透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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銀さんからのお願い部屋を明るくして画面から目を離し、正しい姿勢で読むんだぞォォォォォォ!!


第八十一訓 テストで高得点とれって言われたらプレゼントを要求したくなるのって変ですか?

合宿二日目——朝の喧騒

 合宿所の朝は、静かに、そして容赦なく訪れた。

 

 薄明るい朝日が、閉じられたカーテンの隙間から細い光の筋となって差し込み、部屋の中を柔らかく照らす。

 

 「んぅ……」

 

 微かな寝息と共に、ヒフミが布団の中で身じろぎする。

 

 その瞬間——

 

 「おはよう!」

 

 明るい声と共に、勢いよくカーテンが開け放たれた。

 

 白洲アズサ——まるで戦場の突撃号令の如く、朝の訪れを告げる。

 

 飛び込んできた光に、補習授業部の面々は一斉に顔を顰めた。

 

 「うぅ……まぶしっ……」

 

 コハルは眩しさに顔を背け、ヒフミは布団を深く被って抵抗を示す。しかし、そんな彼女たちの姿とは対照的に、既に制服へと着替え終えたハナコが、ベッドの端に腰掛けていた。

 

 「おはようございます、アズサちゃん、朝から元気ですね♡」

 

 ハナコは穏やかな微笑みを浮かべながら、アズサへと視線を向ける。

 

 「うん、一日の始まりだから。」

 

 アズサは迷いのない声で答えた。

 

 「さあ、早く起きて歯磨き、シャワー、それから着替え。順番に遂行していこう。」

 

 ——しかし、その指示に対する反応は芳しくなかった。

 

 「うぅ……アズサちゃん、十分……あと十分だけ……」

 

 コハルはまるで子供のように布団にしがみつく。

 

 「ん……もう朝ぁ……?」

 

 ヒフミもまた、夢と現実の狭間で揺れながら、布団に包まり続ける。

 

 ——だが、アズサに情けはない。

 

 「ヒフミ、コハル、起きて、ほら。」

 

 掛け布団の端を掴み、まずはコハルの方から揺すり起こす。

 

 「ん……起きてるってばぁ……」

 

 しぶしぶとベッドから体を起こしたコハルの髪は所々跳ね、体操服の肩口はずり落ちている。

 

 「ヒフミちゃんの方はもう少し時間が掛かりそうですね。」

 

 その様子を見ながら、ハナコは静かに呟いた。

 

 「昨日はどうやら遅くまで起きていたみたいですし。」

 

 アズサはヒフミを一瞥すると、小さく息を吐いた。

 

 「……補習授業部の部長だから、心理的プレッシャーもあるのかもしれない。もう少しだけ休ませておこう。」

 

 そう結論を出すと、彼女は素早くコハルの手を取り、部屋の外へと促す。

 

 「ん、あれ……ここ、私……どうして……」

 

 寝ぼけ眼のコハルが状況を把握しきれないまま、アズサは淡々とした声で指示を続ける。

 

 「おはよう、コハル。さぁ、朝の支度をはじめよう。」

 

 「? ……ん、え?」

 

 「シャワールームはこっち、来て。」

 

 「え、なに……なんで……?」

 

 アズサは迷うことなくコハルの手を引き、部屋を出た。

 

 「あらあら、二人で仲良く洗いっこですか?」

 

 ハナコが微笑ましげに呟くと、アズサは迷いなく頷いた。

 

 「うん。その方が多分早いし。」

 

 ——そして、その数分後。

 

 合宿所の静寂を破るように、シャワールームからコハルの絶叫が響き渡った。

 

 「うわぁあっ!? な、なんで!?」

 

 「コハル、動かないで。上手く洗えない。」

 

 「ちょっ、脱がさないでっ!? ひゃ、うえぇっ!? つ、冷たっ……!? せ、せめてお湯、お湯でーー!?」

 

 ——その騒ぎを、遠巻きに聞きつけた者がいた。

 

食堂——朝の混乱

 合宿所の食堂には、すでに朝食を取る者たちの姿があった。

 

 湯気の立つ湯飲みを片手に、近藤勲はほっと一息ついていた。

 

 ——しかし、突然響き渡った甲高い悲鳴に、彼は湯飲みを持ったままピタリと動きを止める。

 

 「……ん? なんだか騒がしいな?」

 

 食堂の一角、頬杖をつきながら座っていた沖田総悟が、面倒くさそうに顔を上げた。

 

 「さっきがトラップ女が、ピンク鳥頭を無理やり風呂に連れ込んだみたいですぜ。」

 

 近藤の耳がピクッと反応した。

 

 「な、なんだとぉ!? 女子二人で風呂……!?」

 

 彼の顔が一気に赤く染まり、湯飲みをガタリと置いた。

 

 「青春ってやつか〜! よし! この際だ。俺もーー」

 

 その瞬間、背後から伸びた手が、近藤の肩をガシッと掴む。

 

 「近藤さん、アンタは普通に外で監視しとけばいい。」

 

 土方十四郎だった。

 

 低く冷静な声が、近藤の暴走を未然に食い止める。

 

 「だが、トシ! これは命令によるものだと説明すればーー」

 

 近藤は必死に食い下がるが、土方は静かに、しかし容赦なく言い放つ。

 

 「合法的に露出狂を増やそうとするのはやめてくれ。」

 

 その一言で、近藤は固まった。

 

 食堂の片隅では、沖田がニヤニヤと頬杖をつきながら一部始終を見守っていた。

 

 土方は深くため息をつき、近藤の襟を引っ張りながら、再び食堂の隅へと引きずっていった。

 

 こうして、補習授業部の朝は、騒がしくもいつも通りに幕を開けた。

 

合宿所・教室——朝の授業開始

 合宿所の一室、そこは普段のトリニティの校舎と寸分違わぬ造りで、生徒たちにとって見慣れた教室そのものだった。

 

 教壇には既に銀時たちが待機しており、手元の授業資料を確認している。生徒たちは次々と教室に入ると、それぞれ割り振られた席へ向かいながら、銀時たちに軽く挨拶を交わした。

 

 その様子を見届けながら、銀時が軽く咳払いをして声を張る。

 

 「よぉし、お前らー席に着け。ヅラに名前を呼ばれたら返事をするように」

 

 「ヅラじゃない、桂だ。」

 

 いつものやり取りを流しながら、桂は手元の名簿に視線を落とし、点呼を始めた。

 

 「ヒフミ殿!」

 

 「は、はい!」

 

 「ハナコ殿」

 

 「はーい♡」

 

 「栗子殿」

 

 「はいでござりまする!」

 

 「アズサ殿」

 

 「うん」

 

 「コハル殿」

 

 「うぅ……全部見られた、もう駄目……」

 

 ——皆が順番に返事をする中、一人だけ異様に小さな声で俯くコハル。彼女の顔は真っ赤に染まり、どう見てもまともな精神状態ではない。

 

 それを見た銀時は、不思議そうな顔で首を傾げた。

 

 「なんか1人だけ返事おかしかったんだけど、なんか1人だけすっごい赤面してる人がいるんだけど?」

 

 すると、アズサが淡々とした表情で答える。

 

 「コハルも私の裸を見たんだから、何も問題は無い筈」

 

 「そういう問題じゃない!!」

 

 コハルがガタッと席を立ち、勢いよく叫ぶ。

 

 「なんでそんな強引に脱がすの!? 無理矢理とかそういうのは駄目なの!」

 

 銀時は目を細めながら、静かに頷いた。

 

 「つまりお前らは百合……そうか、悪かったな。俺たち、お前らのそういうところまで全部受け入れてやるから……安心して青春を謳歌するといいよ」

 

 「だから違うってば!! 何1人で納得してんのよ!! もう少し人の話を聞きなさいよ!!」

 

 感情の昂ぶりと共に、コハルの声はどんどん大きくなっていく。

 

 「私はこいつにお風呂に入れさせられたの!!裸で!!洗われたの!!」

 

 銀時はますます納得したように腕を組むと、静かに言った。

 

 「だから、洗いっこするくらい仲が良いんだろ? やっぱ百合じゃねぇか。いいって、そういうのも経験だ。花咲いた頃にはそんなこと気にならなくなってるって」

 

 「そうだぞコハル。もっと仲睦まじくなり、ベッドも共にできるようになれば——」

 

 「アンタは面倒くさくなるようなこと言わないで!!」

 

 ギャーギャー!!

 

 ——そして、その騒ぎを冷めた目で見ている者たちがいた。

 

 土方が煙草をくわえながら、隣のヒフミにボソッと呟く。

 

 「なぁ、あいつらっていつもあーなのか?」

 

 ヒフミは申し訳なさそうに、肩をすくめた。

 

 「恥ずかしながら……」

 

 沖田は頬杖をつきながら、ニヤリと口の端を持ち上げる。

 

 「仕方ありませんよ。俺たち、歩く『Unwelcome School』って巷じゃ言われてんですから」

 

 ヒフミは深いため息をついた。

 

 「流れてくる曲にまで干渉してるブルアカの作品ってここだけですから当然なような気もしますが……」

 

 そして、バンッと机を叩いて立ち上がる。

 

 「じゃなくて!! 皆さん、落ち着いてください!!」

 

 ——一瞬、静寂が教室を包んだ。

 

 ヒフミは愛用のペロロバッグから、しっかりとした厚みのあるファイルを取り出し、高らかに掲げる。

 

 「こほん——皆さん、此方を御注目ください!」

 

 「……?」

 

 騒いでいた皆が、次第にヒフミへと視線を向ける。彼女は精悍な表情で口を開いた。

 

 「今日は補習授業部の合宿、お掃除した昨日を除けば、大切な初日です! 私たちは大変な状況で、ともすれば慌ててしまいがちですが……難しく考える必要はありません。一週間後の第二次特別学力試験で合格する、ただそれだけです!」

 

 「な、なんでそんなに元気なの……?」

 

 「凄いやる気だ、ヒフミ」

 

 ヒフミは深く頷き、ファイルの中から何枚もの紙を抜き出した。

 

 「という訳で——今から、模擬試験を行います!」

 

 告げると同時に、彼女が掲げた紙には『補習授業部模擬試験』の文字が大きく書かれていた。

 

 「……模擬試験?」

 

 「なるほど……?」

 

 「きゅ、急に試験!? 何で!?」

 

 コハルは顔を青くし、アズサは黙って頷き、ハナコは興味深げに紙を手に取る。

 

 「これは……?」

 

 「ここ数年トリニティで行われた試験問題と、その模範解答です! まだ一部しか集められなかったのですが……銀さんも昨日遅くまで手伝ってくださって、第二次特別学力試験を想定した、ちょっとした模擬試験の様な形に出来ました!」

 

 「おぉ……!」

 

 アズサは広げられた過去問を覗き込み、感心したように声を漏らす。

 

 「試験時間は六十分、百点満点中六十点以上で合格——つまり、本番と一緒です!」

 

 ヒフミは拳を力強く握り締め、勢いよく宣言した。

 

 「さぁ、皆で卒業するために、頑張りましょう!!」

 

 教室に静かな緊張感が漂う。

 銀時が試験問題の束を持ちながら、生徒たちの顔を見渡した。

 

 「さて――お前ら〜、準備は良いか?」

 

 その問いかけに、生徒たちはそれぞれ小さく頷く。模擬試験とはいえ、これが彼らの未来を左右するかもしれない一歩だ。その事実が、場に張り詰めた空気を生んでいた。

 

 銀時は片手で試験問題をポンと軽く叩きながら、ふと土方の方へ視線を向ける。

 

 「机の上は筆記用具だけ、時間は今から一時間――不正行為は生徒不覚悟で切腹だから。ねー土方君?」

 

 「俺もそこまで鬼じゃねぇよ……」

 

 土方が軽く眉を寄せながら溜息をつく。彼の横でエリザベスと桂が、生徒たちの机の上を一つずつ確認しながら歩いていく。机の中に余計なものはないか、カンニングの可能性はないか――それらをしっかりと見極める。

 筆記用具のみが置かれた机の列を見渡し、桂とエリザベスは無言で頷き合った。そして、壁に掛かった時計に目を向ける。

 

 秒針が静かに進み、長針と短針が重なった瞬間――。

 

 「それじゃあ……試験、開始!」

 

 その言葉を合図に、生徒たちは一斉に試験用紙をめくった。

 

 紙の擦れる音、ペン先が走る微かな音が教室に響く。誰もが真剣な表情で、目の前の問題に取り組んでいた。

 

 アズサは問題をじっくりと見つめ、一問ずつ丁寧に解き進める。彼女の目には迷いがなく、淡々とペンを動かしていく。時折、小さく頷く姿は、彼女の中で解答の確信が生まれた瞬間だった。

 

 ハナコは違った。彼女は問題を解きながら、ふわりと笑みを浮かべる。その表情は、まるで楽しんでいるかのようだった。試験であることを忘れているのか、それとも独自の楽しみ方を見つけたのか――それは誰にも分からない。

 

 栗子は時折視線を土方の方へと向けながら、少し落ち着かない様子で問題を解いている。彼女の中で、学力試験よりも"土方に褒められるかどうか"が重要なのかもしれなかった。

 

 そしてコハル。彼女は明らかに苦戦していた。眉間に皺を寄せ、ペンを持つ手を何度も止める。問題と睨み合う時間が長くなり、時折ペンの先で机をトントンと叩く。答えが出てこない苛立ちが、動作の端々に滲み出ていた。

 

 ヒフミもまた、必死に試験用紙と向き合っていた。問題をじっくりと読み、慎重に解答を進める。その表情には余裕はなく、むしろ焦りが微かに見え隠れしていた。何せ、この模擬試験の内容は彼女自身も知らない。昨夜作成されたとはいえ、抜粋された問題がどれなのかは分からないのだ。だからこそ、必死に授業の内容を思い出しながら、白紙を埋めていく。

 

 ――皆さん、頑張りましょう……!

 

 心の中でそう呟きながら、ヒフミはもう一度、目の前の問題用紙に意識を集中させた。

 

 一時間後――試験終了

 

 「時間です! ペンを置いてください!」

 

 エリザベスの宣言と共に、試験が終了した。生徒たちは一斉に息をつき、鉛筆やシャーペンを転がす音があちこちで響く。肩を落とす者、天井を見上げる者、呆然とする者――反応は様々だった。

 

 教卓の前に集められた解答用紙の束を、エリザベスが手早く採点していく。赤ペンの走る音が教室に響き、緊張した空気が続いた。そして数十分後、ついに結果が発表された。

 

 「えー……では、採点結果を発表します」

 

 その声に、生徒たちは一斉に顔を上げる。

 

 「は、はい! お願いします、エリザベス様!」

 

 エリザベスが一枚ずつ採点を終えた用紙を手に取り、結果をプラカードに書いてあげる。

 

 第一次補習授業部模擬試験 結果

 

 ハナコ――四点(不合格)

 アズサ――三十三点(不合格)

 コハル――十五点(不合格)

 栗子――四十一点(不合格)

 ヒフミ――六十八点(合格)

 

 静まり返る教室。誰もが答案用紙を見つめ、思い思いの表情を浮かべていた。

 

 「……そうか」

 

 「えっ……」

 

 「あらまぁ」

 

 「マヨラ13様に褒めてもらえないでござりまする……」

 

 「1人だけ主旨おかしくねぇか?おい」

 

 土方が思わずツッコミを入れるが、栗子は本気で落ち込んでいるようだった。アズサは悔しそうに拳を握り、コハルは信じられないという顔で答案を見つめる。

 

 しかし――ヒフミだけは違った。

 

 彼女は結果を冷静に見つめ、拳を握り締める。その瞳には決意が宿っていた。

 

 「これが現実……今の私達の現実です! このままだと、私達の先に明るい未来はありません……!」

 

 彼女の言葉に、皆がはっとして顔を上げる。

 

 「この状態からあと一週間、皆で六十点を超える為には、残りの時間を効率的に使っていかなければならないのです!」

 

 ヒフミは一度、強く手を叩いた。教室に乾いた音が響く。

 

 「そこで! まず、コハルちゃんとアズサちゃんがどちらも一年生用試験ですので、私とハナコちゃんが、おふたりの勉強内容をお手伝いします!」

 

 ハナコが目を丸くする。

 

 「実はその、一年生の時のハナコちゃんの答案を見つけてしまいまして……! それでハナコちゃんの方については後ほど、今の状態になってしまった原因をしっかり把握した上で、私と銀さんたちと一緒に解決策を探していきましょう!」

 

 ヒフミの言葉に、生徒たちは静かに決意を固める。

 

 「頑張りましょう! きっと、頑張ればどうにか、皆で卒業出来る筈です……ッ!」

 

 その声は、彼女自身に言い聞かせるようでもあった。

 

 

ヒフミの熱意は、確実に皆へと伝わっていた。彼女の真剣な表情と的確な計画に、生徒たちは自然と頷きを返し、その意向に賛同していく。

 

 「――うん、了解、指示に従う」

 「わ、分かった……」

 「ヒフミちゃん、凄いですね……昨晩だけでこんなに準備を」

 

 驚きと尊敬が入り混じった声が上がる。目の前に広げられた資料や試験問題は、昨夜一晩で作成されたものとは思えないほどの完成度だった。まるで長期間をかけて練られた計画書のように、緻密に作り込まれている。その努力に、誰もが感心していた。

 

 ヒフミはその称賛に少し照れながらも、手を振って否定する。

 

 「あ、いえ、私だけの力ではありません、銀さんも手伝って下さったので……」

 

 その言葉に、皆の視線が自然と銀時へと向けられる。

 

 「成程、銀さんも――」

 

 しかし、その場の雰囲気を台無しにするのが彼である。

 

 「そうだぞ〜銀さんが徹夜して頑張って作ってやったんだァ。」

 

 銀時は大きく胸を張り、自慢げに鼻を鳴らした。が、その後の言葉で皆の表情が凍りつく。

 

 「感謝の気持ちは行動で示せというわけでLIN◯で楽でいいバイト見つけたからそこで稼いだ金を俺にーー」

 

 その瞬間だった。

 

 ドガァァンッ!!!

 

 土方、ヒフミ、コハルの三人の飛び蹴りが銀時の顔面を直撃。銀時はまるで空を舞う鳥のように吹っ飛び、派手に床へと転がる。

 

 「闇バイトッ!!」

 

 土方が怒号を響かせながら銀時の胸ぐらを掴む。

 

 「テメェ!教師ともあろう奴が生徒を闇バイトに誘う奴があるか!!」

 

 ヒフミも拳を震わせながら睨みつける。その瞳は、今まで見せたことのない怒りに満ちていた。

 

 「私たちにどんな対価求めてるんですか!!普通先生って成績という名の対価を求めるんじゃないですか!?」

 

 コハルも恐怖と怒りが入り混じった表情で、銀時を指差す。

 

 「闇バイトって何!?まさか…身売りされてあんなことやこんなこと……」

 

 ハナコがそんなコハルを横から見つめ、首を傾げた。

 

 「コハルちゃんわかってないならなんで飛び蹴りしたんですか?」

 

 土方は頭を抱えながら、銀時を睨みつけたまま携帯を取り出す。

 

 「とにかく、コイツは間違いなく犯罪に手を染めた。現行犯逮捕だ近藤さん」

 

 その言葉に、銀時は両手を振りながら必死に弁解する。

 

 「待て待て!これは安全な奴だから!本気で楽に稼げるから!!」

 

 だが、土方は鋭い眼光を向け、鼻で笑った。

 

 「そうやって騙された奴が何人もいるんだよ!!ミャンマーでしごかれてこい!!騙されたやつに変わってしごかれてこい!」

 

 沖田がタブレットを手に取り、画面をスクロールしながら軽く肩をすくめる。

 

 「総悟、そのメール改めておけ」

 

 「はいはい」

 

 画面に映し出されたメールの内容を眺め、

 

タブレットの画面には

 

      何か困り事のようだな・・・

 

だが君の苦しみも俺の手にかかればたやすく解決できることを約束しよう。

 

 

 

沖田は特に気にする様子もなく報告する。

 

 

 

 「別に変なこと書いてませんぜ?」

 

 アズサも覗き込み、首を傾げる。

 

 「ホントだ」

 

 栗子も隣で頷く。

 

 「普通のメールに感じるでござりまするが?」

 

 しかし、土方だけは警戒を解かなかった。

 

 「馬鹿だな、こういう何の問題も無さそうな奴に限って碌でもねぇメールだったりすんだよ。続きを読んでいくぞ」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

攘夷志士になり一緒に幸せになりませんか?

         驚異の幸福論

        攘夷志士幸福法

 

       実際に志士になって

        幸せを掴んだ

     主婦Eさんの声が届いています

 

最初はこんなにも簡単に攘夷ができるなんて思ってもいませんでした。

 

あなたの攘夷。諦めないで〜

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 画面に映る怪しげな文面を読み進めるうちに、ヒフミの顔色が変わる。そして、次の瞬間――。

 

突然 スッ と何かが掲げられた。

 

 ――『攘夷志士幸福法、興味アリマセンカ?』

 

 シュバァッ!

 

 一同の視線が、一斉にそのプラカードを持つ者へと向く。

 

 「……エリザベス様……?」

 

 ヒフミが困惑したように目を瞬かせる。白くて丸っこい生き物――エリザベスは、涼しい顔(?)で次のプラカードを掲げた。

 

 ――『攘夷志士、今なら初回無料!』

 

 

ハナコが感心したように頷いた。

 

 「エリザベスさんも副業してるんですね……」

 

 「副業じゃないですってただの迷惑メール製造ですからねコレ!!」

 

 ヒフミが即座にツッコミを入れ、再びエリザベスのプラカードに目を向ける。すると、いつの間にか新しいプラカードが用意されていた。

 

 ――『この話を詳しく知りたい方は、桂までご連絡ください』

 

 「お前かぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 今度は全員の怒号が響いた。

 

 バァン!!

 

土方が即座に机を叩き、鋭い視線を向ける。

 

 「お前、どういうつもりだコラ! 攘夷志士勧誘のメールなんて送りつけやがって!」

 

 「何のことだ?」

 

 桂はしれっとした表情を崩さず、腕を組む。

 

 「俺はただ、より多くの者に攘夷の素晴らしさを知ってもらおうと――」

 

 「それを『迷惑メール』って言うんですよ!!」

 

 ヒフミが再びツッコむ。

 

 「そもそも攘夷志士になって幸せになれるわけないでしょ!?」

 

 「そんなことはないぞ」

 

 桂は悠然と胸を張り、堂々と語る。

 

 「実際に攘夷志士となったことで、人生が豊かになった者も多い。例えば俺だ」

 

 「どこが豊かになってんですか!!!」

 

 ヒフミが髪をかきむしる。

 

 「あなた、何回捕まってると思ってんですか!? 攘夷活動するたびにお縄になって、全然幸せそうじゃないじゃないですか!!」

 

 桂は眉をひそめ、腕を組んで考え込む。

 

 「……確かに、よく捕まるな」

 

 「気づくのおそすぎるんですよ!!」

 

 沖田がニヤリと笑いながら桂の肩を叩く。

 

 「ま、せっかくですし、今ここでまた捕まってもらいましょうか。攘夷志士勧誘罪で」

 

「ははは!残念だったな!そんな罪はないから捕まえることなぞ出来ないぞ!」

 

 桂の叫びが響き渡る中、エリザベスはまた新たなプラカードを掲げる。

 

 ――『みんなで攘夷すれば怖くないよ?』

 

 「誰がするんですか!というかもうあなたたちもう世直しするつもりないいでしょ!!」

 

「ま、まぁ桂さんたちは置いとくとして……」

 

 場の空気を切り替えようと、ヒフミが咳払いをしつつ話を切り出した。

 

「さすがに勉強漬けばかりだと、モチベーションも上がらないと思いまして――何と、御褒美も用意しちゃいました!」

 

「ご、御褒美……?」

 

 コハルが不安げに目を瞬かせると、周囲の皆も興味を示し、ヒフミの言葉に耳を傾けた。

 

「はい! えっと――」

 

 そう言うや否や、ヒフミはくるりと踵を返し、教室の外へと足早に出て行った。残されたメンバーは、一体何が始まるのかと顔を見合わせる。

 

 そして数十秒後。

 

 ドン!

 

 突如、巨大な包みを背負ったヒフミが教室の扉をくぐり、満面の笑みを浮かべながら戻ってきた。その姿は、まるでクリスマスにプレゼントを抱えてやって来たサンタクロースのよう。だが、その背負う包みは尋常ではないほどのボリュームで、教室の扉を通る際に一瞬引っかかるほどだった。

 

「な、なんだあのデカさ……」

 

「……っ!」

 

 ヒフミがズシンと重たそうに教卓の上へ包みを降ろすと、期待と不安が入り混じった表情で生徒たちが見守る。

 

 バサッ!

 

 包みが一気に解かれると、中から現れたのは――。

 

「こちらです!」

 

 大量のぬいぐるみ。

 

 だが、それはただのぬいぐるみではなかった。

 

 黒い頭巾をかぶった髑髏仮面のような巨大ぬいぐるみ。

 クッキーのような顔をした犬。

 目が異様に大きく不気味な猫。

 水色のファンキーな梟。

 アイスクリームに窒息させられたかのような奇妙な鳥。

 そして、白目を剥きながら眼鏡をかけた、見るからに常識を逸脱した鳥のぬいぐるみ――。

 

 個性という言葉では済まされないほどの奇抜なキャラクターたちが、無造作に山積みにされる。

 

 「…………」

 

 その圧倒的なインパクトに、一同は沈黙。誰もが言葉を失い、絶妙な表情でそれらを見つめていた。

 

 だが、それらを持ち込んだ張本人であるヒフミは、満面の笑みを浮かべ、心の底から楽しそうだった。

 

「どうですか? 凄いでしょう! 良い成績を出せた方には、何と! この『モモフレンズ』のグッズをプレゼントしちゃいます!」

 

「……モモフレンズ?」

 

「……何それ?」

 

「……っ!」

 

「うわっでござりまする……」

 

 無情にも響き渡る冷めた反応。ヒフミは、てっきり歓声が上がると信じて疑わなかったため、その予想外の空気に思わず表情を引きつらせた。

 

「――あ、あれ……? 最近流行りの、あの『モモフレンズ』ですが……もしかして、御存知ないですか?」

 

 半ば信じられないという様子で、周囲の顔を見回すヒフミ。

 

 対するハナコは、ぬいぐるみの一つをしげしげと見つめながら、首を捻った。

 

「初めて見ましたね……いえ、どこかでちらっと見たような気も……」

 

「なんでござりまするか? その……謎の生物はーー」

 

 栗子が訝しげに言うと、アズサも恐る恐る手を伸ばし、ぬいぐるみをつつく。

 

 「なにこれ、変なの……豚? それともカバ……?」

 

 「ち、違います! ペロロ様は鳥です! 見て下さい、この立派な羽! そして凛々しいくちばし!」

 

 ヒフミが力説しながら、最も奇抜なぬいぐるみ――目が焦点の定まらない異様な鳥のぬいぐるみを手に持ち、誇らしげに掲げる。

 

 しかし、それを見た沖田は、鼻で笑いながらつぶやいた。

 

「いや、どう見ても薬キメてイッてる目をしたカバの間違いーー」

 

 ドドドドド!!

 

 突如、銃声が響き渡った。

 

 バァン! バァン! バァン!

 

 沖田の身体が吹き飛び、床へと転がる。

 

 「ぐはっ!!」

 

 「総悟ォォォ!!」

 

 土方が絶叫する。

 

 立っていたのは――ヒフミ。

 

 なおも銃口を煙らせながら、ゆっくりと冷徹な眼差しを向けていた。

 

 「そこの分からずやにもわかるように説明してあげます。」

 

 ヒフミは淡々と語りながら、銃をクルクルと回し、静かにホルスターへ収めた。

 

 土方は怒り心頭でヒフミを指差し、声を荒げる。

 

 「いや、分からずやはお前なんだけど!? ただ単にテメェの趣味の押し付けしてるだけじゃねぇか!!」

 

 「ペロロ様はその昔、舌を出して涎を垂らしながら、もう許して……っ! と泣き叫ぶキャラクターだったとか……?」

 

 「えっ、いえ!? 後半部分は色々と違いますよ!?」

 

 慌てるアズサだったが、土方は冷めた目で即座にツッコミを入れる。

 

 「いや、最初から最後まで完全に薬中だったけど? 完全に幻覚に怯える薬中鳥だったよ?それ」

 

 「ヒフミちゃん、流石にそれはーー」

 

 近藤が諭そうとした瞬間。

 

 「わ、私は要らない……っ!」

 

 コハルが恐怖に満ちた表情で一歩後ずさる。

 

 「私もいらないでござりまする」

 

 栗子も続いた。

 

 「あ、あうぅ……」

 

 ヒフミの顔が一瞬固まる。

 

 ――かつてないほどの衝撃を受けた表情だった。

 

 こうして、ヒフミによるモモフレンズ布教活動は、開始早々にして存亡の危機を迎えることとなった。

 

「あ、アズサちゃんはどうでしょう……? か、可愛いと思いませんか、モモフレンズ!」

 

 ヒフミはまるで最後の希望にすがるかのように、必死の形相でアズサへと問いかけた。

 

 土方が呆れ顔で口を挟もうとする。

 

「おい、お前、いい加減にーー」

 

 その瞬間だった。

 

「……か」

 

「……か?」

 

 アズサの肩が微かに震えたかと思うと、彼女は突如、両手を強く握り締め、俯いたまま震えながら叫んだ。

 

「可愛い……!」

 

「えぇぇぇぇ!!!!」

 

 教室中に響き渡る絶叫。

 

 その場の誰もが耳を疑い、言葉を失う中、アズサはまるで何かに取り憑かれたかのように机の上のぬいぐるみに駆け寄った。

 

「あ、あわわ……!」

 

 目を輝かせながら、戸惑い気味にぬいぐるみに手を伸ばしては引っ込め、引っ込めては伸ばし――。その姿はまるで神の恩寵に触れるかのような崇拝者のそれだった。

 

「か、可愛すぎる……! この丸くてふわふわしたフォルム……!? 表情が読めなくて、何を考えているのか全く分からない目! まさにエリザベスと同じ!!」

 

 完全に興奮状態のアズサ。

 

 「ア、アズサちゃん……?」

 

 ハナコが恐る恐る声をかけるが、アズサの耳にはもう届いていなかった。

 

 土方の心の声

(おい!どうなってんだお前の生徒! あの薬中鳥に完全にメロメロじゃねぇか!!)

 

 銀時の心の声

(知るかァァァァァ!! あいつらの趣味まで俺が知るわけねぇだろォォォ!!)

 

 土方の心の声

(知らねぇってなんだよ!? お前の生徒だろ!? 生徒を正しい道に導くのがお前らの仕事だろうが腐れ天パ!!)

 

 銀時の心の声

(それをいうなら、さっさと拘束して児童相談所に連れて行って更生させるのがお前の仕事だろうが! 税金泥棒ども!!)

 

 ――と、心の中で壮絶な罵り合いが繰り広げられている最中、ヒフミはというと――。

 

 先ほどまでの焦燥が嘘のように、瞳を輝かせていた。

 

「でっ――ですよねぇ!? 流石はアズサちゃん! ペロロ様の可愛さに気付いてくれるなんて! そうです! そういうところが可愛いんです!」

 

 エリザベスのプラカードが掲げられる。

 

『まだまだあるペロ』

 

 「こ、こっちは? この長いイモリ……いや、キリン? 何だか首に巻いたら暖かそうな……!」

 

 「それはウェーブキャットさんです! いつもウェーブして踊っている猫なのですが、仰る通り最近、ネックピローのグッズが――」

 

 「こっ、これは!? この小さいのは!?」

 

 「それはMr.ニコライさんです! いつも哲学的なことを云って不思議な目で見られてしまう方ですね! 今回の御褒美の一つとして、そのニコライさんが書いた『善悪の彼方』という本もあるんですよ、それも初版!」

 

 「す、すごい、すごい……! これを貰えるのか? ま、まさか、選んでも良いのか!?」

 

 「はい! アズサちゃんが欲しいものを持って行って下さい!」

 

 土方の心の声

(ヤバイィィィィ!! 話がどんどん進んでくゥゥゥ!!)

 

 銀時の心の声

(テロリストの特殊性癖がどんどん構成されていってるゥゥゥ!!)

 

 もう手遅れだった。

 

 アズサは完全にモモフレンズの魔力に飲まれ、次々とぬいぐるみを抱え込んでいく。

 

 「あらあら」

 

 ハナコが穏やかに微笑みながら見守る中――

 

 「な、何なの……」

 

 「理解出来ないでございまする。」

 

 コハルと栗子は戦慄を隠せずにいた。

 

 だが、そんなことはもうどうでもいい。

 

 アズサは熱に浮かされたかのように、机の上のペロロ人形を前に拳を固く握る。

 

「……やむを得ない、全力を出すとしよう」

 

 その瞳には、決意と覚悟、そして異様なまでの情熱が宿っていた。

 

 ペロロ人形の山を見つめ、アズサは遂に宣言する――。

 

「良いモチベーション管理だ、ヒフミ」

 

 彼女は静かに息を整え、そして高らかに宣言する。

 

「約束する、必ずや任務を果たし、あの不思議でふわふわした動物を手に入れてみせるッ!」

 

 桂の目が輝いた。

 

「うむ、その息だぞ! アズサ殿!」

 

 エリザベスもプラカードを掲げる。

 

『ファイトペロー!』

 

「はいっ! ファイトです、アズサちゃん! えへ、えへへへへっ……!」

 

 ヒフミの笑みが深まる。

 

 その表情は、まるでペロロ人形そのもののように陶酔しきっていた。

 

「あら、何だかヒフミちゃんが楽しそうに……と云いますか、あのお人形と同じような表情に……♡」

 

「モモフレ仲間が増えて喜んでるの?」

 

 ハナコが微笑ましげに問いかけるが、銀時と土方は全く別のことを考えていた。

 

銀時の心の声

(今まで本気じゃなかったんかいィィィィ!!)

 

(もっと前から本気出せよォォォ!!何が「やる気が出た」だ! 薬キメてやる気出す完全にダメな奴になるよアレ! 行けない道を進み出すよアレェェェ!!)

 

 土方は事態の深刻さを悟り、険しい表情で拳銃に手をかける。

 

「今のうちに止めねぇとヤバイ事になる……これはもう薬物取り締まり法違反で逮捕か!?」

 

 だが、その瞬間、近藤がすっと手を挙げた。

 

「やめろ、トシ。」

 

 「近藤さん……?」

 

 「いいか、トシ。あんなに楽しそうに笑ってるガキの顔を見たか?」

 

 「……見ましたけど……」

 

 「それを奪うってのは、いかがなものかと思うぞ、俺ァ。」

 

 土方は目を見開いた。

 

 教室の中では、ヒフミとアズサがペロロ人形を前に手を取り合い、まるで同志のように語り合っている。

 

 ――たしかに、その表情は間違いなく『楽しんでいる子ども』のものだった。

 

「もし、道を踏み外したなら、その時は償えばいい。それを手助けしてやるのが、俺たちの仕事だろ。」

 

 銀時は目を丸くし、しばし近藤を見つめた後、苦笑しながら肩をすくめる。

 

「ゴリラお前………たまにはまともなこと言うじゃねぇか。」

 

 近藤は腕を組みながら満足げに頷く。

 

 しかし――。

 

 その空気をぶち壊すように、一人の男が立ち上がった。

 

沖田総悟だった。

 

「しかしですぜ、局長。」

 

 沖田はニヤリと笑いながら、教壇へと足を進める。

 

「プレゼントがあるからこそ、やる気が出るもんでさぁ。逆に、何もねぇと虚しさ全開になるってもんですぜ?」

 

「確かにな!」

 

 近藤は即座に同意するが、銀時は眉をひそめる。

 

「……何か案でもあんのかよ?」

 

 沖田はゆっくりと口の端を吊り上げた。

 

「まぁ、任せてくだせぇ。」

 

 「ちょっ待ーー」

 

 土方が何かを察して止めようとするも、時すでに遅し。

 

沖田は教壇の上に乗り、生徒たちへと向き直った。

 

「皆さ〜ん。」

 

 教室の中に、ぞくりとするような不穏な空気が流れる。

 

「プレゼントも何もねぇ、虚しさ全開の生徒は聞きな。」

 

 静寂が訪れ、皆が彼の次の言葉を待つ。

 

 沖田は一呼吸置いた後――。

 

「もし、これからのテストで30点未満でも取ろうもんならーー」

 

「俺のドSコースを味わってもらうんで……」

 

 教室が凍りついた。

 

 静寂の中、沖田総悟は悠然と手元の紙を掲げる。

 

「メニューはこちら。」

 

 彼が軽く紙を振ると、それがまるで死刑宣告の書類のように、静かに音を立てた。

 

 その表に並んだのは、凶悪な単語の数々――まるで悪魔の宴のプログラムだ。

 

・Sコース:鉄の杭責め

・Aコース:逆さ吊り&ムチ打ち

・Bコース:三角木馬の刑

・Cコース:ロウソク責め

・Dコース:拷問室フルセット

 

「Dコース、Eコースなどもご用意しておりますので、お好きな方をどうぞォ。」

 

 にこやかな口調とは裏腹に、その声は不吉な鐘の音のように響く。

 

 コハルは青ざめた。

 

「な!?」

 

 ハナコは冷静に、だがどこか微笑ましげにその様子を眺める。

 

「あらあら……」

 

 土方の心の中に雷鳴が轟く。

 

(やっちまったァァァァァ!!)

 

 銀時も戦慄し、内心で絶叫する。

 

(完全にやりやがった!完全にやりやがったぞアイツゥゥゥ!!)

 

 そして銀時は、すぐに悟った。

 

 ――この男、もう止まらない。

 

「まずいぞアイツ。この教室を自分の養豚場に作り変えるつもりだ。」

 

「ああ、このままじゃ本当に取り返しがつかない事になるぞ。」

 

 二人が焦燥に駆られる中、コハルが勇敢にも声を上げる。

 

「何言ってるの!Hなのはダメ!死刑!」

 

 しかし、その言葉が届くことはなかった。

 

 沖田がゆっくりと首を傾げ、冷たい笑みを浮かべる。

 

「おいおい、補習最優先の生徒が何言ってるのかな?」

 

「え?」

 

 コハルが一瞬、何を言われたのか理解できずに瞬きをする。

 

 その隙を突くように、沖田はじりじりと彼女へ歩み寄る。

 

「今のお前には俺を死刑する権利はおろか、拒否する権利すらねぇ。」

 

 彼はまるで獲物を追い詰める捕食者のように笑い、低く囁いた。

 

「今のお前は、ただの豚に過ぎないんだよ。」

 

 コハルの身体がビクリと震える。

 

「ヒッ!」

 

 銀時の内心に、再び警鐘が鳴り響く。

 

(やってるゥゥゥ!!完全にスイッチ入ってるゥゥゥ!!)

 

 土方も、もはやどうしようもないことを悟っていた。

 

(止められねぇ……ああなった総悟はもう止められねぇ!!)

 

 しかし、沖田の狂気はまだ終わらない。

 

 彼は目を細め、冷静な表情で言葉を紡ぐ。

 

「ちなみに俺はこん中だと、どれもピンとこねぇけど……強いて言うなら、お前が一番だな。」

 

「え?」

 

 コハルは、沖田の言葉の意味を理解できずに目を瞬かせた。

 

 だが、次の瞬間。

 

 沖田は、まるで研究対象を分析する科学者のように、淡々とした口調で続けた。

 

「お前みたいなプライドの高いタイプの方が、かえって調教しやすいんだよ。」

 

「な……!?」

 

「自尊心を一度へし折ってやれば、中身は普通の奴よりもろい。ガードしてる奴ほど堕ちるトコまで堕ちるんでな。」

 

 コハルはガタガタと震え、視線を彷徨わせる。

 

 銀時と土方はもう何も言えなかった。

 

 しかし――その時だった。

 

「ブォオオオオ!!!」

 

 突然、教室の隅から獣じみた鳴き声が響く。

 

 全員がギョッとして振り向くと、そこには――

 

 豚がいた。

 

 二匹もいた。

 

 その一匹は、明らかに近藤勲だった。

 

 白いワイシャツのボタンをはち切れんばかりに外し、ズボンのベルトも投げ捨て、四つん這いになっている。顔には謎の泥が塗られ、鼻には即席のリングがかかっていた。

 

「ブォオオオ!!!」

 

 もう一匹――いや、一人。

 

 ハナコだった。

 

 彼女もまた、制服のスカートを腰までたくし上げ、膝をつき、豚のポーズをとっている。

 

「ふふっ……ブヒ♡」

 

 銀時と土方は、もう限界だった。

 

「ブヒィィィィィ!?!?」

 

「何やってんだお前らァァァァァ!!!」

 

 銀時が叫び、土方が頭を抱える。

 

 だが、近藤は誇らしげに鼻を鳴らし、胸を張った。

 

「分かったんだ……!」

 

「何がだよ!?」

 

 近藤は真剣な表情で、豚鼻をヒクヒクさせる。

 

「勉強に必要なのは、競争心……!」

 

「いや、何言ってんだこの豚……」

 

「だから俺は、まずは形から入ることにしたんだ!」

 

 近藤は四つん這いのまま、ズルズルと前進する。

 

「ブヒブヒ! 俺が一番の豚だ! 負けないぞ、ハナコちゃん!」

 

「ふふっ、私も負けません♡」

 

 ハナコは照れ臭そうにしながらも、しっかりと四つん這いを続けていた。

 

 銀時は目を逸らし、土方は天を仰いだ。

 

 その光景を見つめていた沖田は、満足げに頷き――。

 

「良い豚が揃ってるじゃねぇか。」

 

 その場にいる全員の運命が、何か取り返しのつかない方向へ進み始めたことだけは、誰の目にも明らかだった。

 

銀時と土方は、ほぼ放心状態だった。

 

「……おい、これはもうダメだろ……」

「……ああ、どう考えてもダメだ……」

 

 二人は肩を落とし、同時に深いため息をついた。

 

 このままでは、この教室が沖田の養豚場になってしまう。

 いや、それどころか、いずれ街全体が豚の巣窟になるかもしれない――。

 

 止めるしかない。今ここで。

 

 土方は腹を括った。

 

「銀時……ここは協力するぞ。」

「……チッ、仕方ねぇな。」

 

 二人は同時に前へと進み出る。

 その様子を見て、沖田はニヤリと笑った。

 

「おやおや、副長に銀さん。まさか俺の調教に文句でも?」

 

 背後で近藤とハナコがブヒブヒと鳴く。

 

「ブヒッ!」

「ブヒブヒ♡」

 

 ヤバい。

 

 このままでは完全に豚として完成してしまう。

 

 土方は意を決して、強く叫んだ。

 

「沖田ァァァァ!! いい加減にしろ!!」

 

 しかし、沖田は余裕の笑みを崩さない。

 

「へぇ、副長がそんな大声出すなんて、珍しいですねぇ。そんなにブタになるのが嫌なんですかい?」

 

「当たり前だァァァ!!」

 

「でも、近藤さんなんて、もう完全に豚ですよ?」

 

 沖田は近藤に視線を向ける。

 

その間も、近藤の**「ブヒィ……ブヒィ……!」**という鼻息は荒く、今にも完全な豚へと堕ちようとしていた。

 

銀時は顔をしかめ、口元に手を当てた。

 

「……ヤバいな、あのゴリラ、いや、もう豚ゴリラは臨界点突破してやがる。今のうちにどうにかしねぇと、完全に『家畜』になっちまうぞ……!」

 

土方も額に汗を浮かべながら、険しい表情を作る。

 

「……だから、何か手を打とうとしてんだろうが……!!」

 

そして彼は再び、愛しき黄金色の液体を見つめた。

 

マヨネーズ――それは彼にとって、神聖なる聖水であり、絶対の信仰対象。

 

そして、全ての物事を正しき方向へと導く万能の奇跡の雫である。

 

彼は信じていた。

 

「これを見れば、近藤さんはきっと……人間に戻る!!」

 

だが――。

 

「ねーよバァァァァァァカ!!!」

 

銀時は立ち上がると、勢いよく土方の襟首を掴んだ。

 

「どう考えても、その液体で目覚めるのは、お前のクソマヨ脳だけだろうがァァ!!!」

 

「チッ……」

 

土方は舌打ちをしながら、懐にマヨボトルをしまう。

 

「なら、テメェはどうするってんだよ?」

 

銀時は堂々と胸を張り、満面の自信を浮かべながら言い放つ。

 

「それはもちろん……バナナでーー」

 

土方の拳が握られる音がした。

 

「……」

 

その手は怒りに震え、静かに、だが確実に力を溜めていく。

 

「……おい、……」

 

「ん?」

 

「ゴリラじゃねぇって言ってんだろう!!!!」

 

ドゴォォォォォ!!!

 

鉄拳が炸裂する。

 

銀時の顔面が大きく歪み、そのまま床に沈んだ。

 

「ぐ……っ……だってよォ……ゴリラにはバナナだろ……?」

 

「そういう問題じゃねぇんだよ!!! いい加減まともな案出せや!!! てめぇ、このまま俺のストレス解消用サンドバッグになりてぇのか!?」

 

「お前こそ、マヨで何とかしようとしてた時点で大差ねぇだろ……!」

 

「はァ!? 俺のはまだ理屈が通ってんだよ!! マヨネーズは栄養価が高く、エネルギー補給に最適だから――」

 

「いや、お前は何でマヨのプレゼン始めてんだよ!!!」

 

その時だった。

 

沖田が眉をひそめながら、一歩前に出る。

 

「おやぁ、お二人さん……そんなもんで、この養豚場から逃げられると?」

 

銀時と土方は、一斉に振り返る。

 

「まだだ……!!」

 

土方は歯を食いしばりながら、もう一度懐に手を突っ込む。

 

そこから取り出したのは――

 

「お妙の写真」

 

「近藤さん……目を覚ませ!!!」

 

 その瞬間、近藤の鼻息が荒くなった。

 

「ブヒィィィィィ!?!?」

 

 ――しかも最新の。

 

 美しく着飾ったお妙が、微笑んでこちらを見つめている。

 背景は花畑、風に揺れる髪……まるで天使のような姿だ。

 

 その瞬間、近藤の鼻息が変わった。

 

「……ブヒ?」

 

 その豚鼻がヒクヒクと動き、目の焦点が戻っていく。

 

「お……お妙さん……?」

 

「そうそう、ゴリラの大好きなお妙さんですよぉ~?」

 

 銀時はゆっくりと写真を近藤の前に差し出す。

 その瞳には、まだわずかに豚の残滓が残っていた。

 

 しかし――。

 

「お妙さんッ!!!」

 

 バッ!!!

 

 近藤はその場で跳ね起き、

 

 四つん這いの姿勢のまま、顔を上げ、涙を流す。

 

「俺は……俺は豚なんかじゃねぇ愛のストーカーだ!!!」

 

 銀時はガッツポーズをした。

 

「よっしゃァァァァァ!!!」

 

 沖田が舌打ちする。

 

「ちっ、仕方ねぇですねぇ……まぁ、近藤さんは豚にしても手間がかかるんで、別にいいですけど。」

 

 だが、問題はまだ一つ残っていた。

 

 ハナコだ。

 

 彼女は、未だに四つん這いのまま、妖艶な笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ……ブヒ♡」

 

 その視線はまだ沖田に向けられている。

 

 しかし――。

 

 銀時が一歩前に出た。

 

「おい、ハナコ。そろそろやめとけ。」

 

 ハナコはクスクスと笑う。

 

「ふふっ、やめる? 私が?」

 

「……お前、もう分かってんだろ。」

 

 ハナコの笑みがピタリと止まる。

 

「お前がやりたいのは、ただの遊びだ。」

 

「……」

 

「けどな、こんなもんに本気になったら、ただの変態になっちまうぞ。」

 

 銀時の言葉に、ハナコの瞳が揺れる。

 

 しばらく沈黙が続いた後――。

 

 ハナコは、ゆっくりと立ち上がった。

 

 そして、ポンポンとスカートについた埃を払うと、ニコリと笑った。

 

「……まぁ、そろそろ飽きたし、戻りますか♡」

 

 自然すぎる撤退だった。

 

 そのまま席へ戻るハナコ。

 まるで最初から何もなかったかのように、涼しい顔で教科書を開く。

 

 土方と銀時は、同時に肩を落とした。

 

「……あの女、何だったんだよ……」

「さぁな……」

 

 こうして、沖田の養豚場は崩壊した。

 

 しかし、教室に残ったのは、深すぎる爪痕だった。

 

 未だ震えているコハル。

 未だにペロロ化が止まらないヒフミ。

 そして――何かに目覚めかけたアズサ。

 

 銀時と土方は、遠い目をしながら同時に呟いた。

 

「……もう、レクレーションは懲り懲りだ」

 

 こうして午前の授業は終了した。




次回 

アズサ「ここのところ教えて欲しいんだが……」

コハル「あーそこね。それについて説明してた参考書がーー」

「これ!!ってえぇぇぇ!!」

銀時「おいおい、なんですか?これ、完全に夜の参考書だよね?それ、今から予行演習ですか?コノヤロー」

次回 Hな本はネットでも見られる時代になったからってどこでも読むもんじゃありません!!

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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