透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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銀さんからのお願い部屋を明るくして画面から目を離し、正しい姿勢で読むんだぞォォォォォォ!!

銀八先生からのお願い、最近暇してま〜す。なんか欲しいです。


第八十ニ訓 Hな本はネットでも見られる時代になったからってどこでも読むもんじゃありません!!

第二次特別学力試験。

 それは補習授業部の面々にとって、避けては通れぬ戦場である。

 

 そして今――その戦いにリベンジを果たすべく、補習メンバーたちは放課後になっても黙々と勉学に励んでいた。

 

 教室の空気は、真剣そのもの。

 

 そんな中、不意にアズサが口を開く。

 

「コハル、質問。」

 

「うん……――え? 私? 私にっ!?」

 

 突然の呼びかけに、コハルは驚愕する。

 まさか自分に質問が飛んでくるとは思わず、思わず目を丸くしてしまった。

 

「そう、コハルに。」

 

 アズサは淡々と頷き、さらりと言葉を続ける。

 

「今、同じところを勉強しているはずだから、それで、この問題なんだけれど……」

 

「う、うん……」

 

 恐る恐るアズサの差し出す問題集を覗き込むコハル。

 一度解いた問題にはチェックマークが付いており、それがない最新の問題に目を落とす。

 

(わ、私に解ける問題……?)

 

 頼られた嬉しさと、もし分からなかったらどうしようという不安。

 それらが入り混じった複雑な感情が、コハルの表情に滲む。

 

 しかし――。

 

「……あ、これ知ってる!」

 

 瞬間、コハルの顔がパッと明るくなる。

 

「これは確か、えぇっと、こうやって、下の所と九十度になるように、線を引いて――」

 

 それはつい数時間前に自分が解いたばかりの問題だった。

 コハルは得意げに自身のノートを取り出し、図を描きながら説明を始める。

 

「そうすると、この三角形と、この三角形が一緒になるから……分かった?」

 

「……なるほど、そういうことか。理解した。」

 

 アズサはじっとコハルの手元を見つめながら、二度、三度頷く。

 そして、感心した様子で視線を上げると、静かに言葉を紡いだ。

 

「助かった。これは確かに、正義実現委員会のエリートというのも頷ける。」

 

「ッ!? そ、そうよ! エリートだもの!」

 

 コハルの頬がピクリと動く。

 そしてピンと背筋を伸ばし、胸を張る。

 

(アズサに褒められた……!)

 

 その瞬間、コハルの心の中で何かが弾けた。

 久しく感じることのなかった自尊心の高揚。

 これほど気分が良いことがあっただろうか。

 

 ――そう、エリートに相応しい振る舞いをしなくては。

 

「……も、もし何か分からないところがあったら、私に聞いても良いから!」

 

 咳払いをしながら、得意げに言葉を続ける。

 

「アズサは、その、特別にね!」

 

「ありがとう、助かる。」

 

 アズサはコハルの申し出を素直に受け入れ、静かに頷く。

 

 ――その瞬間だった。

 

「あらあら……流石は裸の付き合いをしただけはあると云いますか、もう深いところまで入った仲なのですね……♡」

 

「ちょ、何言ってんの!? そういうアレじゃないから!?」

 

 ハナコが突然、爆弾を投下した。

 

 コハルの顔が一気に赤くなる。

 

 

銀時はニヤリと悪い笑みを浮かべ、肩をすくめながらハナコに同調するような口ぶりで言った。

 

「あぁ~、確かに、風呂で洗いっこまでした仲なら、もう何があってもおかしくねぇよ」

 

「だから何言ってんのよ!? そもそもあれはそういうんじゃなくて――!!」

 

コハルは顔を真っ赤にしながら、必死に否定しようとするが、ハナコはそんな彼女をじっと見つめ、頷く。

 

「いえ、これは事実……。お互いの身体を隅々まで洗い流し、全てを曝け出した関係……。もはや魂レベルで繋がっているのです……♡」

 

「魂レベルで繋がってないわよ!! っていうか、なんでそんなエロゲのヒロインみたいな台詞言ってんのよ!?」

 

コハルが顔を真っ赤にしてジタバタと抗議するが、ハナコはどこ吹く風とばかりに神妙な顔をする。

 

「でも、アズサちゃん……確かに今朝、お風呂であんなにコハルちゃんを丁寧に……くすくす♡」

 

「ほぉ~、女の子2人で体を洗いっこねぇ……? これはもう、完全にR18案件だな」

 

銀時が口元を歪ませながら、わざと意味深に声を低くする。

 

「なっ……!? そ、そんなこと言うな!!」

 

アズサは動揺したのか、普段のクールさをかなぐり捨てて思わずガスマスクをずり上げる。しかし、その顔はほんのり赤く染まり、否定する言葉が出てこない。

 

「ほぉほぉ……そんじゃ、具体的にどんな風に『洗いっこ』したのか、聞かせてもらおうか?」

 

銀時は腕を組み、ニヤニヤしながら詰め寄る。

 

「たとえば~……コハルの体の老廃物を優しく流して……」

 

「ち、違うわよ!!」

 

「そんで、シャンプーを泡立てて……こう、指先を絡ませながら、隅々をゆっくりと……」

 

「やめてぇぇぇぇぇ!!!」

 

「そして、何より大事なのが――成長途中のお胸のケアなわけで?」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

コハルの顔が沸騰するかのように真っ赤になり後ずさる。

 

「えぇ……私、しっかり見ましたよ。アズサさんが、コハルさんの身体を丁寧に……指の先まで、しっかりと……♡」

 

ハナコがトドメとばかりにウットリとした目でそう囁く。

 

「ま、まぁ、百合百合しいのは青春の醍醐味だからな。俺は応援するからさ」

 

銀時が深刻そうな調子で肩をすくめると、コハルはガクガク震えながら、叫んだ。

 

「もうやだこの人たちぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 

 

「あ、コハル、もう一つ聞きたい」

 

「ん? あ、うん、えっと――この問題は……う、うーん」

 

 アズサが先程の問題集を再び差し出し、次の問題を指差す。コハルはその問題に目を向け、思わず言葉に詰まった。ぱっと見だと少々難しい、けれど確か似たような問題が記憶の片隅に引っ掛かっている。

 

「むっ、コハルも知らない問題か?」

「うーんと、これ、確か参考書で見たような……ちょ、ちょっと待って!」

 

 告げ、コハルは自身の机脇に引っ掛けていた鞄を掴む。金具を外し、中に手を入れたコハルは手探りで目当ての参考書を引っ張り出した。

 

「確か持って来ていた筈だから……んしょ、確かこれの――」

 

 告げ、机の上に置いた参考書――否、十八禁本アダルト本。

 

「?」

「!」

「!?」

 

 それを見た皆の反応はそれぞれであった。アズサは小首を傾げ、「うん? 見た事のない表紙の参考書だ」とばかりに疑問符を浮べ。

 ヒフミはそれが一体何なのか、凡その内容を察して赤面し。

 ハナコはまさかこんな所でそんなものを目に出来るなんてと、興奮に別の意味で顔を赤らめた。

 アズサは机の上に置かれた参考書エロ本を指差し、問いかける。

 

「コハル、この参考書に載っているのか?」

「え、うん、この参考書――………に」

 

 告げ、コハルはそっと視線を落とす。自身の掌が置かれた参考書――否、アダルト本に。

 そして自身が何を取り出したのかを理解すると同時、一瞬、思考が真っ白に染まった。

 

「これって……」

 

 

 

銀時はその光景を見て、口の端をニヤリと歪めた。

 

「へぇ~……こんなものを取り締まる側ねぇ〜、いやぁ、勉強熱心なのは感心だけどさぁ……その参考書、夜の補習授業用ってやつか?」

 

「お盛んなことで」

 

「違う!違うの!! 何かの間違い!! こんなの持ってるはずないし!!!」

 

 そう叫びながら、コハルは顔を真っ赤にして、本を背中に押し付けるようにして隠そうとするが、もう手遅れだ。

 

ヒフミは耳まで赤く染めてモジモジし、ハナコは頬を染めながらも興味津々といった表情で身を乗り出す。

 

「なるほど……禁じられた知識に手を出すとは……つまり、コハルちゃんは学問だけでなく、大人の愛の深淵にも踏み込もうというのですね……♡」

 

「ちょっ!? なんでそうなるの!? そんなの読んでないし、そもそもこれは違くて!」

 

コハルは必死に否定するが、ハナコはクスクスと笑いながら、じっと彼女の目を覗き込んだ。

 

「なるほど……そういうことですか。つまり、コハルちゃんは昨夜の学びを深めるために、さらに自主学習に励んでいたのですね♡」

 

「だから違うって言ってるでしょ!!誰がそんな自主学習するのよ!!」

 

 コハルの叫びは悲鳴じみていた。

 

 しかし、そんな騒ぎの中、アズサは依然として困惑したまま、机の上の本を見つめている。

 

「コハル、早く問題を解いてくれ」

 

「だからこの本じゃないって!!!」

 

 コハルは必死に隠そうとするが、銀時がニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

「……禁断の愛か。こりゃあ確かに教育には向かないが、ある意味、人生経験の教材とも言えるかもなぁ」

 

焦りまくるコハルを見て、銀時は腕を組みながら渋い表情を作る。

 

「いやぁ~、最近の学生は進んでるねぇ……学問だけじゃなくて、夜の勉強にも余念がないってか?」

 

「違う違う違う!! これ、なんでここにあるの!? いつの間に!? これ私のじゃないから!!!」

 

「へぇ、じゃあ誰の?」

 

「……えっ?」

 

コハルは一瞬、思考が停止した。

 

まるでトラップのような銀時の質問に、一瞬返答が遅れる。その隙を逃さず、ハナコが優しく微笑んだ。

 

「大丈夫ですよ、コハルさん……♡ 誰にでも秘密の一冊くらいありますし、私、そういうのは肯定派です……♡」

 

「そうそう何も恥じることないって。そういう熱い夜を描いた本を読んでるのを保護者にバレるって体験も大人の階段を登る一つの経験だって俺は知ってるから」

 

「だから違うって言ってるでしょぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

コハルの悲鳴が響く

 

「――ハナコさん、ストップ。」

 

 その言葉に、空気が変わった。

 教室に満ちていた微笑ましい(ある意味危険な)やり取りの雰囲気が、ピタリと止まる。

 

「あら……本当にごめんなさい、やり過ぎてしまった様ですね。その……お話が合うかと思ったのですが……」

 ハナコが苦笑しながら、両手を胸元で合わせる。

 だが、目の前ではコハルが本を抱きしめ、机に突っ伏して震えていた。

 

 その様子を見て、ヒフミはすぐさま駆け寄る。

 そしてそっと背中を撫で、まるで小動物を守るように、自分の体でコハルを包み込む。

 

 

 

「そ、その、銀さんも、流石にその辺りで……」

 

 ヒフミが睨みを効かせつつ、銀時に注意を促す。

 

「分かったよ、俺も大人だからな、そういうことは誰にでもあるって」

 

 軽く手を上げる銀時。が――。

 

「ねぇ?何について分かってるの?ねぇ!?」

 コハルが本の陰から、怒りと困惑の混じった瞳を向けてくる。

 

「分かったよ。要するにお前の部屋に入る時、絶対ノックすること、ゴミ箱の中身を勝手に捨てない事をみんなに伝えればいいんだろ?」

 

「うぅ、うぅぅっ………!!」

 

 コハルの顔が真っ赤に染まり、ついに小さな嗚咽が漏れる。

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 ヒフミの瞳が鋭く光る。

 

「いい加減にしないと本気で怒りますよ、銀さん!!」

 

 バシッ――!

 ヒフミの怒声と共に、教室の空気が一気に凍りついた。

 

 普段、優しさの塊のような彼女の本気の怒りに、銀時も「ヤベッ」と肩をすくめた。

 

 

 

 

 

「成程成程……コハルちゃんは押収品の管理も担当していた……恐らく押収した時のまま持ち出してしまった。管理する数も数だから、よくあるミスだと……」

 

 ヒフミの言葉に、コハルはコクリと頷いた。

 その頬はうっすらと赤く、恥ずかしさと申し訳なさが入り混じったような表情。

 

「う……うん、私、管理目録の整理とか、していたから……これは、本当にその時のやつで……」

 

 小さな声での説明に、周囲も神妙な面持ちになる。

 

 

 

「そう云えば、トリニティの古書館の地下には何やら禁書が沢山積まれているという噂を聞いた事があります――正義実現委員会がそういったものを含めて色々と差し押さえているとしたら、何も不思議はありませんね」

 

 ハナコが冷静な口調で状況を整理する。

 

 

 

しかし――。

 

「なるほど、つまりお前は押収品管理職という立場を悪用して、性欲まみれの生徒たちから奪い取った品をあたかも自分のもののように扱ったということだな」

 

 空気をぶち壊すのはやはりこの男、坂田銀時である。

 

「どうしたらそういう解釈になるんですか!!」

 ヒフミが全力でツッコミを入れる。

 

 

 

「どちらにせよ。これ、持ち出したら拙いんじゃ……?」

 

「えぇ、そうですね」

 

 ハナコの指摘に、場の空気は再び真面目モードへと戻る。

 

 

 

――押収品を勝手に持ち出す、これはかなりまずいことであり、バレたら大問題。

 

「……であれば、出来るだけ早く返してしまった方が良い気がするのですが、どうしましょう? 押収品とは云え、所持しているだけでも万が一、という事はありますし」

 

「今の内にこっそり行って、バレない様に正義実現委員会の所へ戻して来るというのはどうですか?」

 

 何でもない事のようにハナコが提案すると、コハルは驚いた表情で聞き返す。

 

「えっ、今から?」

 

「はい、こういうのは早い方が良いですもの」

 

「そ、それはそうだけれど……」

 

 不安そうなコハルの元に、頼もしげな声が割って入った。

 

 

 

「心配なら俺も行こう!」

 

 その声に振り向けば、立っていたのは近藤。

 

「こ、近藤さん!!どうして――」

 

 ヒフミが驚きの声を上げるが、近藤は落ち着いた調子で言葉を続ける。

 

 

 

「知ってるかもしれないが、君たちは今、外出禁止となっている。そんな中、押収品を返すためとはいえ勝手な外出はお咎めを喰らいかねない。」

 

「そこで――お前らの監視及び、警察組織のリーダーである俺が一緒ならば、何の問題もなく行けるって寸法だ」

 

 堂々とした表情の近藤に、皆が頷きかけたその時――

 

「なぁんだ。俺ぁてっきり、お妙に対してのアタックの仕方を押収品の禁書から学ぶために同行するんだと思ったんだけどなぁ」

 

 またしても銀時が斜め上の発言を投下する。

 

近藤は銀時の言葉に、一瞬固まった。まるで心の奥に突き刺さる一本の槍が、その言葉とともに突き刺さったように。

 

「ち、違うぞ!お妙さんに誓って絶対そんなことはしません!」

 

近藤は、両手をブンブンと振り回して全力否定のポーズを取る。

 

「俺はなァ! 確かにお妙さんのことは好きだ! でもなァ! 大人の参考書から恋愛を学ぼうなんて姑息なことはしねぇッ!」

 

 銀時は椅子にもたれながら、ニヤニヤとした顔で煽るように言った。

 

「へぇ? じゃあ、後ろに隠してある『恋するオトナのための実践テク大全』はどう説明するんだよ? 」

 

「それは!! ……たまたまだから!!! 自己啓発だ!! 自分磨きってやつだから!!」

 

 近藤は涙目で叫ぶ

 

 アズサは首を傾げながら手元の参考書(本物)をめくっていた。

 

「“恋愛実技編:第一章・視線の送り方”……? なるほど、これが彼の自己啓発か?」

 

「違うからァァァァァ!!!」

 

 もはや弁解ではなく、悲鳴。だが、誰も彼の声に同情はしなかった。

 

 そんな空気の中、ヒフミはにっこりと微笑む。

 

「でも、近藤さんが一緒に行ってくれるなら安心ですね。……変な参考書を読んでること、裸になること以外は、信頼できますし」

 

「だから! それは! 偶然!!」

 

 しかし結局――コハルはコクリと頷き、

 

「……うん、じゃあ……お願い、してもいい……?」

 

「任せとけッ! お前をエロ本密輸犯なんて絶対にさせねぇ!!」

 

 近藤は拳を握りしめ、やけに力強い決意を見せるのだった。

 

、そこでアズサがふと一言。

 

「ところで、あの本にはどんな問題が載っていたんだ?」

 

「まだそれ引っ張るのアンタは!!!」

コハルの絶叫が、夕暮れの教室に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

トリニティ本校舎周辺。

 合宿宿舎から大分離れた場所にある本校舎までは、それなりに時間が掛かる道のりだった。一応モノレールや学内バスなどの移動手段はあるものの、それらを駆使しても相応には遠い。

 生徒のまばらな時間帯、すでに夕刻も過ぎ、殆どの生徒は部活を切り上げ帰路についているか、今頃家でのんびりしている頃だろう。近藤、銀時とコハルはそんな生徒たちを横目に、正義実現委員会への道を歩く。一応、コハルは正義実現委員会に入室するための鍵を持ってはいるが、正規の活動時間外に入室するのはなるべく避けたかった。

 

「そ、その、先生……」

「ああ?」

 

 銀時の横を歩いていたコハルが、不意に声を上げる。銀時が返事をすると、二度、三度、コハルは銀時を見上げながら何事かを口にしようとして、口をつぐみ。それから顔をそらした後、僅かに頬を赤くしながら呟いた。

 

「い、云っておくけれど、こればっかりは、その、本当に間違いだから!」

 

「ったくしつけぇなぁ、分かったって言ってるだろうが!どんだけ心配症になってんだよ」

 

「宮◯草薙だってそこまで心配性じゃねぇよ!!」

 

コハルはまだどこか落ち着かない様子で、小さく拳を握っていた。

 

「だって……あんなの……あんなの、勘違いされたままだったら……私、もう学園で生きていけない……!」

 

「安心しろ。お前の秘密は、俺たちの墓場まで持ってくって決めたからよ」

 

 銀時は言いながら、ぽりぽりと鼻をほじっていた。

 

「って、鼻ほじりながら言うなァァァァァ!!」

 

「うるせぇな。こういうのは緊張をほぐすのが肝心なんだよ」

 

 と、銀時が軽口を叩いているその脇から、近藤がしみじみと呟いた。

 

「……まぁでも、今回の件はほんと気をつけないとねコハルちゃん。次は見つからないように、ちゃんと隠しておかないと……PTAにも叱られることになりかねないからね」

 

「アンタら一体どこに恐怖を感じてんのよ!!世界観から抜けた概念持ち込むのやめてくれない!!」

 

 コハルが素早く突っ込むも、近藤は至って真剣な表情のまま続ける。

 

「いや……ただでさえ“正義実現委員会が裏でエッチな本を溜め込んでる”なんて噂が立ったら、委員会の名に関わるからな。これは組織の尊厳のためでもあるんだよ」

 

「……保身の方向が毎回斜め上なんだけど……」

 

 その一連のやり取りを、銀時は鼻をほじる手を止めることなく、目を細めて見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

その静けさの中に、不意に投げかけられた近藤の一言は、妙に重たく響いた。

 

「コハルちゃん、どうしてそんなに君という存在を繕おうとするんだ?」

 

「え……?」

 

 足を止めて振り向いたコハルの表情には、戸惑いと困惑、そしてほんの少しの怯えが滲んでいた。

 

近藤は立ち止まり、彼女をまっすぐに見つめた。

 

「君さ、いつも“良い子”であろうとしてるだろ? 正義実現委員会として、規律を守る生徒として、誰にも迷惑かけない“真面目な自分”を演じてる。けど……本当の君は、それだけじゃないんじゃないか?」

 

 その声は、責めるものではなかった。

 どこか、自分自身を振り返るような――そんな寂しげな温度を帯びていた。

 

「……私……」

 

 コハルは口ごもる。

 胸の奥に隠していた、言葉にならない何かが今にもこぼれ落ちそうだった。

 

「別に、完璧じゃなくていいんだ。間違えても、ポカやっても、エロ本うっかり持ち歩いてもさ」

 

「え、そこ、そこなの!?!?」

 

 思わず銀時がツッコミを入れるが、近藤は動じず、むしろ真顔で続けた。

 

「そういうのも含めて“君”なんだって、受け入れてやればいい。――誰だって、本当の自分はちょっとエッチで、ちょっとズレてて、ちょっとダメなんだから」

 

「なんか最後だけ全員巻き込みやがったぞコイツ……!」

 

コハルは一瞬、呆気に取られたような顔をして、それからふっと、

 

「……分かったような、分からない様な」

 

 呟き、視線を足元に落とす。

 

「で、でも……あそこでは無理に気を張らなくていいってことだけは……少しだけ……分かった――その……ありがと、」

 

「そっか。でも、笑えたなら良かった」

 

 近藤のその言葉に、夕闇の中、コハルは小さく頷いた。

 ――ほんの少しだけ、本当の自分を許せたような気がして。

 

銀時「そうそう、お前のアイデンティティーのムッツリスケベが無くなったらここではキャラとして成り立たなくなるからね」

 

「お前は一生そのどこまで繋がってるか分からない線(コハルの体についてる線)と共にムッツリスケベを背負って生きていくしかーー」

 

コハルの額に青筋が浮かび上がる。

銀時の無遠慮な言葉に、コハルは半歩前に出て――

 

「アンタは黙っててくれない、寄生獣みたいな天然パーマ!!!」

 

 背負っていた小さめの鞄を、フルスイングで銀時の脇腹にクリーンヒットさせた。

 

バゴォ!!

 

「ブフォ…!! な、なんで毎回俺が被害受けるんだよ……!!」

 

「毎回っていうか、ほとんど自業自得だからね!? なんなのよ、“アイデンティティのムッツリスケベって!! それどんな種族よ!?」

 

 顔を真っ赤にしながら叫ぶコハル

 

銀時とコハルの応酬に、近藤が遠くの空を見ながらぼそっと呟く。

 

「……やっぱり“青春”ってのは、こういう不毛なやり取りの中にあるのかもしれない……」

 

「ちょっと近藤さんまで何悟ってんの!?」

 

 そうして、また少しコハルの心から力みが抜けていく。

 

正義実現委員会、押収品管理室。

 部室の出入り口、そのすぐ横合いにある押収品管理室は、同時に落とし物などを管理する部屋としても機能している。並んだ金属製の棚に、それぞれプラスチック容器が収納されており、その前側には番号が振られていた。特に危険性の高いものや重要な品物は壁沿いの特別押収品管理保管庫と呼ばれる貸金庫のような頑強な保管庫に保管されており、それらの鍵は正義実現委員会でも一部のメンバーのみが所持している。

 幸い、彼女の持ち出した押収品はそちらのものではなく、通常の押収品として取り扱われているものだった為、押収品の返却自体はそれほど時間を掛けずに完了しそうだった。

 

「えっと、押収品管理棚の、書物分類だから、Dの二十四、Dの二十四――……」

 

 コハルは押収品目録を片手に、本来この押収品が収められていた棚を探す。室内はそれなりに広く、ずらりと並んだ棚には一目でどこに何があるかが分からない。棚にはそれぞれアルファベットの文字が振られており、その棚の番号から容器を割り出す必要があった。

 

 

「Dの二十四、Dの二十四……あ、あった」

 

 コハルは目録を手にしながら棚の間を進み、ようやく目当ての場所を見つけた。棚の奥にひっそりと置かれたプラスチック容器の中に、問題のブツ――否、誤って持ち出してしまった“夜の参考書”が眠っていた。

 

 まるで罪の証のようにひっそりと、しかしどこか艶めかしく佇むそれに、コハルは思わず顔をしかめる。

 

「……うぅ、何でよりによってこれなの……他にも落とし物とかあったはずなのに……」

 

 ぶつぶつと呟きながら、コハルはエロ本を容器の中にそっと戻した。その手つきはまるで棺に花を添えるかのように慎重で、静かで、そして――少しだけ哀愁が漂っていた。

 

「まるで別れを惜しむみたいだな……」

 

 銀時が背後からボソリと呟いた。

 

「惜しんでない!!」

 

 振り返り様に即座に叫ぶコハル。その顔は真っ赤だ。

 

「ていうかアンタ、なんでそのタイミングで現れるの!? 幽霊か!!」

 

「幽霊じゃないありません!、立派な付き添い教師です!。ちょっとした学生の性の歴史の目撃者ってだけで」

 

「その言い方やめてぇぇええっ!!!」

 

 そこに、近藤が一歩前に出て口を挟む。

 

「よし、無事に戻せたな。……コハルちゃん、今回のことは反省もしてるし、次からちゃんと気をつければ大丈夫だ」

 

「うん……ありがとう、近藤さん」

 

 少し安堵したように微笑むコハル。その表情には、どこかホッとしたような、でも少し寂しさのような複雑な色が浮かんでいた。

 

「でもまぁ……次は間違っても“夜の参考書”じゃない参考書を持ってくるように」

 

「だからやめてってばその呼び方ぁぁあ!!」

 

「取り敢えず、これでひと安心――」

 

 そう漏らすと同時、正義実現委員会の部室、その出入り口の扉が開いた。

 向こう側から顔を覗かせたのは――正義実現委員会、デカ女こと副委員長のハスミ。

 

「――あら?」

「おぉう……」

 

 ハスミが目を瞬かせ、近藤は思わぬ邂逅に声を漏らす。ハスミは部室内に他の生徒の姿が見えない事を確認すると、再度近藤に視線を向けながら

 

 ハスミはその場に他の生徒がいないことを確認し、眉をほんの少し寄せながら近藤に問いかけた。

 

「ゴリ……近藤さん? こんな時間に、こちらに何か御用時ですか? 特に連絡などは受けていません」

 

「いやぁ…何コイツらここに用があるっていうので俺は付き添っただけで……」

 

 近藤は努めて自然に答えるも、その背後にはすでに滝のような冷や汗が流れ始めていた。ところが――

 

「連れ? そこにはあなたしかいないじゃないですか?」

 

 ハスミの指摘は、まるで急所をピンポイントで突いた一撃。鋼の拳で鳩尾を殴られたような衝撃に、近藤の目が見開かれる。

 

「え?」

 

 振り向けば、そこにあるべき影は――無い。銀時とコハルは、巧妙に棚の影へと身を潜め、音も気配も消し去っていた。

 

 あまりにも完璧な潜伏。それはもはや、現代の忍の域にすら届いている。

 

 近藤の頭の中では、警報が鳴り響く。

 

(なんでお前らが隠れてんだァァァァァ!?)

 

 脳裏に浮かぶのは、ハスミの冷ややかな視線。そして「教職員が部室に不法侵入」などという見出しが、翌日の学園広報に躍る未来図である。

 

(お前らが隠れたら、俺がただのエロ本盗みに来た“侵入者”みたいになんだろうがァァァ!!)

 

 絶叫こそ心の中にとどめたが、その形相は明らかに「まずい」と書かれていた。

 

(早く出てこい!! 今すぐ誤解を解かないと俺の局長としての人生終わるから!!お願いだから出てきてくれ!!)

 

 近藤は心の中で必死に叫び続ける。しかし、その思念は届かず、沈黙だけが続く。焦りと冷や汗でスーツの襟がじっとりと重く感じる中――

 

 その時、棚の陰では銀時が、小声でコハルに囁いていた。

 

「……冗談じゃねぇ!! 俺ぁ隠れてやり過ごせると思ってたのによ、何でこんな空気になってんだ。しかも、相手あのデカ女だぞ? あいつ、感情が眉間に住んでんだよ、マジでこえぇって……!」

 

 コハルも、身を縮めながら小声で返す。

 

「で、でも! 今出たら、余計に怒られる気が……! し、しかも正義実現委員会の副委員長だよ!? これ、人生の終わりが見えてるってば!!」

 

「人生の終わりじゃねぇ、コントの始まりだ、バカ! いいから出ろ、俺が適当に笑いに変えるから!!」

 

「いや無理無理無理無理無理無理無理無理――」

 

 そしてその時――。

 

「……ハクションッ!!」

 

 まさかの、間抜けなくしゃみが、コハルの口から世界へと放たれた。

 

 教室全体に響き渡るような声量だった。

 

「誰だ!!」

 

 ハスミの鋭い声が飛ぶ。まさに鷹が獲物を捕えるその瞬間。

 

 近藤が反射的に叫んだ。

 

「ち、違うんだよこれは! あれはーそう!ただの通りすがりの、鼻炎の精霊が!」

 

 乾いた空気に、さらに乾いた冗談。

 

 ハスミは冷ややかな視線で近藤を見つめた。

 

「ゴリラさん、真面目に説明してください」

 

「無理ィィィィィィィ!!」

 

 近藤の叫びと共に、観念した銀時とコハルが、ひょこっと棚の陰から顔を出す。

 

「すみませんすみませんすみませんでしたぁぁぁ!!」

 

 銀時と、コハルはまるで地面にめり込まんばかりの勢いで謝罪。

 

 ハスミは眉をひそめながらも、一拍置いて、重たい溜息をひとつ。

 

「……詳しく話を聞かせてもらいましょうか。まさか正義実現委員会の部室に“押収品泥棒”が現れるとは思いませんでしたから」

 

「言い方ァ!! なんかすげぇ濡れ衣着せられてる気がする!!!」

 

 今にも銀時が泡を吹きそうな中で、コハルがぽつりと呟く。

 

「違うんです!これには訳が……」

 

コハルがなんとかここにきた理由を説明した。

 

ハスミ「なるほど……コハルのミスで銀さんに近藤さんがーー」

 

 

近藤「まぁ、コハルちゃんを責めないでいただきたい。ミスは誰にでもあるものだ、この失敗を糧にして彼女も成長するはずだからな」

 

「そうですね、コハルが此処に来てくれたのはある意味、丁度良かったです、コハルに改めて伝えておきたい事がありましたし……」

「え? わ、私に……ですか」

「えぇ」

 

 ハスミはどこか真剣な様子でそう口にすると、銀時と近藤を一瞥し、それから小さく頭を下げ云った。

 

「お二人、申し訳ないのですが少し席を外して頂けますか? 正義実現委員会としてお話したい事、と云いますか――」

 

近藤「いや、その……そろそろ俺たちも帰らないとーー」

 

銀時「良いよ。話すことがあるなら水入らずに話せ。どうせ補習ですまた会えなくなるんだからな」

 

近藤「ちょっとお前!」

 

銀時「さぁさ俺たちは邪魔だからさっさと退散するぞ〜ほらバナナあげるから」

 

近藤「だから俺はゴリラじゃねえっておい!」

 

銀時を追いかける

 

ハスミ「態々すみません、ありがとうございます」

 

銀時と近藤がバナナ片手に部屋を後にして、ハスミとコハルが残る。

 

 ――が、その直後。

 

 押収品管理室のドアがゆっくり、ゆ〜っくりと、まるでホラー映画の怪異よろしく、音もなく再び開く。

 

 チラリと見える、白い頭。

 

 そして聞こえてくる、あからさまに不審な囁き声。

 

「……よし、これで盗み聞きモード完了、と。やっぱ女の子同士のヒソヒソ話ってのは貴重な栄養素だからな。耳から摂るビタミンEだよ、エモのE」

 

 銀時が物陰からそっと顔を出し、まるでドラマの張り込み刑事よろしく壁に耳を当てる。

 

近藤が止めようとする

 

しかし――

 

「おい! 何やってんだ! 完全に不審者ムーブだぞそれは!!」

 

 後ろから近藤が忍び寄り、銀時の背中をドンッと軽く小突く。

 

「うるせえーな、ちょっとだまっててんくない?ビタミンE摂取の邪魔すんなっての!」

 

「それを盗み聞きって言うんだよ! しかも“耳から摂るビタミンE”って何だよ!? 健康食品業界もびっくりだわ!」

 

 ヒソヒソ声で騒ぐ二人の様子は、もはや完全に深夜ドラマのギャグ回そのもの。身を隠すつもりが、むしろ存在感を放っていた。

 

「いいか? あそこにいるのはな、今ちょっと大事な話してる子たちなんだ。そういう空気をだな、もうちょっとこう……読め!!」

 

「空気ってのは読むもんじゃねぇ、吸うもんだ」

 

「上手いこと言ってんじゃねぇ!!」

 

「あっ聞こえてきた。……」

 

「――コハル――でください」

「―も―」

「本来の――を――ないで―――」

 

 扉の向こう側に見える二人のシルエット。どうやら、出入り口の扉からそう遠くない場所で話し込んでいるらしい。隙間から、微妙に声が漏れていた。

 

「でも――には、無理――……! ――なんて、私―――あまりにも――事で―……!」

「――それでは駄目なんですッ!」

 

 不意に、ハスミらしからぬ怒鳴り声が響いた。

 それは、まさに雷鳴の如き一喝であり、思わず肩も震える程。何事かと目を瞬かせながら扉を見れば、再び細々とした声が耳に届いた。

 

銀時「み、耳がーー雷で一瞬バグった……! 何あれ!?、ただの叱責じゃないよねあれ?鼓膜に直撃する系の叱責なんて初めて食らったんだけど!?」

 

 耳を押さえながらよろける銀時。その目はどこか遠くを見つめ、魂が一瞬どこかへトリップしていた。

 

近藤「万事屋、これが“正義の本気”ってやつだ……最大火力だと声のスナイプで鼓膜を貫通することが出来る正義の叱責だ。」

 

銀時「正義ってそんな物理攻撃系だっけ!? どんな風に過ごしてたらあんな芸当で出来んの!!」

 

 それでも、扉の向こうから漏れる声に、ふたりは自然とまた静かになる。

 

 

 

「……なさい――ずっと―為に―――先生――を―です――」

 

「………はい――――ます」

 

 

 

 微かに震えるような声が交差し、その場にふさわしい“間”が訪れた。

 

 沈黙。

 

数分後――。

 

 重たげだった空気が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。扉の向こうから、靴音が一つ、また一つと近づいてくる。やがて、コツリと硬質な音と共に部室の扉が開いた。

 

「……あっ」

 

 顔を出したのは、ハスミに付き添われるコハルだった。彼女の目元はほんのり赤く、少しだけ涙の痕が見えたが、その表情は先程よりもずっと晴れやかで、吹っ切れたように見えた。

 

「お、出たな。無事生還おめでとう」

 

 銀時がひょいと手を上げて軽口を叩く。

 

「……はい、なんとか」

 

 コハルは苦笑いしながらも、どこか照れたように小さく頭を下げた。ハスミもそれを見届けると、少しだけ微笑みながら一言だけ告げる。

 

「――気をつけて、お帰りなさい」

 

「……はい。ありがとうございました」

 

 その言葉に深く礼をしてから、コハルは銀時と近藤の元へと歩み寄った。先程までの強張っていた雰囲気は消え、少しだけ肩の力が抜けたようにも見える。

 

「よし、じゃあ帰るとしますか。夜道はムッツリに優しくないからな」

 

「誰がムッツリよ!!」

 

 

 




次回  

ミカ「ヤッホー先生!元気にしてた〜⭐︎」

銀時「あれ〜誰だっけ、……磯野ゴリカだった気がーー」

ミカ「ふ〜ん。血祭りにあげてあげるね⭐︎」

土方 回想「おいおい、全然次回予告になってねぇじゃねぇか」

「とにかく、裏切り者について語られる話だ」


次回 手のひらで踊らされた奴は裏切り者と言えるのか

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

  • 銀時
  • 新八
  • 神楽
  • 沖田
  • 土方
  • 山崎
  • 高杉
  • 定春
  • エリザベス
  • ホシノ
  • シロコ
  • ヒナ
  • アコ
  • ミカ
  • ナギサ
  • セイア
  • ユウカ
  • ノア
  • 近藤
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