透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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短いです!状況が飲めないかもしれない!

けど、解除はやめてくださいィィィィ!!


エデン条約篇 補習授業なんてやってられっかァァァァァ!!
第七十三訓 夢の中での誓い


「は………!」

 

 銀時は息を飲んだ。重いまぶたを開けると、視界には見覚えのある景色が広がっていた。

 

 松下村塾。

 

 かつて吉田松陽と学び、夢を語り合った学舎。草木のざわめき、土の匂い、どこか懐かしい木造の建物。陽の光は柔らかく降り注ぎ、鳥のさえずりが微かに響く。しかし、そこには誰の姿もなかった。

 

 「俺はーーまたここに来ちまったのか。」

 

 呟いた声が妙に虚しく響く。確かにここは、あの頃の松下村塾のはずだった。しかし、何かが違う。いや、何もかもが違った。

 

 ふと、背後から聞き慣れぬ声が届いた。

 

「おや、君も目が覚めたのか?」

 

 銀時は咄嗟に振り返る。

 

 そこには、明らかに場違いな人物がいた。

 

 白を基調とした、現代風の装いに貴族的な要素を混ぜたような華やかな衣装。小柄な体躯にふさわしく、繊細な刺繍が施されたケープを羽織り、胸元には装飾が施されたリボンが揺れている。しかし、何よりも目を引いたのは、その頭にちょこんと生えた狐の耳だった。

 

 少女は縁側に座り、まるでここが自分の庭であるかのように優雅に茶を啜っていた。

 

 「お前……何もんだ?」

 

 銀時は自然と警戒を強める。異質な存在は、得てして厄介事の前触れだ。

 

 少女はくすっと微笑んだ。

 

 「ふふふ、そんなに警戒しないでくれたまえ。私は百合園セイア。」

 

 穏やかに名乗った彼女は、まるで気にも留める様子もなく、ゆったりとした仕草で茶を口に運ぶ。

 

 「私は今、訳あってここに匿われている身なんだ」

 

 「匿われてるって……」

 

 銀時は周囲を見渡す。

 

 「ここ、お前らのいる世界とは違う場所で、もうここはーー」

 

 「存在していない。だろ、坂田銀時くん。」

 

 瞬間、銀時の背筋に冷たいものが走る。

 

 「!?」

 

 少女ーーセイアの言葉は、銀時の心の奥底にある不確かな感覚を言葉にしたものだった。

 

 ここは確かに松下村塾。だが、本物ではない。存在しないはずのものが、今、確かに目の前に広がっている。

 

 「お前、どうして俺の名前を……それにここのことをーー」

 

 問い詰める銀時をよそに、セイアはただ微笑を深める。

 

 「なぁに、ここの主人から聞いただけだよ」

 

 「……ここの主人?」

 

 銀時が眉をひそめると、彼女はふっと視線をそらし、柔らかく息をついた。

 

 「でも、まだ話すことができないがね」

 

 銀時は黙った。彼女の言葉には確かに嘘はなかったが、それ以上に真実を語る気もないことが伝わってくる。

 

 沈黙の中、ふとセイアが話題を変えた。

 

 「突然だが、君はエデン条約って聞いたことはあるかい?」

 

 銀時は軽く鼻を鳴らす。

 

 「まぁ、あの不良警察どもが何度か口にしてたな」

 

 「でも詳しい内容までは知らねぇよ」

 

 「まぁ、名前聞く感じ天国みたいな結果を望む的な条約なんだろ?」

 

 その言葉を聞き、セイアは微かに笑った。

 

 「――つまるところ、エデン条約というのは『憎み合うのはもうやめよう』という約束だ」

 

 彼女は静かに茶碗を縁側に戻し、指先をそっと組む。

 

 「トリニティとゲヘナの間で、長きにわたって存在してきた確執にも近い敵対関係。そこに終止符を打たんとするもの。互いが互いを信じられないが故に、久遠に積み重なっていくしかなかった憎悪を解消するため、それに代わって新たに信頼を築き始めようとするプロセス」

 

 「つまりは……ゲヘナとトリニティの平和条約」

 

 「けれど、連邦生徒会長の失踪をきっかけに、この条約は何の意味も持たなくなってしまった。何せ仲介し、立ち会う張本人がいなくなってしまったのだからね」

 

 彼女の声音はどこか淡々としていたが、その奥には何か深い感情が隠されているようだった。

 

 一口、茶を含んだセイアは、ゆっくりと吐息を漏らしながら、そっと茶碗を置く。

 

 その亜麻色の髪がそよ風に靡き、柔らかな陽光を受けて輝いた。

 

 「――エデン、それは太古の経典に出てくる楽園の名。そこにどんな意味を込めていたのかは分からないけれど、まぁ連邦生徒会長のいつもの悪趣味だろうね」

 

 彼女の言葉が風に溶けるように消え、辺りには再び静寂が訪れた。

 

 銀時は言葉を失ったまま、その場に立ち尽くしていた。

「キヴォトスの七つの古則は御存知かな?」

 

銀時は黙ったまま、飴を口の中で転がす。

 

「その五つ目は、正に楽園に関する質問だった」

 

「――楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事は出来るのか」

 

言葉が、静寂の中に落ちていく。

それは波紋のように広がり、銀時の脳裏に問いかける。

 

「他の古則もまたそうであるように、少々理解に困る言葉の羅列だ」

 

「ただ、ひとつの解釈としてこれを『楽園の存在証明に対するパラドックス』であると見る事は出来る」

 

彼女の瞳が、銀時のそれを射抜いた。

 

「もし楽園というものが存在するならば、そこに辿り着いた者は至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出る事はない」

 

「――もし楽園の外に出たのであれば、つまりそこは真の悦楽を得られるような『本当の楽園』ではなかったという事だ」

 

銀時はふと、遠い記憶を思い出していた。

かつての松下村塾。

幼い頃の自分。

そして、あの人の背中。

 

楽園など、どこにもなかった。

あるのは、戦火に焼かれ、奪われ、絶たれていく日常だけだった。

 

しかし、それでも人は求め続ける。

「楽園」を、「救い」を、「平和」を。

 

セイアは続ける。

 

「であるならば、楽園に到達した者が、楽園の外で観測される事はない」

 

「存在を捕捉されうる筈がない――到達した者を観測できたのなら、楽園は存在するが、真の楽園とは云えない事が証明される」

 

「しかし、そもそも観測すら出来ないのであれば……」

 

セイアの口元に、僅かな笑みが浮かぶ。

 

「楽園はあるのかもしれないし、ないのかもしれない……」

 

彼女は微かに首を傾げ、茶目っ気のある調子で問いかける。

 

「――存在しない者の真実を証明する事は出来るのか?」

 

沈黙。

 

風が吹く。

松下村塾の縁側に、木々のざわめきが響く。

 

銀時は何も答えなかった。

 

いや――答える必要がなかった。

 

セイアはそれを理解していたのか、ややあって小さく肩を竦める。

 

「……つまるところ、この五つ目の古則は、初めから証明する事ができない事に関する『不可解な問い』なのだよ……」

 

「しかし、ここで同時に想う事がある」

 

彼女は少し視線を上げ、遠くを見つめるように言う。

 

「証明できない真実は、無価値だろうか?」

 

その言葉が銀時の胸に突き刺さる。

証明できないもの。

掴めないもの。

しかし、それを信じた者たちはいた。

それを守るために、戦った者たちがいた。

 

セイアの瞳が、再び銀時を捉える。

 

「この冷笑にも近い文章を通じて、何か真に問いたい事があるのではないだろうか?」

 

「エデン……経典に出て来る楽園、どこにも存在せず、探す事も能わぬ場所――」

 

「夢想家たちが描く、甘い甘い虚像」

 

銀時は、わずかに目を細める。

 

「どうだい?」

 

「そう聞いて見ると、このエデン条約そのものが、まさしくそんなものの様に思えてこないかい?」

 

楽園とは、本当に存在するのか?

それとも、それはただの幻想なのか?

 

「平和」とは、「理想」とは、追い求める価値があるのか?

 

銀時は小さく息を吐く。

飴玉を舌の上で転がし、空を仰ぐ。

 

――くだらねぇ。

 

こんな哲学みてぇな話をして何になる?

 

価値があるのか無いのかそんなの決めるのは本人たちだ。

 

他人による価値なんざなんの意味も持ちやしない。つまるところ

 

そのお花畑みたいな夢のような条約に価値を持たせるのはーー当事者たち本人たちに関わっているということ

 

「……チッ、めんどくせぇ話に巻き込まれた予感がするぜ。」

 

銀時は頭をかきながら、口元に苦笑を浮かべる。

 

セイアもまた、意味ありげに微笑んだ。

 

――銀時。

 

空に、その声は響いた。

 

まるで静寂の湖面に一粒の雫が落ちるように、静かに、それでいて確かに。

 

それは囁きのように小さな声だった。

しかし、不思議なほどに明瞭で、揺らぎなく銀時の鼓膜を打った。

 

彼は、ゆっくりと目を細める。

 

 

「もしかしたら、これから始まる話は」

 

「君のような者には適さない、似つかわしくない話かもしれない」

 

夜の帳が、二人を包む。

 

月明かりが、縁側に落ちた影を伸ばし、ゆらゆらと歪ませる。

 

「不快で、不愉快で、忌まわしく――」

 

「眉を顰める様な話」

 

「相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実を疑う」

 

静かな風が、木々の葉を揺らす。

 

「悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような……」

 

「それでいて、唯々後味だけが苦い……そんな話だ」

 

セイアは言葉を紡ぐたびに、ゆっくりと目を伏せる。

 

まるで、語るべきではないことを語る覚悟を決めているかのように。

あるいは、これを語ることそのものが、彼女にとっての試練であるかのように。

 

「しかし同時に――」

 

風が止んだ。

 

瞬間、世界が沈黙する。

 

「紛れもない、真実の話でもある」

 

銀時はただ黙って、その言葉を受け止める。

 

セイアの言うことが、どんな意味を持つのかはわからない。

しかし、彼女がこの言葉を選び、今ここで語ることを決意した、その事実だけは、確かだった。

 

「だから――」

 

彼女は顔を上げた。

 

瞳に、揺るぎない光を宿して。

 

「どうか背を向けず、目を背けず」

 

「最後の『その時』まで、しっかり見ていて欲しい」

 

まるで宣誓のように。

 

まるで、運命を共にする者への最後の頼みのように。

 

銀時はその瞳を見つめる。

 

そして、彼は理解した。

 

これは、ただの依頼ではない。

ただの頼まれごとでも、軽い使命でもない。

 

これは、決意を強いられる話だ。

それも、決して後戻りできない、命を賭けるほどの。

 

少女の願いは、簡単に引き受けられるようなものではなかった。

 

だが、それでも。

 

銀時は答える。

 

言葉ではなく、その目で。

 

彼は、ゆっくりと頷いた。

 

痛烈な覚悟を秘めながら。

選択肢など、最初からなかった。

 

どれだけ苦かろうと、どれだけ重かろうと、避けて通るわけにはいかない。

 

だからこそ、銀時はただ一言、こう答える。

 

「それがお前の依頼ってんなら――」

 

「引き受けてやるよ」

 

セイアは、それを聞いて微笑んだ。

 

それはどこか儚く、それでいて満足そうな笑みだった。

 

「助かるよ」

 

そう言って、彼女はそっと目を伏せる。

 

風が吹く。

 

銀時は、何かを考えるように、ふと天を仰ぐ。

 

どこまでも深い空。

果てしなく続く闇の向こうに、僅かな星々が瞬いている。

 

彼の心の中に去来するものは、言葉にできない。

 

ただ、思い浮かぶのは――

 

かつて、この場所で聞いた声。

かつて、この場所で見た背中。

かつて、この場所で交わした言葉。

 

そして、彼は呟く。

 

それは、静寂に溶けるような、小さな声だった。

 

「おい、次ここに来る時は姿を見せてくれよ――」

 

「松陽先生」

 

風が、音を攫っていく。

 

銀時の目に映るのは、ただ、虚空だけだった。

 

銀時「はっ………あれ?夢?」

 

エデン条約篇始動!!

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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