透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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すいません。最終回は二話構成でいきます。

今日の夜か明日には次の話が終わるはずです。

あとイオリの足舐め人気すごいですね。


第五十七訓 自分の未来は自分で掴め!

エリドゥの最上階、銀時たちは重厚な扉を押し開け、ついにリオとアリスが待つ部屋に辿り着いた。室内には機械の駆動音が響き渡り、複数のモニタが警告の文字を映し出している。リオがその中央で立ち尽くしていた。

 

 

「先生……」

その声にはわずかな震えが混じっていたが、彼女の目にはまだ強い意志が宿っていた。

 

ヒマリが車椅子に身を預けながら、落ち着いた声で口を開く。

 

「来てくださったのですね。初めましてではありますが、状況が状況なので、挨拶は省かせていただきます。」

 

 

「別にかまわねぇよ。」

彼は周囲を見渡しながら、鋭い口調で問いかける。

「それよりアリスは?」

 

リオは手を差し伸べ、部屋の奥を指し示す。

 

「あっちに……」

 

 

「アリスちゃん!」

 

ミドリ、ユズ、モモイ、ネルは一斉にリオの指した方向へ駆け出した。そこには眠るように横たわるアリスが、無数のケーブルに繋がれた状態で固定されていた。

 

 

「アリスちゃん! アリスちゃん!」

 

ネルが目を細めながら慎重に近づき、アリスの様子を確認する。

 

「大丈夫だ。今は眠っているだけみてぇだ。」

 

 

「良かった。」

 

しかし、モモイはケーブルに繋がれたままのアリスを見て焦りを隠せない。

 

「こんなことしてる場合じゃないよ!早くケーブルを外そうよ!」

 

その言葉に、リオが鋭い声で制止した。

 

「ダメよ!」

 

モモイが困惑し、リオに詰め寄る。

 

「な、何で?」

 

リオは唇を引き結びながら説明を続けた。

 

「現在の彼女の人格は、内部データベースの深層部に隔離されてしまっている。強制的に接続を解除すると、取り返しのつかない損傷が起こる可能性が高いのよ。」

 

 

「そんな……」

 

そこにヒマリが穏やかに口を挟む。

 

「ですが、それはあくまで強制的にケーブルから接続しようとした時の話です。」

 

その一言に、全員がヒマリの方を振り返る。

 

「あるんだな?方法が。」

 

ヒマリが軽く微笑む。

 

「もちろんです。まぁ、これは私というより源外先生のおかげではあるんですが……」

 

ヒマリは部屋の片隅を見つめ、静かに呼びかける。

 

「そろそろ出てきてはいかがですか? タマさん?」

 

その声と共に、静かに姿を現したのは修復されたタマだった。

 

「タマさん!」

 

 

「タマさんだ!」

 

 

「直ったんですね。」

 

タマは静かに一礼しながら答える。

 

「えぇ、銀時様たちが私をいち早く源外様のところに連れて行ってくれたおかげで……」

 

ネルはタマを見つめながら安堵の表情を浮かべた。

 

「タマ……もう大丈夫なのか?」

 

タマはネルを見返しながら、淡々と答える。

 

「えぇ、少なくとも今のネル様よりは。」

 

ネルは苦笑いを浮かべ、軽く肩をすくめる。

 

「はっ、口が減らないメイドだよ。アンタ。」

タマが静かに一歩前へ進み出た。

 

 

「ヒマリ様、準備は出来ていますよ。」

 

その一言に部屋の雰囲気がわずかに変わった。モモイが目を見開き、疑問の声を上げる。

 

 

「準備?それって何の?」

 

銀時が木刀を肩に担ぎながら、タマの横で軽く鼻を鳴らした。薄暗い光が木刀の表面をかすかに反射していた。

 

 

「決まってんだろ。アリスの人格がどっか奥の方に閉じ込められてんだろ?だったら、俺たちがその奥まで行って引っ張り戻してくりゃいい話だ。」

 

その無茶な話に、ミドリが驚きで声を裏返す。

 

 

「えぇェェェ!!そんなことできるの!?」

 

ヒマリが微笑みながら銀時を見つめる。冷静で落ち着いた視線だった。

 

 

「先生?タマさんの機能について教えてはいなかったのですか?」

 

銀時は頭を掻きながらため息混じりに応じた。

 

 

「そういや、話してなかったな。」

 

 

「えーっとタマは、故障したからくりと“対話”することで原因を探って修理するっていう、おしゃべりメイドだ。」

 

その言葉に、モモイが目を輝かせる。

 

 

「タマさん、すごいじゃん!すごい便利じゃん!」

 

 

「当然です。」

 

その返答に対し、銀時はわざとらしく顎に手を当てた。

 

 

「まぁ、便利っちゃ便利だが……修理できたことなんてねぇけど――」

 

ボォォォォォォ!!

 

突然タマが箒の炎で銀時を焼いた、そして銀時は黒焦げのアフロヘアになってしまった。。

 

 

「毎回一言多いんですよ。棒についてる二つの玉のように」

 

銀時は顔をしかめ、息を整えながら立ち上がった。

 

 

「何だよ!俺はほんとのこと言っただけじゃねぇか!!それに棒についてるのは大事な奴だからね!アレはデフォルトだからね!!」

 

ミドリが頭を抱えてため息をついた。

 

 

「卑猥な話はもういいよ!それより……それだと、私たちが来る前にタマさんたちだけでできたんじゃないの?」

 

ヒマリは腕を組み、真剣な表情でゆっくりと答える。

 

 

「いいえ、今回はあなたたちでないと意味がないんです。」

 

ユズが首をかしげ、不思議そうな顔で質問を投げかける。

 

 

「どういうことですか?」

 

ヒマリは皆の顔を見渡しながら静かに説明した。

 

 

「あなたたちはアリスの心の支えになり、決断の中心にいた。つまり――闇に堕ちた仲間を救えるのは、仲間たちだけということです。」

 

リオがヒマリに詰め寄る。彼女の声には焦りと怒りが滲んでいた。

 

 

「ヒマリ、待ちなさい。現実的にできるわけない……!」

 

 

「なぜです?」

 

リオが苛立ちを抑えきれず声を荒げる。

 

 

「危険すぎる!たとえアリスの精神世界に侵入できたとしても、戻って来れなくなるかもしれないのよ!」

 

ヒマリは微笑みながら答える。その表情は揺らがない。

 

 

「大丈夫ですよ。ここには、そんな危険も顧みずに立ち向かう方々が揃っていますから。」

 

その言葉にリオは目を見開く。声を失い、何も言えなくなったようだった。

 

銀時が、ため息をついた後、。

 

 

「聞いたか?テメェら。運悪かったら死んじまうんだとよ。」

 

銀時が部屋全体を見渡してからニカッ笑いこう問いかけた。

 

 

「さて、今ここにいる奴で命惜しさに仲間を見捨てる奴、潔く手ぇ挙げて!」

 

室内は深い静寂に包まれた。

 

 

「はっ、今更何聞いてやがる。」

 

 

「私たちはアリスちゃんを連れ戻すためにここまで来た。」

 

 

「ここで逃げたら、………一生後悔する。」

 

 

「それに……アリスがいないと、ゲーム開発部じゃないもんね!」

 

その言葉を聞いたリオが、小さく息を呑み、俯いた。

 

銀時は、リオをじっと見つめながら言った。

 

 

「聞いたか?これが俺たちバカの答えだ。」

 

タマが冷静な声で告げる。

 

 

「では、出発する準備が整ったら、私に掴まってください。アリスの心の中にあなたたちを送り込みます。」

 

ゲーム開発部のモモイ、ミドリ、ユズ、そしてC&Cのネルが次々とタマに掴まり、覚悟を決めた表情でアリスの心の中へ向かう準備を始めた。銀時も後に続こうとしたその時――

 

リオが銀時を呼び止めるように声をかけた。

 

 

「ねぇ……どうしてあなたたちは、確かな勝算がない戦いに挑むことが出来るの?」

 

銀時が振り返り、リオの目をまっすぐに見つめた。

 

 

「どうして、自分に非がないのに誰かのために命を捨てることが出来るの?」

 

銀時はゆっくりと口を開き、答えた。

 

「俺にはなぁ、心臓より大事な器官があるんだよ。そいつぁ見えねーが、俺のどタマから股間をまっすぐブチ抜いて俺の中に存在する。」

 

 

「そいつがあるから、俺ぁまっすぐ立っていられる。フラフラしてもまっすぐ歩いていける。ここで立ち止まったら、そいつが折れちまうのさ。魂が折れちまうんだよ。」

 

銀時は静かに、歩き出した。

 

 

「アイツらも同じだ。アイツらの部活にアリスがいなきゃ廃部と同じだ。つまり――ここで逃げようが、命を懸けてアリスを救いに行って死ぬも、どっちにしろ死ぬんだよ。」

 

その言葉を聞いたリオは何も言えず、ただ銀時の背中を見つめるだけだった。

ヒマリ

それでは、私が今からアリスの精神を分析して隙間を作ります。

 

 

 

・・・・・準備完了です。それではお願いします。

 

 

 

 視界の暗転は一瞬だった様に思う。調整を終えたヒマリよりダイブ準備完了の報告を受け、あれよあれよと奇妙な装置を頭に被った後、モモイ、ミドリ、ユズ、ネルの四名は程なくして意識を失い、気付けば見知らぬ空間へと飛ばされていた。

 地面へと降り立った彼女達は唐突な浮遊感と着地に戸惑い、モモイは慌てて崩れかけた体勢を立て直し、同時に地面を確かめる様に何度も踏み締める。両手を見下ろし、自身の恰好を確かめたモモイは、それから自身の両脇で目を白黒させる二人に声を掛けた。

 

「ユズ、ミドリ、ネル先輩大丈夫?」

 

「問題ねぇよ」

「う、うん」

「な、何とか」

 

 着地の瞬間に腰を抜かし、地面に尻餅を突いたユズ、座り込んだミドリ、受け身をとったネル。三人を見下ろしながら一先ずダイブは上手くいったようだと胸を撫でおろしたモモイは、小さく息を吐き出しながら周囲に目を向ける。恐る恐る立ち上がったミドリはモモイの制服、その裾を掴みながら呟いた。

 

「私達、もうアリスちゃんの中に入ったの?銀さんがいないけど……」

「多分、後で来ると思うよ」

「此処がアリスの――」

「心の中……ってわけか?」

 

 四人がゆっくりと目を見開き、辺りを見渡す。

 

 ――静寂。

 

 四人が最初に感じたのは、痛い程の静けさであった。薄暗く、中央に穴の開いた寂れたホール。内壁より垂れ下がる断絶したケーブル、地面は所々罅割れ雑草が見える始末。苔の生した縁はかなりの年月、経過を感じさせた。一歩踏み出した途端、パキリと足元から音が鳴り、慌てて退くモモイ。見れば飛び散ったコンクリート破片の様なものがそこらに散乱し、削れた凹凸が鈍い光を反射していた。

 ホール中心には天井が無く、陽光が降り注ぎ外周よりも濃い緑が足元に生え揃っている。その中心に置かれた寝台、雨に晒された為か錆や汚れも散見され、傍には罅割れ、電源の落ちたモニタが設置されている。

 この場所に、モモイとミドリの二人は見覚えがあった。

 

「この場所って、私達が初めてアリスちゃん会った時の……?」

「うん、この感じ、見覚えがある」

 

 モモイとミドリは今でも鮮明に覚えている。この場所はアリスと初めて出会った場所だ。銀時たちと共に、『G.Bible』を求め逃げ込んだ場所、廃工場。その中にこんな一風変わった場所があって――その場所で、アリスを見つけたのだ。

 

「二人共、あそこに……!」

「あっ!」

「アリス!」

 

 そして、いつかの再現を行うかのように部屋の中心――陽光の降り注ぐ寝台に横たわっている人影。

 ユズが指差した先、横たわるアリスの姿を認めた三人は急ぎ駆け寄り、眠る様に瞼を閉じる彼女の顔を覗き込んだ。夢の中でもアリスの姿はそのままで、モモイは彼女の肩を掴むと、無遠慮に身体を揺らしながら叫ぶ。

 

「おいチビ!」

「アリス! 私達だよっ、分かる!?」

「アリスちゃん、助けに来たよ……!」

「アリスちゃん!」

 

「――……?」

 

 口々にアリスの名を呼ぶ四人。その声に反応したのか、或いはモモイが彼女の身体を揺らした為か、閉じた瞼が薄らと持ち上がるのが分かった。

 滲むアリスの視界に映る、この場所に居ない筈の仲間達、その姿。アリスは徐々に鮮明となる光景に目を見開き、思わず声を詰まらせる。

 

「モモイに、ミドリ、ユズ、ネル先輩――」

 

 空色の瞳が全員を一瞥し、困惑を滲ませていた。アリスが目を覚ました事に皆は安堵し、それから捲し立てる様に告げる。

 

「どうして、この場所に皆が……?」

「そんなの決まってんだろ?」

 

「家出したアリスを連れ戻しにだよ」

「アリスちゃんを助ける為に、皆が協力してくれたの」

「帰ろう、アリスちゃん!」

 

 そう云って、アリスに手を伸ばすゲーム開発部。自分達ゲーム開発部の居場所は、あの部室なのだ。だから一緒に帰ろうと、彼女達は繰り返し告げた。

 その言葉がアリスに届く、見開かれた瞳が揺れ動くのが分かった。差し出されたそれに、アリスは躊躇を見せる。

 

「あ、アリスは……」

 

 

 ――王女よ、貴女の見て来た光景を忘れましたか?

 

 だが、アリスが差し出された手を取るよりも早く響く声がある。

 

「ッ!?」

「この声――」

 

 アリスの直ぐ傍から現れた人影、それを視界に捉えた全員が一斉に身構えた。緩慢な歩みで薄暗い影から姿を現したのは、アリスと全く同じ姿、恰好をした生徒――けれど決定的に異なるものがある。

 身に纏う雰囲気が、余りにも彼女のそれと解離していた。数歩後退ったゲーム開発部の三人は、警戒した様子をそのままに口を開く。

 

「アリスちゃん……じゃない」

「貴女は――!」

「さっきの、Keyとか云う……!」

 

 全く同じ姿、同じ恰好、しかし良く観察すれば瞳の色やヘイローがアリスのそれとは異なる事が分かるだろう。彼女は無機質な瞳で以てゲーム開発部の三名を眺めると、淡々とした口調で云った。

 

「王女は見ていました、ずっと、貴女達の行いを」

「わ、私達の行い……?」

 

 唐突な言葉に怪訝な顔を浮かべるモモイ。Keyは徐に手を翳すと、ゲーム開発部の周辺に幾つものホログラムモニタを投影した。ぐるりと囲う様に出現したそれに驚き、目を瞬かせる三人。そこに映っているのはアリスでも、Keyでもない――ゲーム開発部やエンジニア部、C&Cの姿であった。

 

「こ、これって」

「エリドゥに乗り込んで来た時からの……」

「私達の、映像――?」

 

 そう、映像にはエリドゥの街道を駆ける皆の姿が映っていたのだ。数え切れない程のAMASを破壊するC&Cの姿、アバンギャルド君と交戦するゲーム開発部とエンジニア部。その後トキと繰り広げた銃撃戦を含め、アビ・エシュフの姿まで――要塞都市エリドゥに乗り込み、此処に至るまでの戦闘結果の全てがそこにはあった。

 自分達を取り囲む映像に目を向けながら困惑を滲ませるゲーム開発部の面々は、疑問の声を上げる。

 

「何で、こんなものが……」

「これら全て、貴女達がこの場に足を踏み入れるまでに戦い、足掻き、転び、傷付き、抗って来た光景です」

 

 それは秘密裏に接続されていたAMASのカメラ映像であったり、エリドゥ各地に存在する監視映像であったり、或いは防衛設備に備わっている記録映像であったり。様々な角度から浮かび上がるそれに、アリスは委縮した様に身を縮こまらせる。

「何故こんな事が起こってしまったのか、どうしてこれ程までに傷付いてしまったのか……その答えを王女は既に、ご存知の筈でしょう」

「っ、ぅ――」

 

 Keyの言葉に、アリスは苦悶の表情で瞼を閉じる。そうだ、どうしてこんな風に大勢の人が傷付いたのか、すれ違ってしまったのか。その原因は明確であると、少なくともアリスはそう感じている。

 今だってゲーム開発部の仲間達に目を向ければ、どれ程の戦いを経て此処に辿り着いたのか分かるだろう。

 彼女達三人の衣服は所々血が滲み、汚れ、裂け、酷いものじゃないか。恐らく現実の彼女達、その疲労と負傷が反映されているに違いない。

 

 ――それは貴女の在り方ではないそこは貴女の居場所ではない。

 

 彼女keyの瞳が、そう自身に語り掛けていた。

 アリスは寝台の上で身を起こすと、ゲーム開発部に背を向けながら地面へと降り立つ。その直ぐ傍には、彼女と同じ姿をしたKeyが侍る様に寄り添っていた。其処には見えない壁がある、ゲーム開発部の皆の目には見えない壁が。

 寝台に手を掛け、俯くアリスは呟く。

 

「アリスは、皆の所へ……帰る事は出来ません」

「なっ、アリス!?」

「どうして、アリスちゃん!?」

「だ、だって……!」

 

 そんな彼女達の悲痛な叫びに被せる様にして、アリスは唇を強く噛み締め叫んだ。

 

「アリスが皆の傍に居たら、皆を傷付けてしまいます! 何度も、きっと沢山、今回の事でアリスは、もう十分理解したんです……!」

「なっ……違うよアリスちゃん、そうじゃない!」

「そうだよ、そんな事――ッ!」

「いいえ、いいえッ!」

 

 しかし、尚も云い募る仲間達の言葉にアリスは首を横に振る。違わない、少なくともアリスにとってはそうだった。自身の掌を見下ろし、表情を歪めるアリスは声を振り絞る。

 

「これが真実なんです、アリスはずっと見ていました、モモイも、ミドリも、ユズも、ネル先輩もみんな――沢山傷付いて、血を流して!」

 

 アリスが、自分が居るだけで、周りの人たちの身体も心も傷付けてしまう。

 彼女自身が望まずとも起こってしまったその事実こそが、アリスの心に消えない楔を打ち込み強い猜疑心と自罰的な感情を思い起こさせていた。自分は彼女達の傍に居てはいけない、寄り添ってはいけない。

 その資格が、自身には最初から存在しなかったのだ。

 

「アリスは、みんなから信頼される主人公ではなく……忌み嫌われるべきラスボス、なんです」

 

 いつかキヴォトスを滅ぼすかもしれない。

 みんなと共にいる事は許されない存在。

 肩を震わせ、俯きながら涙を堪えるアリスは呟く。

 

「アリスが傍に居る事で、大切な人が傷付いてしまうのなら……アリスは――そんな存在は」

 

部屋の空気が一瞬で凍りついたように、場の全員がその声に反応した。どこからともなく響く、どこか軽薄でふざけたような調子の声。それは、静寂と悲壮感に支配されていた空間を一瞬で切り裂いた。

 

 

「消えたほうがいいってか?自分が消えれば万事解決ゥ?そんで後は平和でハッピーエンドってか?」

 

モモイが声の主を確かめるように辺りを見回す。

 

 

「その声は…………!」

 

影が動く。アリスの涙に濡れた視線が振り向く前に、部屋の奥からゆったりと現れた一人の男。乱雑に巻かれた天パの髪、気だるげな表情、そしてどこか投げやりな仕草。

 

腰には時代にそぐわない木刀を挿した男が歩いてきた。

 

 

「ワンワン……随分と元気よく泣き言並べてんじゃねぇよ。」

 

その言葉に、アリスは瞳を見開き、思わず足を止めた。声が震える。

 

 

「……銀さん?」

 

Keyは、銀時をじっと見つめる。その無機質な瞳には警戒の色が浮かんでいた。

 

 

「……誰ですか?」

 

ネルが、肩を軽くすくめながら冷ややかに笑う。

 

 

「全く……お前ら、何を見てたんだよ?」

 

ネルは銀時をちらりと見やり、肩をすくめながら続ける。

 

 

「教えてやるよ。奴は――」

 

その男はわざとらしく軽い調子で話を続ける。

 

 

「不満があるご主人様に吠える犬ですか?コノヤロー。」

 

ネルは呆れたように深いため息をつきながら、それでも口元に微かに笑みを浮かべた。

 

 

「普段は仕事もしねぇ、賭け事では負けてばかり、お金の管理も出来ないプー太郎のくせに……他人のためなら命を張れるバカな教師……いや、バカな侍の一人――」

 

男が一歩前に出る。ずるずると靴を引きずるような歩き方。それでも、その目だけは鋭くKeyを捉えていた。

 

 

「どうも~坂田銀時で~す。」

 

彼は、何の緊張感もないふざけた挨拶をしながら、ニヤーっと笑ってKeyを見据える。その笑顔の裏には、揺るぎない覚悟と強い意思が宿っていた。

 

 

「……何をしに来たのですか?」

 

冷たく問いかけるKeyの声に、銀時は肩をすくめながら軽く答える。

 

 

「何って……そりゃ決まってんだろ?」

 

彼は振り返り、アリスの方を見た。その目はどこか優しく、しかし真剣だった。

 

 

「お前を連れ戻しに来たんだよ。アリス。」

 

その言葉に、アリスは息を呑む。瞳を揺らしながら、彼女は自分の胸を押さえた。銀時の声が心に響くようだった。Keyが一歩前に出る。

 

 

「王女の行動に介入する権利など、あなたには――」

 

銀時は動揺することなく、軽く構える。その動作には、どこか余裕すら感じられた。

 

 

「権利?そんなもん知ったこっちゃねぇよ。なぁお前ら」

 

モモイの叫びが鳴り響いた――。

彼女は両手をぎゅっと握り締め、肩を怒らせながら大きく一歩を踏み出す。その足音が、暗く冷え切ったこの空間に響き渡る。次の瞬間、彼女は全力で否定を轟かせた。それは、これまで聞いたことがないほどの力強さを持つ叫びだった。

 

 

「アリスッ!」

 

その名前を告げると、モモイはズンズンと大股でアリスへと歩み寄る。その表情は、これ以上ないほど真剣で、強い怒りが滲んでいた。それは、アリスが思わず気圧されてしまうほどに濃密な感情だった。

 

 

「も、モモイ……?」

 

 

「アリスは、本気でそう思っているの!?」

 

モモイの瞳は、真摯に問いかけてくる。まるでアリスの心を見透かすように――その問いはアリスの胸に深く突き刺さった。

 

 

「自分が消えることが正しいって、それで全部解決するって、皆ともう会えなくなっても良いって、本気でそう思っているの!?」

 

 

 

「……本気でそう思っているの……」

 

そう口を開いたものの、その声は震えていた。彼女の目に映るのは、モモイたちの真剣な表情。アリスは俯きながらも、逃げるように視線を彷徨わせる。

 

 

「なら、答えなよ!」

 

モモイは一歩前に踏み込む。その言葉には強い怒りと悲しみが滲んでいた。

 

 

「それで私たちが納得するとでも思ってんの!? アリスがいないと、私たちのゲーム開発部はどうなるの!? ミドリやユズ、それにネル先輩だって……みんな、どうなると思ってるの!?」

 

アリスはモモイの視線を受け止められない。彼女は小さく首を振りながら、俯いたままで声を振り絞った。

 

 

「……アリスがいなければ、みんな傷つかない……」

 

その言葉を聞いたモモイの顔が苦悩に歪む。彼女は思い切り拳を握りしめ、感情を堪えきれず叫んだ。

 

「ふざけないでよ!!」

 

その一言が場の空気を揺らす。驚いたアリスが目を見開き、モモイを見つめる。その瞳には戸惑いが浮かんでいた。

 

「アリスがいなけりゃ傷つかないって……それ、私たちが勝手にそうなるって決めつけてんじゃん! 私たちがどう思ってるか、全然考えてないじゃん!」

 

ミドリとユズも一歩前に出る。それぞれの顔には、アリスに対する真剣な想いが浮かんでいた。

 

 

「アリスちゃん、みんなで一緒にゲーム作ったの、すごく楽しかったんだよ!」

 

 

「アリスちゃんがいたから、みんな笑顔になれた。そんな大切な仲間がいなくなるなんて、絶対に嫌!」

 

ネルはゆっくりとアリスに近づき、低い声で言葉を紡いだ。

 

 

「おい、チビ……前に私と約束したよな?」

 

 

「え……?」

 

ネルはふっと微笑み、過去の出来事を思い返すように続ける。

 

 

「今日は時間的に遊べねえけど、次に会う時は私と遊べよ!」

 

その時のネルの表情が、アリスの脳裏に蘇る。少し照れくさそうに目を逸らしながらも、その言葉には確かな温かさがあった。

 

 

「その優しさで、約束破るのはナシだからな!」

 

ーーーー

 

「私との約束を破る……お前はそんな奴だったのか?」

 

アリスの瞳から涙が溢れる。その言葉が心に突き刺さるようだった。彼女は小さな声で呟く。

 

 

「……みんな……。」

 

彼女は震える声で続ける。モモイ、ミドリ、ユズ、ネル。それぞれの顔が、瞳が、どんなことがあっても自分を助けようとする意志に満ちている。

 

 

「……私……。」

 

その一言に、全員が注目する。アリスの中で凍りついていた感情が、少しずつ溶けていくようだった。そして、彼女は小さく顔を上げ、全員の視線を受け止めるように言った。

 

 

「……本当に、こんな私を必要としてくれるんですか……?」

 

その問いに、モモイたちは力強く頷いた。それぞれの目には揺るぎない信念が宿っていた。

 

 

「もちろんだよ! 何があっても、アリスちゃんは私たちの仲間だもん!」

 

 

「一緒に帰ろう! 部室に帰ったら、またみんなでゲーム作ろう!」

 

「どんな未来だって、私たちと一緒ならきっと大丈夫!」

 

 

「そうだ……。ほら、早く決めろよ。」

 

アリスは全員の言葉を噛み締めるように聞いていた。彼女の中で、これまで抱いていた迷いが少しずつ消えていく。そして、涙を拭いながら、はっきりとした声で答えた。

 

 

「……うん、帰りたい……みんなと……!」

 

その言葉に全員が笑顔を浮かべる。そしてアリスは、一歩、二歩と足を踏み出し、仲間たちの元へと歩み寄った。

 

その瞬間、アリスを取り巻いていた薄暗い空間が一変する。暖かな光が降り注ぎ、全員を包み込んでいった――。

 

Keyは、銀時に向けて最後の問いを投げかけた。その声には、どこか悲しみと戸惑いが混じっている。

 

 

「どうして……?どうしてわかってくれないのですか?『王女』……私はあなたを……守ろうとしただけなのに……」

 

その言葉に、銀時は一瞬目を見開いた。しかし、次の瞬間には無言のままKeyの手を掴む。

 

 

「……」

 

その手は力強く、しかし優しさも感じられるものだった。Keyの無機質な瞳が、かすかに揺れる。その揺らぎが何を意味するのか――それを理解する間もなく、視界が急激に光に包まれる。

 

 

エリドゥ内部の監視映像に、異変が映し出された。

 

 

 

「敵の動きが、止まった……?」

 

リオは驚きの表情を浮かべながら呟いた。モニタには、まるで糸が切れた操り人形のように機能を停止した守護者たちが映っていた。紫色のラインが消え、機械の体が静かに地面へと崩れ落ちていく。

 

 

「……やりましたね。」

 

冷静な口調でそう言ったヒマリも、心の中では安堵を覚えていた。彼女はコンソールを見つめ、微笑みを浮かべる。

 

 

「……こんなこと、あり得ないわ。到底実現できる確率じゃなかったはずなのに……」

 

コンソールデスクに両腕を突き、呆然とするリオ。その声に、ヒマリは肩をすくめながら答えた。

 

 

「確率なんて関係ありません。彼女たちはただ、不可能を可能にしただけです。」

 

その言葉には確信があった。

 

 

「彼女たちは、どんな状況でも諦めなかった。だからこそ、この結果を掴み取れたんです。」

 

 

タマの身体が光を放つと同時に、モモイたちの体が微かに動いた。

 

「うわっ!?」

 

 

「うーん……!」

 

 

「……ん? 戻ってきたの……?」

 

「そう……みたいだな」

 

慌てて目を覚ました彼女たち。装置の光が消えると、彼女たちは椅子から飛び起き、互いの顔を見合わせた。

 

 

「みんな、大丈夫!? ……アリスは……アリスちゃんは!?」

 

全員の視線が、寝台に向けられる。そこには、未だ眠るように横たわるアリスの姿があった。

 

 

「アリスッ!」

 

彼女たちはアリスのもとへ駆け寄り、必死に名前を呼ぶ。その声に反応するように、アリスの瞼が薄く開いた。

 

 

「……みんな……?」

 

その言葉に、全員の顔がぱっと明るくなる。

 

 

「アリス――ッ!」

 

アリスを抱きしめるモモイ、ミドリ、ユズ、。彼女たちは泣きながら何度もアリスの名前を呼び、無事を喜び合った。

 

寝台の上、揉みくちゃになりながら抱擁を交わす光景。騒がしくも希望に満ち、皆が笑顔を浮かべ互いの生還を喜び合う。

 その後ろ姿を見つめながらリオは静かに両の拳を握り締めた。自分が不可能だと断言した可能性、未来、それを掴み取った少女達の姿を。

 

「……誰も犠牲にしない、皆が笑顔で迎えられる未来」

 

 言葉にすると何と容易で、実現する事の何と困難な事か。

 その選択肢を知っていながら、リオは目指そうと思わなかった。それに到達する未来、その道筋を思い描く事が出来なかったからだ。ならば最も可能性が高く、最も犠牲の少ない方法を選ぶべきだろう――少なくとも彼女はそう判断した。

 けれど、その選択ではこの結末に辿り着く事は出来なかっただろう。

 

 じっと、ゲーム開発部を見つめるリオは胸中に様々な感情を抱く。それは羨望であったり、後悔であったり、遣る瀬無さであったり。自身の無力や選択の結末を振り返り、どうしようもない切なさを彼女は覚えていた。

 俯き、苦笑を零したリオはそっと言葉を漏らす。

 

 「」先生、貴方はこの光景はを取りもどすために――。」

 

 

 

だが、ふとアリスが周囲を見渡し、小さく呟いた。

 

「……銀さんは?」

 

その言葉に、全員がはっとした顔をする。そして、ヒマリに視線が集まる。

 

 

「銀さん、起きてないの……!?」

 

「そういやアイツ、……脱出の時keyの手を掴んでいたな。」

 

「タマさんも起きないし……」

 

「ヒマリ!先生の様子は!?」

 

リオがヒマリに迫ると

ヒマリは一瞬、目を伏せてから、静かに答えた。

 

 

「……先生は……まだ戻ってきていません。」

 

その言葉が場を凍りつかせた。

 

全員の目が、銀時が繋がれていたダイブ装置へと向けられる。だが、その装置のライトは消えたままで、銀時が目を覚ます気配はなかった。

 

 

「そんな……嘘でしょ……」

 

目を伏せるヒマリ。その表情からは、銀時が直面している困難を容易に察することができた。

 

部屋に静寂が訪れる中、誰もが銀時の帰還を信じ、祈るような思いで装置を見つめ続けていた。

 

 




次回 その場の感情で動くと碌なことはない

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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