透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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パー子とエヅラ子からのお願い部屋を明るくして画面から目を離し、正しい姿勢で読むんだぞォォォォォォ!!


第七十七訓 プライドの高いって奴結構面倒くさい奴らしかいない例えをあげればベジータブル

遂に活動を開始した補習授業部は、毎日放課後の時間帯に補習授業と自習を行うことになっている。

 

 しかし、その場の監督役を務めるのは教師ではなく――

 

プラカードに「自習」と書き掲げているエリザベス。

 

 銀時も桂も不在の今、教室には真剣に机に向かう生徒たちの姿があった。

 

「ハナコ、この問題はどう解けば良い?」

 

「どれですか? ――あぁ、成程、こういう時はですね、倍数判定法を用いて、このように……」

 

「――そっか、うん、理解した」

 

「………」

 

 アズサとハナコの二人は机をくっつけ、真剣な面持ちで問題集を捲りながら学習を進めている。

 

 二人組で効率的に学習するハナコとアズサ。その傍らで、ヒフミも一人でペンを進めていたが、彼女にとって学習自体は特に問題ではなかった。

 

 授業内容は既に頭に入っている。

 

 以前の講義や例題を復習するだけで十分。特に苦慮することもなく、淡々とノートに筆を走らせている。

 

「ハナコ、この文章は何?」

 

「――これは、古い叙事詩の冒頭部分ですね。『怒りを歌え、神性よ――』という……」

 

「あぁ、あれか、理解した……むっ、ハナコ、これは?」

 

「えっと、これは――古代語を重訳したものですね。原文を理解するには辞書がないと……ちょっと待っていてくださいね」

 

「古代語……あぁ、ならこれは恐らく、『Gaudium et Spes』――喜びと希望、だ」

 

「えっと……はい、そうみたいですね。これは第二回公会議における――いえ、それよりも、アズサちゃんは古代語が読めるんですね?」

 

「あぁ、昔習った」

 

 呟きながら、アズサはサラサラと例題を解き進めていく。

 

 そんな彼女たちの様子を見ていたヒフミは、ふと空席の机に視線を向ける。

 

 そこは、コハルの席だった。

 

 先ほど、勢いよく部屋を飛び出したまま、まだ戻ってきていない。

 

「コハルちゃん、大丈夫でしょうか?」

 

 不安げな声を漏らすヒフミに、アズサは特に表情を変えることなく答えた。

 

「さぁ。桂たちも行ってから帰ってきてないから分からないな。」

 

「うぅ……」

 

 ヒフミは思わず顔を曇らせる。

 

 すると、ハナコがふわりとした笑みを浮かべながら、優しく言った。

 

「大丈夫ですよ。銀ちゃんたちならきっと――コハルちゃんを連れ出してくれますよ。」

 

 その言葉には、どこか確信めいた響きがあった。

 

 ヒフミはその言葉に少しだけ安心しながら、再びノートに向かう。

 

 静かな教室に響くのは、鉛筆が紙を滑る音だけ。

 

 補習授業部の、落ち着いた放課後の時間が流れていた。

 

 だが、その静寂は――違う場所では突然の騒がしい足音によって破られることとなる。

ーーーーーーーーーーー

 「私は、1人で大丈夫だもん……」

 

 静まり返った薄暗い部屋の中で、コハルはポツリと呟いた。

 

 机の上には教科書と問題集、整然と並べられた筆記用具。そして、静寂の中で唯一響くのは、彼女がノートにペンを走らせる**カリカリ……**という小さな音だけ。

 

 「バカじゃないもん……」

 

 まるで自分に言い聞かせるように呟きながら、彼女はページをめくる。しかし、その手はわずかに震えていた。

 

 心のどこかで、誰かが追いかけてきてくれるのを期待していたのかもしれない。

 

 だが――

 

 コンコン……

 

 不意に、扉を叩く音がした。

 

 コハルは一瞬びくりと肩を震わせるが、すぐに冷静を装い、ノートに目を落とす。

 

 「……無視よ。私は一人でやるんだから……」

 

 しかし――

 

 ゴンゴンゴンゴン!!

 

 先ほどよりも明らかに強い音が響いた。まるで、扉の向こうにいる者が「入れろ」と強く主張しているように。

 

 コハルの眉間にしわが寄る。

 

 「なに……?」

 

 それでも返事をしなかった。

 

 だが――

 

 ガンガンガンガンガン!!!!!

 

 今度は、まるでドアを破壊せんばかりの勢いで叩かれた。

 

 コハルの心臓が大きく跳ねる。

 

 そして――

 

 「ああもう!! うるさいわね!! えっ!?」

 

 怒りに任せて勢いよく扉を開けた瞬間、彼女の目に飛び込んできたのは、常識を遥かに逸脱した二人の人物だった。

 

 ――いや、正確には二人の「異形」だった。

 

 ツインテールに大きな胸(※ボールを詰めただけ)を装着した銀時。

 そして、不自然すぎる化粧を施した桂。

 

 二人は並んで立ち、意味不明な笑顔を浮かべていた。

 

 銀時が、おもむろに口を開く。

 

 「あれ、すいませ〜ん?」

 

 その声は、どこまでも胡散臭く、どこまでも不審者のそれだった。

 

 「こちらに家政婦を任されたパー子です!」

 

 彼が無駄にハイトーンで名乗りを上げると、隣の桂も続ける。

 

 「エヅラ子です!」

 

 そして二人は、息をピッタリと合わせ、同時に叫んだ。

 

 「二人揃ってオカマ政婦双太夫!!」

 

 バァン!!

 

 コハルは一瞬の沈黙の後、全力で扉を閉めた。

 

 あまりの勢いに、ドアが**「ドン!」**と壁にぶつかるほどだった。

 

 部屋の中は、再び静寂に包まれる。

 

 ――だが、すぐに外から桂の悲痛な叫びが響いた。

 

 「ちょっと待ってェェェ!!」

 

 それに続いて、銀時の呆れた声。

 

 「おい開けろ! 身の回りの世話ができねぇだろうが!!」

 

 ドンドンドン!!

 

 再び容赦なく扉を叩く音が響く。

 

 コハルは、顔を真っ赤にして叫んだ。

 

 「帰れェェェェェ!!!!!」

 

 こうして、コハルの静寂は無惨にも打ち砕かれたのだった。

 

バァン!!

 

 扉を閉めた瞬間、部屋の中は再び静寂に包まれた。

 

 コハルは息を荒げながら、ドアの前で腕を組み、まるで要塞の門を閉ざしたかのように立ちはだかる。

 

 しかし――

 

 ドンドンドン!!!

 

 無情にも扉を叩く音が再び響く。

 

 「ちょっと待ってェ〜!!」

 

 外から、桂の必死な叫び声。

 

 「少しは躊躇ぐらいしてもいいだろうが!!」

 

 銀時がコハルに強く迫る中、桂が焦るような口調で続ける。

 

 「分かっているのか? 俺たち2人がオカマ姿で家政婦をするなんて滅多にないぞ!」

 

 「レアケースだぞ! もうちょっと感慨とかさ〜!」

 

 まるで歴史的な瞬間を迎えたかのような熱量で訴えかける桂。しかし――

 

 「そんなものあるわけないじゃない!!」

 

 コハルは即座に全否定。

 

 そして、溜まりに溜まった怒りを爆発させる。

 

 「アンタらの顔、いやというほど二話の中で見てんのよ! 用もないのに毎回出て来てバカみたい!!」

 

 その言葉に、銀時が肩をすくめながら呟いた。

 

 「おいおい、そんな言い方はねぇだろ?」

 

 コハルはその銀時の態度にますます苛立ちを募らせる。

 

 「わざわざ家政婦になってまでお前の勉強見てあげようとしてんのにさ」

 

 銀時の口調はどこか芝居がかっていて、まるで苦労して育てた娘に突き放された哀れな母親のようだった。

 

 だが、コハルは一歩も引かない。

 

 「まず家政婦にその胸(ボール)はいらないでしょ!?」

 

 バッと扉を開け、銀時の胸――いや、衣服の中に不自然に詰め込まれたバスケットボールを指差す。

 

 ぎゅうぎゅうに押し込められたボールは、見るからに不自然な膨らみを作り、まるで失敗した造形作品のようになっている。

 

 「これはこれで結構重労働なんだぞ?」

 

 銀時は自慢げに胸を張る。すると、詰め込まれたボールが**ギュムッ……**と音を立てて歪んだ。

 

 「ほら、見ろ。リアリティって大事だろ?」

 

 「いらないの!!」

 

 コハルは全力で否定した。

 

 桂も横から口を挟む。

 

 「この姿の俺たちにツッコむとは、なかなか度胸があるな……だが、我々は真剣に来ているのだぞ!」

 

 桂が妙に力強く語るものだから、コハルは思わず頭を抱える。

 

 「私はね、アンタらみたいなバカと付き合ってる暇はないって言ってんの!」

 

 その言葉を聞いた瞬間――

 

 銀時と桂の表情が、ゆっくりと曇る。

 

 部屋の空気が、わずかに沈黙を孕んだ。

 

 そして、銀時がふと寂しげに呟く。

 

 「……そうか。そう言われると、ちょっと悲しいな。」

 

銀時がそう呟いた瞬間、コハルは少しだけ驚いたように目を見開いた。

 

 まさか、こんなに簡単に諦めるのか――?

 

 しかし、次の瞬間。

 

 銀時の口角がニヤリと吊り上がる。

 

 「なんて言うわけねぇだろうが!!」

 

 ドガァァァァァン!!!!

 

 突如として爆音のような衝撃音が部屋中に響き渡る。

 

 扉が粉砕され、蹴り飛ばされた破片が舞い散る。

 

 まるで戦場の突入作戦のような勢いで、銀時と桂が飛び蹴りとともに部屋へと侵入してきた。

 

 完全に変態の所業だった。

 

 「コハルくーん。ダメじゃないか? ちゃんと鍵閉めとかないとーー」

 

 銀時は、いかにも優しい家政婦のような口調で言いながら、無惨に壊れた扉の残骸をまたいで入ってくる。

 

 「こんな変態どもが入り込みますよ」

 

 その瞬間、コハルは全身の毛が逆立つほどの怒りを感じた。

 

 「いや掛けてたけどォォォ!!」

 

 鬼気迫る叫び声。

 

 「というか家政婦が普通に飛び蹴りで部屋の物破壊してんじゃないわよ!!」

 

 だが、そんな彼女の怒りなどまるで意に介さず、桂が続く。

 

 「はいサプライズ大成功! よし、うまくいったな〜」

 

 彼はドヤ顔で満足げに頷いている。

 

 コハルは、こめかみを押さえながら、怒りで震える声で言い放った。

 

 「それサプライズじゃなくて住居侵入罪!! バッリバリの犯罪だから!!」

 

 銀時は腕を組み、神妙な顔で「なるほど」と頷いた。

 

 しかし――

 

 「え、お前、サプライズ公言免罪符法ができたの知らねぇの?」

 

 コハル「何それ聞いたことない!!」

 

 桂が得意げに補足する。

 

 「サプライズ公言をした者は、いついかなる場合もそれがサプライズとして認められるというものでだな――」

 

 「一時的な罪に対する罰の免除証となるのだ。」

 

 全く意味のわからない理論だった。

 

 「ちなみに俺は攘夷活動中に気になる人妻がいた時は、よくこれを使っている。」

 

 その瞬間。

 

 部屋の空気が凍りついた。

 

 銀時がジト目で桂を見つめる。

 

 「なんかヤベェエピソード出てきたんだけど、罪の意識もあるから確信犯なんだけどォォォ!!」

 

 コハルも一歩後ずさりながら、顔をひくつかせる。

 

 「常習犯な上に、◯すつもりもあるなんて……Hなのはダメ! 死刑!////」

 

 ――真っ赤になりながら、ぷるぷる震えた。

 

 銀時「お前はどんな妄想してんだ!!」

 

 そんな混乱の中、桂がふと真顔で言った。

 

 「コハル殿、お前はこれからどんな目に――いや、なんの日か知ってるか?」

 

 桂の言葉に、コハルは警戒心を抱きながら、僅かに首を傾げる。

 

 「前者の意味を捉えると………」

 

 ――数秒間の沈黙。

 

 そして、彼女の顔はみるみるうちに茹で蛸のように真っ赤に染まった。

 

 「脱処◯の日!!?////」

 

 バァン!!!

 

 彼女の叫びとともに、手近にあったノートが勢いよく机から跳ね飛ばされた。

 

 銀時「どんな記念日だァァァァァ!!」

 

「おいヅラ!オメーが変なこと言うからピンク頭が脳内から外までピンクどころか真っ赤に染まっちまったじゃねぇか!!」

 

 桂「それは つまり今日は祝日ということか?」

 

 コハル「違ァァァァァァァう!!!!////」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ――カオスが過ぎ去ったと思われた部屋の中で、未だに燃え上がる怒りの炎を抱えたコハルが、深く息を吸い込んだ。

 

 「で、実際の所は何しに来たのよ。」

 

 彼女の声は、まるで不審者に対する通報寸前の警戒心に満ちていた。

 

 しかし、その問いに対し、銀時はまるで当たり前のことのように肩をすくめる。

 

 「いや、さっき言っただろうが? 家政婦として身の回りの世話をしに来たって。」

 

 その言葉に、コハルは即座に両手で机をバンッと叩いた。

 

 「いやめっちゃ壊してたわよね!? 飛び蹴りでドア破壊したわよね!?」

 

 彼女の声が震えるほどの怒りを帯びる中、桂が静かに手を挙げ、優雅な笑みを浮かべながら語り始める。

 

 「安心してくれたまえ、コハル殿。そうなると思ってーー」

 

 「覗き見スタイルが板についた状態でドアを修復した。これで何の問題もないはずだ。」

 

 そう言って、彼は得意げに新しく取り付けたドアを指差した。

 

 しかし、そのドアは以前よりも明らかに不穏な改造が施されていた。

 

 中央部分に大きな楕円形の穴が空いており、その奥から桂の顔が覗いている。

 

 まるで、生首がドアに埋め込まれたかのような奇怪な光景だった。

 

 コハルのこめかみがビクッと跳ねる。

 

 そして、無意識のうちに、彼女の右手は机の上の分厚い参考書を掴んでいた。

 

 「いや、ドアついたのはいいんだけど、アンタは離れてくれない? ここに来るたびにアンタの顔見ないといけないのが苦痛で仕方ないの。」

 

 桂はそんな彼女の訴えを、まるで親が駄々をこねる子供を見るかのような穏やかな表情で聞いていた。

 

 そして、しばし考え込んだ後、ポンと手を叩く。

 

 「そうですか〜、ドアのバージョンが気に入りませんでしたのね? でしたらーー」

 

 桂は胸を張り、満面の笑みで宣言した。

 

 「心の壁ATフィールドバージョンで!」

 

 その瞬間、コハルの額に青筋が浮かぶ音が聞こえたような気がした。

 

 「いや、アンタが外れなさいって言ったんだけど!? 前のドアを外せじゃなくてアンタ張本人を外せって言ってんの!!」

 

 彼女は叫びながら、参考書をフルスイング。

 

 バゴォォォン!!!

 

 分厚い本が、重力の概念を無視するほどの勢いで桂の顔面に直撃。

 

 その衝撃で、ドアに固定されていたはずの桂の頭が、一瞬で**「スポンッ」**と外れ、後ろへと吹っ飛んだ。

 

 だが、コハルの怒りは収まらない。

 

 「それに痛いんだけど!? 私が心の壁ATフィールド貼ってるみたいじゃない!? 私が一人ここで頑張ってるのが辛くなってくるじゃない!!」

コハルは目に見えない壁をぶん殴るような勢いで叫んだ。

 

 だが、そんな彼女を前に、銀時はただ薄く笑いながら、ぼそっと呟く。

 

 「そりゃそうだろ。」

 

 コハルの叫びの意味を理解しているのかいないのか、銀時はのんびりと腕を組んだまま、彼女をじっと見つめた。

 

 そして、次の瞬間――

 

 「お前は強くもねぇ、かと言って賢いかって言われたらそういうわけでもねぇ……頭がいいのはせいぜい保健体育の成績ぐらいだ。」

 

 ズガァァァン!!

 

 まるで重火器で心臓を撃ち抜かれたような衝撃が、コハルの体を駆け抜ける。

 

 「ひどくない!? 私がHな生徒だっていうの!?」

 

 顔を真っ赤にして抗議するコハルだったが、銀時は構わず続けた。

 

 「プライドだけが高いから、今まで話す機会がある奴とかはいたかもしれねぇが――心から気を許せて会話できる奴はいなかったはずだ。」

 

 コハル「……!」

 

 その言葉が、胸の奥深くに鋭く突き刺さる。

 

 確かに、コハルは頭が良くない。かと言って、力があるわけでもない。

 

 けれど、誰かにバカにされるのは我慢ならなかった。

 

 だから、プライドだけは人一倍高く持った。自分をバカにさせないために。

 

 でも、そんな自分の態度がどこか周囲を遠ざけていたのも、分かっていた。

 

 銀時は、それを――まるで彼女の心を見透かしたかのように言い当てたのだった。

 

 コハルは拳をぎゅっと握る。

 

 そんな彼女を見ながら、銀時はポケットに手を突っ込み、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 「だがな――テメェが受け取るまいとATフィールド貼ってる間も、関わろうと手を差し伸べてくれた奴らもいたんだよ。」

 

 コハル「……」

 

 頭の中に、補習授業部のメンバーの顔が浮かぶ。

 

 ヒフミの心配そうな声。

 ハナコの優雅な微笑み。

 アズサの静かに見守る眼差し。

 エリザベスの意味不明な札。

 

 皆、コハルが補習授業部にいることを「当然」のように受け入れていた。

 

 そして今、目の前の銀時と桂もまた、わざわざこんなバカげた姿になってまで、自分を迎えに来た。

 

 銀時は軽く溜息をつきながら、さらに続ける。

 

 「奴らがどんなに手を差し伸べようが、何しようが――結局のところは、テメェが自身のフィールドを解除しねぇと何も始まらねぇんだよ。」

 

 銀時の声は、からかいも冗談もなく、ただ真っ直ぐだった。

 

 「テメェがもう孤独で生きていくって決めたんなら、俺はもう何も言わねぇよ。」

 

 「テメェの人生だ。他人の選択にとやかく言う資格なんてねぇからな。」

 

 その言葉は、コハルの胸の奥に深く沈んでいく。

 

 銀時は、一歩だけ彼女に近づき、ふっと笑った。

 

 「だが――1人が辛い、誰かといたいってんなら、殻を破って外に出な……」

 

 その瞬間、桂が静かに呟いた。

 

 「……銀時……」

 

 銀時は視線を桂に向けると、肩をすくめた。

 

 「ヅラ、俺らができんのはここまでだ。あとはアイツ次第さ。」

 

 その言葉に、桂も僅かに微笑む。

 

 「殻から出られずに保身に入るのも――

 

 殻を破って痛みを知りながらも、たくさんの宝物を手に入れるのも――

 

 結局は、自分次第だ。」

 

 コハルは、言葉を失ったまま彼らの言葉を聞いていた。

 

 桂はふっと息を吐き出し、静かに微笑む。

 

 「フッ……ヅラじゃない桂だ。」

 

 その一言が、この場に僅かな温かみを残した。

 

 銀時は、コハルの肩を軽く叩きながら、いつもの飄々とした態度で言った。

 

 「じゃあ、教室で待ってるからな〜。」

 

 彼らは、何も言わずに背を向け、壊れたドアの向こうへと歩き出した。

 

 部屋に残されたコハルは、ただ静かにその背中を見つめる。

 

 そして――

 

 ふと、自分の手を見る。

 

 震えていた。

 

 けれど、その震えは、恐怖や不安ではなかった。

 

 ――これは、きっと。

 

 「心の壁を壊したいと、願う自分がいる証拠だった。」

 

 そして、彼女はゆっくりと立ち上がる。

 

 まるで、自分の足で新たな扉へと踏み出そうとするかのように。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

放課後の教室には、ゆるやかな静寂と疲労感が満ちていた。

 

 窓の外には夕焼けが広がり、赤橙色の光が室内をゆるやかに染めている。

 

 ――そして、その中心に、帰還したばかりの銀時と桂の姿があった。

 

 「ふああ、疲れた〜……労働基準法に乗っ取ってそろそろ帰宅するとしますか〜コノヤロ〜」

 

 銀時は大きなあくびをしながら、適当に椅子を引いて腰を下ろす。

 

 まるで、長い戦の後の老兵のような脱力感を纏っていた。

 

 一方、桂は眉間に皺を寄せながら、腕を組んで立ち尽くす。

 

 「退勤時間後のんまい棒はまだか〜エリザベス」

 

 桂の視線の先では、エリザベスが静かに札を掲げる。

 

 『帰宅後はちゃんと働けペロ』

 

 そのシュールな光景の中、ヒフミが勢いよく立ち上がる。

 

 「桂さん!銀さん!」

 

 彼女の声が響くと、続けてハナコがゆったりと微笑みながら口を開いた。

 

 「お疲れ様でした♡ 3◯どうでしたか?」

 

 教室内に、一瞬の沈黙が流れる。

 

 銀時は、ゆっくりと彼女の顔を見た後、溜息をつく。

 

 「帰宅直前にとんでもない爆弾発言するの止めてくんない?」

 

 ヒフミとアズサが微妙に困惑しながら目を見合わせる中、アズサが無表情のまま問いかけた。

 

 「桂、敵将討ち取ったか?」

 

 その言葉に、桂が軽く鼻を鳴らしながら頷く。

 

 「ああ、最後は銀時に出番を奪われたがな。」

 

 銀時は呆れたように彼を見やる。

 

 「お前ら戦場から帰ってきた武士と大将の関係なの? 討ち取ってねぇから。首だけになんてしてねぇよ、俺。」

 

 軽く肩をすくめながら、銀時は椅子に深く沈み込む。

 

 そんなやり取りを聞きながら、ヒフミが少し不安げな顔を見せる。

 

 「どうでしたか? コハルちゃん、戻ってきそうですか?」

 

 銀時は、教室の天井をぼんやりと眺めながら、静かに呟く。

 

 「さぁな。アイツ次第だ。」

 

 言葉はそれ以上続かなかった。

 

 ――だが、確かに銀時の声には、どこか期待するような響きがあった。

 

 その時だった。

 

 「どうした、エリザベス?」

 

 桂が何気なく問いかけると、エリザベスが無言で札を掲げる。

 

 『みんな……後ろ』

 

 一瞬の静寂。

 

 全員が、ゆっくりと振り返る。

 

 そこには――

 

 コハルが、夕陽を背負って立っていた。

 

 「…………」

 

 影が伸びる廊下の中、彼女はじっと立ち尽くしている。

 

 視線は伏せられ、拳は小さく握り締められていた。

 

 教室の中に、誰も言葉を発しない沈黙が広がる。

 

 やがて、コハルは、震える声で呟いた。

 

 「……ごめんなさい。」

 

 彼女の声は、まるで硬く凍った氷を割るように、小さく、しかし確かに響いた。

 

 「勝手に出て行ったり、バカなのを偽ろうとして……」

 

 彼女は唇を噛みしめながら、もう一歩、教室の中へと足を踏み入れる。

 

 そして――

 

 「みんなのこと……バカって言ったりして」

 

 その言葉を口にした瞬間、コハルの胸の奥に残っていた固い殻が、**カラン……**と音を立てて剥がれ落ちたような気がした。

 

 ――だが、教室内は沈黙していた。

 

 まるで、皆がどう反応すべきか迷っているかのように。

 

 その沈黙に耐えきれなくなったコハルは、無理に笑おうとしながら、少し拗ねたように呟く。

 

 「ほ、ほら! 私、こういうの苦手なの! だからさっさと何か言ってよ!」

 

 ――その瞬間。コハルが戸惑っていると、ヒフミがぱあっと笑顔を咲かせたように立ち上がる。

 

 「コハルちゃん!!」

 

 彼女はコハルの前に駆け寄り、ぎゅっと両手を握った。

 

 「戻ってきてくれて、嬉しいです!!!」

 

 その言葉に、コハルは再び言葉を失った。

 

 だが、ヒフミだけではなかった。

 

 ハナコがにこやかに手を叩きながら、微笑む。

 

 「あらあら、素直になるのって大切ですね♡」

 

 アズサは腕を組みながら、静かに頷いた。

 

 「まぁ、当然の選択だな。」

 

 そして、桂も満足げに腕を組み、誇らしげに言った。

 

 「フッ……やはり我々の攘夷魂が、コハル殿の心を動かしたか!」

 

 銀時はそんな桂を横目で見ながら、ぼそっと呟く。

 

 「いや、別に攘夷魂とか関係ねぇからな?というか攘夷魂って何?」

 

 そして、改めてコハルを見つめる。

 

 夕陽に照らされたコハルの表情は、まだ少し照れ臭そうだったが――

 

 それでも、確かに微笑んでいた。

 

 銀時は、ふっと笑って言った。

 

 「ま、あれだ。お前の席はまだそこにある。……勉強、するんだろ?」

 

 コハルは一瞬驚いたように銀時を見た。

 

 そして、少し頬を染めながら、こくりと小さく頷いた。

 

 ――その姿に、教室の空気がふっと温かくなる。

 

 ヒフミが嬉しそうに笑い、エリザベスが再び札を掲げる。

 

 『補習授業部、再始動ペロ!』

 

 コハルは、その札を見て、小さく笑った。

 

 「……ただいま。」

 

 そうして、補習授業部は再び揃ったのだった。

 

 




次回予告

銀時「はーいテストをしますよ〜」


コハル「え?私まだ勉強終わってないんだけど!?」

アズサ「コハル、それは自業自得というものだ。世界は虚しいもの受け入れろ」


桂「そうそう、もうここから勉強しても無駄なんだからさっさと席に着く」


ハナコ「あらあら、人肌脱ぎますか」

ヒフミ「本気で脱がないでください!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナギサ「このような結果になっても困りませんよ」

「彼らは退学させるべくして集めたんですから」

次回 赤点気になる人ってヤバイヤバイっていうけど、実はそこまで危険視してなくない?

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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