

「その可能性は高い、かも……!」

 

ウタハが警戒を口にすると、通信端末から冷たい声が響く。

 

『その予想は、概ね正しいわ』

 

その声に全員が振り返る。リオの冷徹な表情がホログラム越しに映し出され、彼女たちを見下ろしていた。

 

『ヴェリタスからの支援も無い、加えて彼がこの場に居ない以上、貴女達がアバンギャルド君を突破出来る確率は非常に低い――降伏するなら、今の内よ』

「だ、誰が……! アリスを取り戻すまで、私達は絶対に諦めないよッ!」

『そう……なら、もう少し強めに行くわ』

 

冷ややかなリオの声と共に、路地の先から地面を揺るがす音が響く。暗闇の向こうに現れる巨大な影――それは再びその巨体をこちらに向けてきたアバンギャルド君だった。肩に搭載されたガトリング砲が回転し、その銃口がこちらを捉える。

 

『アバンギャルド君、パターン変更――【全力射撃】!』

「ッ――!」

 ■

 

 

中央タワー、管制室

モニタには、エリドゥ内の状況が映し出されている。画面の中で逃げ惑うゲーム開発部とエンジニア部の生徒たち。その前方には巨体を誇るアバンギャルド君が迫り、追い詰めようとしている。その様子を冷静に見つめながら、リオは自らの戦術に対する確信を深めていた。

 

「戦況推移……予測範囲内、C&CはトキとAMASが抑え、救出部隊である彼女達はアバンギャルド君が抑える、これで向こうの動かせる戦力は頭打ちになる」

 

自らの声は冷静で、どこか機械的ですらある。リオはモニタ越しに、追い詰められていく彼女たちの動きをつぶさに観察していた。

――制圧は時間の問題だ。

そう確信し、彼女は画面を切り替える。C&C、ゲーム開発部、エンジニア部。さらには、未だ姿を現さないが、後方からエリドゥの内部ネットワークに侵入しようとしているヴェリタスの動きも、すべてリオの予測の範囲内にあった。

 

「最も危険な戦力であるC&CをトキとAMASで抑え、その他の救出部隊をアバンギャルド君に封じさせる――計画は想定通り進行中。現状では崩れる要素は見当たらない」

 

リオは自らの言葉に確信を込めるかのように頷く。だが、そんな彼女の冷徹な計算にも、唯一想定しきれない「変数」があった。

 

「唯一の変数は――シャーレの先生坂田銀時」

 

モニタ越しの画面から視線を外し、リオは薄く唇を噛む。

先生(侍)。キヴォトス内でも異質な存在として知られる彼の動向は、彼女の計算からすら完全には読み切れない未知数だった。

 

「先生(侍)の行動、参戦した場合の変化が未知数である事……そこが唯一の懸念事項。彼が参入すれば、全てが覆る可能性がある」

 

その存在が持つ戦闘能力以上に、彼が与える影響――生徒たちに与える士気と連帯感の爆発的な向上が最大の脅威だ。リオ自身、その点を深く理解していた。

 

「……彼が地形変動で動きを封じられている間に事を済ませられるかどうか。万が一、動き始めた場合、アリスの奪還を彼が躊躇する筈がない」

 

彼の参戦がこの作戦の分水嶺になる。リオは冷静にそう判断していた。

 

「先生(侍)の存在は確かに脅威――けれど、状況が動かせない段階になれば、たとえシャーレの先生(侍)であっても最終的に私の合理性を受け入れるしかない」

 

淡々と呟きながら、リオは再びモニタに目を向けた。彼女の視線は冷たく、それでいてどこか硬いものが混じっている。

 

「……きっと分かってくれる筈、時間は掛かっても、どれが正しい選択なのか――どれが最も合理的な判断なのか」

 

リオの心中に滲むのは、冷徹な計算と揺るぎない意志だった。彼女は全てを背負う覚悟を胸に刻んでいる。

 

「だからこそ、これでチェックメイトよ――ヒマリ」

 

彼女の言葉に呼応するように、モニタにヒマリの姿が映し出された。隔離施設に閉じ込められたヒマリの映像だ。リオは彼女に現状を見せつけることで、諦観を誘おうとしていた。

 

『……成程、リオ、あなたの考えは良く分かりました』

 

億劫そうな声で言葉を発するヒマリ。ホログラム越しに映し出されるその姿は、どこか呆れたようで、同時に冷ややかでもある。

 

リオは画面に映るヒマリの様子を一瞥し、その口元を引き結ぶ。期待した表情は見られない。むしろ、ため息交じりに呆れた様子さえ感じられた。それでも、ヒマリの口から漏れた肯定めいた言葉に、リオの内心は微かに動いた。

 

「ヒマリ――」

 

リオの声がわずかに明るみを帯びる。しかし、次に続いたヒマリの声はその希望を容赦なく断ち切るものだった。

 

『ですが』

 

短い一言。その言葉の中に確かな拒絶が含まれていることをリオは理解した。胸の奥が僅かに痛む。リオは唇を噛みしめ、再び冷静さを取り戻そうとしたが、ヒマリの次の言葉はさらに鋭く響いてきた。

 

『やはり私は、その様な独善に賛同出来ません』

 

「………そう」

 

淡々と応じるリオの声には微かな疲労が滲む。だが、それを押し隠すように彼女は背筋を伸ばし、ヒマリのホログラムを見つめ直した。

 

『リオ――ひとつだけ忠告しておきます』

 

リオはヒマリの表情を注視する。彼女が何を言おうとしているのか、その言葉の先にあるものを探ろうとするかのように。その時、ホログラム越しのヒマリの瞳が、まっすぐにリオを射抜いた。

 

『貴女の内面、その何と不安定な事かと感じますよ』

 

リオの瞳が微かに揺れる。予想外の言葉だった。ヒマリは続けた。

 

『合理と理性で自身を律しているつもりかもしれませんが、その実、貴女の奥底では理解者を、賛同者を強く求めている――そんな姿が見え隠れしているように感じられます』

 

「私は……」

 

リオは思わず言葉を発しようとするが、その声は途中で途切れた。ヒマリはその隙を見逃さず、さらに言葉を重ねる。

 

『合理が全て、正しさが全て……そう信じているのでしょう。ですが、その在り方は、あまりにも独善的で虚しいものだとは思いませんか?』

 

その言葉は、リオの胸に深く突き刺さった。彼女自身、気づいていながら目を背けていた真実を突かれたように感じたからだ。

 

『……貴女は確かに優秀です。よくもまぁ裏でこれだけの規模を持つ都市を建設出来たものだと感心すら抱いてしまう程に、その行動力と計画力は見事だと言わざるを得ません』

 

「ヒマリ、貴女らしくない物言いね」

 

リオの言葉はどこか皮肉じみていた。だが、その心中には戸惑いがあった。普段であれば自分を否定するはずのヒマリが、今や珍しく褒めているのだから。

 

『人が珍しく褒めているのですよ? もっと喜んだらどうですか?』

 

ヒマリは片目を瞑り、肩をすくめるようにして言った。リオはその言葉に戸惑いを隠しきれなかった。何を意図しているのか、それを探るように鋭い視線を向ける。

 

『ですがリオ、貴女は自身が正しいと信じたら、振り返らずに突き進むでしょう? よくも悪くも揺ぎ無く、顧みる事もなく――そこが貴女の長所であり、同時に最大の弱点でもあります』

 

「弱点――?」

 

ヒマリの言葉にリオは思わず聞き返した。その声には、確かな困惑が滲んでいた。ヒマリは軽く笑いながらも、冷徹な言葉を続ける。

 

『あぁ、弱点です。それだけ貴女が優れている証でもありますが、他者と歩幅を合わせる事も、相手を待つ事も出来ない。それが貴女の限界なのです』

 

リオは拳を握りしめた。ヒマリの言葉は、一見冷静で的確に思えたが、その一つ一つが自分の内面を暴き立てるかのようで、どこか耐え難いものを感じさせた。

 

『貴女にとって他者とは――自身が守るべき対象なのです。頼るべき対象ではなく』

 

ヒマリの断定的な言葉に、リオは完全に動きを止めた。その瞳が、一瞬揺れる。自分の中に潜む感情が、否応なく浮き彫りにされる。

 

リオが言葉を失ったその時――

 

「――ッ!」

 

突如として、隔離施設の監視モニタが激しいノイズに覆われた。天井から粉塵が舞い上がり、白煙がカメラの視界を遮る。リオは驚愕に目を見開き、すぐさまコンソールに飛びつく。

 

「爆発? 何が――まさかセキュリティを突破されたの!?」

 

リオの指先が素早くコンソールを操作し、他のカメラ映像を呼び出そうとする。しかし、映し出されたモニタには何の映像も映らない。ただ、スピーカーからノイズ混じりの声が響いた。

 

『チェックメイトですって? まさか、あり得ません』

 

ヒマリの声だ。その静かだが力強い響きが、リオの心に突き刺さる。呻くようにしてリオは呟いた。

 

「ヒマリ、待っ――!?」

 

一発の銃声が響き渡り、その瞬間、モニタは完全に暗転した。画面には砂嵐だけが映し出され、隔離施設の監視機能が失われたことを告げていた。

 

リオは数歩後ずさり、愕然とした表情でモニタを見つめた。握りしめた拳が小刻みに震える。

 

「一体、何が――」

 

焦燥に駆られながら、リオは急いでモニタを切り替え、施設全体の監視カメラ映像を探る。しかし、どの映像にも侵入者の姿は映っていない。

 

「侵入報告もない……探知ログも異常なし……完全に目を盗まれた……?」

 

リオは立ち尽くし、言葉を失った。そして、思い出したように囁く。

 

「こんな事が出来る人物なんて、ミレニアムには――……」

 

だが、その言葉を途中で切り、自らの思考を否定するように首を振った。

 

「……居る」

 

確信めいたその言葉にリオの瞳が鋭さを帯びる。

たった一人、この状況を覆すことができる人物。リオは震える声でその名を呟いた。

 

「――もう一人の侍……桂小太郎」

 

「こっちだよ、ヒマリ部長」

「ふふっ、まさかエイミ……あなたが私を助けに来て下さるとは」

 

 吹き飛ばされた隔離部屋内部には、粉塵が立ち込め、薄暗い光が漂っていた。その中で、エイミは手早くヒマリを車椅子ごと引き上げ、素早く撤退を開始した。

天井に空いた小さな穴――その救出経路は、相当に強引な手段で切り開かれたものだが、成功したことが何よりだった。限られた爆薬でようやく人ひとり通れる穴を作り上げたが、それでも目的を果たした以上、結果は上々といえるだろう。

 

エイミはヒマリの車椅子を押しながら暗い廊下を軽快に駆け抜けていく。

彼女の足音と車椅子の車輪が床を回る音、それに遠くから響く警告音が廊下に混ざり合い、緊張感を漂わせていた。

 

「一応これはリオへの裏切り行為になると思いますが、大丈夫なんですか?」

ヒマリの問いに、エイミは特に気に留める様子もなく答えた。

 

「うーん……さぁ?」

 

その曖昧な返答に、ヒマリは小さく笑う。

「部長がいないと、なんかつまらないし――これで良かったんだと思う」

エイミの言葉に、ヒマリは唇を指先でなぞりながら、穏やかに忍び笑いを漏らした。

 

「ふふっ……後輩がどうやって助けに来てくれるのか想像しながら待つというのも、中々楽しいものですね」

 

言葉の端々には余裕が滲む。リオに背く形になったとしても、ヒマリに後悔は一切なかった。そもそも、この助けが来た時点で答えは出ているようなものだった。彼女の問いは、あくまで形式的なものに過ぎない。

 

「お陰様でリオの面白い表情が見れました、大変満足です」

「部長、悪趣味」

「まあ、悪趣味だなんて失礼な――超天才病弱美少女ハッカーの高尚な趣味と訂正していただけませんか?」

「はいはい」

 

エイミの投げやりな返事に、ヒマリは満足げに微笑む。

そのやりとりは一見軽いものでありながら、どこか静かな確信に満ちていた。リオが自分の計画を覗き見られていると気づいていなかったこと――それこそがヒマリの勝因だった。

 

計算され尽くした救出劇

「それにしてもエイミ、よくリオに勘付かれずここまで来られましたね? もう少し強引な救出を予想していましたが……」

 

ヒマリは膝に手を置きながら、さらりと問いかける。

彼女の見立てでは、リオの防御網は十分に強固であり、突破には大きな音が伴うだろうと考えていたのだ。だが、エイミは予想以上に静かで正確だった。

 

「いや……結構荒っぽいやり方だったと思うけど……」

 

エイミはそう苦笑しながら答えた。

「まあ……桂の手助けもあったし、割と簡単だったよ? 此処の警戒網とか感知システム、大体ドローンとカメラ、それにレーザーばかりだったから。アナログな侵入経路がなかった分、内側に入り込んでしまえば楽だった」

 

「桂……?」

 

エイミの言葉を聞き、ヒマリが興味深げに眉を上げる。

 

「うん、それと――どうしても排除しなきゃいけないAMASは彼が手早く片付けてくれた。助かったよ」

 

「彼……?」

 

ヒマリが首を傾げたその瞬間――

 

「――エイミ」

 

声とともに、人影が廊下の向こうに浮かび上がった。

 

非常灯と月明かりに照らされたその人影は、片手に銃を持ちながら周囲を警戒するように歩み寄ってくる。その姿を見て、ヒマリの瞳が大きく見開かれた。

 

「あら――あの恰好は」

 

影の正体が明らかになった時、ヒマリは目を細め、唇をかすかに動かした。その姿――そして持つ気配は、彼女が情報の中で幾度も目にしてきたものと一致していた。

 

桂小太郎――その名と姿はヒマリの記憶に深く刻まれている。

 

交差する道

エイミがヒマリの車椅子を押しながら駆け寄ると、桂が即座に状況を報告した。

 

「エイミ殿、先程の爆発で現在地を知られた。警備ドローンがすぐに飛んで来るだろう。なるべく早く此処を離れるべきだ」

「分かってる。逃走ルートは?」

「案ずるな、既に確保している」

 

桂は過去に培った経験を駆使し、敵の配置を読み取っていた。とはいえ、この場所は爆破地点から近く、いつ敵が現れてもおかしくない。二人はその事実を確認し合いながら移動を急いだ。

 

廊下の薄暗い非常灯の下、桂が一歩前に進み出る。その目はヒマリをじっと見つめ、鋭い口調で問いかけた。

 

「――エイミ殿、彼女が、『ヒマリ殿』か?」

 

「そう」

エイミは軽く頷きながら、車椅子を押す手を止めることなく答える。その簡潔な返事に、桂は更に一歩近づき、ヒマリの姿を目の前に確かめるようにした。

 

ヒマリは不敵な笑みを浮かべ、軽く頷きながら桂に視線を向ける。

「貴方は……」

 

その声に答えるように、桂は大きく胸を張り、腕を組んで堂々と言い放った。

「人に名を名乗る前に自分から名を名乗るのが礼儀であろう!」

 

「……あの桂……いまそんな事言っている場合じゃ……」

エイミが少し困惑した表情で言いかけるが、その言葉を遮るようにヒマリがしれっと答えた。

 

「そうですね」

 

「え?」

エイミが驚いて目を丸くするのも構わず、ヒマリはすっと手を胸に当て、真剣な表情で続けた。

 

「確かに……自分の名を名乗ってないのに相手の名を聞こうとは超天才としてお恥ずかしい限りです。」

 

桂はその言葉に深く頷き、満足げに片手を上げる。

「うむ!分かればよろしい!」

 

「えぇぇぇぇぇぇ……」

エイミは車椅子を押す手を止め、疲れ切ったように頭を抱える仕草をする。

 

桂はそんな様子にはお構いなしに、改めてヒマリに向き直る。

「では、私の自己紹介を――」

 

ヒマリはそれを遮るように手を軽く挙げ、悠然と自らの名乗りを始めた。

「私は『澄み切った純正のミネラルウォーター』『万年雪の結晶』といった数々の称号を手にした『超天才清楚系病弱美少女ハッカー』明星ヒマリ」

 

桂はその名乗りの長さに思わず顔を引き攣らせた。

「長い」

 

「へ?」

ヒマリは不思議そうに首を傾げるが、桂は腕を組み直して軽くため息をついた。

 

「いや長いな肩書きが、てか多すぎる」

 

桂はヒマリをじっと見つめたまま首を横に振り、続けた。

「もっと『ヅラじゃない桂だ』みたいにまとめられんのか……」

 

「いや……これはお約束みたいなものですし……」

ヒマリは肩を竦め、困ったように小声で返す。

 

桂がさらに言葉を続けようとするその時、エイミが横から口を挟んだ。

「全部言いたいのは分かるよ~でもそれだけ情報のマシンガンぶっ放されたら何も頭に残らないよ」

 

ヒマリはしばらく考え込む素振りを見せた後、ぽつりと呟くように言った。

「その~出来たら……覚えててくれたらな的な感じでやってるだけで……」

 

その言葉に、桂はふっと笑みを漏らしながらも、自らの意気を示すべく指を天に突き上げた。

「ああそう!貴様がそういう感じでいくならオレも――」

 

エイミは呆れたように額に手を当て、ぽつりと口を開く。

「ねぇ、まだこの話続けるの……」

 

しかし桂は気にも留めず、胸を張り大声で名乗りを上げた。

「ヅラじゃない! 元内閣総理大臣にして攘夷党首領、またかつては狂乱の貴公子及び逃げの小太郎として攘夷戦争で銀時たちと攘夷四天王と恐れられた桂小太郎、AB型! 今の職業はシャーレの先生である銀時の助手をしているので決してマダオではない! ちなみに今日の運勢は中吉、あまり細かいことを気にすると痛い目を見るぞと読んでもらおう!!」

 

「いや後半から肩書きではなくなってる」

エイミが冷静に突っ込みを入れると、ヒマリもすかさず追撃を加えた。

 

「それより、『ヅラじゃない元内閣総理大臣にして攘夷党首領またかつては狂乱の貴公子及び逃げの小太郎として攘夷戦争で銀時たちと攘夷四天王と恐れられた桂小太郎AB型今の職業はシャーレの先生である銀時の助手をしているので決してマダオではないちなみに今日の運勢は中吉あまり細かいことを気にすると痛い目を見るぞ』さん、細かいこと気にしてるので痛い目を見るのではないですか?」

 

「確かに……」

桂は一瞬考え込み、納得したように頷いた。

 

「確かにじゃないよ桂。部長も全部読まなくて良いから」

エイミは深いため息をつきながら、二人にそう告げた。

 

しかしヒマリは微笑を浮かべながら、ゆっくりと首を振った。

「いけませんよエイミ! 今日の運勢は大事なもの、注意すべき点はちゃんと教えて上げませんと」

 

エイミは車椅子を押しながら、力なく肩をすくめた。

「はぁ……誰か助けてこの空間……捌ききれない……」

 

非常灯が淡く光る中、階段を下りる準備をする三人。しかし、その場には緊張感とは程遠い、ガヤガヤとした賑やかな雰囲気が漂っていた。

 

「………桂、部長、いい加減にしないと置いてくよ」

エイミが深い溜息をつきながら、二人を鋭く睨みつける。

 

「ちょっと待ってくれエイミ殿!」

桂が手を挙げて制するように声を上げると、ヒマリも肩をすくめて口を開いた。

 

「そうですよエイミ。この『超天才清楚系病弱美少女ハッカー』の私を置いてくというのですか?」

 

エイミは車椅子のハンドルに手を掛けながら、苛立ちを隠せない表情で返した。

「こうでもしないとこの空間を何とか出来そうになかったから」

 

場面は非常階段。エレベーターが無力化されるリスクを考慮し、三人は慎重に移動経路を選択していた。階段を降りて安全な場所へ脱出する計画だが、桂とヒマリのやり取りが無駄に時間を食っているのが現状だった。

 

「どう桂、敵影は?」

エイミが桂に問いかけると、桂は振り返りつつ真剣な表情で応じた。

 

「今の所大丈夫だ、しかしエレベーターホール方面に幾つか反応があった。経路は限られている。モタモタしていると見つかるかもしれんぞ」

 

「そうだね。どこかの誰かさんが変なとこで時間使わなければもっと時間があったかもしれないけど……」

エイミが皮肉めいた口調で桂をちらりと見やると、ヒマリがすかさず相槌を打つ。

 

「そうですよね〜。桂さんあなたが今日の占いの言う通りに細かいところに気にかけ無ければこんなことにはならなかったかもしれな――」

 

「……部長も人のこと言えないからね」

エイミが言葉を遮るように、冷たい視線をヒマリに向けると、ヒマリはほんの一瞬口を閉ざし、曖昧に肩をすくめた。

 

「………」

 

桂はそんなやり取りを横目に見ながら、手を前に突き出して提案する。

「とにかく分かった。このまま下に降りて屋外に脱出するが――ヒマリ殿、車椅子では難しいだろう。ここは俺の手を――」

 

しかし、桂が手を差し出すよりも早く、ヒマリは冷静に首を横に振り、車椅子のコンソールを操作した。

 

「問題ありませんよ、『この子』は優秀なので」

 

車椅子が低い駆動音を立て、スムーズに動き始める。まるで息を吹き返したように、両輪のランプが点灯し、機体が生きているかのように反応する。そしてそのまま、ヒマリは何事もなかったかのように踊り場まで進むと、階段を難なく下り始めた。

 

驚愕する桂とエイミを余所に、車輪が階段に吸い付くように動き、ヒマリの車椅子はスムーズに降下していく。

 

「何というカラクリ……流石は自己紹介を盛るだけのことはある」

桂が驚きと賞賛を込めて呟くと、エイミは辟易したように手を振った。

 

「桂……そのネタもう引っ張らなくていいから」

 

「……それより部長、電力が残っているなら先に云ってよ」

エイミが階段を駆け下りながら、軽く振り返る。

 

「万が一に備えて節電は大切ですよ、エイミ? まぁそうでなくとも、数日程度は連続稼働出来る容量がありますけれど、ふふっ、どんな状況でも見越して対策出来るのは超天才清楚系美少女にして全知の称号を持つこの私くらいなものでしょう……!」

ヒマリが自信満々に語ると、エイミは大きくため息をついた。

 

「はぁ、まぁ何でも良いけれど……それで、これからどうするの?」

 

「どうする、とは?」

ふとヒマリが首を傾げると、エイミがさらに問い詰めるように続けた。

 

「このままじゃ多分負け戦になるよ? 今から私達が加勢しても互角に持ち込めるか――いや、ちょっと厳しいかも」

 

エイミの真剣な問いかけに、ヒマリは「何だ、そんな事か」と肩を竦める。

 

「それなら心配無用ですよ、エイミ」

 

「ん? もしかして何か作戦でもあるの?」

エイミが眉を上げて尋ねると、ヒマリは微笑みながら答えた。

 

「作戦というより約束かもしれませんね。今囚われてるアリスちゃんの優しさが結んだ絆がこの場を切り抜ける鍵となるでしょう。」

 

ヒマリは満面の笑みを浮かべ、いつも通り自信と自尊心に満ちた口調で以て断言するのだ。

 

「それに――私・達・には頼れる後輩仲間が、たーくさんいるんですから!」」

 

エイミは桂に視線を移し、皮肉めいた口調で呟く。

「また桂と同じようなことを……」

 

「そしてあそこには銀時がいるのだ。ちょっとそっとじゃ負けはしないさ」

ヒマリの言葉に、桂は静かに頷いた後、ふとその場を離れる仕草を見せた。

 

「さて、俺はここでお別れだ」

 

静かな決意が流れる中、三人の間に束の間の沈黙が訪れた。桂の背中には、これからの戦いを見据えた覚悟が漂っていた。




銀時「イマジン登場ォォォォ!!」

イマジン「ここではその名で呼ばないで下さいトレーナー!」

金さん「でも……今回の件での登場はこれが最初で最後らしいよ」

銀時イマジン「え?」

金さん「え?」

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。